大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 84『絶体絶命 茶姫と共に』

2022-07-31 11:10:27 | ノベル2

ら 信長転生記

84『絶体絶命 茶姫と共に』信長 

 

 

 三国志を出ることだ。

 

 それしか馬を疾駆させている理由は無い。

 曹素が勅命を読み上げて呉の討滅を命じてしまった現在、茶姫のとる道は勅命通りに呉を奇襲する以外には、拒絶の意思を自死をもって伝えるしかない。勅命に反したとあっては、たとえ魏王曹操の妹であっても命は無いのだ。曹操は残虐非道の王だ、骸になった茶姫をそのままにはしない。首を切って洛陽の城門に晒すだろう。バラバラにされた体は城壁に吊るされて、カラスや獣たちが喰らいつくすままにする。三国志における裏切り者の末路は惨い。

 であるから、茶姫を強奪するようにして馬を走らせる。そのことを承知しているから、妹のシイ、いや、もう市でよいだろう。市も戦国の世に翻弄されて、この転生の世界にやってきた女なんだからな。茶姫を救った時点で悟っているはずだ。

「……道を変えた方がいい」

 茶姫が口をきいたのは、南への古街道が干からびた蛇のように痩せ始めた峠に至った時だ。

「これから先は放置されて獣道同然になっている」

「どうするのぉ……(╥﹏╥)」 

 清州の町はずれで迷子になった時のような情けない声で市が馬を寄せてくる。

「本街道に戻って洛陽へ……」

「ダメ、殺されて晒し首になる!」

「分かった、賭けるんだな」

「わたしが捕まるようなら、二人は逃げて。暴れまわって時間を稼いであげるから」

「是非に及ばず!」

「ちょ、あんた、本能寺、その決め台詞で自滅したのよ!」

「付いてこい!」

 市の心配はもっともだが、俺は、この決め台詞に命を吹き込み直してやる!

 

 人間五十年 下天の内を比ぶれば 夢まぼろしのごとくなり~

 ひとたび生を受け 滅せぬもののあるべきか~ 滅せぬもののあるべきか~

 

「敦盛だね……」

「知っているのか?」

「なぜだかな……扶桑からきた商人か学者に聞いたのかもしれない」

「で、あるか」

「扶桑の戦国というのは、お洒落なものねぇ……」

「おにいちゃん、関所が見えてきた」

「押し進もう、三人とも近衛将校のナリだ。勢いでいける」

 すると、市が単騎で前に飛び出した。

「市……」

 市は、関所司令の前で、カツカツと馬を輪乗りしながら声を張り上げた。

「火急の近衛伝令である! 馬を乗りつぶした、替え馬を寄こせ!」

「ハ、ただいま!」

 市の迫力に、関所司令は自ら馬を曳き、茶姫を乗り換えさせた。

「大儀であった!」

 それだけを千切るように叫んで、本街道を西に進む。

 替え馬が功を奏して、勢いを落とさぬままに三つの関所を駆け抜け、洛陽の鼻先さえ掠め、さらに二つの関所を東に抜けて、北方の扶桑(転生国)との国境を目指す。

「お兄ちゃん、狼煙が上がってる!」

 最後の関所を目前にした時、関所の手前の狼煙台に煙が上がった。

「強行突破するぞ」

「すまんな」

「「「ハッ!」」」

 三騎そろって馬腹を蹴って、一本棒になって突き進む!

「茶姫さま! お止りください! 茶姫さま! 国王陛下の命でございます!」

 関所司令は――茶姫を通すな――という命しか受けていないのだ、口上は貴賓に対するそれのままである。

「狼煙では、そこまで詳しくは伝えられないからね」

 いずれ、茶姫捕縛か討滅の命を持った早馬がやってくるだろう、敵認定される前に三国志を脱出しなければならない。

「あいにく、絶好の快晴だね……」

 茶姫が半ば諦めたように馬を寄せてくる。空気が澄んでいれば狼煙は二つ向こうの狼煙台からも視認されるだろう。

「ああ……」

 市が絶望の声を上げる。

 なんと、眼前の山に遠近二つの狼煙が上がり始めている。

「これまでだ、わたしはここで終わりにする」

「茶姫!」

「首を晒されるのも、獣どもの餌になるのもごめんだ。面倒だが、首を切って、胴と首を別々に埋めてはくれないか」

「そ、そんなことできるかっ!!」

「市……」

「できるかあ!」

 涙とヨダレでぐしゃぐしゃになって叫ぶ市に、戸惑いと感動の入り混じった目を向ける茶姫。

「こんな、こんなことで死んじゃいけないじょ(><)! 戦とか謀略とかで死んじゃうなんて、絶対、絶対、絶対にダメなんだかりゃ(><)! 死んだりゃ、ダ、ダメエエエエエ((#`O´#))!」

 こんな市は初めてだ、信長ともあろう者が、ちょっと感動しているかもしれないぞ。

 茶姫は、穏やかで、とても優しい顔になって馬を寄せると、優しく市をハグした。

「ありがとう、市の、その涙が最高の花向けだよ」

「茶姫ぃぃぃぃぃぃ!」

 え?

 その時、二筋の遠い方の狼煙が消えてしまった。まだ僅かに立ちはじめたばかりの煙は二呼吸するほどの間に霧消してしまった……いや、手前の狼煙も続かなくなったぞ。

「駆けるぞ!」

「「え?」」

 時に判断は理屈ではない、ああしてこうしてという理屈は後からやって来る。

 閃いたら即行動だ!

 ダダダダダダダダダダダダダダダ

 半里ほどの疾駆、鞍部を超えたら国境であろうかというところに二つの人影。

 中国娘の成りをしたそれは……宮本武蔵!?

 その隣のデカいのは?

「乙女会長ぉぉぉぉぉぉ!?」

 市が目を剥いて驚いた……

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・072『利根4号機・1』

2022-07-31 06:52:25 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

072『利根4号機・1』 

 

 

 
 波しぶき……え?

 
 意識がクリアーになると船の上だと言うことが分かった。

 振り仰ぐと、頭上に電柱のようなものが二本のびている。振り返ると、軍艦の大砲だと分かる。

 わたしは、軍艦の前甲板の砲塔の前に立っている。

 波浪がきつく、大きな軍艦のようだけど結構揺れる。

 無意識に足腰で揺れをいなしているのは、数多くの戦場で馬を乗りこなしてきたからだろう。

 右舷に向かって数歩出ると、同じ15サンチの砲塔が背負式に二基……いや、二番砲塔の後ろにさらに二基。その後ろに小振りな艦橋が精悍な騎士のヘルムのように座っている。艦橋の後ろには演奏直前の指揮者が伸ばした腕のようにマストのヤードが張りだし、その後ろには蹲ったような煙突が真後ろに煙を吐き出し、煙の合間に後部マストに翻る旭日旗が窺える。

 艦橋や甲板のあちこちに対空・対水見張り員がいるのだが、わたしの存在に気づく者はいない。

 この艦で何かをしろというわけか……う!?

 
 この艦に関する情報がインストールし終えたアプリのようにクリアになった。

 
 昭和十七年六月五日 重巡利根はミッドウェー攻略艦隊の一艦として南雲中将指揮のもとに中部太平洋を驀進している。攻撃目標はミッドウェー島であるが、近海に敵空母艦隊を発見すれば、そちらを優先的に叩くべしとの命を受けている。

 重巡利根は、その――居るかもしれない――敵空母部隊を発見するため、索敵機を飛ばす準備の真っ最中なのだ。

 史実では、この時の利根四号機がカタパルトの故障のために出発が遅れて、この時各艦から飛びたった数十機の索敵機の中で、ただ一機敵空母部隊を発見して味方艦隊に通報している。

 しかし、通報は間に合わず、ほぼ同時に日本艦隊を発見した敵攻撃機部隊によって、空母四隻を撃沈されて、日本は敗戦に至るまで勝機を失うことになる。

 これを何とかしろというわけか?

 わたしは四基の砲塔の脇を通り、タラップを上がって艦尾の飛行甲板を目指す。

 飛行甲板には不調に気づいた飛行科の整備兵たちがカタパルトに取りつき、四号機のコクピットから操縦士と測敵手が悔しそうに下りようとしている。

 このカタパルトを直せばいいわけだな。

 ん?

 なんだ、この胸騒ぎ。カタパルトの修理だけではうまくいかない気がしてきた。

 取りあえずは艦橋に向かった方がいい。

 数千回に及ぶ戦いの経験が飛行甲板に下りることを躊躇わせ、わたしを艦橋に向かわせた……。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・20『ブツを探しながら……』

2022-07-31 06:31:01 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

20『ブツを探しながら……』 



 三つの茶封筒を回収した俺は、部屋に戻って中身を点検する。

 茶封筒は、三つとも手触りからDVDとかのパッケージが複数入っているのは確か!

 

 一つ目を開けて「これだ!」と思った。

 パッケージの絵がいかにもアニメってかラノベの表紙っぽく見えたからだ。
 
 シグマは、偽装のためブツをアニメのパッケージに入れている。

 勢いのまま開けようとしたらセロファンのラッピングがされたままで、どう見ても新品だ。

 ん……『ご注文はウナギですか?』ラノベっぽいタイトルの下にウナギを追いかける男女のキャラ。

 その下に小さく《東京私立大学連合》と書かれている。

 ウ:うまい進路の見つけ方  ナ:なんでもチャレンジが道を開く ギ:ギブアンドテイクの学生生活

 どうも、東京私立大学連合というところが高校生の進路決定のために作ったDVDのようだ。

 他の二つのパッケージも、映画やアニメの体裁で作った案内DVDやらCDの類だ。

 

 思い出した。

 

 進路指導室の前には、学校やら企業から送られた資料が山と積まれていて自由に持って行っていいようになっている。

 俺も四月から三年生で心がけなきゃいけないんだが、バーゲン品の平積みみたいなのを手に取ろうとは思わない。

 中学生の小菊には珍しいんだろう、これと思う奴を備え付けの茶封筒に入れて持って帰ってきやがったんだ。

 他にもパンフやチラシが入っていて、小菊の関心の傾向が分かる。

 予想通り文系ばっかで、平凡な文学部から芸術系のものまである。

 なになに……情報工学? 理系と思いきやゲームクリエーターコースに蛍光ペンでアンダーラインが引いてある。

 こらえ性のない菊乃には無理だなあと思ってしまう。

 芸術系は、アニメーターや舞台芸術、声優コース、マンガコースなどがチェックしてある。

 ま、好きなところから手を出してみようという姿勢は悪くないだろう。入学前からアグレッシブなのは好ましい、ほんと小菊ってやつはツンツンしてなきゃいいやつ……な、なに評価してんだ!?

 いやいや、ブツだ、ブツを探さなきゃ!

 二つ目の茶封筒も似たり寄ったりだが、専門学校と就職の資料が多い。

 こちらにもDVDやCDが入っていて、近頃の進路資料のデラックスさに驚く。

 自衛隊や警察、消防のパンフに吉本興業の漫才学校のまで入っている。

 手あたり次第なんだろうけど、入試を受けに行って、これだけの進路資料を持って帰る好奇心はスゴイと思う。俺なんか、ノリスケと二人学食のガラス戸に顔くっ付けてメニューと値段の確認だったもんな。

 う~ん、小菊侮りがたしだ。

 て、また感心してどーすんだ、三週間もすれば、俺も三年生、我が身のことじゃねえか! 

 ってか、ブツだブツ!

 ブツは三つ目の茶封筒に入っていた。

 俺はこういうところがある。

 なにか探し物があるときは、ぜんぜん関係ないところばかり探して、肝心のものは見つからないか、一番最後に現れる。先天的に要領が悪い。

 ま、いい、無事に発見したんだからな。

 ただ、安心が確信に至るには少し時間が掛かった。アニメのパッケージが四つも入っていたからだ。

 いちいちパソコンにロムを飲み込ませ再生して見なければ分からない。どうやら、小菊が、そうとは知らず入れたのが混じってしまったようだ。

 で、ヒットしたのは四つ目のパッケージ。やっぱりな。

『近ごろ妹の様子が変だ!』という俺の現状をタイトルにしたようなのに入っていた。

 ブツを発見したら、三つの茶封筒を戻さなければならない。

 小菊が二階に戻って来た気配はない。

 俺は綿入れ半纏の腹に袋を隠して一階の店を目指す。

 ドアに手を掛けたところで、半纏の下から、サラサラとパンフが落ちた。

「オッ……」

 一つ上下を逆さまに持ってしまったようだ。

 急いで書き集めると……一枚の宝くじが目に留まった。

「宝くじまで入れてやがる」

 袋に仕舞いかけて思いとどまった。

 ひょっとして何等賞か当たったりしてねえだろーな。

 俺は、デスクに戻り、パソコンで当選番号を検索してみた。

 え……え…………ま、まさか( ゚Д゚)!?

 足が震えた。

 宝くじの番号は、何度見ても一等の一億円だったのだ!


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫         父
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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