大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・148『再びの神保城』

2022-07-13 12:44:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・148

『再びの神保城』   

 

 

 霞の真ん中がぼんやり滲むように開けていって、神保城の坂道が明らかになっていく。

 坂道は、神保城の東側。ぼんやりとしながらもフワフワと明るいので、日が昇って三時間くらいの初々しい朝だ。

 

 おお……

 

 思わず、都に着いた勇者みたいな声が出た。

 お城の周りは、四季折々の花がいっぺんに咲いていて、ミックスジュースを思わせるようないい香りがしている。

 見上げたファサード(城門を含む、正面のしつらえ)は、ゴブラン織りかなにかの幕やら旗やらが、垂れたり掲げられたり、なんともゴージャスで華やかで、勇者がミッションコンプリートで大団円に臨むって感じ。このまま、王様に出迎えられて「勇者殿、我が姫を妃として、末永くこの国を治めてくだされ」とか言われて、経験値マックス、トロコンして、経験値引き継いで『強くてニューゲーム』のフラグが立っていたり。

 でも、わたしは勇者じゃなくて男でもなくて、この城の女主なのよ。

「お、これは女王さま!」

 櫓の上から声がしたかと思うと、いつのまにか城門は開いていて、ガシャガシャと鎧の音をさせながらアノマロカリス将軍が駆けてくる。

「城も城下も、九分どうり整いまして、明日にでも女王陛下をお迎えしようと思っていたところです」

「あなたも、すっかり偉い将軍になっちゃったわね」

「はい、この神保城の安寧を保つべく、鋭意努力する所存にございます」

「それはそれは」

「本来なら、儀仗隊を並べファンファーレと花吹雪でお迎えしなければならんのですが、なにぶん、みな、陛下のおなりは、もう少し後であろうと思っております。今日の所はお忍びということで」

「うん、いいわよ、それで。で、御息所か黒電話さんに会いたいんだけど」

「はい、それでは……」

 髭を振り回してアノマロカリスがキョロキョロすると、後ろから声がかかった。

「わたくしがご案内いたします」

「あ、アカミコさん!」

 アカミコさんは、神田明神からの出向で、神保城でのわたしの身の回りの世話をしてくれる。

 わたしのフィギュアたちは舞い上がってしまっているので、仕方がない。

 

「三回目だけど、まだ慣れないなあ……」

 

 お城の中はラビリンス。アカミコさんが居なければ御息所たちに会うどころか、自分が迷子になってしまう。

 いや、それも無理っぽい。

 お城の中では、いっぱい気配がするんだけど、わたしが近づいていくと消えてしまう。

「みんな遠慮しているのです、やくもさんを煩わせてはいけないと思って。でも、みんな新しいお城が嬉しくって、子どもみたいに夢中で……」

 ドタドタドタ

 突き当りの回廊をフィギュアたちが大工道具や資材を持って走っている。

「こらあ、廊下は走っちゃダメでしょ!」

 メイドのフィギュアが拳を振り上げ、自分も走りながら叱っている。

「なんだか保育所の休憩時間みたい(^_^;)」

「フィギュアたちは、持ち主の心が反映されます。ちょっと騒々しいですが、みんな素直に嬉しくって無中なんです……いつか、やってくるご自分の姿だと大目に見てやっては、いかがでしょう」

「う、うん。これはこれでいいんだよ。でも、だからこそ……」

「チカコさんですね」

「うん、でも、わたし一人じゃ、どこをどう探していいか……」

「そうですね……こちらのお部屋です」

 

 黒書院

 

 なんだか、時代劇っぽい名前の部屋……入ってみると……あれ、うちの居間みたい。

 普段、食事の後は、リビングでお爺ちゃんお婆ちゃんと寛いでるんだけど、廊下を挟んだ向こうには十二畳の居間がある。居間の隣にはお茶室とかがあるんだけど、普段は使うことが無い。むかし、お婆ちゃんが小さいころは、大勢の家族で食事をしたり寛いだりする部屋だったそうだ。そこに似ている。

「もうひとつ向こうのお部屋になります」

 襖が開いて通されると、部屋は右側に一段下がって広がっている感じ。

 座布団が布いてあるところまで行くと、一段下がったところに逓信大臣の制服姿で交換手さんが畏まっていたよ。

 

「逓信大臣、面をお上げください」

 

 アカメイドさんが声を掛けると、やっと、顔を上げる交換手さん。

「交換手の制服に着替える間がありませんでしたので、こんなナリで申し訳ありません」

「ううん、急に来たのはわたしの方だし。気にしないで……えと、御息所は?」

「御息所は、総理大臣と建設大臣を引き受けまして、手が離せない状況です。申し訳ありません」

「あ、いいよいいよ。みんな楽しんでるというか、イキイキしていて、やくもは嬉しいよ(^_^;)」

「もったいないお言葉」

「あ、えと……もっと普通に喋ろうよ。なんか、殿様と家来みたい」

「総理大臣の指示で、このようなしきたりになっております」

「最初は、王朝風にやろうっておっしゃって、そこには御簾がかかっていました。直答が許されるのは三位以上の公卿に限るって、大変でした」

 アカミコさんも苦笑い。

「アカミコさんが間に入ってくださって、こういうお大名風に落ち着いたところなんです」

「あはは、目覚めちゃったって感じなんだね……まあ、ここは普通に話そうよ」

 わたしは、上段の間を下りて交換手さんの前に座りなおした。

「ウフフ、そうですね。わたしも、この方が断然楽ですから……ご用件はチカコさんのことですね」

「うん……」

「承知しました。わたしも豊原以来の交換手、電話線を使えばたいていのところには行けます。行先さへ教えていただければ、多少のお手伝いはできるでしょう」

「こっちの仕事はいいの?」

「基地局を建てる仕事が残っていますが、いいですよ。アナログ電話の回線は繋ぎ終えましたから」

「連絡はどうしたらいいんだろ、いちいち、こっちに来なくちゃいけないのかな?」

「いいえ、あっちの黒電話からお話しいただければ。スマホはダメですよ。まだ基地局できてませんからね」

「ありがとう、交換手さん!」

 ちょっとだけ光が見えてきた……気がしないでもない。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・2『それぞれのあだ名』

2022-07-13 06:19:25 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
2『それぞれのあだ名』   




 例のやつとはスペメン、スペシャル麺類の略だ。

 食堂の麺類は、うどん・そば・中華そばの三種類。
 日によって残っている麺類はまちまちで、その麺類に、ありったけのトッピングを全部のせしたものをいう。


 今日のスペメンはうどんだ。   
 

 天かす、オボロ昆布、きざみあげ、わかめ、玉子が乗っかって300円。早めに頼むと、数量限定の肉が入ることもある(肉が入ると350円)

 券売機のメニューには無い特別メニューだ。

 元々は、余った食材で作ったまかないなんだけど、ずっと昔の先輩が発見して裏メニューになっている。

 で、目の前には大盛りと並のスペメンが並んでいる。

 食堂のおばちゃんは南さんといって俺んちの近所のおばちゃん。

 おばちゃんは状況を察して、大盛りと並に振り分けてくれた。

「こんなの初めてです!」

 シグマは弾みのいい子で、うどん一杯で気持ちが切り替わったようだ。

 口元は堂本が言う通りのΣだけど、全体で見ると、年相応に驚き六分ワクワク二分に緊張二分ってとこだ。

 根っこの所では弾みがいいようで、うどんをすするΣ口も悪くはない……どっちかっていうと可愛いやつだぞ。

「あ、いっしょに食べててよかったっけ?」

「あ、え、えと、かまいませんよ。先輩は?」

「俺は気にしないから」

「そ、そですか……(^_^;)

 ひとしきりスペメンに集中する。

 妹以外の女の子と食べるのは緊張する。

 ノリスケといっしょならズルズルかっ込んで、うどん一杯なんてあっと言う間なんだけど、なにか喋らなきゃいけないんじゃないのか、ずるずるすすってはヒンシュクなんじゃないかとか思っているとペースがあがらず、シグマに先を越される。

「あ、あ、そだそだ、立て替えてもらったお代です(#'∀'#)」

 テキパキと財布を出して300円を差し出した。

「あ、いいよ、俺のおごりで」
「でもでも……そだ!」

 クルリと目を回すと、シグマは自販機に向かって駆け出した。

「リンゴジュースとカフェオレとどっちがいいですか( #
>o<#)!?」
 
 自販機の前から叫ばれて、ちょっとハズイ。

「あ、カフェオレ!」

 口の形を大きくして意思表示。

「男なんだから二つ飲んでください」

 ドドン

 カフェオレのパック二つが置かれた。シグマはリンゴジュースだ。

 チュルチュル……  ズズズズー!

「せ、先輩も堂本先生だったんですか?」
「ああ、俺は授業だけだったけどな」
「先輩も呼び出されたんですよね」
「ああ、いっしょいっしょ、数学欠点だったんでテスト前に呼び出された。で、入室禁止の札に通せんぼされた」
「で、ブッチしたんですよね」
「うん、指示が札と矛盾してるってこともあるんだけど、テスト前に説教しておしまいってのは、先生のアリバイっぽく思えてさ。昼飯と天秤にかけたら、やっぱ昼飯になるよ」
「い、いっしょです……あたしも、そういうの嫌い」
「でも『先生の指導はアリバイだ!』なんてことは……言わない方がいいような気がしてな」
「で……ですよね」

 発展しそうな話題だったけど、初対面で踏み込んでいいような内容じゃないと思って口をつぐむ。

「俺、二年一組の妻鹿雄一、いちおう名乗っとくな」
「あ、あたし、一年七組の百地です。今日は本当にありがとうございました」
「俺、オメガで通ってるから」
「え、先生のあだ名通りですか?」
「町内にオメガ時計店てのがあって。そこのトレードマークが似ていてな、別に堂本先生の独創じゃないよ」
「あたしのΣもそうです、先生は自分の命名だと思ってますけど」

 お互いのあだ名が堂本のオリジナルではないことに小さく驚いて、それぞれの五時間目に戻っていく。

 食堂の外は日差しの割には冷たい風、ブルッと震えてトイレ経由で教室に戻ることにした。

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漆黒のブリュンヒルデQ・054『走る』

2022-07-13 06:06:17 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

054『走る』 

      

 

 
 どうやらオキナガさんの仕業のようだ。

 
 玉代が従姉妹になって隣の部屋に住み着き、彼女を収容するために十坪ほど家が広くなった。

 では、その分庭が狭くなったかというと変わりがない。

 前の道路や、周囲の家にも変化がないのに、うちだけが広くなっている。人間業ではない。

 ネネコも寧々子の名前でお向かいの娘という設定になってしまった。それも、グータラで引きこもりの啓介の、しっかりした妹という立ち位置だ。いったい、なんのロールプレイングだ。

 そういう変化の一切合切を『よろしく呑み込んでくれm(__)m』という感じでスクネ老人が電柱の角で頭を下げた。

 
 それから三日がたった。

 
 緊急事態宣言が緩和され、少人数ずつの授業が始まる。少人数も、午前と午後に分かれて、午後の部のわたしは、そろそろ準備にかかろうと、玉代といっしょに部屋着を制服に着替えている。玉代にとっては初めて袖を通す制服で、自分の部屋に姿見が無い玉代は、わたしの部屋を使っている。

「ん……なにか聞けん?」

「二人分の足音?」

 揃って窓から顔を出すと、角っこを曲がって走って来るねね子と啓介が見えた。

「なんか、面白そう!」

「あ、ちょ、リボンが……」

 玉代に引っ張られ、リボンを結びながら表に出る。

 
「アハ、なにやってるの!?」

 
 汗ビチャになりながらも意気軒高なねね子の足元で啓介がだらしなくひっくり返っている。

「なんかん罰ゲーム?」

「ううん、もう学校が始まろうってのに、体力無さすぎだから鍛えてんのニャ!」

 兄の頭をグリグリ踏みつけながら、歪んだ微笑みを浮かべるねね子。

「いや……だからって……いきなり、ご、豪徳寺一周なんて、む、無理だって」

「啓介を鍛えちょったんだ!」

「そうか、それじゃ仕方ない、啓介も頑張らなくっちゃ」

「こ、こんな妹、いらねえ……」

 生まれついての妹という設定になっているが、啓介は本能的に違うと感じているのかもしれない。

「なに贅沢ゆちょっと、いまどき、ここまで面倒見てくるっ妹っじょっちょらんとじゃ」

「ハハハ、やっぱ、玉ちゃんは分かってるニャー(^▽^)/」

「そうだよ、いい機会だ、引きこもりなんてダサいこと止めて、学校行け」

「さ、ニイニ、今度は豪徳寺の駅まで行くニャ!」

「え、ええ!?」

「さっさと、立つ、立つ!」

「そうだよ、啓介は豪徳寺からの通学なんだから、がんばれ!」

「学校終わったやかごんま流んマッサージしちゃっでね」

「ねね子、か、勘弁して~(>o<)」

「ほら、いくニャ!」

 ドガ

「い、イタイ!、蹴るんじゃねえ(>_<)!」

 妹に蹴られ、腰を押えなが走っていく幼なじみを見送って、そろそろ時間。

 
 二人そろって制服で歩くのは初めてだ。

 わたしの本性ははヴァルハラの姫騎士、玉代は皇祖神に近い玉依姫の化身だ。凛とした制服姿は人目を惹く。道行く人たちがチラチラと見ていく。どちらかと言うと、7:3の割で玉代に注目が行く。

「マスクしちょるんに……」

「かえって目が強調されるしね、眼鏡でも掛ける? いちおう用意してるわよ」

「あ、試してみる」

 ダメだった、眼鏡をしても溢れる魅力というのか、世間には眼鏡属性がけっこういるというか。

「火山を噴火させるとこまではいかないけど、神さまオーラがすごいのよ。はやく、この世の空気に馴染むことね」

「うん、努力すっ……」

 手っ取り早く、猫背になるとか目を伏せるとかして『構うんじゃねえオーラ』を発散すればいいんだけど、玉代の神性は、そういう暗い演技は受け付けないようだ。

 
 ザッザ ザッザ ザッザ ザッザ…………

 
 もう少しで宮の坂駅というところで、十人ほどの学生が隊列を組んで駆けてくる。

 部活のランニングのようだが、雰囲気が違う。

 ねね子と啓介の心温まるオチャラケランニングを見たせいか、とても、ストイックで張り詰めた空気に引きつけられる。

 なによりも、わたしと玉代に見向きもしないで走って来るので、こちらが端に寄って避けなければならないことが可笑しい。

「こん世んもんじゃなかわね」

「あれは、妖たちよ……」

「ほうっちょけんわね……」

 あとの言葉はいらなかった。

 一瞬で隊列に追いつくと、全員の足を止めてやった。

 学生たちは、大人しく止まったが、たいそう所在なげだ。

「あたたち、七十七年ぶりに立ち止まったんね。おやっとさぁじゃった、二人で送っちゃるわ」

 阿吽の呼吸で隊列の前後に回り、そろって合掌し、次の瞬間に前後から気を送って隊列の真ん中でショートさせる。

 バチバチバチバチバチ……

 無数のポリゴンのようになって隊列は霧消していった。

「しまった」

「どうかした?」

「いや、いつもだったら、一人一人に名前を付けて浄化してやるんだけどね」

「今んな無理じゃ。もう七十五年も走りっぱなしだもん、名前を取り戻したぐれでは浄化はできらんかったんじゃ」

「うん、でもね……」

「でも?」

「ううん、もう済んだことだし、学校行こう」

「うん」

 
 カンカンカンカン……

 ちょうど宮の坂の遮断機が上がった。なにかの結界が開いたような気がした。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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