大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・216『請願巡査・1』

2021-06-07 09:42:40 | 小説

魔法少女マヂカ・216

『請願巡査・1』語り手:マヂカ     

 

 

 高坂侯爵邸は原宿にある。

 

 原宿が竹下通りを中心におしゃれの街・若者の街として発展するのは昭和も半ば過ぎの事で、大正の末年では、ようやく完成した明治神宮最寄りの原宿駅の駅前として賑わいの芽が出始めたところである。

 江戸の昔は、大小の大名屋敷が並んでいた。

 明治神宮そのものが、元は譜代大名井伊家の別邸があったところで、維新後は、その大名屋敷も消えていき、唯一、その名残が残っているのが侯爵、高坂家であった。

 高坂家も、さまざまな経緯があったあと、昭和に入って東郷神社が建つことになるのだが、それは、まだ十数年後の事である。

 

 真智香さまと典子さまがいらっしゃってから、霧子お嬢様はお変わりになったと、高坂家の人間は言う。

 

 我々がやってくるまでは、元気だけは有り余っているが、気難しいお天気屋という評判。自室に引き籠るようになって、当たり散らされるのは、屋敷の中でも傍近くで世話をする二三人になったが、数が減った分『当たり散らし』の密度は高くなっていたという。

 それが、西郷家から派遣されてきたわたしたちが半使用人的なご学友として接するようになって人変わりした。

 めたらやったら人に当たり散らすことが無くなり、明るさと快活さはそのままに、思いやりのあるお嬢様になったと、原宿界隈では、裏路地の野良猫まで噂し合っているという。

「高くついたんじゃないかしら……」

 糊の香も新しい壁紙を見て、霧子はため息をついた。

「いえいえ、知れたものでございますよ。これで、おしまいでございますから」

 さすがは執事長、意味深にうまいことを言う。

 十日続いた修理作業がおしまい。霧子の乱暴がおしまい。高坂家の人々の忍耐もおしまい。

 様々の『おしまい』が込められている。

「おしまいって、どういう意味よ!?」

 ちょっと前の霧子なら、目を三角にして田中執事長の胸ぐらをつかんでいただろう。

 田中執事長も、霧子に揚げ足を取られるような物言いはしなかったはずだ。

「これって、壁ごとリフォームしたんとちゃう!?」

 ノンコが壁を触って驚いた。

 霧子の部屋と、部屋の前の廊下は、度重なる霧子の狼藉で穴だらけになっていた。初めて霧子に会った時も、長刀で切りかかられ、憶えているだけでも廊下の壁に八つは穴をあけているはずだ。

「アハハ、もう、心配はいりませんからね」

 含蓄のある言い回しに、霧子は顔を赤くして俯いた。

「こ、これからは気を付けるから……」

「そのような意味で申し上げたのではありません。高坂家は武人の家系であります、これからも快活、明朗な姫君でいてください。二三日なら屋敷の者も安心ですが、ずっとそのままでは、かえって心配になります」

「うん、分かった……」

 アハハハ

 霧子の変貌を暖かく笑っていると、霧子付きのメイド、クマさんがやってきた。

「執事長、新しい請願巡査が着任したとメイド長からの伝言です」

「おう、さっそく……霧子様、ごいっしょに面接していただけますか」

「請願巡査が……」

「そんなに驚くこと?」

 思わず聞いてしまった。

 高坂家ほどの華族なら請願巡査が居ることは不思議ではない。

 請願巡査とは、企業や華族、いささかの資本家であれば、給与など必要経費を自弁することを条件に警察が派遣してくれる警察官のことだ。

 高坂邸にも正門脇に守衛室に似た詰め所が設置されている。そこが無人であるのは、震災直後のことで、警察も余裕がなくなって引き上げてしまっていたのかと思っていたのだ。

 霧子や田中執事長の様子を見ていると、どうやら、請願巡査の不在は、霧子がいろいろやらかした結果……。

 面白そうだから、あとでゆっくり聞いてみようと、ノンコと目配せした。

「お二人も、いっしょに来てください。クマ、ご案内を」

「はい、どうぞ、こちらに」

 クマさんに先導されて前庭を望む玄関先まで出る。

 車寄せの向こう、詰所の前に制帽を目深に被った巡査が休めの姿勢で立っている。

「かっこいい……」

 ノンコが正直にため息をつく。

 その巡査は、顔こそ制帽の陰だけど、がっしりと背が高くて足が長い。

 我々の姿に気付いて、ハッシと敬礼。

 制帽の下で光った瞳は、ブリンダのように青かった……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 請願巡査

 

 

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ライトノベルベスト・『美荘所高校演劇部の二転三転①』

2021-06-07 07:06:59 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『美荘所高校演劇部の二転三転①』 

        



 美荘所高校は美少女高校とよく間違われる。

 美荘所と書いて『みその』と読むが、うっかり読むと音がいっしょである。

 美荘所(みその)というのは地名であった。昭和の末に市町村合併で美荘所という地名は無くなったが、高校の名前としてだけ残ってしまった。地元でも美荘所(みその)という読み方を忘れて「昔は『びしょうじょ』だったんだ!?」と面白がることが多くなった。


 いつの間にか、誰言うともなく「美荘所高校には美少女が多い」という噂が定着した。平成の中ごろに、アイドルになった演劇部の女生徒がいて、麗しい誤読は定着してしまった感がある。

 実際、部活の花形であった演劇部は代々美少女が多くいた。

 しかし、この三月に大半が卒業してしまってからは、志保里の他はバイトと兼業の部員二人だけであった。

 志保里の苗字は美荘所である。

 つまり先祖代々この地を領してきた美荘所氏の末裔であり、世が世ならば、御屋形様のお姫様である。その上、学校のイメージをエッセンスにしたような美しさで、これに対抗できるのは乃木坂やAKBにも何人もいないだろうと言われた。

 演劇部の顧問が定年で替り、あらたに顧問となったのは通称カッパ。本名共産民生(ともうぶたみお)という年齢不詳の国語教師だった。

「あたし、夏忙しいから、ピノキオ演劇祭は、今年からパスね」

 のっけから宣言されてしまった。

 民生は生粋の組合員であり党員でもあった。ピノキオ演劇祭は隣接県が毎年夏に中高の演劇部にピノキオホールを二日に渡って無料で開放し、日ごろ発表の場を持たない演劇部に上演の場を与えてくれていた。太っ腹なことに参加資格を自分の県に限定していなかった。美荘所の演劇部にとっては、クラブ活動の最初の山である。

「演劇部はね、外に目が向きすぎ。足許を見なきゃ。自分の学校の生徒に見せるお芝居をやらなくっちゃ!」

 志保里は婉曲な演劇部つぶしだと思った。

「夏お忙しいのは、組合や党の研修があるからですか?」

 正面から聞くと、さすがにカッパは嫌な顔をした。

「表面だけを捉えてものを言っちゃだめよ。どれもこれも日本の教育を良くするため。しいては、あなたたちのために頑張ってるんだからね」

「うちの生徒に見せる芝居をやれというのは、ナロードニキをやれってことですか?」

「……難しい言葉を知ってるのね。意味を知って言ってるの」

「人民の中へという意味ですよね。戦後主義者の学生たちが、農村に入って農民組合を作ろうとして失敗した」

 志保里は、兄たちから聞きかじった知識を総動員して、カッパに立ち向かった。

「僅かな失敗を挙げて、ことの本質を否定しないで。ナロードニキというのは……」

「失礼しました。先生と論争するつもりは無いんです。連盟への加盟申請の締め切りが迫ってます。これは顧問でなければできないことです。今日のお話しは、この一点だけにしたいと思います。共産(ともうぶ)先生、よろしくお願いします」

「分かったわ。それから、これ頼まれてた資料」

 カッパは茶色い部外秘と書かれた封筒を渡した。

「志保里、コンクールは十一月だよ。それまでクラブのモチベーションもつかしら」

 兼業部員の朱里が不安げに聞いてきた。

「考え中。それより、その資料は?」

「あ、そうそう、演劇部員の一本釣り!」

 二人は階段の踊り場で封筒を開けた。そしてあっけにとられた。

「え、該当者無し!?」

「やられたわね……朱里、カッパにはなんて言ったの?」

「前野先生からお聞き及びだとおもいますが、新入生の演劇部適任者のリストをくださいって」

 書類には、演劇部経験該当者無し、と、書かれていた。

「前野先生は、放送部とか漫研とか関連のありそうな子まで調べてくれたのに……あたし、もっかい掛け合ってくる!」

「無駄よ、屁理屈こねられて、不愉快な思いするだけだよ」

 中学の演劇部の生存率は四パーセントあるかないかだ、新入生の中にいなくて当たり前。それを知った上でのご大層な茶封筒であった。

 志保里は、カッパを顧問として付き合うために、有りうる限りの可能性を考えていた……。

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コッペリア・16『歳の差50の友情』

2021-06-07 06:32:20 | 小説6

・16 

『歳の差50の友情』  





 夕刊紙のスクープは、A伸子夫人とAKPの矢藤萌絵の両方から否定され。あくる日には業界でよくあるガセということで落ち着いた。

「ありがとうございました。よく、萌絵ちゃんに間違われてしまうんで、助かりました」

 昨日からは伸子夫人の自宅に呼ばれるようになった。

 昨日、伸子夫人の勧める本を五冊借りて、一晩で読んでしまい。今日は返しにきた。

「あら、あなたの趣味に合わなかったかしら」

 夫人は、栞が趣味が合わず読まずに返しに来たと思ったのだ。

「いえ、面白くって全部読みました。戦後の無頼派といってもいろいろなんですね。特に最後の無頼派って言われてる檀 一雄は、仮にお父さんだとしても安心できます。太宰じゃ苦労しそうで」

「ハハ、読んじゃったんだ。すごい速読ね!」

「檀さんなら、毎日おいしいご飯がいただけそうで。あたしお料理はからっきしなんです」

 正直な感想であったが、栞は、けして料理は下手ではない。ただ『檀流クッキング』に書いてあるほどのレパートリーと思い付きがないので、そう言ったのだ。

「栞ちゃんにも苦手があるのね。今度お料理も教えてあげるわ」

「ありがとうございます」

 けして小笠原流礼法というようなものではないが、栞のお礼の仕方や立ち居振る舞いは、現代の女の子よりも伸子夫人の若いころのそれに近く、伸子夫人はますます、栞が気に入ってしまった。

「栞ちゃんて、不思議な子ね。五十も歳が離れてるのに同年代の友だちみたい」

「はい、不思議な少女。自分でも、そう思います」

 そこに、伸子夫人の孫の竜一がお茶をもってやってきた。

「あら、さっそく三流タブロイドの記事に興味もって偵察に来たの?」

「いや、お手伝いさんの手が塞がってるんで、ちょっと替わってお茶持ってきただけ」

「どうだか」

 そこに、伸子夫人のスマホが鳴った。秘書からだったので、夫人は部屋を空けて出て行った。

「もう、竜一、あんたのタクラミだったのね……あら?」

 怒りながら戻って来た伸子夫人は、床で伸びている孫を見て驚き、そして吹きだした。

「す、すみません(#^_^#)。竜一さんの親愛の情の表し方が少々飛躍していたんで、ビックリして身をかわしたら……」

「竜一、さっさと起きて、出ていきなさい!」

「す、すごいよこの子。お婆ちゃん、オレ、ますます気に入ってきちゃった!」

「その前に、きちんとお詫びしなさい!」

「もうしわけない、初対面なのに近寄り過ぎたね。ほんとに、ごめんなさい!!」

 頭と腰を撫でながら竜一は部屋を出て行った。

「しかし、あなたすごいのね。竜一ああ見えて柔道国体級なのに!」

 さすがの夫人も驚嘆を通り越して、スーパーマンをマジで見たような顔になった。

「え……えと……」

 もう笑顔だけではかわせないと思った栞は本当のことを語りだした。

「あたし実は、昭和31年生まれの魂で、体は人形なんです」

「え、ええ……!?」

「立風颯太って、三つ上の兄がいて、その兄が一か月前に亡くなって、生前最後にあたしを注文してくれていて、そのあと同姓同名の立風颯太さんが越してきて……」

 と、自分の身の上を語りだした。

 早産で亡くなった上の兄の話や、栞自身三か月で堕ろされたくだりなどでは、夫人は目を真っ赤にしていた。

――分かってくれているんだ!――

 栞は感動した。五十歳離れた友情を感じた。

 そして、やり過ぎた。

 本当に人形であることを分かってもらおうと、首を外したら、夫人は目をまわして気絶してしまった。

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