大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・324『初めてのお寺』

2022-07-26 14:35:47 | ノベル

・324

『初めてのお寺』古閑巡里   

 

 

 お寺に足を踏み入れるのははじめて。

 

 遠足で、いくつかのお寺には行ったけど、感覚的には観光地。

 はっきり覚えているのは、鎌倉と奈良の大仏。

 そう、大仏なんだ。

 ちょっとイケメンと思ったのが鎌倉の大仏。デッカイと思ったのが奈良の大仏。

 両方とも大仏には感心したけど、お寺の名前は憶えてない。

 他のお寺とか神社は、ほとんど憶えていない。

 うん、普通の高校生なら、お寺って、そういうものだと思う。

「え、畳敷きなの?」

 さくらの説明を聞いて、ちょっとビックリ。

 奈良の大仏も鎌倉の大仏も、忘れた他のお寺も床は石葺きだったり板張りだったり。

 本堂が畳敷き、ちょっと新鮮。

 

――食材として生まれてきた命は無い――

 門の横の掲示板に格言が貼ってある。

 な、なるほど……ちょっとたじろいでしまう。

 自分の家に門があるだけで――すごい!――とたじろいでしまうのに、この教訓。

 お父さんの職場にも立派な門というかゲートがあってポスターとか貼ってあるけど『隊員募集』とかで、教訓めいたことが書かれてあることは無い。建物とか施設の前に立って、こんなに緊張したことは無い。

 門の横には車の出入り口があって、見覚えのある青色ナンバーの車がお尻を向けている。

 先輩は、もう来てるんだ。

 門に踏み込んで、視界の端にインタホンが目に留まる。

 二歩戻って、インタホンを押す……………………手ごたえがない。

 普通の家は、屋内のインタホンが『ピンポ~~ン』とか鳴るのが聞こえたり『はい』とか返事が返って来る。

 ひょっとして電源入ってない?

 もう一回押してみようか、それとも、ここから呼びかけようか?

 呼びかけるとしたら……母屋っていうんだろうか、お寺の人が住んでる住居部分までは、プールの端から端までくらいある。かなり大きな声を出さないと、声届かないよ。

 そうだ、スマホで!

 スマホを出そうと、リュックを外したところでインタホンから声がする。

『そのまま本堂から上がって! 迎えに行くから!』

 元気のいいさくらの声。

「うん、分かった!」

 思わず大きな声出してしまって、境内に足を踏み入れる。

 本堂の前には階段。

 え、どこで靴脱ぐんだろ?

 奈良の大仏は、中まで土足だったし……本堂は畳敷きって言ってたから、靴は脱がなくちゃならないんだろうけど、階段の下? 上がったところ?

 フニャァァァァァ

 迷っていると、足もとで鳴き声がしてビックリ!!

 ウワアアアアアアアア!

 これは化け物かというくらいの猫が足もとにいる!

「ちょ、どないしたん!?」

 本堂の入り口が開いて、さくらが顔を出す。

「え、あ、アハハハ、猫にビックリしちゃってぇ」

「ダミア、こっちおいで!」

 フニャ

 化け猫は、スタスタと階段を上がって本堂の中に入ってしまう。

 続いて上がろうとしたら「靴は脱いでぇ」とさくらに注意される。

「上がったとこに下駄箱あるさかい、ここに入れといて」

 よく見ると、階段の横に注意書き『お履き物は、お脱ぎになって、階段上の下足箱に入れてください』とある。

 

 今日は、ヤマセンブルグ行を一週間後に控えて、メンバーで打合せ。

 打合せの中身よりも、お寺初体験の方がおもしろかったメグリでした(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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やくもあやかし物語・150『チカコを捜す・大奥』

2022-07-26 11:21:50 | ライトノベルセレクト

やく物語・150

『チカコを捜す・大奥

 

 

 大玄関を上がると和風のラビリンス。

 

 板敷や畳敷きの廊下が稲妻のように巡っていて、ゲームの迷宮ダンジョンに差し掛かると投げ出してしまうわたしは、早くも顎が出てしまう。

「大丈夫です」

 アカミコさんは、いくつもある分岐は完全に無視して黙々とわたしを先導していく。

「……人が居ないねえ」

「チカコさんを探すための捜索モードですから、捜索対象以外は見えない仕様にしています。見えるようにします?」

「あ、ちょっとだけ」

 昔のわたしなら、必要のない人には、なるべく会わないようにする。でも、あやかしとの関りが増えたせいか、ちょっとぐらいなら、この目で見てみたいって思ったりするんだよ。

「承知しました」

 アカミコさんが応えると、廊下の向こうから、袴姿のお侍さん……なんでか、お坊さんまで歩いてくる。後ろからも似たようなのがやってきて、前からやってきた方が廊下の端に寄って頭を下げる。

「こちらの方の方が格下なんです。礼儀作法が厳しいんですよ」

「そうなんだ、いちいち立ち止まって、下っ端はなかなか目的の場所に着けないねえ(^_^;)」

「あっちをご覧ください」

「え?」

 そっちを見ると、下っ端らしい人たちが部屋の中に居て、出番を待っている歌舞伎役者みたいに控えている。

「やり過ごしているんです。だいたい、役職によって通る時間決まってますからね。ああやった方が早いんです」

「なるほど……お坊さんみたいな人は?」

「茶坊主です。役割はメッセンジャーボーイでしょうか、人を案内したり取次をしたりします。身分的にはお坊さんです。お坊さんは法外という建前ですので、身分にかかわらずお城のどこへでも行けましたし、口をきくこともできました」

「なるほど……でも、男の人ばっかしね」

「男女の区別は厳しかったですからね、女性が居るのは大奥に限られています」

 ちょうど、その大奥が見えてきた。

 廊下の突き当りが黒い漆塗りの観音開きになっていて、観音開きの前には裃姿の若いお侍さんが二人で番をしている。

「お鈴口って言うんです。紫の房が下がっているでしょ。将軍が来られると、あの房紐を引くんです。すると、鈴が鳴って、向こう側で番をしている奥女中さんが開けてくれることになっています」

「そうなんだ……」

 小学校の正門を思い出した。正門には、朝なら先生、それ以外はお爺さんが居て出入りをチェックしていたよ。

「えと、わたしたちは……」

「これは、ただのイメージですから、わたしたちはすり抜けていきます」

 スーーーー

「なんだか幽霊になったみたい(^_^;)」

「ですね。死ぬというのは別の次元に行くのと同じですから、こんな感じかもしれませんね」

「フフ、そうなんだ。ちょっと面白いかもね」

 お鈴口を通ると、みごとに女の人ばかり。

 チカコを捜しに来たというのに、なんだかウキウキしてしまう。

「さっきの所よりも人が多いね」

「御台所のチカコさんにお仕えしている者だけで500人ほど居ますからね」

「500人!?」

 500人なんて、学校一つ分くらいだよ、さぞかし賑やかだろうなあ。

 

 シーーーーン

 

「あれ……静か……」

 あちこちに奥女中さんや、その世話をするお女中さんが見えてきたんだけど、話声が聞こえない。

 人が動く衣擦れの音やら、襖とかを開け閉めする音が微かにするんだけど、それ以外は、庭にやってきた小鳥のさえずりが聞こえるくらいのもの。

 キョロキョロしていると、たまに用事を伝えたり話をしたりを見かける。だけど、ぜんぜん声が聞こえない。

 思わずインタフェイスを開いて、音声ボリュームの設定を変えたくなる……というのはゲームのやり過ぎなんだろうね。

「これが、当時の作法なんです……ほら、あそこに御台所のチカコさん」

「え……あれ……が?」

 広い部屋の床の間の前にリアルサイズのお雛さん……と思ったら、雛人形みたいなコスの……ようく見たら眉毛が無い。

 でも、目鼻立ちにはチカコの面影?

「昔は、嫁いだ女性は眉を剃ったんですよ。まだ起きて間がないから点眉も引いてはいませんし」

「点眉?」

「あ、こんな感じです」

 アカミコさんが示すと、生え際の下あたりに、いかにも描きましたって感じの丸い眉が現れた。

「ああ、こんなコスとかメイクしてたら鬱になるわぁ」

「いいえ、これはチカコさんにとっては普通なんです。お嫁入の時に『すべて御所風でやっていく』って約束をとりつけていますから」

「そ、そうなんだ」

 あ、アクビした。

 さすがにお姫様の御台所なので、扇子で口を隠すんだけど、なぜか扇子が半透明になって見えてしまう。

「え、口の中真っ黒!?」

 なんか、悪い霊にでも憑りつかれてる?

「鉄漿(おはぐろ)です」

「オハグロ?」

「昔は、嫁いだ女は眉を剃って歯を黒く染めたんです。既婚者だって、いっぱつで分かるでしょ?」

「なるほど……」

「外国から不評だったので明治になって止めたんです。わたしだって……」

「え?」

 こっちを向いたアカミコさんは御息所のチカコと同じく、点眉の鉄漿!

「昔は、こうだったんですよ。でも、神田明神の神さまたちは『なにごとも当世風がいい』ということで、その時代時代に合ったナリをしています」

 つるりと顔を撫でると、いつものアカミコさんに戻った。

「早回しにします」

 スススススススススス

 小さな音をさせながら、チカコと、その部屋の様子が早回しになる。

 目がチカチカしてくる。数秒で昼夜が入れ替わっていくからだ。

 何カ月、何年もが動画の早回しのようにカクカクと過ぎていく。

 僅かなぐらつきはあるんだけど、チカコは、ずっと床の間の前に座ったまま。

「ほんとに、お人形さんみたい……」

「もちろん、夜は寝るし、食事もとるし、たまには出かけたりもありますけど、早回しにするとこうなるんです。少しだけ遅くします」

 たしかに、ほんの一瞬床の間の前をコマ落ちしたみたいに居なくなる。そのわずかの間に他の事をやってるんだ。

 再び早くなると、今度は目が慣れて、瞬間消えたところも分かってきて、チカコの後ろの床の間も重なって、幽霊じみて見える。

 なるほど、チカコが「お城は嫌い」と言っていた意味が分かった。

「あ、でも、ここに見えているチカコは昔の記録なんだよね。いまのチカコがいるかどうか探らなくっちゃ!」

「そうですね、もう一度探ってみましょう」

 アカミコさんがつまみを回すような仕草をすると、チカコの姿は逆廻しになった。

「……ありました、この瞬間です!」

 静止画になった。

 その瞬間、部屋は無人になったけど、アカミコさんは屋根の間に垣間見えている天守台を指さした……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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漆黒のブリュンヒルデQ・067『牙をむくショコラモナカ!』

2022-07-26 06:48:06 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

067『牙をむくショコラモナカ!』 

 

 

 
 バグっちょるみたいじゃ!

 
 玉代が立ち止まる。

 恐れているというのではなく、下手に立ち入ってバグをひどくさせるのを警戒しているのだ。

 我が家は処理おち寸前のようにカクカクして、家を取り囲む空間はヂヂっとノイズが走っている。

「ここで待っていて、わたし一人で入る」

「でじょうぶ? 加勢ならどしこでもすっじゃ」

「外がバグッているぶん、中は意外に平穏なような気がする……とんでもない悪意を感じるんだけど、こちらから仕掛けるのは得策じゃないような気がする」

 幾たびも戦場を駆け巡った漆黒の姫騎士の勘だ。敵が策略を巡らしている時は、乾坤一擲の打開面が見えるまでは気づかぬふりがいいのだ。

「じゃっどん、危なかて思うたや声あげて」

 そう言って玉代が肩を押してくれたのをきっかけに、門扉を開ける。

「ただいまあ、あ、なんかいい匂いするねえ(^^♪」

 煎餅を焼くような匂いがするので、高二の娘らしく反応しておく。

「おう、いいところに帰ったな。たった今ショコラモナカを焼き始めたところだぞ」

 啓介が子どものころみたいに玄関まで迎えに来てくれる。

「え、アイスを焼いてるの?」

 これはフェイクだ。

 ショコラモナカを三十秒焼いたら美味しくなることは知っている。

 祖父母が聞きとがめたら本物だし、知らずに自慢するようなら、なにかが祖父母に憑りついた偽物だ。

 リビングに入ると、お祖母ちゃんがニコニコとオーブントースターの前で手を挙げ、お祖父ちゃんはイソイソとコーヒー豆をひいている。

「おかえり、ひるで。いま、すっごいのができるからね!」

「コーヒーもとっておきのブルマン挽いてるところだからな(⌒∇⌒)」

 二人とも機嫌がいい。リビングは、とってもフレンドリーな時の我が家の空気だ。

 だが、この様子はおかしい。

「ショコラモナカを焼くとね、とっても美味しくなるのよー(^▽^)/」

「えーーほんと、知らなかった!」

 かましてみるが、わたしがすでに『ショコラモナカの美味しい食べ方』を知っていることが分かっていない。夕べ、この話題で盛り上がったはずなのに。

 チーーン

「さあ、焼けたわよ(^^♪」

 オーブントースターの蓋が開けられようとする。

「あ、熱い!」

「お婆ちゃん、わたしがやる」

 成り行きに身をゆだねて進み出る。

「あ、おねがい」

 身を滑らせて祖母と入れ替わり、蓋の取っ手に手をかける……。

 
 グワーーーッ!!

 
 香ばしい匂いをさせてショコラモナカが飛び出し、牙をむいて飛びかかってきたぞ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』

2022-07-26 06:21:45 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』

 


 グラスに半分になった酒をどう表現するだろうか?

 ノンアルコールでも構わない、質問を受けたキミの好みでいい。

 A:もう半分しかない B:まだ半分ある この二つに分かれるだろう。

 Aは、半分しかないからヤバイと思うネガティブ人間。

 Bは、まだ半分残っていると思うポジティブ人間。

 俺はω口のお気楽な奴で、Bと思われがちだがどちらかというとAだ。基本はBのお気楽人間のはずなんだけど、こと定期考査などには、残ってる半分、気を抜いちゃだめだ。と、ひねって思う方なんだ。前半は失敗せずにやれたけど、後半はヤバイんじゃねえかと心配する。まあ、バクチとか賭け事にはのめり込まない性質だ。

 ちょっと屈折しているのかもしれない。

 でも、ガチガチの思い込み人間じゃないので、人から誘われれば「ま、いっか」と息抜きすることにやぶさかではない。

 で、今日は俺以上にお気楽人間のノリスケにラチられてアキバに来ている。

 一人で来るときは、たいてい昭和通り口から下りて、アキバを大回りするんだけど、今日は電気街口からだ。

「やっぱ、アキバは、この広場だなあ」

 俺は、改札を出て直ぐの広場で大きくノビをする。

「う~~~ん!」

 ノビをしてズボンを揺すりあげるとこなど、もう立派なオッサンだ。

「ノビをした後って涙目になるんだよな」

 右手の甲で目をこする。

「両手でやるとオコチャマみたいだぞ」

 ノリスケがたしなめる。

「るせー、おまえと違って、おれは基本テストモードなんだ」

「オメガさ、ノビした直後の涙目、なかなかだぞ。お気楽が半分になって、そのぶん憂いの表情になって女心をくすぐるかもな」

「くすぐりたかねーよ。とりあえず飯にしようぜ」

 テスト期間中は学食が休みなので、まだ昼飯を食っていないのだ。

「「とりあえず」」

 

 声が揃って牛丼屋を目指す。

 らっしゃいませーーーー!

 元気な声に迎えられてカウンターに着く。

 ドン

 すかさず牛丼屋特有のデッカイ湯呑が置かれる。

「ご注文は!」

 オレンジ色のユニホームが伝票を構えている。

「「大盛り、つゆだく」」

 声の揃うところは腐れ縁だ。

「あ、雄ちゃんとノリスケ君じゃんか!?」

 オーダーを通した直後にオレンジ色が驚いた。

「「あ?」」

 それは学食の南のオバチャンだった。

「学食辞めたんですか?」

「新学期が始まるまでね、春休み中は学食休みだからね」

 事情は分かったけど、俺が昼飯を食うところでは、いつも南さんがいるようで可笑しくなる(^▽^)。

「日本のオバチャンはたくましいなあ」

 ノリスケも素直に感心している。

「へい、お待ち、大盛りつゆだく二丁ね」

 ドン

「「どもお」」

「学食仲間の女子はいっしょじゃないのね?」

 南さんの言葉に、不器用に微笑むシグマの顔がシャンプーだかの香りとともに蘇る。

「あ、あーーー」

 我ながら間の抜けたため息が出る。

「自衛隊の音楽隊が来た時はいっしょだったよね」

「あ、はーー」

「おまえ、あいつと付き合ってんのか?」

「んなんじゃねーよ」

「ちょっと、唐辛子かけすぎじゃね」

「わ、あわわわ(;'∀')」
 

 奇遇な牛丼を食って、再び広場に戻る。

「あーーーー!」

「なんだよ、急に!?」

「私服で来るんだったーーーー!!」

「なんでだよ」

「だって、制服じゃ18禁のコーナーには行けねえじゃねーか!」

「それしかねーのか!?」

 ノリスケの雄たけびが恥ずかしい。

「あーーーエロゲエロゲエロゲーーーー!!」

「エロゲエロゲって言うんじゃねーよ!」

 

 その時、俺たちの前にポケティッシュがスラリと差し出された。

 

「「メイド喫茶@ホームでーす」」

 二人のメイドさんが微妙な時間差でアピール。

 ツインテールの子は、向こう側の通行人にティッシュを渡していたので時間差になったのだ。

「ども」

 俺は、こういうポケティッシュ配りにも、タイミングによっては返事をしてしまう。

「「え!?」」

 俺とツインテールのメイドは同時に驚いた。

「ゆうくん!」

「松ネエ!」

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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