魔法少女マヂカ・281
とりあえず顎をしゃくった。
トキワ荘の廊下で話すわけにはいかない、表に出ろというジェスチャーに孫悟嬢も小さく頷いて付いてきた。
さいわい、トキワ荘そのものがトキワ荘公園、木陰のベンチでファンの交歓会風に集まりなおす。
「え、なにを交換すんのん?」
ノンコがスカタンを言う。
「交歓だ、楽しくお喋りするという意味だ」
「え、楽しんでる場合やないと思うよ」
「いや、だから……」
「オフ会の感じという意味ですよ」
白巫女が注釈してくれる。
「こちらの女性は?」
「お初にお目にかかります、神田明神にお仕えする白です。お見知りおきのほどを……」
「白?」
「神田明神の白巫女だ。赤・白・青・黒の四人で神田明神の四方を護っている。白巫女、こいつは中国の魔法少女の孫悟嬢だ」
「孫悟空の御子孫ですか?」
「はい、悟空は祖父です。神田明神は中国でも有名です。そうか、同じような立場なのですね」
孫悟嬢には、西遊記風に話してやるのがいいようだ。
「それで、百年前の大連にいたはずの孫悟嬢が、なんでトキワ荘にいるんだ?」
「なんか、ブリンダ、怪しんでるっぽいでぇ(^_^;)」
「そんなことないぞ、オレはこういう性格なんだ。乱暴に聞こえたなら、すまん、孫悟嬢。大連では世話になった」
「こちらこそ、ロシア勢を退治してくれて助かったわ。急きょヨーロッパから呼び戻されて途方に暮れていたところだったのよ。おかげで、あの後はやりやすくなった」
「それで、完全不一样(マンチェンプーイヤ)とは、どういうこと? 全然違うとは、穏やかじゃないぞ」
「このトキワ荘はよくできているがレプリカよ。さまざまな取り組みとファンの力でソウルは宿っているけど、真の暗黒面は、まだオリジナルの方にあるのよ」
「ああ、本物は解体されて、別の建物が建っているはずだが」
「うん、そっちの方に真の暗黒が蟠っていて、次元の狭間ができ始めている」
「それを言いに、大正時代からリープしてきたのか?」
それくらいのことは、わたしも考えている。この後、足を伸ばしてオリジナルの跡地も見るつもりでいたからな。
「事態は、マヂカが思っているよりも深刻なのよ。いえ、わたしの予想も超えていた……もう、あの狭間から令和の東京に抜け出した奴がいるのよ」
「「なんだって!?」」
ブリンダと声が揃ってしまう。
わたしたちは、その脚で、オリジナルの跡地に向かった。
すでに、抜け出しているとあれば、説明を聴くよりも、直に残留思念を感じた方がいい。
「すでに依り代に憑りついている……」
「大きいぞ、人間ではない」
人の目には見えないが、抜け出た狭間が、閉じ切らずにフワフワとしている。
「象さんぐらいの感じやろか……?」
ノンコの想像は可愛らしい。
「とりあえずの結界を張ります」
白巫女はカットソーの胸元からお札を取り出して、息を吹きかける。
お札は、白いテープのようになって、破孔を取り巻いた。
「なんか、警察の立ち入り禁止みたいや」
「はい、それくらいの効力しかありません。神田に戻ってから、赤・黒・青といっしょに出直して本格的な結界にします」
「抜け出たのは……船だな」
「それも、バルチック艦隊クラスの軍艦だ……」
「はい、双子の姉妹……」
「「まさか!?」」
日米二人の魔法少女のイメージが重なって、中国の魔法少女が呟くように宣告した。
「北洋の双竜、定遠と鎮遠です!」
ザワザワザワ
オリジナルの跡地に砂埃を舞いあげて嫌な風が吹き抜けた。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
- サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
- ソーリャ ロシアの魔法少女
- 孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査
- ファントム 時空を超えたお尋ね者