大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・11『三年一組 早乙女采女』

2018-08-23 14:17:57 | ノベル

アンドロイド アン・11
『三年一組 早乙女采女』

 

 

 ……どうも狙っているらしい。

 

 というのはアンのことだ。

 自治会の運動会や学校でのアレコレで、アンは「よくできた」という冠詞が付き始めたのだ。

 よくできた三丁目のお嬢さん。

 よくできた転校生。

 よくできた新一の妹。

 その「よくできた」を回避を狙っていろいろドジをやっているように思えるんだが、人にもアンにも言わない。

 

 家で感電したことも、町田夫人の自転車とお見合い衝突したことも、スーパーのエスカレーターでオタオタしたことも知れ渡った。

 知れ渡ったということは、言い換えれば注目されていたということでもある。

 お見合い衝突は、町内の放送局である町田夫人が広めたことだろうし、スーパーの一件は、学校の関係者がス-パーに居たらしいのだ。

 

「おい、こんなのが出回ってるぞ」

 

 もう三十秒早ければ免れた遅刻。

 さして悔しがりもせず遅刻指導の列に並んでいて、遅刻仲間の赤沢がスマホの画面を見せる。

 アンは、初日こそ従兄妹同士の許婚(いいなづけ)だと宣言したが、あくる日からは俺自身が緊張の糸が切れ、そんな俺といっしょに登校しては遅刻の巻き添えと早く出るようになっていた。

 で、そうそうスマホの画面。

 ス-パーでオタオタしてエスカレーターに乗れないでいるアンのへっぴり腰が映っている。

 いかにも体育苦手少女のヘタレ眉はいただけない。

「だれが撮ったのかは分かんねーけど、俺はこういうアンもいいと思うぜ」

 赤沢はいいやつだ。正直、写真の撮り方の悪意を感じる俺だったが「こういうアンもいいぜ」とフォローしておくことで注意喚起してくれている。

 おたつけば、こういう写真を撮るやつらはエスカレートしてくることを言ってるんだ。

 

 食堂で、こんなことがあった。

 

 朝起きられないことを理由に弁当を作ることを止めたアンは、玲奈たちとお昼をしていた。

「ごめん、委員会あるから先にいくね」

「あ、うん、じゃね」

 玲奈はギリギリまで付き合ってくれていたようなんだけど、トロトロ食べるアンを待っていては委員会に間に合わなくなってきたのだ。

 デザート代わりのフライドポテトに手を伸ばしたところで声が掛かった。

「あなたが三組のアンね?」

 なんと校内一の美少女と誉れも高き三年の早乙女さんが横に座ったのだ。

「え、あ、はい」

 ちょっと不思議だった。

 アンの席に回るのだったら、中央の通路から入るのが普通なんだけど、早乙女さんは窓側の狭い通路から寄って来た。

「ス-パーの写真、わたしの知り合いが撮って、何人かに送ったの。あなたの了解も得ないで申し訳なくって、とりあえずはお詫びと思って……」

「いいえ、わたしってドジだから気にしてません」

「でも……」

「あの、ちょっと前にもご近所のオバサンと衝突してましたし(*ノωノ)」

「そう、それならいいんだけど。あ、わたし三年一組の早乙女采女(さおとめうねめ)っていうの。よければよろしくね」

「あ、道理できれいな人だと思ったら、早乙女さんですか!」

「あら、知っていたの?」

「はい、男の子たちが、ときどき噂してます!」

「やだなあ(まんざらでもないお顔に見える)」

 美しく恥じらって頬を染める早乙女さん。俺でもドキッとする。そんな上級生をホワホワ見つめるアンもいいんだけど、口ぐらい閉めろ!

「早乙女さん、記念写真!」

 取り巻きらしい女子が二人の前に立ちスマホをカメラ構えた。

「あ。写真は……」

「ぜひ、撮りましょう!」

 フライドポテトを持ったまま、アンが明るく賛成する。

「え、あ……」

「じゃ、そのまま立ってください!」

 

 その時、別の女子がトレーを持って窓側からやってきて、二人の後ろでズッコケた。

 

 ワ!

 

 転倒こそしなかったが、お手玉してしまい、トレーの上のアレコレが踊ってしまった。

「ごめんなさい!」

「フ、ファックション! フ、ファックション!」

 アンがクシャミを連発! 重なって写メの連写音!

 二発のクシャミの後、三発目を堪えようとして、アンは爆発した。

 

 グフ!

 

 鼻水が飛び散り、同時にクシャミではないP音がハッキリとした!

「早乙女さん、OK!」

 写メ子がOKサインを出してトレー女ともども早乙女さんは逃げた!

 

☆主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 早乙女采女 学校一の美少女

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・〔マイナス10キロのスピード違反〕

2018-08-23 06:51:49 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
〔マイナス10キロのスピード違反〕



 速度制限60キロの道を40キロで走っていて、スピード違反の切符を切られた。

 原チャだから文句は言えないが、あんまりだ。
 切符を切られている傍を10キロオーバーぐらいで、車が、どんどん走っているというのに。
――くそ、ノルマ達成に原チャを餌食にするか!?――
 白バイのオマワリは淡々と違反切符を書いて、阿倍くんに渡した。
――これでノルマ達成。俺も来月で28、昇進しとかないとかっこがつかないからな。恨むな10キロオーバーのきみが悪いんだ――
 秋元巡査は、ポーカーフェイスで、そう思った。
――コノヤロー!――
 安倍くんは、19の大学生らしく頭に来たが、28にもなって巡査部長にもなれない秋元巡査長にも少し同情した。
「とにかく違反は違反。気を付けて運転してね。原チャリは30が制限速度なんだから」
 秋元巡査長は、心とは裏腹に、警察官の見本のように安倍くんに説諭した。秋元巡査長も安倍くんのヘルメットの五芒星の意味が分かっていたら、対応もちがったのだろうが。

 正義の味方のように走り去っていく白バイに、安倍くんは、手のひらのゴミを吹き飛ばすようにして、呪をかけた……。

 秋元巡査長はめでたく、その年の昇進試験に合格、晴れて巡査部長になった。
 巡査部長になって、初めての休暇で、秋元巡査部長は自分のバイクでツーリングに出かけた。高速に入る手前で、数か月前安倍くんを10キロオーバーで切符を切ったところを通過した。白い紙をタイヤで轢いたが気にも留めなかった。
 高速に入り、しばらく行くと、目の前にさっそうとした女性がバイクで走っているのを見かけた。
「よさげな子だなあ……」
 そんなことを思いながらしばらく後ろに付けて、追い越しざまに彼女の顔を見た。
 むろんフルフェイスのメットでは、顔の全てが見えるわけではないが、なかなかの女だと感心した。

 ひょっとしたら……という気持ちで次のサービスエリアで、待ち構えた。日ごろのネズミ取りの勘が働いたのかもしれない。
 自販機のコーラを半分飲んだところで、さっきの彼女がサービスエリアに入ってきた。

「ふふ……そう言えば、あれがきっかけだったのよね」

 優子は、ベッドの上で、汗ばんだ胸を上下させ、爽快そうに言った。
 サービスエリアで、声を掛けたのがきっかけだった。その日のうちにいっしょに箱根までツ-リング、意気投合してメアドの交換までやった。そして二か月後には、こうやってベッドを共にするようになった。
「おれたち、結婚しよう……」
「ん……ちょっとスピード違反だけど、いいか!」

 秋元巡査部長は夢見心地だった。昇進試験には通るし、彼女もできた。そしてダメ元で、三度目のベッドの後で、結婚の約束までできた!

「ちょっと、シャワー浴びてくるわね」
 優子も、感に堪えないような気持ちでバスルームに駆け込んだ。
 バスルームの半透明のガラスを通して、見事なプロポーションで、楽しげな鼻歌混じりに汗を流す優子が見える。秋元巡査部長は愛おしかった。

 ふと、サイドテーブルの上の優子のバッグが口を開けて、こちらを向いているのに気付いた。スマホやパスケースがはみ出ている。
 遠目にパスケースの免許証に気づいた。
「そういや、名前とメルアド以外、ほとんど優子のこと知らないんだ……」
 秋元巡査部長は、こっそりと、免許証を見た。

 愕然とした。せいぜい25・6歳と思っていた。昭和54年生まれ……39歳だ。10歳以上もさばを読まれてた!

 そう思ったとたん、鼻歌が聞こえなくなり、バスルームの影も消えた。
「おい、優子……」
 恐る恐るバスルームを覗くと、出しっぱなしのシャワーに人型の紙が濡れそぼっていた……。

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 11『舞の熱を冷ますように雨が降っきた』

2018-08-23 06:27:49 | 小説・2

 


高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 11『舞の熱を冷ますように雨が降っきた』




 さすがに文句は言わない。

 だって自分から付き合うことをOKしてしまったんだから。


 相手がだれであろうと、舞は付き合うつもりなんかなかった。
 だから、一足早く南館の屋上に向かった俺は離れたベンチに席を占め、梶山がモーションを掛けてきた時に電話した。
 電話を受けた舞は「すみません、先生から……」ということで梶山の告白を中断させる段取りになっていた。
 それをダメ押しの「芽刈くん!」で、あっさり陥落してしまった。

「仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん!……」

 呪文のように「仕方ないじゃん!」を繰り返し、足早に階段を下り廊下を行く舞。

 

 その斜め後ろに付き添った。   「ネコだらけ」の画像検索結果

 

 ほっときゃいいんだけど、家以外の舞は何枚何十枚も猫を被っている。
 その猫がヘロヘロと剥がれて行くのが俺には分かる。
 もし、この猫が目に見えたとしたら、学校は瀬戸内海かどこかにあった猫島のようになってしまっただろう。
 たった一枚でも猫を被っているうちはいいが、全てのネコが剥がれ落ちたら……。

 考えただけでも身の毛がよだつぜ。

 舞にとっても学校にとってもハルマゲドンにならないために、俺は付き添っている。
 渡り廊下を過ぎたところで舞を左に誘導する。
 廊下の左詰めは美術室だ。美術部員たちが短い昼休みを利用してデッサンやら油絵やらの手直しをやっている。

「「「「芽刈さん!」」」」

 美術部員たちが畏敬のまなざしで挨拶する。
 中までは入らないが、美術部員たちは一人の女生徒を囲んでデッサンの練習をやっているのが分かる。
 舞はスケッチブックを手に取ると鏡の前に陣取り、一心不乱に自画像を描き始めた。
 早回しのオートマタのように鉛筆を走らせる舞は自殺直前のゴッホのようだ。   「自殺直前のゴッ...」の画像検索結果

 

 目は鏡とスケッチブックを毎秒十回くらい往復し、瞬くうちに『狂気の青春』とでも付けたらピッタリの自画像を描き上げていく。
「「「「ほーーー!」」」」
 自分たちの作業を中断し、舞の作品に見惚れる部員たち。
「だめだ!」
 スケッチブックを閉じると舞は再び廊下へ。

 階段を下りると漫研の部室だ。

 漫研は自主製作のPCゲームを作っている。
 舞は入部して「ペンタブで絵を描くなら、いっそゲームを作りませんか」という提案を持ち前の押し出しと器用さで押し通し、七割がた完成させている。

 

「わたしがやります」

 

 パソコン相手に文字入力を手間取っている部員の肩を叩いた。
 セットされたテキストを一瞥すると驀進するオーム(風に谷のナウシカに出てくる巨大なダンゴムシみたいなの)の脚のように指を動かし瞬くうちに打ち終えた。
「すごい……一時間換算で8キロバイトの速度だ」
 前任者の眼鏡っ子が目をまん丸くする。
「次のテキストは?」
「すまん、まだ書けてない」
「ですか……」
 目尻と指先がヒクついている、まだ嵐が収まらないようだ。

 当てがあったわけではないだろうけど、舞の進んだ先はグラウンドだ。

「芽刈、来週あたりから記録に挑戦してみないか」

 

 石灰マーカーでコースの補修をしていた横山先生(陸上部顧問)が声を掛けた。
「走ってみます」
「じゃ、放課後の部活ででも」
 横山先生はマーカーを転がしていく。
「いま走ります」
 そう言うと、靴を脱いで素足になった。
「その格好で?」
 素足になったとはいえ、舞は制服のままだ。
「走ります」 
 スターティングブロックに足を掛けたので、勢いに押された先生はホイッスルを咥えた。

「セット……オンユアマーク……ピーー!」

 スタートダッシュから違った、横山先生の目が点になった。
 ゴールするまで、俺は息をするのを忘れてしまった。
「ゴール!」
 先生は叫んだが、ストップウォッチを何度も見直した。
「12.3秒……すごいよ!」
 数字は分からないが、素人目にも、今の走りはすごかった。
「もう一度やります」
 次は12.8秒。
 さらに二本走ったが13秒台に落ちた……というか落ち着いた。
「これ以上は足を痛める、部活の時にきちんとやり直そう」
「……はい」

 水道で足を洗うと、舞はスマホを取り出した。

――今日はありがと 今夜話がしたい 舞――

 グラウンドの校舎側の隅でメールを受け取り――分かった――とだけ返事を打った。

 見上げると、舞の熱を冷ますように雨が降っきた。
 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト《オーマイガー!?》

2018-08-22 21:35:01 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
《オーマイガー!?》 
  





「オーマイガー!?」

 と、叫んだらしい……。

「Oh my Car!?」
 
 と、あたしは叫んだつもり。


「……無理にでもとは言わねえからな」

 気を悪くした伯父さんが腕組みした。

 工場の天窓から、夏の日差しが、そのマイカーのお尻を照らしている。
 あたしには、その日差しが、マイカーのお尻を溶かしてしまったように思えた。

「ううん、気に入った!」
「それじゃ、これで、よく練習してからホンマモンのマイカー買えよ」
「うん、しっかり練習する!」
「じゃ、一応免許証の確認だけさせてもらおうか」
「はい、どおぞ」

 ピカピカの免許証を伯父さんに見せた。

 伯父さんは、お祖父ちゃんの代からの自動車修理工場。半ば趣味で工場の片隅にポンコツともクラッシックともつかない、車が何台か並んでいる。昨日シャメを見せてもらって、これに決めた。
「円(マドカ)おまえセーラー服着て写真撮ったのか!?」
「だって、これ着てたんだもん。しかたないでしょ」
 あたしは、自動車学校の最終試験の日は学校帰りだった。で、その日に免許が交付されるなんて分かってなかったので、制服姿で免許の写真を撮るハメになったのだ……文句ある?

 あたしはお尻がちょん切れたようなホンダN360Zを運転して我が家に帰った。

 お尻が欠けている分、浄化槽上のネコのオデコほどの駐車スペースに、簡単にバックで入れることができた。
 あんた、前から見たらカッコいいのにねえ……そう呟いて、家に入った。
「マドカ、あんな骨董品借りてきたのか!?」
 窓から見ていたんだろう、お父さんが目を剥いた。
「だって、前の方から見たらカッコ良さげなんだもん」
「あれも、純正だったら値打ちあるんだろうけど、兄貴がいじり倒したあとだもんなあ」
「いいの、かわいいから!」

 それから、夏休みの残りを、Zに乗って運転慣れした。

 乗り慣れて分かった事がある。確かにエンジンは換装されていたし、フロントライトは右と左で微妙に色が違ったり、ミッション系や足回り、内装など、あちこちいじり倒して、印象としてはフランケンシュタイン。
 
 あたしは、ファルコン・Zと名付けた。『スターウォーズ』に出てくる銀河系最速のガラクタと言われる宇宙船の名前。さしずめ、わたしは、それを操縦するレイア姫。

 慣れたとは言え、幹線道路を走っていると、車の小ささから、周りの車がジェダイの宇宙船や戦闘機のように思えてくる。また、道行くドライバーの人たちも。ファルコン・Zを驚嘆の目で見ていく。交差点で停まっていたりすると、シャメを撮られることもあった。

 交差点で停まっていると、アナキンが立っていた。

 正確にはアナキンに雰囲気そっくりな、うちの学校のEATのジョ-ジ先生。当然わたしは声をかける。

「ハーイ、ジョ-ジ!」
「……マドカ!?」

 というわけで、アナキンのジョ-ジが、光栄なるファルコン・Zの最初のゲストになった。

「末っ子のマンボウみたいな車だね……」
 アナキンは、そう評価した。実際のファルコン号も、ジョージルーカスが、ピザを食べているときにデザインを思いつき、「マンボウのようなフォルムにしよう」ということになったらしく、あながち的は外していない。
 アナキンのジョ-ジ先生は、学校でも憧れのマト。それを偶然とは言え助手席に乗っけた。こんな至近距離で、ジョ-ジといっしょになるのは初めて~♪
「マドカ、ライセンス取ったんだ!?」
「イエス、オフコース! で、この車ファルコン・Z!」
「ファルコン……?」
「本名はホンダN360Z。三十年前のクラシック」
「……ワオ、ほんとだ」
 ジョージは、スマホで検索して喜んだ。
「ほんとに、お尻が無いんだ」
「でも、キュ-トでしょ?」
「うん、ク-ル。お礼にコーラあげるね」
 自販機で買ったばかりなんだろう、キンキンに冷えた500ミッリットルのコーラを、プルトップを開けてドリンクホルダーに置いてくれた。わたしが1/3飲んで、ゲップしてホルダーにもどすと、ジョージは平気で残りを飲んだ。
――ワア、間接キスだ!
「ジョ-ジ、どこまで?」
「ああ、今日は大学。自分の勉強ね」
 ジョ-ジは、ウチらの学校で英語のEATをやりながら、大学で勉強しているのは知っていた。でも、その大学までいっしょに行けるとは思ってもいなかった。うまくいけば、いっしょにランチぐらい食べられるかなあ……と妄想したりした。

 それは、いきなりだった。

 大学の駐車場に入ろうとしたら、学生の車が前から突っこんできた! ドライバーの学生はスマホで話ながら運転していて、こちらに気が付いていないことは、あたしたちの方からもよく分かった。
「ブレーキ、ターンレフト! オーマイガー!」
 ジョ-ジが、そう叫んで、わたしに覆い被さってきた。

 キーーーーーーーーーーーーー!

 二台の車のブレーキ音……そして静寂……。
「マドカ、アー ユー オールライト?」
「……イエス、パーハップス……」
 ジョージに抱きかかえられるようにしてファルコン・Zから降りた。
 相手の車は、ファルコン・Zのお尻から、5センチぐらいのところで停まっていた……。
 お尻が無くてよかった。で、ジョージは、震えるわたしをずっとハグしていてくれた。
 なんだか、恋人のような感じさえしてきた。
「オーライト、オーライト……」
 ジョ-ジは、そう言いながらオデコにキスまでしてくれた。
 もう、あたしは心臓バックンバックン! ジョ-ジのバックンバックンも伝わってくる。まるで映画のワンシーンなのよね!

 そこへ事故の音を聞きつけて、ジョージの先生がやってきてくれた。

「いや、この車でよかったね。普通の車だったら、後ろを確実にぶつけて、ふっとばされてるとこだ……それから」
 あとの話が余計だった。
「こういう状況で、相手を好きになったら、そりゃ誤解だからね。そろそろ、二人とも離れた方がいいよ」
それから、この先生は『吊り橋理論』を説明し始めた。
吊り橋のように互いにドキドキを共有すると、恋愛感情と誤解することが多いらしい。
あたしは、心の中でファルコン・Zに感謝すると同時に、この大学の先生を呪った。

 オーマイガー!!

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 10『雰囲気に弱い妹ではある』

2018-08-22 06:39:28 | 小説・2

 


高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 10『雰囲気に弱い妹ではある』



 生徒会長は二期連続で務めるのが普通なんだ。

 例外は三年生で前期の会長を務めた時。
 後期の会長は任期が、あくる年の五月に跨るために、二月に卒業してしまうと任期が全うできず、会長のポストに空白期間が出来てしまう。
 だから会長は二年生の後期に立候補し、前期の生徒会長から時間をかけて仕事を引き継ぎ、あくる年の前期いっぱい職にとどまる。

 梶川俊也は二年の後期に生徒会長になり、一期半年を務め今年の前期選挙には立候補しなかった。

 そつなく任務をこなしていて、教職員にも生徒にも「まあ、よくやっている」と評判をとっていたので、五月の選挙に立候補しないと知れた時には、ちょっと話題になった。

 
「一期で辞めたこと、ちょっと後悔してるんだ」
 南館屋上、南向きのベンチに舞が座ると、こう切り出した。
「あ……普通は、もう一期やりますよね。でも、梶川さんの場合、あれと両立はむつかしい、でしょ?」

 並んで座った舞はしおらしい。
 ま、あいつは俺以外の人間には丁寧だし気配りもする。
 あんなタメ口で乱暴なのは俺に対してだけだ。ほんと、損な役回りではある。

「もう一期やっていたら、生徒会で君と一緒になれた」
「え、あ……」
「そうしたら、もっと自然なかたちで気持ちを伝えることができたのにね。呼び出してすまない、そしてきちんと応じてくれてありがとう」
 わずかに頬を染め、きちんと話す梶川は昔の青春ドラマの主人公のように清々しい。

 じっさい、梶川はテレビドラマに出ている。

 そう、あいつが会長職を一期半年で辞めたのは、某プロダクションの目に留まり、俳優業を始めたからだ。

 

「えと……去年の舞台素敵だったそうですね」
「あ、記録のDVDを見れば……あ、僕のことじゃなくてね、文化祭の企画や運営の参考になると思うよ」
「観せていただきました、先月生徒会の文化祭企画会議で」
「あ、観てるんだ」
 観ているのに、推量の「そうですね」を使っている。
「舞台は生で観ないと、映像の二次資料では正確なことは……あ、なんか生意気なことを言ってすみません!」

 

 両手をパーにして、胸の前でハタハタ振る舞は、正直可憐でため息が出る。ギャップの凄さにだけどな。

 

「生意気なんかじゃないよ、高校一年で、そんなに正確な物言いをしようとするのは立派なことだよ」
「でも、あの舞台がプロダクションの目に留まって俳優になられたんですから、先輩こそ立派な方です」
「それはどうも……あ、なんか照れるなあ」
 手の甲で額の汗を拭う梶川、くそ、サマになってやがる!
「ハンカチどうぞ」
「え、あ、すまない」
 あ、そういのは誤解を与えるぞ!
 あ、一瞬ハンカチの匂いを嗅ぎやがった、くーー、驚き方までサマになって!
「えと……僕は、その、まだまだなんだけど……そのよかったら、友だちからというぐらいから付き合ってもらえないかな、君の友だちの一人として」
 
 ちょっと予想から外れてしまった。

 

 度重なる投げ文、爽やかなルックスとビヘイビア、文武両道で前途有望な俳優の玉子、その熱意とグレードの高さから、もっとストレートで、高めの直球を放ってくると、俺も舞も思っていた。

「あ、えと……」
「どうだろ」
「えと、友だちなんですよね……」
 
 いかん、舞が陥落してしまう!
 俺は、スマホの☏マークにタッチした!

「すみません、電話」
「あ、どうぞ」
「はい、もしもし……あ、はい、直ぐにいきます」
「用事が出来たかな?」
「すみません、先生から……」

 舞は階段に急ごうとしたが、慌ててていたんだ、ベンチの脚を引っかけてしまった。

「キャ!」
「危ない!」

 奴の反射神経は見事で、転倒寸前の舞を腰抱きにして転倒を防いだ。

「あ、す、すみませんでした」
「転ばなくってよかった」
「ありがとうございます、じゃ」
 ぺこり頭を下げると、階段に向かう舞。
 どうやら、ギリギリのところで踏ん張れたようだ。

「芽刈くん!」

 く、ダメ押しの一声。

「はい、お友だちということで!」

 あーーー雰囲気に弱い妹ではある……。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 09『ちょっと難儀な相手だ』

2018-08-21 06:16:49 | 小説・2


 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 09『ちょっと難儀な相手だ』




 あんな妹だけど仁義はわきまえている。

 俺にラブレターを見せないのだ。


「読まなきゃアドバイスもできないぞ」
「キモイ、妹に来たラブレター読もうなんて!」
「おまえ、さっきは俺に恋文男と対決しろって言ってたじゃねーか、ラブレター読まなきゃ対決のしようもねーだろが」
「それはもう止めたんだから、とやかく言うな!」
「矛盾だらけじゃねーか、俺は、もう知らん!」

 回れ右をすると、三歩で到達して、ドアに手を掛けた。

「待ってよ!」
 反射神経をいかんなく発揮して、俺のシャツをムンズと掴みやがった。

 ブチ!

 俺の堪忍袋が破れたと一瞬思ったが、シャツの前ボタン二つがブッチギレル音だった。
「……ひと傷つけるのやだもん」
 実の兄を虫けらほどにも思っていないくせに、他人への気配りは人並み以上だ。

 七つも部活を掛け持ちし、生徒会の学年代表を務め、こないだは関根さんの勧めるままにモデルになったのも気配りのしすぎという側面がある。この1%も俺に気配りすれば、俺の生傷も半分以下になるだろう。

「概略を言えよ」
「えと……」
「その感じじゃ、昼休みか放課後に呼ばれて、コクられる予感なんだろ」
「う、うん……昼休みに屋上」
「どっちの?」
「南館」

 うちの学校は、南館と新館の屋上が解放されている。広い方が南館で、昼休みは生徒の憩いの場所になっている。
 新館は狭いうえに階段室と給水タンクが邪魔で、部活に使われる以外は、あまり生徒は寄り付かない。
 ま、南館の方が健康的ではある。

「相手は?」

「三年の梶川さん」
「カジカワ……それって、先代の生徒会長の?」
「え、あ、うん」

 梶川俊也……ちょっと難儀な相手だ。

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高校ライトノベル・紙模型 戦艦扶桑製作記・1

2018-08-20 17:40:24 | イレギュラーマガジン

紙模型 戦艦扶桑製作記・1

 

 戦艦扶桑は、今から103年前の1915年11月8日に竣工した旧帝国海軍の超ド級戦艦です。

  「戦艦扶桑」の画像検索結果

 1944年10月25日にスリガオ沖海戦で沈没するまで29年間現役で活躍し、その現役歴の長さは大戦中の12隻の戦艦の中では金剛に並びます。現役期間が長かったので何度も改装され2本あった煙突は1本にまとめられ、艦橋は洋上の違法建築と言われるほどに高く聳えてしまいました。日本の戦艦は扶桑ほどではなくとも積み上げ式が多くアメリカからはパゴダ型と揶揄されましたが、その特異な艦橋のため、今は世界的にファンが多いようです。

  

 今回手掛け始めたのは、日本の艦艇研究では日本以上に進んでいると言われるポーランド製の紙模型です。

 

 1/200というビッグサイズで、完成すると全長1メートルを超えます。このサイズをプラモデルやソリッドモデルだとキットだけで3万円から10万円しますが、この紙模型は7000円ほどでしかありません。

 また、冊子の形になっているので、プラモデルの箱のように場所をとりません。この扶桑から買い始めて、空母大鵬・戦艦比叡・空母赤城・空母信濃を買ってしまいましたが、棚の上に並べても幅が6センチに満たず、狭い我が家にはありがたいです。

 

 この紙模型シリーズはレギュラーというか廉価版とハイグレードがありまして、金属の砲身やエッチングパーツやレーザーカットされた骨材が点いているものは数倍の値段がします。紙模型なので紙だけで作るのが本道! と言うよりは高くて手が出ないわたしには紙だけの廉価版がありがたいです。

 

☆ 問題はボール紙

 船体の骨格を作るには厚さ1ミリと2ミリのボール紙が必要と書かれていますが。2ミリはおろか1ミリのボール紙が手に入りません。昔は文具屋に行けば売っていたのですが、近頃はホームセンターに行ってもありません。

 夏休みの工作用などで売られているのは、せいぜい厚が0.5ミリしかありません。

 それにボール紙というのは水性ボンドを使うと伸びてしまうので、全長が1メートルにもなろうかという艦船モデルではひずみや、ゆがみ、たわみの原因になってしまいます。

 

☆ スチレンボード

 そこで目を付けたのがスチレンボードです。ホームセンターや画材屋さんで手ごろなA4サイズで売っています。

 書店のポップなどに使われている発泡スチロールの目の細かい板状のあれです。ボール紙に比べると割高なのですが、一隻分買っても2000円くらいですみます。

 水性ボンドで簡単に接着できますし切削加工が紙よりも容易で、カッターナイフやデザインナイフでスラスラと切れます。

 むろんボンドの水分を含んで伸びたりたわんだりすることもなく、仕上がりがきれいです。

 そいいえば建築模型などは、このスチレンボードが使われることが多いですね。

 ただ一点問題なのは、厚みが3ミリあるので、キットの組み合わせの切込みが2ミリと1ミリ厚いので加工が必要です。

 切込みを1ミリ大きくするだけなのですが、ピッタリ正確にやるのが難しく、それが歪みの原因になって来るので、ちょっと気を付けなければなりません。

 

 

 キットにはペラペラの紙に骨材が印刷されているだけです。それをスチレンボードに貼り付けるのですが、水性ボンドは使いません。前述しましたが水性ボンドは伸び縮みやたわみがでてしまうので、スチレンボードに貼り付けた時点で誤差が出てしまいます。特にキール材などの船の全長に関わるパーツでは伸び縮みが大きな問題になります。

 割高ですが、スプレー缶式のノリを買ってきて、サッと吹き付けて手早く貼り付けます。

 まあ、写真のようになんとか組み上がりました。

 

 つづく

   

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・『明日天気になーれ』

2018-08-20 06:41:01 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト
『明日天気になーれ』



 絶対に雨が降ると思っていた。

 だって台風が来るんだし、天気予報はテレビでもネットでも大荒れの傘印だった。
 それが、快晴になってしまった。

 あいつの力は本物かもしれないと思った。

 テレビでは可愛い天気予報士が、言い訳めいた解説をしている。
「台風は予想より東側のコースをとり、コースの東側はバケツをひっくり返したような大雨と暴風になりましたが、西側は風こそ吹いたものの、所によっては快晴と言っていい日和になりました。この現象は……」

 あの日から、271/364になった……。

「ごめん、あなたといっしょにやっていく自信なくなたの……」
 決別のつもりだった。
「……弱気になってるだけだよ」
 テレビで野球の感想を言うように、省吾は気楽に言った。
「でも、考えに考えた末なの。鹿児島に省吾が転勤して、続いていく自信ないの。東京にいる間だって、いま、こうしている間だって、省吾には、いいとこ見せなきゃって……もう、疲れちゃったの」
「そんなこと気にしてたのか」
「あたしって、家にいるときは、もっとだらしないし、昔のあたしは……」
「昔の美奈穂が、どんなだったか知らないけど、今は、ちゃんとした美奈穂じゃないか。そんな昔の自分に囚われてるなんてナンセンスだよ。それともオレへの気持ちが冷めてしまった……それなら、諦めるけど」
「そうじゃない。いや……そうかもしれない……もう、分かんない!」
 あたしはプラタナスの枯葉が積もった歩道にしゃがみこんでしまった。省吾も同じようにしゃがみこんでくれた。
「じゃ、こうしよう。鹿児島に居る間、ずっと東京の天気予報をするよ。とりあえず一年間。オレ……75%の確率で当てて見せるから。それ以上だったら、オレは会社辞めてでも東京に戻ってくる。そして美奈穂の気持ちが変わっていなかったら……結婚しよう」

「あたし……ネリカンにいたの」
 省吾の気持ちをクールダウン……いやフローズさせるために秘密を言った。

「ネリカン……ああ、練馬鑑別所か」
「保護観察ですんだけど、省吾が思っているような女じゃないのよ」
「言ったろ、今の美奈穂がいれば、それでいいって。少年院だって、二文字変えれば美容院だ、いいじゃんか。じゃ、飛行機の時間だから。いいな、絶対75%天気あてるからな!」

 そして、明日で一年。

 省吾はスマホで天気予報を送ってきた。その全部が「晴れ」だった。で、271/364。
 明日が当たれば完璧な75%になる。

 そして当たった。

「どうして、どうして当たったのよ!?」
 羽田のロビーで省吾に抱き付いて聞いた。
「外れて欲しかったか?」
「ううん、そんなことない。そんなことないよ!」

 省吾は、秘密を二つバラした。

 一つは、東京の晴れの確率は75%だということ。でも、これって平均だから、下回る可能性も半分有る。よほどのハッタリか、一か八かの賭けだった。
 もう一つは、会社の人事命令に逆らって東京に帰ってきたので、会社を辞めざるをえないこと。
 嬉しかったけど、身の縮む思いだった。

 省吾は、持っていた免許を生かして、都立高校の常勤講師になった。楽な学校じゃなさそうだったけど、楽しそうにやっている。演劇部なんてマイナーなクラブの顧問をやって、地区大会で優勝させてしまった。その地区は生徒が独自に審査して出す賞もありそれも金メダルだった。金地区賞とかいて、通称コンチクショウ!

 あたしたち、来春には結婚します。

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 08『血の繋がった下僕』

2018-08-20 06:21:34 | 小説・2

 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 08『血の繋がった下僕』




 チ またか

 声には出さないが、表情で分かってしまう。舞は舌打ちした。
 三日ほど途切れていた手紙が下足ロッカーに入っていたのだ。

 下足室に入って来た女生徒たちが、眩しそうに舞をチラ見して、何事かささやきながら靴を履き替えて階段を上っていく。

 あの子たちは誤解している。
 美少女の誉れ高き一年A組の芽刈舞が、ラブレターをもらってドキドキしている麗しい姿なのだと。
 たしかに、この瞬間の舞は、梅雨晴れの花壇に楚々と咲き誇る花のように見える。

 だが本心は怒っている――てめー、いいかげんにしろ!――

 関わるの嫌だから、一つ向こうのロッカーの山を迂回して教室への階段を上がる。

「生徒会室に来て」

 俺にだけ聞こえる囁きを追い越しざまに残して、舞は階段を上がっていった。
「挨拶もしてもらえねえんだな」
 後ろから来た武藤が憐れむように言う。
「俺は正門のとこで、にこやかに『おはよう武藤君』だったぜ」
 知ってるよ、俺以外には愛想のいい美少女を演じてるんだもんな。
「ま、腐るな。柔道部に入れば、芽刈さんは無理だとしても、彼女の一人くらいはできること請け合いだからな」
 そう言うと、ポンと肩を叩いて先に上がっていきやがった。

 憐れんでいるんだろうが、ちがうぜ親友。
 俺は、挨拶されただけで一日ウキウキ過ごせるモブキャラなんかじゃねえ、血の繋がった下僕……じゃねえ、兄なんだからな。

 生徒会室に入ると、舞が会長用の肘掛椅子にふんぞり返っている。

「ものを頼むんだったら、もうちょっと謙虚にしてろよ。パンツ見えるぞ」
「ウットシイのよ!」

 忠告を無視して、テーブルの上に件のラブレターをバサリ。
 仕方がないので、舞の斜め横の椅子に座る。

「こないだシブリン(渋谷林太郎、隣の一年B組の担任)がホームルーム中に手紙持ってきたじゃん、あれで、あたし宛てのラブレターだってバレバレ!」
 あれはお前が悪い。関根さんがまとわりついてきたとはいえ、お前が落としたんだからな。
 それをグッと抑えて結論を言う。
「こればっかりは、お前がなんとかするしかないだろ」
「そこをなんとかするのが、あんたの役目でしょーが」
「んなことしたら、兄妹だってバレてしまうぞ」
「だから考えたのよ!」

 勢いよく肘掛椅子を旋回させ、覆いかぶさるように身を乗り出しやがった。
 猿山のボスみたくマウント姿勢で結論を押し付けようという腹だ。

「なんだよ」
「あんたが、あたしに想いを寄せてるってことにして、このラブレターの主と対決するのよ! なんだったら柔道部の武藤君でも連れてってさ、威嚇とかしとくのもいいんじゃない!?」
「なんだ、その乱暴さは」
「青春てのは乱暴なもんよ! とにかくなんとかして!」
「後先考えろよ、んなことしたら、上手くいっても、次は俺との噂になっちまうぞ」
「それは平気。あんたとあたしだったら絶対月とスッポンだもん、そんときはあっさりフッたげる、誰も不審に思わない」
「評判落ちるぞ」
「なんでよ?」
「おまえを想って男と対決した俺をアッサリ振ったら、情のない女って思われる」
 これは効く。舞はマイナスのイメージを持たれるのが、ひどく怖がる。
「じゃ、どーしろって言うのよ」
「自分でやれ」
「じ、自分で……」

 めずらしくオタつく舞ではあった。
 

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・10『あわわわ(*#O#*)』

2018-08-19 12:36:10 | ノベル

アンドロイド アン・10
『あわわわ(*#O#*)』

 

 

 地震かと思った!

 

 遅刻仲間の赤沢が「ぜったいおもしれーって!」と押し付けてきたラノベを読んでいるうちに居ねむっちまって、突然グラグラガシャガシャの家鳴りがして飛び起きたのだ。

 このー! くそー!

 家鳴りにアンの罵声が混じっているのに気付いて音源の玄関にまろび出る。

「な、なにやってんだ、アン!?」

「なにって、ドア開けて買い物に行くとこなのよ! この~! この~!」

「や、やめろ! おまえの力だと家が壊れる!」

「だ、だって……!」

「落ち着け!、玄関のドアは外に向かって押すんだ! 押すんだよ!」

「え? え? え……ほんと、開いた! 新一、エラーい!」

「の、のわーーーー!」

 

 無事にドアが開いたのが嬉しくて抱き付いてくる。その勢いで玄関ホールに重なって倒れてしまい、昨日の感電事故に続いて、アンの柔らかさに包まれてしまう。

「じゃ、行ってくるねー!」

「あ、ああ、気いつけてな……あ、おれも一緒に行くわ」

 アンを一人にしてはいけない気がして、俺はご近所お出かけ用のサンダルをつっかける。

 施錠していると、またしてもアンのトチ狂った声!

 

 ワ、ワ、ワ、アワワワワ!

 

「どうした?」

 家の前に出ると、町田夫人が急ブレーキをかけた自転車の前輪に跨るようにして至近距離でお見合いしているアンだった。

「ご、ごめんなさい!」

「いえいえ、こちらこそ💦」

 どうやら、道路に出たところで、自転車の夫人と出くわし、双方、互いの進行方向に避けてしまってお見合いになってしまったようだ。

「す、すみません、アンのやつが」

「いえいえ、わたしもドジっちゃって」

「アン、いつまで跨ってるんだ」

「え、あ!」

 前輪に跨ったものでスカートがめくれ上がって縞パンが見えている。 「縞パン」の画像検索結果

「わ、あわわわ(*#O#*)」

「アンちゃんも意外にそそっかしいのね(⌒∇⌒)」

「いえ、あ、はい、粗忽ですみません」

「ううん、こういう女の子って好きよ。運動会の時のスーパーウーマンみたいなのもいいけど、ドジっ子も好きよ。じゃ~ね」

 

 にこやかにペダルを漕ぎ始める夫人に真っ赤な顔でペコペコ頭を下げるアン。

「新一も頭下げる!」

「俺もか?」

 夫人がもう一度振り返って手を上げてドンマイのサイン。

 揃ってため息ついてスーパーに向かった。

 スーパーでも、エスカレーターに乗り損ねてアタフタしたり、特売に目を奪われてワゴンをひっくり返したりした。

 スーパーにはご近所の人もチラホラ居て、明るい笑いを誘っていた。

 

 どうも、感電事故から、ちょっとおかしくなってきたアンだった。

 

 

 ☆主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 07『舞のスマホとモデル修行』

2018-08-19 06:24:12 | 小説・2

 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 07『舞のスマホとモデル修行』





 緊張感無さすぎーーー!

 リビングのドアを開けるなりの文句だ。


 モデルになると決まったところで、画面が真っ暗になった。
 いきなりのことだったので、あたふたしてスマホを操作して、舞自身が電源を落としたことが分かる。
 うまくいったんだろうとは思うんだけど、帰りのことがあるので、三十分ほど自販機の横で待ち続けた。
 
 しびれを切らしてメールを打つと――どこほっつき歩いてんのよ! とっくに家に帰ってる!――

 で、急いで自転車こいで、リビングに入ったとたんの罵倒だ。

「車で送ってもらうんだったら、メールの一本もよこせよ」
「ハー、なに言ってんの!?」
「炎天下、自販機の横で待ってるものの身にもなれよ」
「あんた、唯とか他のモデルさんばっか見てて、ろくに任務果たしてないじゃん」
「んなことねーよ、ちゃんと目を見張り耳をそばだてて警戒してたよ」
「あのね、あんたがあたしの視線とズレてるところを見てるとアラームが点滅するのよ。変に思われるっしょ」
「そりゃスマホの故障だ、なんたって、まだまだの試作品らしいからな」

 この蒸し暑さの中、隣町まで自転車を往復させられた上の罵詈雑言にムカついている。
 麦茶を飲もうと、舞をシカトして冷蔵庫へ。

 瞬間の殺気に横っ飛び!

 バチコーーーン!

 横っ飛びが間に合わず、舞のハイキックが炸裂する。

「なにしやがる!」
「これ見ろ!」
 舞がスマホにタッチすると、百インチ液晶テレビに関根さんの胸のドアップが映った。
「え、えーーー!?」
 俺はうろたえた。
 たしかに注目はしてたけど、こんなアップにしては見てねー!
 画面は早回しになって、関根さんや四人のモデルの子のアップばかりになった。
「こんなのばっか、事務所の中とかプロディユーサーさんとかは一瞬しか写ってないんだもんね!」
「こ、こんな寄って見てねーし!」
「写ってるってことはそーいうことでしょーが! 言い訳すんな!」
「ぜってーアップになんかしてねー!」
「あーー見苦しい! 今日はリビングでモデルの勉強すっから、入ってこないでよね」
「あーー、もう二度と面倒なんか見てやらないからな!」

 麦茶のペットボトルを掴むと、俺は自分の部屋に戻った。

 あーーエアコンの掃除まだだったあ。

 スイッチを入れると、めちゃくちゃ臭い冷気が吹き出してきた。
 家のエアコンは、みんな掃除したけど、自分の部屋だけが後回しになっていたんだ。
 リビングに戻るわけにもいかず、俺はエアコンの掃除をすることにした。

 掃除をしながらも、舞の態度がムカついて仕方がない。

 ぜったい、あの画像は手が加えられている。
 掃除を終えると、俺は実家に電話した。
「あ、恵美さん、舞のスマホのことなんだけど……」
 この家と家の中の機器はお手伝いの恵美さんが仕切っている。
――ああ、それでしたら……――
 恵美さんの説明ではこうだ。

 観察者の目の動きや瞳孔の広がりを、あのスマホは検知して画像を加工と言うか処理をするらしい。だから俺が関心を持ったものは、デジタル処理されて、ああいう風になるらしい。
――ダッシュボードを出して解除すれば、元々の画像になりますよ――
「あ、そうなんだ」
――でも、注目していたものは画面の中央にきてしまいますから、あんまし変わらないかなあ――
「不便なもんだなあ」
――坊ちゃんが言うと言い訳じみてしまいますから、私の方から、それとなくお嬢様に伝えておきます――
「ああ、よろしく頼むよ」

 数分後、リビングで舞が電話を受ける声がした。

 どうやら今度来るときに必要なものの確認にかこつけて話をしてくれているらしい。
 持つべきものは恵美さんだ。

 リフレッシュしたエアコンで涼んでからキッチンに下りてみた。

 キッチンとリビングは続いているんだけど、別々のドアがある。
 冷凍ピザを出して、カウンター越しに舞の姿。

 テレビに映るモデルさんの映像をトレースしながら、モデルさんの歩き方や身のこなし、表情の作り方のレッスンに余念がない。

 こういうのには疎い俺だが、舞のそれは、もう充分にモデルさんのそれだった。
 なにをやらしても呑み込みが早い。

 それに、物事を吸収しようとする舞の目は、ちょっと怖かったりする。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 06『俺たち兄妹の秘密・その二』

2018-08-18 06:31:22 | 小説・2

高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 06『俺たち兄妹の秘密・その二』





 ちゃんとしたお家に住めるわよ

 それが最後の言葉だった。

 いつもより軽い足取りで、アパートの階段を駆け下りて行ったお袋。
「勇者レイディーンを四週分くらい観たら帰って来るから」
 お気に入りのアニメをセットして「ちゃんとしたお家に住めるわよ」と続けたんだ。

 四週分観終って、玄関の呼び鈴を押したのは警察官だった。

 子ども心にも、お袋は殺されたと思った。
「あんたのお母さん、忘れたわけじゃないでしょ……」
 舞がガチガチのマジになって言ったのは、そういうことだ。

 俺は、自販機の陰でイヤホンを装着した。

 舞のスマホは親父の会社の試作高級機で、いろんな機能がついている。その一つがこれだ。
 舞がいる場所の映像が、俺のスマホに送られてくる。
 どんな仕掛かは分からないが、舞を中心の3D映像だ。

 舞の前にはヒッツメの女の人。

 化粧っ気はないけど美人だ。
 勘だけど、モデル上がりのプロディユーサーかなんかだと思う。
 以前、関根さんのブログを見ていて、そんなことを見たか読んだかした記憶がある。
 暇つぶしのネットサーフィンで得た情報なんで確実じゃないけどな。

 斜め前には関根さん。

 太めのボーダー柄のタンクトップにピンクのショートパンツ。膝の上に揃えた両手の指は淡い水色のマニュキア。
 ちょっと露出が多くてドキドキする。
 モデルをやっているとはいえ、冷房も効いてるんだろう、寒くないのかなー。
 と、思ったら、椅子の横にトートバッグを置いていて、中からサマージャケットみたいなのが覗いている。
 なるほど、怠りのない美人さんだ。
「ユイちゃん、あれを」
「あ、はい」
 ヒッツメさんに言われて、トートバッグを探る。
 当然前かがみになるので……胸の谷間が見えてしまう。

 !!

 関根さんて着やせするタイプなんだろうか……スゴイ。
 すかさずアップにしてみるが、ブツはすぐに見つかってヒッツメさんに渡される。
「こういう感じなの」
 ヒッツメさんが舞に手渡したんだろう、画面は手渡されたパンフだか雑誌だかの背表紙の陰になる。
「うわーー……」
 舞の感嘆の声、ブツが邪魔をして関根さんが見えなくなって、音もくぐもってきた。
 でも、さすがは親父の会社の試作品、カメラはブツから見えている関根さんの下半分にピントが合った。
 関根さん、教室では、よく足を組んでいる。
 モテカワイメージの関根さんなんだけど、そいう足を組んだ姿も、ちょっと大人びたイメージでイカシテいる。
 しかし、ここでは足を組まない関根さんだ。
 ここは、モデルとしては職場で、上役と思われるヒッツメさんがいるのでわきまえているんだろう。
 なかなか大したもんだと感じ入る。

 それにしてもきれいな脚だなあ……

 そうこうしているうちに視界を遮っていたブツがどけられ、一瞬トンネルから出てきた時みたいにホワイトアウト。
「「「「失礼します」」」」
「どうぞ、入って」
 女の子が四人入って来た。
 これは、関根さんのモデル仲間だ!

 俺は、一人一人に注目した。なんとも目の保養だ。
 ヒッツメさんの前だからではあるんだろうけど、派手なファッションのわりには、清楚って言っていいくらいキチンとしている。
 ちゃんとオヘソの前で手を組んで、脚もそろえて立っている。
 喋る時には、接頭語のように「ハイ」がつく。
 女の子がキチンとしているのは、清々しいだけじゃなくて、魅力を倍増させるよなあ。

 そうこうしているうちに、パチパチと拍手が起こった、

 ガサゴソとマイクが擦れるような音がしたのは、舞がお辞儀をしたせいだろう。
 
 どうやら、めでたく舞はモデルの仲間入りをするようだ。

 七つの部活に生徒会、加えてのモデル業の開始。

 妹ながらよくやるよなあ……。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 05『俺たち兄妹の秘密・その一』

2018-08-17 06:44:33 | 小説・2

高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 05『俺たち兄妹の秘密・その一』





 舞にしては珍しく、三日もかけて結論を出した。

 もっとも悩んでいたというわけではなく、単に忘れていただけだけどな。
 それも度忘れじゃなくて、忙しすぎて思い出すヒマもなかったというところだ。

 舞は学級委員長をやっているだけじゃない、七つの部活を掛け持ちしている。

 美術部 漫研 ダンス部 演劇部 放送部 野球部 陸上部

 入学してから二十幾つある部活を全部体験入部、その全ての部活から「ぜひうちのクラブに!」と熱烈なラブコール。
 それで、毎回来る必要はないという条件の七つのクラブに入った。
 他にも、生徒会の一年生の学年代表なんてのもやっていて、生徒会室のスペアキーを持っていたりする。
 それ以外にもやっていそうなんだけど、家ではほとんど会話が無いので分からない。

「モデルのお誘いがあるって言ったら、バアチャン喜んでたぜ」

 バアチャンの反応を伝えると「じゃ、決まりだ!」と宣言し、関根さんに電話し、今日のスケジュールに繋がっている。
「バアチャンに車出してもらえばよかったのに」
「高校生が、そんな贅沢できるか」
「だったら、もうちょっと離れてくれ、暑苦しい」
「くっついてないと危ないっしょ!」
 
 俺は、陸上部の朝練が終わったばかりの舞を自転車の後ろに乗せ、国道を疾走している。

 学校でシャワーは浴びてきたらしいが、朝練の直後なので、女の匂いプンプン。おまけに背中にべっちゃりくっ付かれ、やりにくいことおびただしい。こんなことを平気でやるのは、舞がブラコンであるわけではない。舞にとっての俺は単なる下僕だ。
「じゃ、せめて眼鏡とウィッグは取らせてくれよ」
「取ったら殺す」
「へいへい」

 本当は、プロダクション差し回しに車の迎えで、舞一人で行くはずだったが、直前で車の手配がつかなくなって呼び出された。

 たまにこういうことがある。
 いろいろ掛け持ちしている舞は、タイトなタイムスケジュールで、ときどきアクシデントに見舞われて間に合わなくなる。
 そう言う時に俺は動員される。
 クラスメートの新藤君ではまずいので、メガネとウィッグの装着をしなければならない。
 四月から四回目になるので、そろそろ噂が立ち始めている。

 芽刈舞には他校の崇拝者が居て世話をしているらしい……。

「ほら、着いたぞ」

 指定された隣町のビルの前で自転車を停めた。

「えと、ここの二階か……」
「じゃ、俺は帰るな」
 ペダルを踏み込もうとしたら、ブレーキを掛けられた。
「な、なにすんだよ!?」
「あんたは、ここで待つの。ほら、このイヤホン装着して、そこの自販機の陰で待機」
「なんでだよ!?」
「万一ってことがあるでしょーが、あたしはメガ産業総帥の娘なんだよ、不測のことでお父さんに迷惑かけられないでしょ」
「万一って、俺がどうにかすんのかよ?」
「バッカじゃない! そこまで期待してないっつーの! 万一の時は、あんたがお婆ちゃんに通報すんのよ!」
「俺は警報機か?」

 瞬間、舞の瞳がガチガチのマジになった。

「あんたのお母さん、忘れたわけじゃないでしょ……」

「わ、わあった……」

 俺たち兄妹は、実のところ母親が違っていたりするのだった……。

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高校ライトノベル・秋物語り・30『亜紀の秋』

2018-08-17 06:24:43 | 小説4

秋物語り・30
『亜紀の秋』
              

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 けっきょく美花はメールで知らせてきた。

――吉岡さん、会いたがってた――

 たった、十二文字。吉岡さんが会いたがっていることは素直に嬉しい。
 でも、どんな状況で、どんな感じで、どんな風に会いたがっているのかが分からない。飛行機の中で、それも相手は美花だ。社交辞令なのか、ちょっと会ってみたいのか、その辺の機微が分からないので動きようがない。

「メールの通りだって。本当に会いたがってるって。でなきゃ、わざわざ言ったりメールしたりしないよ。まだまだボキャ貧だけど、大事なことは分かるよ、あたしだって。子ども扱いしないでよね」
 念押しで聞いたら、美花は怒ったように言った。
「美花が、チョッピリ大人になったのは認めるよ……」
「よしよし。亜紀も少し大人になった」
「え……」
 あたしは秋元君とのことが頭をよぎって、自分でも分かるくらいに顔が赤くなった。
「みんな、それぞれだけど、夏があって秋がくるんだ。あたしも麗も、その時期は過ぎた。亜紀もそう言う時期がきたんだ。おめでと」

「あたし、好きな男の子なんていないから」

 その一言が言えたのは、地下鉄のホームだった。
「好きな男の子じゃダメって考えてたんだ。Hなんて勢いでいっちゃうもんだから、気にすることなんかないよ」
「Hなんかじゃないよ」
「あ、違った? ま、変な病気にだけはね気を付けてね」
「びょ、病気なんか持ってないよ!」
「だれが?」
 完全に見透かされてる。
「好きな男の子なんて、いつでもできる。でも好きな男の人はね……大事にしなよ」

 それから、吉岡さんにメールするのに三日かかった。

――例のトリック写真ではお世話になりました。よかったら電話していい時間教えてください――

 すると、なんと昼休みに、吉岡さん本人から電話がかかってきた。
「やあ、お久しぶり。今夜バイト空いてる……じゃ、7時、渋谷のR前で」
 良いも悪いもなかった、バイトが空いてるのを確認したら、さっさと切られてしまった。
 食堂の野外テーブルに気配。麗と、美花が訳知り顔で、ピースサイン。
 このタイミング。あの二人の仕業……あたしはニッコリと過不足のない笑顔だけして、教室にもどった。

 放課後、真っ直ぐに家に帰り、シャワ-を浴びて身支度。学校の臭いは消しておきたかったから。そして、三十分ほどファッションショーをやって、なんのことはない。いつものバイトに行くナリになって、メイクもなし。ちょっぴりグロスが入ったリップを付けておしまい。

「今夜、晩ご飯いらないから」

 それだけ言って家を出た。

「とりあえず、飯にしようか」

 再会の第一声がこれだった。

 肩の凝らないイタメシ屋さんだった。でも、パーテーションで区切られていて、半ば個室。案内されたときには「リザーブ」のシルシがテーブルに置いてあった。
 席に案内されるときに、吉岡さんの手が軽く背中に触り、それだけで全身に電気が走った。
「先日は、どうもお世話になりました。なんだか、お礼の電話ためらわれちゃって、ズルズルと失礼しました」
「いや、いいんだよ。ああいうのは、それとなく処理した方がいいからね。それに、お礼の電話じゃ、誘いにくいだろ。今日も来てくれるかどうか、少し心配だった。あんな電話の切り方したから」

 それから、吉岡さんは、仕事の話を少しして「で、亜紀ちゃんはどうなの?」と振ってきた。

 あたしは、大阪時代のころの話から、高校にもどってからの話やバイトの話なんかした。秋元君との体験談は別にして。終始にこやかに吉岡さんは話を聞いてくれた。学校で、首のすげ替え写真で、クラスの男の子を張り倒したところなんか笑いながらシミジミと言った。

「亜紀ちゃんは、程よく子どもを残しながら大人になってきたね」

 どう反応していいか分からないわたしは、赤い顔をして上目遣いで吉岡さんを見ていた。なんだか目がウルウルしてきた。で、ウルウルはひとしずくの涙になって頬を伝った。
「どうした、亜紀ちゃん?」
「いえ、なんにも。こんな風に話ができるのは、あのサカスタワーホテルが最後だと思っていましたから……」
 拳で涙を拭った。ほとんどスッピンなんで化粧崩れの心配なんかはなかったけど、なんとも子どもっぽい仕草で、自分が麗や美花よりも、うんと子どもなんだと思い知らされた。
「外れていたら、ごめん。亜紀ちゃんは、自分が思っているほど子どもじゃないよ……あ、もうこんな時間だ。家まで送るよ」

 まだ十時半。でも、吉岡さんは生真面目に心配りをしてくれた。送ることを想定していたんだろう、アルコールも口にはしていない。

 車で十分ほど走って、道が少し違うことに気が付いた。わたしの中に、ほのかな期待が湧いた。今夜は、お泊まりしてもいい準備はしてきた。見てくれはザッカケナイ普段着だけど、アンダーは勝負の準備をしてきた。

「これが、ぼくのマンション」
 そう言って車が停まったときは、口から心臓が飛び出しそうになった。
「まあ、途中だったから、場所だけ見せておこうと思って。またみんなで遊びにおいでよ」
「みんなで……」
 それには気づかないふりをして、車は再び走り出した。

「ここでいいです。家は、もう近くだから」
「うん、分かった」
 吉岡さんが、ドアのロックを外しかける。
「大人になったシルシを少しだけください……」

 数秒の沈黙……。

「亜紀……」

 吉岡さんの気配が被さってきた。目をつぶってしまう。
 ほんの数秒唇が重なった。胸に吉岡さんの体重の何分の一かを感じた。
「さあ、よい子はお家に帰りましょう」
 車のドアが開いた。

 テールランプのウィンクを受けて、わたしは、わたし的には実りの秋を予感した。

 秋物語り 完

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・9『エマージェンシー! エマージェンシー!』

2018-08-16 12:56:15 | ノベル

アンドロイド アン・9
エマージェンシー! エマージェンシー!』

 

 

 

 従兄妹同士の婚約者という噂は急速に収まった。

 

 クラスが離れているし、特段イチャイチャするわけでもないので、みんなの関心が続かないのだ。

 やっぱ、最初にカマシテおくというアンの狙いは正しかったのかもしれない。

 

 ボム!

 

 くぐもった爆発音がした、いつかネットで見た地雷の爆発音に似ている。同時にリビングの照明が落ちた。

 マンガ読む手を休めて首をひねると、ソファーの向こう、キッチンの方で小さな原子雲みたいなのが上がっている。

「どうかしたか、アン?」

 スーっと立ち上がると、ソファーの向こうに突っ張らかった形のいい手足が見えた。

「ア、アン! 大丈夫か!」

 脚をも連れさせながら寄ってみると、ジューサーのプラグを持ったまま、白目をむいてアンがひっくり返っている!

「ア、アン、アンアン!」

 ファッション雑誌のタイトルみたいなのをバカみたく繰り返すんだけども、オロオロするばかり。

「す、すまん、俺がジュースなんか作ろうって言ったばかりに、おい、アン、アン、アン、どうしたらいいんだよ!?」

 ワイドショーでやっていたジュースが美味そうなので、いっちょ作ってみるか! と、思い立ち「それなら、作ったげる!」と、アンがキッチンに立った。アンに作らせたら間違いは無いし、栞を挟みっぱなしのマンガも読みたいし「じゃ、頼むわ」と返事したのが悔やまれる。

 コンセントとプラグには黒っぽいホコリが付着しているところを見ると、どうやらトラッキングのようだ。

 ジューサーも、何年かぶりで棚から下ろしたもので、チェックしなかったことも悔やまれる。

 

 人間だったら救急車を呼ぶところだけど、アンドロイドを救急病院に搬送しても仕方がない。

 

「え、えと、えと……」

 オロオロ狼狽えていると、開きっぱなしの白めに、なにやら虫が行列……と思ったら、白目の左から右へテロップが流れている。

――エマージェンシー! エマージェンシー! 緊急回復ボタンを押してください 急回復ボタンを押してください ――

「え、え、急回復ボタンて、どこのあるんだよ?」

―― 胸部のエマージェンシーパネルを開放し 赤いボタンを押す ――

「え、え、胸部?」

 ためらいながら、アンのカットソーを捲り上げる。

 人と変わらない白い胸がせわし気に息づいている。

「パ、パネルって、どこにあるんだよ?」

 肌はバイオなんだろう、すべすべで、ちょっと触れるにしても罪悪感がある。しかし、事態は急を要する。

 フニ

 あーーー(ヾノ・∀・`)ムリムリ!

 再び白めに目をやる。

―― パネルが見つからないときは マウストゥーマウスで息を吹き込む 空気圧で緊急回復ボタンを押せる ――

「マウストゥーマウス?」

 去年、保険の授業でやった人工呼吸の要領を思い出す。

―― 人工呼吸の実施方法で可能 ――

「よ、よし、えと……まずは気道確保だよな……」

 

 アンの顎に手を当てて、クイっと持ち上げ、鼻をつまんで口づけの要領。

―― や、柔らけ~ い、いかん、実施だ実施 ――

 

 中略

 

 三分ほど人工呼吸を続けると、白目のテロップが消えて瞳が回復した。

 フーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 空気が抜けるような長い息をして、アンが蘇った。

 

 ただ、時間がかかり過ぎたのか、俺の人工呼吸が不備だったのか、そのまた両方か、アンには後遺症が残ってしまった……。

 

 主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 

コメント
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