大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記・7『初登校』

2021-06-17 15:01:46 | ノベル2

ら 信長転生記

7『初登校』   

 

 

 担任の平手です。

 

 そう名乗られて、爺の生まれかわりかと思った。

「あ、平手正秀の生まれ変わりじゃないからね」

「え、そうなんですか?」

 敬語を使っている自分に驚く。

「全部が全部生まれかわりってわけでもないの。きみの事は織田君って呼ぶけどいいわよね?」

「はい、先生と生徒ですから」

 初めてだ、人のことを先生なんて呼んだのは。

「これから、いっしょに教室に行きます。朝のショートホームルームだから、簡単に自己紹介してもらって、すぐに一時間目の授業。学校の色々は、このファイルを読んでくれたらいいわ。じゃ、まずは屋上に行くわよ」

「屋上?」

 意表を突かれて声になる。転校初日の朝に行くところが屋上だとはな。

 

 ガチャリ

 

 ドアが開くと、爽やかな風が吹き込んでくる。

 この街の空気は悪くないが、屋上の空気は、地上よりも、いっそう清々しい。

 ちょっとしたデジャブだ。

 斎藤竜興を破って、初めて稲葉山の天守に登った時、この頬に感じた風に似ている。

 あの時は、速攻で『岐阜』という地名が浮かんで、その日のうちに改称を命じた。

「岐阜に似ているって思ったんでしょ」

「分かりますか?」

「たいていね、生徒の考えることは分かる。担任だからね」

「…………」

「こういう時、織田君は無口になるんだ」

「無駄なことは言いません」

「あそこの山ね……」

 先生が指差す先には、小さな山があって、南に伸びた道の先には鳥居が立っている。

「鳥居は立っているけど神社があるわけじゃないの。山全体が御神体でね、そのしるしに立っている」

「御祭神はなんですか?」

「ただの山。住民は、尊崇の気持ちを込めて『御山』って呼んでる。あの御山の木々が街の空気を清浄にしてくれているの。街の空気はゆっくりと御山に集まって、御神木によって浄化されて、こういうふうに還流してる。屋上は特に立ち入り禁止にはしていないから、スッキリしたいときには来てみるといい。街の様子もよく分かるしね。いちおう説明しておくわね……」

 先生は、街と学校の主だったところを解説してくれる。

 放課後、通学路付近だけは見ておこうと思っていたので助かった。

「さて、そろそろ教室にいこうか」

「はい」

 

 階段を二階分下りたところが二年生のフロアーだ。

 

「みんな、お早う。今朝は、まず転校生を紹介するところからね。入ってちょうだい」

 軽く礼をして教室に入る。

 女子高だからクラスの全員が女子。

 しかし、有名無名混じり合って、みんな戦国武将や侍の生まれ変わりだ。

 油断がならない……と、思ったら、教壇に立って受けるオーラは、普通の女子高生のそれだ。

 ちょっと拍子抜け。

「じゃ、簡単に自己紹介してちょうだい」

「今日から世話になる、織田信長だ。よろしくな」

 え、それだけ?

 そんな空気が一瞬あったが、すぐに過不足のない拍手が返って来る。

 パチパチパチパチ

「では、席は、窓際の後ろから二番目。黒板の上に座席表貼ってあるから、少しずつ覚えて、仲良くやってね」

 首をひねって見上げると、スピーカーの横に座席表が貼ってある。

 席について前を向いていれば自然にクラスの者の名前を憶えられる仕組みだ。

 自分の席……ちょっと驚いた。

 後ろが武田信玄、前が上杉謙信だぞ……。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田大神        信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・84『俊徳丸』

2021-06-17 09:39:06 | ライトノベルセレクト

やく物語・84

『俊徳丸』    

 

 

 お地蔵さんの話は続いた。

 

「俊徳丸には彼女がいたの、隣村の長者の娘で乙姫って言うんだけどね。四天王寺で舞楽を舞う俊徳丸を見て、乙姫の方から一目ぼれ」

 チカコがニッコリしたような気がした。

「でもね、間もなくお母さんが亡くなって、俊徳丸のお父さんは再婚して腹違いの弟が生まれたの。義理の息子よりも実の息子が可愛い継母は、夫に分からないように俊徳丸を虐たわ。継母の言うことを鵜吞みにした父親も俊徳丸を厭うようになって、とうとう家を追い出されてしまう」

 昔話によくある展開。

「運の悪いことに俊徳丸は悪い病気にかかって目が見えなくなった末に舞を舞うこともできなくなってね、乙姫もいろいろ看病したり世話を焼いたりするんだけど、悪い噂のたった瞬徳丸を庇いきれず、とうとうホームレスになってしまうの。それでも俊徳丸は高安を離れることができなくて、毎日、物乞いのために四天王寺まで通うのよ。今でも、通った道を俊徳道と呼ぶ……」

「よろぼうし……」

「え?」

「チカコさんは御存じなのね……」

「父や兄が……」

 チカコって、家族いたの?

「そう、弱法師……じゃあ、ご存知なのね、この後の展開?」

「どこまでかは分からないけど……その後は、観音菩薩のお力で目が見えるようになって、長者のお父さんも真実を知って、俊徳丸を迎え入れ、乙姫共々幸せに暮らした」

「ふふ、そうよね」

「その、俊徳道というのは?」

「あ、そうそう……俊徳丸は今でも俊徳道を通っているの」

「「今でも?」」

「ええ、もちろん人の目には見えない魂だけどね。毎日、俊徳道を通って、沿線の風景や人たちに愛着を感じたのね。時には悩みの相談に乗ったり、世話を焼いたり……もともと高安の長者さんの息子さんだから面倒見のいい性格なのよ」

「長者は、面倒見がいいんですか?」

 むかしばなしとかだっやら、長者は、どこかがめつくて、最後には勧善懲悪的にひどい目に遭ったりする。

「いい人も多いのよ」

 チカコも小さく頷いた。

「このごろ、俊徳丸の手には負えないようなことがね、いろいろ起こるようになって、手助けを頼まれてるの」

 ちょっと悪い予感。

「二丁目断層は、ちょっと不安定で、わたしみたいなお地蔵さんでも、この場所を離れるわけにいかなくて」

「それで……?」

 だめだ、チカコの目が輝いてきた(^_^;)

「時々でいいから、俊徳丸の力になってあげてほしいの」

 あ、目を見たら断れなくなる……って、チカコ、目を見ちゃダメ!

「どうやって、高安に行くんですか?」

 あ、やる気だ(;'∀')!?

「これ使って」

 わたし達の前にカードが現れた。

「お地蔵イコカ」

「「おじぞういこか?」」

「えと、東京じゃスイカかな」

「高安って、大阪でしょ、新幹線でも二時間半……」

「お地蔵さんの電車だから、あっという間。俊ちゃんには『電話でアポとってからしなさい』って言ってあるから(^▽^)」

 しゅ、俊ちゃん?

「は、はあ」

「都合の悪いときは断ってくれていいから、お願いね(#^▽^#)/」

 そんなブリッコで頼まれても……(-_-;)

「おもしろい、やらせてもらいます!」

 ああ、チカコがその気になったあ。

 シラミ地蔵って、まだ詳しく聞いてないんだけど……。

 痒いのは勘弁してほしくって……。

 ちょっと、聞いてます?

  

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・1」

2021-06-17 06:43:13 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・1』 

  

 ねえ、元気してる!?

 陽気な声が、梅の花びらといっしょに降ってきた。

 

 見上げると、ピロティーの上の露天になった渡り廊下から、スーザンがみんなと写メを撮りまくっている。その合間に、中庭でしょぼくれているボクに声をかけてきたのだ。

 ボクは手の甲の傷をそっと撫でた。
 
 スーザンは、アメリカはシアトルにある姉妹校ヘブンロックハイスクールからの交換留学生。

 普通は、一ヶ月程度の短期留学なんだけど、こいつは、二学期からずっといて……というか、居着いてしまい、とうとう今日の卒業式まで居座った。

 やってきた時はびっくりした。

 日本人の血が1/4入っているらしいが、青い目にソバカス、ほどよく上向きの鼻が、いたずらっぽく、なんだかポップティーンの表紙になってもおかしくないほど可愛かった。

 で、当然のごとくクラス、いや、学校中の男子からはアコガレを通り越して、遠巻きに見守られているって感じだ。

 最初の挨拶、まさに漢字の挨拶。ぼくたちが、学年始めにやるフニャフニャしたアイサツとは格が違った。

「初めまして。わたしスーザン・モントレーと申します。皆さんご存じのアメリカの姉妹校ヘブンロックハイスクールから、交換留学世としてやってきました。ヘブンロックハイスクールはシアトルにございます。シアトルはアメリカの北西部のワシントン州にありまして。えーと……この教室をアメリカだとすると、廊下側の席の一番後ろあたりになります……」

 クラスのみんなはスーザンの流ちょうな日本語に驚くとともに、彼女が示した廊下側の一番後ろの席に注目した。

 彼女に悪意はない。

 たまたま教室の北西部にあたるのが、ボクの席だった。

 で、ポーカーフェイスを決め込むとか、適度な笑顔ができたらよかったんだけど、ボクはニッコリ笑顔のスーザンとまともに目が合い、自分でもはっきり分かるくらいに真っ赤な顔になって、うつむいてしまった。当然クラスのみんなから、注目されてしまった。

「アメリカじゃ、スーズって呼ばれていたの。みなさんも、そう呼んで……で、あなたは?」

 救いの手のつもりだったんだろうけど、スーザンはボクに振ってきた。シアトルじゃ救いの手とか、親愛の情とか言うのかもしれないけど。ここじゃ「イジル」ってことになる。ボクは、学校では、ちょっとした「変わり者」で通っている。その理由はおいおいと……。

 ボクがモゴモゴしていると、担任のジュンちゃんが、余計なフォローをしてきた。

「松平賢人、ほんとは前から二番目の席だったんだけど、黒板が見えにくい鈴木さんに席を譲ってあげたの」

「それは偉いわ!」

 スーザンにとっては、自然だったんだろうけど、日本では大げさな誉め言葉(誉め殺し。少なくともイジメの一歩手前のイジルに通じる)とともに拍手した。クラスのみんなも、スーザンのペースに巻き込まれて拍手。

 パチパチパチパチ!

 そして、偶然とは怖ろしいモノで、スーザンの席はボクの横になってしまった。

 怖ろしい偶然は、その後も続いた。

 なんとスーザンは、ボク一人だけが男子部員という演劇部に入ってきた!

 そう、これがボクが「変人」と思われる理由。

 演劇部は、ボクが入学したころは上級生に男子が居た。だからうっかり入ってしまった。その上級生は、茶花道部とも兼部していて、学校じゃ、ちょっとしたオネエで通っていた。それを知ったのは連休明けに正式入部届を出した後だった。

 その強田剛という、オネエとは、およそ似つかわしくない名前の上級生が居る間は良かった。

 強田オネエが卒業してからは、演劇部で唯一の男子部員になってしまった。それまでになくてはならない存在になってしまったボクは、クラブを辞めることもできなかった。

 なくてはならない存在というのは、能力のことじゃない。ボクが辞めるとクラブは五人になってしまい、規定によって、クラブから同好会に格下げされ、部室も使えなくなるからだ。
 
 まあ、一ヶ月の短期留学。お客サマのつもりでいた。

 ……それが、月が変わっても、彼女は居続けた。

 その手伝いをしたのも、偶然だけどボクだった。

 その日は文化祭の振り替え休日で、学校は休み。朝寝坊して、大学を遅刻しそうになった姉貴をバイクに乗せて、駅からの帰り道だった。コンビニの角を曲がったところで出くわしてしまった……スーザンと。

 ブロンドのポニーテールが、道ばたでしゃがみ込み、壊れた自転車と悪戦苦闘していれば、イヤでも目に付く。目に付くんだから、放っておいても誰かが声をかけたんだろうけど、ボクはあまりの突然にブレーキをかけた。自分の直ぐ後ろでバイクが停まったんだから、当然スーザンも振り返る。

「ああ、ケント、ちょうどよかった。神さまのお導きね!」

 胸に十字をきって、スーザンは、バイクの後部座席にまたがった。

「あ、あの、ちょっと……」

「アメリカ領事館まで、お願い!」

 ボクは、日本の道路交通法で、バイクは同乗者でもヘルメットを被らなければならないと言うのが関の山だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コッペリア・26『水分咲月の秘密』

2021-06-17 06:22:56 | 小説6

・26 

『水分咲月の秘密』   




「咲月はね……あ、駆潜艇咲月の方ね……」


 栞がカツ丼を食べる間に、咲月は要領よく、自分とひい爺ちゃんと落第したことについて語った。

 ひい爺ちゃんは駆潜艇咲月の艇長で、ペリリュー島が玉砕する半年前に、島の住人を他の島に移動させる任務についていて、最後は本土に帰る民間人を小さな艇内に乗せられるだけ乗せて、他の輸送船を護衛しながら日本に帰ってきた。途中米軍の攻撃を受け、船団の半分が沈められた。

 咲月は小型の駆潜艇ながら、敵の潜水艦を一隻撃沈するという武功があったが、ひい爺ちゃんは、表面はともかく内心では喜べなかった。デッキにまで一杯になっていた民間人の何人かが、激しい操船のために海中に投げ出され、ほとんどは救助したが、少女が一人見つからなかったのだ。

 この少女は宝塚歌劇団志望で、その音楽学校に入ることを夢見ていた。

 しかし、ひいお爺ちゃんは知っていた。
 

 宝塚音楽学校は昭和十九年から、無期限で募集を停止していたことを。

 でも、そのことは言わなかった。

 過酷な日本までの航海、少しでも夢があった方が元気でいられるからだ。

 昭和二十年になって乗組員の移動があった。

 そしてなんという偶然だろう。

 新任の機関長は商船学校あがりの中尉で、その妹が、あの宝塚少女だった。

 しかし、触雷して沈没するまで、機関長に少女について話すことは無かった。

 触雷で、機関長を含む半分の乗組員が亡くなり、衝撃で海に投げ出されたひい爺ちゃんは生き残った。

 戦後、ひい爺ちゃんは戦時中のことは、ほとんど語らなかった。

 咲月は小学校入学以来のAKPファンで、咲月に目のないひい爺ちゃんも、いっしょにAKPのファンになってくれた。

 咲月は、そんなひい爺ちゃんが大好きだった。

「AKPは宝塚に似てるなあ……どうだ、咲月もオーディション受けてみないか」

 そう言い始めたころ、ひい爺ちゃんはめっきり衰え始めた。

「咲月は、あの南の海で行方知らずになった女の子と同じ目をしている。咲月は向いているよ」

 けして、ひい爺ちゃんのためと言うようなことではなく、自分の乏しい才能を言い当てられたような気がして嬉しかった。

 遅まきながら、咲月は歌とダンスのレッスンに通いだした。

 なんとか、ひい爺ちゃんが生きている間にオーディションに通りたかったのだ。

 そして、勉強そっちのけでレッスンした結果、オーディションは落ちて学校の成績も悪くなった。

「オーディション受かったよ!」

 ひい爺ちゃんには、そう言っておいた。

「そうか……よかったな」

 ひいお爺ちゃんは、その言葉に頷いて亡くなっていった。

 学校のみんなは、身の丈に合わない夢を追いかけて落第したダメな咲月としか見て居なかった。

 栞に話し終えて、少し気持ちが楽になったような顔になったが、まだ芯からのわだかまりは解けない顔の咲月である。

「もう少し話していたいけど、鐘が鳴るわ。明日また話、いい?」

「う、うん……」

 放課後に話しても良かったのだが、咲月のとんがったところが少し丸くなって話をした方がいいと思う栞だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする