大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:190『屋島の戦い・2・讃岐うどん』

2021-06-09 09:01:22 | 小説5

かの世界この世界:190

『屋島の戦い・2・讃岐うどん』語り手:テル   

 

 

 高松湾に浮かぶ屋島と高松の町の両方を臨む丘の上からカツオ出汁のいい匂いがしてくる。

 讃岐うどんに違いない!

 匂いにつられて、小高い丘に上がって見ると、全国展開している讃岐うどんの出店が湯気を立てている。

 

 神代の時代に千年先の源平の合戦が見られることも不思議だが、我々の空腹に合わせて讃岐うどんの出店が現れるのは、もっと不思議だ。

「アメノミナカヌシ(天之御中主神)さまのご依頼で、時間限定で出店しています」

 なんだか懐かしい雰囲気の女性店長が、釜の火を調整しながら説明してくれる。

「アメノミナカヌシの神が!?」

 イザナギさんが感激して目を潤ませる。

「アメノミナカ……って?」

 ケイトが首をひねる。

「イザナギさんの前に出てきた神さまで、カオスの世界を天と地に分けた方だよ」

「あ、ケイトが出てくる前の……」

 そう言えば、この世界に放り込まれた時は、まだイザナギさんは出現していなくて、わたし一人だったな。

 ほんの少し前の事なのに、ひどく懐かしく感じる。

「たこ焼きもいい香りだったが、ここの香りは、いっそう食欲をかき立てるなあ」

「姫、よだれが」

「ああ、すまん」

 タングニョ-ストが差し出したハンカチでヴァルキリアの姫騎士がよだれを拭く。女店長がバイト店員といっしょにトレーを運んでくる。

「はい、讃岐うどんの朝定食セットです」

 バイト店員も店長に負けない明るさでメニューを説明してくれる。

「ハイカラうどんとご飯、お味噌汁、生卵、ちくわの天ぷら、お新香、味付け海苔のセットになりま~す。ご飯は、お替り自由ですから(^▽^)/」

「この、ヌードルの上でクネクネしているものはなんですか?」

 タングニョーストが、ちょっと気味悪そうに聞く。

「鰹節です。讃岐うどんはカツオ出汁ですから、トドメのおいガツオってとこです」

「なんだか、かんなクズのような……」

「魚を干して削ったものだよ、試しに、それだけ食べてみて」

 勧めてやると、一つまみ口の中に入れるタングニョ-スト。

「……なんと、豊かな香りと味わいだ!」

「「「「「いただきまーーす!」」」」」

 声を揃えて朝ごはんをいただく。

 

 眼下の陸と海では源氏と平家の軍勢がにらみ合っている。

 沖の方には、ようやく対岸からやってきた源氏の軍船も姿を現わして、陸の義経軍と挟撃の構えをとりつつある。

「平家の方には勝ち目はないのではないか?」

 真っ先に食べ終わったヒルデが身を乗り出す。

「うん、でも、このままでは終わらないと思う……」

 乏しい知識が、これでは終わらなかったと呟いている。

 

 あれ?

 

 ちょっとしたことに気が付いた。

 丘の義経軍と沖の源氏の船団は白、海の平家は赤のシンボルカラーの旗をなびかせている。

 これに不思議はないんだけど、源平双方に、ネガとポジと言っていい扇が竿の先に掛けられているのに気が付いた。

 扇は一つではなく、海上では船ごとに、陸では一個小隊に一つという具合に数が多い。

 さらに、多くの将兵が、ヨロイの袖に同じ意匠の小布(こぎれ)を付けている。

「敵味方の識別のためだな……」

 さすがにヒルデは察しがいい。

 ヴァルキリアでは、甲冑も衣装も同じ意匠のものを使っている。いわば制服で、敵味方の識別は一発で出来る。

 ところが、日本の将兵は、個人個人の武装で、見た目には敵味方の区別がつきにくい。

 そこで、扇や袖印で区別をしているんだ。

 

 気を引かれたのは、その、両軍の扇だ。

 

 源氏は白地に赤丸。

 平家は赤地に白丸。

 

 実に分かりやすい。

 ええと……わたし自身、なにかこだわりがあったような気がするんだけど、すぐには思い出せない。

 なんだったんだろう……?

 思っているうちに、平家の軍船が一艘だけ進み出てきた。

「あの舟はなんだ?」

 ヒルデが、同じように関心を持った。

 舟には、漕ぎ手の他には装束を整えた女官が乗っていて、不安定な舟の上だとは思えないくらいに優雅に舞っている。

「「ほほう……」」

 ヒルデとイザナギさんが揃って腕を組んだ……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

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ライトノベルベスト『となりのアノコ・4』

2021-06-09 06:14:10 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『となりのアノコ・4』  


 

 ボクはよく夢をみるようになった。

 夢をみるということは、その間眠っているということだ。

 だから正確には、よく寝るようになったということだ。夜だけじゃない。昼間カップラーメンを作っているときとか、二階への階段をあがっている最中とか。

 カップラーメンのときは、伸びきったラーメンで分かる。階段のときは、しゃがみ込んだ何段目かで、窓からの陽が傾いて、無理な姿勢で身体が痛くなっているので分かる。

 夢は、外国にいる夢だ。

 社会科は苦手だけど、アメリカや大統領やロシアの大統領ぐらいは分かる。ついさっきは某国の国家主席に会っていた。会っていたといっても、いつも相手は眠っている。そこで、ボクは、ただ突っ立っているだけ。

 実に変な夢だ。
 
 レポートを仕上げなくっちゃ。通信制はラクチンと思っている人がいるかもしれないけど、けっこう家でやらなきゃならない課題やレポートがある。

 で、机に向かってシャーペンを持ったところで、また眠ってしまった。

 当然の如く夢を見る。

 あれ、ここは、ついさっき夢でみたどこかのホテルだ。

「何度もごめんね」

 後ろから声がした。振り向くと乃木坂の制服のアノコがいた。

「邪魔が入ったの。もう一回やり直し」

 ドアを開けると、さっきと同様に国家主席が寝ていた。気づくとボクは、アノコのスマホを持っていて、スマホのオレンジのアイコンを叩いていた。ちょっと手を緩めると、オレンジが赤っぽくなる。意味は分かっている。アノコの義体が限界に近くなっているんだ。アノコは習 近平の額に手をかざし汗を流しながら、念力を送っている。

「もうちょっとよ……」

 すると、急に国家主席が目を開き、ベッドから手を出したかと思うと、アノコが部屋の壁に吹き飛ばされた。

 ドオオオオオオオン!

「明……コードX!」

 ボクは、スマホを操作しXマークを出すとタッチした。

 爆発音と同時に、ボクたちは、アノコの部屋に戻った。

 アノコは仰向けに倒れていた……だけではなくて、制服の上からでも分かるこぶし大の穴が開いて、出血していた。

「おい、アノコ、大丈夫か!?」

「なわけないじゃない……」

「どうしたらいい?」

「…………」

「な、どうしたらいいんだ!?」

「明クンを拘束したくない……」

「言ってる場合か。義体ごと死んじまうぞ!」

「あたしと別れられなくなるわよ……いい?」

「いいよ、アノコが直るんなら、なんでもするよ」

「……じゃ、コードαにして」

 ボクは、スマホ画面をコードαにした。するとスマホが、ボクの手のひらに癒着したかと思うと、あっという間にボクの体の中に溶け込んでいった。

「あたしを……ゲホ!」

 アノコが大量の血を吐いた。どうしたらいいか、体内のスマホが命じてきた。ボクの奥に残っている理性と羞恥心が邪魔をしたが、ボクは指令に従った……。

 気づくと、アノコとボクは裸で抱き合っていた。もう血の跡もなければ、アノコの体に開いた穴も塞がっていた。

「ごめん、一線を越えちゃった……」

「いいよ、キミが元気になったんだから」

「明クンが思っている以上に大変なことなのよ……」

 そう言いながら、アノコは真新しい服を身につけ始めた。ボクも服を着た。

「アナライザーは、明クンと同化してしまった。コードαにするって、そういうことなの。これから、メンテや、あたしが致命的な傷を負ったときは、今みたいにしなくちゃいけないの」

「そ、そうなんだ……」

「で、生涯、あたしから離れられなく……逆ね、あたしが明クンから離れられなくなっちゃった……ごめんね」

「いいよ……ボクも、なんとなく、そんな気がしていたんだ」

「ありがとう、前任者は、そこまでの覚悟をしてくれる人がいなかったから、ハンパな仕事しかできなかった」

「あの……」

「うん?」

「キミの仕事って?」

 そう聞くとアノコの目が点になり、ズッコケてしまった……。




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コッペリア・18『フォーチュンキャンディー・1』

2021-06-09 05:52:06 | 小説6

・18 

『フォーチュンキャンディー・1』






 栞は、このごろAKP48の『恋するフォーチュンキャンディー』に凝っている。

 きっかけは、トモタのCMだった。

 レトロなトランクが開くと、そこは小さなステージになっていて、萌絵と中学生ぐらいの女の子たちが元気に歌って踊っていたのが『トモタ』の重電プリワスのコマソン。やがて、それがAKP48の『恋するフォーチュンキャンディー』であることを知ると、アイポッドに曲を取り込み、一人で踊るようになった。

 栞は、すぐに歌も踊りもマスターした。

「栞ちゃん、なに楽しげなことやってんの?」

 十分音は落としていたのだが、ボロアパートの良さ(?)で、栞が無意識で口ずさんだ歌が隣のセラさんに聞こえてしまったのだ。

「あ、ごめんなさい。音漏れてました(^_^;)?」

「ううん、いいのよ。いい目覚ましになったし、うちのお店でも流行ってんのよ。お客さんがノッテくるとね、みんなで『恋チュン』踊って、平和でいいのよ。お客さんが悪酔いしてカランできたりケンカすることもなくなったしね。お店のカラオケでも、これがまだまだベストワンなのよ」

 颯太は神楽坂高校に提出する胸部レントゲンを撮りに都の医療センターに出かけている。万事平和を好む颯太がいれば、その後の発展はなかったかもしれない。

「ねえ、公園行ってやってみようよ。きっといっしょになってやりだす人がいるから!」

 陽気なセラさんが調子に乗ってしまった。

 栞は、気を付けないとAKPの矢頭萌絵そっくりになってしまうので、そこは十分気を付けてやった。

 二人の歌と踊りは鍛え抜かれていたので、公園にいた子供連れのママさんや、得意先回りに一息ついているサラリーマン、起き抜けの浪人生、店の開店準備中の商店街の人たちに来々軒の飼い猫悟空もやってきて、調子に乗った商店街が恋チュンを流し、期せずして集団恋チュンになった。

「えー、次回は明後日の10時から始めますので、どうぞよろしく」

 商店会の会長が勝手に決めて、栞とセラが二人でセンターを務めることになった。

「あたし、プロだから、タダじゃやらないわよ(ー_ー)」

 セラさんが足許を見る。

「じゃ、二人にはMCも兼てもらうってことで、5000円ギャラ出すから」

「オーシ!」

 そういうことで、突然楽しいバイトの話に替わってしまった。

 アパートに戻ってパソコンを開くと、さっそく誰かが『恋チュン公園公演!』とダジャレのようなタイトルでユーチューブに投稿していた。

「ひょっとしたら評判になるかもね(^▽^)/」

 セラさんは、面白そうに鼻をひくつかせた。どうやらセラさんがノッたときの癖らしく、オチャッピーな女子高生のようになる。

 そこに、ひょっこり颯太が帰ってきた。

「ちょうど下で宅配さんに会って、ほら栞、おまえ恋チュンに凝ってるみたいだから、オレからのプレゼント」

「え、なになに?」

 包みを開けると、それは恋チュンのセンターのコスのレプリカだった。

「うわー! さっそく着替えてみるわね!」

 栞は、さっそく奥の部屋で着替えだした。あまりに嬉しいので襖を閉めるのも忘れて、着ている物を脱ぎだした。

「ちょっと、兄妹とはいえ女の子なのよ、襖くらい閉める。フーちゃんも見てるんじゃないわよ!」

 颯太には人形にしか見えないが、セラさんたちのような並の人間が見れば、栞は年頃の女の子である。

 二分で着替えると「ジャジャーン!」と言いながらコスに着替えた栞が出てきた。

「ウワー……!」

 と声が上がったが、後が続かない。そのコスは、いささかダサく、栞は胴長短足に見えてしまった。

 これが、新しいゴタゴタの始まりだった……。
  

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