大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・117『メグミさん サーターアンダギーを握りつぶす』

2022-07-07 10:23:59 | 小説4

・117

『メグミさん サーターアンダギーを握りつぶす』 心子内親王    

 

 

 漢明国軍巡洋艦(旧式宇宙船)五隻の領海侵犯に対する日本政府の対応は生ぬるさのレベルを超えてきた。

 調査は故障艦復旧のためであるので、人道的観点からこれを認める。

 という国交大臣の談話まで出され、管轄の海上保安庁も監視以上の手が打てなくなってきた。

 

「こんなものが認められるか!」

 

 漢明国国防長官の、一見へりくだった要請に怒気を発してしまった。

『まことに、市長閣下のお怒りはごもっともなのですが、洛陽号以下五隻の巡洋艦は漢明国にとっては満州戦争以前からの功績艦でして、五隻とも無事に帰国させたいのです。調査の結果、洋上での修理には限界があることが判明、ドックに入れて本格的な修理を施さなければなりません。そこで恥を忍んで市長閣下にお願いするのです。五隻の巡洋艦を西之島のドックに収容して、本格的な修理をさせてください。この通りです!』

 画面の国防長官は、デスクに打ち付けんばかりに頭を下げた。

 領海侵犯をした上に、その修理の為に島のドックを貸せという。

 島のドックは、最大のカンパニーのドックを含め二つしかなく、五隻まとめてということになると、三隻は埠頭に横付けして、ドックの空きを待って移動させるしかない。修理の終わった艦は、さらに空港に移送して最終点検をやって飛行テストをやらなければならない。

 その間、二つのドックと三つの埠頭、空港の一部は本来の持ち主である西之島市と持ち主(カンパニー・ナバホ村・胡同)の手を離れてしまう。

 

「汚いやりくちねえ!」

 

 グチャ!

 

 メグミさんは、怒りのあまり、手にしたサーターアンダギーを握りつぶしてしまった。

「メグミさん、手がベトベトですぅ」

「あ、もったいないことをしてしまった……」

 崩れたサーターアンダギーを拾い集める手は、まだ震えている。

「あ、わたしがやります」

「いいわよ、まだ食べるんだから」

 メグミさんが、サーターアンダギーのかけらを集めて、再びモグモグし始めたころ、モニターに映る公開協議は次のステップに進んでいた。

 

『いやはや、市長閣下のお怒りはごもっともです。小官といたしましても、一国の国防と国防財産を管轄する身ですので、ここで諦めるわけにも参りません。それでは、どうでしょう、わが国から工作艦を送りますので、洋上での修理を認めてはいただけませんでしょうか? もとより、我が国は修理工作にかんしては貴国ほどの充実した装備を持ちませんので、いささか大げさな装備になりますが……あ、むろん軍籍にある艦艇ではありますが、個艦防衛用も含めて武装は全て撤去した状態で派遣いたします』

「前例がありません、むろん即答も致しかねますので、これ以上の協議は議会にも掛ける必要があると思いますので、本日は、これにて終了とさせていただきます」

『あ、市長閣下……』

 

 中継は及川市長が一方的に打ち切る形で終わってしまった。

 市長の気持ちは分かる。相手は漢明国、言質をとられるような物言いは禁物。白は白、黒は黒とハッキリ言っておかなければ、どう捻じ曲げて捉えられるか分かったものではない。

 そのために、わざわざ公開協議にしたんだ。

 日本政府は、あくまでも人道的な解決を目指すべきで、そこを踏み外さない限り西之島の判断を尊重するという無責任なものだ。

『ちょっと、この映像を見てくれ』

 モニターにシゲ老人の顔が飛び込んできた。

『うちの波止場の監視カメラの映像だ』

 切り替わった画面には百人ほどの群衆が、波止場に集まっているのが見える。

「なんだ、漢明人なの?」

『ああ、今朝から集まり始めた、みんなで沖の漢明艦隊を心配げに見ている。カメラを回すと分かるが、チルル空港に着く漢明機の乗客の半分は、ここを目指している』

「すごい……」

 お茶を淹れかえようとした手が停まってしまう。

「シゲさん、これは漢明政府の指示だね」

『ああ、西之島はパルス資源と観光の島だ、北東区の開発も半ばに差し掛かって、漢明人だからって止めるわけにもいかねえ』

「あ、なんか掲げてますよ!」

 思わず声が大きくなってしまった。画面に映る漢明の人たちが、ノボリや横断幕を出し始めたよ。

「見なくても分かってる『洛陽艦隊がんばれ!』とか書いてあるんだろ」

「はい『洛陽号加油!』って、加油ってがんばれですよね」

「すぐに鳴り物入りになるよ」

 ピー ププー ドンドンドン!

 まるで、メグミさんが合図したように鳴り物が響き始めた。

「すごいことになってきましたね……」

「見て、ネットには、こんなのも出てる」

「え?」

 漢明の子どもが巡洋艦に乗り組んでいるお父さんやお兄さんを心配する映像が沢山出ている。

『お父さん、大事な洛陽号です』

『たいへんなお仕事ですが、洛陽を連れて帰ってください』

『日本のみなさん、洛陽号の救助に手を貸してください』

『洛陽号加油!』

『漢明加油!』

「こんなのもあるよ」

 画面が変わると、及川市長の映像がオムニバス的に映されていた。

 及川市長が、まだ国交省の役人で、役目とはいえ島の人たちに意地悪をしている映像。マヌエリト村長に追いかけまわされて無様に逃げ回っている映像。

 ひどい、今の及川市長は、ちゃんと島民の支持を得て、選挙で選ばれた市長さんだよ。

 こんなネガティブキャンペーン、ダメだよ。

「ココちゃん、やっぱり火星にいきなさい」

「い、いやです」

「これから、西之島はどうなるか分からない、内親王であるココちゃんを置いておくわけにはいかないよ」

「そんなこと言わないでください、わたしも西之島の住人です! カンパニーの一員です!」

「なるほど、ココちゃんのそういうとこを見抜いて、陛下は西之島に寄こされたんだね」

 え?

 どういう意味に理解していいか戸惑って、いっしゅん口ごもってしまう。

「分かった、じゃあ、サーターアンダギー買ってきて」

「それなら、まだ一箱残ってます」

 メグさんの好物だから、助手として絶やさないようにしている。

「黒糖のは、さっき握りつぶしたのが最後だったから」

「あ、ああ……」

 

 わたしは、お財布を掴んでカーポートに向かった。

「拙者がお供つかまつる」

 パーソナルカーの横には、お侍言葉と可愛い姿が特徴のサンパチさんが、キーをクルクル回しながら待っていた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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漆黒のブリュンヒルデQ・048『石清水八幡宮の待ちぼうけ』

2022-07-07 06:23:35 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

048『石清水八幡宮の待ちぼうけ』 

 

 

 

 スクネ老人の計らいで、あちこちの八幡宮を巡っている。

 
 琥珀浄瓶との激戦で世田谷八幡であるオキナガ姫もくたびれている。

 スクネ老人は「しばらく豪徳寺を離れた方が良いかもしれませぬなあ」とだけ言った。

 オキナガ姫を助けた慰労のニュアンスであったが、行く先々での戦いを覚悟していた。しかし、今のところは息抜きだ。

 ちょっと昔の高校生になって、ささやかな問題を解決……いや、お節介を焼く。

 こんなことで人やオキナガ姫の役に立つなら嬉しいことだ。

 
 さて、今度はどこの八幡宮か……。

 
 ケーブルカーを降りると蝉の声が変わった。

 鳴いているだけで体感温度が上がってしまうアブラゼミに替わってヒグラシだ。

 ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ……と涼しい響きだ。

 麓に比べ140メートル高い標高のせいなんだろうけど、この男山に鎮座する石清水八幡の御業なのかと想像してみる。想像すると、頂上の叢林がさらに神さびて感じられ、一念発起して訪れたことが一層嬉しくなってくる。

「……来てへんねえ」

 改札を出たところで、直葉(すぐは)がキョロキョロする。

「じゃ、鳥居の前までいくよ」

「う、うん」

 未練な直葉を急かす。

 ケーブルに間に合わなければ、さらに奥の鳥居の前という約束だ。

 わたしと直葉は、谷口を誘って石清水八幡宮に向かっているのだ。

 八幡市(やはたし)と言えば石清水八幡宮。このあたりに住んでいれば小学生でも知っている常識だ。

 でも、常識過ぎて、高校に入るまで訪れたことがない。

 それで、一度行ってみようと思い立った。

「ちょっと、こじつけっぽいけどね」

「誰のためにこじつけてんのよ(ー_ー)!!」

 カマすと沈黙する直葉。

 沈黙されても気にならないのは、大鳥居に至る道が涼しくてとても雰囲気があるからだろう。この雰囲気はアベックできてこそと思うんだが、まあ、二人ともパッシブな性格だから仕方ない。

 
 わたしと直葉と谷口は、この春に開校した府立岩清水高校に入学した。

 
 三人とも小学校からの付き合いで、中学では三人揃って同じクラスになることは無かったが、ま、廊下で会えば「オッス」くらいは交わす馴染みではあった。

 
 石清水を受ける時「同じクラスになればいいのにね」と言ったら「べ、別にい」と口をそろえやがった。

 結果、わたしと直葉は普通科の西キャンパス。谷口は福祉科のある東キャンパス。

 まあ、同じ高校の東と西だから、行事とか通学で程よく会えると考えたんだよね、直葉も谷口も。

 
 ところが、現実は違った!

 
 なんと、西と東の間には石清水八幡宮のある男山が聳えていて、東の最寄り駅は『石清水八幡宮』で、西は『橋本』と別々。去年まで存在していた二つの高校を統合したのはいいが、京都府にお金がないのか、校舎はそのままにして、西キャンパス東キャンパスと名付けただけだ。

「さ、詐欺だ……」

 中学の校内選考が終わった時、谷口がひそかに呟いたのを聞き逃さないわたしだった。

「な、夏真っ盛りだから、正解だろ?」

「え、あ、うん……ごめんね、牟田口」

「名字で呼ぶなよ、佳代と直葉の仲だろうが」

 自分の苗字は嫌いだ。牟田口が無駄口に聞こえる。確かに、我ながら多弁。でも、モットーは『当たって砕けろ』人は砕けなきゃ丈夫にならないんだ。

 来ないのはケシカランことだけど、谷口の気持ちも分からなくはない。好きだからこそ及び腰になる。決定的に「NO」を突き付けられるのが辛いんだろ。直葉の気持ちは谷口の押し方次第というのが、わたしの読みだ。だから、押せよなあ、谷口!

 
「やっぱり居ないねえ」

 
 鳥居の前で待つこと十五分。ニ十分で「もう来ないねえ」に変わった。

 けっきょく直葉と二人お参りして、おみくじひいて帰ってきた。

「駅前で谷口君見かけたわよ!」

 うちに帰ったらお母さんが、開口一番に吠えた。

「なんか、しでかしたのお?」

「交差点でお婆さんが倒れて、谷口君、一人で介抱して救急車もいっしょに乗って行ったのよ。おかげで、お婆さんは一命をとりとめたって、もう、評判よ」

「ほう、さすがは福祉科だね」

 
 同調はしたが、やつの腹は読めた。

 
 たまたま、婆さんがひっくり返るのを見て率先して助けたんだ。そうすれば、合理的にブッチできるもんな。

「な、谷口、そうなんだろ」

 あくる日、たまたま出くわした交差点で谷口に問いただす。谷口は、分かりやすく顔を赤くしやがる。

「その控え目すぎる性格直せよなア」

「う、うん……」

 あっさり認めやがる。

「じゃね、また機会があったらね……」

「会いたくなかったのは、直葉とちゃうねん!」

「あん?」

 意味わからなくって、立ち止まる。

「会いたくなかったのは、牟田口さんや……」

「そーか、ずいぶん嫌われたもんだなあ」

 アッタマに来て、数歩踏み出して気が付いた。

 
「それって……」

 
 横断歩道を挟んで、赤くなったのは信号だけではなかった……。

 
 今日の意味はなんだ?

 ねね子に聞く。

「あそこから三角関係になって、谷口君と直葉の恋はドラマ二本分くらいの展開を経て強いものになっていくニャ!」

「なんか、損な役回りじゃないか、あたし?」

「これで八幡様も喜ぶニャ」

「ところで、ねね子はどこにいた?」

「あ、谷口君が助けたお婆さんニャ(^▽^)/」

 
 ねね子、楽し過ぎ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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