大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・121『再びのアルルカン』

2022-07-30 15:41:48 | 小説4

・121

『再びのアルルカン』心子内親王  

 

 

 小型機は、いわゆるシャトルという機種で、衛星軌道まで上がると母船に収容される旧式タイプ。

『あれ?』

「どうかしたの、サンパチさん?」

『母船の反応が消滅でござる』

「え?」

『扶桑の貨物船が待機していて、それに乗り込む算段になっておったのでござるが……その反応が消えてしまってござる』

「そんな……」

『目視確認するでござる』

 キャノピーのシャッターを開けて目を細めるサンパチさん。光学視力は人間の二十倍はあるから、貨物船ほどの大きさだと千キロ離れていても視認できるはず。

「見えた?」

『見えぬでござる、半径1000キロ以内に10センチ以上の物はデブリすらござらぬ……』

 

 ガクン

 

 追突されたような衝撃があって、シャトルは前方二時の方角に引っ張られていく。

「な、なに!?」

『牽引ビームに掴まったでござる!』

「え、でも周囲に船はいないんじゃ……」

『高度なステルスがかかっておるようでござる! 軍の船でも、ここまでのステルスはござらぬ……失礼するでござる!』

「キャ!」

 サンパチさんは、小さな体でわたしを正面から抱きしめた。これはロボットが人間を守るためにとる緊急姿勢だ。知識では知っていたけど、実際にやられてみると、オンブオバケに前から抱き付かれたみたいで、ちょっと息苦しい。

『万一、宇宙空間に放り出された時は、拙者の口に吸い付いてくだされ、安静状態で30分は酸素を供給できるでござる』

「そ、そうなんだ(^_^;)」

『いざという時にパニクッてはなりません、いちど練習をするでござる』

「え、あ、いや、それは……」

『あ、外見が女の子では抵抗がござるか……変えるわけにはまいりませぬが、ココちゃんの視覚野に働きかけて、好みの男性の顔にすることも可能でござるぞ』

「え、あ、いや、それも……」

 サンパチさんの顔が迫って来る! 思わず目をつぶると衝撃がやってきた!

 ブチューーーーーー!

 え、え、え?

 衝撃は口にきたんじゃない、シャトル全体がなにかに吸いつけられたみたいな、柔らかいショック。

 

 チャカ

 

 離陸した時の『カチャ』とは逆の音がして、ハッチが開いた。

『どこかの船に掴まったようでござる』

―― シャトルから出て、案内に従ってお進みください ――

 直接頭に入ってくるような声がして、おそるおそるハッチから出ると、ホログラムの矢印が現れて行き先を示してくれる。水族館を思わせる通路は床以外が透明で、湾曲した地球の北半球が宇宙の闇に光っている。状況から言って拉致されたようなんだけど、清潔で暖かい雰囲気に少しだけ気が緩む。

 サンパチさんと二人、姉妹のように手を繋いで矢印の後を付いていくと、少し傾斜があって、上りきったところで矢印が右を向く。

 シュワ

 囁くような音がして、壁が消えると、コクピット。

 数人の女の人たちが、それぞれにコンソールに向かって船を操作している。

 スペースファンタジーの古典に出てくる宇宙戦艦の艦橋の雰囲気。正面の大コンソールには艦首のボラートに繋がれたシャトルが見える。

「ようこそ、宇宙戦艦ヒンメルへ」

 中央のシートから立ち上がったのは、赤のコスに漆黒のマントを纏ったきれいな女の人。

「ヒンメル艦長の……ウグ( ꒪д꒪ lll)!」

 マントがシートの突起に引っかかって首が締まって、メグミさんがサーターアンダギーをのどに詰まらせたような声。

「艦長、マントを預かります」

 副長らしい女性がポーカーフェイスで両手を差し出す。

「すまん、内親王殿下に失礼があってはならないと思って、久々のリアルマントにしたのだが……」

「そうやって、ことさらに自分のプロポーションをひけらかすのもいかがかと……」

「う、うるさい、内親王殿下の御前だぞ(#-o-#)」

 サラリとマントを外した女艦長は、児玉元帥や伯母さまと並ぶほど、プラチナブロンドが似合う長身の女性。

「改めまして心子内親王殿下……わたくし、宇宙戦艦ヒンメルの艦長にして銀河一のパイレーツクィーン、メアリ・アン・アルルカンであります。よろしくお見知りおきのほどを……」

「は、はあ……」

「まずは、歓迎の宇宙花火を」

 アルルカンが手を挙げると、正面のコンソールが白く光った。

 光は、直ぐにすぼまって、そこにはバラバラの残骸になったシャトル。

 視線を戻すと、サンパチさんが前に立ちはだかり、女艦長を睨み据えていた……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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漆黒のブリュンヒルデQ・071『駅前の時計屋』

2022-07-30 07:58:55 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

071『駅前の時計屋』 

 

 


 立ち眩みがして脚を踏ん張った!

 目の前が階段なのだ、わずか三段だけど踏み外せば危ない。危うくステンレスの手すりに掴まって体勢を立て直す。

 
 えと……クロノスを探して……斜め上の時空へ……向かったはず……ここは豪徳寺の駅前?

 改札を出て、真っ直ぐ行けば段差もなく道路に出られたのに、わたしってば、わざわざ右に寄ってわずか三段の階段に向かったんだ。振り返ると改札横のサンマルコカフェ……え?

 わたしってばサンマルコカフェに入ってたの?

 そう言えば、口の中に390円均一のパフェの風味が残ってる、ショーウィンドウの上段には15種類のパフェがエレクトリカルパレードの山車のように並んでいる。

 これって、制覇してみたくなるわよね。

 わたしの食べたパフェってどれだったかな……チョコバナナ? チョコイチゴ? チョコナッツ?

 う~ん、次にチャレンジするのが決められない。

「あ、武笠さんのお嬢さん」

 

 え?

 

 振り返ると、時計屋の小父さんが原チャに跨って手を挙げている。

「時計の修理出来てますよ、よかったら取りに来てください」

「え、あ、はい」

 そうだ、腕時計の修理をお願いしていたんだ。

 みそな銀行の筋向いの時計屋さんに入る。間口一間半の小さなお店だけど、大小さまざまなアナログやらデジタルの時計が並んで、そのいずれもがコチコチと時を刻んでいる。

「いいもんですね、親子孫三代で時計を受け継いで行くってのは。大事にお使いでしたんで、ほとんど分解掃除だけで済みました。あとはベルトの交換だけです、お気に入りのを選んでください」

「あら、どれも素敵で……」

「実用ならステンレスのだけども、ちょっとそっけないかな。皮はシックでエナメルはきれいですが、お召しになる衣装を限定してしまいます。他にもTPOとか……」

「う~ん……ほとんど制服だから……これかな?」

 ちょっとシックなブラウンとレッドの中間色ぐらいの皮のを選んだ。

「承知しました、五分ほどで仕上がりますから、掛けてお待ちください」

 丸椅子を勧められて、制服の襞を気にしながら腰掛ける。

 幾十の時計が時を刻んでいるのは気持ちがいい、小父さんの調整がいいんだろう、ほとんど秒針まで同じに動いている。今どき珍しい鳩時計などもあって、まもなく五時の時を刻もうとしている。

 あと一分……三十秒……十五秒……五秒、四、三、二、一!

 あ……それは鳩ではなかった。

 剣を携えた戦乙女が出てきて、キッと顔を上げると天に向かって剣をかざす。

 一回 二回 三回 四回 五回……なるほど、これが時報になっているんだ。

「まだ修理中でしてね、直ったら『エイオー』って鬨の声をあげます。はい、できました」

 小父さんは、仕上がった腕時計をビニールの袋に入れてカウンターに置いてくれる。

「おいくらになりますか?」

「メンテナンスこみで、二千円頂戴します」

 意外にお安い、制服の内ポケットからお財布を出し、千円札を二枚取り出そうとして……光るものに気が付いた。

 これは……?

 見つめていると、光は急速に輝きを増していく……エーゲ海の真珠だ。

 カチコチ チカチコ チカチカ コチカチ コカカカ カカカコ カカカカ……

 時計たちがデタラメに動き始め、それまで揃っていた時間がメチャクチャになってしまっている。

「やれやれ……そんなものを持っていたんだね」

 小父さんが、憑き物がとれたように白けた顔になっていく。

「思い出した、わたしはクロノスに会いに来たんだ」

「わたしが、そのクロノスだよ。大人しく、その腕時計を受け取って店を出たら、おまえの身の周りだけはまともにしてあげようと思ったんだけどね、それはポセイドンに持たされたのかい?」

「これを飲んでください」

「そういうわけにはいかない、こうなったらブリュンヒルデ、おまえに次元の歪みを正してもらうしかない。まずは、あの時空だ」

「あ……」

 クロノスが指差した時計の文字盤が白く光り、瞬くうちに広がったかと思うと、わたしを包んでしまう。

 フッと立ち眩みに似た浮遊感に襲われた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・19『神楽坂高校の茶封筒』

2022-07-30 06:48:55 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

19『神楽坂高校の茶封筒』 





 今の俺は二つ問題を抱えている。

 一つは、妹の小菊がこともあろうに、俺の高校を受験したこと。

 当たり前の兄妹なら妹が同じ学校に進学したって、たいした問題じゃない。

―― え、おまえと同じ苗字の子、おまえの妹か? ――

 学年はじめに、ちょっと噂になってお終いだろう。

 俺んちの妻鹿という苗字はめったにない。苗字が同じなら兄妹と思われるのが自然だろうからな。

 ちょっとハズイけど、血を分けた妹の為なら、そのくらいのことは辛抱してやる。

 普通人間を目指す俺は、世間一般の兄貴がしてやることや我慢することについてはノープロブレムだ。

 小菊は、俺に対して口を利かない限り、ミテクレは可愛いし素行も悪くない。いや、同世代の女の子としては様子のいい方だ。

 俺んちは、ひい祖父ちゃんの代までは、江戸時代から続く芸者の置屋だった。

 いわゆる粋筋家業で、立ち居振る舞いにうるさい。祖父ちゃんの代でパブになり、当代の親父はサラリーマンの中間管理職。伝統は薄まったとはいえ、そこは環境、俺も小菊も人さまへの挨拶や対応はきちんとしている。

 ただ、兄妹仲という点だけは最悪だ。

 小菊が俺を呼ぶときの枕詞が「腐れ童貞」という一言でも分かってもらえると思う。

 それが同じ学校に来れば、狭い校内だ、どこかで小菊と衝突することは目に見えている。

 衝突すれば「腐れ童貞」から始まって、雨あられのごとき罵詈雑言を浴びせられる。

 俺はいいんだ、家で言われ慣れているし、ま、いいんだ。

 問題は、家でそうであるように、罵詈雑言に手足が出るようになると、薄皮のような化けの皮が剥がれてしまって、小菊が落ち込んでしまうことだ。

 自覚は無いかもしれないが、小菊は逆境に弱い。

 小菊については、できるだけ関わらないというのが俺のコンセプトだ。

 小菊が『身から出た錆』的逆境に耐えられなくなったとき、ま、不登校とか引きこもりとか、ね。

 あっては欲しくないけど、プッツンして暴れまくったりしたら(小中で二度ばかりプッツンしている)兄妹思いの心情だけではいかんともしがたい事態になることが予想される。

 もう一つの問題が……。

「どっこいしょ!」

 小菊が、我が家の多目的スペースである店のフロアーに山ほどの荷物を持って現れた。

「ちょ、じゃま」

 俺が昼寝を決め込んでいたボックス席に、ドサッと荷物を置いた。

 チ

 もめ事は御免なので、大人しく舌打ち一つだけで隣りの二人席に移動する。
 
 どうやら入試は楽勝の手応えであったらしく、四月からの新生活のために身の回りを片付け始めたようだ。

 外面だけがいい小菊は身の回りの整理が出来ない。

 従って自分の部屋はゴミ屋敷ジュニアという感じで、本気で整理しようと思ったら、広い場所に一切合切をぶちまけるしかない。

「あーー小学校の標準服なんていらないなあ……てかカビ生えてるじゃん!」

 しわくちゃの標準服をゴミ袋に突っ込む。

「中学の教科書とかも廃棄廃棄っと」

 教科書を突っ込む。

「ヤダー、これって写真が入ってる~!」

 写真の箱を開けて捨てるかと思いきや、シートにひっくり返り、写真の箱を腹の上に載せて鑑賞し始めた。

「キャー、うっそ、信じらんない!」「ヤダー、なにこれ!」「オ、チョーウケる!」「イッヤー、めちゃカワユイじゃん、このころのあたしって!」

 などと言いながら足をバタバタ、こういうところは保育所のころから変わっていない。

 変わっていないから困るんだ、春の盛りを先取りしたような短パンの裾から中身が見えてしまう。

 むろん注意はしない、腐れ童貞の上に変態が付くのがオチだからだ。

 読みかけのマンガを持ってカウンター席に移動することにする。

 ボックス席の横を通るとハッとした。

 乱雑に積まれた荷物の上に中学やらの学校関係のプリントが積まれていた。

 その中程から覗いている茶封筒に神楽坂高校の文字が見えた。

 ピンときた、シグマが俺んちの郵便受けに入れた例のブツだ!

 シグマと別れ、家の郵便受けを覗いて焦った。

 例のブツが入ってないからだ。

 その後、お隣りさんが回覧板を郵便受けに入れたことが分かり、お袋が取り込んだときにポスティングされたチラシなどに紛れて学校の茶封筒が入っているのに気付き、茶の間のテーブルの上に置いて忘れてしまったらしい。

 回覧板を回しに行って話し込んでいるうちに飛んでしまったらしい。なんせ、その日の郵便受けには近所に建ったマンションの案内やらの封筒が三つも入っていたらしいからな。

 物が物だけに、問いただすわけにもいかず悶々としていたのだ。

 小菊がトイレに立つのを見計らって、茶封筒をゲットする。

 ところが、茶封筒の下には、全く同じ学校の茶封筒が二つもあった。

 あれ?

 疑問に思いつつも、俺は合計三つの茶封筒を綿入れ半纏の中に隠して自分の部屋に戻ったのだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫         父
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任


 

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