大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・146『まだひとりぼっち』

2022-07-02 09:28:33 | ライトノベルセレクト

やく物語・146

『まだひとりぼっち

 

 

 ……あんがい広いんだ。

 

 ベッドと机の間の、ちょっと谷間のような床に転がっている。

 いつもはね、一人用の座卓っていうかテーブルがあって、テーブルの上には、宿題とか読みかけのラノベや、ちょっとだけ残ったスナックとか。

 座卓で勉強やら読書やら、ただボーっとしていたりする。

 ときどき横を向くと、目の高さの机の上にチカコと御息所のコタツがあって、二人も、ボーっとしてたり、なんかしてたり。

 で、ときどきのときどき、なにしてんの? とか声を掛ける。

 ときどきのときどきには、わたしの座卓に移ってきて話しかけてくる。逆に、わたしが机のへりにアゴを載せて「ねえ、なにしてんの?」とか声を掛ける。

 その周りには、アノマロカリスやら黒電話やら他のいろいろのフィギュアやらグッズやら、そういうのが、チョッカイ出したり出されたり。

 けっこう賑やかで、ちょっと前までは「もう、うるさいなあ」と感じるほどで、部屋は狭く感じたもんですよ。

 それが、みんな神保城に行っちゃって、チカコにいたっては行方不明……ううん、チカコのやつ、本当は皇女和宮だった。

 正確には、和宮の左手首。

 将軍様にお嫁に来る時に、左手に願掛けして――せめて、左手首だけでも青春させて欲しい――とお願いした。

 ちょうど二丁目断層のところだったんで、二丁目断層が聞きいれて、百六十年ほどして、わたしのところに来た。

 そのチカコも行っちゃって、わたしの部屋は、ちょっと寂しいよ。

 

 むう

 

 アニメの甘えん坊キャラみたく口を尖らせてみる。

 なにもリアクション返ってこない。「こどもみたい」とか「あれで可愛いつもりよ」とか「アハハ(^_^;)」とか、わたしの部屋の住人は返してくれたもんだけどね……。

 メイデン勲章改・Ⅱを睨んでみる。こないだも試してみたけど……今回もダメだ。わたし一人神保城には行けない。

 グーーーー

 おなかが鳴った。

 どっこいしょ……舌切り雀のお婆さんが、つづらを背負う時みたいに掛け声かけて起き上がる。

「ええと……」

 八犬伝カップ麺を漁ってみる。

 まだ五個残ってる。

 賞味期限は切れてないんだけど、蓋に書かれた文字が薄れて、ほとんど読めない。

 仁  義  礼  智  忠  信  孝  悌

 仁と義は食べたから……ま、いいや。

 お湯をかけてメイデン勲章改・Ⅱをのっける。スマホのタイマーを4分に設定。

 カップ麺の蓋を押えるためのフィギュアがMamazonに出ていたのを思い出す。

 面白いけど、あれを考えた人は、きっと私以上に部屋を広く感じる人だったんだろうなあ……とか思う。

 

 コンコン

 

 あと10秒というところで、窓ガラスを叩く音がする。

 こういう場合は、たいていあやかしで、めんどくさいこと持ちかけられる。

 でも、この時は、ちょっとだけドキドキして窓辺によってみる。

 

 こんにちは

 

 窓の向こうで、口の形で挨拶してくれたのは……え、だれだっけ?

 色白、黒髪の美人さん……あ、里見さんのお嬢さんだ!

 いつもは、飼い犬の八房が来るので、すぐにはピンとこなかった。

 それに、里見さんのお嬢さんと目を合わせるのは初めてだったしね……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・043『郡上八幡の千代子』

2022-07-02 06:24:53 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

043『郡上八幡の千代子』 

 

 

 
 学校からバイト先までは二キロ近くある。

 
 でも、ほとんどペダルをこぐこともなく十五分ほどの小旅行。

 校門を出て吉田川にぶち当たったところで右折。あとは川沿いに緩く下ってスピードを絞りながら西に進む。

 吉田川なんて、同じ岐阜県でも地元の人しか知らないだろう。

 二キロほど下ると長良川に合流している。長良川は鵜飼で有名だから日本人の半分以上は知ってる。でも、吉田川は「え、どこそれ?」になってしまう。

 小学校まで世田谷に居たわたしは、この吉田川の下流沿いの町、郡上八幡が気に入ってる。

 吉田川沿いに下っていくと、八幡神社の前を通り、八幡病院、町役場を左に窺いながら本町通りに入る。

 八幡神社の前では自転車を止めて手を合わせておく。

 日常生活の中で、ここだけはお辞儀をしておかなければならない所があるのはいいもんだと思う。手を合わせて、地元のお婆ちゃんなんかと一緒になると、とても心が和む。時にはみかんやとれたて野菜を頂いたり、得をすることもある。

「感心ねえ、いつも手を合わせて」

「あ、習慣ですから(n*´ω`*n)」

「あなた山内さんていうのね」

「え、あ?」

 スポーツバッグの口が開いていて、雑に突っ込んだ体操服のゼッケンが覗いてしまっているのだ。

「下のお名前は?」

 あんまり答えたくない。わたしが、この街に来たのは親の離婚が原因で、そのために苗字が変わって新しくなった氏名が、この街では特別なものだから、ちょっと気が引ける。

「はい、千代子って言います」

「え!?」

 ほらきた、お婆さんは目を丸くした。

「まあ、山内一豊の妻!?」

「ああ、うちは『ヤマノウチ』じゃなくて『ヤマウチ』ですから、千代じゃなくて千代子だし」

「いえいえ、どっちも字で書いたら『山内』。千代子って、千代さんの子どもみたいじゃない。じっさい一豊と千代の間には早く亡くなった一人娘が居たのよ。まあまあ、じゃ……みかん無いから、これあげる」

「はい?」

 なんと、もらったのは宝くじ。お断りしたんだけど、縁起物だからといって断り切れなかった。

 

 山之内一豊というのは戦国時代の武将で、元は信長に仕える下級武士だったけど、のちには土佐一国を治める大名になる。

 その奥方が千代と言って、この郡上八幡の出身なのだ。

 山の上にはお城があるんだけど、お城の殿様よりも、千代のほうが圧倒的に有名。御城下の公園には大きな銅像があったり、天守閣に入ったところには千代のポップが立っていたりして、初めて見た時にはびっくりした。

 中学じゃ、体育祭の賞状や商品のプレゼンターに指名されて、朝礼台で授与するときにはずいぶん囃し立てられた。

 さて、アルバイトだ。

 新町通の喫茶店がアルバイト先。

 近ごろ外人さんの観光客も増えだして、郡上八幡は観光ベクトルが右肩上がり。去年は、周辺の町村との合併を果たし、郡上市になった。

 町役場は、大正時代に出来た外観をそのままに観光資料館だったっけ? そういうのになって、レトロな雰囲気が喜ばれる観光スポットになっている。

 そして、お土産屋さんや食べ物屋さんが、この数年の間に出来て、街の賑わいを増している。

 そんな新町通で始めたアルバイトは焼肉屋さんだった。焼肉だけでなく、お好み焼きもやるようになって、若い観光客も脚を向けてもらえるようになった。

 お店では、わたしの名前が縁起いいというので、名札を付けたらと言われたんだけど、それだけは勘弁してもらった。

 でも、焼肉屋さんは先月で辞めた。

 あ、名札のせいじゃないよ。

 お向かいの喫茶店のマスターがバイトの子に辞められて困ったと、うちのお店に来てこぼしていったのが縁の始まり。

 マスター同士が同級生ということもあって、移籍したというわけ。

 焼肉屋のバイトって、その……匂いが付くでしょ。

 むろん、バイト中は着替えるし、家に帰ったらお風呂にも入るんだけど、二週間もするとカバンとかにもうつっちゃうし、替わろうかなあと思っていた時だったから、まあ、渡りに船でもあった。

 でも、いっしょにバイトしていた同級の子は、そういうの気にしない子で、今も焼肉屋さんで働いている。

 
「……だからさあ、日本も夫婦別姓になればいいのよ。そうしたら、うちらだって……」

「そうよね、タイだって、この四月からは夫婦別姓認めたって、ニュースでゆってたしい……」

 先週から、近くの旅館に連泊しているプチ常連さんが窓際の席で盛り上がってる。

 勤め先が外資系の進んだ会社で、年に一回まとめてバカンス休暇がとれるそうだ。日に二時間ほどは、うちの店に来て、こういう話をしていく。

「千代ちゃんて東京の人でしょ?」

「たぶん、世田谷?」

 三日目には出身を言い当てられてしまった。

 言葉が標準語だし、マスターが時々東京の話題とか振ってくるので……かな?

 名前を知られたのは、マスターが「千代ちゃん」と呼ぶから。

 でも、プチ常連さんは山内一豊の妻は知らない様子なので助かった。

 

 別のプチ常連の外人さんが深刻な顔をしている。

 

 いつも陽気な人たちだったので、何かあったのかと、つい耳をそばだててしまった。

 でも、英語だから分からない、アハハ。

「ローマ法王が亡くなったそうだよ」

 英語の分かるマスターが、こっそり教えてくれた。

 新聞を読むと『ヨハネパウロ二世死去』と出ていた。

 お客さんはカトリックなんだろうけど、法王さんが亡くなって、深刻になるというのはピンとこない。うちは浄土真宗だけど、門主が亡くなっても『あ、そうか』だ。それに、門主さんが誰なのか知らないしね。

 新しい法王は二週間ほどで決まった。枢機卿たちが集まって選挙をするんだ。枢機卿って、なんだかアニメとか世界史の授業みたいで、ちょっと時空を超えた不思議さを思った。

「法王選挙は大変でな、枢機卿たちはお互い腹の内を探り合う。だから『コンクラーベ』って言うんだぞ」

「アハハ、うそだあ(´艸`)」

 下手なオヤジギャグを言うマスターだと思ったら、ほんとうにコンクラーベっていうのでビックリした。

 ショックだったのは、兵庫県の福知山線の事故。

 百人以上が亡くなって、五百人以上の人が負傷した。列車は、グニャグニャのバキバキだし、ショック。テレビが繰り返し現場の様子を流すのもどうかと思うんだけど「それを繰り返し見てしまう俺たちもなあ」と呟くマスターもごもっとも。

 
「預かってきたよ、先月分のお給料」

 
 焼肉屋でバイトを続けている同級の子が先月のお給料を持ってきてくれる。

「え、こんなに!?」

 予想より多い金額に驚く。

「慰労金も入ってるんだって、喫茶店が暇になったら、また手伝ってってゆってた」

「うちはヒマにはならねえよ」

 マスターが鼻を膨らませる。

 わたし的には、両方とも……街中繁盛してほしい。一生住み続ける街だし……たぶん。

「じゃね」

 腰を上げた同級もお尻には尻尾が生えていた。

 眠っていた意識が戻った、こいつはねね子だ!

「宝くじの発表出てるぞ」

 マスターが放ってくれた新聞を見る……当たってる!

 あのお婆ちゃんにもらった宝くじ、千円当たっていたよ!

 千代の千円。

 ちょうどいいんじゃないだろうか(^▽^)/

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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