大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・13『太閤記のスジ』

2022-07-15 14:03:29 | 小説3

くノ一その一今のうち

13『太閤記のスジ』 

 

 

 忍者にはスジってもんがあるんだ……

 

 忍冬堂の目を細めた顔が浮かんでくる。

 今日も殺陣の仕事を終えて事務所に帰る車の中。

 まあやは二度ほどで憶えてくれたんだけど、ゲストのアイドル俳優のニイチャンが腰が引けて、なかなかOKが出なかった。理由は分かってる、殺気がありすぎるんだ、わたし。

 お芝居なんだけど、ジュラルミンの刀だと分かっていても、刀を構えるとどうしてもその気になってしまう。

 だから、アイドル俳優ビビらせて、撮り直しばかりだった。

 で、気疲れから、ついウトウトして忍冬堂の問わず語りを思い出してしまう。

 

「忍者にはスジってもんがあってね、Aという大名に仕えるとしくじりばかりだが、Bに乗り換えたとたんにうまく行くことがある。忍者のしくじりは命に係わるから、まとめ役の上忍は気を配ったもんさ。映画や小説とかじゃ、忍者はバタバタ死んじゃうんだけど、じっさいは、本人も死にたくねえし、使う方も死なせたかねえ。忍者一人使えるように育てるには、べらぼうな金と時間がかかってる。だいたい忍者の里ってのは、有名な伊賀にしろ甲賀にしろ山がちで米なんか作れねえところだ。忍者の稼ぎは、まんま、里の女子供を食わせるための命綱だしな、みんな命は惜しんだもんさ。だから、どこの仕事を引き受けるかは、とっても大事なことだったのさ。それを見極めるために目利きの上忍は気を飛ばして、その適性を見るんだ……内緒なんだろうが、百地は分かってるんだろうねえ……わざわざメモを回覧板に挟んでくるんだもんなあ……こりゃ、太閤記のスジで協力してくれろってなぞなんだろうけどなあ」

「太閤記って、豊臣秀吉の一代記なんですよね?」

「そうだよ、古くは太田牛一、小瀬甫安、明治からこっちの決定版なら吉川英治に司馬遼太郎ってとこだが……おれっちみたいな昭和のテレビ世代は、古本屋が言うのもなんだけど、大河ドラマの『太閤記』だね。緒形拳の秀吉はピカイチだったけど、高橋浩二の信長も良かったねぇ。ご婦人方の人気がすごくってさ、信長の助命嘆願の手紙がNHKにいっぱい来ちまって、本能寺の変は、シリーズも半ば過ぎの六月まで放送できなかったって伝説さ。そうだ、ちょうど頂き物の太鼓焼きが……あったあった、婆さん、お茶淹れとくれ、百地の若い子と話しすんだからよ。まあ、遠慮なんかいらねえ、そうだ、今日は、もうアイドルタイムにしちまおう」

「すみません、回覧板持ってきただけなのに(^_^;)」

「いいさいいさ、百地んとこは腐っても芸能プロなんだしよ、ひょっとしたら、久々の太閤記でブレイクすんのかもな。いや、これはなかなかの辻占にちげえねえ」

「まさか、アハハハ」

 

 忍冬堂とのやりとりは、ついこないだのこと……そんな感じなんだけど、もう三月も経っていて、三年生の風間しのとしては進路を決めなくちゃならない。

 大学とか短大にいく余裕なんてうちにはないし、最近安定してきたバイトのギャラで行けるようなものでもない。

 いっそ、百地芸能に就職? いや、太閤記の話ってかけらもないし。

 まあ、あれは年寄りの夢とかゲン担ぎなんだろうね。

 最近では、鈴木まあやに気に入られて、レギュラーの時代劇だけじゃなくて、ドラマでは専属の代役をやったりしている。むろん後姿とかスタントばっかなんだけど、このギャラが、けっこういい。

 二三年も、まあやの代役やったら、短大くらいいけるお金が貯まるかもしれない。

 でも、そうすると二十歳超えてしまって……ニ十二くらいで短大卒……ありえない。

 でもでも、忍冬堂が言うように、忍者にはスジ……って言うのも頭をよぎるしねえ。

 なんなんだろうね、太閤記のスジっていうのは……

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・056『煙が立たない(;゜Д゜)』

2022-07-15 06:57:21 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

056『煙が立たない(;゜Д゜)』 

     

 

 
 学校を出て二三分もすると世田谷八幡と豪徳寺の緑が重なって見えてくる。一見一つの森のように見えるのだが、東急世田谷線を挟んで別々の緑だ。

 下校時間に通ると、たいてい二つの緑の間にのどかな煙が立ち上っている。

 オキナガさんかスクネ老人が落ち葉を焼いている。たいてい芋が仕込まれていて「おひとつどう?」と勧められて立ち話になる。この「おひとつどう?」に付き合って話し込むと、いつのまにか陽が西に傾き果てている。

 もう少しで鳥居というところまで来ても、その煙が見えない。

「お休みなのかニャ?」

 トテトテとねね子は駆けだして鳥居の内に消えた。

 玉代と二人で鳥居前までさしかかると、いつもの所でスクネ老人とねね子が、しゃがんで焚火の火を起こしている。

「ひるで、火が点かないのニャ」

「おう、ひるで殿、そちらは荒田神社の玉依姫さまでございますな」

「初めまして、ここじゃ、どうぞ『玉代』て呼びたもんせ」

「これはこれは、わたしは世田谷八幡の守をいたしておりますスクネでございます、よろしくお見知りおきのほどを」

「火が点かんな煙がたちもはんねえ」

「はい、煙が立たなければ、八幡の煙回廊ができません。全国の八幡と連絡がとれなくなってしまいます」

「オキナガさんは、朝のうちに煙街道で出かけて行ってしまったらしいニャ」

「これでは帰ってこれなくなるなあ」

「おいがやってみましょうか、桜島ん力を被うちょっで、火起こしは得意じゃっで」

「おう、そうだ、荒田八幡は鹿児島でしたなあ」

「そいでは……」

 玉代は忍者のような印を結ぶと、なにやら祝詞めいたものを口ずさみ、枯葉の山に気を放った。

「チェスト―!」

 ボン!!

 一瞬で爆発的に火が点いたが、枯葉の山は一瞬で燃え尽きてしまった。

「煙が出る暇もなかったわよ……」

「チェスト―はやりすぎだニャ」

「すみもはん、もう一度枯葉を集めてもれもはんか?」

「枯葉ならいくらでも……」

 瞬くうちに枯葉が集められ、玉代は控え目に印を結んだ。

「チェ……」

 ボシュ!

 派手さは無いが、フラッシュを焚いたくらいの光を発して燃え尽きた。

「完全燃焼しているニャア」

「もう一度(^_^;)」

 三度枯葉が集められる。

 今度は印も結ばず、目を細めて息を凝らす。

「スクネさん、じつは、今朝から名前を忘れそうになっている者が増えているんだけど、ここの火が点きにくくなっていることと、関りがあるのではないだろうか? それをオキナガさんに相談したくてきたんだが」

「それは姫も感じておられました、じつは、そのことを調べに煙街道に上っていかれたのですよ」

「それなら、なんとしても火を起こさなければ」

「あ、点いたニャ!」

 点くには点いたが、ともすると完全燃焼気味で煙が立たない。玉代は、さらに目を細め息を潜めて力を調節する。

「こいでどうだ……」

「「「おおーー」」」

 いささか不安定だが、ブツブツとまとまった量の煙が立ち始めた。

 ボボボボ……プスン……ボボボボ……プスン……ボボボボ……

「あ、なにか降りてくるニャ!」

「おお、姫が!」

 手ごたえはあった。

 トン トン トトン トン…………

 飛び石を飛ぶような音が頭上に聞こえた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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漆黒のブリュンヒルデQ・055『玉代の自己紹介』

2022-07-15 06:53:03 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

055『玉代の自己紹介』 

    

 

  かごんまから参ってめった荒田玉代じゃ、武笠どんとは従姉妹同士で、住めも武笠どんの家で下宿じゃ。東京どころか豪徳寺周辺ん事もさっぱりじゃっで。こんあたりを頼りなか顔でウロウロしちょったら、道に迷うちょっ証拠じゃで教えてもれると嬉しか(^▽^)/。かごんまは、どけ行ってん桜島が見ゆっで、道に迷うたや桜島を見っ。桜島ん微妙な形や距離感で居場所が分かっんじゃ。東京には桜島は無かで、東京に来て、桜島んごつわたしを導いてくるったぁ、先生方を始め、こん学校のみなさんじゃて思っで。何卒宜しゅうたのみあげもす。

 
 先生に紹介されて教壇に立ったときは、大柄で目の覚めるような美しさに圧倒されたクラスメートたちだが、玉代が転校の挨拶をすると、コテコテの鹿児島弁と持ち前の明るさと温もりに、みんなファンになってしまった。

「よろしく荒田さん、掃除当番とかで同じ班になるから、仲良くしてね!」

「こちらこそよろしゅう、住江どん」

「お昼とか、いっしょにできると嬉しいかも!」

「そんたよかど、門野どん」

「好きな食べ物とかは?」

「かごんまラーメンじゃろうか、坂東どん」

「部活とか入るの?」

「よかクラブとかあったやて思うとどん、時間がねえ、まあ、よろしゅう三好どん」

 朝礼が終わると、女子たちが集まってきて質問攻めにする。もうソーシャルディスタンスもへったくれもない。

 男子も興味有り気なんだけど、圧倒されて近寄ることも出来ないみたい。

 コロナウィルスのため部分登校なので授業は二コマしかないんだけど、休み時間になると、噂を聞いた他の学年や。よそのクラスの子までやってきて、もう、玉代は時の人という感じになってしまった。

「でも、玉ちゃん偉いよね、いちいち相手の名前確認してるんだ」

 柱の陰から様子を見ていたねね子が、ピョンと出てきて感心する。

「そうじゃないよね、玉ちゃん」

「ひっでも気ぢちょった?」

「うん、五人くらいで変だと思った」

「え、なにがあ?」

「みんな、自分からは名乗らんのじゃ。ちょっとあり得らんやろ」

「あ、そう言えばそうか!」

「みんな、自分ん名前を忘れかけちょっごたっ」

「名前を忘れるのって、古い妖だけだったじゃない?」

「わたしがこけ来たんな、わたしん休養んためだけじゃなかみてね」

 それは頷ける、今朝登校途中で見かけたランニングの学生たちも、わたしひとりの手には負えなかったものな。

「玉ちゃん、ねね子、オキナガさんとこに行くよ!」

「え? お昼ご飯食べたいニャ!」

「メシは後だ」

「そんニャー!」

「ねね子どん、苗字をゆてごらん」

「え、苗字……えと……」

 ねね子は、呆然と立ち尽くしてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・4『プレミアムフライデー』

2022-07-15 06:27:28 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
『プレミアムフライデー』


 

 ―― 世間様とは付かず離れずのモブ人間 ――

 十七年の人生で打ちたてた俺のモットー。

 人様の先頭に立つのもごめんだし、ケツに回ってハブられるのもいやだ。

 なんとなく世間に混じって、つつがなく人生を送れれば上等なんだ。

 だから、自分から進んで人や事件に関わることはやらない。

 

 クラスメートの顔ぐらいは分かるけど、口もきいたことが無いのが十人ほどいる。ケリを入れたり入れられたりという、ちょっとばかし肌感覚で付き合っているのは、保育所からの付き合いのノリスケ(鈴木典亮)一人だけ。

 人が困っていても――気の毒だなあ――と同情の顔はするけど、率先して助ける人がいなければ傍観している。天変地異の大災害があってもボランティアなんかには行かない。

 駅前とかで募金とかをやっていたら殊勝な顔して50円くらいを入れておく、逆に言うと、真面目に募金活動してる前を素通りしちまう根性が無い。

 で、いっかい募金しちまうと――俺はちゃんと募金したんだ――と歩けてしまう。そういうモブ根性の高校生なんだ。

 それが人を助けてしまった。

 昼休みの食堂前で、堂本って数学教師にネチネチ絡まれてる女子を助けちまった。

 堂本には、一年の時、同じようにいたぶられたことがあったので、つい口を出してしまったんだ。

 いつものようにノリスケといっしょなら、ちょっと眉をしかめるだけでランチをかっこんでいただろう。

 おかげで、俺も女子も数量限定のランチを食いっぱぐれ、南のおばちゃんに頼んで裏メニューのスペメンを作ってもらったよ。

 よせばいいのに、女子と並んで食ったものだから、面白がったクラス仲間に写真撮られ、あくる朝には復活したノリスケに冷やかされる。

 で、たまたま十字路に現れた女子……シグマこと百地(そーいや、下の名前は聞いてない)に聞かれっちまってソッポを向かれる。

 やっぱ、モブ人間の境界は超えちゃいけないんだ、チクショーめ!!

 オメガが粉かけた女子にソデにされた!

 案の定、教室に入るとクラスの女子たちがクスクス笑ってやがる。

 こいつら、人の不幸は何十倍にも盛って退屈しのぎにしやがる。でも、写真をネットで流すとこまではいかない。

 なんたって、俺はモブなんだからな。

「俺じゃねーって」

 休み時間に、ノリスケを捕まえて聞きただす。

「おまえがデカい声出して、当てずっぽのスリーサイズ言ったりすっからだ!」
「わりー、でも、今度のも目撃してたオーディエンスなんだろうぜ」
「ま、いい。ラーメン一杯で勘弁してやるよ」

 そう言って、俺はノリスケの襟首を離した。

「……以上の者は放課後補習ね!」

 昼休みの予鈴が鳴ると担任のヨッチャン(田島芳子)が教室にやってきて、情け無用の宣告をしていった。

「すまん、ラーメンは、また今度な」

 ノリスケが補習にかかってしまう、ノリスケも成績はヘボだ。

「でも、なんで昼休みに宣告してくんだろ?」
「終礼の宣告じゃショック大きいからじゃない?」

 女子が疑問を呈する。すると、ヨッチャンが戻って来た。

「今日は終礼なしだから」
「えー、なんでですかー?」
「ほら、今日はプレミアムフライデーなの。先生全員は無理だけど、順番であたし当たっちゃったから、そーゆーこと」

「「「「「えーーーー、先生だけ!?」」」」」

 非難の声があちこちで起こる。

「こういうことは段階的にやらなきゃ広まっていかないの! ね?」

 なぜかヨッチャンは、俺の顔を見て「ね?」をくっ付けた。

「おまえのω口は人に安心を与えるんだよ、ヨッチャンも、どこか後ろめたいんだろーな」
「そ、そっか」

 こういう呑み込みのいいところも、俺たちがモブ属性である証拠だろう。

 放課後は足を延ばしてアキバに行った。

 ノリスケの補習で一人になったせいか、ヨッチャンのプレミアムフライデーに触発されたのかは分からない。

 ボーっと放電するのにアキバはいい。

 そう、放電だ、充電じゃねえ。

 充電はオタクがやることだ。流行りのアニメとかフィギュアとかの情報掴んで、同類の姿や目の色に触発されて――自分も頑張らなくちゃ!――と奮い立って、なけなしの財産でグッズを買いまくって、メイド喫茶で萌キュンとかいって頬染めてるやつらだ。俺は、たまにネトフリでアニメ観るくらい。それもワンクール12回観るのは年に三本くれえって、オタクのカテゴリーではニワカとかライトの範疇にも入らねえ。アキバのなんちゃら通りとかをぞめき歩いて日ごろの憂さを放電しておしまいってわけだ。

 昭和通り口から出て、アキバを大回りで回る。特にあてはない、雑踏の中が心地いいんだ。

 ラジオ会館の前まで行くと楽し気なアニソンが聞こえてくる。プレミアムフライデーとあって、広場に特設ステージを組んでイベントをやっているようだ。

 アニソンと言うと大人たちはバカにするかもしれないけど、俺は大したもんだと思っている。いまかかってるガルパンの曲なんて、テレビのBGなんかにしょっちゅう使われてる。そうと知らないでファンになった祖父ちゃんに「これだよ」とポスターを見せたら目を白黒させていた。

「お、中部方面音楽隊だ」

 グレードが高いと思ったら、自衛隊の音楽隊だ。自衛隊の音楽隊はハンパじゃない、一流の音楽大学を出てないと実技で受からないと言われていて、定年は将官並の60歳だ。日々その技量を磨くことに専念できる楽団はここくらいのもんだろう。YouTubeで発見して以来、もう六年くらいのファンなのだ。

 メドレーも終盤になって『それゆけ!乙女の戦車道!』で御ひいきの声優さんが出てきた。

 ネットでは時々観るけど、リアルに観るのは初めてだ。

 思わず踏み出すと、後ろから割り込んできた奴と接触してしまった。

「ちょっ!」
「あんたこそ!」

「「あーーー!」」

 声が揃った。

「シグマ!?」
「オメガ先輩!?」

 その時のシグマの目には昨日の険しさはなかった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
     
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