高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ04
『バアチャンと恵美さんが同時に時めいた』
帰宅部エースの俺は、放課後は真っ直ぐ帰る。
ここを曲がると自分ちが見えるというところで、気配がした。
モモとココの気配だ。
一見猫の名前のようだが、れっきとした秋田犬、まだ子犬なんだけどな。
それが、玄関前の犬小屋に居る。
ファンファン! ファンファン!
向こうも気配を感じたようで、挨拶をし始めた。
「おー、一週間ぶりだな、おまえら元気にしてたか!?」
犬小屋から出てきた二匹が、俺にじゃれかけてくる。俺は両脇に抱えてワシャワシャとしてやる。
まだ子犬のせいか、ワンワンとは鳴かない。
どこか空気が抜けてるみたいにファンファンと鳴く。
「あら、坊ちゃん、お帰りなさい!」
お手伝いの恵美さんが玄関から出てくる。
この人の声を聞くと、グータラな俺でもシャッキッとしようかと、一瞬思ってしまうのだ。
「大奥様、坊ちゃんが帰ってこられましたよ」
家の奥に向かって声を掛ける恵美さん。
「お帰り~新ちゃん~」
のどかなバアチャンの声。
俺は、週一回のバアチャンの訪れが嬉しい。
「洗濯物溜まってたわよ、どう、もう観念して一緒に暮らそうよ」
「あ、わりー、またキチンとやっから」
「掃除もこまめにやらなきゃ、この季節は油断するとカビが生えるわよ」
「あ、うん、エアコンの掃除だけはやっといたんだけど」
「みたいね、恵美さんにみてもらったら、やってないのは新ちゃんの部屋だけだったって」
「ハハ、いつでも出来ると思うと、ついね」
この家には七台のエアコンがある。
ちょっと多いと思うだろうが、リビングとキッチンの他にも部屋が六つもある。
延べ床面積は二百平米ほどある。
世間の基準ではお屋敷の部類に入るかもしれない。
これでも駅三つ向こうの本宅の半分もない。ここは、親父がいくつか持っている別宅の一つなんだ。
その別宅に、俺は妹の舞と二人暮らしなんだ。
四月に、今の高校に入るのにあたって、舞と二人で学校に一番近い、この別宅に移り住んだ。
最初は、バアチャンが恵美さんと一緒に住むはずだったんだけど、それは、俺も舞も断った。
いろいろ理由はあるけど、ま、自由にやりたい……ということかな。
舞と俺との意見が一致する、数少ないポイント。
「「大丈夫きちんとやるから」」
誓ってはみたものの、俺も舞も高校一年生、加えて、この家の広さ。
週に一度、バアチャンは恵美さんを連れて、至らぬところを掃除してくれる。
「どうです、坊ちゃん、モモとココ置いていきましょうか」
好物の水ようかんとお茶を出しながら、恵美さんが、もう何度目かの提案をする。
「いや、やっぱ、面倒見きれないから通いで良いよ」
「そうですか、あの子たち、週に一回だけだけど、ここが自分の家だと思ってるみたいですよ」
「あ、そだね。犬小屋も居心地良さそうだったもんね」
「でしょ!?」
「でも、きちんと世話できないから」
「ハハ、新ちゃんは正直だ。ハッタリとか、その場の思い付きだけで決めてしまわないのは美徳なんだけどね……」
俺は――そうだろ――という屈託のない笑顔を向けておく。
モモとココは、ペットが欲しいという舞の意見で決まった。
二匹の名前は、話が決まった時に舞が付けた。
でも、名前から分かると思うんだけど、舞は猫のつもりでいた。
猫なら、家の中で手数もかからずに飼えるが、犬は散歩に連れて行ったり仕付けをしたり手間がかかる。
「犬ならいらないや」
そういうことで、モモとココは週一回の通いの番犬になっている。
まだまだ説明しきれていないけど、ま、少しずつ分かってくれたらいいさ。
「マイマイはどうしてるの?」
「あいつ……」
二つの変化があったけど、俺は一つだけ話した。
「モデルの誘いがあるみたいなんだぜ」
「「え、モデル!?」」
バアチャンと恵美さんが同時に時めいた。