大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記・1『首になった信長』

2021-06-11 16:39:48 | ノベル2

ら 信長転生記

1『首になった信長』   

 

 

 頭が高い!

 

 一喝しようとした……が、やめた。

 様子がおかしい。

 目の前の巫女装束の女は片膝を立てて座っている。

 巫女は神に仕える身であるから、神や貴人の前では正座をしているものだ。

 それが巫女装束のまま片膝を立てて座っている。

 子どものころ、平手の爺に見せられた『諸国仏尊図絵』に載っていた神功皇后象のようだ。

「神功皇后は神にしませば、かように悠然としておわします」

 神功皇后は、城の女達同様の座り方をしているが、その豊かな有り様は人のそれではない。

 しかし、目の前の巫女装束は、神功皇后のような座り方をしているにもかかわらず、町方の娘のように軽い。

 それに、巫女装束の頭は、儂の目の高さよりも一尺ばかり高いところにあって、儂を見下ろしている。

 この高さで人に見下されるのは、内大臣叙任の折に帝に拝謁して以来だ。

 この巫女装束が帝や内親王であるはずもなく、あるはずでなければ、これは……いったい何だ?

 

「あなたは、死んで首だけになってしまったのよ。いまは、鏡餅みたく三宝の上に首だけが載ってるの」

 

「なんだと?」

 言いながら、思い至った。

 本能寺客殿の奥で、儂は腹を切ったのだ。

『介錯!』

 最後に蘭丸に命じた言葉が蘇ってきた。

 未明に光秀の攻撃が始まり、四半時は持ちこたえたものの多勢に無勢。客殿にまで火が回って、『首は渡すな!』と、それだけ命じた。

 斬!

 首が落ちる衝撃があって……そのあとは闇……気が付くと、この巫女装束の立膝だ。

「納得したかなあ?」

「何者だ?」

「わたしは、熱田大神ですよ(^▽^)」

「熱田大神?」

「はい、草薙の剣を依り代とする天照大神……的な?」

「その熱田大神が、何の用だ?」

「転生の案内です」

「転生だと?」

「はい、人は生まれかわるのです。特に、信長君のように業半ば、それも天下国家に関わる事業に関わった方は、来世も頑張って頂かなければなりませんから」

「天下取りの続きができると申すのか」

「はい、織田信長の事業は道半ばだからね」

「であるか。ならば、さっさと生き返らせろ」

「あのね、織田信長として生き返るのは、次の次なんです」

「次の次?」

「はい、次は、主に前世でやり残したことや取り残したことをやっていただきます」

「無い」

「ほら、たとえば、それ」

「なんだ?」

「信長君は言葉短すぎ。『であるか』とか『是非に及ばず』とか、今も『無い!』とか『なんだ?』とか、そっけなさすぎ」

「笑止!」

「ほら、また」

「百万言を費やさねばならぬ奴など相手に出来るか!」

「そんなだから、光秀君に謀反されんのよ。そんな信長君は、なんべん生き返ってもダメダメだからねヽ(#`Д´#)ノ」

「手短に申せ」

「これ見てくれる」

「なにを見ても儂に後悔などないぞ」

「まず、これ」

 不思議なことに、目の前に昔の情景が浮かんでくる。

「浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)か?」

「わたしは閻魔君じゃありません!」

「これは……」

 それは、安土のセミナリオを訪れて、半日讃美歌やチェンバロの響きに耳を傾けていた時の儂だ。

「いい顔してるじゃない(^^♪」

「心地よいからだ」

「ほら、今のとこなんか、自分でリズムとって、スィングしてるよ」

「なんだ?」

「信長君は、自分でもやってみたかったんだ」

「儂は信長だ」

「天下を取るのが仕事。でも、こういう信長君もいるんだよ。ほかにも……」

 次々に過去の自分が現れる。

 尾張のうつけと言われたころ、百姓の子供らとやった戦ごっこ、日の暮れるまで踊り狂った田楽や猿楽、茶器に見惚れた瞬間、南蛮の色彩豊かな絵に目を見張った自分……なるほど、忙しい中にもいろいろやっている。

「余技だ」

「たしかに余技よね……これも、見て」

 情景が替わった。

「……信勝を殺した時の儂だな」

「さすがは信長君、実の弟を殺しても平気なんだ」

「是非もない」

「フフ、じゃ、これ」

「これは……」

「荒木村重を説得にやった黒田君を裏切ったと邪推して、人質の息子を殺せって言ったのよね……あら、是非もないとは言わないのね」

 これには言葉が無い。

 猿が気を回して、黒田の倅は生かしておいたのだ。

「戸板に載せられて、半死半生になった黒田君。可哀そうに、脚が固まって、満足に歩くこともできなくなったのよね。日も差さない石牢に閉じ込められて、ほとんど死にかけていた」

『有馬の湯が効くぞ!』

「めずらしく、みっともない織田君だったわね」

「人の一生は五十年だ」

「だから、他の事は余技……だからね、次の転生では余技こそをやってもらうの。そうして、しっかり勉強して、次の次、再び信長として蘇って天下布武を成し遂げる」

「さっさといたせ」

「もー、えらそーなんだから、一応神さまなんだけどね、わたしは」

「熱田神宮には、桶狭間以来、十分なことをしてきたぞ」

「だあかーら、こうやって面倒見てあげてるんでしょーが!」

「怒ると、いささか可愛いぞ」

「神さまに、可愛い言うなあ(#'∀'#)!」

「承知」

「ふふ……まあいいわ、じゃ、最後にこれ」

「なんだ……連歌の発句か?」

 それは発句にも足りない五文字だ。

 

 鳴かぬなら ○○○○○○○ 時鳥(ほととぎす)

 

「〇の中に言葉を入れてくれる?」

「判じ物か?」

「連歌の発句が独立して俳句というものになるの、〇を埋めて、自分の心情を示してもらう。ちなみに、ほかの二人のを紹介しておくわ」

 甲: 鳴かぬなら 鳴くまで待とう 時鳥

 乙: 鳴かぬなら 鳴かしてみしょう 時鳥

「甲が家康……乙は秀吉か」

「さすがは信長君。じゃあ、君は?」

「鳴かぬなら…………殺してしまえ時鳥」

「ダメ!」

「ダメか?」

「これだと、何度やっても本能寺でおしまいよ!」

「であるか」

「いい、教えてあげるから、胸に刻んでちょうだいね!」

 熱田大神は鼻の穴を大きくして空中に指を走らせる。

 走らせた跡は、墨痕鮮やかな文字となって浮き上がった。

 

 鳴かぬなら 自分で鳴くぞ 時鳥

 

 なんだと!?

 

 

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やくもあやかし物語・83『お地蔵さんの奥座敷』

2021-06-11 09:31:58 | ライトノベルセレクト

やく物語・83

『お地蔵さんの奥座敷』    

 

 

 実はね……

 

 お地蔵さんが切り出すと、十六畳くらいはあるんじゃないかと思う座敷に座っている。

 あれっと横を向くと、チカコが憑りうつった黒猫が等身大になって座っている。

「あら、等身大になっちゃった!?」

 等身大の黒猫は、わたしと同じくらい。

 黒猫の設定は、たしか身長160センチ。

 わたしよりも4センチ背が高い。

 それが、座った姿勢で同じくらいだから……その分、わたしよりも足が長いんだ(^_^;)。

「なにを卑下してるのよ」

「え?」

「これは黒猫の姿だからね。じっさいのわたしは、やくもよりも低いわよ」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 チカコの本性って、左手首。等身大の左手首って、張り倒されたら蚊のように叩き潰されそう……。

「ふふ、なにを妄想してるのよ」

「アハハ、ここ、どこだろうね?」

「広いお座敷……お地蔵さんの奥座敷ね」

「奥座敷?」

「きちんと対応してくださってるのよ、近所の中学生としてではなく、正式な客人としてね」

「えへ、そうなんだ(#´ω`#)」

 お地蔵さんとは、これまで、いろいろ話や相談をしてきた。

 でも、これまでは、お地蔵さんの声が心に直接響いてくる感じで、実際に姿を見たことは無い。

 なんだか緊張する。

 

 コーーーン

 ヒ!?

 

「鹿威しよ、これくらいで驚かないで」

「鹿威し?」

「こんなの……」

 チカコが指を立てると、遠足かなにかで見たお寺の庭とかにあったシーソーみたいな竹筒の仕掛けが浮かんだ。

「すごい庭ね」

 開け放った障子を出たところは学校の廊下くらいの幅の縁側廊下になっていて、その向こうは、桂離宮か浜離宮かというくらいの日本庭園が広がっている。

「お茶をお持ちしました」

 庭の景色に見惚れていると、反対側の襖が開いて、奥女中さんみたいなのが頭を下げている。

「は、はひ」

 変なところから声が出てしまう。

 黒猫のチカコは、ほんの少し頭を下げて会釈するだけ。

 なんか、貫録。

 わたしの前にお茶を置いてくれて、奥女中さんの顔が見える。

「あ、メイドお化け!?」

 ビックリした。

 奥女中はクスリと笑ったような気がしたけど、そのまま頭を下げて出ていく。

 襖が閉まって、頭を戻すと、目の前に和服姿のきれいな女の人が座っている。

 名門旅館の女将さんか、とってもえらいお茶の先生……なんて会ったことないけど、そんな感じ。

「お待たせしました。どんな姿で現れていいか悩んじゃって、ちょっとお待たせしてしまいました。二丁目の延命地蔵でございます」

「は、はい」

 チカコが、きれいにお辞儀を決めるので、見よう見まねで頭を下げる。

「さて、本題に入ります。しらみ地蔵というのは、大阪は河内の国高安にあるお地蔵のことです」

 う、痒くなってきた。

「その虱ではありません」

 プ

 チカコが吹きだす。くそ。

「むかしむかし、高安に俊徳丸という美少年がおりました」

 真面目な切り出しに、口元も自然に引き締まる。

「音感とリズム感がいいので、十三歳の時には、選ばれて四天王寺で舞を奉納する稚児に抜擢され、その美しい舞は、河内のみならず、都にまで噂となって伝わりました」

 いまの家に来る前に深夜アニメで流行っていた、日本刀が美少年に変化して大活躍するというアニメが浮かぶ。

「俊徳丸の家は、高安でも名の知られた長者の家で、その一人息子である俊徳丸の未来は保証されたようなものでしたが。好事魔多し、母親が亡くなってからは……」

 コーーーン

 鹿威しが大きく響いて、お地蔵さんの話は核心に入っていった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)
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ライトノベルベスト・『選挙落ちた 日本死ね』

2021-06-11 06:29:11 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『選挙落ちた 日本死ね』  



 何なんだよ日本。 一億総活躍社会じゃねーのかよ。 昨日見事に選挙落ちたわ。 どう すんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。


 いけてると思うんだけどなー! なんでかこっぴどく怒られた。

 そりゃあ、下心はあったわよ。スキー旅行をちょっちリッチに……オ、無意識だけど韻を踏んじゃったぞ!

 ヨッチたちと行くスキー旅行にカンパしてほしいからさ。選挙も終わったことだし、苦虫潰したみたいな顔ばっかしてるお母さんをニッコリさせてあげて、そいで、気持ちよくカンパしてもらえるようってか、できるというか、親孝行の気持ち、あったんだよ。
 
 民珍党のマドンナと言われたお母さんが、まさかの落選。あたし、当選間違いなしと思ってたから、薬玉とかクラッカーとか花吹雪とか用意してたんだよ。それが、まさかの落選でさ。

 落選決定の瞬間、お母さんうつむいちゃだめだよ。

 だって、フラッシュとか照明とかが、トップサスで当たるんだもん。豊齢線とかの顔の皴がクッキリしてしまって、もうオバアサンに写っちゃう。マスコミも狙って撮っちゃうし、ほんとマスゴミだわよ! 初当選のときなんかチヤホヤお母さん持ち上げてさ! わたしなんかカメラの前に出たら、お母さんのリアル年齢分かっちゃうから遠慮したよ。逃げきれなくてテレビの取材受けた時なんか、幼稚園の制服引っ張り出してきて苦しいの辛抱して、幼児言葉まで使ったんだよ。
 
 お母さんに、どんな言葉かけてあげたらいいか。ほんと、娘として悩んだよ。

 ありきたりのことじゃ、幼稚園の制服みたいに逆効果……SNSで、あたしの歳とかバラス奴がいるんだもんね。学校でも冷やかされたけど、お母さんの言う通り、心貧しい大衆どもめ! と思って我慢したよ。おかげで、ヨッチが慰めてくれて、仲良しになるきっかけになってさ。人生前向きに生きてれば、思わぬところから開けてくる(お母さんのモットーだよね)と信じられた。

 そーなんだよ。

 お母さんの前向きには助けられたからさ、今度の落選じゃ、あたしが励まさなきゃと思ったわけさ。

 だからさ、お母さんが大好きな『日本死ね』をパロってみたの!

 もちろんリスペクトいっぱいだよ。

 すごいと思わない? 保育所と選挙を入れ替えただけだよ。それだけで、見事にお母さんの気持ちを的確に表していると思わない?

 ウィット効いてて、チャーミングでさえあると思わない?

 なんかヤケクソだけど、生きる活力に溢れてる! オリジナル読んだ時、お母さん感心してたじゃん。

 だから、リスペクトの気持ち、むろんお母さんに対してを持って、ネットにアップしたんだよ。

――いいね――を334もらって、リツイートも500超えたんだよ。明日あたりマスゴミにも出ると思うよ。あたしの人生で一番のヒットになるよ思うよ。

 でも、お母さん怒らせちゃったんだよね。

 そんなつもりなかったんだけどね。傷つけたんならごめんなさいね。

 ごめんなさいは、きちんと相手を向いて言わなきゃならないんだけど。言えなくてごめんなさい。

 でもさ。

 お母さん。気持ちは分かったけど、突き飛ばしたのはまずいと思うよ。

 ベランダの手すり腐っててさ、突き飛ばされた勢いで、あたし落っこちてるんだよ。

 でも、悲鳴なんかあげたら、お母さんに迷惑掛かるだろうから、必死で悲鳴は堪えてるんだよ。

 ああ、もうちょっとで地上だ、駐車場のコンクリートが迫って来た。

 ドスン!

 見事にベランダから落ちたわ! どう すんだよ私活躍出来ねーじゃねーか…………

 

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コッペリア・20『新しい制服とお花見』

2021-06-11 06:05:11 | 小説6

・20 

『新しい制服とお花見』   




 栞の真新しい制服が届いた。

 といっても届けてくれたのは宅配さんじゃなくて、大家さんだ。

 神楽坂高校への編入の書類がきたときに、書類上では立花栞ではなく、鈴木栞にした。大家さんの養女ということにした方が、法的手続きや、様々な届け出が簡単なためだ。

「ま、これも神さま仏様のおぼしめしだろう」

 大家さんは、この不思議な現象をあっさり受け止め、栞の現住所は大家の鈴木さんちになっている。

「うわー、まるで別のあたしだ。どう、似合ってる?」

 栞は、さっそく制服に着替えると颯太の前でターンして見せた。制服のスカートが膨らんで、なんだか満開の桜を連想させた。

「そうだ、お兄ちゃん、お花見に行こう!」

「お花見?」

 朴念仁の颯太は、間の抜けた返事をした。

「だって、お兄ちゃんは明日は引継ぎでお仕事でしょ。二人で出かけられる最後のチャンス!」

「ま、いいか……って、おまえ、その制服のまま行くのか?」

「いいでしょ、嬉しいんだから(^_^;)」

「ま、まあ、いいか」

 考えてみれば、桜に新品の制服はよく似合う。

 とういうことで、手近なところで、上野公園にいくことにした。

「ウィークデーだってのに、けっこうな人たちがいるわね」

「そりゃ、床屋さんとか、図書館のひととか、月曜が休みって人は多い。だいたい春休みのど真ん中だからな、学生なんかも多いだろう」

「高校の制服で来てるのは、あたしくらいのもんだな……」

 と、まわりを見渡すと、案外奇抜なコスの若者たちがいる。アキバが近いせいか、ゴスロリやアニメのコス。中には真っ当な卒業スタイルの袴姿の女子学生もいるが、着つけない衣装なのでコスプレに見えている。

「なんか自由な感じでいいなあ」

「うん、大阪よりは行儀がいい感じだな」

「大阪はちがうの?」

「ああ、なんちゅうか、もっとハジケとるなあ。にぎやかだし……昔、桜ノ宮の通り抜けにトラックでリンゴを売りに来たオッチャンがいたんだ。オッチャンがトイレに用足しに行ってる間に、荷台のリンゴがみんな無くなった。大阪人の群集心理はすごいぞ」

「お兄ちゃんて、そんなとこで育ったんだ。そんな風には見えないけど」

「ハハ、大阪の人間といってもいろいろ。それに東京に来るとすぐに影響されっちまう。自分で言うのもなんだけど、言葉まで変わってきてしまった……前の立風さんも、そうだったのかな」

「前の立風さんのことは、いいよ。栞のお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけなんだから」

「そういうことをサラリと言うとこ……」

「なに?」

「なんでもない」

「へんなの……あ、あの子、咲月さん?」

 栞が指差した先には、神楽坂の正門で見かけた、あの女生徒、水分咲月がいた。

「場所変えよう、今のあの子は、そっとしておいたほうがいい」

 それから、二人は地下鉄に乗って、行き当たりばったりで、靖国神社に行った。

「こないだ、来たとこだぜ」

「いいじゃん。あのチラホラ咲がどうなったかも楽しみだし(^▽^)」

 靖国神社もかなりの人出だ。さすがに、上野公園のようなコスプレはいないけど、旧陸海軍の軍服を着た人たちがチラホラ見える。

「おれ、どうかと思うな。旧軍人でもないのに、ああいうコスでくるのは……」

 栞は、すぐには答えずに、しばらく境内を歩いてから言った。

「……何人か本物が混じってるよ」

「え、どこ……」

「教えない。せっかく、密かに花見に来てらっしゃるんだから」

 なんだか、見てはいけないものを見た花見になってしまったが、いい経験になったと二人は思った。

 

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