大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・285『八丈島沖空中戦・1』

2022-07-29 12:18:27 | 小説

魔法少女マヂカ・285

『八丈島沖空中戦・1語り手:マヂカ 

 

 

 北斗(特務師団高機動車)は欠員のまま大塚台公園の基地を飛び立った。

 

 さすがに、位相変換もせずに飛びたったわけではないが、機関士(友里)、機関助手(ノンコ)、砲雷手(清美)の三人を欠いていては実力を発揮できない。

 ブシューー!

「こら、ベント早すぎ!」

「手順に間違いはない! きちんとテイクオフの5秒後だ!」

 安倍隊長の注意に文句で返すブリンダ。

「位相閉鎖が完全じゃない、漏れた蒸気がリアル空蝉橋にかかってる!」

「下はJRだから、誤魔化せるだろが」

「今どき都内でSLなんか走らん! サム、パルス砲試射」

「アイ、マム!」

 ズビーーーン!!!

「フルパワーで打ってどうする!」

「ソーリー、仕様が第七艦隊とちがうもんで」

 ズゥイーーーーーン

「ブースト、第二戦速、進路八丈島。ブースト閉鎖、赤黒なし」

「早すぎ、失速するぞ!」

 ガクン

「ほら、頭が下がった、上昇角20度、ブーストフタジュウ!」

「あ、ベント閉まったまま!」

「速度もどーせ! 進路そのまま、ヨーソロー!」

「ちょ、速すぎ!」

「ヨーソロは力まないで言って! 今のヨーソロは第二戦速の勢いだ!」

「ええ、もう、とっとと八丈島に向かええええ!」

『北斗はバージョンアップしとるんだ、オートのボタン押すだけで普通に飛ぶ。おまえらは、計器見て復唱するだけでいい!』

 モニターの司令が呆れている。

 

 なんとか十分遅れで八丈島上空に着いて下降すると、雲の切れ間にキラリと光るものがある。経験から、剣のようなものが光を反射していると分かる。

 敵をあぶりだすために主砲の発射を具申しようと思ったが思いとどまる。敵を視認できれば、こちらの居場所を暴露する発砲はしなくて済むからだ。

「孫悟嬢!」

 安倍隊長が、ちょっと対抗心のこもった声を上げる。

 我々同様にファントムを敵とする魔法少女の対抗心でからではない。

 トキワ荘で初めて会った孫悟嬢が自分よりも美しいのが気に入らないのだ。

 特務師団の魔法少女は、いずれもお約束通りの美少女ばかりだが、安倍隊長は、それに嫉妬することは無い。

 自分自身、かつてはアキバのメイドクィーン、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世の看板を張っていたので、メイドのメイン属性である『萌』には免疫がある。いくら美少女でも、それは所詮女としては未熟未完成の『萌』に過ぎない。普遍的成人女性美という点では圧倒的に自分にアドバンテージがあるという自負があるのだ。

 それが、トキワ荘で間近に見た孫悟嬢は中国四千年の歴史を体現したような美しさとだと脳みそとほうれい線の皴に刻み込んでしまったのだ。

 正直、そこまでの歳ではないと思うのだが、日中国交回復以来中華礼賛に染まってしまった教育現場に身を置いているせいか、中国の留学生や若者に大学でも就職戦線でも水をあけられた世代のトラウマか、はたまた、憂さ晴らしで、ついポチってしまうネット通販の商品のことごとくが中華製であることに脅威を感じてなおポチらずにはおられない心の弱さの反映か、そのいずれもが自己嫌悪の裏返しであるとも気づかずに、中華美女を恨みかつ恐れている。

「あれは、如意棒だ!」

 大連で見慣れているわたしとブリンダには分かる。

 筋斗雲を目くらましに使って、敵を翻弄し、如意棒で敵に立ち向かっているのだ。

 主砲を発射するまでもなく、敵は、孫悟嬢の視線の先に浮かんでいるはずだ。

「面舵フタジュウ! 上昇角ヒトジュウ! 右舷(みぎげん)砲雷戦ヨーイ!」

「面舵フタジュウ! 上昇角ヒトジュウ!」「右舷(みぎげん)砲雷戦ヨーイ!」

 安倍隊長の指令に、ブリンダとサムの復唱が続く。

 さすがに、戦闘を前にしての指令と操作にブレは無い。

 孫悟嬢の斜め前方に躍り出た我々の目前に現れたのは、北洋艦隊の主力であった定遠と鎮遠であった。

「主砲! パルス砲! 斉射! テーーーー!」

 ズビーーーン!!

 惜しくも二艦の鼻先を掠めるに終わった初撃だったが、孫悟嬢を回避させるのには十分であった。

 ……八丈島沖空中戦が始まった。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・070『ゼウスとポセイドン』

2022-07-29 06:28:46 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

070『ゼウスとポセイドン』 

 

 

 
 白い虚空と言うのはやっかいなもので、上下左右があやふやだ。

 
 堕ちていると思ったら、瞬間で上昇したり左右への方向移動になったり、でたらめな軸を中心に回転したり、あるいは、その複合運動であったり、人間なら耐えられない動きをしている。

 例えるなら全自動洗濯機のドラムに入れられ、そのドラムごとナイアガラの滝から落とされたような按配だ。

 何十秒か何時間か、判然としない時間が過ぎると急速に落ち着いて来て、足の裏が地面に付いている感じになって静止した。

 ここが次の異世界か……?

 
――すまん、ちょっと立ち寄ってもらった――

 
 脳みそに直接語り掛けてくる声がした。

 振り返ると懐かしい顔が二つ、第一印象は――老けたなあ――だ。

「ゼウス……そっちはポセイドンか?」

 二人は遠縁にあたるギリシアの主神ゼウスとその弟のポセイドンだ。

 むかし、ゼウスの娘アルテミスが月に引きこもった時に相談されて以来の邂逅だ。

「ブリュンヒルデは相変わらずだな」

「ここが問題の異世界か?」

「いや、時空の狭間だ」

「正しくは、時空の狭間に浮かんだオリンポスの空気の中だ。兄者が、どうしてもオーディンの娘に言っておかなければならないことがあるというので、エーゲ海の泡を時空の狭間に打ち上げたものだよ。泡が弾けるまで……十分もない、兄者、手短にな」

「ああ、分かっている。ブリュンヒルデ、おまえは綻び始めた世界を救いに行く途中なのだな?」

「ああ、全ての世界を正すことはできないだろうが、手の届くところだけでもという思いだ。そうだ、もし思い当たる異世界があれば教えてくれないか、やみくもに当たるのは、ちょっと不安でもあったんだ」

 ゼウスはオリンポスの山から全世界を見下ろしているはずだ、父のオーディンよりも見えていてもおかしくはない。古代ギリシアの昔から全知全能の触れこみなんだからな。

「いまは、自分の世界さえ意のままにはならないんだ。まして異世界の事など、とてもとても」

「兄者、急いでくれ、もう二分も持たないぞ」

「ああ、異世界の群れの束ねは複数の神が担っているが、その一人がわが父なのだよ」

「ゼウスに父親が居るのか?」

「ああ、クロノスというヘンクツ親父だ。時空を超えて時を支配している。クロノスならば、どこを直せば全体のつり合いがとれるか分かっているはずだ」

「そうなのか、ありがとう。手当たり次第に目についたところから当たらなければと覚悟していたから助かる」

「兄者」

「ああ、アルテミスのことで世話になって、その礼も済まないうちに申し訳ないんだが……クロノス……親父に会ったら、オリンポスに戻ってくるように伝えてはくれないか。いや、父も歳なんでな、少しは息子らしい孝養をと思ってな」

「兄者」

「ああ……実のところは、年老いた父の力を借りなければオリンポスの平安も図りがたくなってきておってな」

「そうなのか? ギリシア神話と言えば我々ブァルハラの世界よりも堅牢であろうに」

「まあ、ことのついでという感じでいい。半分は、年老いた父にもオリンポス再興の栄誉の一端をと願う気持ちなのだから」

「見栄を張るな兄者、今年はオリンピックも開けない状況ではないか」

「あれはコロナウィルスの影響で仕方なく……」

「中共ウィルスだろうが。いや、言い合っても仕方がない、ブリュンヒルデ、これを……」

「これは、エーゲ海の真珠……!?」

「ああ、本来ならアルテミスの事で世話になった礼の徴(しるし)になるものだが、こいつを親父に飲ませて欲しい。強制的にオリンポスに転移させられる」

「分かった、預かっておこう。老人を騙すようなやり方は嫌いだ、きちんと話して納得してもらったうえで飲んでいただく」

「しかし、まともに言っては……」

「兄者、時間だ」

「ああ」

 
 パチン

 
 泡が弾ける音がして、ギリシアの二柱の神は降下していき、わたしは斜め上のさらなる時空へ飛ばされて行った、

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・18『メガトン級』

2022-07-29 06:03:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

18『メガトン級』  

 


 ロシアが戦争を始めた時と近所の幼なじみが宝くじの一等を当てた時はメガトン級にぶったまげた。

 でも、それは、あくまでも俺の外側で起きたメガトン級で、俺の生活が脅かされるようなことではない。

 ま、世界はワンダーランドなんだと、池上彰さんの特番やら近所の噂で面白がっていればいい。

 しかし、とうとう俺の平穏な日常を根底から覆すメガトン級が起こってしまったんだ!

 

 話は昨日のことだ。

「あ、お弁当忘れてる!」

 朝の食卓でお袋が叫んだ。

「学食とか開いてないのかぁ?」

 新聞から目も離さないで、親父が呑気に言う。

「入試の日に食堂なんか開いてないわよ。お父さん、出勤の途中で届けてやってくれない?」

「だめだよ、仕事に遅れる」

 お袋は無意識に松ネエの席に目をやった。松ネエは、大学入学のなんやかやのために昨日から静岡に帰っている。

 小菊の入試なんてどうでもいいんだけど、こういう時の雑用がストレートに回ってこないことが、少しだけいぶかしかった。

 ガキの頃から、こういうお使いめいたことは俺の仕事だからな。でも、お鉢が回ってこないのはありがたいことだ。

「ごっそさまー」

 今日は観るぞと決心した映画を観るために二階へ上がろうとした。

「雄一ぃ、行ってやってくれないかぁ」

 祖父ちゃんがサラリと言った。

 心なし空気が固まった。

「俺? ま、いいけど」

 こういうところ、俺は素直だ。

 俺はもめ事とか気まずくなるのが苦手だ。

 だから、頼まれればよほど理不尽なことでない限り引き受けてしまう。余計なことには関わらないことと合わせて、俺の処世訓だ。

 しかし、引き受けることと関りにならないことは相反していて、その兼ね合いが難しく、往々にして後悔や騒動の種になる。

 ほら、シグマを堂本の理不尽から救ってやったこととか、予約してたエロゲを取りに行ってやったりとかな。

 でも、入試に弁当無しは可哀そうだ。届けてやらずばなるまい。

 間違ってないよな?

「わかった、文京? 牛込?」

 俺は、小菊の成績と家からの距離から二つの都立高校の名前を上げた。

「都立神楽坂だよ」

「え?」

 俺は固まってしまった。

 だって、都立神楽坂は俺が通っている学校だぞ。

「小菊のやつ、俺の学校受けてんの?」

「そーだよ、勝手知ったる自分の学校だから頼んだよ」

 お袋はピンク色の弁当袋をズイっと俺の方に押して台所に消えた。親父も新聞を畳んでネクタイを締める。

「じゃ、行ってくるよ」

 バイデンの当確を知ったトランプは、その時の俺と同じくらいのショックだっただろう。

 小菊とは、この三年まともに口をきいていない。

 兄の俺がすることは箸の上げ下ろしどころか息の吸い方まで気に入らない小菊だ。

 ま、思春期には、どこにでもある話なんで、無理くりな関係改善なんか考えてもいないし望んでもいない。

 松ネエが来ることになった夜に、小菊はスネマクリの発作を起こした。

 家の中でツンツンしてる分には何も言わない。

 だが、人さまを理不尽に不快にさせることは許せない。二階の部屋まで追いかけた……けど、そこで俺は引き返した。
 結果オーライで、祖父ちゃんが丸く収めてくれたからな。

 そうなんだよ、感情に走っちゃいけないんだ♪

 坂の向こうに校舎の先っぽが見えるころにはアニソンの鼻歌気分だった。

 学校の正門は閉められていた。ま、入試当日なんだから当たり前。

 で、守衛室に声を掛けた。

「すみませーん、妹が弁当忘れたもんで届けに来ました」

「うーーい」

 声を聞いてマズイと思った。声の主は、あの堂本だ。

 私服で来たことを咎められたが、入試に関わることなので、それ以上言われることも無く弁当を預けられた。

 任務完了。

 難儀なことが一つ済めば、とりあえず安心してしまうのが俺の性だ。

 その帰り、角を曲がったら自分の家というところでシグマに出くわした。

 

 最初は分からなかった。

 シグマは制服でもなく、アキバで見かけたオタフアァッションでもなく、フリフリのサロペットにボーダーのニーソという女の子っぽい出で立ち、それもルンルンでスキップなんかしていたからだ。

「お、お、お、やっぱシグマじゃんか!」

 最初こそ気恥ずかしそうに、一見不機嫌に見えるΣ口を尖らせたが、たった今クリアしたエロゲを届けたという話になると、キラキラと目を輝かせた。

 たぶん、気を使わないでエロゲの話をできるのは俺くらいのものなんだろ。

 ま、それもΣの誤解……ひょんなことでアキバで出くわし、祖母ちゃんの危篤という緊急事態で、予約していたエロゲを受け取りに行ってやるというお人よしをやったので、俺のことを同じカテゴリーの人間だと思い込んでいる。

「ネタバレになることは言いませんけど、アズサは最後に攻略してくださいね。きっと感動の暴風雨です! こんな感動したのは生まれて初めてでした! クリアしたら知らせてください、あ、クリアしなくても分からないこととかあったら連絡してください、今年度の萌えゲアワード大賞間違いなしなんですから!」

「そっか、それは楽しみだな(ほんとは戸惑いまくってるんだけど)、じゃ、預かろうか」

「あ、いま、先輩んちのポストに入れてきたところです」

「な、なんだって……」

「あ、大丈夫です、他の人には分からないようにアニメのパッケージで、袋も学校の茶封筒にしときましたから(^^♪」

「そ、そっか」

 話もそこそこに、俺は家に駆け戻った。

 で、郵便受けにはブツは無かった……。
 


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫         父
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任

 

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