鳴かぬなら 信長転生記
敵襲!
見張りの叫びに河原の兵たちは色めき立つ!
茶姫も水着の上から甲冑を身に着け、太刀を佩いて、検品長が差し出した銃を構えた。
その間、たったの10秒。
緩むのも早いが、締まって戦闘態勢に入るのも早い。
「鎧脱いで逃げるのなら、あんたの勝ちだけどね」
一瞬で分かる。シイ(市)は、越前金ケ崎のことを言っているんだ。
浅井の裏切りにあって、越前で朝倉との挟み撃ちになると、妹の市は両口を縛った小豆袋で知らせてきた。
瞬間で――袋のネズミ――と悟った俺は、5秒で甲冑を脱いで単騎で金ケ崎を逃げ出した。
浅井朝倉の包囲が完成する前に、琵琶湖の西を都目指して駆けだした。
我ながら見事な逃げっぷりで、浅井朝倉の連合軍が陣形を整えた時には、金ケ崎に残ったのは殿軍のサルの部隊だけだ。
サルも空城の計(金ケ崎城に赤々と灯をともして籠城と見せかけて、さっさと逃げ出す。元は孔明のアイデアだけどな)によって、一晩朝倉軍を釘づけにして、からくも脱出に成功した。
戦国史上最高、100点満点の退却戦を成功させたんだが、市は気に入らない。
市は自分の知らせで、辛うじて60点ぐらいで間に合うというシュチエーションを期待していたんだ。織田軍の半分くらいは擦り減って、俺も逃げる途中にヘゲヘゲになって、恐怖でヨダレやらウンコ漏らして、みっともなく逃げ戻ることを期待していたんだ。
浅井を滅ぼして、娘三人と共に救出してやったとき、市は、こう言いやがった。
「サルは嫌いだけど、金ケ崎の時のサルだけは同情したわよ。成功したからいいようなもんだけど、あの状況じゃ、サルは普通討ち死にして首取られてるわよ! あんた、サルを使い捨てにするつもりだった!」
市でなきゃあ、その場で切ってたぞ。
いや、本当は、一発張り倒そうかとは思った。
だけどな、お前にしがみ付いて震えていた三人の姫、茶々・お初・お江の姿、特に茶々は小さいころの市に似ていてた。サルも「まずは、御休息のほどを!」って、俺が手を挙げる寸前にかましやがる。そんな、サルの気の利きようにも、おまえ、ムカってしていたよな。
で「敵襲」だが、馬蹄の響きはたかだか十数騎だ。威力偵察というのにも心もとない。
対岸に砂煙があがる様子もない、地元の地侍級が挨拶にでも来たか?
違った。
従者の持つ旗印に、さすがの俺も、ちょっと驚いたぞ。
それは、酉盃や豊盃の街で傍若無人に振舞い、茶姫の命令で、とっくに洛陽に帰っているはずの曹素だったのだ。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん