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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・213『前畑がんばれ! 飛脚に似てる!』

2021-06-21 13:53:06 | ノベル

・213

『前畑がんばれ! 飛脚に似てる!』   さくら    

 

 

 ほお、前畑がんばれやなあ。

 

 洗い直した水着を取り込もうとしたら、後ろでお祖父ちゃんの声。

「え、なにそれ?」

 たとえ身内でもテイ兄ちゃんとかやったらハズイねんけど、お祖父ちゃんぐらいに枯れてると、ふつう。

「戦前のオリンピックで、前畑いう女の水泳選手がクロールで優勝したんやけどな、その時の実況中継のアナウンサーも熱狂してしもて、ゴールするまで、ひたすら「前畑がんばれ!前畑がんばれ!」て声援したんや」

「なんや、未熟なアナウンサー」

「いや、それまで、日本人がオリンピックで優勝なんてほとんど無かったし、まして女子の水泳やさかい、もう感極まったっちゅうやっちゃ!」

「なるほど……で、なんで、うちの水着?」

「いや、形がそっくりや。胸ぐりが浅うて、太もものとこも隠れてるしなあ」

「そうなん?」

「そうや……」

 言いながら、お祖父ちゃんはスマホでググって画像を探し当てる。

「ほら、これや!」

「これぇ?」

「あれぇ?」

 ウィキペディアで見た記録は、お祖父ちゃんの記憶とは、ちょっと違た。

 前畑秀子いう、ごっついおねえちゃんが、1932年のロサンゼルスオリンピックに出た。

 せやけど、優勝したんとちごて、二位の銀メダル。

 クロールと違て、平泳ぎ。

 

 で、肝心の水着。

 

 これが、ショック!

 うちらの水着よりも派手……言うたら、ちょっと違うねんけど。

 胸繰りも深いし、両足の裾も浅い。

 うちらのんは、股下8センチくらいやねんけど、前畑選手のんは0センチ!

「いやあ、お祖父ちゃんも、前畑選手のんは地味な印象やったんやけどなあ……」

 そう言うて行ってしまう。

 

「アハハ、つまりは不満なんだ」

 留美ちゃんは明るく笑う。

「うん、しょうじきダサいよなあ」

「そだね……」

 留美ちゃんもググり出した。

「これに似てるかも……」

「え、これ?」

 それは、江戸時代の飛脚のイラストやった。

 なるほど、うちのスク水に、鉢巻締めて、足もとに草鞋と脚絆履いて、棒に括り付けた手紙の箱を肩にかけたら飛脚にソックリ!?

 おもしろそうなんで、あくる日、準備体操の前にモップ担いで「飛脚や、飛脚!」て遊んだらウケた。

 けど、体育の先生に怒られた(^_^;)。

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かの世界この世界:192『的にも運にも』

2021-06-21 09:54:34 | 小説5

かの世界この世界:192

『的にも運にも』語り手:テル   

 

 

 与一に会ってみたい!

 

 ツボにはまったヒルデが虫を起こす。

「時間は大丈夫でしょうか?」

 あるじの我がままに、タングニョーストが気を遣う。

「大丈夫ですよ(⌒∇⌒)」

 イザナギは穏やかに応える。

 一刻も早く黄泉の国に向かって、イザナミを取り返したいはずなのに。

 日本人というのは、もう、神代の昔から、こうなんだ。

「では、さっそく!」

「わたしから連絡しましょうか?」

 ペギーがスマホをヒラヒラさせる。

「スマホ、使えるの?」

「アハハ、業務用ですから」

 どうやら、源氏の陣地にスタッフを派遣しているようで、すぐに話がついた。

 

「こんなに端っこなのか?」

 

 与一の陣屋は、源氏の本陣の端っこの端っこ。学校で言えば、校舎裏の学級菜園でもありそうなところだ。

「わざわざ来てくださってありがとうございます。幔幕だけの狭い陣屋ですが、どうぞ奥に……」

 ツギハギだらけの幔幕は、わたしが見てもみすぼらしいんだけど、ヒルデは感心している。

「うん、パッチワークのようで、なんだかオシャレだ!」

 シャイな与一はお茶の用意をしながら微笑むばかりだ。

 なんだか、潰れる寸前の喫茶店の気弱なマスターという感じで、とても華々しく扇の的を射落とした英雄には見えない。

「あれは、狙ってやったことなのか?」

 ヒルデがドストレートな質問をする。

「狙わなきゃ当たらないよ」

 なにをバカな質問という感じで、ケイトが茶々を入れる。

「ハハ、ほぐしてくれてありがとう。慣れないことをやって、ちょっと緊張していましたから」

 アハハハ

 与一の正直で穏やかな態度に、微笑みが湧いてくる。

「地元での呼ばれ方は『与太郎なのです』」

「与太郎?」

 日本語の機微が分からないヒルデは、自然な疑問を呈する。

「ゲゲゲの与太郎!」

 ケイトのスカタンが続く。

「日本では、長男を『太郎』と呼びます」

「そうね、次男は『二郎』で三男は『三郎』という感じね」

 わたしが続ける。

「そうか、義経の九郎義経っていうのは九男という意味になるんだ」

「まあ、そんな感じですね」

「与一の与は?」

「はい、十番目以下という意味です。十一郎というのは語呂が悪いですから」

「上に、十人も兄が居るのか?」

「はい、家を絶やさないために、どこの武士も大勢子供を作ります。でも、普通は五六人。八人も居れば多い方で、十人以上というのは珍しいですね」

「与というのは『余りもの』という響きがありますね」

「はい、だから、普通は与太郎という呼び方が多いようです」

「与一と与太郎、どう違う?」

「それは……」

 答えにくそうに俯くので、わたしが後を続ける。

「与太郎と云うのは落語なんかに出てくる、憎めないが、どこか抜けている三枚目に付ける名前だよ」

「お恥ずかしい(^_^;)、まあ、それで戦に出る時などは『与一』と、ちょっとオシャレな名乗りにしております」

「そうか……しかし、あれは見事だった。単に命中させたというだけではなくて、殺伐とした戦場を戦士の美学で飾った。奇襲に負けた平家にも一掬の華が残った。ブァルキリアの戦士としても、教えられるところが多かったよ」

「は、恐縮です」

「どのくらいの自信があったのですか?」

 タングニョーストが身を乗り出した。

「半々というところです。元来が与太郎ですから、外したら笑われておしまいです。もう、これ以上落ちることもありますまいから」

 なんか、自虐的だ。

「わたしは十一男ですし、母は、兄たちの母と違って低い身分の出なので、父の遺産の相続は見込めません。行く末は、兄たちの郎党になって戦働きをするするか、百姓をするしかありませんが、母が病弱なもので……」

「そうか、名を上げて収入を増やすしかないのだな」

「はい、実は、今度の事で兄たちとは別に領地がいただけそうで、ちょっと嬉しんです」

「そうか、それは何よりだったな」

「与一どの、あなたの弓を見せていただけませんか」

 タングニョーストが戦士らしい申し出をする。

「あ、はい。遠目には綺麗な弓に見えていますが……」

 与一が差し出した弓は、あちこち塗が剝げているが、手入れはきちんとされていて好感が持てるものだ。

「これは……なかなかの強弓ですね」

「はい、五人張りです」

「五人張り?」

 ケイトがスカタンな質問。

「弦を張るのに五人の力が要るという意味です」

「す、すごいんだ!」

「強い弓でないと、的にも運にも届きませんから」

「的にも運にもな……」

 ヒルデが、しみじみと嚙み締めた。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
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ライトノベルベスト『魔法か高校の劣等生』

2021-06-21 06:53:41 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『魔法か高校の劣等生』 




 ボクは悩んでいた。

 魔法か高校か……。

 魔法か高校のどちらかを選ばなければならなかった。

 と、書いたらオヤジギャグのように思われるかもしれないが、ボクは真剣だった。

 ボクが通っているR高校は……ちなみに瑠璃高校とか、蘭高校とか雅やかな高校のイニシャルではない。

 ある高校をもじったR高校(あーる高校)という意味。だから、君の高校かもしれないよ。その時は責任もてないのでヨロシク。

 ボクは衰退化しつつある魔族の末裔だ。

 一族の多くは人間との混血が進み、ほとんど魔力を失っている。

 従兄弟のKなんか、なけなしの魔力をマジックとして見せてマジシャンやってるけど、エンタティナーとしての魅力が無いために、食っていくのがやっとだ。もう一人の従姉は、人相を変える魔力しかないので、メイクによる変身術などと動画サイトに投稿、最近は本なんか出して、ほそぼそとやっている。彼女は、本物ソックリに変身できるんだけど、目立ちすぎるので、顔の下半分マスクで隠し、わざと似せないで、やっている。

 もう、純粋な魔属は、ボクの家系だけだ。

 一般に魔属は長生きで、三百歳なんてのがごろごろ居た。ボクは六十だけど、人間に換算すれば、やっと十七歳ぐらい。もう四十五年も高校生をやっている。

 その割りには、ずっと劣等生だ。

 高校の勉強なんて「答は?」と念ずれば、たちどころに答案用紙に正解が浮かび上がる。

 でも、ボクは、その手は使わない。人間達と一緒になって、頭を捻っている。

 やがて、魔属では無くなるであろう子孫のために、なるべく人間的にやることを心がけているのだ。

 ところが、今度入ったR高校で困ったことになった。

 校舎が老朽化したため、ちょっとしたショックで崩壊することが分かったのだ。

 むろん街の教育施設課は状況を掴んではいるが、立て替えには莫大な予算が必要なため、歴代の課長はずっと先送りにしてきた。

 ボクは、入学三日目で気づき……というより。崩壊に気づいたので、魔力で崩壊を食い止めている。むろん人には言えない。

 夏休みなどの休暇を利用して魔法を解き、崩壊させようと思っているのだ。

 だけど、部活や合宿などで、絶えず何人かの生徒がいる。

 魔法を解いても、その瞬間に崩壊するわけでは無い。何分か、何時間か、数日かのスパンがあるのだ。それが分からないので、うかつには解けない。

 しかし、この春は決意した。

 深夜を狙って魔法を解く。夜明けまでに崩壊すれば、犠牲者を出さずに済む。

 しかし賭のようなものだ。授業中までずれ込めば、ここの能なしな教師たちは、生徒達を誘導しきれずに相当な死傷者が出る。何度シュミレーションをやっても百人以下には犠牲者を押さえ込めない。

 でも、決意した。

 ぼくは、四十五年間劣等生を十五あまりの学校でやってきたが、落第させられたのは初めてだ。学校は、自分達の指導力の無さには、ぜんぜん気づかずに、あるいは気づこうとはしないで、原級留置ということで幕を引いた。だから、今回はやる。断然やる!

 ところが、状況が変わった。

 うちのクラスにスミレという美少女が転校してきたのだ。

 セミロングの髪がフンワリ。日によってはポニーテールや、クラシックなお下げにしたり。スカートも膝上三センチという粋な長さ。太もも露わにするよりも、座ったときに膝小僧がチラッと見えるぐらいがちょうどいい。女子高生としてのたしなみを心得た子だ。

「おまえ、それでいいのか?」

 オヤジは、そう言った。

 今度支え続けるとしたら、二年間は力が抜けない。スミレが卒業するまでだ。

 校舎崩壊を支える魔力はたいていではなく、かなり体力、気力を消耗する。

「では、誓いをたてよ」

 魔王さまの言うままに、ボクは誓をたてた。

 魔法か高校に決着をつける!

 この三年間は学校を護るぞ!

 しかし、スミレは、紫陽花が蕾を付け始めたころに、また転校していってしまった。

 三年間と誓いをたててしまったので、三年間は魔法を解けない!

 

 嗚呼!


 ボクは、最後の、そして間抜けな魔族だ……!

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コッペリア・30『ステップアップ』

2021-06-21 06:32:02 | 小説6

・30

『ステップアップ』 



 休憩室に入ると、特大の蓑虫がいた。

 蓑虫が寝返りをうつと、人間の声で、こう言った。

「ああ、幽体離脱……あたしも、おしまいだ」

「やっぱし……」

 栞は、自分が蓑虫と同じ姿かたちになっていることを自覚した。蓑虫は、さっきまで審査員をやっていた矢頭萌絵だ。

 どうやら、AKPの総監督として頑張りすぎた無理が出たようである。

 栞は颯太が顔を描くときにオシメンの萌絵を頭に浮かべたものだから、ふとした時に萌絵そっくりになってしまう。

 今くたびれて毛布にくるまれ起き上がることもままならない本人を目の前にして、完全に萌絵とシンクロしてしまったから、同時に萌絵が今置かれている状況も分かった。

 本人が悲観するほど重篤ではないけれど、完全な蓄積疲労で体が動かない。

 このままでは救急車を呼ばれ、仕事に穴を開けて、芸能記者に今日一番のニュースを提供することになる。

 元気印の萌絵はひっくり返ってなどはいられない。

「大丈夫、あたしは、あなたの分身だから、代わりに仕事は片づけておく。今は、ゆっくりお休みなさい」

「ありがとう、あたし……」

 そう言うと、萌絵はスーッと眠りにおちてしまった。

 栞は簡易ベッドごと萌絵を休憩室の奥へやって目立たないように、元の蓑虫にしてやった。

「ごめん、ちょっと急用。咲月、自分で帰れるよね」

 栞はいったん自分の姿に戻ると、咲月を先に帰し、再び萌絵になって、オーディションの選考会議に向かった。

「大丈夫か萌絵?」

 さすがはAKPの大仏康ディレクター、萌絵の不調は感じていたようだった。

「ああ、大丈夫です。ちょっと居眠りしたら、この通り!」

 栞の萌絵は、ジャンプしながらスピンし『恋するフォーチュンキャンディー』の決めポーズをとった。

「はは、いつもより一回転多いな。じゃ、選考に入ろうか」

 萌絵の姿になるまでは、なんとしてでも咲月を合格させてやりたかったが、萌絵になってしまうと、公明正大に決めなければならないと思う。我ながら完璧な変身ぶりである。

「……よし、この三十人に絞って、あとはオレに任せてくれ。最終決定は萌絵が仕事終わってから確認。萌絵、今日のスケジュールは?」

「えーと、関東テレビの収録、戻って新曲の振り付けのレッスン。あとは空きです」

 栞は分かっていたが、マネージャーに言わせた。萌絵がそれぞれの職分を全うしてこそのAKPであると考えていること、が直観で分かったからだ。

 関東テレビの仕事はピンだった。

 年内に卒業を予定している萌絵なので、ディレクターの大仏も萌絵にはピンの仕事を増やさせている。

「萌絵ちゃん、ごめん、ゲストの都合で、今日は二本撮りね」

 本当は制作予算の都合だということは分かっていた。

 テレビはネットや録画の機能が発達して、なかなか数字がとれなくて苦労している。でも、そんなことは現場では誰も言わない。言えば、もっと悪くなりそうな気がするからだ。

 でも、『体育部テレビ』の二本撮りはきつかった。ハンデ付とは言え、第一線のアスリートと指しで100メートル走の勝負。

 ストレッチを兼ねたリハを含めて、計400を走る。

 この種の番組は、二線級の芸人さんの仕事と決まっていたが、アイドルを入れると数字が上がる。芸人さんたちの普段の苦労をよく知っているので、萌絵は進んで、このような仕事を引き受けている。

――今日の萌絵ちゃんじゃ、きつかっただろうなあ――

 そう思いながら事務所へ戻る。

 新曲の振り付けのレッスンに丸々二時間。サッサと仕上げて大仏康と研究生の選考に入れたのは夜中の九時を回っていた。

「これでどうだろう、二十人ピッタリにおさめた」

 大仏から渡されたリストの中には咲月の名前も入っていた。

「この水分咲月さん入れたのは……ちょっと研究生としては歳いってますけど」

「うん、誕生日が、うちのオープンと同じ四月八日だから」

「アハハハ」

「なんか、おかしい?」

「あたしも同じこと考えてました!」

 最後の最後の決定は、こんなものである。一見いい加減なようであるが、案外いい選択である場合が多い。

「血色がよくなった、これならだいじょうぶね……」

 ささやくように言うと、本物の萌絵はゆっくりと目を覚ました。

「あ、あたし……」

「そう、今日の萌絵は頑張ったわ。分身のあたしが言うんだから確かよ。今日あたしがこなしたことは、ちゃんと萌絵の記憶と体験になってるから」

「あたしたち……」

「一心同体、また萌絵がピンチになったら、いつでも来るから」

 そう言って休憩室を出て、全速力で走ってアパートに戻った。

「こんな時間まで何してたんだ、ずいぶん心配したんだからな!」

 颯太が始めて見せる真剣な眼差しに、栞は胸がチクリと痛んだ……。

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