大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・283『自然体・2』

2022-07-17 15:17:39 | 小説

魔法少女マヂカ・283

『自然体・2語り手:マヂカ 

 

 

 自然体が一番

 

 オブジェクトには、そっけない文字が、仄かに光って浮かんでいる。

「「「なんだ、これは?」」」

「あ、もう綾香ネエに戻ったほうがいい、リアルみたいだから」

「「「あ、そうか」

 言い始めの「「「あ」」」は三つ頭のケルベロスだったけど、「そうか」のところでは、こっちのリアル世界の綾香ネエに戻っているケルベロス。

「でも、なんだろうね『工事中』とか書いてあると納得なんだけど『自然体が一番』てのはイミフよね」

「さっきの、自然体がどうのこうのって、二人の話……聞かれてた?」

「だれに?」

 

 …………!?

 

 同時に危険を感じて、飛び退る! 

 魔法少女の反射神経なので、お互い二十メートルも後ろの向かい合ったビルとマンションの屋上まで飛んだ。

 オブジェクトがホワホワ点滅して――ゲ、爆発するか!?――と身構えたけど、点滅の末に現れたのはフォントサイズを二つほど上げた、二文字の固有名詞だ。

 魔王

「ん? どこかのキャバクラの看板?」

「クラブ『魔王』?」

 

『馬鹿者めが!』

 

 骨伝導イヤホンめいた声が響いたかと思うと、二つのビルの間、道路の上20メートルのところに腕組みした魔王が現れた。

「「魔王!?」」

 同じ「魔王!?」だけども、綾香ネエの方は微妙にトゲがある。わたしにとっては制度上の上司に過ぎないが、綾香ネエのケルベロスには直属の、言ってみれば『ご主人と飼い犬』、親しい分だけ、感情が剥き出し。いや、日ごろからカチンとくることが多いのかもしれない。

『いささか苦労しておるようだから、儂の方から出向いてやったぞ』

「たった今、魔王府に向かっておりました」」」

 綾香ネエは、再びケルベロスの姿に戻って返答するが、頭の方は綾香ネエの声だ。

『落ち着いて話せ、ケルベロスよ』

「はい、では、これで」」「いかがでしょう」」」「「「いや、こっちか?」

『ちょっと、気持ち悪いぞ』

 胴体が綾香ネエで、首がケルベロス……胴体がケルベロスで、首二つが綾香ネエ一つがケルベロス……ちょっと混乱して来ている。

「あ、あれえ(;'∀')」」」

『どうも重症であるなあ……地獄城に入れなくてよかったぞ。そのように混乱した状態では、地獄の獄卒どもに示しがつかん』

「こないだも、位相変換して部屋を大きくしたり、無理してましたからね。しばらく、地獄病院で療養した方がいいかもしれませんねえ」

『本当は、今回の敵と戦ううえで、肝要なのは自然体がもっとも大事と思ってな。それを伝えようと思ったのだ。マジカにとっての自然体、ケルベロスの自然体、そして敵の自然体』

「敵の自然体?」

『ああ、敵もバルチック艦隊、北洋艦隊、魔法少女、怪人ファントム、と、様々に姿を変え、さらに、明治・大正・令和と無理な時間移動もしておる。中身はケルベロス以上に混乱し始めておるだろう。自分にとっての自然体も踏まえつつ、敵に当れば勝機もつかめよう。ケルベロス、おまえにも無理をさせた。しばし、はじまりの姿に戻って療養いたせ』

 魔王が指を振ると、ケルベロスは始まりの姿になって、魔王の腕の中に収まった。

 ケルベロスの始まりは、黒い子犬。首は、当然のごとく一つしかない。

 三つの首というのは、歴代の魔王が、さまざまに無理な任務を負わせたための過剰適応であったのかもしれない。

 

 そういえば、わたしは、自分のことにばかりかまけて、こちらの世界での渡辺綾香としての働きには少しも気を向けていなかった。

 ファントムを撃滅しクマさんの救出が済んだら、すこし気にかけてみよう。

 まずは、敵にとっての自然体……どう受け止めて攻めてやるかだな。

 そう思い定めた時、魔王もケルベロスの姿も、明け始めた東の空の星々と共に消えていた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・058『だるまさんがころんだ』

2022-07-17 08:08:31 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

058『だるまさんがころんだ』 

 

 

 
 玉代の言葉はコテコテの鹿児島弁だ。

 
 化学の先生が鹿児島の出身なんだけど、職員室に提出物を持って行った時に、この化学の先生が「いやあ、君のは鹿児島弁じゃなくて薩摩弁だわ!」と感動した。

 鹿児島から出てきて二十年になる先生は、アクセントに癖がある程度で、文字に起こすとほとんど標準語。

「直そうて思うちょるんじゃじゃっどん、意識しちょっち言葉にならんで困っちょっ。こん頃は、逆にクラスんしたちが慣れてくれて、なんとか以心伝心じゃっで」

「それはいいことだ、お互いに慣れてバイリンガルになっとよかよね」

「あ、先生、鹿児島弁に戻ってるニャ!」

 ねね子が指摘すると「ほんなこつね!」と、先生の周囲が暖かな笑いに満ちた。

 

「だけどね、ねね子は思うニャ、玉ちゃんは思いっきりの美人じゃん。美人がコテコテの方言喋ってるってギャップが可愛いとかカッコいいとか思ってもらえるニャ」

 玉代がジャンケンに負けてジュースを買いに行っている間にねね子がこぼす。

「ねね子がこぼすなんてめずらしいなあ」

「何百年も猫又やってると、いろんなことがあったニャ。玉ちゃんは、そういうこと思い出させてくれるニャ」

 ねね子は、自分から身の上を語ることはめったにない。自分の事を猫又と言うのも初めてで、突っ込んでもいい話なのだが、突っ込めば真っ赤になってゲシュタルト崩壊しそうなのでやめておく。

「ねえ、あっちで『だるまさんがころんだ』やっじゃ! ひっでもねね子もおいでじゃ!」

 ジュースを投げてよこしながら玉代が上機嫌。鹿児島弁で『ひるで』は『ひっで』になるようだ。

「いこう、ねね子!」

「よし来たニャ!」

 
 ジュースを買いに行くと、ピロティーで退屈そうにしているクラスメートに出会ったので、急きょ『だるまさんがころんだ』をやることになったらしい。

 お嬢さんが多い学校で、子どもがやるような遊びをやる気にさせるのは、やっぱり才能だと思う。わたしたちがピロティーに付いた時には参加者は男女込みで三十人ほどになった。

 尻込みする子が二三人出た。

「ああ、男ん子てっしょは抵抗があっどね……よし、こげしよう!」

 なんと、男だけのチームを作り、玉代は男組のリーダーになった。鬼はねね子だ。

 だーーーーーるまさーーーーーんがーーーーーこーーーーろーーーーーんーーーーーだ!

 ねね子は、とてもゆっくりとカウントをとる。

 かと思うと、急に早くなったりして、緩急の付け方がなかなかに面白い。

「なんか、夜這(よべ)をかけちょっみて」

 この時代、訛らずに言っても『夜這い』は意味が通じないだろうけど、玉代が夜這いの気分で息を潜め腰をかがめて鬼に近づくと、純情な高校生たちにも、なんとなく分かってしまい、あちこちで忍び笑いが漏れてきてしまう。

 ねね子も吹き出しそうになるのを必死でこらえて、なんとか、そのターンを終わった。

 ちょっとイタズラ心に火が点いた。

「ねえ、なんとなく分かるんだけど、実際の夜這いって、どんなの?」

 玉代に振ると、みんなも興味津々な顔になる。

「むかしん事なんじゃじゃっどん、娘が年頃になっとね、まあ十五六歳。庭に面した一人部屋で寝っごつ親はゆとじゃ。すっと、ないごてか近隣近在に噂が広まって、男どもが夜に、そんおなごん子ん部屋に忍び寄っ。何人も通っちょっうちに娘は妊娠してしまうわけど」

「うわあ」と「アハハ」が湧きおこる。

「え、とゆうと、だれが父親か分からなくならない!?」

 興味津々のK子が手を挙げる。

「アハハ、そうすっとね、親は娘に聞っんよ『可能性んあっ男はだれだ?』ってね。すっと娘へたしてしもた男たちん名前を挙ぐっわけじゃ。時に十人前後になっこともあっ!」

 あっけらかんと玉代。

 アハハハハハハハ(^O^)(≧▽≦)(^Д^)

 もう、みんなお腹を抱えて笑い転げる。笑い転げながらも「それから?」という顔をしている。

「DNA鑑定もなか時代じゃっで、娘は、男ん中でいっばん好きな男ん名前を挙ぐっわけじゃ」

 ええーーーーー!?

 ビックリはするけれど、みんな完全に面白がっている。

「そいで、そん男は、そん娘ん家に入り婿してめでたしめでたしになっとじゃ。生まれた子が、そん男ん子に似ちょらんで、他ん男に似ちょってん、文句をゆたり言われたりちゅうこっににはならん。まあ、こいが母系制社会ん婚姻んかたちじゃなあ」

 ピロティーは朗らかな笑いに満ちて、尻込みしていた女子たちも加わって楽しく『だるまさんがころんだ』を三回やって昼休みが終わった。

 たまには、こんな昼休みもいいもんだ。

 

彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・6『それぞれの後悔 小菊の登場』

2022-07-17 06:50:46 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

6『それぞれの後悔 小菊の登場』

 

 

 後悔が沸き上がってきた。

 湧き上がるじゃない、沸き上がるんだ。
 胸のあたりで沸騰するものがあって、それが体中を駆け巡って、身体を熱くする。

「あら、暖房がきついのかな?」
「ううん、そじゃない、機内食食べたから」
「ミコは食べたら熱くなるんだったわね、いーな、そういう子は太らないんだよね」

 夏子叔母さんは、そう言うと詰まらなさそうにアイマスクして寝る体勢になった。

「ミコも寝ときな、ひょっとしたら、そのままお葬式ってこともあるからね」
「う、うん……」

 お母さんとお父さんは、電話をくれた直ぐ後に羽田から一足先にたった。
 あたしは埼玉から遅れてくる夏子叔母ちゃんを待って飛行機に乗ったんだ。

 食べて体が熱くなるのは小学校までだ、後悔だなんて、楽天家の叔母ちゃんには言えない。

 オメガ先輩に頼んだのが新発売のエロゲだったなんて!

 オメガ先輩は独特だ。

 なんというのか、フニっとしたオーラが独特で、あのフニフニはくせ者だ。

 堂本先生とトラブってるところを助けられたこともあるけど、初対面の男の人といっしょにお昼を食べるなんてありえない。
 あたしは、こんな Σ
口のツッケンドンだから、面と向かって冷やかされるようなことはないけど、陰じゃいろいろ言われてるんじゃないかと思う。

 アキバではビックリした。

 人ごみの中とは言え、逃げもしないで「学校休んで予約のエロゲを受け取りに来ました」なんて。なんで言ってしまったんだろう(#-_-#)。

 えと……お祖母ちゃんが倒れたって電話もらって、動揺してしまって、そいで心配な顔で見つめられて、つい言ってしまったんだ……

 あーーーー!

 むろん露骨にエロゲだなんて言ってない。ゲームのタイトル言って予約券を渡しただけ。「よし、俺に任せとけ!」って胸叩かれて、その場はチョ-安心してしまった。

 オメガ先輩は営業職に向いていると思う、道を踏み外せば名うての詐欺師になるかも……

 あー何考えてんだ!

 ゲーム受け取って、それがバリバリのエロゲだって分かったら……あーー大ヒンシュクだーー!!

 
 グホッ!

 いつもなら簡単に避けられるキックをまともに食らってしまった。

「この、腐れ童貞がああああああああ!」

 調子に乗った二発目は、からくもかわした。
 空振りになったケリにバランスを崩し、鬼の妹はドウっとひっくり返って縞パンが丸見えになる。

「見たなあー変態!」
「オメーが悪いんだろ」
「おまえが悪い! 同じゲーム屋の袋に、こんなエロゲ入れてほっぽらかしてるおまえがああああ!」

 受け取ったゲームがエロゲであると分かってからは生きた心地がしなかった、ソフマックの売り場には長蛇の列ができていてよ、とうぜん大型店だから、他の客もいっぱいいるわけで、そいつらが――わ、エロゲの予約!? こいつら変態? キモ!? エンガチョ!――とか思っていて、そのうちの何十人かは、帰りの駅までいっしょなわけで、そのうちの何人かは同じ電車で――え、あのエロゲ野郎と同じ方向!?――とかキモがられ、ひょっとしたら、同じ駅で降りて、同じ町内で……あり得ねえ(;'∀')。
こんなのもある、同じエロゲ買った奴なら――おお、同好の士よ! 我らが友よ! エロゲの友よ!――とかな。

 なんとか家にたどり着いた俺は緊張のあまり忘れていた尿意を思い出してトイレに直行した。

 で、妹の小菊が同じゲーム屋の袋をリビングにオキッパにしているとは夢にも思わなかった。

 俺は、玄関ホールの棚の上に置いていたんだけど、アホな小菊は自分が置いたものと思い込んで開けてしまったというわけだ。

「ち、ちが、これは……!」

 さすがにシグマに頼まれたとは言えない。

「と、友だちに頼まれて受け取りにいっただけだ!」

「見え透いた言い訳を……あ……いや、ありえるか。あんたの友だちってノリスケ一人だもんな、ノリスケならありえるか。とりあえずあんたの分、口止め料ちょ-だい」

 小悪魔は、ヒラヒラと俺の前にパーにした手をひらめかせたのだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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