大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・215『仏蘭西波止場・5・勝利の朝』

2021-06-01 09:40:51 | 小説

魔法少女マヂカ・215

『仏蘭西波止場・5・勝利の朝』語り手:マヂカ     

 

 

 ウ~~~~~~~~ン

 

 両目を渦巻き模様にしてフラフラと出てきたのはJS西郷だ。

「お前が入っていたのか!?」

「ああ……うん……そうなんだけどね……」

 そこまで言うのがやっとで、JS西郷は、パタリと仰向けに倒れてしまう。

「このガキはなんだ?」

 ブリンダはJS西郷とは面識がない。

 しかし、少女が悪者をやっつけるのはカンザスのドロシーで慣れているので、敵対心は無いようだ。

「時々世話になってる。西郷さんのお使いをやっている子で、JS西郷と、わたしは呼んでいる」

「JS?」

「女子小学生」

「なるほど、黄帽に赤のランドセル。これで、赤いラメ入り靴を履いていたらドロシーの日本版だな」

「おい、しっかりしろJS西郷」

「触っちゃラメ……いまから巻き戻るから……」

 ダメと言われても、ひっくり返っているJSを投げ出すわけにもいかない「大丈夫、マヂカが付いているぞ!」と励ます。ブリンダも膝をついて心配そうにJS西郷の顔を覗き込む。

 

 ブーーーーーーーン!

 

 洗濯機の逆廻しのように目玉の渦巻き模様が逆回転!

 ウワアアアアアアアアアアア!

 凄い勢いで周囲の景色が旋回する。

 JS西郷と、彼女を抱っこしている自分の体だけがジッとしていて、景色だけがマッハの速度で旋回するので、すぐそばにいるブリンダも横方向に回って、周囲の景色に溶け込んでしまい、壮大な縞模様の渦の真ん中にいるような感じになる。

 プシュ~~~~~~

 空気が抜けるような音がしたかと思うと、ゆっくりと旋回が落ち着いていき、やがて、ゴトンと音がして、完全に停止した。

「ああ、やっと落ち着いたあ……」

 人心地ついたJS西郷だけど、感覚が戻りきらないのか、視線は上空を向いたままだ。

「おい、マヂカ、コスがリペアされてるぞ」

「え、あ、ほんとだ」

 ビリビリに破れてしまい、令和の時代に戻らなければスペアが無いので、どうしようかと思っていたところだ。

「ブリンダのコスも……横浜の街も戻っているぞ」

 横浜の街は、震災でボロボロになっていたところに、魔法少女と上陸妖軍の激突が起こって、まるで、48年後に原爆を落とされたようになったみたいに破壊されつくした。それが、巻き戻しによって、震災後の姿にまで戻っている。

 

「西郷さんにね『儂は上野公園を出るわけには行かないから、代わりに行っておくれ』って頼まれて、大仏の首を買ったアメリカ人の記者も『役に立つんなら、権利を放棄するよ』って承諾してくれて、神田明神の巫女さんが『このお守りを持って行って』て、これを預かって……」

 そう言うと、JS西郷は首にかかった紐をスルスルと抜き出した。

「なんだ、ドッグタグか?」

「これだよ」

「ああ、お守りだ」

「おお、アミュレットか……なるほど、これが渦巻きになっているからトルネードのようになったんだな!」

 神田明神の紋は、俗にナメクジ巴と言われる、尻尾の長い三つ巴。御利益と思っても……いや、きっとご利益なんだ。以前、日光街道を行った時もそうだったが、神田明神は人に力を貸して陰ながら支えるというのがスタンスなのかもしれない。

「うまくいったようね」

「西郷さんや神田明神のお蔭でもあるんだろうが、JS西郷、おまえが名乗り上げてくれなかったら、もっと苦戦していたはずだよ。ありがとうな」

「あはは、照れるなア(^_^;)」

「さて、どうやって帰るかだぞ……」

「え?」

 空を飛べば簡単なことだと思ったけど、どうも魔力を使い果たしてしまったようで、その気になっても体は一ミリも浮き上がらない。それに、役目を果たした後とはいえ、大仏の首をそのままにしてはいけない。

「魔法少女のまま電車に乗るわけにもいかないしな」

「あ、そうだな……エイ」

 パチンと指を鳴らしてみる。コス解除……する力も残っていない。

 魔法少女のコスは、セーラームーン以来、膝上と言うよりは股下何センチと言った方がいいようなミニスカだ。

 大正12年の電車に乗れば奇異の目で見られるだけでは済まない、きっと警察に通報されて逮捕されてしまう。

「あ、あれはどうですか?」

 JS西郷が指差した保税倉庫の瓦礫からコーヒー豆を入れる茶色の麻袋が覗いている。

「ドンゴロスの麻袋か……背に腹は代えられんな」

 ブリンダは、器用に首と手を通す名を開けると、スッポリと被って、腰の所をベルトで締めた。

「あ、かっこいいかも!」

 JS西郷は面白がって、同じようにドンゴロスのワンピースにして上から被った。

 ひとりでは恥ずかしいけど、三人揃ってやってみると様にならないこともない。

「問題は、大仏の首……」

 

 三人で腕を組んでいると、海岸通りを陸軍のトラックがやってきた。

 

「おーい、迎えに来たよ!」

 一個分隊の兵隊に混じって乗っていたのは、ノンコと霧子だ。

「師団長閣下が神田明神のお告げを聞いたとおっしゃって、トラックを派遣してくださったの。こちらが隊長の石原少佐です」

「石原です。これが、大仏の首ですな。おい、回収作業急げ!」

 部下に指示すると、お弁当を出してくれる。口をへの字にしてきかん坊のガキ大将のような顔だが、数百年生きている魔法少女の感覚では、ちょっと面白い男に見えた。

「隊長さん、ひょっとしてフルネームは石原莞爾とおっしゃるのでは?」

「いかにも、石原莞爾ですが、どこかでお会いしましたかな?」

「あ……そんな気がしたものですから」

 なんとも間抜けな答えをしたんだけど、石原少佐は、意外に優しい笑顔になって「そうですか」と応えて、大仏回収の指揮を執った。

 帰りは、トラックの荷台に乗せてもらった。

 兵隊さんたちから「コーヒーの匂いがする」と言われて、ちょっとドギマギ。

 出発すると、入れ違いに仏蘭西波止場に瓦礫を捨てに来たトラックたちとすれ違う。

 横浜は、震災復興の新しい朝を迎えていた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  •  

 

 

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ライトノベルベスト『僕のユリイカ』

2021-06-01 06:28:22 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『僕のユリイカ』 


 

 アルキメデスは、その原理を発見したとき、こう叫んだそうだ……。

 ユリイカ!

 ユリイカとはギリシャ語で「分かった!」「解けた!」てな意味で、検索しても、必ずアルキメデスの例えが出てくるように、感動を伴った発見、あるいは啓示の瞬間の気持ちを表している。だから訳によっては、こうだ。

 ユーレカ!

 うん、こっちの方が喜びに溢れている。明日、いや明日は休みだ、明後日も。でもいいや。その分、ユーレカ! と、みんなの前で叫んだときの喜び、感激、恍惚感が大きくなるというものだ。なにしろ僕は分かったんだから!

 しかし、ユーレカでは「幽霊か!?」とも取られかねない。なんと言っても都立S高校、偏差値こそ65もあるけど、一皮剥けば、ただ暗記力だけが良いだけの標準的なバカだ、教師も生徒も、S高出身の元大臣にしろ、海上自衛隊の艦船が日常的に、火器管制レーダーの照射を受けていたことを知りながら、国民にはいっさい知らせなかった臆病なオッサン。オレだったら、いまのユリイカの気分で世界中に教えちゃう。その都度C国は、軍部独走だから、記者に言われて初めて気づき、そのたんびに、報道官の目が泳いで、世界の笑い者。わっからねえだろうな、このユリイカの気分を味わっていないんだから。

 学年で、いや、S高一のかわいいエッチャンも、目にアニメみたくたくさんの星きらめかせ、尊敬と愛情の籠もった目で、オレの、いや、僕のこと見つめるんだろうなあ……そして、今まで、僕の才能や寛容な心に気づかなかった自分を責めるんだろうなあ。

 でも、心の広い僕は許すんだ。

「僕は、愛するS高校のために、あえて寅さんみたいな三枚目をやっていたのさ。だからエッチャンが気づかなかったって、決して自分を責めるんじゃないんだよ。エッチャンが中学のときAKBを受けて、落ちたことも、僕は知っている。でも気にすることなんか無い! AKBは一山いくらのアイドルだ。知っているかい。あそこは、あんまり美人で、歌や踊りのうまい子は取らないんだ。クラスで四番目くらいの子をとるんだよ。君は、少しネガティブだ。わずかな欠点ばかり気になっちゃう。欠点なんて、別の角度から見れば才能なんだよ。秋元くんも言っていた『アイドルの条件は根拠のない自信』だって。笑っちゃうね。君や僕の自信には、ちゃんと根拠と才能があるんだよ」

 いつもなら、商店街の裏道をコソコソいくんだけど、今日の僕はユリイカだ。堂々と商店街の真ん中を歩く。いつもは重く感じたコンビニの上の塾。もう、気にもならないね。せいぜい、いい大学に入りたいだけのバカに毛が生えたようなやつばっか。

 アハハ、才能だね。無意識にバカとバッカをかけた。

 来年ノーベル賞なんかとったらどうしよう!? 

 あの3LDKじゃ、取材の記者なんか入りきらない……そうだ、市民会館の大ホールを借りちゃおう。いや、どうぞ使ってくださいって、市長が頭を下げにくるね。で、上目遣いに、こいつに次の市長の座を奪われたらどうしようって心配なんかしちゃうんだよね。

「大丈夫、市長さん。僕が被選挙権を得るにはまだまだ間がありますよ。それに失礼だが、そんな心配は要らないよ。岸田君、君こそ、その椅子取られないように気を付けなさいよと言う。僕が? いえいえ、これからゾクゾクと現れる、僕の弟子達だよ、アハハハ」

 なんで、吠えるんだよジョン!?

 そうか、僕のユリイカに恐れを成したのかい。ハハ、大丈夫、僕は動物はかわいがるからね。市民、国民だってみんなかわいがっちゃうからね!

 だって、僕は、ユリイカなんだからね。

「ただいま、かあちゃん、あなたはユリイカの母です。昭二、おまえはユリイカの弟だ。え、スルメイカの煮付け? そうじゃなくってさ……」

「で、昭一、おまえ何が閃いてユリイカなんだい?」

「え、あ、それは……」

 僕とアルキメデスの、ほんの僅かな差は、閃いたことを覚えているかどうかだけなんだと思った。

 いいじゃんか、閃いた感動はちゃんとあるんだからさ! 文句ある!?

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コッペリア・10『喋るんだ……動けるんだ……』

2021-06-01 06:09:33 | 小説6

・10 

『喋るんだ……動けるんだ……』 




「なんで……喋るんだ……動けるんだ……」

 そう聞くのが精いっぱいだった。

 なんせ、硬質・軟質ビニールとポリカーボネートでできた等身大のドールが人間のように動き、喋っているのである。

「だって、あたし栞やねんもん」

 答えにならない返事が返ってきた。

 でも颯太は叫んで逃げ出すこともなく、いらだつものの対等に喋っている。

「落ち着いてねフウくん。あたしはフウくんの妹なの。分かる?」

「わ、分からないよ!」

「だって、そうなんだもん(^▽^)」

「こんなこともあるんだ……」

「まったく……ね(n*´ω`*n)」

 困り果てた颯太は大家と不動産屋のジイサンを呼んだ。

 二人のジイサンも驚いたが、どこか「さもありなん」という顔をしている。

「こないだも言ったけどさ、前の住人の立風さん、堕ろされた妹さんに呵責があったんだ。言ったろ、高校で落第したときにはじめて堕ろされた妹さんがいたことを知らされたって……定年になって縁もゆかりもない東京の、自分で言うのもなんだけどボロアパートに越してきたってのは、一種の遁世だったと思うんだ。で、ここからは想像だよ……立風さんは、なあ……」

 大家は不動産屋に振った。

「妹さんを、その……復元してやろうと思ったんじゃねえかな」

「それが、志半ばで死んじゃった。立風先生の想いだろうね、同姓同名のあんたが越してきた……」

「立風先生は、あんたに託したんだよ……そんな気がする」

「フウくんは、お兄ちゃんとちゃうのん……?」

 栞は、寂しそうな声で言った。

 表情が絵具で書いた微笑んだ顔のままなので、余計に寂しさが身に染みる。

 気づくと雨音がする。

 開け放った窓から雨粒が吹き込んでくる。

 季節が冬から春に変わるのに怯えているような氷雨だった。

 栞は雨の意味が分からず、窓辺によって空を見上げ、吹き込む雨が頬濡らすに任せた。

「冷たい……」

「……分かった、オレが兄ちゃんになってやる!」

 颯太は、窓を閉めると、雨音が鎮まるように言った。

「ほんま? ほんまにほんま!?」

「ああ、顔を描いて命を吹き込んだのはボクだ。世話してやろうじゃないか」

 颯太には、こういうところがある。

 先の見通しも無く引き受けたり決心したり。ま、そのために本採用の可能性が低い美術の教師の道も諦めずにいられるのだが。

 それから祝杯になった。

 

 歳に似合わず行動的な不動産屋が傘をさしてコンビニに走って缶ビールとおつまみを買ってきた。

「栞ちゃん、景気づけだ、ビールをコップに注いでくれないかな」

「はい!」

 栞は、缶ビールからコップに注いだが、うまく注げずに大半をフローリングの上にこぼしてしまった。

「あわわわ、拭かなきゃ、拭かなきゃ!」

 大家の慌てた言葉に栞は、こぼれたビールを吹いて、フローリングに広げてしまった。

「あ、そうじゃない(^_^;)」

「え、ええ?」

 どうやら、栞は、言葉と行動が赤ん坊のように一致しないようだった……。

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