大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・19『貫川(つらぬきがわ)から』

2022-07-27 13:42:59 | 小説6

高校部     

19『貫川(つらぬきがわ)から』 

 

 

 要の街を南北に貫く一級河川を、その意味の通り貫川(つらぬきがわ)という。

 

 あんまり当たり前すぎでそのままの名前なので、要でなくとも日本人の半分はイメージしながら読めるだろう。

 貫川には幾本も東西への支流が繋がり、その支流も支流ごとに南北に伸びる水路によって結ばれて、要の街が水運によって開けた街であることが偲ばれる。

 その支流の一つにかかっているブリキ橋、そのたもとに螺子先輩と立っている。

 プッペでメンテが終わった時に約束したツアーだ。とりあえず、今週いっぱいはやるぞと先輩は意気込む。

「『螺子を裸にするツアー』の一番は、やっぱりここだ!」

「あ、ただのツアーでいいですから(^_^;)」

「そうか、じゃあ『螺子のヌードツアー』だ」

「変わってませんから(-_-;)」

「じゃ、略してNツアーだ」

「ま、それでいいです」

 この喋り方で分かる通り、先輩は部活体だ。新品同様になったボディーで埃まみれの汗まみれにしたくないというので、古い方のボディーにしている。街の中を歩くのに、そんなに気を遣わなくてもと思うんだけど、おニューは大事にしたいという女の子らしいこだわりだと、一応は微笑ましく思っている。

「この橋の名前を知っているかい?」

「はい、ブリキ橋です」

「おかしいと思わないか?」

「え?」

「この橋は、小振りだが、堂々たる石橋だ。ブリキ製ではないぞ」

「あ、そうですね」

 子どもの頃からブリキ橋で耳慣れているから、ことさら「ブリキ」を不思議に思ったことは無い。

「正しくはブリッケ橋だ」

「あ。ああ! ブリッケがブリキに転化したんですね」

「ブリッケ、正しく発音するとブリュッケ(Brücke)、ドイツ語だ」

「あ、そうか。ドイツ人捕虜と関係があるんですね!」

 このツアーは、百年前のドイツ人捕虜と先輩の関係を探るというか確認する日帰りツアーなんだ。いや、何日かかかるから、通いのツアーかな。

「この先に捕虜収容所があったんだ。毎日散歩に出る時に、この橋を渡るんだが、痛みのひどい板橋だったんで捕虜たちが石で作りなおしたんだ」

「あ、そうだったんですか! それでブリュッケ! 設計したドイツ人技師の名前ですか?」

「いや、ブリュッケ(Brücke)はドイツ語の普通名詞で、ただの橋だ。英語で言えばブリッジ」

「そうなんだ」

「ドイツ人捕虜としては、自分たち捕虜も使うものだし、ことさら立派なものを作ったという意識も無くって『普通に橋でいいです、なにかいい名前があれば要のみなさんで付けてください』ということだ。捕虜隊長も面白い人物でな、ブリュッケがブリキに転化して、愉快に笑っていたそうだ」

「そうだったんですか」

「十年ほどは『ブリキ橋』と木の札が掛かっていたんだがな、朽ちてからは、そのままだ。空から見てみよう……」

 そう言うと、先輩はカバンから折り畳みのドローンを取り出した。

「貫川の意味は知っているかい?」

「これは日本語でしょ、まんま要の街を貫いていますし」

「むろんだ、感じでも『貫川』だしな……」

 ドローンは、あっという間に30メートルほどの高さに至った。コントローラーの画面には南に一本棒に伸びていく貫川が映っている。

「ああ、やっぱり真っ直ぐに貫いているんだ……」

「と、思うだろ……」

 ドローンは、グンとスピードと高さを増して、下流の方に進んでいく。

「あ……」

 河口近くになると、真っ直ぐだと思っていた貫川は、クニっと西の方角、角度にして10度ほど曲がって要湾に注いでいる。

「河口の際だし、緩いカーブなんで、地上からではほとんど気が付かない」

「なんで曲がっているんですか?」

「東の方に岩盤があってな、曲げざるを得ないんだ」

「そうなんだ」

「ドイツ人も不思議に思って、街の役人に聞いたんだ。するとな、貫川の『貫』は意味が違うことを知ったんだ」

「違うんですか?」

「ほら、拡大するとな……ブーツのつま先のようになっているだろう」

「ほんとだ、草書の『し』の先っぽみたいだ」

「その昔、狩りや戦で履く毛皮の靴を『貫』と云ったんだ。そのつま先の反り方に似てるんで、いつの時代からか貫川と呼びならわされた。ドイツ人も面白がってな、よく、川沿いを海辺まで散策したものだ。要の子どもたちも懐いて、夏の夕方、日本とドイツの唱歌なんか歌いながら散歩していたぞ……」

 ブーツの貫と動詞の貫くの二つの意味のかけ言葉、童話じみていて面白い。お祖父ちゃんは知ってるのかな?

 

 自転車に跨って海辺を目指す。先輩は学校を出る時から「二人乗りしよう!」とうるさかったが、さすがに、それは説得した。

 貫川の河口がブーツの先なら、そのブーツが蹴飛ばそうとしているのがドラヘ岩。イタリア半島とシチリア島の位置関係に似ている。

 岩の南端は海に突き出ているので、昔の子どもたちには、飛び込みとか、水遊びの名所だった。命に係わる水難事故が起こったわけではないが、要の小中学校では、ここからの飛び込みを禁止している。まあ、小学生はともかく、中学生以上は平気でやっている。僕はやったことないけどね。

「いつ来ても、いい風が吹いているだろ!」

 止そうと言ったのに、制服のまま岩に登る先輩。

「もう、気を付けてくださいよ」

「気にするな、鋲のためにブルマは穿いてるぞ」

「あ、えと……(-_-;)」

「ドラヘはドラッヘン(Drachen)、凧のことだ。凧を持った子が、ここまで上がって、糸を持った子が砂浜を走ると、きれいに勢いよく空に上がるんだ」

「それでドラヘ岩なんですね。それなら、凧持ってくればよかったですね」

「うん、思わないでもなかったが、凧揚げは、やっぱり正月だろ。正月までに研究して、素敵な凧を作ってくれ」

「え、僕がですか!?」

「そういうのは男の甲斐性だ」

「ですか(^_^;)」

 

 ザザーーーーー ザザーーーーー ザザーーーーー

 ニャーニャーー ニャーニャーー

 

 しばらく岩に腰かけて、潮騒と海猫の鳴き声を聞きながら浜風を楽しむ。

「よーし! 走るぞ!」

「え、砂浜をですか!?」

「そうだ、砂浜に高校生のカップルときたら、夕日を浴びながら走るしかないだろう!」

「カップルじゃないし! 靴に砂が入るし! やめて先輩! ちょ、先輩!?」

「そんなもの脱げばいいじゃないか、二人乗りしなかったんだから、これくらい付き合え!」

「ちょ、靴返してぇ!」 

 先輩は両手に二人分の靴を握って、キャーキャー言いながら砂浜を走る。

 漁を終えて帰って来る漁船の上でフィッシャーマンのおっちゃんたちがニヤニヤ笑って、先輩は益々調子に乗って走っていくし……今週いっぱい……まだ三日もあるよ(。>ㅿ<。)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・068『武笠の家が無い!?』

2022-07-27 06:45:28 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

068『武笠の家が無い!?』 

 

 

 
 食われてたまるか!

 
 間一髪のところでショコラモナカを避ける。

 不意を突いたわりにはショコラモナカにスピードは無い。チョコの飛沫がピピっと頬にかかる。

 そうか、焼きすぎて中身のチョコまで溶かしてしまったのか。祖母がタイマーを掛け間違ったか……しかし、それが油断だった。

 避けたところを、もう一つのショコラモナカが迫って来る!

 グワーーーッ!!

 両腕を顔の前でクロスして目を庇う。 

 まともに溶けたアイスやチョコを被っては目をやられる、目さえ開いていれば的確な反撃ができる。

 左へ飛びながら体を二回転させて着地、感覚的には開いているサッシから飛び出て庭に着地するはずだ。

 ズサ!

 確かに土の上に着地した。

 よし!

 振り返ると……家がない。

 

 え……………………………………………………………………………………………………………?

 

 近所の景色はそのままに、うちの家だけが消えてしまい百坪ほどの敷地は更地になっている。

 そして………………………………………時間が停まっている。

 着地で巻き上げた土や草、驚いて飛び立ったんだろう雀たちも、上空を飛んでいたヘリコプターもフリーズしたVR映像のようになっている。

 そして、なによりも敵であるショコラモナカの姿が無い。

 
「やられたね」

 
 敷地の前の道に大出井老人が立った。

「大出井さん……」

「すまん、ミミックの動きが速すぎた」

「やっぱりミミックだったんですか」

「わたしもホワイトミミックを持ってきていたんだけどね、ほら、武笠のお爺ちゃんに持たせたアイスたちがそうだったんだがね、間に合わなかった」

「大出井さん、あなたは……?」

「まだ分からんかい」

 そう言うと大出井老人はツルリと顔を撫でた。

 それは、懐かしくもおぞましい、ブァルハラの主神にしてわが父である主神オーディン……!?

「なんで父上が……?」

「苦労しているようだな」

「ああ、しかし、この異世界での役割も見えてきた。なんとかやっているぞ」

「なんとかではないだろう、今もミミックに呑み込まれて、こんな次元の狭間に飛ばされてしまった」

「ここは次元の狭間なのか?」

「ああ、なりそこないの世界、処理落ちして時間が停まってしまっている」

「うちの家は?」

「この世界では武笠家は存在しないんだ」

「どういうことだ?」

「ちょっと説明がいる……地べたに座っていては落ち着かん」

 オーディンが指を動かすとベンチが現れた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・16『キレた小菊』

2022-07-27 06:23:26 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

16『キレた小菊』

 

 

 バン!!


 食卓の上のあらゆるものが跳び上がった。

 祖父ちゃんも親父もお袋も松ネエも俺も、その衝撃に固まってしまった。

「ごちそうさま」

 蚊の鳴くような震え声で言うと、小菊は二階の自分の部屋に駆けあがっていく。

 タタタタタ

「あいつ!」

 俺は、小菊の無礼にブチギレて階段を駆け上がる。

 ダダダダダ

 バタン!

 あと一段のところで、小菊の部屋のドアが乱暴に閉まる。

 静かに三つ数えてから残り一段を上って小菊の部屋のドアの前に立つ。

 ノックしかけた右手のグーが停まってしまう。

 泣き声と共に呪いに似た絞り出すような声が聞こえてきたからだ。

―― どーせ、どーせ、小菊はなんにもできないよ、なんにもできないダメな子だよおおお! ――

 俺は右手のグーを下ろして、そのまま一階にもどった。

「しばらくそっとしておくんだな」

 お袋といっしょに食卓を拭いていた祖父ちゃんが穏やかに言う。

「ごめんなさい、あたしが要らない話ばっかりするから……」

 こぼれたお惣菜をまとめながら松ネエ。

 親父は飲みかけのグラスを持ったまま目だけでオロオロしている。

「由紀夫、グラスは飲むか置くかのどっちかにしろ」

「あ、ああ……ゲホゲホ」

 祖父ちゃんに言われて、グラスのビールを飲み干すが、むせ返る親父。

「もう、あんたは……」

 お袋がティッシュを箱ごと親父に渡す。


「で、マッチャン、@ホームのコスはどんなだい?」


 ヒラメの煮つけをほぐしながら、祖父ちゃんは松ネエに振る。

「あ、えと……」

「普通にやってよ、小菊も、その方が楽になる」

「う、うん」


 夕飯の食卓は松ネエが主役だったんだ。


 東京の大学に通うため静岡の実家からうちに越してきた松ネエは大したもんだ。

 俺が勢いだけで引き受けてしまったシグマの勉強も見てくれたし、お袋を手助けして家事一般もこなしてくれるし、アキバでメイド喫茶のバイトを始めるし、なんとも頼もしい限りなんだ。

 そのことが中心の話題になった。

 それが小菊には自分のこととして響いてしまう。

 まだ中三なんだから、松ネエと背比べなんかしなくてもいいんだ。

 でも、松ネエが褒められると、自分が女の子として何にもできないと思い込んで落ち込んで、そしてキレてしまったんだ。


 明日、小菊は入学試験だ。

 どこの高校を受けるかは俺には言ってくれないけど、これに落ちたら後が無い『分割後期募集』だ。


 もう少し考えてやればと、小菊の部屋をノックしかけて思った。

 でも、祖父ちゃんは一枚上手だ。

 こちらが狼狽えたり落ち込んでは、かえって小菊の負担になると考えたんだ。

「ほーー、メイド喫茶のコスってのは案外しっかりしてるもんなんだ!」

 景気づけに着替えた松ネエにファッションショーをやらせている。

「もっとペラペラのコスプレ衣装みたいなもんだと思ってたわ」

 お袋はスカートの裾をひっくり返したりして点検して、松ネエは慌ててスカートを押える。

「えと、スパッツとか穿いてないんでー(n*´▽`*n)」

「あ、ごめんなさい」

「でも、ちょっとおとなしめだなあ」

「今は見習いなんで、正規になったら、もっとホワっとゴージャスに……」

「なるほど、今は半玉ってとこなんだなあ」

 祖父ちゃんは昔の芸者になぞらえて理解をしている。

 そのあと、半玉の松ネエは祖父ちゃんとお袋のオモチャになって盛り上がった。


 風呂を上がって二階に上がると、小菊の部屋から二人分の声がした。

 祖父ちゃんが話をしてくれているんだ。


 静かに部屋の前を通ると「やだ祖父ちゃん(⌒▽⌒)」「アハハハ(´◠◇◠`)」と笑い声。

 俺が風呂に入っているうちに二階に上がり、頑なになった小菊を解きほぐしている。

 とうの昔に廃業したとはいえ、さすがは花街の置屋の爺さんだ、女の子の扱いには慣れている。

 やり方を聞いてみたいが、多分、俺がやってもうまくはいかないだろう。

 せめて、ωらしい、のんびりした足どりで小菊の部屋の前を通る風呂上りだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫         父
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任

 

 

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