大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:189『屋島の戦い・1・奇襲』

2021-06-03 08:49:48 | 小説5

かの世界この世界:189

『屋島の戦い・1・奇襲』語り手:テル   

 

 

 目の前の情景は現実ではない。

 

 義経軍は未明の高松の町に火を放ちつつ屋島へ殺到しようとしている。

 瀬戸内海対岸、兵庫県の一の谷から逃げて四国の屋島に籠った平家は、海の方角だけを警戒していた。

 まさか、背中を向けていた高松の方から攻めてくるとは思ってもいない。

 まして、昨夜来の嵐は、明け方になって、ようやく静まり始めたところで、一の谷から船を出して追ってきたとしても、到着は昼過ぎになるだろうと平家は踏んでいる。

 それが、もう背中に匕首(あいくち)を突き付ける勢いで迫ってきているのだ。

 火を背景に迫って来る軍勢は、実際よりも多く見えるし、狂暴に感じる。

 一の谷でも、海を警戒していたら背後の鵯越(ひよどりごえ)の崖の上から襲い掛かられ、ほうほうの態で屋島に逃げてきたのだ。その大敗北の記憶が、火を背景に迫って来る軍勢を、ことさら大きく見せている。

「げ、源氏の軍勢だあ!」

 平家の軍勢は、ほとんど手向かいすることもなく、蟻のように海に逃れ、海に張り出した天然の要害・屋島は易々と義経の手に落ちた。

 

「鮮やかな勝ちっぷりだ!」

 

 ヒルデが大感激のあまり、ブルブルと身を震わせている。

 横目で、チラリと覗うと、突然の恋に落ちたように頬を染め、目を潤ませている。

「姫以外に、あのような戦いができる武人がいたのですね、それも、こんな遥か極東の地に……」

 タングニョ-ストも信じられないという顔をして、ヒルデの後ろに控えている。

「義経をブァルキリアの戦士に、いや、一方の将軍に迎えたい!」

「わたしも同感です!」

 主従の意見が感動と共に一致して、昼のチャイムと共に学食のランチの列を目指す三年生のように地を蹴った。

「待って! あれは幻だから!」

「グ、幻!?」

 呼び止めると、つんのめりながら振り返り、止めたわたしを敵のように睨んでくる。

「あれはね、イザナギさんの国造りがうまくいけば、千年ほど先に見られる戦いなんだ。いわばPV、予告編だ」

「よ、予告編か」

「せめて、大将・義経の顔を拝みたいもにですねえ」

 タングニョ-ストも歴戦の軍人らしく残念がる。

「義経てのは、反っ歯の小男で(^▽^)/……」

 ケイトがバラしそうになる。

「なにを、デタラメなことを(^_^;)」

「ちょ、なんで……フガフガ……」

 口を塞いでひっくり返してやる。

「なんで、そんなことを知って……」

「小学校のころ『マンガ日本の歴史』で……」

「そうか、でも、夢を壊すな!」

「う、うん」

「そうか、わたしが作ろうとしている国は、そういう英雄が大活躍する偉大な国なのだな……心してかからなければな」

 イザナギさんが神妙な顔になって、帯と太刀の緒を締め直して、キリリとした。  

 さすがに国生みの神、キリっとすると中々のもので、大河ドラマの主役のように見える。

 

 グウウウウウ

 

 と、思ったら、派手にお腹が鳴って、締めたばかりの帯と太刀の緒がずり下がって、ポッコリとお腹を出してしまう。

 ま、まあ、愛すべき神さまと理解しておこう(^_^;)。

「そう言えば、朝食もまだだった。このあたりは、讃岐うどんが美味しいはずだな……」

 日本神話の英雄は、再び帯と太刀の緒を揺すりあげると、彼方を窺いながら鼻をクンクンさせた。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

 

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ライトノベルベスト『となりのアノコ・2』

2021-06-03 05:44:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『となりのアノコ・2』  

 


  

 呼吸も脈拍も停まっていた。

 つまり、病院についた時点でアノコは死んでいた。

「なんとかならないんですか!?」

 ボクは緊急外来のドクターに詰め寄った。だって、ほんの20分前には元気に話していたからだ。

「ほんとうかい? この子はどう見ても一時間前には死んでいる。もう顎に硬直が始まりかけている。きみこそ、いったい……」

 ドクターやナースの咎め立てるような視線が集まった。

「悪いが、警察に連絡するよ。キミは、ここを動かないで、いいね。森田さん、お願いします」

 屈強なガードマンが、ボクの横に貼り付いた。

 8分ほどで警察がやってきた。

「ちゃんと、確かめてから通報してくださいよ」

「はあ、すみません(-_-;)」

 文句を言っているのがお巡りさん。謝っているのがドクターだ。

 なんと、お巡りさんが着いた頃には、アノコは息を吹き返し、元に戻っていたのだ。

「申し訳ありません、あたし、時々こんなになっちゃうんです。こんなにひどいのは初めてですけど」

 申し訳なさそうに、アノコが言った。

「ありがとう明君。びっくりしたでしょ、この子の持病なの。100万人に一人ぐらいなの突発性乖離病っていうんだけどね。近頃は出ないんで、あたしも主人も油断していて」

 そのあとに、パート先から駆け付けたお母さんが謝りながら説明してくれた。アノコは念のために一晩入院した。

 念のためというのは、アノコのためではなく、病院のメンツのためだということは、ボクにも分かった。突発性乖離病なんて、こんな病院で治せるわけもないし、大学病院でもないので、病理研究のために泊まるわけでもないから。

 明くる日、学校に提出するレポートを書いていると、窓ガラスがコツンと音をたてた。なんだろうと思っていると、また、コツンと音。どうやら、誰かが小指の先ほどの小石を、窓ガラスに投げている。

 ソロリと窓を開けると、前の道路にアノコがニコニコと立っている。

――あたしんちに来て――

 身振りと口パクでボクを呼んだ。

「もう、大丈夫なの?」

 アノコのあとに続きながら聞いた。

「大丈夫。ごめんね、迷惑かけて。ちょっとお願いがあるんだ」

 そう言って部屋を開けるとびっくりした。昨日あんなにあった油絵やデッサンがどこにもない。一瞬違う部屋に通されたのかと思った。

「昨日と同じ、あたしの部屋よ」

「でも……」

「あれは擬装なの。明君に信じてもらうための」

 アノコは、笑顔で、でも真剣な目で、ボクの目を見つめた……。

「これは、ほとんど賭なんだけど、明君をアナライジングして出した結論。明君は人への思いやりもあるし、昨日救急車を呼んでくれたように臨機応変で、秘密を守れる人」

「なんだよ、あらたまって?」

「あたしが宇宙人だって言ったらビックリする?」

 これが、オチャラケタ顔や、真面目すぎる顔なら、なんかの冗談かとも思える。だけど、昨日のこと、そして、昨日とはうって変わった彼女の部屋。絵やデッサンはかたづけられるとしても、部屋に染みついた匂いや、空気まで変えるのは無理だろう。ボクは、間の抜けた真剣さで答えた。

「そりゃ、ビックリするよ……」

 

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コッペリア・12『栞のトンデモ人間修行・1』

2021-06-03 05:34:17 | 小説6

・12 

『栞のトンデモ人間修行・1』 




 栞の人間修行が始まった。

 家の中でのことは一通り覚えた。産業用ロボットのように一度覚えさせると学習して、状況に合わせて速度や行動に変化させることもできる。

 立ち居振る舞いは、AKPの矢藤萌絵そっくり。部屋に居っぱなしだと颯太の立ち居振る舞いになってしまうので、動画サイトで矢藤萌絵のステージやら、メイキングなどを見せておいたので、萌絵の形になってきた。颯太は寝不足である。

「お花摘みって、なに?」

 これには、颯太も困った。お花摘みが「トイレに行く」の女子の隠語であることは知っていたが、教えることには抵抗があった。

 開き直った。

 どういうわけか、颯太と同じ神楽坂高校に四月から通うことにもなっている。一通りのことは教えてやらなければならない。学校でなにかあっても、学校では、ただの講師と生徒だ。手出しができない。

「ええ……だから、これが便器だ。蓋が二つあるけど、栞は女の子だから、上の蓋だけを上げる。で、後ろ向きになって……」

「……後ろ向きになって?」

 颯太は赤い顔をになりながら続けた。

「ええ……パンツを膝まで下ろす。ああ、その前にスカートたくし上げて……そうそう。スカートが便器に触れないように座る」

 硬質と軟質のビニール、それに関節はポリカーボネイトの、いかにも人形らしいボデイーでも、動作は人間そのもの。その先の説明に困る。

「座って、どうするの?」

「いま栞はドールだ、だけど外に出ると、どうやら人間らしい。人間と言うものは食べたものを出さなきゃならない」

「えー、せっかく食べたのに?」

「食べたものが、栄養になって消化吸収されて、そのカスを出さなきゃ、お腹がパンパンになってしまう。だから人間は、そうするの!」

 栞のお腹の中で、タプンタプンと音がした。人形ではあるが食べるものは食べている。栞はしごく真っ当なドールとして作られているので、下半身の構造が造形されていない。

「へたに飲み食いさせちゃったからな……」

「あ……出てきそうになってきた」

 気づくと、股間に縦に窪みが出来始めていた。颯太は慌ててトイレの外に出た。

「出るもん出たら、横のボタンを押す!」

「栞の服、横にボタン無い」

「服じゃなくて、便座の横(;'∀')!」

 大汗をかいて颯太は、トイレの使用法を教え、栞は涼しい顔をして出てきた。

「どうして、そんなに汗かいてんの?」

「汗かきなんだよ、ボクは!」

 それから颯太は考えた。トイレに行くということは、男にはない構造が他にもあるのかもしれない。颯太はネットで検索して、栞に見せた。熱心に見ていた栞は、やおら立ち上がり、スカートをたくし上げる。

「実況見分は、トイレでやってくれ!」

「じゃまくさいな」

 栞は、それでも探求心の方が強く、さっさとトイレに行った。

「あれ無いよ」

 男の一人暮らしに『アレ』など有るはずも無く、やむなく隣のセラちゃんに借りにいかせた。

 と、なんだか廊下で盛り上がっている。心配になった颯太は、廊下に出てみた。

「ハハ、フウくんの昔ばなしいろいろ聞いちゃった。なかなかできた妹さんだ」

 セラちゃんは「妹」を強調して言った。完全に誤解している。

「それに、なんだかAKPの萌絵に似てるわね」

 トイレに関わることで、これだけの苦労。外での人間らしい行動を教えなければならないかと思うと気が重くなった。

「とりあえずネットで調べられることは調べとけ」

 颯太は、寝不足解消のため、布団に潜り込んだ。

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