大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・1『ランチを食べ損ねる』

2022-07-11 22:28:10 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

1・『ランチを食べ損ねる』   

 

 

 ノリスケが休みなので一人で食堂を目指す。


 食堂の前で嫌なものに出くわした。

 数学の堂本が女子をいたぶっているのだ。

「担任の指示を聞けないなんて、もう、終わってるぞ」
「『考査一週間前につき生徒入室禁止』の札がかかってました」
「俺の呼び出しの方が優先だ。あたりまえだろう、札の注意書きよりも担任の口から出たことの方が重要なのはあったりまえじゃねーか! それをシカトして食堂直行ってか、いい度胸してるよなー!」
「直行したのは職員室です。ドアに手を掛けたら、南先生に『テスト前だ』って札を示されて……」
「百地の担任は俺だ、南先生じゃないだろ、なんでドア開けて声かけないんだ!」
「お昼食べたら、もっかい来ようって……」
「俺の指導より昼飯が大事なのか!」
「そうじゃないです、そうじゃなくって……」
「いいかげんなんだよ! 百地のこと思って指導してんのに、そんな反抗的な顔されたんじゃやってらんねーだろーが!」
「そんなつもりはありません」
「あるよ、その不足そうな口、まるでΣじゃねーか、その根性直さなきゃ進級なんかできねーぞ! 聞いてんのか!」
「……………」
「どーなんだ!」

 食堂前のそこだけ凍り付いて、腹ペコの生徒たちも避けて入って行く。

 小五の時に見た教育映画を思い出した。ワニが子どものガゼルを襲うんだけど、他のガゼルは、関係ねえって感じで通り過ぎていくとこ。

 ……俺はめずらしく頭に来た。

「ちょっといいっすか」
「なんだお前は!?」

 堂本は怒りのワニのまんま、俺に顔を向けた。

「『入室禁止だけど、声かけて入ればいいから』くらい言っておくべきだと思うんすけど」
「なんなんだお前は!?」

 あ、俺のこと覚えてねーってか?

「一年の時習ってた妻鹿雄一っすよ。俺も成績のことで呼び出されて同じよーなことがあった」
「あーーーω(オメガ)か」

 怒りの上に蔑みの表情を付けてきやがった。

 理屈の通る顔じゃない、食堂に出入りする生徒たちが交通事故の現場をスルーするような感じで行きかう。
 中にはクラスの女子なんかも居てωってところではクスリと口を押えていきやがる。

 早くも俺は後悔し始めている。

「札には教務部長ってあるじゃないっすか、生徒は教務部長の方が重いって感じますよ。これは堂本先生の間違いなんだって、俺の時もそう言いましたよね、先生は『善処する』って言ったように思うんですけど」
「言ったかもしれないけど、常識で判断したら、ちっとは気をきかそうってことになれよ、いつまでも中坊じゃねーんだから」
「問題すりかえないでくださいよ」
「おまえもなー、人にもの言う時は、もうちょっと真面目な顔で言えよ。ニタニタ笑いながらじゃまともに相手なんかしてらんねーよ、だからωなんてあだ名が付いちまうんだぞ」

 チ、ωって、あんたが言いだしたんじゃねーか。

「あだ名は関係ないっすよ。とにかく、昼休みの食堂前での説教はヤボでしょ、先生は外にも食べに行けるし五時間目だって食べられる。生徒は今しかないんだから、とりあえずは止してください。さ、行こう」

 その場の勢いで、俺はΣ(名前が出てこない)の腕をとって食堂に入った。

 後ろで堂本が喚いているがシカトする。

「どうもありがとう」

 蚊の鳴くような声でお礼を言うΣ。涙声なので聞こえないふりをする。

「あー、ランチとかは売り切れてっか……マジ、飯前のトラブルはありえねーよなー」
「すみません」
「ハハ、きみが悪いわけじゃねーし。そーだ、麺類でスペシャルがあるんだ、任せてくれる?」
「う、うん……」

 表情は不足そうだけど、気持ちはそうじゃなさそうなのでリードを続ける。こういう場合の女の子をホッタラカシにしてはいけないというのは祖父ちゃんの遺言だ。

「おばちゃん、例のやつ。きみ、並んどいてくれる」

 カウンターで声を掛けておいてから食券を買いに行く。
 
 順番がきてトレーに乗っけられたものを見て、Σは目を丸くした。

 こういうときでも彼女の口はΣだ。

 でも、堂本とちがって、不足そうだとは思わない俺ではあった。

 

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魔法少女マヂカ・282『自然体・1』

2022-07-11 16:13:37 | 小説

魔法少女マヂカ・282

『自然体・1語り手:マヂカ 

 

 

 わ!?

 

 浴室を出るとお姉ちゃんの綾香が立っている。

「ごめん、ここで話がしたい」

「ちょ、あがるまで待ってよ。まだ裸だし(#-o-#)」

 トキワ荘から帰って、三姉妹の最後にお風呂に入って、やっと出てきたところ。裸どころか、湯気が立って水が滴っている。

「詰子に気付かれたくない、気づけば、詰子のことだ『あたしも連れてって』って言いだすからね」

「でも、こんな洗面所でなくても」

「トイレでもよかったんだけど」

「それは、ありえない!」

「ま、体拭いて、パジャマぐらい着なさい」

「そのつもりよ……ちょ、あっち向いててくれる」

「いいじゃないか、お互い義体だ」

「わたしは、昔からこれなの」

「千年も変化しないボディーなんてあるわけないじゃん」

「それは、わたしの魔力と、たゆまぬスキンケアとかが……」

「義体と同然でしょうが……しかし、いい体してるわよね。わたしなんか、義体なのに、ちょっと肌荒れっぽいし」

「ちょっとメタボかもね……あ、パンツ」

「忘れたんだ……お姉ちゃんの貸したげようか?」

「ちょ、いま穿いてるやつ!?」

「うん、スカート穿いてるから平気だし」

「そういう問題じゃなくて!」

「うそうそ、隠しといたのよ」

「もー!」

「上がりたてで、パジャマ着るのも暑いよね」

「誰のせいじゃ!」

「じゃ、涼しくしてあげる」

「ん?」

「明日、地獄に付き合って」

「え……?」

 

 いっぺんに涼しくなった。

 

「定期連絡なら、ヘルホ(ヘルホン=地獄スマホ)でもよかったんじゃないの?」

「「「今回は『出頭したうえで報告しろ』って条件が付いてるのよ」」」

「なにかやった?」

「「「ちゃんとやってるわよ」」」

「ちゃんとやってるのに召喚されるわけないでしょ」

「「「魔王の命令だから、しょうがないでしょ」」」

「どうでもいいけど、三つの頭で一度に喋るのはやめてくれる、耳がおかしくなる」

「「「これが本来のわたし、ケルベロスよ」」」

「だったら、綾香ネエの喋り方やめてよ、アンバランスでキモイ」

「「「あ……ああ、ごめん……いや、すまん。慣れ親しんでしまったもんだから」」」

「犬に戻ったら、肌荒れもメタボも直ってんのね?」

「「「本来の姿だからな」」」

「やっぱ、自然がいちばんなのかもね」

「「「そういう、マジカも」」」

「なによ」

「「「おまえ、言葉遣いが、オッサンの時と今みたいに女の子風の時とがあるぞ」」」

「え、そう?……あ、ああ……言われればそうかもしれない」

 思い返してみると、この令和の時代に目覚めたころは、ケルベロスとたいして違わない言葉遣いだった……それが、いつの間にか、調理研のみんなと変わらない女子高生の喋り方になっている。

「「「それだけ馴染んできたということだろうな、俺もマヂカも」」」

「でも、ブリンダなんか、いつもオッサン言葉でしょ?」

「「「奴はカンザスの田舎の出身だ、あれが地の言葉じゃないのか?」」」

「ドロシーなんかは、ちゃんと女の子言葉だよ」

「「「それは映画の中の話だ、リアルのカンザスは違うのかもしれんぞ」」」

「そう言えば、あいつは、ほとんどカンザスの話とかはしないよね」

「「「まあ、いいんじゃないか」」」

「ノンコも、こっちに戻ってからも京都弁のまま……楽みたいね、京都弁の方が」

「「「まあ、それもいいんじゃないか」」」

 大正時代では、事の成り行きで京都の野々村神社の出身ということになったけど、案外本当なのかもしれない。

「「「日本人の素性なんて、五代も遡れば、たいていはアヤフヤなもんだ」」」

「フフ、なんか、肯定しているような腹立ててるような」

「「「ほっとけ」」」

「そうね……自然がいいわよね……あれ、唐突に電柱が現れた?」

「「「ビールの飲み過ぎかなぁ」」」

「ちょっと、こんなところで用たさないでよ!」

「「「いいじゃないか……自然の摂理ってやつだ」」」

 ジョロジョロジョロ…………プル

「あはは、ケルベロスでも、おしっこの時はプルって震えるんだ( ´艸`)」

「「「自然の摂理だ」」」

「ねえ、ずっと三途の川の傍を歩いてるけど、魔王の城見えてこないわよ……こんなに遠かったっけ?」

 魔王は地獄の一角を借りて城を構えている。大昔に来た記憶をたどっても、三途の川から枝分かれした道が見えてこなければならない。

「「「あ、あそこで道が分かれてる」」」

「いよいよかな」

 

 ところが、行けども行けども一面の荒野で、魔王の城は見えてこない。

「「「もう日本列島縦断くらいの距離は歩いたなあ」」」

「あ、また電柱が見えてきた。ケルベロス、おしっこ近すぎ」

「べつにもようしてきてはいないぞ」

「え……ずっと電柱が続いて……これって、うちの近所じゃ?」

 薄暗いままなんだけど、周囲の景色が輪郭を持ってきて、その角を曲がったら自分の家というところまで戻って来ていた。

 

 ズゥイン

 

 ゲームのセーブポイントのようなオブジェクトが現れ、その上に、メッセージめいた文字が浮かび上がってきた……。

 

 これは……?

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・052『玉代のハイテンション』

2022-07-11 06:19:11 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

052『玉代のハイテンション』 

 

 

 
 玉代さんのテンションは一時間目から高い。

 
 国語の授業は和歌と俳句だ。

 本来なら和歌と俳句に分けて四時間はかかると思うのだけど、鍋島という四十路の女性教師は和歌二首と俳句二首を解釈してお終いにしようとする。俳句の一つは『プレバト才能ランキング』の作品で、作品の面白さよりも、プレバトのヨタ話で時間を消化しようという腹だ。

「あなたたちは、好きな俳句とかありますか?」

 一通りの板書と説明を終えて生徒に振る。半分はアリバイだ。座右の和歌や俳句を諳んじている高校生なんて、まず居ない。数秒待って反応がなければ次に行こうと教案の次のページに目を落とす鍋島先生。

「先生」

「なにかしら、荒田さん?」

「好きな俳句です、教科書の欄外にあります」

 
 あらくれの熔岩山のぼり女郎花  角川源義(かどかわげんぎ)

 
「いい俳句に目を点けましたね、溶岩山と女郎花の対比が面白い句です。えっちらおっちら山を上ったら、岩の間に可憐な女郎花を見つけた感動を読んだ句ですね。対比の上手さでは『富士には月見草がよく似合う』の太宰治の感性に通じるものがあると思いますよ」

 模範的な解説をして、鍋島先生は終わろうとしたが、玉代さんはあとを続けた。

「わたしは、女郎花がえっちらおっちら山登りした俳句だと思うんです。これを詠んだ角川源義さんの感性はは素晴らしいと思います」

「女郎花が山登り?」

「はい、桜島を登って、麓を振り返って、まだ追いつかない男郎花(おとこえし)、あ、こう書くんです!」

 玉代さんは、つかつかと教壇に上がると、黒板に絵を描いた。桜島を登る女郎花と男郎花、頂上で女郎花が「オホホホホホ!」と笑って男郎花を見下している。見下しているんだけども、男郎花への蔑みなどは無くって、陽気な達成感が感じられる、明るい豊かさを感じさせる絵だ。

「『おみな』というのは女性の古語です。『おんな』と発音するよりも、とても易しい響きです。昔の人は女性というものを『おみな』という響きで理解し、感じていたんですね。『おみな』という響きの中には、あかあかとした日本女性の優しさとたくましさが同時に表現されていると思うんです」

 ほーーーーお

 先生も生徒も、玉代さんが言った内容よりも、スガスガとした玉代さんの声と姿に魅入られている。

「そう、こんな感じ!」

 あ!?

 ヤバイと思ったが間に合わない。


 ドーーーーーーーーン!!

 桜島が元気よく噴火した。

 
 玉代さんは玉依姫の力で、それ以上の噴火を押えたが、その時の噴石と火山灰の処理で鹿児島県の一年分の予算が飛んでしまいそうだ。

 
 次の数学は大人しくしていた玉代さんだったが、三時間目の体育で三度目をやらかした。

 陸上競技のあれこれを体験的に学習するというもので、真剣に記録を出そうというものではない。

「砲丸投げと槍投げ、どっちをやりたい?」

 時間的に余裕がないので、体育の伊藤先生は、どちらかを選ぶように体育座りのわたしたちに問いかけた。

「はい、砲丸投げ!」

 元気よく手を挙げる玉代さん。

 一時間目が面白かったので「がんばってー荒田さーん!」「ファイト、玉代さーん!」と声援が掛かる。

 機嫌よく砲丸を構えた玉代さんは、クルンクルンと旋回し、三回回ったところで投擲した。

 セイ!

 ビューーーーーーーーーン!

 砲丸は、調子づいた勢いのまま、錦江湾を超えて、桜島の頂上付近に命中した。

 ドーーーーーーーーン!!

 また、桜島が元気よく噴火した。

 なんとか収めたが、鹿児島県は緊急対策援助を国に頼まなければならなくなった。

 
 五時間目は反省し、保健室で寝ていた玉代さんだが、六時間目の日本史で弾けてしまった。

「ええ、要するにぃ、鹿児島を攻めた政府軍はぁ、城山に西郷軍を攻め立ててぇ……」

 藤田先生ののんびりした講釈が逆効果。

「もっと劇的に!」

 
 ドーーーーーーーーン!!

 またまた、桜島が元気よく噴火した。

 
 放課後には、自衛隊が出動する羽目になった。

 
 玉代さんは落ち込んだ。

 帰りは電車にも乗らず、甲突川を眺めながら二人で橋の欄干に寄り掛かっている。

 わたしも、どうしていいか分からなくなった。

「やっぱり、もう百年ほど引きこもります……」

 なにか言ってあげようと思うんだけど、言葉が出ない。

「ひるでぇ……」

 女生徒に化けたねね子が寄ってきた。

「なにさ、ここでは伊地知香奈枝よ」

「いや、世田谷八幡のオキナガさんから……」

 肉球型のスマホを差し出すねね子。

―― かえってお世話を掛けました、わたしも回復しましたので、戻ってきてください ――

 オキナガさんが元気になったのはいいが、玉代……玉依姫を置いておくわけにはいかない。

 ねね子もニッコリと頷く。

「玉代さん、いっしょに来る?」

「え……いいの!?」

 
 二か月ぶりに世田谷に戻るわたし……いや、わたしたちだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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