大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・053『マス漢大使館前・2』

2021-06-29 09:33:22 | 小説4

・053

『マス漢大使館前・2』扶桑道隆   

 

 

 わたしは、天狗党の加藤恵です。

 

 そう言うと、大使館の屋根の上に出現したホログラムは緒方未来の擬態を解いた。

 身の丈四メートルもあるホログラムなので感が狂うが、実物は小柄な少女なのだろう。

 戦闘服に付属した装具が少し大きい。バックルやボタンやフックはサイズに関わらず同じ大きさだから、そこからおおよその身長や体格が推測できる。

「155センチ45キロといったところです」

 胡蝶が類推値を言う。いつもながら、打てば響く奴だ。

『昨日、西方の古戦場でミイラ化した兵士の遺体が五体発見されました。いずれもマース戦争時代のもので、状況からマス漢軍の捕虜になった兵士たちだと推量されます。三体が男性兵士、二体は女性兵士で、全員手足を結束され、分隊長と思われる曹長の遺体には首がありません。女性兵士は二体とも下半身の衣類を付けていません。とても、リアルではお見せ出来ませんので、イメージのホログラムで示します……』

 うわあ……

 群衆たちから声が上がる。 

 ミイラは古典ゲームのポリゴン画像のような粗さだが、周囲の風景は18Kの鮮明さ。周囲の風化した兵器や、ミイラたちが埋められていた露頭の質感がリアルで、数十年前に起こった惨劇を想像するには十分なものだ。

『マース戦争のころのものとは言え、この残虐行為は記憶しておかなければなりません。そのために、当時の最高責任者であったソウ大統領の首を吹き飛ばしまし……た……W#$&~#””』

 ホログラムが乱れる。大使館側がジャミングをかけたのだろうが、二三秒で回復すると、それ以上に乱れることはない。天狗党のデジタル技術が優れている証拠なのだろう。

『なにを昔のことにこだわってと思われるかもしれませんが、現状は、マース戦争のころよりも格段に技術が進歩した分、隠蔽され、ひどいものになってきています。その、ひどい現実は、火星各地で進行しているのみならず、母星である地球も含めて深刻化の道をたどっています。われわれ天狗党は幕府を支持するものですが、状況の変化次第では独自の革命の道を進みます。扶桑のみなさん、天狗党は、まもなく本格的な闘争に入ります。常に情報を提供し、双方向の革命を目指します。今日はお騒がせしました。扶桑国内における実力行使は、これを最後に当面控え、広報活動に専念します。わたしたちは幕府と扶桑将軍を支持し共に進むものであります。ご清聴ありがとうございました』

 少女らしく一礼すると、ホログラムはドットを荒くして消えていった。

 交差点の西側に扶桑高校の諸君がいることには気づいていたが、知らないことにして、愛馬の盛さえ残したまま城に帰る。子ども残りに馴染んだ裏道を通って半蔵門を目指す。

「一本やられたな。あれでは、幕府が関与していたと勘ぐられかねない」

「申し訳ありません、甘い状況判断でした」

「城を飛び出したのはわたしだ。胡蝶が詫びることではない」

「はい、しかし……」

「胡蝶」

「はい」

「北町奉行所に行く。酒井と服部に来るように手配してくれ」

「「承知」」

 声が二つしたかと思うと、斜め後ろから隠密局の服部が現れる。

「「え!?」」

 胡蝶と共に驚く。

 独自に動いているつもりだったが、どうも、腹心たちにはお見通しのようだ。

 頼りになるような、恐ろしいような……思った時には、もう伊賀忍者末裔の姿は無かった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト『同じ空気』

2021-06-29 06:41:14 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『同じ空気』  

       


 

 同じ空気を吸うのもイヤ!

 一美は、そう言うと思い切りよくドアを開け、その倍くらいの勢いで車のドアを閉めた。

 拓磨は、酸欠の金魚みたいな顔をしたが、追ってこようとはしなかった。

「おれ、今度転勤なんだ……」

 ついさっきの、拓磨の言葉が蘇った。

「え……どこに?」

 そう聞いたときには、もう半分拒絶していた。

「大阪支社に」

 この答には、吐き気すら覚えた。

 あたしは大阪が嫌いだ。

 学生時代のバイト先の店長が大阪の人間で、何かというとセクハラされた。

「まあ、メゲンと気楽にいきいや」

 最初に仕事で失敗したとき、そう言って慰めてくれた。

 わたしは大阪弁の距離感の近さが嫌いだったけど、この時の店長の言葉は優しく響いた。

 でもあとがいけない。肩に置いた手をそのまま滑らして、鎖骨からブラの縁が分かるところまで、撫で下ろされた。

 鳥肌が立った。

 狭い厨房ですれ違うときも、あのオッサンは、わざとあたしの背中に体の前をもってくる。

 お尻に、やつの股間のものを感じたとき。わたしは自分の口を押さえた。押さえなければ営業中のお店で、わたしは悲鳴をあげていただろう。

「パルドン」

 オッサンは、気を利かしたつもりだろう、大阪訛りのフランス語で、調子の良い言葉をかけてきた。

 もともと吉本のタレントが東京に進出し、ところかまわず、大阪弁と大阪のノリで麗しい東京の文化を汚染することに嫌気がさしていた。

 で、そのバイトは半年足らずで辞めた。

 先日アイドルグループの拓磨のオシメンの子が「それくらい、言うてもええやんか」と、下手な大阪弁で、MCの言葉を返すのを見て。拓磨にオシヘンを強要したほどである。

 こともあろうに、その拓磨が、大阪に転勤を言い出す。

 とても許せない。

 夕べ夢に天使が現れた。で、こんな嬉しいことを言ってくれた。

「明日、あなたの望むことが、一つだけ叶うでしょう……♪」

 で、あたしは、今日のデートで、拓磨がプロポーズしてくるものと一人決め込んでいた。

 それが、よりにもよって、大阪転勤の話である。

 拓磨とは、大学の、ほんの一時期を除いて、高三のときから、七年の付き合いである。

 そろそろ結論を出さねばならない時期だとは、両方が思っていた……多分。

「あたしと、仕事とどっちが大事なのよ!」

 そういうあたしに、拓磨は、ほとんど無言だった。気遣いであることは分かっていた。

「一度口にした言葉は戻らないからな」

 営業職ということもあるが、日常においても、拓磨は自然な慎重さで言葉を選び、自分がコントロールできないと思うと、口数が減るようになった。

 でもダンマリは初めてだ……。

 せめて後を追いかけてくるだろうぐらいには思っていた……のかもしれない。

 一美は、港が一望できる公園から出ることができなかった。出てしまえば、この広い街、一美をみつけることは不可能だろうから。

 一美自身、後から後から湧いてくる拓磨との思い出を持て余していた。

 拓磨とつきあい始めたのは、荒川の土手道からだった。

 当時のあたしはマニッシュな女子高生で、同じクラスの拓磨と、もう一人亮介というイケメンのふたりとつるんでいた。

 そう、付き合いなどというものではなかった。いっしょにキャッチボールしたり、夏休みの宿題のシェアリングしたり、カラオケやらボーリングやら。ときどき互いの友だちが加わって四人、五人になることはあったが、あたしたち三人は固定していた。

 そんなある日の帰り道、拓磨の自転車に乗っけてもらったら、急に拓磨が言い出した。

「おれたち、同じ空気吸わないか?」

「え、空気なんてどれも同じじゃん。ってか、いつも同じ空気吸ってるじゃん」

「ばーか、同じ空気吸うってのはな……」

 ウッ

 拓磨の顔が寄ってきて、唇が重なった。

 で、あいつはあたしの口の中に空気を送りこんできた。

 あたしは、自転車から転げ落ちてむせかえった。

 ゲホゲホ ゲホ

「大げさなんだよ。どうだ、おれの空気ミントの味だっただろう?」

「そういうことじゃなくて……」

 あとは、言葉にならなくて涙になった。

「一美……ひょっとして、初めてだった?」

「う、うん……」

「ご、ごめんな……」

 そんなこんなを思い出していたら、急に拓磨のことがかわいそうになってきた。

「拓磨……」

 一言漏れると走っていた。

 車は、さっきと同じ場所にあった。でも様子が変だ……。

「拓磨!」

 拓磨は、運転席でぐったりしていた。

 一美は急いで車のドアを開けた。

「う、臭い!」

 車の中は排気ガスでいっぱいだった。

「な、なんで、どうして!?」

 すると、頭の中で天使の声がした。

『だって、言ったじゃない「同じ空気を吸うのもイヤ!」って』

「そんな意味じゃ無い!」

 一美は救急車を呼ぶと、一人で拓磨を車から降ろして人工呼吸をはじめた。中学で体育の教師をやっている一美に救急救命措置はお手の物である。

――いま、あたしたち、同じ空気吸ってるんだから、がんばれ拓磨!――

 拓磨の口は、あの時と同じミントの香りがした……。

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コッペリア・38『栞のぐち』

2021-06-29 06:17:18 | 小説6

・38

『栞のぐち』  



 一度入った組合を辞めることは難しい。


 教師の3/4は、大学を出て直ぐに教師になっている。で、右も左も分からないうちに、共済組合に入るのと同じような気楽さで教職員組合に入ってしまう。組合が生徒や教師の福利厚生のためでなく、特定の政党の下部組織のようになっていることに気づいたころには、さまざまなしがらみが出来て辞めにくくなる。

 担任のミッチャンも同様で、組合を辞めたいのだが、人間関係……これが、辞めたとたんに手のひらを返したように変わってしまうことを数年の教師生活で身に染みて知ってしまった。

 今度の四月に入ってからのクラス替えは、組合の要望に沿って都教委が行ったことであることは、栞にも分かった。

「ねえ、フウ兄ちゃん。なんとかならないの、クラス替え。クラス写真も撮ったし、みんなやっとクラスに馴染んだところなんだよ。そんな時期にクラス替えだなんておかしいよ」

 晩御飯の用意をしながら、栞は颯太に愚痴った。

「これの大本は、栞にある……って言ったらびっくりするか?」

「え、どういうことよ!?」

「栞の転校で、二年の定員が一人増えちまった。で、41人のクラスが一つできちまった」

「あ、うちのクラスがそうだ」

「クラスは40人が基準で、それを越すと、もう一学級増やせるんだ。で、組合は杓子定規に専任教師の増員を都教委に要求。それが年度をまたいで、四月のこの時期に実現した。いわば獲得した権利だから、組合は生徒の利害なんか考えないで二年のクラスを一つ増やした。そういう話だ」

 颯太は事務的に話しているようだが、頭に来ていることは、夕飯の感想を言わないことでも知れた。

 颯太は、必ずナニゲに料理の感想を言う。

 たとえ口に会わなくても言った方が、言わないよりも百倍マシだということを知っている。無関心は憎しみよりもひどいことだということを、颯太も栞も分かっている。

 でも、今夜の無関心は、学校の理不尽さから来ていることだと言うことが、栞にはよく分かった。

「ごちそうさま。よっこらしょっと……」

 プ

 颯太は、立ち上がった拍子にオナラをしてしまった。

 普段ざっかけない喋り方をしていても、そういうところに気を使っていることを、栞は嬉しくも寂しく感じていた。

 でも、この放屁で弛んだ颯太の心から、一つの思いがこぼれた。

――二年の定員が増えたことは、栞だけが原因じゃない。咲月が留年したために増えたことも理由の一つ――

 回りまわって咲月の耳に入ったり、栞が余計な心配をしないために伏せていた。

 颯太の心遣いを嬉しく思う栞だった……。

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