大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・210『お祖母ちゃんの話』

2021-06-08 09:24:05 | ノベル

・210

『お祖母ちゃんの話』頼子    

 

 

 オリンピックをやって欲しい!

 

 賛成派が反対派を追い越したのは三日前の世論調査。

 マスコミと野党は、相変わらず『反対』を叫んでいる。

 どうするんだろう、野党もマスコミも。

 オリンピックが成功裏に終わったら、日本国民は野党もマスコミも見放してしまうと思う。

 野党第一党は支持率5%に落ちてるし、マスコミは、テレビも新聞も軒並みの赤字。

 かと言って、わたしは与党支持でもない。

 お祖母ちゃんとドッコイドッコイの年齢の幹事長が「内閣不信任案が出たら、ただちに解散総選挙!」と野良猫の親分のように息巻いている。

 衆議院の解散は総理大臣の専権事項だということを、いい年をした老幹事長が知らないはずはない。

 もう、歳なんだろに。ネコの首に鈴をつける者も与党にはいない。

 

 普通の女子高生なら、こんな政治的な感想は持ったりしないでしょう。

 

 わたしは、日本国籍を選択しない限り、選挙権も被選挙権もない。

 だけど、父方の国籍を取ることに傾斜し始めている現在、政治的なことにも知識と関心を持っていなければならない。

『君臨するためには、知識と関心は必須!』

 お祖母ちゃんの御託宣。

 

 お祖母ちゃんは、エリザベス女王の大ファンだ。

 単にファンと言うだけではなく、人生の大先輩として尊敬している。

 実際、イギリスの王室は親類。

 お祖母ちゃんが、わたしくらいの歳にはイギリスに留学していて、エリザベス女王からは、実の妹のように可愛がられていた。

 エリザベス女王の娘のアン王女からは、逆に姉のように慕われて、この二人はいまでも実の姉妹のよう。

 

 こんなエピソードがある。

 

「聞いてよマリア(お祖母ちゃんのファーストネーム)議会が、わたしのお小遣いを減らすって言うのよ!」

 ある晩、アン王女が鼻息を荒くして、お祖母ちゃんの寄宿舎にやってきた。

 当時のイギリスは、アメリカにはとっくに引き離され、日本とドイツが、イギリスの上にのし上がろうとしていた1960年代。経費削減は王室も例外ではない。

「ママ、なんとかしてよ!?」

 アン王女は、最初にエリザベス女王に泣きついた。

「もう、大人なんだから、自分でなんとかしなさい」

 と、ニベもないので、王女は総理大臣に掛け合うけど、ノラリクラリと躱されてしまう。

「ハロルドなんて、チャーチルに比べたら屁みたいなものじゃない。その、ハロルドにもいいようにあしらわれて!」

「総理大臣が、王女のアンに?」

「こっちからダウニング街の官邸に行ったのよ、アポなしでね」

「アポなしで、ドアをノックしたの? あんたもやるう」

「ううん、いくらなんでも。直前に電話を入れたわ。すると、『来月ならお会い出来ますが……』と、やんわり断られた」

「でしょうね、普通の応対だわ」

「だからね、『官邸の前の公衆電話から掛けてるの、いま、夕食終わってくつろいでいるところでしょ。三十分でいいから会ってちょうだい』とかましたの。ハロルドのスケジュールは把握してたから」

「やるわね」

「それで、十五分で手を打って会えることになったんだけどね……居間に通されて、ソファーを勧められて、腰を下ろしたの」

「ブーブークッションでも仕掛けられてた?」

「それ以上よ」

「ん、なに!?」

「わたしが座ってから、ハロルドは、自分の椅子に腰かける。するとね……」

「すると?」

「パリって音がしたの」

「パリ? ロンドンなのに?」

「もう、茶化さないでよ。パリっていったのはハロルドのズボン」

「え、それって?」

「見事にお尻が破れてしまって、水玉のパンツが丸見え」

「プ(#´艸`#)」

「『これは、みっともないところを……なんせ、首相の給与も削減で小遣いも減らされまして、いやはや、年内いっぱいは、このズボンでいけると思ったんですが……』って」

「アハハハ」

「それで、『もうしわけりません、部屋着は一張羅でして、ズボンの修理をしながらのお話で構いませんでしょうか?』って言いながらズボンを脱ぐのよ! 大英帝国の総理大臣が!」

「アハハ、ああ、可笑しい((´∀`))」

「それで、マリア、あなたに相談に来たわけよ」

「なるほど……」

 お祖母ちゃんは、親友のために六法全集を出すと、王室財政に関する条文を光速で読み始めて、三十分後には解決法を編み出した!

「いいこと、マリア、くれぐれも、わたしのアイデアだって言わないでよね。バレたら国際問題になって、イギリスとヤマセンブルグの友好にひびが入るからね」

「うん、アンとマリアの友情に掛けて!」

 この時の誓いを、二人は『アンマリの誓い』って名付けて、二年前に情報公開されるまで秘密にしていた。

 お祖母ちゃんのアイデアで、アン王女がやったのはね、自分の自動車のボディーに広告を出すこと!

 ボンネットとドアにデカデカと○○カンパニーとかの広告が載るのよ。

 むろん、車のナンバーは王室のそれだし、イギリス王室の小旗をはためかしているし、効果は満点で、翌月には議会で、王女経費の増額が爆笑と共に認められたって。

 

 えと……

 

 他の話を、自分に関することを話そうと思ったんだけど。

 またにします。

 コロナも終焉が近くなってきて、これからは、ちょっと楽しいことも考えましょう。

 テルテル坊主の効果はてきめんで、このところ「梅雨はどこに行ったんだ?」って晴天続き。

 今日は、午後からワクチン注射をしてもらいます。

 ほんとうは、学校の集団接種でやりたいんだけど、仕方がありません。

 

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ライトノベルベスト・『美荘所高校演劇部の二転三転②』

2021-06-08 06:18:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『美荘所高校演劇部の二転三転②』 




「制度が悪いのよ」

 カッパこと共産民生(ともうぶたみお)は他人事のように言ってのけた。

「だって、もう連盟加盟の申請は終わってしまってるんですよ!」

 珍しく大人しい兼業部員の朱里が色をなした。

「制度が悪いなんて五文字の熟語じゃ納得できません。説明してください」
 
 志保里は冷静に質問した。

「問題は二つ。第一に加盟費を同時に入金しなきゃ加盟を認めないという連盟の姿勢。第二は、振込の領収書が無ければ、加盟費の出費を認めないという美荘所(びしょうじょ)生徒会の会計の仕組み」

「そんなの昔からです。だから、前野先生は自腹で払ってくださって、あとで会計に清算してもらっていました」

「公私の区別を曖昧にしたダメなやり方ね。あたしは、そういうことはやらないの」

「そ、そういうのって、官僚的教条主義って、言うんですよね」

「矛盾や不合理は正さなきゃいけないわ。学校のためにも、あなたたちのためにも。ま、連盟に加盟しなくてもクラブが潰れるわけじゃないでしょ」
 
 カッパは、これでおしまいというふうにパッツンボブの頭を旋回させて机に向かった。

「僭越ですが、先生のお考えは予想がついていましたので、あたしが加盟費を肩代わりして入金しておきました。もう 美荘所の加盟は済んでます」

「ちょっと待ってよ。加盟費の納入は学校名と顧問名でやらなきゃならないはずよ。あなた、あたしの名前を騙ったのね!?」

 どこまでも屁理屈を通すカッパは、志保里が自分の名前を騙ったことを問題にして、加盟費の返還を連盟に求めた。

「そこまでやるか……」

 朱里が諦め声で呟いた。連盟は一度納入された加盟費を返さなかった。これに対し、カッパは連盟からの脱退を一方的にやった。

「あくまで、社会正義を通すため。悪く思わないでね」

 カッパは、ほくそ笑みつつ言い放った。

「共産先生は、演劇部を潰して、もう一つ顧問をしておられる文芸部に専念されたいんですね」

「誤解しないで、あたしは学校と連盟の決まり通りやったの。で、矛盾があったから入金しなかった、それを、あなたがあたしの名前を詐称して入金した。これは、法的にも違法です。反省しなさい!」

「しません」

「なんですって!」

「しませんが、演劇部はたたみます。そして、あたしは文芸部に入ります」

「え、ええ!?」

 朱里とカッパが同時に驚いた。

 かくて美荘所高校の演劇部は潰れ、文芸部の部員が一人増えた。

「先生、与謝野晶子をやってみたいんですけど。とっかかりに『君死にたまふことなかれ』からかかってみたいと思います」

「評論ね、いいわ、書けたら、あたしに見せて」

 志保里は、教科書通りの反戦詩人としての与謝野晶子と弟のことを克明に調べ、カッパに提出した。

「素晴らしいわ、うん、よくできている。このままクラブのブログに載せて!」

 志保里の評論は、一部の教師から絶賛され、党の青年部のブログにも紹介され、カッパは鼻高々だった。

 志保里は、予定通り与謝野晶子を掘り下げた。タイトルは『与謝野晶子のみだれ髪を整える』というものであった。のっけに、こんな詩から始まる。

 我等は陛下の赤子、

 唯だ陛下の尊を知り、

 唯だ陛下の徳を学び、

 唯だ陛下の御心に集まる。

 陛下は地上の太陽、

 唯だ光もて被ひ給ふ、

 唯だ育み給ふ、

 唯だ我等と共に笑み給ふ。


 他にも与謝野晶子の詩には、天皇や日中戦争を賛美した詩が多くある。その変節振りは教科書には書いていない。カッパは、まさかそんなことを書くとは思っていなかったので、志保里の好きなようにブログに書かせていた。

 志保里は、いろんなところから、いろんな意味で注目された。

「次回は、与謝野晶子とバナナの関係について書きたいと思います」

 カッパは、拝み倒して志保里に文芸部を辞めてもらった。

 あくる年、志保里は準備万端、半年がかりで顧問を探し演劇部を復活させた。意気揚々と新顧問に連盟加盟を確認した。新顧問は、こう言った。

「すまん、今年度になって、高校演劇連盟は加盟校の想定外の減少で解散してしまった!」

 世の中は志保里の予想を超えて変化しつつあった……。

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コッペリア・17『桜の木になろう』

2021-06-08 06:00:36 | 小説6

・17 

『桜の木になろう』 




 

「桜の標本木を見に行く!」

 テレビで開花したことを知って、栞が叫んだときは、標本木のある靖国神社はもう閉門時間だった。

「じゃ、明日の朝一番!」

「やれやれ……」

 颯太はため息をついた。

 栞は、驚異的な速度で聞くもの目につくものを吸収し、わずかずつではあるが人間関係も広がってきた。国務大臣のA夫人や、その孫の竜一は、もうお友だちのカテゴリーである。近所の中華料理屋来々軒の飼い猫悟空とも友だちだ。もっとも猫が相手なので、今のところ「ニャー」と猫語で挨拶する程度だが。

 大家と不動産屋に連絡すると、いっしょに見に行くと意外の返事。年寄りとはいえ江戸っ子、朝一の靖国に桜だけを見に行くということに「粋」を感じたようだ。

 颯太は、正直迷惑だった。

 朝ゆっくりできるのは今月いっぱいで、四月に仕事が始まると大好きな朝寝ができなくなる。

 地下鉄の駅を降りて九段坂を武道館を左に見ながら登っていく。さすがに人気はまばらだったが、栞の四人組は颯太を除いて意気揚々だった。

「朝の九段もいいもんだね!」

 大家が喜び、不動産屋が相槌をうつ。もっとも不動産屋は趣味のカメラの調整と試し撮りに余念がない。

 大鳥居をくぐると、まだ内苑の開門に少し時間がある。

「ん、あいつら何してんだ?」

 内苑の門の前で、若者四人がなにやらもめている。よく見ると一人は神楽坂高校の制服を着ているではないか。

「あ、あの子!?」

 栞が一番に気が付いた。その子は神楽坂高校の正門前で見かけた、あの表情の暗い女子高生だった。

「あ、あの人たち!」

「あいつら!」

 五十メートルほどに近づいて初めて分かった。

 三人の片言の日本語と流ちょうなC国語で怒鳴りあい、手には白や赤のスプレー缶を持っている。どうやら門扉や門柱に落書きしようとしているC国の若者三人を、神楽坂の女子高生が必死で押しとどめようとしている様子だ。

 栞が先頭を切り、そのあとをジイサン二人と低血圧の颯太が追いかけている。

「不動産屋さん、写真撮っといて!」

 そう叫ぶと、栞はもめている四人の中に入り、あっというまに、C国の若者三人をのしてしまった。

 騒ぎを聞きつけて、守衛のオジサンたちが駆けつけ、すぐに警察に通報。さすがは靖国なのか警視庁なのか二分ほどでパトカーが二台やってきて、三人の青年たちを連行していった。

「あなた、スプレーかけられちゃったのね!」

 神楽坂の少女は、あちこちスプレーをかけられ、制服も髪も台無しだった。

「あたし…あたし……」

 あとは嗚咽になって聞き取れなかった。

 靖国神社の神主さんや巫女さんたちが、少女に感心すると同時に、そのスプレーでグチャグチャになった様子を見て、スプレー塗料を丹念にとってからシャンプーをしてくれて、巫女さんが自分たちの私服の中から、身に合うものを見繕って着せてくれた。

 暖かいお茶をふるまってもらうと、やっと口を開いた。

「……ありがとうございます。わたし神楽坂高校の水分咲月(みくまりさつき)です」

「こんなに朝早くから、お参り?」

 栞は優しく聞いた。

「今日は、ひいおじいちゃんの亡くなった日なんです」

「……軍人さんだったの?」

「駆潜艇咲月の艇長をやっていました……」

「咲月……ちょっと待ってくださいよ」

 神主さんは、パソコンを叩いて駆潜艇咲月のことを調べてくれた。

「昭和二十年三月二十四日、触雷で沈んでいますな……艇長水分良蔵大尉。これがひいおじい様ですか」

「はい……」

「咲月というのは、船の名前をとったんですか……」

「はい……」

 咲月が話したのはそこまでだった。栞は咲月の心を読むこともできたが、四月からは同じ神楽坂の生徒だ、彼女が心を開くまでは待っていようと思った。

「ここには600本のソメイヨシノがあります。これが標本木で……」

 神主さんは、丁寧に説明してくれた。

「ひいお爺ちゃんは、この桜の木に……花びらになったのかな」

 みんなで見上げた桜は、やっと三分咲きほどだった……。

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