大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・15『螺子先輩の正体・2』

2022-07-04 10:20:03 | 小説6

高校部     

15『螺子先輩の正体・2』 

 

 

 大規模な通信障害が起こった。

 スマホが通じにくくなり、通販サイトや通販と繋がっている運送会社に甚大な影響があったらしい、一部には、GPSやら、救急車の手配まで影響がでたという話だけど、お祖父ちゃんとちがって、そういう方面に詳しくないボクには、よく分からない。

 仕事をサボって、うちで昼寝していた叔父がすっ飛んで行ったところを見ると、相当の大事件のようだ。

「大地震が起きて、鉄道や電気のインフラが停まってしまうのと同じ……それ以上かな」

 お茶を持っていくと、仕事の手を休めて、お祖父ちゃんが頭を掻いた。

 この仕草は、以前パソコンがウィルスにやられて仕事ができなくなった時以来だ。

「そんなに大変なことなの?」

「ああ、博のやつ、すっとんで行っただろう」

「あ、うん……」

 あの叔父の表情は、仕事サボって買いに行った馬券が大当たりした時以来だ。

 今どきの馬券はネットで買えるらしいけど、わざわざ競馬場まで出向いて馬券を買って観戦して、その結果を自分の父(お祖父ちゃん)に自慢しに来るのを、ちょっと微笑ましく思った。

「総務大臣が、重大事故だって臨時記者会見で言ってる」

 お祖父ちゃんがクリックすると、沈痛な面持ちで記者会見やってる総務大臣の動画が出てきた。

「ネットも、テレビも、こればっかりだな……」

「お祖父ちゃんの仕事に支障はないの?」

「うん、幸いな。いまやってるのは、あまり通信には関係ないからな……」

 もう一度クリックすると、お祖父ちゃんの作業画面が出てきた。

 

 え?

 

「今は、こんな下請けをやってるんだ」

 画面に現れたのは、女の子の3Dモデルだ。

 真っ直ぐに立って、両手を水平に伸ばしている。ダヴィンチだったかの人体図にこんなのがあった。

「ゲーム会社の下請けだ……」

 全身・頭・髪・胴体・胸・手・足などの項目に分かれていて、クリックしていくとさらに細かい項目。たとえば、首なら、目・瞳・まつ毛・鼻・口・耳・額・頬・顎などの細かい設定が出来る。

「ええと……」

「そうだ、シミレーション系の……まあ、エロゲだな」

「う、うん……」

 こういうのは苦手だ。

「慣れれば思い通りの女性が作れるが、ちょっとマニアックで難しい」

「だろうね(^_^;)」

「ちょっと、ゴーグルを付けてくれ」

「え、ボクが?」

「うん、まだまだ試作なんだがな……」

「うん……あ、VRなんだ」

 目の前に、たったいまモニターで見た3Dモデルがリアルに現れた。

「それで、女の子をイメージしてくれるかい」

「ええと、入力は……」

「思い浮かべるだけでいい、CPがイメージを視覚化してくれる」

「言葉にしなくてもいいの?」

「うん、そこがミソなんだ。文字とか言葉にするのは、抵抗を感じる男もいるだろう。むろん、そういう入力もできるんだけどな、ほら……」

 VRの中に、すごい入力画面が現れた。パッとでているだけで50くらい、スクロールすると、まだまだ続いていて、項目を選ぶと、さらにそれが数十の項目に分岐する。

「ああ……これじゃ、やる前に気持ちが萎えてしまうね」

「だろう……だから、思い浮かべるだけでエディットできるようにやってるんだ……ちょっと、イメージしてくれないか」

「う、うん……」

 入力画面が消えて、左上に白いドットが現れた。

「そのドットがグリーンになったら完了だ」

「えと……」

 思い始めると、ドットが心臓のようにドキドキしながら色を変えていく。

 淡いグリーンになったのでモデルに目を移すんだけど、モデルはビリビリ振動するだけで、なかなか姿を変えない。

「処理能力が追い付かないんだ……フリーズしてるわけじゃないから、そのうち出てくるだろう」

「うん、すぐには商品化はできないみたいだね(#^_^#)」

 ホッとしたような、ちょっと残念なような気持ちで、お祖父ちゃんの部屋を出る。

 

 あくる日の部活は休んでしまった。

 

 いちおう部室には脚を向けたんだけど、ドアが開かなかった。

 部室の中には気配はある、たぶん先輩はいるような気がする。

 だけど、気後れしてしまって、もう一度ノブを回してみようとか、ノックしてみようかという気にはならなかった。

―― 用事かなにかで、先輩遅れてるんだ。ひょっとしたら休みかも……あ、あとで、もう一度来よう ――

 そう正当化して、部室の旧校舎に背を向けた。

 

「あら、田中くん」

 

 昇降口の前まで来ると、帰り支度した中井さんに出会った。

「いま帰り?」

「え、あ、うん」

「いっしょに帰ろうか?」

「あ、うん」

 本当は図書室にでも行って、もういちど部室に寄ってみようかと思ったけど、あっさりと中井さんの誘いにのってしまった。

 保健室に連れて行った時は青い顔をしていたし、階段の下で話したのは、ほんの数秒だったし、こんな至近距離で中井さんと居るのは初めてだ。

 学校に居る時の三倍くらい表情が豊かだ。ボクの鈍い反応にも抑制の利いたツッコミをしてくれて、駅前までの十分ほどは、ちょっと楽しかった。

 電車で帰る中井さんを改札まで……と思わないではなかったけど、ちょっとためらわれてロータリーで別れた。

 

「鋲、できてるぞ」

 家に帰るとお祖父ちゃんが声を掛けてくる。

「え?」

「ほら、昨日の」

「あ、ああ」

 ちょっとだけ時めいて、モニターを覗き込む。

「あ……」

「なかなかいい感性をしてるじゃないか」

 お祖父ちゃんが褒めてくれた、その3Dモデルは、白いワンピースを着た螺子先輩の姿だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・045『石清水八幡宮の鎌倉』

2022-07-04 06:14:47 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

045『石清水八幡宮の鎌倉』 

 

 

 
 鎌倉に鎌倉大仏は無い。

 
 地元なら小学生でも知っている。

 それが、コロッと騙された。

―― 鎌倉駅で降りて大仏のとこに行ってくれる? ケメコ ――

 日本史の授業中に回ってきたメモに書いてあった。

 メモを寄越してきたのは池野さんだが、それは二列向こうのケメコが寄こしてきたものだ。

 
 昨日、部室で王様ゲームをやった。

 
 テストの前日で部活は禁止なんだけど、家でやってもはかどらないとか、いっしょにやった方が効率がいいとか理屈をつけてね。

 三回目に、ケメコが王様になって、あたしに命令することになったんだけど、あんまり賑やかだったので、部室前を通りかかった小川先生に怒られた。そのために、ケメコの命令は保留になって、テスト中に手紙をよこしてきたというわけさ。

「大仏だったら長谷でしょーが。それとも、二駅向こうの鎌倉で降りて二駅分歩けっていうんかい?」

「ちがうよ、鎌倉で降りて、大仏(おさらぎ)君のとこにお使いして欲しいのよ」

「おさらぎ……ああ」

 大仏……某(なにがし) 

 一年でいっしょだった男子。ハンサムだった気がするんだけど、あんまり印象には残っていない。ひょっとしたら、口をきいたこともないかもしれない。

「大仏淳だよ、えと……これ、渡してきてほしいんだぁ」

「え、え……」

 それは、わたしに寄こしたレポート用紙のメモなんかじゃなくて、薄桃色の小振りな封筒で、いかにもラブレターだ。

「それを渡して、返事を聞いてきて欲しいっ!」

「じ、自分で渡せよ!」

「王様はあたしだよ」

「く、くそ」

「頼んだわよ!」

「あ、ああ……でも、あんた、ケメコってのはやめとけよ。緑子ってきれいな名前なんだからさ」

「いいよ、苗字はまんま桂馬(けめ)なんだからさ」

 名前の通り、頭の回転も運動神経もいい奴で、眼鏡を外すと『これが青春だ』のヒロインが務まりそうなくらいだ。水泳の授業で眼鏡を外した時に言ってやると「そういう信子は『青春とは何だ』だよ」と返してきた。単なる語呂かと思ったら「信子は懐疑的になりすぎて前に進まないのが欠点だよ」と言い返された。

「人生長いんだから、簡単に答えなんか出さない方がいいんだよ」と、答えてやる。それぞれ十七年の人生で思い当たることがあるから、それ以上は踏み込まない。

 江ノ電を逆方向に乗って鎌倉を目指す。

 たった、駅五つ分だけど、湘南の海沿いを走る江ノ電は小旅行だ。

 湘南の海の向こうに江ノ島を据えて富士山が見える。あっと言う間にジオラマのような極楽寺のトンネル。

 抜けてクネクネいくと、鎌倉大仏最寄り駅の長谷。発車直前に外人の親子連れ、褐色の肌はハワイとかだろうか、お父さんが「いつまで食べてるんだ」的なことを男の子に言ってる。男の子は抹茶アイスを食べてるんだけど、急ぐ様子はない。美味しいものはしっかり味わうんだという笑顔をしている。お父さんも笑い出して車掌さんに「もういいです」的なことを言ってる。

 この子は、将来大統領になるかもしれないなあ……バラク・オバマ? 聞き慣れない名前が瞬間浮かんで消えた。

 大仏(おさらぎ)君の家は、小町通を抜けた先だ。

 小町通は、若宮大路の西に沿った鎌倉有数の観光通り。平日なんだけど、けっこう若い人が、中には外人さんも混じって、ぞめき歩いている。

 アーケードが無い分、開放的なんだけど、将来の発展を考えるとトータルにデザインしなおした方がいいかなあ……なんて生意気なことを考える。こういう商業施設のトータルデザインとかプロディユースは面白いかもしれない。

 あ、信子ねえちゃん!

 妄想を破る声がした。

「あ、ケメコ妹!?」

「何してんの?」

「ああ、ちょっと用事でね」

「あ、お姉ちゃんのでしょ!?」

「なにか、思い当たるのか?」

「え、あ、いや、お姉ちゃん人使い荒いからねえ」

「あんたも?」

「まあ、塾のついでだけど。じゃね」

「うん、用事が無かったらジュースぐらい奢ってやるんだけどね」

「惜しい! また今度ね、じゃ!」

 ケメコ妹を見送って道を急ぐ。

 
 ピンポーン

 
 呼び鈴一回で大仏君が出てきた。

 手紙を渡しても突っ立ってるあたしに、ちょっと微妙な顔をしたけど、こちらは返事を聞かなければならない。

「…………あ、えと、前向きに検討するって、伝えて」

「よし、前向きにだね!?」

 罰ゲームとは言え、きちんと成し遂げたのは嬉しい。大仏君の前であることも忘れて、一瞬ガッツポーズしてしまった。

「そういう可愛いポーズもするんだ……あ、いや、ごめん」

 なんだか、二人して赤くなって、そそくさと回れ右。

 電柱の影にケメコ妹を見たような気がしたが、ま、どうでもいい。

 
 小町通を引き返しているうちに信子の体を離れてしまった。

 
 眼下に鎌倉の街と湘南の海が広がって、傍にはケメコ妹……ねね子が飛んでいる。

「あれで、よかったのか?」

「いいのニャ! あれがきっかけで三年後に結婚してニャ、生まれた子供が都市計画設計の世界一になるニャ」

「そういうことか」

 もう四回目なので、そんなには驚かない。

「しかし、いいのか? いい結果は出てるようだが、わたしも正直楽しくなってきているぞ」

「いいのにゃ、ひるでには苦労かけたからって、オキナガ姫も言ってるにゃ」

「そうか、なら、いいんだが」

「長谷でバラクに会っただろ?」

「あ、やっぱりバラク・オバマか」

「信子が乗っていたんで、見とれていた乗客が居たニャ」

「ああ、信子は無自覚な美人だったからな」

「信子に見惚れて、長谷で降りそこなった」

「あ、そうなのか」

「本来なら、ギリギリで飛び出して、バラクにぶつかるんだ。バラクはホームのコンクリートの頭をぶつけて死んでしまう」

「え、ええ!?」

「オバマの命も救ったのニャ」

「そ、そうなのか(^_^;)、ちょっと盛り過ぎじゃないか?」

「なんの、オキナガ姫もやることに無駄は無いのニャ(^▽^)/」

「で、今度世話になったのは、どこの八幡だったのだ」

「知らなかったのか? 鎌倉の石清水八幡宮なのニャ!」

 
 一陣の風が吹いて、わたしは次の八幡宮に飛ばされた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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