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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・85『俊徳丸から電話』

2021-06-23 09:20:33 | ライトノベルセレクト

やく物語・85

『俊徳丸から電話』    

 

 

 おばあちゃん、虫刺されの薬ないかなあ?

 

「あら、虫に刺されたの?」

「ううん、これから刺されるかもだから」

「フフ」

 ちょっと笑うと、薬箱から虫よけスプレーとかゆみ止めの薬をくれた。

「あまり、無茶しないでね」

「うん」

 ここに越してきてから、いろんな事があったんだけど、お爺ちゃんも、お婆ちゃんも、お母さんにも気づかれていない。

 それよりも、引っ込み思案だったわたしが、キチンと学校へ行けてるのが嬉しいんだ。

 わたしの周囲には、あやかしとかが一杯いて、けっこう危ないこともあったりすることには気づいていない。

 

 電話がかかってきたのは、お地蔵さんのところから帰ってきて三日目だった。

 

 ネットで、1/12サイズのフィギュア用のあれこれを見ていた。

 むろん、机の上には黒猫姿のチカコ。

 チカコは1/12サイズで、いつもは絨毯に見立てたマウスパッドの上に付属の椅子に座ったりしている。

 ネットというのは恐ろしいもので、どこで知ったか『1/12フィギュアのグッズをお探しですか?』なんてメールが入ったり、サイトの広告なんかに出てくる。

 見ていると、色々あるのでビックリ。

 生徒会室にあるようなゼミテーブル、パイプ椅子、教室の机、朝礼台……おトイレなんてのもある。

「お風呂のセットがあるよ、お湯を入れたら本当に使えそうだね」

 ユニットバス 洋式のバスタブ 檜ぶろ

「こんなむき出しのお風呂じゃ入れないわ」

 たしかに、映画のセットみたいで、壁は奥と左横にしかなくって、丸見え。

「自転車とかどう?」

「どれどれ……」

「ダイキャスト製で、ほんとにペダルでタイヤが回る!」

「うち広いから、廊下とか走ったら面白いかもね(^▽^)」

 本当に買う気持ちはないんだけど、ウィンドウショッピングみたいで面白い。

 サイドカー付きのバイクで盛り上がっている時に電話が鳴った。

 

『俊徳丸さんからお電話です』

 

 交換手さんが取り次いでくれて、俊徳丸が出てくる。

 チカコがひょいひょいと肩に乗って、いっしょに聞く。

 ちょっと緊張。

『もしもし、初めてお電話します。高安の俊徳丸です』

 アニメのハンサム声優みたいな声。

「は、初めまして! 小泉やくもです!」

 声が弾んでしまう。

『とりあえず、ご挨拶と思って。よかったら、ちょっとだけ、こっちにきませんか?』

「え、今からですか?」

『お地蔵イコカなら、あっという間です』

――いこいこ!――

 チカコが口の形だけで言う。

「分かりました、スグに行きます!」

 チカコを肩に載せたまま部屋のドアの前に立つ。

「靴、忘れないでね」

「うん」

 ドアの脇に用意してあったスニーカーを持つ。向こうに着いたら、いつでも履ける態勢!

 

「いくよ!」

「うん!」

 

 ノブを掴んでドアを開ける。

 自動改札機がある。

 自動改札の向こうは、ぼんやりと霧がかかったようになっていて見通せない。

 ゴクリ

 お地蔵イコカをかざすと、小さな音がしてバーが開く。

 どこにでもある自動改札なので、本能的に前に進む。

「「うわ……」」

 あっという間に霧っぽいものが晴れて、VRゴーグルをつけたみたいに世界が広がる。

 

 ちょびっと田舎の街角みたい。

 

 三メートルほどの道路がカギ型になってるみたいで、カギ型の角にお地蔵さんの祠。

『シラミ地蔵』

 立て札が目に入って、虫よけの入ったポシェットを思わず探る。

 すると、祠の向こうから、人影が現れて口をきいた。

 

 ようこそ、俊徳道へ(o^―^o)!

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)

 

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ライトノベルベスト『61式・1』

2021-06-23 06:34:31 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『61式・1』  

  

   


 61式中戦車というのがあった。

 国産初の戦車で、1961年に制式採用されたので下二桁をとって61式(ろくいちしき)戦車という。装備や装甲などの諸元から中戦車にカテゴライズされ、39年間現役であり続けたが、2000年に全車退役になった。重量35トンと軽いが、61式52口径90ミリライフル砲を搭載。戦後の第一世代戦車としては、最優秀の部類に入る。

 で、世界中の戦車で、一度も実戦に使われることなく退役になった戦車は、世界中で、この戦車だけだ。

 女子高生のあたしが、なんでこんなガルパンオタクみたいに詳しいかと言うと、お父さんが陸上自衛隊の下士官だからだ。

 むろん機甲科で戦車に乗っている。

 で、あたしは、お父さんのことを「61式」と呼んでいる。理由は簡単。1961年生まれの中年オヤジだから。本人も長年乗り慣れた61式にちなんだあだ名なんで喜んでいる。

 ちなみに名前は西住平和(にしずみひらかず)年齢53歳体重61キロと覚えやすい。

「今夜は泊まりだから、戸締まり火の元に気を付けてな」

「これで三回目だよ。それに、いつものことだし」

「いつものことだからこそ、確認が必要なんだ。電車だって、運転手さんは、指さし確認、発声確認だろうが」

「いつもは二回。三回いうのは初めてだよ」

「そうか、二度目のつもりだったけどな」

「もう、まだ現役なんだから、ボケないでよね」

「了解。じゃ、そろそろいくか……」

「あ、肝心なこと忘れてる」

「え、なんだ?」

 上着を着ながらすっとぼける。

「啓子伯母さんが持ってきてくれたお見合いよ。61式と見合いしてやろうって74式はそんなにいないよ。これ逃したら、将来は絶対独居老人だからね」

「大いにけっこう。栞(しおり)に61式の面倒みさせようとは思ってないからな」

「来年は定年なんだからさ。ちょっとは真剣に考えなよ」

「考えてるよ。再就職先も二三あたってるしな」

「諸元の入力ミス。あたしが言ってるのは、仕事じゃなくて、お父さんの一生の問題なんだからね!」

「オレは、栞が何年か先に、無事にいい男の嫁さんになるのを見届けられれば、それでいいんだ」

「また決まり文句」

「専守防衛。自分のことは自分でなんとかするさ。掃除、洗濯、料理、生きていく上のことは、たいていできる。問題なし」

「愛情って諸元が抜けてる!」

 この真剣な訴えかけに、61式は、あろうことかオナラで答えた。

「ハハ、ほんとに抜けちまった。ガスも抜けたし、じゃ」

「あたしがお嫁さんになってあげるわけにはいかないんだからね、たとえ血が繋がってなくても!」

 お父さんが、靴を履きかけたままフリーズした。

「栞。オレは栞のこと本当の娘だと思って育ててきた。二度とそんな言い方するな」

 そういうと61式は、ドアを開けて、歩調を取るように出て行った。

 61式……お父さんは、あたしが三つの時に子連れのお母さんと結婚した。

 実のお父さんも自衛隊員だったけど、あたしが一歳のときに災害派遣で亡くなってしまった。

 同期だったお父さんは、突然夫を亡くしたお母さんの面倒をみてくれた。そして、その二年後に結婚した。お母さんが中期の癌だということを知りながら。

「人間というものの大事な諸元は、健康と愛情だ」

 自分で、そう言っていた。

 17歳のあたしには分かる。お父さんとお母さんに夫婦の営みが無かったこと。

「そういうことは、元気になってから」

 とかなんとか言ったんだろう。

 実戦に一度も出ることもなく退役、スクラップになった61式戦車は幸せだと思う。

 でも、あたしを育てることだけで退役する61式オヤジは……勝手にしろ!

 あたしは、満開の桜並木を抜けて、啓子伯母さんの、お店に向かった。

 

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コッペリア・32『十日遅れの離任式』

2021-06-23 06:09:56 | 小説6

・32

『十日遅れの離任式』  

 

 


 発育測定も内科検診も問題なかった。

 何もかもが普通の人間の状態を示していた。

 この世で栞が人間ではなく人形であることを知っているのは、名目上の保護者になっている大家のジイチャンと不動産屋のジイチャン。それに命を吹き込んでくれた颯太の三人だけ。

 そして、もしかしたらと思って家に帰って颯太に言ってみた。

「ねえ、あたしのスケッチしてくれる?」

 颯太は気安く二三分で仕上げた。

「ああ、やっぱしフー君には、こんな風に見えてるんだ……」

 描きあがったスケッチは、贔屓目に見てもアナ雪のアナがハンス王子に会った時の、生き生きしてはいるが、いかにも人形くさい姿だった。

「まあ、いいじゃん。人形みたいだけど、アナみたいに生き生きしてるところがオレは好きだよ」

 とりあえず、その言葉で満足しておくことにした。

――もし、あたしが人間みたいに見えたら、フー君は、どんな反応するんだろう?――

 一瞬頭によぎって、心臓(今度の検診で存在が分かった)がドッキンとした。

 あくる日の学校は、なぜか45分の短縮授業だった。一時間目の先生に聞いてみた。

「ああ、都合でノビノビになってた離任式を放課後やるらしいよ」

 そう言えば、始業式に付き物の離任式がなかった。

 こういうイレギュラーなことについては、生徒の耳は地獄耳だ。

「ハハ、なんだか教頭先生が転勤や退職した先生に連絡し忘れていたみたいだよ」

 昼休みに咲月が面白そうに伝えてくれた。咲月もAKPのことが上手くいったので、急速に学校に馴染み始めている。目出度いことだ。

 離任式は、先生によってまちまちだ。

 欠席した先生もいたし、気のない挨拶で済ます先生もいた。

 その中で福原という退職した先生は感動的だった。
「みなさん、こんにちは……」

 そこまで言って、福原先生は声がつまってしまった。生徒たちもシーンとした。

「38年間の教師生活を、ここで終えました。ちょっとした行き違いで、今日の離任式になりましたが、複雑な気持ちです……平気な顔でみなさんの前に出られる自信が無かったので、このままでいいと思う気持ちと、会ってけじめをつけたいという気持ちと両方です。わたしは、嘱託でいいから、もう5年学校に居ようと思いました。でも、あたしには介護しなければならない母が居ます。このまま続けては、どちらも中途半端になると思い、きっぱり退職の道をえらびました……」

 福原先生は、あてがわれた5分をきっちり中身の濃い話をして、転退職の先生の話の中で一番感動的だった。

「いやあ、水分さん、元気に来てるじゃない!」

 離任式が終わると、福原先生は生徒たちにもみくちゃにされた。

 先生は目の合った生徒一人一人に声を掛けている。

 なんと二三年生全員の顔と名前を憶えているのだ。

「あなたの留年を決める時は断腸の思いだった。でも、よく元気になってくれたわね」

「鈴木さんのお蔭なんです!」

 咲月は、栞を前に引き出して説明した。

「そう、念願のAKPに入ったの。学校と両立出来ているようね、安心したわ……鈴木さんは転校生ね」

 さすがである。自分の記憶にない生徒は転校生に違いないと確信を持って言える。なかなかできないことである。

「鈴木さん、なにかクラブには入った?」

「いいえ、なかなか縁が無くって」

「それなら、ぜひ文芸部に入って!」

 アもウンもなかった。福原先生の元気と好意の混じった目で見られれば嫌とは言えない。

 文芸部は、栞の担任のミッチャンがやっている。部員がいないので気楽に引き受けた顧問だが、福原先生のお声がかりで部員が出来ては放っておくわけにもいかない。

「よかったわね」

 そう言いながら、ミッチャンの顔は困惑していた。

「それから、出来る範囲でいいから、お掃除してね。神楽坂は良い学校だけど、ホコリが多いのが玉に瑕ね」

 福原先生は、さりげなく学校荒廃の兆しを指摘していった。

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