大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・319『めぐりんからの手紙』

2022-07-10 15:31:17 | ノベル

・319

『めぐりんからの手紙』さくら   

 

 

 一昨日は、ごめんなさい。そしてありがとう。

 

 みんなには言ったことないけど、あれがわたし、古閑巡里の持病なんです。

 度を超えたショックを受けたり、極度に興奮すると過呼吸になって、ひどいときは意識を失ってしまいます。

 小学校の頃にお医者さんに診てもらったんですけど、原因はよく分かりません。

 とにかく、興奮しすぎないよう、ショックに陥らないよう、わたしも家族も気を遣ってます。

 父は陸上自衛隊の幹部です。

 階級は一佐

 いわゆる職業軍人なので、子どもの頃から引っ越しと転校を繰り返しています。

 父は、二佐になったとき「これからは、自分一人で転勤するから、巡とお母さんは家を買って定住しよう」と言ってくれました。でも、わたしもお母さんも、定年で退官するまで、父に付いていく決心をしました。

 家族は、できるだけいっしょに暮らすものだと、わたしもお母さんも思っているからです。

 今年は、年度末の急な異動で、わたしとお母さんは大阪に引っ越すことになりました。

 引っ越して真理愛学院に入って、酒井さんや榊原さん、そして散策部の夕陽丘先輩、ソフィー先輩に出会えて、とてもラッキーでした。

 めったに会えない父ですが、日に一回、お昼休みに入った時にメールをくれます。

 訓練などでメールが送れない時は、事前に連絡してくれます。

 それが、一昨日は、事前の連絡無しにメールが来ませんでした。

 これは、なにかが起こったに違いない。

 そう思って、直ぐにネットで調べてみました。

 訓練でもないのに、連絡が来ないのは緊急事態が起こったに違いないからです。

 そして、調べてみたら、奈良県で安倍元首相が撃たれて心肺停止状態というニュースが飛び込んできました。

 

「え、これでしまい?」

 唐突に終わってる手紙に、ちょっとビックリ。

 

 実は、今朝、郵便受けにメグリンの手紙が入ってた。

 新聞といっしょにリビングに持って行って、さっそく読もうとしたんやけど、やっぱり自分の部屋で読みたいんで持ってきたとこ。

「さくら、落としてたわよ」

「え、ほんま!?」

「うん、新聞の広告の上にあった」

「あ、ありがとう!」

「わたしも読んでいい?」

「へ?」

「だって、最後に『酒井さくら様 榊原留美様』って書いてある」

「え、え? あ、ほんまや! はい、どうぞ」

 留美ちゃんは一二枚目を、うちは、三枚目を受け取って続きを読む。

 

 父は、常々「ひょっとしたら戦争が起こるかもしれない」と言っていました。

 世界は、わたしたちがのほほんとしている内に、緊張の度を増しています。ウクライナのこともそうだし、南西諸島や北海道でも油断がならない状況になりつつあるんだそうです。ロシアの外務大臣は「北海道の北半分はロシアの権益がある」とか言っています。

 でも、父は「安倍さんがいる限り、当面は戦争に巻き込まれることはないよ」と言ってくれます。父は、安倍さんが打ってきた外交政策は功を奏しているから、安倍さんがいる限り大丈夫。安倍さん、まだまだお若いからね」と言っていました。

 わたしも、そうだと思っていました。

 その安倍さんが、撃たれて、そして夕方には亡くなってしまいました。

 お父さんは、そのことで、急な任務が入ったかして、メールが来なかったんだと思います。

 そう思ったら、目の前が真っ暗になり、あとは、みんなのお世話になった通りです。

 もう、元気になったので、お礼を兼ねてお知らせしなくてはと筆を執りました。

 メールやラインにしなかったのは、スマホやパソコンでは情報が洩れるからです。

 郵便では着くのが週明けになってしまうので、自分で投函します。

 ほんとうにありがとう。

 月曜日から期末テストですね、がんばりましょう!

 

 古閑 巡              酒井さくら様  榊原留美様

 

「よかった、めぐりん元気になったんだ!」

「う、うん……」

「え……どうかした?」

「明日から試験やいうのん、忘れてた!」

「ええ!?」

 一昨日から、安倍さんのことやら、参議院選挙のことやらでネット見まくりで、ぜんぜん気ぃつけへんかった(;'∀')。

「もー! 数学と英語欠点なのに、なに言ってんの!」

「る、留美ちゃんこわいよ~」

「さっさと顔洗って! すぐに勉強開始!」

「せやけど、朝ごはん……」

「一時間、勉強してから! さっさとやる!」

「は、はい~~~(´;ω;`)」

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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くノ一その一今のうち・12『鈴木まあやと回覧板』

2022-07-10 10:08:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

12『鈴木まあやと回覧板』 

 

 

 今日は時代劇のエキストラ。

 

『吠えよ剣』というアクション系時代劇。幕末、尊王攘夷で煮え立っていたころの若者たちの青春群像的なドラマ……というのは、嫁もちさんの話。

 歴史に疎いあたしは、説明聞いてもよく分からないんだけど、幕末ものなら、きっと切ったはったがあるはずだから、覚えたばかりの太刀廻りのスキルが活かせる……緊張しながらも、ちょっと嬉しい。

 事務所のバンで撮影所のゲートをくぐると、見覚えのあるSUVが停まっている。

 鈴木まあや……分かったけども口にはしない。通行人のバイトの子が三人乗ってるから、先達としてミーハーなことは言えない。

「え、そうなんですか!?」

 着いてビックリ玉手箱。

 主役の男優さんが腰を痛めて太刀廻りができなくなったので、それ以外のシーンだけ撮ることになった。

 

 千葉道場の娘が町を歩くシーンを二つ、道場のシーン二つを撮ることになった。

 町娘の通行人の役……と、思ったら、道場に通う若侍1というのが回ってきた。

「そのっちは、お侍の方が向いてるよ」

 力もちさんの申し入れらしい。

 たぶん、着物の歩き方とか挙措動作が身についていないから。道場通いの若侍の方が、ヤットーをやってる分サマになるんだ。

 じっさい、道場のシーンでは、娘役の鈴木まあやが千葉周作と道場で喋るシーンのバックで、剣道の稽古をしているところと坂本龍馬の入門シーンとかを撮った。

 

「こないだは、どうもありがとう」

 

 撮影が終わると、鈴木まあやが、セットの裏で休憩してるあたしのところにやってきた。

「え、あ、分かるんですか? てか、憶えていてくれたんですか?」

 鈴木まあやにしてみれば、あんな撮影とかトラブルは日常茶飯で、たった五秒ほどのスタントやったエキストラなんて覚えてるはずないと思ってた。

「フフ、あなたのオーラは独特だもの」

「え、あ、そうなんですか?」

 エキストラって言うのは大道具といっしょだから、オーラなんか発しちゃいけない。

「あ、ちがくて。こないだは階段落ちで、今度は太刀合いでしょ、その時の迫って来る殺気……っていうか……職業意識ってか。わたしって、人覚えるの得意だし。とにかく、いい絵が撮れたし、またご一緒できるといいわね」

「はい、よろしくお願いします!」

 めっちゃ嬉しかった。

 でもって、撮影は、そこでおしまい。

 

 予定の半分の時間で済んだ……早く帰れるかと思ったら、事務所に帰って用事を頼まれる。

 同じギャラを払うんなら、ギャラの分は働かせようという社長……いや、金持ちさんの魂胆。

 倉庫の整理をやったあと、回覧板を回してくるように頼まれた。

「神田の商業地域でも回覧板なんてあるんですねえ」

「たいてい社長が持っていくんだけどね、社長に行かせると、行った先で根が生えちゃうから」

 金持ちさんが――困ったもんです――という顔で回覧板のボードを渡してくれる。

 

 忍冬堂……忍者プロダクションの隣にはうってつけの名前……と思ったら『すいかずら堂』と読むらしい。

 

「あ、おまいさんが、こんど来たって百地んとこの新人さんだね」

 店の奥に声を掛けようとしたら、後ろから声がかかったのでビックリした。

 そのいちとして目覚めてからは、特にブロックしない限り、たいていの人の気配は感じてしまう。

「ここいらの古本屋の半分は百地の係累だからね」

「え、そうなんですか!?」

「うん、忍者ってのは、派手に忍術使ったりじゃなくて、地味に情報集めるのが九割だからね。古本屋ってのは、都合が良かったんだろうよ。ま、いまは、名実ともに古本屋だけどね。おまいさん、来た日に、あちこちの古本屋から本が飛んできてびっくりしたろう?」

「あ、はい……って、おじさんたちの仕業だったんですか!?」

「まあ、あそこまでのことはめったにやらないんだけどね、風魔の娘とあっちゃ、仕掛けなきゃ面白くねえ」

「あ、ははは……そうなんですか(^_^;)」

「おまいさん、なにか突き刺さった本は無かったかい?」

 え……!?

「あったって顔だね……太平記……信長公記……真田武芸帳……いや、太閤記……だな」

「…………」

 反射的に身構えてしまう。

「おっと、ヤットーは苦手なんだ、勘弁しとくれ」

「どういうことなんですか?」

「優れた忍者には、宿命的な回り合わせみたいなもんがあってね、それが、突き刺さった本で分かるんだ。あ、本物の本を投げてるわけじゃねえ。古本屋が気を飛ばすと本の形になっちまうんだ。その中に――試しの気――的なのがあってね、それで分かる……まあ、一種の占いだと思えばいいさ」

「そ、そうなんですか……あ、忘れるところだった! 回覧板です」

「おう、どうれ……ハハ、ほら、もう書いてある」

 おじさんがバインダーごと見せてくれた回覧板には――太閤記――と書いた紙が挟まれていた。

 

 なんで!? てか、なんなんだ!?

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・051『玉代の玉依姫』

2022-07-10 05:27:11 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

051『玉代の玉依姫』 

 

 

 
 今の言葉分からなかったでしょ?

 
 電車道に差しかかると通学カバンをぶん回すようにして玉依姫が振り返る。

 先ほどまでの目がくらむような美しさではないが、清楚系のアイドルが務まるくらいには美少女だ。

「いちおう、この時代に順応できるスキルは持っているけど、その分負荷がかかって本来の力は発揮できない。なまじ普通に見えてるだろうけど、心は昔のままだから、失敗しそうになったらサポートお願いね」

「あ、うん。で、ここはどこなの?」

「後ろ向いてごらん」

「ん…………おお!!」

 振り返ると東の空に濛々と煙が立ち昇っている……最初に見た煙はこれだったのか……宝永大噴火で見た富士山を思い出す……ということは火山? あ、桜島か!?

 
「承知してくれたようね。さ、見とれてちゃ遅刻するわよカナちゃん」

「カナ? あ、わたしのことか」

「そうよ、伊地知香奈枝さん。あ、わたしは荒田玉代、タマちゃんだからね……あ、電車来た!」

 ちょうど停留所にやってきた路面電車に乗り込む。

 チンンチン ホワーーン

 発車の合図と警笛が鳴って、ゴトンゴトンとレトロな響きをさせながら路面電車が走り出す。

 車内の半分以上が高校生、高校生の半分が県立忠勇高校、残り半分が我々の天文館高校だ。

 
 甲突川を跨ぐ武之橋に差し掛かって、空間が開け錦江湾と、その向こうの桜島のパノラマが開ける。

 
「うわーー」

 思わず見とれると玉代さんがクスリと笑う。

「ふふ、なんだか鹿児島初めての人みたい」

「え、あ、アハハハ」

 初めてなんだけどね。

 わたしの歓声は目立たなかった。

 というのは、他の乗客も程度の差はあれ声をあげたりため息をついたりしている。

「愛でてるわけじゃないわ」

 微妙な憂い顔で玉代さん。

 分かっている。鹿児島人にとって、桜島は誇りであるとともに頭痛のタネだ。

 程よく噴いているうちは心振るわせる桜島だが、度を越すと猛烈な火山灰を噴き上げ、鹿児島の街ぐるみ火山灰に包まれてしまう。単に空が曇って視界が悪くなるだけではない、甚だしい場合交通事故の原因になったり飛行機も飛べなくなってしまう。雨でも降ろうもんなら、あちこちの下水が詰まってしまい、復旧に大層なお金がかかる。むろん、市も県も対策費は計上しているが、この噴きようでは、一年分の予算が消えてしまうかもしれない。

「ま、鹿児島市は西っかわだから、偏西風とか吹いてるし」

 中学生程度の慰めを言う、「そだね」と返して「おはよ」と乗り合わせた級友に手をあげ、互いに乗客の間をすり抜け、来週に迫った文化祭の話に湧きたつ。

 天文館前で降りて学校に向かう。

 周囲の人が見れば、ちょっと美人でお喋りの玉代が級友たちとお喋りしながらの登校に見えるだろうけど、実体の玉依姫はス-パーコンピューターのような処理速度で二十一世紀の鹿児島の街と時代の空気を理解している。理解すると同時に、自分が存在することが当たり前に環境や人の心を書き換えている。

 それが分かっているのは、最初から友だち設定のわたしだけだ。

 通学路は繁華街の一本手前の道だ。通勤通学や配送の車などが行き交って賑やか。

 あ!?

 前方のビルの屋上に違和感……一呼吸する間もなく、最上階の外壁に設置されている大きな看板が傾いた。

 跳躍して支えようかと思ったが、ヴァルキリア主将の俊敏さを持ってしても間に合いそうもない。

 このままでは犠牲者が出る!

 グガ ガガガ

 逡巡している間に、看板は最後の停め金具がねじ切れて落下し始めた。

 キャーー!!

 通行人たちが気づいて悲鳴を上げる! あと二メートルほどで大惨事!

 

 一瞬時間が停まった。コンマ五秒ほどだろうか、すると、看板は逆もどしになって、数秒かけて元の位置に収まった。

 地上は、何事もない通勤通学の様子に戻っている。

『びっくりさせてごめん、ちょっと暴走しかけちゃった(;^_^A』

 玉代の思念が恥ずかしそうに届く。

『気を付けてね』

『お、おう(^_^;)』

 思念に顔文字が入っている、吸収するのは早いようだ。

 
 ねね子、どこだ? 今度は楽しんでばかりもおられない様子だぞ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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