大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・318『めぐりん倒れる!』

2022-07-08 18:01:37 | ノベル

・318

『めぐりん倒れる!』さくら   

 

 

 お財布持って食堂に行こうと腰を浮かした時、変な音がした。

 ヒュッ

 なんか小さなブラックホールが出来て、瞬間で周囲の空気を吸い込んだような音。

 振り返ると、スマホを持ったメグリンが目を見開いて、口を酸欠の金魚みたいにヒクヒクさせたかと思うと、いままで聞いたことのない、押し殺して絞り出すような悲鳴を上げた。

 アア アアアア……

 みるみる真っ青になったメグリンは、ハッ ハッ ハッ……と、つんのめるような荒い息になって、次の瞬間机に手を付いた。

「ちょ、どないしたん、めぐりん!? ワ! ちょっとおお!」

 ドサ!

 180センチ近い身長のメグリンが、わたしに覆いかぶさるようにして倒れてきた!

「キャー!」「古閑さん!」「メグリン!」「だれか、先生よんできて!」

 何人かの声がいっぺんにして、昼休みに突入したばっかりの教室はパニックになってしもた!

 

 日直の伊達さんが十秒ほどで長瀬先生(ほら、入学して間もないころ玄関で怒られた体育の先生)を連れて戻ってきた。

「過呼吸やな、伊達、保健室行って酸素ボンベ、居てはったら保健室の先生にも来てもろて!」

「はい!」

 伊達さんは、その足で保健室にすっ飛んで行く!

「古閑、大丈夫や、先生がついてるさかいなあ、ちょっとリボン緩めるで」

「は、はぃ……ハッ ハッ ハッ……」

 かろうじて返事はするけど、荒い息は続いてる。

「酒井、じぶん、古閑の友だちやな」

「はい」

「手ぇ貸して」

「はい」

「古閑、上体起こすぞ、前かがみで座ってみよ……」

 大柄なメグリンの背中に手をやったかと思うと、長瀬先生は、めっちゃ優しくメグリンを起こして、前かがみに座らせた。うちは、手ぇ添えてただけ

「そうや、これで、ゆっくりと前かがみで呼吸……ゆっくりと吐いたらええからな……そうやそうや、すぐに楽になるからな、楽になって昼ご飯食べならなあ……」

「あ、食堂……」

 気の回る留美ちゃんは、食堂のランチが売り切れになるんちゃうかと、腰が浮きかける。

「治ったら、昼は先生が奢ったるからな、焦ることはないで……せやせや、ゆっくりと息吐きぃ……」

 玄関で怒られた時と違って、めっちゃ優しい。

 そうやって、落ち着かせてるうちに伊達さんが保健室の先生連れて戻ってきた。

 やっぱり、その道のプロ、保健室の先生と長瀬先生の手当てで、急速に落ち着いてくるメグリン。

「念のために、ちょっと保健室でやすもう」

 先生らに促されて起き上がるメグリン。

「メグリン、スマホ……」

 拾って渡そうとしたスマホの画面には、ショックなニュースが出てた。

 

 元首相が西大寺で撃たれて心肺停止状態……!?

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

 

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やくもあやかし物語・147『庭先で里見さんとお話する』

2022-07-08 09:58:44 | ライトノベルセレクト

やく物語・147

『庭先で里見さんとお話する

 

 

 里見フセです

 

 里見さんのお嬢さんは、キチンと目を見てあいさつしてくれる。

 白のワンピがよく似合って、黒のロングヘア―とも相まって、清潔な威圧感がする。

 むかしのわたしだったら、息苦しさに窒息しそうになって逃げだしたと思うよ。

「ごめんなさいね、急に庭先に現れてしまって。お玄関から伺うと、小父様や小母様に出くわすでしょ……」

「あ、いえいえ(^_^;)」

 お爺ちゃんもお婆ちゃんも、散歩の途中でよく出くわすお馴染みさん、今さらなんだけど……ま、いい。

「八房が、無理なお願いをしてごめんなさい」

 手をおなかの前で重ねて、きちんと頭を下げる里見さん。

 なんだか、皇族のお姫様みたいで、アセアセで頭を下げる。

「いえいえ、大してお役にも立ってませんし、八房もお礼にって檜ぶろくれましたし」

「それは……お気に召したのなら幸いなんですけど、あんなものではお礼にならないくらいやくもさんにはお世話になっています。将門さまにもお会いになって、わたしがやっていた時よりも沢山お引き受けになって」

「あ、ああ、ドンマイです。えと、けっこう楽しくやってますから。お礼に、お城とかも頂いちゃって、うちのフィギュアたちも気に入って、なんだか住み着いちゃいそうな勢いです」

「いえいえ、みんな、やくもさんの優しさに付け込んでいるんです。あちらの世界で、いくら御褒美をもらっても、こちらの世界では使えないものばかりでしょ?」

「え、まあ、それはそうなんですが……」

「わたしも、やっと回復してきました。八房も、近ごろでは車いすも使っていませんし、これからは、わたしがやります。もともとは、わたしがやっていたことなんですから」

「あ、でも……」

 元気になったとは言っても、目の前の里見さんは、白のワンピのせいかもしれないけど、首筋や手足の細さ白さが儚げすぎる。これは、敵をやっつけても、その代償に、この世から消えてしまいそうな感じだよ。とても「そうですか、じゃ、頑張ってください」にはならないよ。

「フフ、わたしが白いものを身に着けているのは、ちがうんですよ」

「ちがう?」

「白のワンピースといえば、なんですか?」

「ええと……え……まさか?」

「はい、ウェディングドレスです。まだ道半ばですから、こんなシンプルなワンピースですけど、成就すれば、ベールもブーケも、お花やリボンのフリフリも付いて、立派なウェディングドレスになります」

「だれのお嫁さんになるんですか?」

「八房のお嫁さんになるんですよ(^▽^)」

「え……ええ!?」

「そういう約束なのです。亡くなった父が『それはならん!』と言って、八房は身を引いたんですけど」

 だろうね、犬と人間……ありえないよ。

「でも、父は間違っています。ちゃんと、八房は父の言いつけを守って、二百年も前に仇をとったんですから、約束は守らなければなりません。そういうことですから、残りの任務は、わたしがいたします!」

「は、はい……」

「それよりも、今は、親子(ちかこ)さんのことでしょ?」

「はい……」

「やくもさん……ちょっと途方にくれていますね?」

「はい、チカコったら、どこにいるのか……」

「親子といういうのは、徳川家茂さんに嫁ぐと決まった時に帝がお与えになった諱(いみな)です」

「はい、それは調べました」

「親子と書いてチカコと読ませることは、ちょっと珍しいんですよ」

「そうなんですか?」

「スマホでひいてごらんなさい」

「はい」

 千賀子  千佳子  知加子  睦子  允子  俔子  史子  央子  周子  実子

「あれぇ?」

「親子と書いてチカコと読ませるのは変換候補に挙がってこないでしょ?」

「はい」

「帝は、諱に願いを込められたのです。朝廷と幕府の間を親しいものにしてくれるように……あの結婚は、公武合体の願いが籠められた結婚でしたからね」

「……でも、それって、十四歳の女の子が背負うのには重すぎませんか、可哀そうです」

「そうね、でも親しむのは、朝廷と幕府ばかりではないと思います。夫になる家茂さんとも親しく良い夫婦になって欲しいという願いも込められていますよ」

「……そうなんだ」

「親子の甥にあたる明治天皇の諱は睦仁です。睦は、仲睦まじくの睦で、親子の親と同じ意味です。そこを思って探したら、見つかるような気がします」

「は、はい」

「フフ、少し、余計なことを言いました。では、これからは、わたしが引き受けます。やくもさんは、まず親子さんを探してあげてください」

「はい」

「ま、ご近所の縁ですから、手に余ることがあったら、またお願いにあがるかもしれませんけども。それでは……」

「ありがとうございました」

「いいえ、お礼を言うのはわたしのほうです。それから、これからは『里見さん』ではなく『フセ』とか『フセちゃん』と呼んでくださると嬉しいです」

「わたしも、さん抜きの『やくも』でいいですから!」

「そう、嬉しい。それでは失礼します、やくも」

 里見……フセさんは、庭の隅から母屋の角を曲がって帰って行った。

 

 あ、カップ麺!?

 

 冷めて伸びまくっていると思ったけど、ちょうど食べごろに仕上がっていたので、美味しくいただいて寝たよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』

2022-07-08 06:14:40 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』 

 

 

 
 お姉ちゃんとケンカしたがや。

 
 拓馬がいきゆう土佐城西高校が選抜で優勝したがやき。

 拓馬は野球部やけんろ、補欠の球拾いじゃ。ずっとベンチに座っとってバッターボックスには立たずじまいじゃ。そんなんを喜ぶのはアホじゃき。

「けんど、自分が参加した野球部が優勝したんやき、嬉しいに決まっとろーが。せやき、それを喜んでやることのどこが悪がかや!」

「未練じゃき。自分を振って城西なんか行きゆう拓馬を応援するんは未練じゃき!」

「み、美登里……」

 あとは言葉にならん、ワナワナと震えよって、これは手が出ゆうろ……思うた瞬間右頬に衝撃が来た。

「た、拓馬がサウスポーやいうて、真似せんでもええがやろ!」

 それだけ吠えると、ローファーをつっかけて家を出た。

 

 家を出て三十秒で高知八幡宮の前に来る。

 

 今日は、新学年の教科書受け取りだけやき、ちっくとばあ時間があるき。

 鳥居を潜って、お財布から五十円出して、賽銭箱に投げ入れて二拍手一礼。

 ほんとは二礼二拍手一礼やけんど、通学途中じゃきに略式。

 このまま学校行っては、人とかモノにあたってトラブルおこしそうやき、切り替えるんや。

『帰りに、はやいっさんお参りしいや』

 え?

 聞きなおすがあ返事はない。

 おみくじを買うと『末吉』

 末に吉いうは、いつごろの末やろうかといぶかりながら鳥居を出て自転車にまたがる。

 表通りの赤信号に捕まって、はてな?

 なんで自転車に乗りゆうがや?

 あ……自転車に乗りゆうが忘れるぐらい興奮しとったが。

 

 学校に着くと、早や着いとる子ぉらが城西の噂に花を咲かせちゅう。

 

 そやけんど、熱中はしゅうけんど、お姉ちゃんみたいに浮ついた風はないがや。

 そらそうじゃ、そうそう城西の野球部に知り合いの居る子はおらんろ、それも、城西野球部に振られるっちゅうは。

 教科書購買の次に副読本の列に回ると、急に足カックンをされる。

「キャ!」

「アハハ、美登里、隙じょきけじゃが」

「もう、小学生か」

「ねえ、城西野球部の話、聞いたがか?」

「あ、うん。めでたく優勝じゃろ」

「ほりゃ古いが」

「え?」

「じつは、優勝戦前日にな、宿舎の旅館で女湯を覗きゆうたいうて、週刊誌に載ったがや」

「え……まっことか!?」

「まっことじゃ!」

 

 週刊誌は今朝発売されたばかりいうことじゃ。

 お姉ちゃん、見てなきゃえいがやけど。

 淡い期待は、即否定されたが。

「もう、テレビのワイドショーでもやりゆうが(^▽^)/」

「へちゃー(;^_^A」

 

 教科書の入った袋の何倍も重い気持ちで真っ直ぐいぬる気持ちにもなれんがやき、帯屋町筋商店街をうろつく。

 教科書はコインロッカーに入れた、やっぱり重いし。

 どの店に寄るでもなく、中央公園に足を向けると……出くわしてしもうた。

 植え込みの向こうのベンチに、拓馬とお姉ちゃんが腰を掛けちゅう!

 植え込みを挟き、こっち側のベンチに掛ける。

『ほんなら、優勝は取り消し?』

『しょうがないろ』

『ちやな』

 何を気楽に! 覗きなんかやったら謹慎やろうが! なにをデートまがいの事をしちゅうがかや!


『やけど、男風呂の庇からなら女湯が覗けるとゆうたのは週刊誌の記者だ。みんな特ダネ欲しさの記者にのせられたんだ、のるほうもわりぃけど』

『そうじゃったが!?』

『うん、でも、ほりゃあゆうちゃならんて学校に言われとる』

『そうなが……半分以上は週刊誌がわりぃと思うよ』

『ありがとう、その言葉ばあで嬉しいよ……ほんとに、電話してくれて嬉しかった』

『だって、心配やもん。それに、拓馬自身は覗きにゃ参加しとらんて分かったし』

 え……そういうとこも補欠か。

 あとは焦げ木杭に火が付きそうながで、こっそりといぬることにした。

 
『な、まっこと末吉じゃったろ(⌒∇⌒)』

 
 神さまが声ばあで応えてくださる。

「ありがとうございました」

『美登里、おまんの末吉はまだまだじゃ』

「え?」

『教科書、コインロッカーにしはやたままじゃろが』

「あ、あ、しもうた!」

 はやいっさん帯屋筋商店街に取って返す。

 コインロッカーを開けたげに、自転車が無いことに気づく。

 教科書の重い袋を抱えて学校に戻り、改めて自転車の前かごにつきいぬるんやけど、教科書の重みでハンドルがフラフラ。結局自転車屋さんに寄って五百円でゴムロープを買うて後ろの荷台に固定した上で、安全運転でいぬる。

 
 ああ……なんか、さんざん。

 
「今度はドジっ子だったな」

「でも、神さまは、ああいう三枚目が好きニャ(^▽^)/」

「そうか……しかし、土佐弁きつすぎないか? 自分でしゃべってても分かりにくいところがあったぞ」

「あ、昭和五十年だったから、今よりも方言きついニャ」

「で、ねね子はどこにいた?」

「膝カックンをやったニャ」

 
 ああ、やっぱりな……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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