大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・16『螺子先輩のメンテナンス・1』

2022-07-09 10:00:11 | 小説6

高校部     

16『螺子先輩のメンテナンス・1』 

 

 

 ごめんね田中くん、部活じゃないのに付き合わせて。

 

 部活では見せたことのない優しさで、先輩は手を合わせた。

 最初にゲートをくぐった時、お地蔵さんの陰に隠れる直前、おざなりに手を合わせた。

 あの時の男性的ぞんざいさではなく、アニメの女の子が「無理言ってごめんね」という感じなので、戸惑ってしまう。

 ちょっと反則的な可愛さだ。

「えと……いつものようには喋らないんですか(^_^;)?」

「え? いつも通りですよ」

「いや、先輩は、いつも『鋲!』って呼び捨てじゃないですか、苗字を、それも君付けなんて初めてですよ」

「え、そう? 学校の友だちには、いつも『さん』『くん』付けしてるわよ」

「あ……そうか、いまの先輩は部活時間外の?」

「え、そうよ……あ、わたしったら体操服のまんまだ!」

 そう言うと、先輩は部室のある旧校舎に駆けこんでいった。

 

 昇降口横の掲示板をボンヤリ見ながら先輩を待つ。

―― 部活は休みにするけど、ちょっと付き合って欲しい ――

 昼休みにメールが来て、さっき、待ち合わせたところだ。

 ジャージで現れたから、校内で作業をするのかと思ったら、駅前までついて来てほしいということで、さっきの「ごめんね田中くん」に繋がる。

 あ……可愛い(#^o^#)。

 旧校舎から制服で駆けてくる先輩は、スクールアイドルアニメみたいに可愛い。

 部活中、ゲートの向こうではララ・クロフトかというくらいにマニッシュで、走る姿も陸上選手のようだ。

 こっちに走って来る先輩は、腕と長い髪を左右に振って、彼のもとに走って来るアニメヒロインのようだ。

「ごめんなさい、じゃ、行こうか」

 生徒の半分は電車通学なので、駅前までは下校中の生徒たちの視線が突き刺さる。

 視線の2/3は先輩に、あとの1/3がボクに向いてくる。

 月とスッポン

 視線を言葉にしたら、その格言が湧いてくる。

「ちょっと、つかまっていいかしら?」

「え、あ、はい」

「ごめんなさいね、やっとメンテナンスできると思ったら、気が抜けてきたのかも……」

 右側を歩いている先輩は、最初は左手でボクの二の腕に掴まるだけだったけど、駅が見えてくるころには両腕ですがるような感じになって、同じ道を帰る男子生徒からは殺意さへ感じる(;'∀')。

「あ、そこだから」

「え、プッペですか?」

 先輩と入ったのは、ドイツパンのプッペだ。

 先輩が、部活中のお八つに買って来る半分以上は、このプッペの商品だ。

 

「先生は来られてるかしら?」

 

 店に入ると、ショーケースの向こうのマスターに声を掛ける。

「まだだけど、準備はできてるよ。イルネが待機してるよ」

「うん、じゃあ、お世話になります」

「鋲君もいっしょについてやって、一人じゃ階段もあぶなそうだ」

「は、はい」

 

 奥のショーケースの裏には、工房とは別のドアがあって、先輩に肩を貸しながら、階段を下りる。

 

「だいぶ参ってるみたいね」

 地下室に入ると、並んだ機器の向こうから声がかかる。

 ボクもパンを買いに来た時にレジに立っていた女の人が顔を出す。

「助手のイルネ、こっち、学校で助手をしてくれている鋲くん」

「ああ、何度かお客さんで来てくれてたわね。お互い助手同士、よろしく」

「あ、ども」

 いつの間にか、ボクは助手になってしまったようだ。

「先生、もうじき来るだろうから、先にラウゲン塗るわ。助手君は、ちょっと外で待って……」

「鋲くんにもやってもらうわ」

「え、裸になるのよ?」

「うん、この先、鋲の世話になることもあるだろうから、体験しておいてもらおうと思うの。最初だから、背中だけ」

「そうね、じゃ、助手君は後ろ向いて」

「は、はい(;'∀')」

 言葉遣いは優しくなったけど、やることは、いつもの先輩だ……。

 十秒ちょっと衣擦れの音がして「もういいわよ」とイルネさんの声。

 先輩は、手術台みたいなところにうつ伏せに寝ている。

 シーツかなにかで下半身くらい隠すかと思ったら、スッポンポン、うつ伏せとはいえ刺激強すぎ。

「こんな風にね……」

 イルネさんはサンオイルのボトルみたいなのを手のひらに出して、先輩の腰のあたりに塗り出した。

「直接手でやるんですか!?」

「抵抗あるでしょうけど、均一に隈なく塗るのは人の手がいいのよ。とくに、今みたいにメンテが遅れてるときはね……こんな風に、刷り込むように……人間だったら、新陳代謝ですむことなんだけど、螺子の皮膚は合成生体だし、ずいぶん無理してるから……」

「ミストとか、スプレーとかじゃ、ダメなんですか?」

 やっぱり、直接先輩の体に触れるのは抵抗がある、ありまくり!

「うん、前の助手は女の子だったからね、先生にも言っておくわ……さ、ここからやってみて」

「は、はい……」

 ラウゲンというのは、ほんのりと緑色で、均一に塗れていないと濃淡が出て、仕上がり具合が分かるようになっている。イルネさんは背中の上の方だけ残してくれていて、恐る恐る、おずおずと塗る。

 イルネさんに手直ししてもらいながらも数分で終えると、ドッと汗が噴き出した。

 

『先生がこられたよ』

 

 マスターの声がモニターから聞こえて、階段を下りてくる気配がした。

 なにもやましいことをしているわけではないのに、なんだかドキドキする。

 

 ガチャリ

 

 ドアノブア回って先生が入ってきた……

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・050『荒田八幡宮 ねね子の知り合いの頼み』

2022-07-09 05:31:15 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

050『荒田八幡宮 ねね子の知り合いの頼み』 

 

 

 
 煙の柱を経めぐって全国の八幡宮を訪れている。

 
 スクネ老人は慰労のためだと言うが、それは北欧の主神であるわが父オーディンへの遠慮があるのだと思った。

 さぞ、各地の八幡宮が抱える問題の解決にこき使われるのだろうと観念してもいた。

 ところが、実際に行ってみると、時代は様々だが、八幡宮周辺の高校生になって数時間から数日を過ごすだけだ。むろん、憑依した高校生自身や、その友人知人の手助け程度の事はやるのだが、現実のわたしは、けっこう楽しんで、文字通りの慰労になってきた。

 なあ、ねね子、こんなことでいいのか?

『これでいいのニャ』

「なんだ、今度はネコのままか?」

『そうニャ、今度はネコ付き合いのお仲間の依頼なのニャ』

「おまえの付き合い?」

『まあ、行ってみればわかるニャ、あの太い煙の柱に沿って降りていくニャ』

「太い煙? う、うわあ!?」

 
 それまでとは比べ物にならない煙の柱に飛び込んでしまい、思わず目をつぶって手で顔を覆ってしまった。

 
 鳥居の前に居る。

 

 チリンと音がしたかと思うと、鳥居の根元を周ってネコが現れた。

「おまえか、ねね子のお仲間と言うのは?」

 ペコリと頭を下げると、ネコは片足を上げて鳥居の奥を指した。

 拝殿のあたりからそよそよと黒髪を靡かせて息をのむような美少女が通学カバンを下げて歩いてくる。

『うちの御祭神の一人である玉依姫(たまよりひめ)です。どうか、いっしょに通学してあげてください』

 ネコがきれいな標準語で挨拶する。ねね子の馴れ馴れしい言葉に慣れてしまったので、なんだか新鮮だ。

『姫は千数百年ぶりに鳥居の外にお出ましになります、なにぶん世間に慣れておられませんので、ひるで様のご助力を得たいのであります』

「そうか、まあ、転校生を友だちに持ったと思えばいいのだろう」

『それでは、よろしくお願い申し上げます』

 ふたたびネコが頭を下げて、ゆるゆると近づいてくる玉依姫を待つ。

 待っている間に、風景が鮮明になって来る。

 神社は世田谷八幡ほどだが、境内の樹木たちはおそらくクスノキ。並外れて大きく、幹は大人四人でやっと抱えられるかというほどに太い。鳥居の脇に幟が見えて『荒田(あらた)八幡宮』と読める。荒田……とはどこだ? 八幡宮と言えば地名を冠したものだと思っていたので、とっさにどこだか分からない。

 ズシ

 肩に重みが加わったかと思うと、自分も通学カバンをかけて、玉依姫と同じセーラー服を着ている。

 始まったのか……

 わたしは伊地知香奈枝というらしいが、詳しい情報は周辺の景色同様に分からない。

 というか、近づくにしたがって輝きを増す玉依姫の美しさ圧倒されている。

 その玉依姫が、目の前一メートルほどの親友同士と言っていい近さで立ち止まって口を開いた。

「はいめっお香奈いどん、たってまあほおばいになっ玉依姫じゃ。ちゆっも千数百とかぶい、てげ知識は身につけちょっが、おいうったいもたいではねしゅもとなかことだらけじゃっで、よろしゅねげしもす(o^―^o)ニコ」

 えと……最後のニコニコしか分からないんだけど(;゜Д゜)

 
『では、わたくしは、これにて!』

 ネコは、あっという間に居なくなってしまった。

 おい、ちょっと、どうすればいいんだ!?

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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