大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・11『横目でにらむ』

2022-07-05 10:35:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

11『横目でにらむ』 

 

 

 鏡を横目でにらむ。

 

 立ち姿の横顔が、あたしをにらんでる。

 にらんでいるけども、可愛いよね?

 こないだの仕事で鈴木まあやのスタントをやった。

 横向きから後姿にかけては、まあやに似てる! 聞いてビックリひたんだけど、本番直後に観た映像は、ほんとにそっくりだった。

 で、今も、事務所の稽古場の鏡に映して確認してるわけ。

 ……90度回って、正面になると、ぜんぜんアキマセン。

 本物にくらべて、5ミリほど頬がくぼんでる。目蓋も一重で腫れぼったくて、おまけに瞳が小さくて、ちょっと目を見開くと、アニメのかたき役かっちゅうくらいの三白眼。普通にしていても、ちょっぴり顔を伏せると……やっぱ、三白眼。

 あ、これって、黒板見てる時の顔の角度……ちょっとヤバいよ。

 小学校入学以来「風間さん」「はい」と授業で何度も繰り返されたシチュエ―ション。

 こんな顔で見上げられたら――こいつ、ヤバくね?――ぜったい思われてる。

 おまけに眉と眉の間が狭くって、なんだかキツメ。

 まあやの眉は微妙に太目なんだけど、程よく垂れて離れている。そして眉頭も微妙に上がってるもんだから、ちょっとケナゲで、保護してあげたいって気にさせる。

 ほら、男はつらいよの寅さん、その寅さんに「いい加減にしてよ、お兄ちゃん!」と迫る時のさくらって感じ?

 いっしょうけんめい怒ってるんだけど、怒ってる方のさくらを保護してあげなきゃって思わせる、あの眉だよ。

「いい加減にしてよ、お兄ちゃん!」

 試しに小声でやってみる…………ダメだ、これから殺すぞって顔だ(-_-;)

 

「なにやってんだ?」

「ヘ!?」

 

 急に声かけられてビックリ! 

 振り返ると嫁もちさんがチャンバラ用の刀を持って立っている。

「いいえ、ちょっと表情の練習」

「表情の練習なんかしても、カメラは写してくれないよ、エキストラだから」

「あ、えと、今日は殺陣の練習なんですよね?」

「そうだよ」

 そうなんだ、今日は仕事の幅を広げるために殺陣の練習に来たんだ。ただの通行人と違って、殺陣ができると、ギャラガ違う。こないだ、まあやの代わりに階段落ちしたのに敏感に反応したのが経理担当の金持ちさん。

「殺陣やってもらえると、事務所に入るお金もちがうんだよねぇ」

 ということで、指定された30分前にはジャージに着替えて待機していた。

「とりあえず、振ってみて」

「はい」

 ブン! ブブン! ブン!

「うん、さまにはなってるね」

「子どもの頃から、お祖母ちゃんとチャンバラごっこはやってましたから(^_^;)」

「よし、じゃあ、すっ飛ばして、こっちに換えてみようか」

「はい……おっと」

 持った手応えで分かった。こいつは本身の刀だ。

「歯止めはしてある、それで、あれを狙ってみて」

 嫁もちさんが示したのは、畳表を丸めた居合切りの的。それに、失敗したコピー用紙が巻かれていて、大きな綿棒のようになっている。それが三つ並べられている。

「目標、一秒で駆け抜けて胴を払う。ただし、殺陣だから当てちゃダメ。当てた感じで駆け抜けて。刃先には印肉付けてあるからね。印肉が付かないように、それでいて、ほんとに切ったみたいに」

「はい、分かりました!」

「撮影と同じく、五秒前からいくよ」

「はい」

「5……4……3……2……(1)……!」

 

 !!!

 

「0・8秒!」

「どうですか?」

「……よし、印肉もついてない。ここまでできたできたら、今日は、もうやることないよ」

「え……あ、でも、殺陣って人と絡むでしょ?」

「うん、今日はオレ一人だけだし、バク転とかは、テストの日のあれでもう完成の域だしね。まいったよ、そのちゃんに教えることは、いまのところ無い」

「そ、そうなんですか(^_^;)?」

「しいて言えば、そのちゃんのは、限りなく実戦に近いから、もう少し抑えた方がいいかな。慣れない役者さんだと怯えて撮影にならないかもしれない」

「あ、あはは、そうですか」

「そのちゃんのは、五秒前の目力だけで殺せそうかもな(^_^;)」

「ハハハ……」

 ちょっと傷ついたよ。

「稽古長引くかと、お弁当用意してきたから、食べるかい?」

「あ、はい、いただきます!」

 正直、時間に遅れちゃいけないと思って、トースト一枚で来たから、ちょっと腹減り。

「うわあ、めっちゃきれいで美味しそう!」

 大きめのタッパに入ったお弁当は、まるでお花畑。

 あたしが、ネットを師匠に、見よう見まねで作るご飯よりも百倍きれいで美味しそう!

「やっぱり、お嫁さんが作るんですか!?」

「よしてくれよ、言ったろ、嫁もちってのは忍名で、ほんとは独身なんだって」

「ああ、そうでしたよね、ごめんなさい(^_^;)」

 じゃ、誰が作ってるんだろう……思ったけど――聞くな!――と顔に書いてある。

「…………」

「あ、そうだ、これ返しておきます」

「ん、文庫本?」

「初日、家に帰ったら背中に入ってたんです」

「……太閤記!?」

「ハハ、ちょっと信じられないんですけど、帰ったら背中が凝っちゃってて、お祖母ちゃんが『こんなのが入ってるよ』って」

「オン アビラウンケンソワカ! エイ!」

「え?」

 嫁もちさんが、お祖母ちゃんと同じ呪を唱えると、文庫本は無数のポリゴンのようになって消えてしまった。

「このことは、社長にも誰にも言っちゃダメだ」

「えと……文庫は?」

「そのの中に戻した、ちょっとえらいものをしょい込んだね」

「そ、そうなんですか?」

「ハハ、まあ、いまのところ気にすることはないさ。さ、お弁当食べてしまお(^▽^)」

「は、はい」

 聞いちゃいけないことなんだ……なにかつかえたようで、お弁当どころじゃないんだけど、二つ目のお握りに手を伸ばしたころには、どうでもいいことのように思えて、しっかり特製のお茶までいただいてしまった。

 百地芸能事務所は、いろいろありそうだよ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・046『函館の八幡坂』

2022-07-05 06:21:47 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

046『函館の八幡坂』 

 

 

 

 わき腹をつつかれて目が覚めた。

 
「あ……寝てしまった」

「次だよ」

 つついた奴がニコニコしている。ん? ねね子か?

「おまえ、まんま……化けなくていいのか?」

「今はなな子、ほら、下りるよ」

 東急の宮の坂駅……と思ったら、街中を走る路面電車だ。

 末広町という停留所で降りる。

 見送る電車のロゴは……函館の市電になっている。

「函館……何年前だ?」

 宇都宮 郡上八幡 根岸八幡 石清水八幡宮 いずれも四十年ほど昔の昭和だった。

「たったの一年前さ、行くよ」

「アグレッシブだな、ねね子」

「なな子」

「あ、すまん……しかし、なかなか、この時代の意識にならないぞ。まだ、武笠ひるでのままだぞ」

「まあ、ちょっとね……」

 停留所を下りて歩道に移り百メートルほど歩くと『八幡坂⇒』の標識。上ったところに八幡宮があるのだろう。

 角を曲がるとデジャブ。デジャブの八幡坂を生徒たちが慣れた足どりで登っていく。

「アニメに出てくる高校生みたいだな」

 男子は袖口、女子はスカートの裾に二本の線が入っている。アニメでは、制服を単調なものにしないためにラインが入れられていたり、セーラーの襟を胸元近くで角度をつけられていることが多いのだが、ここの生徒たちの制服には、アニメのようなそれである。

「あたしたちだって、そうなんだよ」

「え? ああ……」

 気づくとなな子もわたしも同じものを着て、肩に通学カバンを掛けている。

「……ここ『ラブライブ!サンシャイン!!』に出てくるよな?」

「うん、シーズン2」

「なな子、ちょっと歌ってみ」

「なんで?」

「いいから、歌ってみ」

「えと……ネコ踏んじゃった♪ ネコふっじゃった♪ ネコ踏んづけちゃったら……」

「オンチだな」

「あー歌わせといて、それはないぞヽ(`Д´)ノプンプン」

「……アニメのキャラになるというわけでもなさそうだな」

 
 坂道を上ったところに……八幡宮は無かった。

 
「学校だぞ」

「当たり前でしょ、平日に高校生が制服着ていくところは学校しかないじゃない」

「ねね子、喋り方が普通だぞ」

「ゆったでしょ、なな子なんだから」

「そか……」

 
 北海道八幡坂高校、道立の『立』が抜けているが、北海道では『立』を付けないのが普通らしい。

 
「一時間目は体育だ……よし、行くぞ!」

「あ、待って!」

 学校は標高差四十メートルの間に雛祭りの段飾りのように施設が散らばっている。それが生徒の身体能力に挑戦しているようで、面白くなって駆けてしまう。

「アハハ、どうだ、一番乗りだ!」

 昇降口で上履きに履き替えると、教室までダッシュ! 着替えの体操服を掴んで更衣室へ、十秒で着替えると、敷地の最高峰にあるグラウンドに駆けて、またまた一番乗り。用具倉庫からラインひきを持ち出して、消えかかっているトラックを引きなおす。

 今日は新学期から始まった短距離走の測定テストだ。

 わたしは体育委員のようで、みんなに号令をかけて準備運動をやって整列させ、先生がやってきた時には準備万端整っている。

 測定結果は、クラスで一番……いや、学校で一番になってしまった(^▽^)/

 授業は普通に大人しく受けたが、休み時間は高低差が大きい学校のあちこちを飛び回った。

 雛壇の一段目が校門、二段目と三段目が校舎で、下の校舎の三階部分が渡り廊下で上の校舎の一階部分に繋がって、上の校舎の四階分が体育館の一階、体育館の屋根が、それでもグラウンドの高さには十メートル足りないという立体ラビリンスなのだ。

 遠い昔、蛮族の迷宮城塞に殴りこんだ時のことを思い出して、ちょっと楽しくなった。

 そして、こうやって飛び回ること一つ一つに意味があって、先生の用事を二件片づけ、気分の悪くなった生徒を保健室に運び、技能員さんの階段修理を手伝い、ケンカの仲裁をやって、校舎の樋(とい)に嵌まった猫を助け出し(発見したのはねね子のなな子、ややこしい)たりもした。

 放課後は、部活に悩んでいるというコーラス部の同級生を元気づけ、いっしょに音楽室へ行って、一時間歌いまくった!

 
「ひるで先輩、すごいです!」

 なな子といっしょに校門を出ると、一年生の眼鏡っ子が駆け寄ってきた。

 
「いつも素敵だと思っていましたけど、今日の先輩は際立っていました。いっぱい人の役に立って、それでいて、何をやるのも楽し気で、感動しました。それに、この子も……」

「あ、その猫?」

「はい、先輩が樋に挟まってたのを助けてくれたニャンコです。ノラで、わたしが世話してたんです。今日、連れて帰って、家で飼います。本当にありがとうございました!」

「ニャーー」

 ネコも、改めて礼を言う。

「それじゃ、失礼します!」

「お、おう」

 眼鏡っ子は、ハリストス正教会の方へ、幾度も振り返っては手を振って帰って行った。

「名前も聞かなかったな……」

「あれでいいニャ」

「ねね子に戻った?」

「あ、つい緊張がほぐれて(*ノωノ)」

「しかし、本当に楽しかった。礼を言うぞ」

「意味はあるニャ、あの子は漫研の子でニャ、数年先には今日のひるでの感動をモチーフにマンガを描くニャ。アニメにもなって、みんなに夢を与えるのニャ」

「そうか、意味はあったんだな」

「それに、今日の事が無いと、あの子は来年コロナに罹って死んでしまう。いろいろ既往症のある子だからニャ」

「そうなのか?」

「そうニャ、人は最後には希望で救われることもあるのニャ(^^♪」

「そうか、ひとりではしゃぎまくって、ちょっと恥ずかしいところだった。よかった」

「じゃ、行くニャ!」

 
 夕陽を受けながら下る八幡坂は、アニメの大団円のように素敵だった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする