大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・15『社長室を盗み聞き』

2022-07-28 12:24:08 | 小説3

くノ一その一今のうち

15『社長室を盗み聞き』 

 

 

『吠えよ剣!』の仕事から帰って来ると、金持ちさんがオイデオイデをしている。

 

「なんですか?」

 開き直ってツアー旅行の色々をググっているのかと思った。モニターの画面にはそういうのが並んでいたからね。

「あ、もう一個次だった」

 Escをクリックすると、社長室が映し出される。

 社長室には、百地社長と、テーブルを挟んで割腹のいいタヌキじじい。こっちに後頭部を向けているけど、忍冬堂のおばちゃん。

「これ付けて」

 渡されたイヤホンを付けると、オッサン二人の話声。おばちゃんは秘書みたいに静かに聞いている感じ。

 

社長:「もう少し、うちで鍛えてからと思ったんですが」

タヌキじじい:「あの方ご自身が気に入っておられる、専属にして問題はないと思うんだが」

社長:「代役や身辺警護なら、今のままでも十分だとは思うんですが。社長は、その先のこともお考えなんではありませんか?」

タヌキじじい:「それは、まだまだ先のこと。とりあえずは、今の手当てが大事だと思っている。五年十年の先を考えて、今を台無しにしては意味がないからね」

社長:「しかし、あのお方は健やかにお育ちです。他の者でもお役に立つのでは?」

タヌキじじい:「いや、僕はこう思うんだよ。単に代役をやったり身辺警護の役に立つだけではなくて、いっしょに感じたり悩んだり、時には言い争うことがあった方が、将来的には実りが大きいような気がする」

社長:「しかし……」

タヌキじじい:「あの家の開祖は、そうやって偉大な人物になられた。あのお方にも、その血が流れている。僕の目に間違いは無いと思うんだが。どうだろう忍冬堂のおかみさん?」

忍冬堂のおばちゃん:「社長のご先祖も、そうでしたね」

二人:「「どっちの社長?」」

忍冬堂のおばちゃん:「お二人共ですよ」

二人:「「ワハハハハ」」

忍冬堂のおばちゃん:「いかがです、あの子の移籍だけを考えるから、お二人とも慎重になるんです。いっそ、この事務所ごと系列になさったら。赤信号みんなで渡れば……って言いますでしょう?」

二人:「「なるほど!」」

三人:ワハハハハ(^▽^)

 

「おばちゃん、グッジョブ!」

「金持ちさん、今の話って?」

「うちの事務所がね、でっかい会社の系列に入れて、経理とか赤字とか仕事とかの心配しなくてよくなったってことよ!」

「そ、そうなんですか? でも、あのお方とか、あの家とか、それに、移籍とかの……」

「んなことはどうでもいいのよ! よし、家持ち嫁持ちにも連絡して、今夜は宴会だ!」

 いそいそとスマホを出す金持ちさん。

 

 まだ社長からの話はないんだけど、社員とバイトのわたしで、その晩は宴会になった。

 そして、あくる日、わたしは丸の内にある大きな会社に行くように社長から指示された。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・069『蚕食』

2022-07-28 08:12:00 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

069『蚕食』 

 

 

 
 無数にある異世界の中で軸になっているのが、儂の世界とヒルデが飛ばされた世界だ。

 父、オーディンが広げた両手の先を異世界の両極に例える。

 
「この両の手の平の間に、数多の異世界があって、両極が不動であることによって全体が安定する」

「今は、その両極が不安定ということなのか?」

「分かっているだろう、おまえが戦死者を選ばないものだからラグナロク(最終戦争)の予定が立たん」

「あらかじめ戦死する者を選ぶなんて、わたしにはできない」

「今はまだいい、ヴァルハラ一つなら、しばらくは儂一人でなんとかする。ヴァルハラ以上に厳しいのが、おまえが居る世界だ」

「ああ、まだ名前を取り戻してやらなければならない妖が無数にいる。他に訳の分からない魔物とかも出始めているしな」

「そんなヒルデには酷な話なんだが、周辺の異世界の歪みも放置してはおけなけなくってきている」

「それを、わたしにやらせようと言うのか」

「儂やトール元帥も手の届く限りは処理しよう。しかし、こちらに近い異世界は、ヒルデがやったほうが効率がいい」

「そうなのか?」

「ああ、どうしても手に余るものは……互いに助け合おう」

「『互いに』というところで言いよどんだな」

「突っかかるな、ここの世界は直ぐに崩壊する。少しでも早く綻びの浅い世界を救いにかからねばならんぞ」

「なにか誤魔化していないか?」

「ほら、この世界を蚕食する音がしだしたぞ」

「え?」

 耳を澄ますと、ムシャムシャと、それこそ毛虫が葉っぱを食いつくすような音が聞こえてきた。

「上から見るぞ、付いてこい!」


 父と並んで上空三百メートルほどに駆けあがる。


 上空には遮蔽物が無いために蚕食の音はますます大きくなり、ムシャムシャはバリバリと荒っぽくなっている。

 そして、眼下には、巨大な虫……いや、マイバッグ共が口を開いて世田谷区を食っている。

「こいつらが、世界を食っているのか!?」

「ああ、ここいらではマイバッグだが、場所を変えると他にも色々のものが居るぞ」

「あれをやっつけろと言うのか?」

「ここは、もう手遅れだ。見ろ、真下を」

「真下……あ!?」


 たった今まで居た武笠家の敷地は暗い穴に滲んで、穴からは三匹のマイバッグが盛んに残った地面を食いつくそうとしている。


 三匹のマイバッグが、敷地の最後に噛みついた時、世界はグニャりと歪んで、わたしは声をあげることもできなかった。

 シュボン!

 マイバッグが世界を食いつくした音がして、わたしは白い虚空に投げ出された……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・17『クリアの朝』

2022-07-28 06:51:34 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

17『クリアの朝』  


 気が付いたら朝になっている。

 カーテン越しでも朝の日差しは暴力的だ。夕べの……明け方近くまでの感動をサラサラと蒸発させてしまう。

 着替えを抱えて風呂場に直行。

 風呂場の人工的な光りと温もりなら感動は余韻となって頭や体にわだかまってくれる。

 風呂場の鏡が湯気で雲ってシットリと、あたしの裸を映す。

 普段、自分に関しては裸の体はもちろん、顔だって見ない。

 信じられないかもしれないけど、鏡の自分を見なくても顔を洗えるし歯も磨ける。三月に一度いく美容院でも鏡の自分は見ないんだ。

 電車に乗っていて、不意にトンネルに入った時なんかに、ガラスが鏡のようになって、暴力的に自分の顔が迫ってくることがある。空気が圧縮されて――ドン――というエフェクトまで付いて、本当に不意打ちの攻撃。

 反射的に目をつぶるか避けてしまう。

 曇り鏡のあたしは、マシュマロみたいにソフトだ。

 アンドロイドのアズサみたいだ。

 アズサは数十分前にクリアした『君の名を』のキャラ。

 二次元のアズサは、とてもピュアだ。でもってソフトだ。

 ピュアは別として、ソフトなところは曇り鏡のあたしと重なる。

 アズサは主人公を守るためにラスボスに立ち向かって自爆する。自爆の瞬間、任務に関するデータが防衛軍のCPに送られ、そのデータを基にバージョンアップされたアズサ、アズサは任務に伴う名前だから、AD1201というシリアル。それにリストアされる。

 任務を離れ主人公を愛した心は任務外のことなので引き継がれることはない。

 アズサは自分の愛と引き換えに主人公を守ったんだ。

 リストアされたアズサは、プラタナスの通学路で主人公とすれ違うんだけど、救った世界は時間が巻き戻っていて、主人公もアズサを恋人だとは認識していない。他の学生たちといっしょにモブの一人としてすれ違って、カメラはどんどんロングになって、二人ともゴマ粒よりも小さくなって見えなくなってしまって、テーマ曲とともにエンドロール。

 エンドロールの最後にスペシャルサンクス……百地美子。 

 

 今日は後期選抜募集の入試のために学校は休みだ。休みだから、ほとんど徹夜して『君の名を』をクリアした。

 アズサ以外に攻略できるヒロインが三人いるけど、アズサのイメージというか余韻を大事にしたいので、このまま先輩に貸してあげようと思い立つ。

 スマホを手に取るけど「ま、いっか」と呟いてリュックに仕舞う。

 電話をしてもメールをしても、先輩はきっと気を遣う。

 メモを添えて郵便受けに入れておくだけでいいや。念のため学校の茶封筒に入れて封をする。

 肌寒いけど三月も中旬。

 ドアを開けた瞬間、かすかな春を感じて、とっておきに着替える。

 若草色のサロペットスカート。

 切り返しが高くて脚が長く見える。スカートもたっぷりの生地で、普通に穿いても、なんだかパニエを付けたみたいにフワフワなのだ。 

 ちょっと少女趣味。来年は、もう着れないだろう。

 今日だってゲームをクリアした高揚感があるから着れるんだ。

 このスカートから見えるのは産毛が目立つ生足じゃだめなんで、スカートの色が入ったボーダーのニーハイにしている。

 あたしだって女の子なんだ、ちょっとばかし嬉しくなった。

―― アズサの攻略は最後にした方がいいですよ ――

 メモを付けて、先輩の家の郵便受けに投函する。

 郵便受けの屋根の所をスリスリ、ゆっくり楽しんでくださいの気持ちを込める。

 スカート閃かせてスピン、何年かぶりのスキップなんかが自然に出てくる。我ながら上機嫌だ。

 角を曲がってビックリした。綿入れの半纏着た先輩が腕組みして歩いてくるではないか!

 春めいた気持ちは吹っ飛んでしまったけど、スキップの勢いはそのままで先輩とすれ違う。

「………?」

 先輩が気づく気配がした。フワフワのサロペット姿、それもスキップなんかしてるのが恥ずかしくて気づかないフリ。

「え、シグマか?」

 スキップが停まってしまう。

「お、お、お、やっぱシグマじゃんか!」

 ニコニコ笑顔の先輩に前に回り込まれてしまった(;'∀')!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫         父
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任


 

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