大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 81『カメラ小僧のチュウボウ』

2022-07-01 14:36:27 | ノベル2

ら 信長転生記

81『カメラ小僧のチュウボウ』信長 

 

 

「中坊ってのは勘弁してくださいよ」

 カメラ小僧は、親し気な口を利く。シイ(市)は……どうやら嫌いなタイプのようで、早くもソッポを向いている。

 気が付かなかったが、このカメラ小僧、茶姫に甘えた挨拶をしながら、視野の端にシイを捉えて値踏みしたようだ。

「チュウボウというのは、おまえの字(あざな)ではないか。それとも、もっと幼いころのケンちゃんがいいか?」

「アハハ、かなわないなあ、チャ-ねえさんは」

 チャーねえさん? 茶姫は末っ子のはずだが?

「あれは、呉王孫策さまの弟君の孫権さまだ」

 さっき見張りに出ていた近衛騎士が、馬を寄せて教えてくれる。

 ほかの兵たちも知っているようで、河原の士卒たちに、いっそう和やかな空気が漂う。

「これは、腰を据えた大休止になりそうだ」

 近衛騎士は、兜を脱ぎながら水辺に向かう。水辺では、他の騎士たちも馬を下りて、頭から水を被ったり馬に水を飲ませたりしている。

 みんな、茶姫とカメラ小僧の和やかさから、自然に大休止になっている。

 兵が、茶姫の呼吸をよく承知している自然さだ。

「フフ、昔のあんたなら、青筋立ててるね」

「俺も、転生してから、いろいろ勉強したからな」

「じゃ、今度リアルに戻ったら、違うタイプの信長になってみる?」

「俺は俺のやり方だ」

「で、しょうね……あ、茶姫が呼んでるよ」

 

 検品長の部下が、早くも幔幕を張って本陣を設営したようだ。俺たちと同じ時に幕下に加わったのに、もう阿吽の呼吸だ。織田家の家臣もヒケはとらないが、俺流の緊張感があってこそだ。それを茶姫は、さほど厳しくしないにもかかわらず成し遂げている。三国志の士卒の気風なのか、茶姫の持ち味なのか、なかなか面白い。

「え、じゃあ、紳士協定結んじゃったんですか?」

「ん……淑女協定かな?」

「ああ、ですよね。うちのコウちゃん、蜀の諸葛茶孔明、それにチャーねえさん。タイプは違うけど、みんな凄いオネエサンたちですよね。天下三分の計! なんか語呂もいいし! きっとうまく行きますよ」

「ああ、そうあって欲しいものだ」

「こちらは、新しい近衛騎兵さんですか?」

「ああ、豊盃で仕官してくれた。職姉妹だ。鋭い目をしている方が姉のニイ少佐、つぶらな瞳だが目力のあるのはニイに負けないシイ少尉だ」

「職ニイだ」

「職シイです」

「よろしく、孫策の弟の孫権です。チャーねえさんとは、小さいころからの知り合いで、よく遊んでいただきました」

「国同士で行き来があったのですか?」

「ボクは、子どもの頃から、あちこち馬で走って写真を撮るのが趣味でしてね。領内のあちこち周っては写真ばかり撮って、そのついでに、山とか長江の周辺で遊んでました。チャーねえさんも、この川辺に来ては偵察していて、お互いの存在に気付いてからは、よく遊んでもらいました」

「ここは、魏と呉の国境なのか?」

「緩衝地帯かな……秋の大水で、しょっちゅう流域が変わるんで、川の両岸一里の所属は決めていないんだ」

「ひょっとして、三分の計の元ネタは、この河原?」

「いいや、考えたのは孔明だ、三国互いに疑心暗鬼の末に、これしかないと……」

「えらいなあ、話し合いで決めてしまうって」

「おまえにもできるさ」

「そうですか?」

「ああ、おまえの字(あざな)のチュウボウは仲謀だ、仲良く謀(はかりごと)をしようと書くじゃないか」

「あ、ひどいなあ」

「あははは」

「チャーねえさんの騎馬隊も評判なんだよ、装備を一新して鉄砲隊にしたって、孫策にいさんも興味津々でさ『孫権、ひとつ行って、自分の目で見てこい』って」

「あ、やっぱり、スパイだ」

「ちがうちがう、堂々と写真撮ってたし」

「薮に隠れてな」

「あれは、ねえさんの自然な姿を撮りたかったから。わざと、ポーズとった写真なんて撮りたくないからね」

「わたしの写真なんて、これまで、さんざん撮ったじゃないか……そうだ、職姉妹の写真を撮ってやれ。おい、検品長!」

『はい、これに』

「わ!?」

 すぐ後ろの幔幕から声がして、シイが跳び上がった。

「さすがはニイ少佐、気づいていたか」

「いささか、しかし、そういうものを持っていたとは思わなかったぞ(-_-;)」

「え、ええ!?」

 シイがビックリしたのは検品長が差し出したものだ。

 ニヤニヤ目尻を下げる茶姫と孫権。

 検品長の手に乗っているものは、ビキニとスク水だ!

「ぼく、シイ少尉には……スク水着て欲しいかなあ(≧▽≦)」

 ドドドドド

 あまりの恥ずかしさに、シイの心臓の音が高まった?

 

 敵襲!

 

 妹の心臓ではなかった、見張りの兵の叫び声が、河原に響いたのだ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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漆黒のブリュンヒルデQ・042『宇都宮の八幡山』

2022-07-01 06:22:44 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

042『宇都宮の八幡山』 

 

 

 
 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!

 心地よい振動をお尻に感じて滑り降りる! 頬を嬲る春風も爽やかに、クニっと曲がったと思ったら水平に戻って終わりが近い。スカートが乱れないように裾を押えて着地!

 ヤッターー!

 体操選手のフィニッシュみたいな決めポーズ!

 ここは…………宇都宮の八幡山公園だ。振り返ると、いま滑り降りてきた全長58メートルのロングローラー滑り台。

 横に、同じ長さの普通の滑り台があるけど、断然こっちが面白い。

 ポンポンとお尻をはたくと感触が違う。

 そうか……煙の柱を通って『八幡』を頼りに移動すると姿形が変わるようだ。意識を飛ばして三人称視点で自分の姿を確認する。

 目鼻立ちは武笠ひるでだけど、ちょっと幼い。セミロングの前髪を七三に分けて、七の方に赤いヘアピンを着けている。ジャンパースカートの下のブラウスは袖をまくり上げて、清楚七部にお転婆三部という感じ。

 生徒手帳を出すと『戸田忠子』とある……ポケットを探るとスマホはおろか携帯も持っていない。財布を開けると、入っている千円札は伊藤博文だ。

 お札を見たところで、戸田忠子に関することが全て分かった。放課後に鞄も持たずに八幡山公園に来た理由も。

 忠子というのは面白みのない名前。発音してもタダコで、ほんとにタダの子だ。

 女子の名前には必ず『子』を付けなければならないのが我が家の決まり。『忠』の字もご先祖から伝わっている由緒ある字で、親類は、たいてい『忠』とか『政』の字が付いている。

 いつもは『ターコ』と呼ばれる。これもタコじみてやなんだけど、忠子と呼ばれるよりはね。

 
 ターコ!

 
 陽気な学生服が階段を駆け上がってきた。

「おっそーーい!」

「ごめんごめん、終礼が延びちまって。さ、いこうか」

 日活映画のアベックのようになってしまって、照れたのか周囲の目を気にしたのか、さっさと宇都宮タワーの方に歩き出す。

 こいつは森穣一(もりじょういち)、去年同じクラスだった『進め青春!』を地で行ってるような男子。ちょっと相談にのって欲しいというので、放課後の八幡山で待ち合わせていた。

 携帯が無い時代なので、滑り台とかで遊んで待っているほか無かった。

「お、鞄持ってきてないのか?」

「用事が済んだら学校戻るもん」

「そか……遅くなるようなら送っていくよ」

「遅くならないようにして。図書室に寄りたかったんだから」

「ああ、ごめんごめん」

 
 ヤクタイもないことを言いながら、目的地に着く。

 
「なんだか、東京タワーのミニチュアだなあ」

「ああ、宇都宮をバカにしてるぞ」

 宇都宮タワーは、高さが80メートルほどで、規模的には東京タワーの1/4ほどでしかない。でも、宇都宮の街の規模や、八幡山のロケーションから見ると、程よい大きさだ。

「オレも好きだぞ。チッコイけど山の上で明るく胸張ってるとこなんかターコと同じだ」

「どーせ、わたしは148センチだよ!」

「怒るな怒るな、言ったろ、オレは好きだって」

「え、え?」

 ちょっと混乱。

 でも、エレベーターに乗ってしまったので展望台に着くまで、お互い無言になった。

 狭いエレベーター、他に三人も乗ってきたので、穣一と胸がくっ付きそうな近さで立っている。日向くさい男の匂いなんかさせるなよな。

「俺、一学期いっぱいで転校するんだ」

 展望台の窓に張り付きそうにして切り出した。

「あ、そうなんだ」

「びっくりしないのか?」

「まあ、元気にやりなさいよ」

「お、おお」

「で、どこに引っ越すの。いちおう、礼儀で聞いておく」

「東京、世田谷で豪徳寺ってとこ」

「え、お寺に越すの?」

「ばか、地名だよ」

「アハハ、そうなんだ。穣一が坊主頭になってるとこ想像しちゃった」

「す、すんな」

「もうちょっと前来いよ。眺めいいぞ」

「やだ」

「高所恐怖症?」

「じゃないけど、ドキドキするじゃん」

「そっか、オレもドキドキしてる」

「こういうの、卑怯だと思う」

「そっか……」

「………………」

「お……おれな」

 あ……この先を言わせちゃダメなんだ。

「ここから見える地平線は、日本一なんだよ」

「え、あ、そ、そうなのか?」

 穣一の心は尻餅をついた。可哀そうだけど、起き上がらせてはいけない。

「240度のパノラマ地平線は、ここでしか見られないんだよ」

「う、うん」

「穣一もさ、もっと高いとこから地平線見なきゃ。地平線の向こうには、もっと違う景色もあるよ。三組の酒井さんとかさ」

「え、酒井?」

「うん……ああ、あと三十分で図書室閉まる! わたし、帰るね!」

「お、おい」 

 
 穣一を残して、ちょうど上がってきたエレベーターに飛び乗る。

 
 これでいいんだ。酒井さんと穣一は八年後に結婚して女の子が生まれるんだ。沙織という名前になって『魔法少女マヂカ』という国民的アニメのヒロインの声をやることになるんだ。このヒロインの声は『ひるで』のわたしも好きだしね。ひるでがお婆ちゃんと観る数少ないテレビ番組だしね。

 教室に戻って、鞄を持ち上げると猫のマスコットが付いていた。

 チリン

 指で弾くとテヘっと舌を出した。

 姿を見ないと思ったら、こいつがねね子だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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