大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・86『シラミ地蔵』

2021-06-28 14:56:21 | ライトノベルセレクト

やく物語・86

『シラミ地蔵』    

 

 

 俊徳丸さん?

 

 ちょっと驚いた。

 俊徳丸っていうのは……いつごろだろう?

 ネットで調べても、室町時代には一般的に知られている。

 太平記でも『弱法師(よろぼうし)』の謡曲で出てくるから、鎌倉? もっと前の平安? 奈良? もっと前?

 とにかく大昔だから、名前も分からない大昔の和服だと思っていた。

 それが、目の前に立っているのは、今風の、どこかの有名私学の男子生徒って感じの制服姿。

 

「アハハ、昔のまんまだったら、みんな目を回すか、通報されるかだからね」

 

「あ……ああ、そうですよね(^_^;)」

 ということは、この俊徳丸さんは、人から見えているんだ。

「うん、姿を消すこともできるんだけどね、普通に溶け込んで道を歩くのには見えていた方がいいんだよ」

「そうなんですか?」

「姿を消していても、霊感の強い人には見えることもあるんだ。ビックリさせたり、事故の原因になったりするからね。普通に見えるようにしている」

「そうなんだ……あ、わたし小泉やくもです。初めまして。あ、イコカありがとうございました」

「どういたしまして、僕の方からお願いしたことだから。ま、とりあえず自己紹介を兼ねて会っておこうということで、よろしく」

「あ……」

 握手の手を伸ばしてきたので、ちょっとたじろぐ。

「あ、そうだ。コロナだったよね(^_^;)」

 菅さんとジョンソン首相みたく、肘をくっつけ合って挨拶する。

「ハハハ、これって、やっぱ、笑っちゃいますね」

「だね。ぼくはコロナなんて関係ないんだけどね。まあ、なにごとも世間に倣っておいて間違いはないよ」

「えと……これが、シラミ地蔵さんなんですよね?」

 カギ型の角の祠を指さす。

「うん、そうだよ」

「意外にきれい……あ、ごめんなさい」

「地元の人たちがきれいにしてくれてるからね……ひょっとして、虱の地蔵だと思った?」

「え、あ、いえ……」

「アハハ、そうか((´∀`))。もしかしたら、虫刺されの薬とかもってきた?」

「え、いや、そんなあ( ´艸`)」

 言いながらポシェットを背中に隠すんだから意味がない。

「『シラミ』っていうのはね、ぼくが四天王寺で乞食をしていたころね。ぼくは、四天王寺には泊まらないで、歩いて高安まで帰っていたんだ」

「通いの乞食さんだったんですか?」

「うん。四天王寺さんは優しいお寺でね。僕たちみたいな乞食が泊まり込んでも、追い出されたりはしないんだけどね。やっぱり、ぼくは高安の人間だし、たとえ住む家を失っても夜になったら帰らなくっちゃって思ってね」

「乙姫さんが、いたからですか?」

「アハハ、それもあるかなあ」

 笑うとかわいい。きっと、乙姫さんだけではなく、ファンが多かったんだろうね。

「それで、夜に四天王寺をたつと、ちょうど明け方に、このあたりに着くんだよ。すると、高安山の向こうから日が昇ってきて、このあたりがほのかに白み始めてね……」

「え?」

「だから、このあたりで白み始めて。それが、とても素敵だから。ね……」

「それで『シラミ地蔵』?」

「うん」

 アハ アハハハハハハ……

 悪いけど笑っちゃう。

 アハハハハハハハハハ……

 すると俊徳丸さんもいっしょになって笑ってしまって。

 いつのまにか、ご近所のお年寄りも集まってきて、いっしょにワハハと笑ってしまう。

「いやあ、俊くん。今日は彼女といっしょなんか(^▽^)/」

「アハハ、まあ、そんなとこです」

「あんた、イケメンやさかいなあ」

「まあ、アメチャンでも食べえなあ」

 アメチャンを二個ずつもらった。

「どうも、いつもありがとう。でも、ちょっと、彼女連れていきたいとこがあるんで、失礼します。ごめんね」

「ああ、そうかいな」

「ええなあ、若いもんは」

「あは、どうも」

「どうも」

 って、どこに行くんだろう?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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誤訳怪訳日本の神話・47『これは決定事項です!』

2021-06-28 08:43:01 | 評論

訳日本の神話・47
『これは決定事項です!』  

 

 

「さ、オオクニヌシは引退させたわ。さっさと、中つ国を治めていらっしゃい!」

 アマテラスは、改めて長男のアメノオシホミミに命じます。

 

「…………………」

 

「なによ、その沈黙は?」

「勘弁してよ……ぼくは、この高天原から出たくないよ……」

「んだと!?」

「こ、怖ええ」

「こ、ここまで来んのに、どれだけ人と時間を使ったのか! どれだけ、この母が気をもんだか! 分かってんのか! てめえええええええ!!! それでも、アマテラスの息子かあああああ!!!!」

「ヒ、なんか、叔父さんのスサノオみたいだよ(;'∀')」

「そのスサノオに勝ったのが、このあたしだよ! 母さんだよ! スサノオがやってきた時も、母さんはね、鎧兜に身を固めて、高天原の軍勢を引き連れて、体張って守ったのよ!」

「で、でも、結局は、叔父さんにメチャクチャにされたじゃん!」

「身内だからよ! あんただって、最初に『中つ国に行け』って言って断ったときは認めてやったでしょーが! あたしはね、基本、優しい女なの! 太陽神で、母性の象徴で、豊穣の女神で、何事も、平和的にやっていこーというのが、コンセプトなの! だけど、だっけど……仏の顔も三度だぞおおお!」

「魔、ママは神さまだ」

「いま、魔って打ったな?」

「へ、変換ミス」

「心の底で思ってるから出るんでしょーが! オシホミミ、憶えてるぅ? スサノオが高天原を追い出された時のこと……」

「え、ええと……(;゚Д゚)」

「髭と髪をむしって、シバキ倒して、爪を剥いで……」

「ヒイイイイイイイ」

「いま。思うと、あそこもちょん切ってやればよかった。そうすれば、オオクニヌシなんてのも生まれてこなかったんだし」

「アヒャヒャヒャ(;゚Д゚)……」

「おまえは、どうしてやろうかねえ……」

 アマテラスの目が座ってきます。

「あ、あの……ぼくには、子どもがいるんです!」

 

「な、なんだって……( ゚Д゚)」

 

「タカムスヒの神の娘のヨロヅハタトヨアキツシヒメとの間の子でアメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギノミコトって可愛い男の子なんです( #´∀`# )」

「アメニギ……?」

「アメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギノミコトです(^▽^)/!」

「ジュゲムか」

「アメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギノミコト!」

「ニニギにしとけ!」

「ハ、ハヒ……ね、だから、お母さん、いえ、ニニギのお祖母ちゃん(^_^;)」

「お祖母ちゃん、言うな!」

「ハ、ハヒ……だから、ね、ニニギはまだ小さいし、カミさんも仕事しながら子育てしたいって言うし……」

「……………」

「か、母さん……?」

「分かったわ」

「わ、分かってくれた!? ああ、やっぱ、持つべきものは母さんだ(#*∇*#)!」

 

「中つ国には、そのニニギノミコトを送ることにする!」

「そ、そんな……」

「問答無用! これは決定事項です!」

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ライトノベルベスト『61式・6』

2021-06-28 06:18:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『61式・6』   




 手際よくパラシュートをたたみ、ジャンプスーツを脱ぐと素敵なオネエサンが現れた。

「ジャンプスーツの下だったんで、あんまりフォーマルな格好でなくてすみません」

 茜色のミニワンピ。ヘルメットを取ると、ブルネットの髪がこぼれるように溢れ出た。仕上げにゴーグルを外すとそこには、あらかじめ知らされていなければ、とても74式(74年生まれの40歳)には見えないハツラツとした笑顔が咲いている。

「蟹江幸子です。こんな席は初めてなもんで、どうぞよろしく。西住陸曹長」

 幸子さんが、握手の手を出した。啓子伯母さんがスカートの裾当たりに注意を喚起した。

「あら、やだ。着慣れないもの着てきたから……」

 ミニのワンピの裾がジャンプスーツのために数センチめくれ揚がり、右後ろの太ももが露わになっていた。同性のあたしがみても、それは健康的にセクシーでいけていた(^_^;)。

「自分こそ、こんな場に慣れておりませんので、官服で失礼します。西住平和陸曹長です」

 文句でも言ったらどうしようかと思ったんだけど、硬いながらもまっとうな挨拶をしてくれたので一安心した。

「すごいですね、ご主人には聞いていたけど、立派な61式ですね」

 つづく言葉は期せずして、お父さんへの間接的な誉め言葉になった。

「レプリカで細部に微妙な違いはありますが、お義父さんが丹精こめられましたので、ほぼ本物です」

「頑丈な装甲、強い大口径の主砲、そして速力。戦車は、この矛盾した三つの要素を兼ね備えなくちゃならない、無骨なわりに難しい兵器ですものね。この61式は、第一世代の戦車としては出色の出来ですね。初期加速(加速性能0-200mまで)が25秒。これは第三世代の現役戦車にも引けを取りませんものね」

「ええ、訓練時でも、坂を下ってくる61式には気を付けろと、普通科では言われたものです」

「それが実戦に一度も使われずに全車退役。素敵なことですね。あたしは戦場カメラマンでしたから、何両も破壊され擱座した戦車を見てきましたが、こうやって無事に退役した戦車を見るとホッとします……あ、レプリカでしたよね。アハハ、あたしってなに感傷に耽ってるんだろ」

「いやあ、そこまで戦場を見てこられたあなたに思って頂けたら、戦車屋の冥利に尽きますなあ」

 お祖父ちゃんが嬉しくなってきた。

「蟹江さんは、なぜ、こんな……」

 さすがにお父さんも言い淀んだ。

「見合いをする気になったか。寄りにも寄って、こんなロートルと……ですか?」

「はい」

「啓子さんのご主人に言われたんです。戦場カメラマンとしても先輩ですけど、人生経験では、もっと先輩。猪田さん、こうおっしゃったんです……」

「あの人がなんて?」

「君はなんのために戦場カメラマンをやってるんだって」

「あたしが、あの人に聞いてやりたいわ」

「あたしは、こう答えました『世界には、こんなところがあるんだ。それを知ってもらうため』って。すると、猪田さんは、こうおっしゃいました『キザに言えば人類のためだね』 あたしは素直に頷きました」

「あの人らしいわね……」

「そのあとの言葉にガツンときたんです『それなら、君には他にやれることがある。それもそろそろ限界。ボクはとっくにダメにしてしまったけど』って」

「あの人が、そんなことを……」

 あたしは、ピンと来た。伯父さんは取材中の怪我が元で、子どもが作れない体になっていた。いろんなやり方で人工授精も試してみたが、うまくいかないまま伯母さんが妊娠には危険な年齢になってしまった。養子も考えたが、伯母さんは、やっぱり伯父さんとの間に生まれてくる子を望んだ。それを踏まえて、後輩の74式の英子さんに忠告したのだ。

「分かりました。お義兄さんの気持ち、幸子さんの気持ち。でも、一つ聞いて良いですか?」

「はい?」

「どうして相手が、自分だったのですか?」

「それは、猪田さんの薦めがあったこと。まず人物について説明を受けました。そして、お写真を見せていただきました。それで、この人ならOKと50%思いました」

「で、現物見てどうだった!?」

 啓子伯母ちゃんが身を乗り出した。

「思った通りの方です。そして、決定打は……」

 幸子さんは、あたしに目を向けた!

「こんなにいいお嬢さんをお育てになって、あたしにとっての、何よりの確証です!」

 幸子さんは、大きな笑顔をあたしに向けると、いきなりハグしてきた。

 こうして、61式のお父さんと、74式の幸子さんは結ばれました。

 で、この話にはオマケがついています。

 なんと、アリバイであったはずのあたしと、武藤先輩の婚姻届も同時に受理されてしまったこと。なにかのミスか故意か。ま、どっちにしろあたしたちも異存はありませんでした。

 ただし、世間への公表と実質的な結婚生活は、あたしが卒業してからという条件付きではありましたが……。

 61式 完 

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コッペリア・37『ケセラセラ・2』

2021-06-28 05:53:18 | 小説6

・37

『ケセラセラ・2』  



 瀬楽さんは、それからずっとセラとして生きてきた。

 割り切れはしなかったけど、真央の幸せのためには、これもいいと思った。

 一年後、セラさんは海外まで行って本当の女になった。セラさんはローゼン、そしてメイゼンも掛け持ちし、両方の店の看板になった。

 かなり……と言っていい稼ぎがあったが、このボロアパートに住んでいる。

 男を捨てたことに、一人っ子として両親への呵責があったのだ。

 瀬楽の家を身代限りにした詫びに、毎月かなりの仕送りを送っている。また、将来若さを失った時のためにお金も貯めていた。マスコミからの引きも当然あった。なんせ若いころのはるな愛を超えるぐらいの美しさと明るさ。そして時折見せる陰。それが魅力になり、望めばセラの生活はさらに豊かになったはずである。

 うまく説明はできないが、セラは、それを望まなかった。

「夕べ、お店がはねてから、ママの知り合いのクラブに行ったの。店のオーナーの喜寿のお祝いにね……」

 言葉で語りもしないのに、栞にはちゃんと伝わっている。それを不思議にも思わないでセラは続けた。

「偶然だけど、田神俊一が来ていた……普通のクラブだったから、女の子と間違えたのよね……話のはずみで田神はスマホを出してマチウケを見せてくれた『家内と娘なんだ』それは……真央じゃなかった。あたしカマをかけてやったの『田神さんて、初婚じゃないでしょ』 あっさり認めた。性格の不一致で最初の嫁さんとは一年で別れたって……」

「そんな……」

「え、どういうことよ!? って思った。むろんおくびにも出さずにニコニコしてたけどね。でもアパートに帰って一人になったら最悪で、このザマ」

「真央さんのことは……」

「今日お店に行く前に調べておこうと思って。むろんあたしがするんじゃないわよ。探偵さんに頼むつもり……なんだけどね」

「……怖いんですね」

「お見通しね……ね、背中に一発ドンとかましてくれない。栞ちゃんから勢いもらったら前に進めるかもしれない」

 栞は、後ろ向きになったセラさんの背中を両の掌でドンとした。

 学校は、結局昼から行った。というか、気づいたら学校に居た。

 セラさんのことを考え、自分の至らなさを実感した。セラさんの苦悩どころか、セラさんがニューハーフであることも気づかなかった。

 栞は人の心が読めると思っていたが、本人が心の奥にしまい込んでいることは分からないことを実感した。

「え、どういうことよ!」

 六時間目のホームルームで、思わず叫んでしまった。

 ミッチャン(担任)が、とんでもないことを言ったからだ。

「明日から、二年生は一クラス増えます。そのために二年生はクラス編成をやり直します。明日下足室に新しい学級編成表貼っておくから、新しい教室にいくこと」

「え、なんで!?」

「みんなのためです。学校の教員配当が一人増えたんで、より少ない人数でクラスができるようになりました。机の中のものは出しておくようにね!」

 ミッチャンは分かりやすい人だ。

 四月の下旬にクラス替えをやるなんて、なんのプラスにならないことを分かっていた。

 分かって、それでも言っている……。

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