大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記・8『三人で飯を食う』

2021-06-18 15:13:16 | ノベル2

ら 信長転生記

8『三人で飯を食う』   

 

 

 昼休み、信玄、謙信と連れだって食堂に行く。

 信玄も謙信も意外にまじめで、授業中の無駄話はもちろんのこと、休み時間も次の授業の移動や準備に専念して、無駄話をしない。

「食堂、いっしょに来るか?」

 四限終了のチャイムが鳴ると、信玄に聞かれた。

「ああ」

 返事をすると、信玄と謙信が前を歩きだし、俺は、それについていく。

 

 信玄はかっちりした肉おき(ししおき)のいい体格で、胸の大きな女だ。

 胸だけが大きいわけではないが、そこに目が行ってしまうのは、俺自身が女になって間がないせいかもしれない。

 髪は、ボブと云うのだろうか。肩までの髪をフワリとさせて、並の女よりも逞しい肩を荘厳する房飾りのようだ。

 階段に差し掛かり「暑い」と言って上着を脱ぐと、意外なほどに腰は細い。

 腰に差した扇子を開くと、どういう仕掛けか『風林火山』と書かれた軍配になる。

 謙信がクスリと笑ったところを見ると、川中島の一騎打ちで使った軍配なのかもしれない。

 

 謙信は、長い黒髪をポニーテールにしている。

 ポニーテールというのは、チョンマゲを伸ばしたようなものだが、謙信に男くささは無い。

 耳の後ろからうなじにかけて見える肌は、さすが越後生まれ。抜けるような白さで、ゾクリとするような色気がある。

 信玄のようにカッチリした体格ではないが、露出した首筋や、短めのスカートから伸びた脚は小気味よく引き締まり、うっすらと娘らしい肉が載って好ましい。

「ははは、こちらに来て、しばらくは相手の変わりように目を見張るものだ。信長も、しっかり見ておるな」

 信玄の背中が笑う。

「観察は、戦国武将第一の要諦ね」

「今度、いっしょに風呂に入って見せっこしよう」

「いっしょに風呂か?」

「謙信とは、よくいっしょに入っている」

「ふふ、お隣同士だからね」

 こいつら大丈夫か?

 

 食堂に入ると、ちょうど券売機が空いたところだ。

 高校の学食は混雑してあたりまえ、すんなり券売機の前に立てたのは運だろう。

 運も才能の内。

 

 信玄は『ほうとうランチ』 謙信は『越後蕎麦定食』 

 俺は『きしめん定食』だ。

 狙ったわけではない、その三つにしかランプが灯っていなかったのだ。

 

「少しずつ分けっこしよう」

 信玄の提案で、湯呑に小分けする。

「きしめんはペラペラで頼りないなあ」

「ほうとうは太すぎるぞ」

「喉越しは、蕎麦が格別でしょ」

 やっぱり意見は合わない。

 それでも、三人とも健啖家。

 やっぱり、それぞれ美味しいということになり、それぞれのメニューをもう二人前ずつ追加して、越後・甲斐・尾張の味覚を楽しんだ。

 ほぼ同時に完食して、一人三食分ずつの食器を積み上げると、茶をすすりながら信玄が切り出した。

「信長、儂たちの部活に入れ」

「なんだ、藪から棒に」

「儂たちは、並み居る戦国武将の中でも別格だ。互いに研鑽して、来たるべき転生に備えなけらばならんと思う」

「今度は天下をとるつもりか?」

「そのつもりだが、それは今度転生してからの互いの励み次第だ。取りあえずは、ここでの研鑽と切磋琢磨を実り多きものにするために協力しようということだ」

「この学校は、部活を必須にしているわ、必須なら、わたしたち三人で部活にしてしまえばいいと思うのよ」

「三人の部活でなにをする?」

「喋ったり、いっしょに遊んだりだ」

「時々は勉強するかもしれないけどね」

「まあ、前世でやっていた同盟のようなものだ。そう言えば、信忠君は残念なことをしたなあ」

 思い出した。

 息子の信忠と信玄の娘の松姫は結婚させることになっていたのだ。

「儂が死んで、一度は破談になったが、信忠君は、松姫を思い続けてくれていた」

「ああ、本能寺の事が無ければ迎えを出していたはずだ」

「うむ」

「……美しい話ね」

「そういう通じるものを大事にして、お互い伸びて行こうというのだ」

「同盟みたいなものだから、他の部活に入るのも構わないわ。信玄なんか、土木研究部と農業研究部と仏教研究部に入ってる」

「謙信は?」

「毘沙門同好会とか豪雪対策部とか、他にもいろいろ」

「で、二人の部活とは?」

 ドン!

「「天下布部!」」

 両雄がテーブルを叩いて立ち上がった。

 

 なんだと……!?

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田大神        信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

 

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銀河太平記・051『テルとミクの掃除当番』

2021-06-18 09:07:33 | 小説4

・051

『テルとミクの掃除当番』  ミク   

 

 

 火星に帰ってから一か月。

 ようやく日常が戻ってきたよ。

 

 ホームルームで進路希望調査票が配られ、ヒコは、その場で『扶桑大学』と書いて提出した!

 先生もクラスのみんなも「え?」という顔をした。

 かねてから決めていたらしいけど、ちょっとパフォーマンスめいていている。

 いつものヒコなら、こういうことはしない。

 

 理由は分かってる。

 

 ダッシュが決めかねているからだ。

 ダッシュは、良くも悪くも『今を生きている』というところがあって。先の事を考えるのが苦手だ。

 放っておくと、締め切りを過ぎてしまい、校内放送で三回は呼び出され、適当に書いておしまい。

 担任も姉崎すみれ先生だから、書式さえ整っていれば「よし」って受け取っておしまい。

 中学のときの進路調査と違って、高校のそれは一生を決定する。

 だから、きちんと考えて、チャッチャと出せ。

 そういう気持ちを伝えたかったから、ヒコは、そういう行動に出た。

 

 その日の放課後、テルと二人で階段の掃除当番。

 

「進学するといいのよしゃ」

 

 自分用の短い箒を取りながらテルが言う。

「ムリムリ、あいつ高校の勉強だってついていくのがやっとなのに」

「そう?」

「大学の入試は鉛筆じゃないし」

「え、なにしょれ?」

「あいつ、高校の入試は鉛筆転がして受かったんだから」

「ダッシュはね、やればできる子にゃのよさ」

「ハハ、なんかダメっ子のお母さんみたい」

「あたしって、天才っしょ。天才には天才がわかりゅのよさ」

 他の子が言えば、完全に嫌味なんだけど、テルは自然だし、本気で心配している。

「扶桑は、まだまだいっぱいいっぱいにゃのよしゃ。征夷大将軍自ら魚や野菜(やしゃい)の品種改良とかしてゆのよさ、みんな、ちから出さにゃきゃ……ダッシュは、目標なっとくしたら、それこそ、ダッシュしゅゆのよさ」

「そ、そうだね、ありがとうテル」

「しっかり受け止めて……」

「う、うん」

「チリトリにゃ、ちゃんと受け止めてくれにゃいと掃除終わらないニャ」

「あ、ごめん(#'∀'#)!」

 

 散らばったゴミを集めてゴミ箱へ。

 うちの学校にあんまり文句はないんだけど、ゴミの回収ぐらいパルスシステムでやって欲しい。今日は、三つある踊り場のゴミ箱一杯で、三つとも捨てに行かなきゃならない。

「昨日の掃除当番、サボったのよさ」

 いちいち、校舎裏のゴミ捨て場に持っていくって、三百年前の地球の学校と同じシステム。家庭ゴミは二百年前のシステムで、指定のゴミ袋に分別して、週に二回回収してもらう。

 人は体をうごかさなきゃっていのが初代将軍からの扶桑の方針。

 ま、いいんだけど、ゴミ袋持って校舎を出ると、食堂前のベンチにダッシュとヒコがジュース飲んでる。

「待っててやるから、しっかり働けえ(⌒∇⌒)」

 浅く座ったダッシュが手を振って、ヒコが苦笑い。

「そんな座り方したら、腹出るのよさ」

「短い脚組むなあ!」

「うっせえ!」

「ふん!」

 アハハハ

 爆笑と苦笑いを背に受けて、校舎の裏側に回ろうとした。

 

 ドオオオオオオオオオン!!

 

 突然、2ブロックほど先から爆発音!

「なに!?」

「あの方角は!?」

 ピンとくると、ゴミ袋持ったままテルが走る。

 ゴミ捨て場まで来ると、ゴミを捨てた手でシャッターを開けるテル。

 ガラガラガラ!

 たしかに、音の下方角には、こっちが近道。

 道路に飛び出すと、どこから出て来たのか、ダッシュとヒコが前を駆けている。

「マス漢大使館の方角だ!」

 ダッシュが叫んで、三人があとに続く。

 学校や近所の人たちも出てくる。走ってるのは、あたしたち三人だけだけど(^_^;)。

 

 おお……!!

 

 大使館前に着くと、柵の外からでも分かった。

 大使館の玄関先に立っていた、身の丈4メートルもある初代マン漢大統領像の首が吹き飛んでいた。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・2」

2021-06-18 06:11:10 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・2』 

 

 

 スーザンの用事が分かったのは、その帰り道に寄ったマックの二階だった。

「え、じゃあ、卒業まで日本にいるの!?」

「日本人の表情は読みにくいけど、特にケントは、そうね。わたしが卒業まで同じ学校の同じクラスで、同じクラブにいることが、嬉しいの? それとも迷惑なの?」

 スーザンはまともにたたみかけてきた。

「いや、迷惑だなんて……」

 ボクは、平均的な日本人がそうであるように、意味不明な笑顔になった。しかし、彼女は完全な賛意と受け止めた。

「ないんだ! じゃ、わたしの話を聞いて!」

 完全にスーザンのペースだ。

 スーザンは、シアトルで嫌なことがあって、日本への留学を希望したようだった。嫌なことの中身は言わなかったけど、むこうの学校の名前のように「ヘブンがロックされたような事情」らしい。

 一ヶ月の短期留学を、卒業までの半年に延ばしただけでも、ヘブンのロックは取れないような様子だった。

 保護者である母親の了解を得られたのが、昨日で、延長許可が認められる最後の日だったようだ。

 そして、喜び勇んで領事館に行く途中、中古で買った自転車のチェ-ンが外れてしまったところにボクが出くわしたというわけ。

 スーザンが日本人以上に正しい日本語を喋るのは、母方のお婆ちゃんに、幼い頃から育てられたから。だから「ら」抜き言葉なんか喋らなかったし、朝日新聞のことも正確に「アサシシンブン」と発音していた。

 演劇部は文化祭で、「ステルスドラゴンとグリムの森」という芝居をやった。

 ボクは優柔不断で、白雪姫になかなかキスをできない王子さまの役だった。

 言っとくけど、ボク自身が優柔不断で当たり役だというわけでは無い。どうしても男でなければできない役が、これだったから。

 スーザンは中途入りだったので、照明係と道具係を楽しげにやっていた。特に、後半の山場で、ドラゴンが暴れまわって、最後に退治され、本来の姿に戻る。

 これがすごい。

 数千のゲームソフトやマンガやラノベ。これが舞台一面にぶちまけられる。この仕掛けをスーザンは簡単にやってのけた。

 どうやったかって?

 コロンブスの玉子! 彼女はネットで、昨年、この芝居をやった学校を検索し、直接交渉して仕掛けごと借りてきた。で、文化祭では大成功!

「ねえ、どうしてケントは、わたしのことスーズって呼ばないの?」

 紙ナプキンで、口を拭きながら、スーザンが聞いた。

「いや……なんとなく、そう呼び慣れちゃったから」

「ま、いいんだけどね。シアトルで、わたしのことスーザンってキチンと呼ぶのは、教会の神父さんと、遅刻指導するときの校長先生ぐらいだから」

 コンクール前に大事件が起こった。

 

 主役の白雪姫をやる徳永さんが盲腸で入院してしまったのだ。

 今年は、文化祭でも成功したので、コンクールは自信をもって、みんな張り切っていた。

 本番三日前。もう、こりゃ辞退するするしかないと、部員一同覚悟を決め、期せずしてため息をついた。

 その時、スーザンが叫んだ。

「わたしが、アンダスタディやる!」

 ス-ザンの流ちょうな日本語に慣れてしまっていたので、突然の英単語に、みんな戸惑った。

「アンダスタンド?」

 顧問の滝沢先生が、仮にも英語の教師であるのに、中学生並みのトンチンカンを言った。

 これくらいの言葉は通じるだろうと思っていたスーザンも戸惑った。

「Oh it's mean……Daiyaku!」

 この半年で、スーザンが英語を喋ったのは、これが最初だった。

 青い目玉を一回ぐるりと回すと、日本語で、こう言った。

「わたしが、エリカ(徳永さんのこと)の代わりに、白雪姫やるのよ!」

 えええええ!?

 アメリカやヨーロッパの芝居では、主役級の役は、あらかじめ代役が決めてあって、イザというときにはいつでも代役が務まるようにしてあるそうで、それをアンダスタディといって当たり前なのだそうだ。

 スーザンはそのアメリカでの当たり前を口にしたのである。

 別に、ぜひ代役がやりたくて、徳永絵里香の名前を書いたワラ人形に五寸釘を打ったわけではない(^_^;)。

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コッペリア・27『水分咲月の心象風景』

2021-06-18 05:56:11 | 小説6

・27 

『水分咲月の心象風景』  




「そうか、そんな秘密があったんだ……」


 その日の夕飯のときに、栞は颯太に咲月の話をした。

 夕飯と言っても、ス-パーのお惣菜を適当に買ってきて並べたものだ。

「ちょっと塩分多すぎ……」

 メンチカツを齧りながら、独り言のように栞が言う。

「しかたないよ、スーパーのお惣菜なんだから」

 ついこないだまでは、栞が料理していたが、帰り道がアパートの近くというクラスメートができて、うかつに食材を買いに寄れなくなったのだ。

 学校では、大家の孫の鈴木栞ということになっているが、実際は美術の非常勤講師立風颯太の妹(実際は、颯太が命を吹き込んだ人形)である。

 友だちにアパートに帰る姿を見られたら、直ぐに美術の先生と同棲している、いけなくも羨ましいかもしれない存在として噂が広まってしまう。で、栞はスーパーには寄らずにいったん大家の家に帰り、持ち込んだ私服に着替えてアパートに戻る。

「いっそ、額面通りうちで暮らせばいいのに」

 大家の鈴木爺ちゃんは言う。

「でも、あたしたち兄妹だから」

 そう言って、つまらなさそうな顔をする爺ちゃんには気づかないふりをしている。で、ここのところ晩御飯は颯太の担当になっていた。

「実は、初めての授業で、こんなものを書かせたんだ」

 そう言って颯太が見せたのは、八つ切の画用紙に書かせた一本の樹だった。

「みんなの個性を知りたいって言ってな。一本の樹を描かせる。背景に地平線を入れることだけが条件。栞もやってみな」

「……で、なにが分かるの?」

「描きあがってのお楽しみ」

 その間に颯太はお茶を淹れる。何度淹れても、薄すぎたり濃すぎたりだが。

「描けた!」

「標準的な描き方だな。一番重要なのは地平線の位置。真ん中に引くやつは理性と感情のバランスがとれている。まあ、ほどほどに地面に足のついた夢を持っている。栞はそういう気質だ。樹の幹、緑の葉っぱもほどほどだ」

「ふーん、そうなんだ。で、咲月ちゃんのは?」

「これだ」

 咲月のそれは、地平線が低くて空の広がりが大きい。樹の幹は細いが葉っぱの部分は大きい。ただし、葉っぱのほとんどが枯れかけている。

「春なのに秋の風景だ」

「もともとは、夢の大きな子だよ。でも、障害があって挫折しかけている。栞は、言いもしないのに周りに花とか描いてるだろう。協調性と親和性が強い証拠だ。栞については安心した」

「咲月ちゃんは?」

「うーん……孤独で、その割に夢が大きい……大きかった。夢が枯れかけてる」

 そこにノックの音がしてお隣のセラさんが顔を出した。

「ちょっとお客さんといっしょに旅行に行くから、しばらく留守にしますので……あら、お絵描きしてんの?」

 興味を持ったセラさんは、一気に絵を描き上げた。栞と同じくバランスのとれた絵だった。ただ色彩と勢いは、栞の何倍も力強かった。

「ふーん、そうなんだ」

 分析を聞くと、鼻歌と共に出かけていった。気の置けないお隣さんだ。

「あたし、ちょっと咲月ちゃんと話してみる」

「うん、それがいいな。あの子には心を開いて話せる友達が必要だ」

「分かった」

 もう栞には、咲月に何を話すべきか決まっていた。

 そして、この心理分析の絵の意味も初めから知っていた。だから颯太が一番気に入るものを描いたのだ。

 本心から描いたら、もっと別な絵になっていた……。

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