大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・18『螺子先輩のメンテナンス・3』

2022-07-21 10:13:04 | 小説6

高校部     

18『螺子先輩のメンテナンス・3』 

 

 

 これでも食べて待っていよう。

 

 マスターは焼き立てのラウゲンプレッツェルと自分のコーヒーカップを持ってきて、ボクの横に腰を下ろした。

「売れ筋じゃないけど、このプレーンなのが本来のラウゲンプレッツェル。焼き立ては、こっちの方が美味しいと思うよ」

「いただきます」

 知恵の輪がくっ付いたようなラウゲンプレッツェルは、バリエーションが多くて、僕もお八つ用に買っていく。

 プレーンも買ったことがあるけど、僕も祖父もバニラとかシュガーとか日本人用にアレンジした方が口に合っているようで、数回買っただけだ。

「……あ、別物ですね!」

 香ばしさと、ほのかな甘さが新鮮だ。

「うん、熱いうちは、これが一番。工夫次第では、冷めても変わらない味にはできるんだけどね。ちょっと柔らかくなりすぎて、逆に焼き立ての風味は損なわれるんだ」

「奥が深いんですね……あ思い出した。焼く前にラウゲンプレッツェルに塗っているの、ラウゲンて言いませんでした?   あ、さっき先輩に塗ったのも?」

「うん、そうだよ」

「螺子先輩ってラウゲンプレッツェルと同じなんですか?」

「ハハ、別物だよ。ラウゲン液は、ただの苛性ソーダ液だからね。使い方が似てるんで、昔から、そう言ってるんだ」

「ここの本業は、どっちなんですか?」

 マスターは、少し考えてから別の話をし始めた。

「要の街に捕虜収容所があったのは知っているかい?」

「え、まあ……」

 要の街には、第二次大戦中に捕虜収容所があって、そこで捕虜虐待があったとかで、戦後B・C級の戦犯になった人が居る。小学校でも中学校でも習った要市の黒歴史だ。

「その顔は、第二次大戦の方しか習ってない?」

「え?」

「百年ちょっと前に、第一次大戦があって、捕虜収容所はそのころからのものなんだ」

「そうなんですか?」

「第一次大戦はドイツとの戦争でね、収容されていたのはドイツ人ばかり。捕虜の扱いは、国際法に則った模範的なものでね、街の中を散歩も出来たし、ドイツ語やドイツ音楽や油絵とかを市民に教えていた捕虜もいた」

「え、そうなんですか」

「日本がちゃんとやったことは、あまり教えないからね。中には、この街が気に入って、終戦と同時に除隊したり帰国してから日本に戻ってきて、街に住み着いたドイツ兵も居たんだ。ボクのご先祖とか、螺子くんを作ったロベルト・グナイ・ゼーエン博士とかね」

「ええ、そうだったんですか!」

「二人とも日本人のお嫁さんをもらって、それから百年以上たってしまって今に至っているというわけさ」

「いやあ、知らなかったです!」

「僕は、もう五代目だから、ドイツの血は……1/32かな。もう完全に日本人だけどね、カミさんはハーフだから、ちょっとドイツが戻って来るかなあ。要の大晦日に駅前で第九の大合唱やるでしょ、あれって、ドイツ人捕虜が……」

 マスターは、僕の知らない要と、ドイツの関係と昔話をたくさんしてくれた。

 

「そんなに話されたんじゃ、螺子の楽しみが無くなってしまうわ」

 

 ビックリして振り返ると、螺子先輩が元気な笑顔で立っている。

「あ、直ったんですね!?」

「うん、ギュンター先生のメンテもよかったし、新しいラウゲン液も合ってたみたいだし、当分、大丈夫よ」

「よかったよかった!」

「イルネさんも、マスターもありがとうございました」

「体温計見せて」

 イルネさんが手を出すと、先輩は腋の下から古い水銀体温計を取り出した。

「う~ん、まだ42度ある。やっぱり、平熱に戻るまでは服着ない方がよかったわね」

「裸でもよかったんだけど、それじゃ、鋲くんに嫌われそうだったから……もうちょっと冷ましてから出ます」

「そうした方がいいわね、いま、ジンジャエール作ってあげるから」

「すみません、ジョッキでください」

「うん、大ジョッキにしとくわ」

「あ、イルネ、僕たちも」

「あら、ジンジャエールでいいの?」

「むろん、ビールで」

 マスターとイルネさんはビール、僕たちはジンジャエールで、ドイツのビール祭りのようになってきた。

「螺子ちゃん、鋲くんには、きちんと話しておいた方がいいよ」

「そうですね、リフレッシュもしたことだし、明日からは『螺子を裸にするツアー』とかやりましょうか」

「なんか、ネーミングが(^_^;)」

「アハ、ごめんなさいね、こういう性分なものなんで」

 学校の(現在の)制服を着ている時は清楚で言葉遣いもお嬢様風なのに、根っこのところはちっとも変わらない。

「でも、先輩。言葉遣いとか仕草とかは、ぜんぜん変わるんですね」

「そうねぇ、わたしってお人形だから、着るものや持ち物とかで変わるのよ。まあ、見た目で分かると思うから、鋲くん、よろしくお願いします(>◡<)」

 か、可愛い……

 やっぱり、この人の笑顔は反則だ(#*´o`*#)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
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漆黒のブリュンヒルデQ・062『アスクレーピオス・1』

2022-07-21 06:15:12 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

062『アスクレーピオス・1』 

 

 

 
 どうかした?

 置きっぱなしされたバッグを見てため息をつく玉代。

 バッグは祖母のもので、ご近所の友だちから電話があって、いそいそと出かけて、バッグが取り残されているのだ。

 いわゆるマイバッグという奴で、祖母のお手製、お友だちにも評判がいいようで「武笠さん、すてき!」と褒められるものだから、作っては、あちこちに配っている。

 玉代もわたしももらっている。

「傘に武漢ウイルスが付いちょっ」

「え!?」

「人に貸したのが返ってきたみてなんじゃばっ、あちこちに付いちょって、バッグん中にも広がっちょっ」

「あ……なるほど」

 わたしは意識して見ないと見えないが、玉代は普通に見えるみたいだ。

「二日もあればウィルスは死滅すっどん、中んもんを触ったりしたや伝染っ」

「除菌すればいいじゃない」

 目力除菌、姫騎士や神さまならば容易いことだ。

「昨日もやったんじゃ、もう、あちこちに広まっちょっごたって、ちょっとキリが無か感じ」

 東京は連日、新規感染者が百人を超えている。テレビでは第二波の感染ピークがやってくるとか言っている。

 武漢ウイルスは琥珀浄瓶の置き土産だ。

 本体はオキナガさんと艱難辛苦の末に倒したが、眷属である武漢ウイルスは再び猛威を振るいつつある。

「レジ袋が有料になって増えちょっ」

「そうなのか?」

「エコバッグは洗わんしが半分以上なんじゃ、洗うしでも週に一回とかで、意外に汚染されちょっと。お祖おっかんごつ、ち他ん物を入るっしもおっしね」

「この辺りは年寄りも多いし、ちょっと手を打ったほうがいいなあ」

「じゃっどん、どうすっ? わたしは身ん回りん除菌ぐれしかできんじゃ」

「ちょっと調べてみる……」

 めったに使わない携帯端末を取り出す。

「ごっつかスマホ!?」

「ヴァルキリアの主将として戦う時に使うものだ。部下たちは『ヒル電話』と呼んでいた」

「昼にしか使えんの?」

「あ……そういう意味では無くて、ヒルデの電話ということらしい」

「ああ、なんか部下んしたちん愛情を感ずっど」

「ヒポクラテスじゃなくて……ナイチンゲールじゃなくて……こいつだ」

「あ、こん杖見覚えがあっ」

「え、そうなのか?」

 杖は、そいつの看板みたいなものなのだが、あまり人には知られてはいないはずだ。まして日本の神さまである玉代が知っているとは……あ!?

 思い出した、いや、思い当たった。

「「WHOのマーク!」」

 WHOと言えば、あのテドロス。

「でじょうぶ?」

「あ、いや、テドロスとは無関係だ。名前もアスクレーピオスって言うしな」

 そう、名前こそは違うのだが、見てくれは……まあ、次回と言うことで。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・10『あたしのトリップが始まる……』

2022-07-21 05:57:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

10『あたしのトリップが始まる……』


 嫌われているはずだ。少なくとも変な女子だと思われている。

 普通に考えてあり得ないよ、エロゲ大好きな女子高生なんて。


 階段を駆け下りるあたしを呼び止めたのは、先輩の優しさだ。

 ハンカチを買って返すというのは……ま、常識だよね。あたしは返してほしくなんかないけど。

 エロゲ趣味だということを知られてしまった先輩には会いたくないから。

 先輩は、あたしのΣ顔をあまり気にはしていないようだ。だからアキバのマックまでは普通にしていられた。

 でも、祖母ちゃんのことがあったとはいえ、エロゲの受け取りを頼んでしまって、それからは、あたしの評価は変わっているはずだ。

「コンプリートしたら、貸してもらえないかな!」

 先輩の言葉は額面通りには受け取れない。

 ハンカチのことで素直な返事ができない。チョー尖がったΣ顔だった。

 そんなΣ顔と、そのまま別れたら寝覚めが悪い。

 人間というのは、堂本先生みたいな例外はいるけど、人とのかかわりは円満で円滑にしたいもんだ。知り合いやご近所さんに出会ったら、とりあえず笑顔で「こんにちは」とか「おはようございます」とかの社交辞令。けして相手に好意を持っているからじゃないんだ。

 旅行に行ったとする。「まあ、どちらに行ってらしたの?」「ちょっと○○まで」「まあ、それはよかったですね、わたしも行ってみたいわ」「じゃ、今度ごいっしょに」「そーですね、機会がありましたらぜひ」という会話。

 いいところだとも思っていないし、わたしも行ってみたいとも思っていなければ、今度ごいっしょにとも機会があればとも思っていない。

 引っ越しの葉書が来たとする――近所にお越しの節は是非お立ち寄りください――と書いてある。

 真に受けて本当に行ったらヒンシュクものだ。

 トランプ大統領の当選が確実になった時、ヒラリー・クリントンはお祝いの電話をトランプにかけた。

 ヒラリー・クリントンが本気でお祝いしてると思っている人間は世界中に一人もいない。

 だから「コンプリートしたら、貸してもらえないかな」も「番号の交換とか……」もクリントンのお祝い電話なんだ。

 先輩の番号消してしまおうとか思うけど、昨日の今日で消したら失礼だよね。

 お風呂に入っているうちに、これだけのことを思いめぐらす。

 

 歯ブラシ咥えて映った顔は、嫌になるくらいのブスΣ

――テスト近いんだから、夜更かししないで寝るのよ――

 お母さんの言葉に「はーい」と、声だけは素直に返事。

 部屋に戻ると、ベッドに潜り込み、イヤホンを装着。

 イヤホンは枕もとのパソコンに繋がっている。

 お風呂の前にクリックしておいたゲームは長いインストールを完了している。

 メーカーのロゴ、18禁と著作権の注意書き、映像倫理機構の審査済、そしてテーマ曲とともにメニュー画面。

 設定をクリック、難易度はノーマル、サウンドは音声を除いてレベルを60%に。

 あ……

 小さく叫んでしまった。

 主人公の名前は、いつもデフォルトのままにしておくんだけど、今回は、なんと字幕だけじゃなくって、キャラがほんとうに呼んでくれるらしい。人工音声なんだろうけど、これは嬉しい。

 名前を百地美子(ももちみこ)と打ち込んで、あたしのトリップが始まる……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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