大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・281『孫悟嬢とオリジナルの跡地に』

2022-07-06 10:06:31 | 小説

魔法少女マヂカ・281

『孫悟嬢とオリジナルの跡地に語り手:マヂカ 

 

 

 とりあえず顎をしゃくった。

 

 トキワ荘の廊下で話すわけにはいかない、表に出ろというジェスチャーに孫悟嬢も小さく頷いて付いてきた。

 さいわい、トキワ荘そのものがトキワ荘公園、木陰のベンチでファンの交歓会風に集まりなおす。

「え、なにを交換すんのん?」

 ノンコがスカタンを言う。

「交歓だ、楽しくお喋りするという意味だ」

「え、楽しんでる場合やないと思うよ」

「いや、だから……」

「オフ会の感じという意味ですよ」

 白巫女が注釈してくれる。

「こちらの女性は?」

「お初にお目にかかります、神田明神にお仕えする白です。お見知りおきのほどを……」

「白?」

「神田明神の白巫女だ。赤・白・青・黒の四人で神田明神の四方を護っている。白巫女、こいつは中国の魔法少女の孫悟嬢だ」

「孫悟空の御子孫ですか?」

「はい、悟空は祖父です。神田明神は中国でも有名です。そうか、同じような立場なのですね」

 孫悟嬢には、西遊記風に話してやるのがいいようだ。

「それで、百年前の大連にいたはずの孫悟嬢が、なんでトキワ荘にいるんだ?」

「なんか、ブリンダ、怪しんでるっぽいでぇ(^_^;)」

「そんなことないぞ、オレはこういう性格なんだ。乱暴に聞こえたなら、すまん、孫悟嬢。大連では世話になった」

「こちらこそ、ロシア勢を退治してくれて助かったわ。急きょヨーロッパから呼び戻されて途方に暮れていたところだったのよ。おかげで、あの後はやりやすくなった」

「それで、完全不一样(マンチェンプーイヤ)とは、どういうこと? 全然違うとは、穏やかじゃないぞ」

「このトキワ荘はよくできているがレプリカよ。さまざまな取り組みとファンの力でソウルは宿っているけど、真の暗黒面は、まだオリジナルの方にあるのよ」

「ああ、本物は解体されて、別の建物が建っているはずだが」

「うん、そっちの方に真の暗黒が蟠っていて、次元の狭間ができ始めている」

「それを言いに、大正時代からリープしてきたのか?」

 それくらいのことは、わたしも考えている。この後、足を伸ばしてオリジナルの跡地も見るつもりでいたからな。

「事態は、マヂカが思っているよりも深刻なのよ。いえ、わたしの予想も超えていた……もう、あの狭間から令和の東京に抜け出した奴がいるのよ」

「「なんだって!?」」

 ブリンダと声が揃ってしまう。

 

 わたしたちは、その脚で、オリジナルの跡地に向かった。

 すでに、抜け出しているとあれば、説明を聴くよりも、直に残留思念を感じた方がいい。

 

「すでに依り代に憑りついている……」

「大きいぞ、人間ではない」

 人の目には見えないが、抜け出た狭間が、閉じ切らずにフワフワとしている。

「象さんぐらいの感じやろか……?」

 ノンコの想像は可愛らしい。

「とりあえずの結界を張ります」

 白巫女はカットソーの胸元からお札を取り出して、息を吹きかける。

 お札は、白いテープのようになって、破孔を取り巻いた。

「なんか、警察の立ち入り禁止みたいや」

「はい、それくらいの効力しかありません。神田に戻ってから、赤・黒・青といっしょに出直して本格的な結界にします」

「抜け出たのは……船だな」

「それも、バルチック艦隊クラスの軍艦だ……」

「はい、双子の姉妹……」

「「まさか!?」」

 日米二人の魔法少女のイメージが重なって、中国の魔法少女が呟くように宣告した。

 

「北洋の双竜、定遠と鎮遠です!」

 

 ザワザワザワ

 

 オリジナルの跡地に砂埃を舞いあげて嫌な風が吹き抜けた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・047『近江八幡 大当たりの文化祭』

2022-07-06 06:18:06 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

047『近江八幡 大当たりの文化祭』 

   

 

 

 ねね子、こんどの八幡はどこだ?

 ちょ、ちょっと待ってニャ……えと、琵琶湖の東、近江八幡みたいニャ……ちょ、待ってニャー(^_^;)

 

 ……風俗やからアカンてさ。

 
 職員室から帰ってきた加奈子は、教室の入り口に立ったまま悄然と言った。

 言っただけじゃなくて、そのまま廊下を走って、姿を消してしまった。

 教室で飾りつけのあれこれや準備をしていた手が停まってしまう。

「ちょっと見てくる。ぜったい無駄になんかしないから、みんなは作業の続きしといて、いいわね!」

 教室も放っておけないけど、加奈子はもっと放っておけない。

 転校して三週間ほどにしかならないのに、エラソーに言ってしまう。

 こういう場合は、だれかがアグレッシブに行動しなきゃ全部がダメになる。

 教室を出ると直ぐに階段だ。上に行ったか下に降りたか?

「ね、どっち行った?」

 机を運んでいる子に聞く、急いているから詰問口調。

 その子は怯えたような顔になって、人差し指で上を指す。

 また嫌われたかな……湖東の街は『商人の街』と云われて、みんな物言いが柔らかい。そこにむき出しの東京弁、それも下町言葉では親しみは持たれない。でも、そんなことを言ってる場合じゃない。

 クラスの文化祭がダメになるだけじゃなくて、加奈子は再起不能になるだろう。

 
 教室で喫茶店をやることになったのは、転校してきた次の日のホームルームだ。

 
 コンセプトは『街の活性化に貢献!』という真っ当だが漠然としすぎたものになった。

 大丈夫かと思ったけど、まだ二日目、空気を読んで控え目に賛成しておいた。

「ねえ、東京の喫茶店てどんなんやのん?」

 加奈子に聞かれて、アキバで流行り始めているメイド喫茶の話をした。

 それ、ええやんか!

 みんな食いついてきた。

 駅前の書店や図書館の資料を漁った。図書館の資料は古すぎて戦前の『カフエ』の女給さんしか出てこない。雑誌の幾つかの特集が役に立った。

「これがええわ!」

 フリフリのメイド服がみんなの目に留まった。ミニスカートなんだけど、ペチコートでフワフワにして、ドロワーズを穿く。普段は大人しそうな子たちなんで、いざ化けるとなると過激な方に針が振れるみたいだ。

 メイド服は、基本的にワンピースなので、裁断も縫製も楽だ。その上、文化委員の宇野君ちが仕立屋さんなので「オレ縫えるかも……」と名乗り出て、試作品を二着作って、みんなから大絶賛された。

 そして、その試作品と店内飾りつけのプランを持って加奈子が職員室に行ったところだったのだ。

 
「……加奈子」

 
 階段室の所から、そっと声をかける。こういう時、焦った声や大声は禁物だ。

 加奈子はフエンスの金網を掴んで琵琶湖を見ているふりをしている。このまま教室に戻ったら泣き出しそうなので、落ち着こうとしている様子だ。

「琵琶湖の照り返しって、なんだか目に染みるね」

 眩しいふりをして、横に並んで金網に掴まる。加奈子は唇を噛んでいる、噛み殺しきれない涙が頬を伝っている。もとは、わたしが言いだしたメイド喫茶だ、責任を感じる。

「なんとかなるよ」

「どないもならへんわ、いかがわしい風俗は認められへんて、取り付く島もないねんもん」

「そんなことないよ、五分で考えろって言われたら無理だけど、この景色見てたら夕暮れまでには解決するよ」

「そんなん……」

「えと……ねえ、越してきて間がないからさ、ここから見える街のこと教えてよ。あたし、駅と学校と自分ちしか分からないから。あたしんちは、あっちの方かな?」

「為心町やったら、こっちのほう」

「え、そなんだ」

「八幡山見えてたら分かるでしょ」

「まだ、馴染んでないからね……剃りこみ入ってるんだね、八幡山」

「あれはロープウェイがあるから」

「え、ロープウェイあるんだ、乗ってみたい!」

「展望台があるだけのしょーもないとこ」

「んなことないよ、登りながらゆっくり景色を楽しむってだけでお値打ちだよ。麓のお寺は?」

「お寺? ああ、神社やよ、日牟禮八幡宮」

「ああ、あれがあるから近江八幡て言うんだ」

「どやろ、学校のねきにあるのんも八幡神社やし」

「あっちの学校は?」

「近江兄弟社学園」

「きょうだいってブラザーの?」

「うん、メンソレータムの会社作ったヴォーリーズいうアメリカ人が作らはった」

「え、メンソレータムって、あのメンタムの?」

「メンタム?」

「あ、東京じゃつづめて言ってた」

「オシャレやねんね、東京は……あ、皮肉に聞こえたらごめんね」

「あ、ううん……」

「この校舎もヴォーリーズの設計やったりするねんよ」

「え、そうなんだ!」

「今はロート製薬に買収されてしもたけどね」

「学校が?」

「プ、メンソレータム」

「アハハ、そうだよね、ここ公立だもんね」

「なんか、思い浮かんだ?」

「なに?」

「対策」

「あ……もうちょっと」

「手ぇ荒れてるねえ、加藤さん」

「あ、恥ずかしい」

「これ、塗っとき」

 加奈子が出したのはメンタムのカンカンだ。      

 ありがたくメンタムを刷り込んで……閃いた!

「ね、これでいこうよ!」

「え、な、なに!?」

 わたしはメンタムのカンカンをグイっと突き出した!

 
 エプロンを工夫して、画用紙のナースキャップを被って、青十字の腕章を巻いて、メンソレータムのイメージキャラクターのリトルナースに化ける。

 ほとんどメイド服のまんまなんだけど、先生たちはグウの音も出なかった。

 こうして『メンタム喫茶』は文化祭の企画大賞をとって大当たりした。

 
 ね、ねね子はどこに居たんだ?

「あ、ここニャ、大事な役をやっていたニャ(^▽^)/」

 ねね子はメンタムの蓋のリトルナースになっていたぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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