大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・320『古紙回収の朝』

2022-07-16 10:12:19 | ノベル

・320

『古紙回収の朝』さくら   

 

 

 ミーンミンミン ミイ……ミーンミンミン ミイ

 二週に一回の古紙回収、留美ちゃんと二人で古新聞と段ボールを蝉の声かまびすしい中、回収場所に持っていく。

 今日はテイ兄ちゃんの当番やねんけど、「すまん、寺の用事で、ちょっと出るさかい!」言うて、ついさっき原チャで出て行きよった。

 

 回収場所は、うちのお寺の角。

 うちの角やから、めっちゃ近い印象かもしれへんけど、けっこうある。

 廊下の隅にまとめてある古新聞と段ボールを玄関に持っていくのに10メートル、玄関から山門まで25メートル、山門から角まで15メートル、合計50メートル! 

 曇り空やから、まだええねんけどね、これが日ぃ照っててたら、この50メートルは、ちょっときつい。

 

 新聞はサンケイと朝日。なんや両極端の新聞やねんけど、これはお寺の事情。

 意外かもしれへんけど、お寺は、あんがい左翼が多い。

 うちはやってへんけど『安倍政治を許さない!』いう習字の見本みたいな標語を貼ってるお寺もけっこうある。過去帳とかの日付は西暦が多いしね。檀家さんもお年寄りが多くて、年寄りの半分以上は左っぽい。

 むろん、そうでない人も居てるし、せやから、バランスとるために朝日とサンケイ。

 坊主というのは、法事とか月々の檀家周りで法話、まあ、仏さんに絡めた話をせんとあかんのです。世間話もあるしね。それで、檀家さんやら世間にあわせた話がでけんとあかんのです。

 せやさかいに、朝日とサンケイ。

 

 やっぱりねえ……

 

 古新聞を置きながら留美ちゃん。

「え、なにがやっぱり?」

「新聞の一面、みんな安倍さんのことだよ」

「あ、ああ……」

 安倍さんが暗殺されて一週間、どこの新聞も一面は安倍さん関連。

「きっと時代の境目にいるんだよ、わたしたち」

「せやねえ……」

 思わず、ふたりで古新聞の山に手を合わせてしまいました。

 気配を感じて振り返ると、ビックリ。

 

「「頼子さん!?」」

 

「おはよう」

「「おはようございます」」

 頼子さんの後ろには見覚えのある青色ナンバーがバックで境内に入って行く。

 運転席で片手振ってるのはソフィー。

「きのう、現場に献花してきたんだけどね。きちんとお参りしたくて、芝の増上寺って阿弥陀様でしょ。如来寺もご本尊阿弥陀様だし、思い立って来ちゃった」

 たしかに、増上寺は浄土宗、うちは浄土真宗。開祖の法然さんと親鸞さんは師弟の間柄。

 

「お花を供えたいんですけど」

 ソフィーから花束を受けとる。花屋さんで売ってる仏花とちごて、領事館の庭で見たことのある花。

 頼子さん、自分で摘んできたんやねえ。

 

 ドロロロ……

 

 花瓶を持って本堂の階段を上がると、山門に入って来る原チャの音。

「あ、頼子さ~ん(^▽^)!」

 テイ兄ちゃんが、花束とケーキの箱をぶら下げて走って来よる。

 わが従兄ながら、ちょっとキショイ。武士の情け、思てても言わへんけどね。

 せやけど、腹立つ。

「ちょ、お寺の用事て、これやったん!?」

「まあ、いいじゃないの、さくら」

 留美ちゃんは人格者です。

 手回しのええ従兄は、写真たてに入った安倍さんの写真も用意して、用意周到。

「さっき、お電話したばかりなのに、ありがとうございます!」

 頼子さんも感激やし、まあ良しとしとこう。

 

 テイ兄ちゃんが五分ほどお経をあげてるうちにお焼香。

 気が付いた詩(ことは)ちゃんもやってきて、ささやかやけど、きちんとした法要になった。

「で、こっちはついでなんだけどね」

 頼子さんが出したタブレットには、この夏休みに行く三年ぶりのヤマセンブルグ旅行の日程が出てた。

 そして、頼子さんと詩ちゃんが互いに触発されて、なんと、詩ちゃんもいっしょにヤマセンブルグに行くことになった!

 テイ兄ちゃんも行きたそうな顔してたけど、却下されたのは言うまでもありません(^_^;)。

 ミーンミンミン ミイ……ミーンミンミン ミイ……

 蝉の声が、いっそうかまびすしい如来寺の朝でした……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・057『宮の坂の夕陽』

2022-07-16 06:31:34 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

057『宮の坂の夕陽』 

 

 

 
 ハアアア……ちょっと衰えてるのよ……。

 
 スクネ老人に腰を揉ませながらため息交じりにオキナガさんはこぼす。

 世田谷八幡の奥は別次元の神域で、清浄な竹林の中に檜の床どこがあるきりである。

 ここに招かれた者の分だけの円座があり、照れ隠しのような几帳の前に紫式部の居所のような畳が二畳。

 そこに仰臥して、スクネ老人に腰を揉ませているのだ。

 
「琥珀浄瓶をやっつければ、元に戻ると思っていたんだけどね……」

 琥珀浄瓶は大陸からやってきた不定形な妖怪の総元締めみたいなやつだ。スマホを通じて人の名前を奪っていく。スクネ老人が真っ先に気づき、わたしも久々に漆黒の甲冑を身にまといオリハルコンの大剣をふるったが、互角に戦えたのはほんのつかの間。オキナガさんが本地である神功皇后の姿で自ら琥珀浄瓶の中に飛び込み、円周率の出現で、なんとか勝利したのが、やっと桜の花が綻ぶ頃だった。

「ひるでを日本中の八幡宮へ送り出したのは、ほとんど『お疲れさん』のつもりだったのよ……ずいぶん役に立ってもらったから、ちょっと青春してもらったんだけどね……」

「うん、八幡巡りは楽しかったけど、あれって、わたしへの慰労だけじゃないわよね」

「ご明察……日本中の神さまが元気なくてね。ひるでみたいな北欧系の人に行ってもらえば、いい刺激になると思ったのよ」

「実際、先々の八幡さまには好評で……」

 マッサージの手を緩めず目配すると、正面に画面が現れ、日本中の八幡宮から来た『ひるで派遣要請』がスクロールされる。

「あ、ハワイ八幡宮があるニャ!」

「ここは、最後にみんなで行こうってとってあるの」

「それは、楽しみにとってあるのかニャ? いっとうしんどい任務なのかニャ?」

「その時にならなきゃ分からないねえ……玉代さん」

「へ、こけおっ(はい、ここにおります)」

「あなたに来てもらったのは、ぶっちゃけ、ひるでと一緒に戦ってもらいたいからなの」

「よかよ、うすうす、そげんこっじゃろうて思うちょった(o^―^o)」

「むろん玉代さん自身のためでもあるのよ。鹿児島のころのままじゃ、力が制御できなくて壊しまくってたでしょ」

「はい……」

「世の中、持ちつ持たれつ。ひるでなら信頼も置けるし、まあ、仲良くやってちょうだい」

「姫、あまり喋ると、解れませんぞ!」

 ボキ!

「グ! あとちょっとね。スクネ、腰を重点的にやってくれる?」

「承知!」

 グキ!

「グゴ!」

「もう少し、力をお抜きなされませ」

「うん……ひるで……ひるでさん」

「はい?」

「あんたにとっては異世界の日本は病んでいるのよ……ずっと先延ばしにしてきたツケが回ってきたのね……先の大戦じゃ、アイデンテティーや名前まで焼き尽くされた人たちが、妖や物の怪になり始めてる」

「分かってる。名前を取り戻してあげるのね……」

「あんたにはブァルハラでラグナロクに備える任務がある……ここでの仕事は、きっと、その時の役に立つわよ」

「あー、なんだかとってつけたみたいだけど、まあ、がんばるわ」

「玉代さん」

「はい?」

「ちょっと、耳を?」

 玉代が耳を寄せると、ヒソヒソ話にしては長い話を耳打ちした。

 え、なんで顔が赤くなるんだ?

「ま、そういうことだから、よろしくやってね。しばらく役には立ってあげられないけど、出来る限り助っ人は送るように頼んでおいたから……連絡係はスクネ……よろしく頼んだわよ……」

「「「あ……」」」

 玉代とねね子と三人――もうちょっと話が聞きたい――状態のまま、オキナガさんは姿が薄くなる。

 消える瞬間、いっしょに消えながらスクネ老人はため息をついた。

 安心したようにも仕方がないともとれるようなため息だった。

 

「さ、家に帰って晩御飯にしもんそか!? お爺どんとお婆どんてっしょん夕食、わっぜ楽しみじゃ! いきましょ、ひるで!」

 とりあえず、玉代は元気。

 宮の坂を染め上げる夕陽を背に受けて、家路につく俄か又従姉妹の二人だった。

「あ、ねね子も居るニャ!」

 二人と一匹だった(^_^;)。

「い、一匹は無いのニャ! 一人なのニャ」

 振り向くと、悔しそうにねね子が二人の影を踏んづけていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・5『よし、俺に任せとけ!』

2022-07-16 06:09:08 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
『よし、俺に任せとけ!』




 土曜日だと言うのに電車の中は高校生が多い。

 ほとんどの公立高校は休みのはずだ。むろん私学はやっているから、制服の高校生が乗っていたって不思議じゃないんだけど、あきらかに公立高校と知れるやつらが多いので不思議だ。

 それに、スマホじゃなくて参考書っぽいのを開いてるやつが多い。俺は電車通学じゃないので、いつもの様子は分からないんだけど、なんだか違う。

 で、OLさんが広げてる新聞(Olさんが新聞広げてるのも新鮮なんだけど)をチラ見して合点がいった。センター試験の記事が目についたんだ。

 この高校生たちは国公立の二次試験を受けに行くんだ。

 俺も四月からは三年生なんで他人事ではない。

 と言って、国公立を受ける予定も能力もないんだけど、ザックリ進路決定が迫っているということを思い出して身が引き締まるわけだ。

 で、そんな俺は今日も朝からアキバ目指して中央線に乗っている。

 理由は、昨日、アキバの広場でシグマに出くわしたことにある。

「先輩、なんでアキバにいるんですか!?」

 見ようによっては非難しているようなΣの口を、さらに尖らせて聞きとがめる。

「えと、プラ……なんとかフライデーってからさ、フラッとな」
「プラ……ああ、プライムフライデー。学校三時までだったんですか?」
「アハハ、先生の一部がな。で、その空気が伝染しちまったってところ。俺って流されやすいんだよな~」
「ハハ、そうなんだ」

 笑ってもΣ口だけど、学校で見かけるよりは、うんと可愛い。

 てか……。

「なんでキミは私服なわけ?」

 シグマの出で立ちは、ポニーテールの首の下にサンダース大学付属高校のジャケット+縞タートル+黒ミニ+ニーソという完全装備。

「あ、えと……あ……あ……」

 押してはいけないスイッチに手を掛けたようで、俺は両手をパーにしてハタハタと振った。

「いや、いいんだいいんだ、人には事情とか都合とか……いや、学校なんてキチンと行かなくても……」
「あ、あの、学校は……」

 シグマは俯いて顔が赤くなってくる。

 あーーなんだか、シグマどころか自分自身を追い詰めてるみたいになってきた。

「せっかくだからさ、マックでも行こうぜ。俺、ラジ館の前でマックに行くつもりしてたんだけどさ、こっちの方でガルパンのライブが聞こえてきたんで、ついな」
「え!? 先輩もガルパン好きなんですか!?」

 クイっと顔を上げた、その顔は、まるで、そこだけ日が当たったみたいだ。

「おうよ、低血圧の冷泉麻子がオシメンよ!」

 ガルパンについては並のファンなんだけど、シグマの顔を見ていたら、とっさに冷泉麻子の名前が浮かんじまった。
 そういや、シグマはどこなく、無愛想低血圧の名操縦手に似ている。

「あたしは低血圧でも……ないし、あんなに頭も……よっく……ない……ですけど……ねっ!」

 その流れでマックの二階でプレステのガルパンゲームをやっているのを思い出した。

 アニメのガルパンの話の流れで戦車戦をやるゲームなんだけど、シグマのやり込みはハンパなかった。黒森峰のドイツ戦車軍団を三分余りでせん滅してしまった。

「大したもんだなあ……」
「いや、ヒットアンドランを的確にやってれば、だれでもSランクでコンプリートできますよ」

 Σの口元が不敵に微笑む。

「本来のあたしは、けっこうドジで間抜けなんです」
「え、そう?」
「今日だって、予約したゲームの発売日……」
「そうなんだ、好きなゲームの発売は見逃せないよな!」

 シグマが、俺の中の女子ゲームファンというカテゴリーに収まったので安心した。

「で、発売日は明日だったんですよね……」
「ハハハハ」

 こういうドジっ子のところは可愛い。

「で、このままアキバに居続けして朝を迎えると言うわけか」
「アハハ、まさか! 適当に切り上げて、明日の朝出直しますよ!」

 マックシェイクをすするのとスマホの着メロが鳴るのが同時だった。

「あ、なにお母さん?」

 どうやら家からの電話のようだ。返答の仕方がスレていないので、案外いいやつなんだと再認識した。

「え……いや、そ、そんな……」

 話の途中で、シグマはドンヨリしてしまった。

「家でなにかあったのか?」
「明日アキバに来れなくなって……」

 そこまで言うと、シグマはホロホロと涙を流した。

「お祖母ちゃんの具合が悪くなって……今から帰らなくちゃならない……」
「帰るって、東京の近く?」
「えと……ハワイ」
「え……」

 ぜったい日帰りは無理だ(^_^;)。

「発売日に受け取りに行かなきゃ予約取り消しに……」

「よし、俺に任せとけ!」

 というわけで、シグマに代って予約ゲームを受け取りに行くために、土曜の朝にアキバ行きの電車に乗っているわけなんだ。

 ま、この程度の親切は、モブの許容範囲だ。

 シグマの輝いた笑顔はモブには眩しかったが、ま、たまに良いことをするのも悪くはないもんだ。

 だけど……

 18禁のエロゲだとは思わなかったぜえええええ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
     
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