大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記・6『初めての朝』

2021-06-16 13:27:29 | ノベル2

ら 信長転生記

6『初めての朝』   

 

 

 食事は作ってやることにする。

 

 あの市の様子では料理するなど望まんほうがいい。

 なあに、父が亡くなるまでは、めったに城にも帰らず、好き放題に生きていた信長だ。

 村や町で遊びまくっていたが、遊んでいるうちに、炊事洗濯なども一通りは覚えた。

 俺の戦がそうであるように、民百姓の暮らしには無駄がなく、調理にしろ掃除洗濯にしろ効率的で面白い。

 城の台所のように、トロトロと調理するのはもってのほかだ。

 テキパキと作って、食べごろの時に箸を付けなければ、どんな馳走、珍味も台無しだ。

 

 ドシン バタン

 

 あらかた作り終ると、二階で音がする。

 少し前に目覚ましの鳴る音もしていたので、やっと、妹……いや、従姉妹の市が起きだしたのだ。

 ドシンバタンが収まると、ガサゴソの音に変わり、続いてバタン! ドタドタドタと階段を駆け下りる音。

 起き抜けの顔で出てきたら張り倒してやろうと思ったが、さすがに洗面所に向かった。

 バタン…………ジャーーゴボゴボ

 ガシガシ ジャブジャブ ゴーーーー

 トイレに行って、歯を磨いて、顔を洗って、ドライヤーで髪を整える。

「お、おはよう!」

 なんとか時間に間に合ってドヤ顔で挨拶だけはする。

 どーだ、間に合ったろうと鼻を膨らませている。

「あれではウンコをしている時間がないだろ」

「ウ……そんなものしないもん!」

「肌が荒れるぞ」

「うっさい!」

「食え」

「う、うん……あ、ちゃんと出汁がとってある!」

「当たり前だ。出汁からとらねば、味噌に申し訳ないだろ」

「う……なんで卵焼き甘いの!?」

「辛い饅頭などありえんだろ」

「卵焼きはあ……」

「卵焼きは甘味(かんみ)だ」

「…………」

「やっぱり制服が違うな」

 

 ゆうべ、転校先の学校を確認した。

 

 俺は転生学院高校。

 市は転生学園高校。

 

 言いにくそうに『転生学園』と言っていた。『院』と『園』では評定平均で10以上の開きがある。

 共に私学だが『院』は女子高で『園』は男女共学。

「残さずに食え」

「う、うん」

 問いただしたいが止める。

 朝から、ウジウジと言い訳めいたことを聞けば張り倒したくなるからな。

 

「~~~ヾ(^∇^)おはよー♪」

 

「「う!?」」

 揃って驚いた。

 いつの間にか、リビングのサッシが開いて、市と同じ制服が立っている。

「「熱田大神!?」」

「いっちゃんと同じ学校に行くことにしましたあ(^▽^)!」

「おまえ 神さまだろ!」

「いいじゃん、そーいう気分なんだから」

「えと、なんて呼んだらいいのかなあ?」

「あっちゃん……かな?」

「あっちゃんだと?」

「熱田大神だから……的な?」

「下の名前はなんだ?」

「あ、まだ考えてない」

「あっちゃんなら、ふつうアツコだよね」

「そか、じゃ、熱田敦子だ。よろしくね」

「う、うん」

「用意はいい? いっちゃん、転校して初めてだから、提出書類的な」

「あ、カバンに。待ってて、とってくる!」

「うん、ちょっと急いでね(^▽^)/」

「うん!」

 ドタドタドタ……

「信長君」

「なんだ」

「『院』はね、男で転生した者しか行けないの。事情、分かってあげてね」

「であるか」

 ドタドタドタ

「おまたせ!」

「よし、じゃ、いこっか!」

「うん」

「いっちゃん」

「え?」

「お兄ちゃんにご挨拶」

「起きた時にした」

「お出かけは別」

「あ、えと……行ってきまーす!」

「お、おう」

 

 二人を見送って戸締り。

 玄関を閉めて驚いた。

 門柱の『ODA』の下に『ATSUTA』が並んでいたぞ……。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・45『豊蘆原中国攻略は最終局面に』

2021-06-16 09:44:29 | 評論

訳日本の神話・45
『豊蘆原中国攻略は最終局面に』  

 

 

 兵庫県の西向こうの本州を中国地方と言います。

 

 岡山 広島 鳥取 島根 山口 の五県です。

 日本の他の地方は、関東、関西(近畿)、東北、北海道という呼び方が一般的で、~地方という言い方はあまりしません。せいぜい天気予報で「明日の近畿地方のお天気」というくらいのことです。

 ところが、この五県に限っては、必ず『中国地方』と言います。

 石平さんが山陽地方の高速道路を走っていて『中国自動車道』の標識を見て驚いたとおっしゃっていました。

 自国での弾圧を恐れて日本にやってきたのに、なんの陰謀か、知らぬ間に中国の道に入り込んでしまった!?

 石平さんを驚かせたように『中国~』と書くと、非常に紛らわしいので、多くの場合『中国地方』と表現します。

 中国自動車道の場合は『中国地方自動車道』では長くて、語呂が悪いので付けられた例外的な表現だと思います。

 

 で、あの隣国と紛らわしい『中国』という名称を使っている事情は記紀神話に遡ります。

 

 神武天皇以前の神話世界は、大きく分けて二つの世界がありました。

 天照大神の天上世界である高天原(たかまがはら)。

 大国主が治める地上世界、豊芦原中国(とよあしはらのなかつくに)。

 中国地方の中国は、この中国(なかつくに)からきていることは、分かっていただけると思います。

 

 さて、その中国をアマテラスは、その支配下に置こうと人を遣わします。

 長男のアメノオシホミミ……こいつは、下界に下るのを嫌がって断りました。

 次男のアメノホヒは、逆にオオクニヌシに取り込まれてしまいました。

 三回目には、イケメンのアメノワカヒコを遣わし、ワカヒコはオオクニヌシの娘、シタテルヒメと結婚して、うまくやっているように見えましたが、シタテルヒメとの甘い生活に溺れて、事が進みません。

「オモヒカネ、どうなってんのよ!?」

 アマテラスは、雉の精のナキメを遣わしますが、アメノホヒは、ナキメを射殺してしまいました。

 射殺した矢は、勢い余って高天原の池のほとりを散歩していたアマテラスの足許のまで飛んできます。

「え、なによ、暗殺者!?」

 拾い上げた矢をオモヒカネはが拾い上げます。

「これは、アメノワカヒコをに授けた矢ですじゃ!」

「なんだって?」

「いえ、だから……」

「あの弓矢を授けろって言ったのは、オモヒカネ、あんただったわよね!?」

 オモヒカネは、天岩戸のころからの賢い知恵者の老人でしたので、大事にしてきたし相談役として尊重もしてきましたが、命を狙われてはアマテラスも頭に来ます。

「責任とんなさいよ、責任!」

「は、はい……」

「どーすんのよ!?」

「ええと……」

「もう、これで三回目なんですけど! 三回目!」

「いえ、ですから……ええい、この矢、射った奴に当れえええええ!」

 そう言って、オモヒカネは矢を池の中に投げ返します。

 

 ブス!

 

 アマテラスの怒りとオモヒカネのヤケクソが籠められた矢は、超音速で飛んで行き、シタテルヒメと励んでいたワカヒコの背中に当って心臓を貫いてしまいます。

 

「あ~あ~ 殺しちゃって……どうすんのよ、このあと?」

 自分で焚きつけておきながら、アマテラスはオモヒカネに解決を迫ります。

「いたしかたありません、かくなる上は……天の石屋戸(アメノイワヤド)のイツノヲハバリ……あるいは、その息子のタケミカヅチノヲを遣わしまする」

「あの親子って、情け容赦ない殺し屋だったりするわよ(;゚Д゚)」

「いたしかたありません、事ここに至っては、いささかの荒療治を……」

「マジ……?」

「マジ」

「分かった……そのようになさい」

 タカマガハラの豊蘆原中国(トヨアシハラノナカツクニ)攻略は最終局面を迎えようとしていました。

 

 

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ライトノベルベスト・『赤いクーペ』

2021-06-16 07:08:42 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『赤いクーペ』 




 業界用語では『現説』という。

 古墳などが発見されたときに、一般に向けて公開の現地での説明会をやることである。

 真崎は、久々に、現説に参加することが出来た。

 百舌鳥古墳群の端にある、七世紀頃の上円下方墳で、珍しく盗掘にあっておらず、被葬者の石棺や副葬品などもしっかり残っていた。丸半日をかけて、それらをゆっくり見られたのも、一年早めに早期退職したおかげだ。現職なら、この時期、校内人事や分掌のシラバス、そして留年生への対応などに追われ、こんなゆっくりと古墳の現説などには来られない。

 珍しく舶載鏡(外国製)が多く、副葬品も多かった。

 被葬者の身分の高さと趣味の良さを現していた。

 真崎は、現説のあと、泉州の友人の家を訪ねることにしていた。

 友人は一つ年上で、去年無事に定年退職になり、地元近くの博物館の案内係を非常勤でやっている。

 大阪南部の道路は整備が遅れていて、旧集落や畑の中の道など、自動車一台がなんとか通れるぐらいの幅しかなかった。

 大回りして産業道路を走れば早いことは分かっていたが、古い南河内や泉州の旧道を走ってみるのも悪くないと思い、国道○号線の案内板を無視して林の中の道に入っていった。

「信田の森いうのは、こんな感じかも知れへんなあ……」

 気楽な独り言を言いながらハンドルを握った。

 林を抜けると、どうしたことだろう、夕闇の中は靄っていて、視界が百メートルほどしか利かない。

「こら、狐かなんかのしわざかな……」

 そんな呑気なことを思っていると、前から自動車のヘッドライトが滲み出してきた。近くに来ると、赤いクーペの外車であることが分かった。

 こちらは、軽のボックスカー、相手は小さなクーペではあるが、とてもすれ違うほどの道幅がない。
 どうしようかと思っていると、クーペから若い女が降りてきた。

「お困りのようですね」

 他人事のように言う。

「あたし地元だし、運転には自信あるから、おたくの車をバックで林の出口まで戻させていただきます。どうでしょう、ほんの二三分で済みますけど?」

「ああ、ほんなら頼みますわ」

 真崎は車を降りて運転を女と代わった。

 すれ違うときにいい香水の匂いがした。

「じゃ、出口のところで。すみません、わたしの車運転して付いてきてくださいます?」

「は、はい」

 クーペとは言え外車である。真崎は慎重にハンドルを握った。

 女は、バックとは思えない速さで車を動かし、ヘッドライトは夕闇に溶けてしまった。

 十秒ほどの遅れで付いていったつもりであったが、林の近くまで来ても真崎の車は見えなかった。

 いよいよ林の出口まできたが、いよいよ我が車の姿は見えなかった。

 真崎は車を降りて、少し林の中まで入ってみたがダメだった。

「あんな車、乗り逃げするわけないしなあ……」

 どう見ても、真崎のと女の車とでは値段がゼロ一個は違う。

 途方に暮れて、林の出口に戻ると、クーペが反対方向を向いて停まっていた。

「ウソやろ……」

 エンジン音もしなかったし、出口付近は、車を切り返しても反対に向けるほどの道幅が無い。

「しゃあないなあ……」

 真崎は、そのままクーペに乗り、友人の家まで行った。

「そんな記紀神話みたいな話あるかいな」

 友人は信じてくれず、ただ車の凄さに驚いていた。

「コルベットみたいやけど、エンブレムが違うしなあ」

 車に詳しい友人の息子にも分からなかった。

「まあ、こういう自慢の仕方もあるわなあ」

「なんでやねん」

 と、ドガチャガになってしまい、その夜は友人宅に泊まった。

 朝起きてびっくりした。車が無くなっており、代わりに赤茶色の馬の埴輪が鎮座していた。

 スマホで、カミサンに車が戻っていないか確認したが、家の駐車場は空のままだった。

「おい、テレビで、こんなこと言うてるで」

 友人がテレビを指し示した。

 あの古墳の被葬者は二十代の若い女性で、副葬品に関東地方のものが多く含まれていることから、関東から、なんらかの事情で迎えられた族長の妻であろうと言っている。

 そう言えば、あの女、地元と言いながら、きれいな東京弁を喋っていた。

 そして、決定的なことが。

 古墳脇の草地に、真崎のボックスカーがあった。
 

 

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コッペリア・25『水分咲月』

2021-06-16 06:24:38 | 小説6

・25 

『水分咲月』   




 クラスは違ったが、噂は聞こえてきた。


 水分咲月のうわさ。

 退学もせずに、のうのうと留年して二回目の二年生をやっていることに、みんなが冷淡であること。

 下足ロッカーの中に「さっさと辞めちまえ」という心無い匿名のメモが入っていたこと。

 栞は、クラスに一日で溶け込めた。

 女子高生の人間関係なんて、最初のボタンのかけ方一つで大きく変わる。

 最初ボタンを掛け違うと、あとは何をやっても悪くとられてしまう。

 でも、勇気を出して仕切りなおせば道は開けてくるもの。時間はかかるだろうけど。

 なんと言っても、新学年は始まったばかりだ。

 悪意はないが、栞は、そんな突き放した気持ちで咲月のことを思っていた。

 

 選択授業の移動で、咲月のクラスの前を通った時のこと。

 クラスの大半から、特に女子から冷たい目で見られていることが分かった。

 咲月は負のオーラをまとって、俯いてスマホばかり見ている。

 こういうのって、嫌われるよね……栞は思った。

 通り過ぎようとしたら、咲月が、ネットニュースで、わずかに心を慰められたのを感じた。

 え?

 それは、天皇陛下がパラオのペリリュー島に出向かれたニュースだった。

「お久しぶり、あたしのこと覚えてる?」

 

 一人食堂の隅でランチを食べている咲月の斜め前にカツ丼を持って、栞は座った。

「ああ……靖国神社で」

「うん、まさか同じ学校だとは思わなかった」

 意外そうな気持ちの咲月だったが、今までで一番開いた気持ちになっているのが分かった。

 駆潜艇咲月、ペリリュー島、AKPなどが、脈絡もなく栞の心に飛び込んできた。

 栞は思い切って正面から聞いてみた。

「駆潜艇咲月って、ペリリュー島に行ってたんだよね」

「よく知ってるわね?」

 さらに咲月の心が開いた。バラバラだった言葉が栞の中で一つになった。

 でも、栞の口から分かったとは言えない。咲月自身の口から聞かなければ会話にならないと思った。

 どうしようかと思っていると、咲月がランチを食べる手を休めて語り始めた……。

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