大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・321『海の日 お祖父ちゃんと』

2022-07-18 14:14:02 | ノベル

・321

『海の日 お祖父ちゃんと』さくら   

 

 

 え、海の日ぃやったんか!?

 

 たまたま、お祖父ちゃんと二人だけのリビング、新聞読んでたお祖父ちゃんが声を上げる。

 時々、こういうことがある。

 お祖父ちゃんは、二年前に住職の仕事をおっちゃんに譲った。

 テイ兄ちゃんが、なんとか務まるようになってきたし、他所よりは檀家の多いお寺やけど、さすがに三人でやるほどやない。

 膝とかもガタがきて、長時間の正座がきついことも理由の一つ。

 正座は、坊主には必須条件。

「親鸞さんは胡座でお経唱えてたんやけどなあ……」

 と膝をさすりながら言うてた。

「そら、お父さん、親鸞さんの時代は正座の習慣なかったからなあ」

 おっちゃんが笑って、中坊やったうちはビックリした。

「昔は正座せえへんかったん?」

「うん、正座が習慣づいたのは江戸時代やなあ」

「「「え、ほんま!?」」」

 従兄妹同士三人でびっくりしたのも懐かしい思い出。

 昔は、天皇さんや将軍さんの前では、みんな胡座かいてたそうです。

 

 ま、それはおいといて、お祖父ちゃんのスカタン。

 

 やっぱり、檀家周りもせんと、うちで隠居生活してたら曜日感覚とかなくしてしまう。

 ひょっとしたら、ボケのはじまり!?

「まだ、ボケてへんわ!」

「え、なんも言うてへんけど」

「そんな顔してた」

「アハハ……」

「海の日て、ちょっと前までは20日やったやろ」

「え、せやった?」

「そうや、七月は、他に祝日あれへんやろ」

「えと……ほんまや」

 柱のカレンダーを見る。

「ちょっと前やと思うねんけど、七月にも祝日欲しいいうことで祝日になったんや」

「国も、たまにはええことするねえ(^▽^)」

「元々は、祝日やないけど海の記念日いうて昔からあったんや」

「そうなん?」

「明治天皇がな、地方巡行を終えて、初めて船で東京に帰ってきはったんを記念して、戦前につくられた記念日や」

「え、え、せやったらせやったら、天皇さんが初めて飛行機に乗らはった日を『空の日』とか、初めて自動車に乗らはった日ぃを『陸の日』とか増やしたらええのに!」

「天皇さんは祝日請負人とちゃうでえ」

「子どもは賛成すると思うよ」

「たしか、明治天皇は灯台の見回り船に乗って帰って来はったんや。明治の……9年ごろやったかなあ、日本でも主だったとこには灯台ができてな、その灯台を点検したり灯台守の生活必要品とかを届けるための船や。そういう海洋日本を支えてる仕事や人に思いをいたさはったんやなあ」

「へえ、そうなんや」

 あらためてカレンダーを見る。ほんまに、七月で一回だけの祝日が神々しく見えてくる。

 カレンダーの上半分を見ると『アミダさまのお救いは年中無休』と書いてある。

 

「ああ、あっついあっつい~~~~」

 

 檀家さんが見たら「お布施返せえ!」ていいそうなアホな顔、衣の裾をたくし上げてテイ兄ちゃんが返って来る。

 なるほど、うちの仏弟子も年中無休ではありました。

「おつかれさん!」

 キンキンに冷えた麦茶をビールジョッキに入れて持って行ってやるさくらでありした(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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銀河太平記・119『最初の衝突』

2022-07-18 10:32:15 | 小説4

・119

『最初の衝突』心子内親王    

 

 

 え、2グロスですか!?

 

 国際通りを取引のお店に向かっている途中で「2グロス買ってきてぇ(^▽^)/」とメグミさんの連絡。

 グロスというのは12ダースのことで、一箱10個、1ダース120個だから、24ダースで2880個!?

「今日中には帰れないでござる」

 サンパチさんがポーカーフェイスで呟く。

 チルル空港の免税店がメグミさんにお願いしてきたらしい。洛陽号たち巡洋艦を応援するために数千人の漢明国の人たちがやってきて、免税店は急きょ仕入れを増やしているらしい。

「うち、民宿もやってるから一晩泊って行ってください(^▽^)」

 お店のおばさんが親切に行ってくださって「まあ、一泊の沖縄観光と思えば良いではござらんか」と、サンパチさんもノンビリ言うので、おばさんのご厚意に甘えることにした。

 いちばんいいお部屋で、晩御飯もコース料理を出してくださる。

「内親王様だからじゃないですよ。お得意様の大量注文。これくらいは当たり前ですよ」

「あのう、作るところ見学してもいいですか?」

 2880個ものサーターアンダギーが油で揚げられてるのは壮観で美味しそうなので、ついお願いしちゃった。

「そうですか、でも、生地と油の匂いすごいですから、まあ、辛くなったら言ってくださいね」

 人が食べるものなら、なんでもレプリケーターで出来てしまう23世紀。手作りというだけでもすごいのに、何千個という数だから見ごたえがある。

 ジュワ~~!!

 さすがに、人がフライパンで揚げてるわけじゃない。

 戦車の無限軌道を思わせるようなコンベアの上を白いボール状の生地が行進して行って、煮えたぎる油のプールに突撃していく。

 ジュワ~!! ジュワジュワ~!

「ここで二分間揚げます」

 工場長のロボットさんが、おばさんを、ちょっと若くしたような声で説明してくれる。

「合成オイルをスプレーして、パルス波を照射しても同じものが出来るんですけど、見た目が違います。見た目も味の内と、わが社は考えています」

 二分で揚がったサーターアンダギーは再びコンベアに載せられて、送風機のトンネルをくぐっていく。

「ここで、粗熱をとって、あとは自然に常温に戻るのを待って、包装のラインに載せられます」

「トライアスロンのようでござるなあ」

 サンパチさんが感動する。

 付喪神というわけじゃないけど、モノには作った人の念が籠ると思う。

 科学では証明できない、そういうものがあるから、今でも、伝統食品はこういうアナログな作り方をしているし、人気があるんだと思う。

「じつは、この冷却に時間がいちばん長いんです。完全にマシンで冷却すると味が変わってしまいます。本来なら自然冷却なんですが、時間がかかり過ぎて場所も取りますので、半分は送風機に頼ります」

 最後まで見ようと思ったけど、さすがに暑いので、防護服を脱いで休憩室に避難する。

『西之島沖で修理中の洛陽号など五隻を応援するために来島中の漢明人と島民の間で衝突があったもようです……』

 休憩室のモニターが不穏なことを喋り始めた。

「ええ!?」

 モニターは波止場で睨み合う漢明の人たちとカンパニーの人たちが映っている。

 間に入って、身振り手振りを交えながら双方をなだめているのは食堂のお岩さん。奥の方で心配げに氷室社長が背伸びしている。

 いきなり社長が出て行って、まとまらなければ後がないから、みんなが止めてるんだ。

 ブルル

 その時、マナーモードにしていたハンベが着信のシグナル。

 開いてみると、沈痛な面持ちのメグミさんが現れた。

『ココちゃん、すぐに火星に飛んで、島はちょっとヤバいから』

「あ、でも、サーターアンダギーは……」

『そっちの連絡事務所に市役所の人がいるから、PC(パーソナルカー)ごと持ってかえってもらう』

「だったら、わたしでも」

『ココちゃんもモニター見てるんでしょ、ここまで熱くなった人たち、サーターアンダギーみたいには冷めないわ』

「は、はい」

『ココちゃんは内親王なんだから、大事にして!』

「はい、でも……」

『サンパチ、あんたは、このままココちゃんに付いてって! 仔細は順次送るから、頼んだわよ!』

「承知でござる」

「あ、メグミさん……」

 

 プツン

 

 あとはコールしても返ってこない、顔を上げると、サンパチさんがキッパリと言った。

 

「行くしかありません、火星に」

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・059『だるまを転がす少年』

2022-07-18 07:03:27 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

059『だるまを転がす少年』 

 

 

 
 ズシーーーーン(((°д°)))!

 
 突き上げるような地響きで飛び起きた。

 廊下に飛び出ると、お揃いのパジャマを着た玉代も廊下に出ている。

「「地震!?」」

 同時に声をあげたけど、それに応えるように、もう一度きた。

 
 ズシーーーーン(((°皿°)))!

 
「地震じゃなかね」

 衝撃は一回だけで、地震なら続いて来るはずの揺れがやってこない。

 階下で休んでいる祖父母が慌てている様子もない。

「外に出てみよ」

「うん」

 一階に降りると、さらに何事もなく、薄くドアを開けて祖父母の寝室を窺うと、二人とも穏やかに寝息を立てている。

 
 ズシーーーーーン!

 
 三度目を聞いたのは、武笠家のささやかな門扉を開けたところだ。

 ねね子もカーディガンをひっかけて出てきている。

「ねね子も聞こえているんだな!?」

「うん、昔もあったニャ、人には聞こえない地響きが!」

「裏次元か?」

「分からニャイ、ねね子は、自分では裏次元は覗けないニャ。でも、関東大震災の直前とかだったから、よく覚えているニャ!」

「おいは、裏次元に行けっじゃ」

「わたしらも行ける?」

「うん、行ってみっか?」

「「うん」」

 玉代が印を結ぶと、風景がコラ画像のようになった。

 豪徳寺近辺の景色が裏次元の風景と重なって二重写しのようになっている。

 

 ズシーーーーーン!

 

「ウニャーー(⌯˃̶᷄ 0˂̶᷄⌯)!」

 ねね子が尻餅をついた。

 裏次元ではまともに揺れるのだ。

「あいを見っ!」

 玉代が指差す。べつに愛を見つけたわけではない、『あれ』を『あい』というんだ。わたしにも、それくらいの鹿児島弁は分かるようになった。

「ああ、豪徳寺があ!」

 巨大なだるまさんが、ヒョイと飛び上がったかと思うと、盛大に転んで、そのたびに無数の招き猫が灰神楽のように舞い上がるのだ。

 一見、おとぎ話のようにな風景なのだが、とんでもないことが起こりつつあることが感覚的に分かる。

「あれ、止めた方がいいような気がする」

「あいは『地獄だるま』じゃっで」

「地獄のだるま?」

「あいが、七回転んで八回目に起きっと、災いが起こっとじゃ」

「止めなきゃ」

「だるまん足元で転がしちょっ者がおっはず、せつを……見えた!」

 ビュン!

「消えたニャ!?」

「行くよ、早くて見えないだけだから」

「ニャーー!」

 玉代のような韋駄天走りは出来ないが、それでも自動車ならスピード違反をとられそうなくらいの勢いで豪徳寺の向こう側に回った。

 

「ひっで(ひるで)! 回り込んで、こいつの退路を断って! ねね子はまとわりついて、そいつの邪魔をして!」

 到着すると同時に玉代が指示を飛ばす。

 玉代が睨みつけているのは小三くらいの男の子だ、スフのくたびれた小学生服と学帽、背中にはお人形を括り付けている。

 パッと見には大柄な女子高生が小学生をイジメているように見えるが、小学生の目は真っ赤に燃えて、狂犬のように目頭と鼻の根元にしわを寄せて牙をむいている。なにより、そいつの背後には大仏の倍ほどはあろうかというだるまがブルブルとアイドリングを掛けているように身震いしている。

「妖魔ニャ!」

 チェストー!!

 玉代が大上段の姿勢で疾駆する、そいつの間近まで寄ると気が高じて炎の剣が現出し、ためらいもなく振りかぶる!

 そいつは一瞬早く跳躍して打ち込みを躱すが、太ももを浅く切られ、そいつの軌跡にそって赤い筋を引く。

 赤い筋は、虚空で稲妻のように空気を切り裂いて、その欠片が玉代に突き刺さる。

「させるかあ!」

 わたしも跳躍し、エクスカリバーを構えようとするが、そいつの見た目に躊躇われる、こいつはまるで『蛍の墓』の主人公だ。

 バシ!

 パンチを食らわすに留める。

 浅く入ったパンチは攻めきれずに掠るだけになってタタラを踏んでしまう。

「ねね子も居るニャ!」

 二回転半して猫パンチを食らわせるねね子。

 有効打にはなっているが、なんせ猫パンチ。勢いの割には力がない。

 しかし、ねね子の猫パンチを含め三人の八度に及ぶ攻撃を喰らって、そいつはねね子にねじ伏せられた。

「は、放してくれよ、おいら、おいら、だるまを転ばせなきゃならないんだ。あと一回、あと一回転ばしたら、弟が生き返るんだ。おいらはいいから、弟を生き返らせておくれよ、弟を!」

「おとうと?」

「背中に背負ってる、火の中を逃げ回って、背中の弟が先に死んでしまったんだろう。哀れだが、もう鬼になり果てている。成敗するしかないだろう」

「二人とも待ってくれ、試してみたい事がある……おまえ、弟の名前は?」

「弟は……あれ………………?」

「じゃ、おまえの名前は?」

「おいら、おいらは…………」

「おまえは三田村一(はじめ)だ」

「…………そうだ、おいらは一だ! 一ってのがおいらの名前だ! みんなはイチとしか呼ばなかったけど」

「弟は三田村健一だ」

「そうだ、そうだよ三田村健一だ! 健一だよ! ケンボウだよ!」

 名前に納得したのか、そいつは、三田村一は弟を背負ったまま虚空に滲むようにして消えて行ってしまった。

 
「兄貴と弟じゃ、名前のニュアンスが違わニャいか?」

 こちらに戻ってから、ねね子が質問した。

「弟とは血の繋がりは無いんだ」

「だって、弟ニャ?」

「親が亡くなったんで一の親が引き取ったんだ」

「じゃ……」

「空襲の中、あいつは弟の命救いたさに逃げ回っていたんだよ」

「もう二十年も早かれば、名無しん鬼になっ前に助けられたかもしれもはんなあ」

「玉代、あんた、戦いの最中は標準語になってなかった?」

「え、そうだったのニャ?」

「あ、そうやったと?」

「あ……ま……戦いの真っ最中だったしな。もう一寝入りするか、学校も平常にもどったことだしな」

「おやっとさあ、ねね子」

 ねね子と別れ玄関に入ると、祖父母を起こさないように二階への階段を上がる。

 玉代は、薩摩の力を凝集して戦うんだ。

 だから、全力を出している時は言葉にまわる薩摩力まで無くなって標準語になるんじゃ……確証はない。

 とにかく、もう一寝入りしよう。

 あのだるま、地獄だるまと言ったっけ……また現れそうな気がする。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・7『あーーなんでこうなるんだ!?』

2022-07-18 06:36:22 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

7『あーーなんでこうなるんだ!?』



 けっきょく菊乃に口止め料をくれてやった。

 後ろめたいことは何もないんだが、手っ取り早いことと諸般の事情を鑑みたからだ。

 諸般の事情というのは、むろんシグマの事情だ。

 それと、我が家の事情な。

 俺の家は、その昔このあたりでは名の通った置屋(芸者さんを置いてマネジメントをやる)をやっていた。

 むろん俺が生まれるずっと前、親父でさえ生まれていない昔。祖父ちゃんが、子ども時代の微かな記憶として覚えているくらいの昔だ。

 祖父ちゃんの代には店を畳んでイギリス風のパブになった。今は、そのパブも畳んで、親父がせっせと中間管理職を務めるサラリーマンの家庭だ。

 だけど、粋筋(いきすじ)の伝統ってのが気風として残っていて、粋でない異性への興味とか感心の持ち方というのは軽蔑の対象になる。

 俺は今時の高校二年生だ。いや、だからこそ、身内やご近所から妙な目で見られるのは勘弁だ。

――え、妻鹿屋の倅が、そんな無粋なことを!?――
――この街の粋もすたれたもんだねえ――

 なんぞと言われてはたまらない。

 そーなんだよな、リアルな彼女の一人も居ないでエロゲをやってるなんて、このあたりじゃ腐れ外道なんだ。


 それと、小菊の事情だ。

 

 小菊は、十日先に高校受験を控えている。

 たいていの中三は二月に入試を受けて、さっさと進路を決めている。

 ところが、小菊は分割後期募集とかいうやつで、今はバリバリの受験前なんだ。

 憎たらしい妹だけど、兄として、そこんところは気を使ってやらなきゃならない。

 むろん、受験前にアキバに行ってゲームを買ってくるなんて誉められたことじゃないんだけど、気が強いように見えて小心者の妹には、やっぱ配慮してやんなきゃならない。

 口止め料は、小菊が買ってきたゲーム代を肩代わりしてやることで手を打った。

 妙なもんで、ゲーム代を払ってやると、なんだかエロゲはシグマにじゃなくて俺のものみたいに感じるから不思議だ。

 今朝は珍しくノリスケとは別行動だった。

――わりー、先に行ってくれ――

 メール一本確認して、学校への坂道を上った。

――シグマもいないなあ……ま、ハワイじゃ、まだ帰ってこれないか――

 一人で登校すると、いつもよりも早く着く。

 昇降口で上履きに履き替えているとヨッチャン(ほら、うちの担任)に声を掛けられた。

「妻鹿君、ちょっと手伝ってくれる」

 おはようの挨拶も省略して君付で手招きされる。ヨッチャンが君付してくるとろくなことが無い。

「うい、なんすか?」

 気のいいωの口で応える。

「これ運ぶの手伝って」

 見ると、段ボール箱三つの荷物。はみ出た口から見えるのは、どうやら組合のビラの束。

 生徒に組合の荷物を運ばせるのは問題ありだと思うんだけど、ヨッチャンも学校じゃ若手のペーペー。手伝ってあげるのが順当だ。

 ヨッチャンの用事が終わって教室に行くと、今度はノリスケがオイデオイデをしている。

「なんだよ、今朝の『先に行ってくれ』と関係ありか?」

「あー、小菊に呼び出されたんよ。オメガ、俺をエロゲの共同正犯にすんじゃねーよ」

「え、あ……」

 小菊のバカヤローと思ったけど、やっぱ、事実は言えない。

「んなんじゃねーー!」

 そう言って自分の席に行こうとしたら、ノリスケが袖を引っ張る。

「えへへ」

「んだよ、気持ち悪いなあ」

共犯にされっちまったんだから、俺にも、そのエロゲ回せよな」

「あん?」

「な、あいぼう(^_^;)」

「…………」

 あーーなんでこうなるんだ!? 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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