大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・323『鏡の中の留美ちゃん』

2022-07-24 14:45:29 | ノベル

・323

『鏡の中の留美ちゃん』さくら   

 

 

 人生で一番楽しいこと。

 

 それはね、ウフフフフフ……思い出しただけでも幸せの笑みがこぼれてしまう。

 朝、目が覚めて、いっしゅんハッとする!

 窓から差し込む陽の高さで、いっしゅん――寝過ごした!――とビビるわけですよ。

 それが……せや、夏休みやってんわ! そう思い出して、体中に幸せな元気が湧いてくる。

 おまけに、夏休みは、まだまだ始まったばっかりで、一月後も、まだ夏休みとか思うと、うれしさ百倍!

 なんせ、ここ二年は流行り病のために、ちょー短い夏休みやったからね。うれしさ千倍ですよ!

 

「もう、いつまで寝てんのよ。朝ごはん食べて、さっさと宿題やっつけるわよ!」

 留美ちゃんが、呆れた顔で、けど、歯磨きの爽やかな匂いさせながら文句を言う。

「せやかて……しみじみとうれしいねんもん」

「だいたい、夏休みに入って三日も経ってるのよ、しみじみでもないでしょ」

「ええやんかぁ、留美ちゃんのケチぃ」

「はいはい、ケチでけっこう。言うだけ言ったからね、あとはヤマセンブルグから帰ってから泣くといいわよ……」

 留美ちゃんは、背中を見せて一階に下りていく。

 この三日、ずっと幸せを寝床で噛み締めるさくらです。

 ニャーー(=^血^=)

 ダミアが――怒られよったぁ――いう顔をして留美ちゃんの後を追って行きやがる。

 

 さ、三週間!?

 

 朝ごはん食べてると、留美ちゃんが「夏休みは、実質三週間なんだからね」と念を押す。

「まだ、始まったばっかりやん!?」

「ヤマセンブルグで一週間。準備とか時差ボケとかで、その前後二日は宿題どころじゃないと思うよ」

「ヤマセンブルグでも、やったらええやんか!」

「なにを?」

「宿題やんか!」

「「「アハハハハハ」」」

「ちょ、みんな笑うことないでしょ!」

 食卓を囲んでる家族が笑う。

「最初が肝心だからね、今朝の本堂はわたしがやっとくから、食べたらすぐに宿題やるといいよ」

 詩(ことは)ちゃんが、男気のあるとこを見せる。

 せや、大学生には宿題なんかないもんね。

「ダメですよ、詩さん。仏さまのお世話は別です!」

「どっちがお寺の娘かわからへんなあ」

「や、やらへんて言うてないやんか」

 テイ兄ちゃんのお返しに墓穴を掘ってしまう。

 

 まずは数学から!

 

 これは意見が一致した。

 中間テストで欠点とって、期末で挽回したばっかりのうちとしては、やっぱり、数学と英語からですよ。

「よし、じゃあ、一日一ページね」

「二日で一ページでええやんか」

「早く終わった方がいいじゃない。一日一ページだったら、ヤマセンブルグ行く前に終われるわよ」

「あんまり高望みしたら、早死にするよ……」

「さくらぁ……」

「え、なに?」

「そこの鏡で背中見てごらん」

「え、またTシャツ後ろ前!?」

「ううん、たぶん甲羅が生え掛けてるよ」

「え、ええ?」

 正直者のうちは、言われた通り首をひねって、鏡の背中を見る。

「え、どこに甲羅?」

 鏡の中の留美ちゃんに聞くと、なんと、留美ちゃんの頭にウサ耳が生えてるやおまへんか!

 あ、兎と亀!?

 鈍感なうちでも悟りました。

 で、もっかい振り返った留美ちゃんの頭には、もうウサ耳はありませんでした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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銀河太平記・120『那覇空港』

2022-07-24 10:48:42 | 小説4

・120

『那覇空港』心子内親王    

 

 

「辺野古から行くんじゃないの?」

 

 民宿を出た車は南西に向かっている。てっきり米軍との共同使用の辺野古に行くんだと思った。辺野古は民宿からは北西の方角だから、完全に真逆。

「軍の施設を使うと秘密が保てぬでござる」

「え、これって秘密なの?」

「いい女は秘密のベールに包まれているものでござる」

「え?」

 サンパチさんは誤魔化したけど、意味は分かっている。

 個人としてのわたしは、並みのハイティーンよりも好奇心が強いというだけのオチャッピーだけど、母から受け継いだ血は、自分自身の未来も運命を自分で決めることを許してはくれない。

 ホーーーー

 不覚にもため息が出てしまう。

 子どもの頃から、人前でため息をついてはいけないという躾を受けてきた。それが出てしまうのは、西之島に来てから、とても自由で充実した日々が過ごせたからだ。

 島の人たちは、血脈的なことを承知の上で、わたしを自由にしてくれた。

 島に居れば、わたしは心子内親王ではなくて、ただのココちゃんで居られた。

 ずっとメグミさんの助手をやって、カンパニーやナバホ村、フートンの人たちと、あれこれ生活の工夫をやって、お互いがお互いの役に立っている暮らしをしていたかった。

「サンパチにも、いろいろ秘密がござるよ」

「え、サンパチさんが?」

「左様、出自は作業機械でござるが、メグミ殿の手にかかって、今ではロボットと変わらぬように……いや、ロボット以上のものに成りおおせております。法的には危ない改造もされておりましてな、フフフ……ちょっとヤバイのでござるよ」

「え、そうなんだ(^_^;)」

「那覇空港からまいります」

「那覇空港からの火星便は週一回じゃないの? 間に合うの?」

「ヌフフ……拙者は、サンパチでござるよ。話が決まったときから、手は打ってござるよ……」

「そ、そうなんだ(^o^;)」

 

「え……国内線のロビーだよ?」

 那覇空港に着くと、そのまま滑走路に行って、秘密の格納庫とかから出てきた宇宙船に乗っていくんだと思っていた。

 それが、ツアー客のみなさんと並んで国内線のカウンター……どうなってるの?

 あっという間に、搭乗手続きが終わると、一番端っこのゲートへ向かう。

「これって、格安の貨客便ゲートだよね」

「いかにも、二十世紀から続いた青春格安旅行でござるよ(^▽^)」

 な、なんなんだ? 秘密とか言いながら、めちゃくちゃ緩いよ。

 

 機体は旧式のパルス貨物機。貨物室を改造して中二階を100席余りの客室にしてある。天井が低くて、シートの間隔が狭くって、短距離の国内線でなければエコノミー症候群間違いなしってしろもの。

 搭乗口が、特設の二階席には届かないものだから、貨物室を通って、螺旋階段を上っていく。

 貨物室では、空港のスタッフが貨物や荷物の整理と縛着に忙しそう。

 人やロボットが有機的に働いているのを見るのは好き。

 島に来てからも、北東区の建築現場や作業現場で、メグミさんとお昼を食べながら、みんなの仕事っぷりを観ていた。

 途中、手荷物を旅客用ブースに入れるために右舷の通路に入る。

「こっち」

 サンパチさんが呟いて、貨物の陰へ。

「これに着替えるでござる」

「え?」

 目の前の貨物の上には、貨物スタッフの作業服。手に取ると、まだ暖かい。で、貨物の向こうには人の気配。

「着替えたら、もとの服は、そのままにでござる」

「う、うん」

 三十秒で着替えると、別の貨物の陰から、たった今までわたしが着ていた服を着た女の子が螺旋階段を上がっていく。

「あ、あれ?」

 視線を戻すと、いつの間にかサンパチさんも作業服になっている。

 そのまま作業を終えたスタッフに紛れて、小型機の整備スペースに向かって、一機の小型機に。

 管制塔との短いやり取りがあって、わたし達の小型機はマリンブルーの海を見下ろしながら成層圏軌道に載って行った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・065『大出井老人』

2022-07-24 06:48:45 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

065『大出井老人』 

 

 

 
 人の家に潜り込むのは150年ぶりニャ。

 
 明治維新までは佐賀県にあった鍋島ってお大名のお城に居たニャ。

 何を隠そう鍋島の猫騒動の猫は、このねね子なのニャ。

 あんまり干渉されたくないので、あのおどろおどろしい化け猫の怪談話をでっち上げ、お城の中で平和に暮らしていたニャ。むろん、本宅は豪徳寺なんだけどニャ、鍋島さんとこが気に入って、豪徳寺には殿様の参勤交代とかに紛れてたま~に顔出す程度だったニャ。

 それが、今度は門脇さんちの娘という設定で潜り込んだのはひるでと仲良くなったからニャ。

 門脇さんちは、ひるでの武笠家とは向かい同士ニャんで、とっても便利ニャ。

 門脇さんちには、あたし以上にネコみたいな啓介というのが居て、たいてい昼過ぎまで寝てるニャ。

 いちおう兄貴ってことになるんで、ときどき妹らしくいたぶってやるニャ。

 
「さっさとやらニャきゃ、アイスはおあずけだからニャ!」

 
 冷房の効いたリビングのサッシ越しに啓介をいたぶる。

 あ、リビングというのは武笠家のリビングなのニャ。

 ひるでは玉代を連れてコロナ退治に行ってるニャ。

 うちの家から見ても武笠家の庭は草ぼうぼうになっていたのでニャ、啓介をいたぶるネタにもなると一石二鳥でかって出たニャ。

 ひるでのお祖母ちゃんが「ショコラモナカをオーブントースターで焼いたの」を気に入ってくれたので、それを伝授するって名目もあるんだけどニャ。

 お向かい同士なんだから、気楽に「手伝ってえ」とか「ちょっとおいでよ」くらいのノリでいいと思うんだけどニャ、武笠の老夫婦にはこだわりがあって、こういうドラマのプロローグみたいな状況を演出するのがお気になのニャ。

「チョコモナカは五つでよかったかしら?」

 重そうなマイバッグをぶら下げてお祖母ちゃんが帰ってきた。

「じゅうぶんニャ、てか、一つ多いようニャ?」

「ねねちゃんと啓介くんが二つづつで四つ。わたしと旦那は一個を半分こに、ショコラモナカって年寄りには大きすぎるから」

「そ、そうなのかニャ、ねね子は嬉しいニャ(^▽^)/」

「アイスをオーブントースターで焼くなんて、お話では分かるんだけどね、年寄りはビビっちゃうのよ。ねね子ちゃんに付いていてもらって二三回は練習しないと不安だしね」

「じゃ、とりあえず、冷凍庫に仕舞って置くニャ。あたし、持つニャ(^▽^)/」

「あ、おねがい」

「あれ、他のアイスも入ってるニャ?」

「あ、ついね。懐かしかったり面白かったりで、いろいろ買っちゃった。そうだ、啓介く~ん、一つ食べない、暑いでしょ」

「あ、いただきます!」

 これ幸いに草刈りを中断して、タオルで汗を拭きながらリビングに寄って来る啓介。

「啓介は庭で食べるニャ! 草刈りがノルマなんだからニャ、クリアしてシャワー浴びるまでは入って来ちゃダメニャ!」

「わ、わーってるよ」

 アイスを受け取ると、大人しく日陰に行ってしゃがみ込む啓介。これでいいのニャ。

「ねねちゃん、啓介くんには厳しいのね」

「愛情なのニャ、このまま引きこもりのニートになってもらっちゃ困るからニャ」

「おお、スパルタ妹だ」

 
『ただいまあ。お客さんがいらっしゃるよ!』

 
 玄関でお爺ちゃんの弾んだ声。お婆ちゃんがスリッパをパタパタいわせて玄関に迎えに行くと「アッラー!」とムスリムみたいな歓声をあげるニャ。

「わ!?」

 ねね子も驚いたニャ! お爺ちゃんがクーラーボックスに一杯のアイスを持って帰ってきたニャ!

「どうしたんです、このアイスは!?」

「だから、そのお客さんに頂いたんだよ、アイスがあるから一足さきに帰ってきたんだけど、ほら、新婚時代にお世話になった大出井の叔父さんだよ。あ、見えた見えた!」

 お爺ちゃんは少年のように表に戻ると、身長180センチはあろうかというお年寄りを連れて戻ってきたニャ。

「いやあ、お久しぶり! 民子さん! いやあ、こっちが孫のひるでちゃんか!」

「あはは、向かいの門脇の子なんニャ、ねね子って言うニャ(n*´ω`*n)」

 とっさに合わせておいたけど、このお年寄りは二人の叔父さんではないニャ……それどころか人間でさえないのニャ……。

 正直ビビってしまっているのニャ……(;'∀')。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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漆黒のブリュンヒルデQ・064『アイスの美味しい食べ方』

2022-07-24 06:33:58 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

064『アイスの美味しい食べ方』 

 

 

 

『猛犬に注意』と『セールスお断り』の間、大昔の『赤十字社員章』のステッカーの上にアスクレピオスのお札を貼る。

 ほら、豪徳寺駅前の明日暮医院でもらった役病退散のお札さ。

 効果はてきめんで祖母のマイバッグだけでなく敷地内に根を生やし始めたコ□ナウィルスが絶滅した。

「だけじゃなくって、お祖母(うんぼ)ちゃんが配ったマイバッグにも効き目が出始(ではい)めてるよ!」

 玉代が安堵の悲鳴を上げた。

 玉代は、祖母から情報を聞いて、人にあげたマイバッグを調べて回っていたのだ。根が鹿児島の荒田神社の神さまなのでわたしには無い能力があるのだ。

 お札そのものも対人ステルスになっていて、人には古びた赤十字社員章しか見えていない。

 
「なんで、WHOのマークが貼ってあるのかニャ?」

 
 ねね子が掃除の手を休めて首をかしげているのが部屋の窓から見えた。

 どうやらねね子に見えているようだ。

「ほっとくと、喋ってしまうかもしれないよ」

 玉代が心配する。

 たしかに、あのお喋り半妖には注意しておかなければならない。

「ねね子ぉ! アイスあるから食べにおいでよ!」

 窓を開けて声をかける。

「おー、今行くニャ!」

 箒を仕舞うと、あっという間にわたしの部屋に上がってきた。

 玉代がアイス三本を持ってきて女子会になる。

「おー、さすがは武笠家! ショコモナカなのニャ!」

「ねね子も好きなの?」

「もちのろんニャ! そーだ、ねね子がウラワザ見せてやるニャ! ひるで、オーブントースターを借りるニャ!」

「オーブントースター?」

「そうなのニャ!」

「ちょ、アイスを焼いてどうする!?」

 ねね子は、むき出しにしたショコモナカをオーブントースターにぶち込んだ。

「まあ、見てニャ(^▽^)/」

 三十秒焼いて出てきたショコモナカにビックリした。

 外側のモナカは香ばしく焼けて、中は冷え冷えのままのチョコアイス!

「う、うまか!」

「お、美味しい!」

 玉代と二人で感動してしまう。

「で、あのWHOのマークはなんなのニャ?」

「あ、あれはな……まあ、食べてからだ」

 女子を黙らせるのには美味しいものを食べさせるのが一番! これは漆黒の姫騎士でも神さまでも半妖でも変わりはない。

「ああ、おいしい、もっと食べる?」

 玉代の提案で冷凍庫から、もう三つ取り出して、裏ワザショコモナをオーブントースターにぶち込む。

「あ、そうだ! お母さんが『こんどは、わたしが歌舞伎にご招待』って言っていたニャ」

「え、なんだそれ?」

「こないだ、武笠のお婆ちゃんにお芝居連れて行ってもらって嬉しかったから、今度はうちでご招待したいって言ってたニャ」

「あ、そう言えば先週芝居を観に行くって……」

「それって、ノーマーク。世田谷区内しかトレースしてないニャ!」

 
 その劇場でクラスターが発生したのは、慌ててスマホで検索した十分前だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・13『祖父ちゃんのフライドポテト』

2022-07-24 06:20:55 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

13『祖父ちゃんのフライドポテト


 勉強し終わった後の飯が、こんなに美味いとは思わなかった。

 祖父ちゃんが特製のサンドイッチとミックスジュースを作ってくれたのだ。
 
 食べているのは、俺と松ネエ、それにシグマ。

 小菊はいない。

 

「こんなサンドイッチ初めてです」

「パブやってたからね、お店の看板メニューだったのよね」

「うん、店を畳んでからは初めてだけど、こんなに美味いとは思わなかった」

 三人ともニコニコ笑顔だ。

「ハハ、それは三人の時間が充実していたからさ」

 そう言いながら祖父ちゃんが入って来た、手には短冊に切られたジャガイモいっぱいのザルを持っている。

「フライドポテトつくるんだ!」

 松ネエはピョンと立ち上がりカウンターの中に。

 昨日は女っぽくなった松ネエを眩しく思ったが、あの弾み方はオチャッピーのまんまだ。

「どうだ、小松も憶えてみるか?」

「うん、このレシピ覚えたら、大学行ってもアドバンテージ高い」

 セミロングをポニテにまとめ、腕まくりすると、祖父ちゃんと並んで調理にかかる。

 やっぱ、松ネエはオチャッピーがデフォルトだ。

「美子(よしこ)ちゃん、これ食べてくつろいだら、一気呵成に練習問題するからね!」

「あ、はい!」

 シグマも感化されて気を付けの返事をしている。

 

 松ネエは、先月静岡の高校を卒業し、この四月から東京の大学に通う。

 

 そのために、母親の実家である我が家に下宿することになった。

 引っ越してくるのは入学の直前かと思っていたら、気の早いオチャッピーは三月早々に家にやってきたのだ。

 で、俺は閃いたのだ。松ネエにシグマの勉強を見てもらおうって。

 ジュッバーー!

 油にジャガイモの短冊が投入される。

 俺にとっては久しぶり、シグマは初めての豪快で陽気で美味しそうな音と匂いに引きつけられる。

「来てよかった……」

「そうだろ、勉強ってのは環境が大事なんだぜ」

 我ながら聞いた風なことを言う。

 松ネエがクスッと笑って俺の顔を見る。おたついて目が泳ぐのが情けない。

「正直、先輩は言葉の勢いで『任せておけ』って言ったんだと思ってたんです。だから、あの電話にはびっくりして」

「シグマにはメールじゃ温いと思ったんだ、直接電話で言わなきゃ断ってくると思った」

「はい、メールだったら反射的にお断りのメール返してましたね」

「だろ!」

「フフ、ゆう君、とっても楽しそうに電話してたもんね」

「ひ、人助けができるんだから嬉しくもなるよ(#'∀'#)」

「そうだよね、そういうのは江戸っ子の性(さが)だもんね」

 松ネエは追及はしてこない、以前なら白旗を揚げるまで突っ込んできたんだけど、やっぱ大人になったんだろうか。

 揚げたてのフライドポテトを食べながらの午後の部になった。

「すごい、練習問題全問正解よ!」

 松ネエが感動した。

「そ、そですか」

 シグマの反応は控えめだ。

「う~ん、美子ちゃんの数学苦手は先生が嫌いだからじゃないかな、これだけ出来るというのは素養はあるってことよ」

「あ、きっと松乃さんの教え方がいいんです!」

 俺は両方だと思う。

「じゃ、英語の方も見とこうか」

「あ、はい」

 シグマはリュックから英語の教科書とノートを出した。

「どれどれ……」

 松ネエの手が止まった。

「ん……?」

「miko momochi……あ、ごめん、ずっとよしこって呼んでた。美しい子と書いてミコって読むんだね」

「いいんです、よしこって読み方、なんだか新鮮で。普段はシグマでいいです、先輩もオメガだし」

「ゆう君のは苗字の妻鹿のもじりだけど、シグマってのは?」

「えと、おもに口がギリシャ文字のΣみたいだからです、昔から言われてるから、デフォルトなんです」

「いいの?」

「もちろん、意味なんて後付けでどんどん変わります。へたに嫌だなんて言ったら、呼ぶ方も呼ばれる方も暗いイメージになりますから」

「そっか、あたしは好きだわよミコちゃんの顔」

「俺も同感」

「う、嬉しいです(^▽^)!」

 花が咲いたようにシグマの顔がほころんだ。

 こんな表情をするシグマは初めてだ、一瞬シグマと小菊を取り換えられればと思ったぞ。

 すると、カウンターの中でお祖父ちゃん以外の気配がした。

 いつのまにか小菊が居て、揚げたてのフライドポテトをホチクリホチクリ食べていたのだった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任


 

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