大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・43『三度目はアメノワカヒコ』

2021-06-04 09:37:07 | 評論

訳日本の神話・43
『三度目はアメノワカヒコ』  

 

 

 二度目に遣わした次男のアメノホヒがオオクニヌシに取り込まれて家来のようになってしまいました。

 ミイラ取りがミイラになるを地でいったような失敗でした。

 高天原勢力の中つ国への浸透は一筋縄ではいかなかった。

 言い換えれば、アマテラスは、相手が靡かなければ「戦争するぞ!」などと力押しにすることなく、なるべく平和的に解決しようとしていたということでもあり、勢力的には拮抗していたことの現れだとも言えます。

 

 アマテラスはオモヒカネでは頼りないと思い、タカムスヒノカミ(高御産巣日神)も加えて相談し、天津国玉神(アマツクニタマ)の息子のアマノワカヒコ(天若日子)を遣わすことにします。

 タカムスヒはイザナギ・イザナミの前に出てきた創造神で、姿形がありません。

 おそらくは『困った時の神頼み』ということを現しているのだと思います。

 オモヒカネは高天原の長老的存在ですが、云わば高天原市民(住人は全員神さま)の代表というか町内会長であります。

 その市民代表との協議でうまくいかなかったので、神さまの神さま的なタカムスヒノカミに相談=神さまのお告げを聞く的な描写になっているのだと思います。

 日本に限らないことですが、人の頭で判断できなくなったり、力が及ばなくなると、人は神頼みになります。

 桶狭間に今川義元を迎え撃つ織田信長は出撃直後に熱田神宮に立ち寄って祈願しています(軍勢を整える間もなく清須城を飛び出したので、祈願することで家来たちが揃うのを待っていたという説もあります。ただ、祈願そのものは真剣で、勝利した後、熱田神宮に様々に寄進しただけではなく、神宮の塀を立派な土壁に作り替え、今でも『信長の壁』として残っています。たしか日本三大土壁の一つになっています)

 明智光秀が謀反を起こす時も、愛宕神社に神頼みした上にお御籤まで引いた話は有名です。光秀が引いたお御籤は「凶」ばかりなので「吉」が出るまで引き直したと言われています。

 さて、アマノワカヒコ。

 アマテラスは、彼に天のマカコ弓と天のハハ矢を授けて「みごとにオオクニヌシをぶち殺してきなさい!」と送り出します。

「承知つかまりました。このアメノワカヒコ、身命を賭してお役目を務めてまいります!」

 まるで大河ドラマの主人公が、乾坤一擲の出陣をするように地上に天下っていきます。もし、高天原にテレビがあったら、その出発式はCM抜きのライブ放送になって、視聴率の新記録になったでしょう。

 キャーーーー!!

 サグメという婆やを連れて地上に降り立ったアメノワカヒコは。降り立ったとたんに女性の悲鳴を聞きます。

「なにごとだ!?」

 マカコ弓にハハ矢をつがえて駆けつけますと、見目麗しい女の子が熊に襲われているところです!

「いま、助けるぞ!」

 アメノワカヒコは、叫ぶと同時にハハ矢を放って熊を退治します。

「サグメ、声を掛けてやってくれ」

 女の子は熊に襲われて、衣服も乱れて気が動転している様子なので、まず、サグメに介抱させます。

「大丈夫、お嬢さん?」

「は、はい、お陰様で……お婆さん、わたしを助けてくださった、あのお方は?」

「あのお方は、高天原のアマテラスさまがお遣わしになったアメノワカヒコさまですよ。ワカヒコさま、こちらへ」

「ワカヒコです、もう、大丈夫ですか?」

「はい、危ないところをお助け下さってありがとうございます。わたし、オオクニヌシの娘でシタテルヒメと申します」

「おお、オオクニヌシ殿のお嬢さんであったか!?」

 女の子は、オオクニヌシと宗像の女神との間に生まれたシタテルヒメであったのです。

 ワカヒコの降臨は、幸先よく転がり始めました……。

 

 

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ライトノベルベスト『となりのアノコ・3』

2021-06-04 06:46:06 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『となりのアノコ・3』  




「あたしの体はウエットスーツみたいなものなの」

 妙な例え話から始まった。

「え、潜水服?」

「そう。地球の大気は、あたしたちには合わないの。生身で体を晒したら一日しかもたないわ。だから人間にそっくりな体の中に入っているの。言うなら義体ね」

「義体ね……」

「それも、時々メンテナンスしなきゃならないの。最初、明クンに見られたのは、ちょうどメンテナンスをやるところだった。裸になって、一時間ほどかけてアナライズしながら、メンテするの。むろん、本来のあたしが外に出てやるんだけどね」

「ああ、そうなんだ」

 なんとも突飛な話なので、あいまいに返事するしかなかった。アノコは構わずに喋り続けた。

「メンテの第一段階で、あたしの本体が外気に晒されたから、あの日はメンテを諦めた。まあ、一度くらい大丈夫だろうと思って。でも、予想以上にここの空気は汚染されていた。義体も前の人が使った中古だったしね」

「それで死んだようになっちゃったの?」

「そう。スマホが緊急時のリペアになっていてね、それで応急措置。それが病院で生き返ったように見えたわけ」

「そう、でもよかったじゃん。元気になって」

「ところがね、義体の具合が悪くなって、あたし出られなくなったの。ウェットスーツのジッパーが壊れたようなもの」

「じゃ、メンテナンスは?」

「そこで、明クンを見込んでお願い」

「え、なに?」

「あたしの代わりにメンテして欲しいの」

「あ……そういうのは、お父さんとかお母さんとか……」
「あの二人は、監視用のアンドロイドとガイノイド」

「ガイノイド?」

「あ、女性型のアンドロイド。あたしの義体が壊れたって分かったら、直ぐに連れ戻されちゃう。で、昨日の態度や様子から、明クンが適任だと思ったわけ。で、信じてもらうために、部屋の擬装を解いて見せたわけ」

 で、ボクはアノコのメンテナンスをするハメになった。

 最初は、ビックリというか、戸惑ったというか、ドキドキだった。なんせ、目の前で女の子が、なんのてらいもなく裸になって寝っ転がっている。それにメンテナンスだから見ないわけにはいかない。

「見ていてもかまわないけど、ちゃんとアナライザーは見ていてよ」

 アナライザーは、例のスマホだ。それを頭部、両手、胸、お腹、両足にかざして、数値を計測する。

「右腕2・3」

「グリーンのマークにタッチして……出てきたオレンジのマークを叩くようにタッチして」

「うん……あ、色が変わってきた」

「それがリペア。グリーンになったら完了」

 右腕だけで10分近くかかり、五体全て終わるのには一時間以上かかった。

「最後に、もう一カ所……お願いしていいかな」

「どこ……?」

 すると、アノコは仰向けのまま膝を立て、足を開いた。ボクは思わず俯いてしまった。

「なに動揺してんの、ここがジッパー。ここが直れば、出てこられる」

「あ、うん……あ、のマーク」

「……やっぱね。嫌じゃなかったら、マーク叩き続けて。ちゃんと狙いを定めてね」

 2000回叩いたところで、指がつってきた。マークは、相変わらず

「やっぱ、簡単には直らないわね。悪いけど明クン。週に一回お願いね」

 そう言って、アノコはノロノロと服を着た。

 なんだか試合に負けた運動部の子が着替えているように力が無かった。アノコ、一応小野亜乃子。宇宙人だから本名は分からない。でも、大変な役割を背負わされて地球にやってきたことだけは、その背中で分かった。ボクは、出来る限り力になって……やらなきゃならないんだろうなと思った。我ながら損な性格だ。

「お早う、行ってくるわね!」

 朝から、窓の外でアノコの元気な声が聞こえた。窓を開けると、アノコが乃木坂学院の制服を着て出かけるところだった。そうか、乃木坂に転入するのか!

「あ、悪い、ついでにこれ、駅前のポストに入れといてくれないかな。通信高校のレポートなんだ」

「それなら、ちょうどいいじゃん。駅までいっしょしよ」

「あ、ああ……」

 ボクは、いつのまにかアノコのペースにはまり込んでしまっていた。朝日に照らされたボクたちは、まるでラノベに出てくる腐れ縁の幼なじみのようだった。


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コッペリア・13『栞のトンデモ人間修行・2』

2021-06-04 06:35:46 | 小説6

・13 

『栞のトンデモ人間修行・2』 





 颯太は何年かぶりで、トーストとコーヒーと卵の焼ける匂いで目覚めた。

 屋内での女の子としての立ち居振る舞いは一通り教えた。

 とりあえず大家と不動産屋以外の人間が来ても人間だと思ってくれそうだ。 

 栞はテレビが好きだ。多分人間の生活が分かるからだろう。テレビドラマなどで疑問が出るとネットで検索している。昨日はテレビドラマで朝食シーンに感動していた。

「栞、あれやってみたい!」

 で、トーストとコーヒーと卵の焼ける匂いになったわけである。

 ちなみに、関西訛はテレビを見だすと、三時間で標準語に上書きされた。

「お……意外にいけるぞ!」

「意外は余計よ」

 AKPの萌絵そっくりな口ごたえが返ってくる。不満で言っているのではなく、テレビやネット動画で見たパターンをやっていることは颯太にも分かった。

「ほんとはお味噌汁とか作りたかったんだけど、オニイのとこ材料がないんだもん」

「いやいや、これで十分。この目玉焼きなんか、ころあいに半熟だ」

「栞も半熟。まだまだ勉強しなくっちゃ。四月からは学校とかいくんでしょ?」

「そうだ、栞は二年からの編入だから、一年生の学力なくっちゃな……」

 というわけで、勉強を兼ねて、前任校のA高校に栞を連れていくことにした。

 街を歩いている分には問題は無かった。信号の見方や、ながらスマホの避け方も、テレビで学習しているので普通にできる。ただ最初に学習したのが、AKPの矢藤萌絵だったので、立ち居振る舞いどころか風貌まで似てきた。

「栞、これしとけ」

 颯太は花粉よけのマスクを渡した。できたら眼鏡もかけさしてやりたかったが、怪しくなるのでよした。

「あれ、いいね……」

 栞は親子三人で乗っているママチャリを見て立ち止まった。

 テレビには出てこなかったのだろう。考えてみれば栞は、同姓同名のアパートの前住者立風颯太が、堕ろされた妹を思って注文していたドールだ。栞の感性の根幹には家族、特に親子関係への憧憬があるのかもしれない。

「あれは外人さんが見ても感動するらしいよ。ユーモラスでたくましい親子愛を感じるらしい」

 ママチャリの後ろに乗っていた男の子が栞に手を振った。栞は思わずマスクを外して手を振り返した。

「あ、萌絵ちゃんだ!」

 子どもの声に、通行人の視線が集まる。颯太は手際よく栞のマスクをもどして横断歩道を渡った。

 券売機の前で栞が立ちすくんだ。切符の買い方が分からないのだ。

「ここで路線を選ぶ。タッチするだけでいい。金額が出るから……そうタッチして、チケットを取る。で、お釣りを取る。分かった?」

「うん、でもなんだかカードで改札通っている人が多い。テレビで、あれしか見たことないよ」

「ああ、スイカか……栞は、もうじき定期券買うから、それまで切符で辛抱しろ」
 
 栞は珍しそうに外の景色を鑑賞している。放っておけば窓に向かって子供のように座りかねないほどの熱中ぶりだ。

「そんなにおもしろいか?」

「うん、完全な3Dだし、グーグルの地図と照合すると感動もの!」

 栞の頭の中には地図や航空写真として、関東全域の様子は理解できているが、実際の景色を見ることで、劇的に実体化している様子だった。この初心な感性が颯太にはむずがゆく感じられた。

 A高校に着くと、颯太は、当たり前のように妹と紹介しておいた。年度末の会議や入試の準備などで、二人に特段の関心を示す者は少なかった。学校の同僚同士や生徒への感覚は、病院の医師や看護婦が患者を見る目に近い。栞ぐらいの年頃の少女は道端の石ころほどにしか見えない。むろんAKPが好きな教職員もいたが、電車の中で髪の毛を萌絵とは正反対のひっつめにしておいたのも幸いし、特段の興味を持つものはいなかった。

 教科書は、どこの教科も年度末の整理のため、嫌になるほどの見本本を廃棄のために廊下に積んでいた。ほんの十分ほどで一年用の教科書と副読本が集まった。

 あまりにあっけないので、栞のために校内見学をやった。A校も神楽坂も同じ都立高校、基本的な設備は同じである。

「学校、死んでる……」

「そりゃ、今は生徒が登校しない時期だからな」

 よく見ると、部活などで来ている生徒もいるが、栞の印象は違うようだ。そういう感性は面白そうだったが、颯太も任期切れの講師。あまり居心地はよくない。さっさと、学校を出た。

 帰りの電車、二つ目の乗り換えで意外な人物を見かけた。

 神楽坂高校に初めて言った時、帰りに校門で見かけた子だ。向こうも憶えていたようで、微かに驚いたような表情をした。

「あの子の心、壊れかけてる……」

 栞が、ポツリと言った……。
 

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