鳴かぬなら 信長転生記
なんで輜重隊が来るんだ(ꐦ°᷄д°᷅)!!?
茶姫は激おこぷんぷん丸だ。
無理もない、茶姫は銃装した近衛騎兵師団を引き連れ、卯盃(ぼうはい)を出発し、扶桑(転生国)の南辺をかすめて、その後の二日間で魏・呉の国境まで疾駆してきた。
それは、銃装した騎兵の機動力・突破力を内外に示すと同時に軍事的に無欲であることを示すためである。
万余の騎兵が集まろうと、騎兵だけでは大した脅威にはならない。
騎兵一人一人が持っている銃弾は、縛帯に備えたカートリッジに四つ、弾数にして20発余りに過ぎない。銃に籠められているものを含めても25発。射撃すれば1分も持たない。
扶桑の南辺をかすめた時に信玄と謙信が物見にきていたが、輜重を同伴しない編成を確認すると、さっさと帰ってしまった。茶姫の意図を理解したからだ。
蜀の孔明も、すばやく理解すると、強硬派の関羽と張飛を退けてしまった。
それが、恐らく最後の訪問地であろう、魏・呉の国境線に至って、本国の魏に帰したはずの輜重部隊が現れたのだ。
「すまん、茶姫。予定よりも半刻遅れてしまった。直ちに補給を行う!」
曹素が手を挙げると、向こう岸から輜重の本隊がジャブジャブと川を押し渡って来る。
曹素も本業の輜重に関してはバカではないようで、荷駄の上では輜重兵たちが、弾薬箱や糧秣箱を開けて直ちに騎兵一人一人に補給できる体制をとっている。
茶姫が、その気なら、五分もあれば突撃体制がとれるだろう。
「ニイ、チュウボウが居ない!」
シイが色めき立つ。
無理もない、チュウボウ孫権は呉王孫策の弟だ、グズグズしていたら殺されるか人質に取られてしまう。
おそらくは、身を隠していた警護の者が身を引かせたのだ。今ごろは警護の者ともども都の建業に向かって馬を走らせている。それに、チュウボウは写真を撮りまくっていた。ほとんどが茶姫の水着姿だが、その後ろには茶姫の部隊が映っている。孫策と、その重臣たちが見れば魏軍の奇襲部隊と見るに違いない。
ジャラリ!
「我らが兄君にして、魏王、曹操の命令書である! 謹んで聞け!」
音をさせて竹簡を広げると、茶姫が声を発する前に宣言する曹素。
宣言されては、茶姫といえど慎まねばならない。騎馬の部下たちが反射的に下馬するのに習って蹲踞する茶姫。
「この度の奇計、誠に見事である。朕は我が妹であり近衛都督である曹茶姫の意を嘉し、呉王孫策と王弟孫権の誅殺と呉の討滅を命ずるものである。よく我が意を帯し、曹素を副将とし、もって天下の太平の基を開け。三国志嘉吉三年、魏王曹操!」
ジャラ!
大仰に勅命の竹簡を示すと、卑しい微笑みを浮かべる曹素。
ギリギリギリ……
ここまで茶姫の歯ぎしりが聞こえてくる。
このくそ曹素……!!
シイも負けずに憤怒に呼吸を乱している。
茶姫が、常に冷静で忍耐強い選択と決意ができることは、この三国志にきてからの付き合いでよく分かっている。
さあ、茶姫、この危機に、どのような決断をするのか!?
中天に差し掛かろうとする日輪が悪逆の曹素を後ろから際立たせる。まるで、魔王のシルエットだ!
一瞬の殺気!
刹那の逡巡を憶えたが、戦国の争乱で鍛えた体が反応した。
茶姫の肩が震えた瞬間に悟った、茶姫は自刃する!
次の瞬間、茶姫は太刀を抜いて己が首に擬した。
キエーーー!
フロイスをもって『時に信長は怪鳥のごとき奇声を発して電撃の如くに行動する』と言わしめた声を発して茶姫に飛びかかると、太刀を叩き落とし、そのまま抱えて馬に飛び乗る!
瞬時に鞭を当てると、馬は瞬発した!
「なにをする、ニイ少佐!!」
茶姫が俺をなじったのは、その直後であるが、すでに二人を乗せた馬は風を切って南への街道を疾駆し始めている。
「ニイちゃーーーーん!」
シイだけが、幼い日に清州の街に遊びに行き、興に載って駆け出した俺に置いてけぼりを喰らった時、その時と同じ怒りと不安の叫びをあげながら付いてきた。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん