大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・177『高坂侯爵邸・1・田中執事長』

2020-09-24 14:05:14 | 小説

魔法少女マヂカ・177

『高坂侯爵邸・1・田中執事長』語り手:マヂカ    

 

 

 てっきり鹿児島の出身と思っていました。

 

 JS西郷からの紹介状に目を通した執事長は眼鏡をはずして、わたしたちを見た。

 紹介状は、最初メイド長に渡されたが、メイド長は「これは執事長の管轄です」と言って、わたしとノンコを田中執事長に回した。

「差し障りがあるのでメイドの紹介ということになっていますが、二人にはお嬢様のご学友になってもらいます」

「お嬢様?」

「ご学友?」

 紹介状の額面は、わたしとノンコをメイドとして推挙するという西郷侯爵自筆のものだった。ノンコは「わー、メイド服着て『ご主人様ア~』とかやるのかなあ(^▽^)/」と、メイド喫茶のバイトみたいに喜んでいた。それが、お嬢様のご学友と言うのだから面食らってしまう。

「西郷侯爵から詳しいことは聞いていないのだね?」

「はい、メイドのお仕事と伺っておりましたので(紹介状を見る限り、そうとしか思わなかった)そのように理解しておりました」

「さすがは西郷侯爵、ここまで秘密を守ってくださった……」

 涙ぐんでるよ、執事長……。

「あなたたちにお世話してもらうのは、当家の次女である霧子様です。霧子様は昨年の大震災以来、少し気鬱になっておられ、ご登校もままならぬありさまなのです。日によっては、元々の活発なご気性で楽し気に登校されることもあるのですが、授業中に気鬱を発せられて医務室で過ごされたり、学校に居ることも耐えられなくなって早退されることもあったり、何日も引き籠られたり、かと思うと、プイとお屋敷を出られたり。そこで、あなたたちには、霧子様のご学友になってもらって、霧子様の慰め役を務めてもらいたいのです」

「慰め役?」

 慰め役という言葉にひっかかった。

「まず、自傷行為にいたらぬよう……無事に学校に通っていただきご卒業されるようにお支えすること……この二つの事をお願いしたい」

 どうやら不登校娘の世話をしろということらしい。

「では、取りあえず、霧子お嬢様にご対面していただきます。こちらです……」

 廊下を進んでドアを潜ると、そこからは所謂『奥』と呼ばれる侯爵家の居住、廊下にも絨毯が敷かれ、数メートルおきに点けられた電灯も高級品のように思われる。

 階段を上がって、角を曲がったところのドアで田中執事長は立ち止まった。

 ……コホン

 咳払いはドアの向こうの霧子様に到着を悟らせるためだろう。

「霧子様、田中でございます。霧子様といっしょに学校に通う渡辺真智香さんと野々村典子さんをお連れしました」

 …………………。

「ご在室であることは分かっております、ドアをあけますよ、お嬢様。すこし下がっていてください」

「はい」

 ノンコと二人一歩下がったのを確認すると、田中執事長は軽く息を吐いてドアノブに手を掛けた。

 

 シュシュッ!!

 

 剣呑な音がして二本の小柄が飛んできた!

  

 

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ポナの季節・44『初めてのリハーサル』

2020-09-24 06:17:01 | 小説6

・44
『初めてのリハーサル』
         
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



 だれも安祐美の存在を不思議には思わなかった。

 目が覚めると忘れているが、みんな、この一週間毎晩夢で安祐美の猛特訓を受けている。
「じゃ、ポジションに着いたらチューニングして」
 安祐美は、テキパキと無駄のない指示をする。

 ボーカル   安祐美
 ギター    みなみ
 ベース    由紀
 キーボード  奈菜
 ドラム    ポナ


 チューニングを終えると、それぞれがソロで適当に演奏。安祐美から若干のダメが出て調整した。
 なんせ、みなみがコネで借りてくれた貸しスタジオは、二時間半しか使えない。夢の中ではないので、安祐美はリアルな時間を引き延ばすことはできない。

 ダイアモンズ、世界で一番熱い夏、OH YEAH!、パパプリンセス、友達のまま、ジュリアン、ONEプリンセスプリンセス、KISS、SEVEN YEARS AFTERを二回ずつ、ダイアモンズは念入りにもう一回繰り返した。

 途中でポチが生きていた時のそのままに現れた。ポナもみんなも驚かなかった。夢の中でポチは毎晩現れていたのである。ポチは、一見大人しげに曲を聞いているようだが、耳がピンと立ち、尻尾をリズムに合わせて激しく振っている。あまりに激しく振るので一度千切れて飛んで行ってしまった。ポチは駆けてスタジオの隅に転がっていた尻尾を咥えて器用に体を捻って尻尾を元にもどしてリズムを刻んだ。
 しばらくすると、知らない若者たちが滲みだすように壁から現れて、ポナたちの曲をポチといっしょにリズムにノリながら聞いてくれた。
 ダイアモンズの三回目が終わると、みんな口笛を鳴らしたり、大拍手をしながら消えていった。

「今の……いったいどこの人たち?」
 ポナはドラムセットの中でポチを抱っこしながら、安祐美に聞いた。他のメンバーも汗を拭いたりポカリを飲んだりして、目で同じ質問をする。

「あの人たちは、あたしの仲間。応援して、あたしに力をくれたの」
「仲間って……幽霊さん?」
「まあね、あたしは運がいいから実体化できてるけど、あの人たちは、あたしたちがトランス状態になってノリノリになった時でなきゃ見えない。当然実体ないから、触ることもできないけど。ね、みなみ、あたしと握手してみて」
「うん……」
 みなみは、手の汗を拭って安祐美と握手した。
「あ、ちゃんと握手できる! 手も温かいよ!」
「うそ!?」
 みんながかわるがわる安祐美と握手、由紀とポナは、握手して、思わずハグしてしまった。
「これって……」
「そう、ここにいるみんなとさっきの幽霊さんたちのお蔭。もちろん、きっかけになってくれたのはポチだけどね」
「そうなんだ……」
「でも、放っておくと学校でも街中でも付いてくるから、普段はペンダントの中に入れておいた方がいい」
「どうやって?」
「ペンダント見せて、ハウスって言えばいいよ」
「えと……
ハウス!」
 瞬間でポチの姿が消えたが、手にしたペンダントにはポチが中に入った手応えがあった。

 勢いでアキバに出てみた。安祐美が今(現代)の曲を肌で感じてみたいといったからである。

 AKBシアターの前に来た。
「ここは無理だよ。チケ高いし、もう満席だろうし」
「なんとかなるよ」
 安祐美は、さっさとチケの窓口へ行った、

「全員分とれたよ!」

「いったい、どうしたの?」
「キャンセル分五人前、チケ代は、あたしのおごりってことで」

「おごり?」

「くわしくは聞くな(#´∪`#)」

 ポナたちは、最前列でリアルAKBを観ることができた。その日、シアターの売り上げは、五人分合わなかったそうな……。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

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かの世界この世界:81『遭遇戦・2』

2020-09-24 06:04:54 | 小説5

かの世界この世界:80     

『遭遇戦・2』     

 

 

 HPが満タンになった!

 セイ!

 トールソードを振り上げ反撃しようとすると、雲に擬態した融合体は霧消した。

 

 ブリュンヒルデのツインテール攻撃が効いたのだろうか……いや、違う!

 霧のように飛び散ったシリンダーは、四か所で再び融合し始め、それぞれ特徴を持ったメスシリンダーに化けた!

 北のそれは玄武(頭はドラゴン尻尾は蛇の巨大な亀)に、南のそれは朱雀(巨大な火の鳥)に、西のは白虎(巨大な白い虎)に、東は青龍(巨大な青い竜)に擬態した。

 メスシリンダーは、ただ巨大なシリンダーであるだけだったが、より具体的な姿を持ち始めている!

 ――テル!――

 一瞬地上のタングリスの声が聞こえたが、直ぐに沈黙した。

 代わりに、ツインテールをなびかせながらホバリングしているブリュンヒルデの目が険しくなってくる。

 そうか、わたしに指示を与えようとしたタングリスが思い直してブリュンヒルデに檄を飛ばしているんだ。

 

 分かっておるわあああああああああああああ!!

 

 ツインテールとソードを滅茶苦茶に振り回す! き、キレたか!?

「白虎はテル! 朱雀はケイト! 青龍へは我が! 玄武は四号が砲撃! 無理はするな、敵わぬと思ったら擬態していないメスシリンダーから片づけるのだ。かかれ!」

 ラジャー!

 それぞれが指示されたメスシリンダーに挑みかかった。

 玄武の腹の甲羅で爆炎が上がる、四号の75ミリ徹甲弾が炸裂したのだ。その効果のほどを確認する間もなく白虎にソードを振り上げる。ケイトとブリュンヒルデのアタックもほとばしる闘志として背中で感じている。よし、いい連携だ!

 シュボ

 白虎の真っ向から振り下ろしたソードはむなしく空を切った。避けられたか!?

 いや、白虎は3D映像のようなもので実態が無いのだ!

 フェイクだ!

 振り返ると、ケイトのアローもブリュンヒルデのツインテールも虚しく突き抜けたり空を切ったりするだけだ。

 

 実体があるのは玄武だ!

 

 玄武は四号の75ミリが命中して爆炎を上げていたんだ!

 目を転じると、玄武がタメながら地上の四号を狙い始めたところだ。

「四号がやられる!」

 四号はドイツ兵の馬と言われたほど信頼性のある戦車だが、あの玄武に突っ込まれてはペシャンコになってしまうだろう。タングリス一人ならば、激突される寸前に脱出もできるだろうが、子どものロキと石化したミュンツァー町長がいるのだ。ぜったい助からない!

「玄武を止めろおおおおおお!」

 ブリュンヒルデの叫びでわたしもケイトも突っ込んだ。

「カイナティックアロー!」

 ビュン!

 チュイン

 渾身の力で放たれたケイトの矢は玄武の表面を掠っただけで弾き飛ばされる。

「喰らえ! ツイントルネードオオオオ!」

 ブリュンヒルデのツインテールは玄武との摩擦で先っぽが燃えている。すかさずケイトが矢を放ち松明のようになった先っぽを吹っ飛ばしている。

 セイーーーーーーーーーー!

 玄武の中心をわざと外して渾身の突きを入れる!

 ガキーーーーーーーーーン!

 はじき返されるのは織り込み済みだ、衝撃で玄武の進路がわずかにズレた。

 ドッガーーーーーーーーーン!

 四号をわずかに外れて玄武は山肌に激突、木々や土砂をまき散らして、直後、飛翔しなおし、我々から数百メートル離れた上空まで上がると、我々を嘲弄するようにゆるゆると弧を描き再び四号への突入姿勢に入る。

「「「させるかああああああ!」」」

 三人同時に声をあげ、玄武の進路を妨害にかかる。

 そう、進路を微妙に変えるのが関の山なのだ。

 タングリスの操縦も見事で、妨害が不発に終わったときもきわどくドリフトさせて躱している。

 

 しかし、もう限界だ。

 

 ブリュンヒルデのツインテールはザンバラのショートヘアーになってしまい、ケイトの弓は弦が切れ、わたしのソードも真ん中でへし折れてしまった。

 まずい!

 おまけに四号の履帯が切れてしまった。

 四号は残った片方の履帯を動かしてグルグル回るだけだ。

 町長には申し訳ないが、ロキとタングリスだけでも逃げてくれ!

 そう念じた時、我々の鼻先を掠めて玄武に向かっていくものがあった。

 

 ズピーーーーーン!

 

 そいつは玄武の正面を掠めて、目にもとまらぬスピードで見えなくなってしまう。

 直後、玄武の速度が落ちて、酔っぱらいのような軌道を描いたかと思うと、上下逆さまになって静止した。

 なんと、玄武の鼻先が欠けて、尻尾の蛇が傷口を舐めている。

 効果があったのかなかったのか、玄武はしかめっ面をしたかと思うと、猛烈なスピードで南に逃げ去った。

 

 呆然と見送っていると、気配がした。

 あれは?

 振り返ると、1/6フィギュアみたいな妖精がヨタヨタと飛んでくるところだった……。

 

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・010『修学旅行・10・在日扶桑大使館』

2020-09-23 14:01:57 | 小説4

・010

『修学旅行・10・在日扶桑大使館』   

 

 

 パスポートの台紙は、こうぞ・みつまた・がんぴという伝統的和紙の原料で出来ている。

 

 その三種類の繊維が複雑に絡み合っているさまは、あたかも人間の血管のようで、一つとして同じものはない。

「うわあ、だから偽造が難しいんだあ!」

 ミクがグループを代表するように歓声を上げた。

 大使館ビジタールームのコンソールには偽物と本物のパスポートの拡大ホログラムが映し出され、扶桑政府のセキュリテーの確かさを示している。

「情報はいくらでもコピーできますが、アナログデータの複製は難しいですからね。もし台紙の組成データをコピーしようと思ったら、パスポート一つに新築一軒分くらいのお金がかかります。それも、今みたいに光学検査されると、すぐに分かってしまいますからね。扶桑政府が、こんな二世紀も前の様式を踏襲しているのは、目に見える形で自分自身と国の繋がりを思っていただきたいからです」

「すみません、わたしの不注意で……」

 柔らかい表現をしてはいるが、言っている内容は手厳しい桔梗さん。

「そんなにしょげないで(^_^;)、せっかくの修学旅行だから、楽しく安全に過ごしてもらいたいという気持ちだけですから」

 そう言って、ポンと未来の膝を叩く。なんだか、保育所の先生を思い出す。

「パスポートを狙ったのは、どんなわりゅい人たちなにょ?」

「分かりません、グラビティーコントロールの最中はセキュリティーセンサーが効きません。本当ならセキュリテーシステムも確立してから使うべきテクノロジーなんでしょうねえ。イベントの僅かな時間だけという油断があったのだと思います」

「す、すみません」

「あ、責められるのは主催者や運営の方ですよ。修学旅行の最中に、あんな面白いイベントに出くわしたら、誰でも飛び込んでみたくなります。そういう好奇心は、わたしも好きですよ」

「ぼくたち、まだ修学旅行の初日なんですけど、帝都で気を付けておくようなことはありますか?」

 ヒコが身を乗り出す。

「そうねえ……御在位二十五年の祝賀行事で、ちょっと浮き立ってるから……あんまり冒険はしないようにね。それから……目の前のどら焼きは焼き立てだから、冷めないうちに召し上がれ」

「あ、いただきます!」

 大使館では『東京文化を学ぶ』という在日扶桑人のためのカルチャースクールをやっていて、ちょうど焼き上がったばかりのどら焼きをいただいたところなんだが、パスポートの事でいっぱいだった俺たちは手を付けないままだったのだ。

「お、おいしい!」

「うん、焼き立てということもあるんだろうけど、火星とは生地が違うような気がする」

「しょえは、地球と火星の重力さだと思うのよさ」

「え、重力でどら焼きの味が変わるのか?」

「かわよと思う、地球でも日本と南極じゃたこ焼きの味が違うって『南極ストーリー』に出てたわよさ」

「読んだんですかあ、あのタローとジローの話なんかよかったですよねえ(^▽^)」

 桔梗さんも食べながらのお喋りが好きなようだ。

「でも、御在位二十五年で祝賀行事というのは、ちょっと半端な気がしません? 扶桑じゃ、将軍の在位記念は十年と二十年でやりましたけど」

 パスポートが返ってくることになって、どら焼きでホッコリしたのか、未来が賢そうな質問をする。

「うん……これは、日本の学者や知識人が言っていることなんだけど、今上陛下は女帝でしょ」

「歴代天皇の中でも、もっとも美しいお方だと、扶桑でも評判です」

 ヒコは若年寄の息子なので、こういう時の反応にそつがない。

「正しく言うと、史上初めての女系天皇でいらっしゃる。世の中の情勢が怪しくなってくると、女系天皇で皇統を乱してしまったことが災いしているという人たちもいる……そういう空気を一新したいっていう日本政府の意向が働いているって」

「ああ、やはり……」

 それ以上ははばかられるという感じでヒコは二つ目のどら焼きに手を伸ばした。

「そうだ、明日は靖国神社の例大祭。陛下が玉ぐしを奉納された後、パレードとかのイベントがあるから見て行かない? 今年は児玉元帥も陛下に供奉してお顔を見せられるとかいう噂よ」

「え、児玉元帥が!?」

 明日の予定が変わった。

 そのあと、桔梗さんに車を出してもらってアキバの交番に向かった。

 拾ってくれたのは、イベントの女性スタッフで、話好きな人なのでお巡りさんも交え、短い時間だったけど楽しく過ごせた。やっぱり、日本だ、いい人が多い。

 

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

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ポナの季節・43『幕が上がる……予感』

2020-09-23 06:12:35 | 小説6

・43
『幕が上がる……予感』
         
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



「えー、なんで!?」という寝言で目が覚めてしまった。

 ポナの世田谷女学院は土曜は休みの学校だったが、今日から土曜日も授業をやることになった。なったというのはポナの一人合点で、入学式の時には説明があった……らしい。

――生徒の慣れる様子を見て、一学期中には土曜の授業を始めます――

 そういう話があったそうである。で、月曜日には土曜授業開始の連絡が朝礼で宣言されたが、自分が寺沢家の実子でないことが分かったことや、大ニイの中国船とのゴタゴタ、まだ癒えていないポチの喪失感、幽霊女生徒浜崎安祐美の願い、そういうもののために、先生の話は上の空になっていた……というのがポナの言い訳。

 初めて乗る土曜の電車は空いている。会社はほとんど休みだし、公立の生徒は乗っていない。

 ポナは、電車の中でスマホをイジルようなことはしない。大した生活信条からではなく、ただボンヤリしていたいというのが理由で、ただひたすら、ボンヤリと外の景色を見て居る。天然のボンヤリでもあるが、そうすることによって、日々の煩わしいことや、現在進行形の悩みから解放される……という大義名分の言い訳を持っているが、ポナのために、あえて詮索はしないでおこう。

 ポナは気づいていないが、軽くプリプリの曲を口ずさんでいる。これは安祐美のせいだ。夢の中で毎晩歌の練習をしている。                        

 で、イメージトレーニングのために安祐美と会ったあくる日からこんな調子なのだが、ごく小さな声なので誰に聞かれることも無い。

 だが、今日は土曜日である。

 隣に立っている修学院高校の男子生徒には聞こえていた。

 この修学院の生徒は四月から、ずっとポナの横や後ろにいるのだが、ボンヤリのポナは、全く気が付いていなかった。この修学院の男子生徒も、この先ポナに影響してくるのだが、これも、今は淡い高校生の恋心と、そっとしておこう。
 ただ、この日、修学院の男子君は、ポナが近頃呟いているのがプリプリの曲であることを発見したことだけを記しておく。

 学校に着いてびっくりした。ピロティーの掲示板に吉岡先生がポスターを貼っているところに出くわした。

――アゴダ劇場公演出場者スタッフ大募集!――と書いてあったからだ。

「先生、アゴダ劇場でやるんですか!?」
「あ、うん。ちょっとしたコネで、キャンセル押えられたんでね。まあ、運も実力の内よ」
 良く見ると、ポスターの端っこには『演劇同好会』の文字と、現在の部員数が書かれていた。部員数一名。
「え、この一名ってだれですか?」
「あ、あんたのクラスの鈴木友子。最初に質問してくれた子」
「でも、演目書いてませんけど」

 いつのまにか、由紀と奈菜もやってきて、ポスターを見上げている。

「もう少し人が集まらないと決められないもんね」
「あ、それもそうだ……」
 奈菜が、間の抜けた感心をする。
「ももクロみたいに創作劇やるんですか?」
「あたしは、あの吉岡先生じゃないの。そんな無茶しないわ。人数と個性に合った既成の脚本。レパは五十くらいはあるから、なんとかなる」

 この吉岡先生の粘着力もなかなか。ひょっとしたら、幕は上がるかもしれない……。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

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かの世界この世界:80『遭遇戦・1』

2020-09-23 06:03:51 | 小説5

かの世界この世界:80     

 『遭遇戦・1』    

 

 

 ポチーーーーーーーーーーッ!!

 

 叫んでみたけど、ポチの姿はすぐに小さくなって見えなくなってしまった。

「落ち着いたら帰って来るさ」

 ロキの頭をワシャワシャ撫でて慰めてやる。ケイトも「こんなこともあるさ」と、ロキに付き合って空を見上げてやっている。

「ポチは我が使い魔でもある。必ず戻って来る」

 中二病全開だけど、ブリュンヒルデも慰めている。

 慰めながらも思った。ヴァィゼンハオスで初めて見た時は空飛ぶ桃くらいに思っていたのだが、だんだん反応が犬っぽく……どうかすると人間の子どものようになってきた。シリンダーというのは口もきけない単細胞生物くらいに思っていたのだが、ポチは個体進化の可能性を秘めているのかもしれない。

 しかし、ポチの騒ぎで、みんなの車酔いは吹っ飛んだように治ってしまった。

 

 ピピピ ピピピ ピピピ

 

 Cアラームが鳴った。

 ポチポチと鳴ればポチが帰ってきたシグナルだが、ピピピはクリーチャーの接近を表している。

「……ロキは町長を護れ! 方位は東だ、四号を出て戦うぞ! タングリスは四号を頼む!」

 一瞬のタメがあって、ごく自然にブリュンヒルデが凛とした声で命じる。

 ラジャー!

 ブリュンヒルデを先頭にケイトと共に東に駆ける。

 峠を越えると一気に空が曇ってきた。

 いや、雲ではない……雲に擬態した融合体とシリンダーの群れだ!

「ケイト、矢で穴を開けろ!」

 見える限りの空がシリンダーのように見えている。どこかに穴を開けなければ攻撃のとっかかりも掴めない。

「承知!」

 キリリと弓を引き絞ると「カイナティックアロー!」と叫んで、炎を引く矢を放った。

 ケイトも経験値を積んで進化しているようだ。

 

 ズボ!

 

 雲に吸い込まれたところで、くぐもった音をたてて炸裂し、畳六畳ほどの穴が開いた。

「今だ!」

 穴に向かって飛び上がる。イケる、ジャンプ力もスピードも伸びている!

 ソードを腰だめにして構えると、開いたばかりの穴がジワジワと窄まっていく。

 トアーーーーーーーーーー!

 勢いをつけソードを8の字に振り回して飛び込む。雲は融合体で、ムクムクと回復させつつある。剣先に触れた融合体は綿あめのように溶けていく。溶けた融合体は霧のようになって体にまといつく。まずい、体がベトベトしている、ベトベトが続けば水あめが絡みつくように自由を奪われる!

 オリャーーーーーーーーー!

 身体を急速旋回させ、遠心力でベトベトを振りとばして、数秒後には融合体の雲の上に出た。

 

 ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ

 

 妖精の笑い声のような飛翔音をさせて襲ってきたのはプレパラートの大群だ!

 一センチ四方のガラス片に似たクリーチャー。それが雲霞のように襲ってくる!

 一つ一つはしれているが、叩き落すか躱さないと体中を切り刻まれる!

 

 オリャーーーーーーーーー!

 

 四方八方に旋回しながらせん滅するが、キリがない、一分とたたないうちに切られ始めた。

 旋回していると、遠心力で傷口から血が吹き出してしまう。このままでは失血死してしまう!

 

 気が遠くなりかけた時、下方の雲が円形に盛り上がり、ズボッと穴が開いたかと思うとツインテールをヘリコプターのように振り回してブリュンヒルデが上昇してきた。

「我が命を待たずに飛び出してはならぬぞ!」

 不敵に笑いながらプレパラートの群れを包み込むようにせん滅してくれる。

 それに応えて攻撃を強めたいが、いかんせん力が出ない。

 いかん、HPが赤く点滅するところまで減っている。

 

 ケアルラアアアアアアア~🎵

 

 雲の下から聞こえてきて、みるみるうちにHPバーがブルーに変わって満タンになった。

 ケイトの白魔法もレベルが上がってきたようだ。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 技: ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・170『散策部の部活動』

2020-09-22 12:49:50 | ノベル

・170

『散策部の部活動』    

 

 

 散策部の活動は週に二三回。

 

 一回は看板通りの散策。先月の末から四回散策した。月に四回だから、ちょっと少ない。

 ほんとうは、もっと出歩きたかったんだけど、校外に出る時はソフィアが同行しなければならない。

 ヤマセンブルグの王位継承者だから校外での単独行動は控えなければならない。ソフィアはすでに剣道部に入部しているので、彼女の部活が無い日でなければ出られないのだ。

「剣道部は辞めます」

 散策部を始めたことを知った時は、あっさりこういうことを言うんだけども、ソフィアの部活を辞めさせるのは不本意だ。

 でも、やってみて分かった。

 散策中に撮った写真やメモを整理したり調べたり、それをブログに上げたりするのは結構な作業量で、結果的には週一二度の散策が適量なことが分かった。

 あ、それと、顧問には院長先生自らがやってくださっている。

 週に一度はブログの原稿を見てもらいに院長室を訪れる。そういうことを入れると、やっぱり週に一二度。

 

 今日は五回目の散策。

 まだまだ最初だから、学校のほんの周辺。

 

「日本の街は、どこもきれいデス」

「そうね」

 日本生まれ日本育ちのわたしには当たり前なんだけど、この春に来日したばかりのソフィアは、あちこちで感動してくれる。

「ほら!」

 ソフィアが立ち止まる。

「こっちデス!」

 ソフィアのあとを付いていくと、大阪市清掃局のパッカー車がバックしてくるところだ。

――バックします バックします バックします――

「かわいいデス! さいしょは女の人が乗ってるんだと思いました、録音したのを流しているだけなのを知って、ちょっと残念でしたけど、録音でも、やさしく『バックします』はとてもプリティーデス!」

「ああ、エディンバラにもヤマセンブルグにも無いもんね」

「それに、パッカー車はどれも清潔……デス。ゴミもちゃんと分別して袋に入ってるデス」

「うん、日本はゴミをむき出しにしないもんね」

「……これ見てくださいデス」

 手馴れた手つきでスマホを操作して、動画を見せてくれる。

「ニューヨーク?」

「はい、ニューヨークのゴミ収集車デス」

「うわ~」

 ニューヨークはパッカー車ではなくて、ごっついトラック。

 トラックの荷台と運転席の間にリフトみたいなのがあって、道路わきに据えられている背丈ほどのゴミ箱を救いあげて、荷台の上でひっくり返してガボガボとむき出しのゴミを投下する。これは、ホコリとか舞い散るし、きっとすごい臭いがするに違いない。

「日本のはゴミの回収すら清潔デス……ほら、それに、この音楽デス!」

 収集を終えたパッカー車は発車すると、定番の曲を流しながら次の現場へと移動していく。

「パッカー車が来るのを音楽で知らせるって、キュートデス!」

 パッカー車がメロディー付なのも生まれた時からだから、改めて言われると新鮮だ。

「あの音楽はなんていう曲なんでしょう?」

「あ……」

 小さいころから聞いてきたメロディーなんだけど、曲の名前を意識したことは無い。

「うん、あとで調べてみよう」

「はいデス」

「殿下、道の舗装がところどころレッドブラウンになっています、なんでしょうか?」

「え?」

 言われて見てみると、四つ辻や三叉路の交差点が、そこだけレッドブラウンのカラー舗装になっている。

「それに、クロスやTのマークが付いていて不思議デス」

 そう言われれば、舗装道路であればよく見かける……グルッと見回して、見当がつく。

「これって、離れたところからでもジャンクション(四つ辻とか三叉路)だと分かるようになってるんだよ」

「あ、そうか……でも、ジャンクションでも無いところがありますデス」

「え、あ……ほんとだ」

「調べましょう! デス!」

「あ、待ってえ(^_^;)」

 ソフィアといっしょに走り回って見当がついた。

 カラー舗装がされていないのは、曲がっても袋小路になって侵入してもバックで戻らなければならないものだ。

 ガードに付いて来るだけのソフィアは、ちょっと気の毒だと思ったけど、ちょっと楽しくなってきた散策部。

 

 

 

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ポナの季節・42『幕が上がる……か②』

2020-09-22 05:43:54 | 小説6

・42
『幕が上がる……か②』
        
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



『吉岡茜』と、吉岡先生は黒板に大書した。

「草冠に西で、あかねって読むんだけど、まあ、読めるのは三人に一人。だから普段は平がな。よろしくね」
「先生は常勤講師ですか?」
 トモちゃんという頭の良さそうな子が聞いた。
「ストレートな質問だな。そうだよ、常勤講師。いちおう採用試験には通ったんだけどね、美術って学校に一人しか先生いないじゃん。で、空き待ちしてる間に有効期限過ぎちゃって。だから、実力は正規の先生と同じ。そこんとこよろしく!」
「美術で、吉岡……ももクロの『幕が上がる』の吉岡先生と同じだ!」
「ハハハ、あれは美人てことになってるけどね。ついでだから、あの吉岡先生は下の名前みどりって言うんだ。正規の先生なのに、半年で辞めちゃうんだよね。陰に採用されない、あたしみたいな合格者がいっぱいいるのにね。ああいうのは好きくない」
「先生は、演劇部作らないんですか?」
 由紀が調子に乗って質問した。
「あったら、やるんだけどね。この学校ないんだよね」
 意外な答えが返ってきた。
「でも先生、先生は美術だから、美術の顧問しなきゃいけないでしょ?」
「うん、畑中先生がやってたから、やらなきゃなんないでしょうね……」
 そう言いながら、吉岡先生は耳をほじくった。

「でかい耳クソ!」

 ほじって自分で驚いている。フッと耳クソを吹き飛ばすと、その指を白衣で拭った。女らしくないけど、ポナはカッコいいと思った。むろん眉をひそめる子もいた。
「あ、ごめん。男も女もあんまし関係ないとこにいたから」
「ひょっとして、自衛隊ですか?」
 自衛隊に、こんな行儀の悪いやつはいない。大ニイが自衛隊なので、ポナには良く分かった。
「ううん、劇団。学生演劇じゃ、ちょっとしたもんだったんだよ」
「よ、学生演劇の女王!」
「女王てのはなあ……『幕が上がる』の吉岡先生のタイトルだろ。あたしは学生演劇のプリンセス!」
 見かけとのギャップが大きいのでみんなが苦笑。
「笑うことはないでしょ。ほんとに、そう言われてたんだから。そうだね、無いんだったら、作っちゃお! だれか演劇部やりたい子いないかな!?」
 ここで、手が上がったら、ももクロの映画みたいに出来すぎだ。
「ないか……ま、気長にやるか。じゃ!」
 ポンと手を叩いて授業のモードになった。

 そのあくる日、食堂で吉岡先生といっしょになった。

「あ……!」
 吉岡先生は、ポナのビックリにすぐ気が付いた。
「あら、同じメニュー!」
「これ、ララランチっていうんです」
「なんだか楽しげな名前ね」
「ランチと、ラーメンの組み合わせ、仲間内じゃ大食いってバカにされてます」
「なんか気があいそうね、どうよ演劇部?」
「ん……部活じゃないけど、他にやってることがあるんで……」
「そっか、ま、よかったら、あたしの横に座んなよ」
「はい」
 そこに由紀と奈菜が加わってララランチで、また盛り上がった。

 正直、この時期に演劇部を作るのは難しいと三人娘は思った。先生があまりに無邪気で熱心なので、昨日学校のパソコンで調べてみた。
 高校演劇連盟への加盟は、すでに終了していた。連盟に加盟できなければ、今年のコンクールには出られない。コンクールに出られない演劇部なんて、ラーメンかランチのどちらかがないララランチみたいなもんだ。
 癖なんだろう、吉岡先生は髪をかきあげてため息をついた。

 ポナが名付けたアールデコがあらわになって、そのラインはそのままバランスを保ちながら女優らしい形になっているのが分かった。ただホッペは、いたずら小僧のように膨らんでいる。自分でホッペを押して「プ!」という音をさせた。いかにもつまらなさそうだった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:79『ポチの冒険・2』

2020-09-22 05:32:57 | 小説5

かの世界この世界:79     

 『ポチの冒険・2』     

 

 

 

 上昇気流に乗って尾根を越え、勢いのまま雲を突き抜けるとシリンダーの群れが居た。

 

 ポチはシリンダーの幼生であるが、ごく小さいころからロキたちヴァィゼンハオスの子たちと暮らしてきたので、大人のシリンダーを見ても親近感などは湧かない。

 ヤ、ヤバイところに出てきてしまった!

 とっさに思ったのは、このままUターンして尾根一つ戻ったところを上って来る四号に戻ることだ。

 しかし、軽い体を思いっきり強い上昇気流に吹き上げられているので容易には速度が落ちない。

 

 プニョ~ン プニョ~ン

 

 大人のシリンダーに二度ばかりぶつかって、やっと群れのど真ん中で停まった。

「おや、お母さんとはぐれてしまったのか?」

「保育所のお散歩の途中かい?」

「ここらじゃ見ない顔だね」

 人間とは違う言葉で話しかけられるが、意味ははっきり分かる。どうやらポチを迷子かなんかと思っているようだ。

 人間の話を聞いたり、戦闘中なのを遠くからしか見たことがないのだが、同じシリンダーなので分かってしまう。

「え……えと……えと……」

 初めて間近に出会ったシリンダー、それも、何千何万もうじゃうじゃと、とっさに言葉も出てこない。

 それに、尾根の向こうからは四号戦車のみんながやってくる。みんなに知らせてやらなきゃ!

 そう閃くと、ポチはクルンと方向転換して眼下の雲海にダイブした。

 

 早く知らせなきゃ!

 

 がむしゃらに雲海を突き抜けていると、弾力のある雲にぶつかってしまった。

 プニョ~~~~~~~~ン!

 弾き飛ばされながら横目で見ると、それは、雲に擬態したシリンダーの融合体だ!

 さっきの群れにも驚いたが、融合体からは猛烈な邪悪な思念が放射されていて、さっきの百倍も恐ろしい!

 

 ヒヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 人間の女の子のような悲鳴を上げて一気に十キロほども逃げてしまった。

――フレアがフレイの背中にブリ虫を入れて、びっくりした彼がヴァィゼンハオス中に響き渡る悲鳴を上げた時のようだなあ――

 逃げながらも、そんな呑気なことを思うポチだ。

――女の子にイタズラされて、女の子みたいな悲鳴をあげるんじゃないわよ――

 フリッグ先生に呆れられていたっけ……いけない、そろそろ止まらなきゃとんでもないところまで行ってしまう!

 ポチは、ボールのようにまんまるい体なので空気抵抗がない。

 意に反して勢いの付いた体は、なかなか止まらない。

 ヤバイ!

 こんな時、ロキたちはどうしていたっけ?

 ムヘン川の土手を滑り降りて、そのままの勢いだと川に飛び込んでしまいそう……そうだ!

 子どもたちは、土手の草に手を伸ばして、草をむしってブレーキにしていたっけ!

 そう思うと、まん丸の体から可愛らしい突起が伸びてくる。

 突起は四本が二センチくらいで、一本が一センチほど。

 ああ、土手を滑り降りるフレイアのイメージだ。

 フレイもロキもいっしょだったのに、なんで女の子のフレイアのイメージなんだろう?

 あ、フレイアが一番運動神経発達してたもんな!

 ポチは、フレイアのイメージで足元を流れていく草や木の葉っぱに突起を触れさせてブレーキをかけていった。 

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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高校奇譚 〔左足の裏が痒い……〕

2020-09-21 06:17:02 | ライトノベルベスト

高校奇譚 
左足痒い……〕
     


 左足の裏が痒くて目が覚めた。

 覚めたと言っても、頭は半分寝ている。無意識に手を伸ばし膝を曲げて、手を伸ばす。
 掻こうと思った左足の裏は、膝から下ごと無くなっていた。

「あ、まただ……」

 そう呟いて、あたしは再びまどろんだ……。

 目覚ましが鳴って、本格的に目が覚める。
 お布団をけ飛ばして、最初にするのは、パジャマの下だけ脱いで左足の義足を付けること。
 少し動かしてみて、筋電センサーがきちんと機能しているのを確かめる。

――よし、感度良好――

 そして、再びパジャマの下を穿いて、お手洗いと洗顔、歯磨き。
 それから部屋に戻って、制服に着替える。そして、念入りにブラッシング……したいとこだけど、時間がないので手櫛で二三回。自慢じゃないけど髪質がいいので、特にトリートメントしなくても、まあまあ、これで決まる。
 むろん、セミロングのままにしておくのなら、これでは気が済まない。キュッとひっつめにしてゴムで束ねた後、紺碧に白い紙ヒコーキをあしらったシュシュをかける。
 これで、標準的なフェリペ女学院の生徒の出来上がり。

 お父さんが出かける気配がして苦笑、直ぐにお母さんの声。

「早くしなさい、遅刻するわよ!」
 遅刻なんかしたことないけど、お母さんの決まり文句。あたしと声が似ているのもシャクに障る。
「はーい、いまいくとこ!」
 ちょっと反抗的な感じで言ってしまう。実際ダイニングに降りようとしていたんだから。

 お父さんが、ほんの少し前まで居た気配。お父さんの席に折りたたんだ新聞が置いてある。

「まだ、そこに新聞置くクセ治らないのね」
「え……」
 洗濯物を、洗濯機に入れながらお母さん。
「そういうあたしも、お父さんが出かける気配がするんだけどね」
 と言いながら、ホットミルクでトーストとスクランブルエッグを流し込む。
「また、そんな食べ方して。少しは女の子らしく……」
「していたら、本当に遅刻しちゃう」
「それなら、もう五分早起きしなさい!」
「こういう朝のドタバタが、年頃の女の子らしいんじゃん」
「もう、減らず口を……」
「言ってるうちが、花なの。ねえ、一度トーストくわえたまま、駅まで走ってみようか!?」
「なにそれ?」
「よくテレビドラマとかでやってんじゃん。現実には、そんな人見たことないけど」

 これだけの会話の間に食事を済ませ、トイレに直行。入れてから出す。健康のリズム。

 消臭剤では消しきれないお父さんのニオイがしない。ガキンチョの頃から嗅ぎ慣れたニオイ。
 これで、現実を思い知る。
 お父さんは、もういない……三か月前の事故で、お父さんは、あたしを庇って死んでしまった。
 あたしは、左足の膝から下を失った。
 最近、ようやくトイレで泣かなくなった。

「よし、大丈夫」

 本当は学校で禁止されてんだけど、セミグロスのリップ付けて出発準備OK!
「いってきまーす!」
「ちゃんと前向いて歩くのよ、せっかく助かった命なんだから」
 少しトゲのある言い方でお母さん。
 あのスガタカタチでパートに出かける。あたしによく似たハイティーンのボディで。

 あの事故で、お母さんはかろうじて脳だけが無事で、全身、義体に入れ替わった。オペレーターが入力ミスをして、お母さんの義体は十八歳。
 一応文句は言ったけど、本人は案外気に入っている。区別のため、お母さんはボブにしているけど、時々街で、あたしと間違われる。

 駅のホームに立つと、急ぎ足できたせいか、また左足の裏がむず痒くなる。
 この義足は、保険の汎用品なので、痒みは感じないはずなんだけどね……。

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ポナの季節・41『幕が上がる……か①』

2020-09-21 06:08:54 | 小説6

・41
『幕が上がる……か①』
           
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



 今日、美術の先生が替わった。今までの畑中先生は腰を痛めて、なんと辞めてしまう。

 もともと来春には定年の先生だったし、お医者さんから半年の休職を言い渡されたので、これを切りに辞めることにしたのだそうだ。

「申し訳ない。せっかくこれからというときに辞めることになって。無理をすると寝たきりになる恐れもあると医者に言われてね、わたしも、まだまだ生きて絵を描きたいんで、これを潮に辞めることにした」
「どうして、腰を痛めたんですか?」
 由紀が遠慮なく聞いた。
「よくぞ聞いた。好奇心だよ」
「好奇心で腰を痛めるんですか?」
「ああ、8Kの3Dのテレビを買ってな、3Dの映像を見とったと思え。きれいな女の子がパレオ付の水着であらわれた」
「パレオってなんですか?」
「水着の腰のところに腰巻みたいに巻いとるじゃろ」
「ああ」みんなから声が上がった。
「それが風に揺らめいてな、脚がとてもきれいな子で、風が吹いてパレオがたなびいた時につい身を乗り出してみた。3Dなんで身をよじれば見えるような気がしてな……で、やっちまった」
 由紀のように遠慮なく笑う子もいたが、退職に繋がるような怪我なので、どう反応していいか分からない子に分かれた。
「それって、芸術家の性なんですよね。美しいものには、つい目が行ってしまう」
「ハハハ、ただのオッサンの助兵衛根性さ!」
 美術教室が笑いに満ちた。気づくと自分たちの後ろでも笑い声がしたので、驚いてポナたちが振り返った。

 そこには、ぐちゃぐちゃのおもちゃ箱から引っ張り出してきたばかりのボサボサ頭のリカちゃん人形みたいなオネーサンが居た。

「ああ、その馬鹿笑いしとるのが、わたしの後釜の吉岡あかね先生じゃ。ちょうどええ、前に来て自己紹介しなさい」
「はいはい」
 調子よく返事して吉岡先生がみんなをかき分けるようにしてピョンピョンと前に出てきた。

「えー、あたしが……」

 と吉岡先生が言いかけたとき、横から助兵衛根性の先生が声を掛けた。
「君が喋ると長いから、わたしを廊下まで出してくれんかね、カミさんが、ずっと待っとるみたいでな」
 吉岡先生が車いすを押し、誰言うともなく、みんなもエレベーターまで付いていった。
 先生に似合わない上品そうな奥さんが恐縮して待っていた。

「じゃ、畑中先生。またご挨拶に行きます!」

 吉岡先生が女生徒みたいに挨拶。グッドラックとサムズアップして畑中先生はエレベーターのドアを閉めた。
 みんなは、すぐに美術室には戻らずに、階数表示が一階を示すまで見送った。
「さあ、じゃ、あたしの長い話をできるだけ短くするから部屋に戻るよ!」
 みんなは、その場の空気で走って美術室に戻った。
 退職。それも怪我が元になった中途退職を、畑中先生も吉岡先生も、明るくカラリと済ませてしまった。二人とも大した人だとポナは思った。

「えーと、あたしはね……」

 吉岡先生は、おもちゃ箱みたいな頭の中を整理するように前髪をかきあげた。形のいいオデコが露わになる。ちょっとした驚き。

 こういうのをアールデコっていうのかな……。

 畑中先生にならった美術用語が冗談みたいに浮かぶポナだった。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:78『ポチの冒険・1』

2020-09-21 05:57:44 | 小説5

かの世界この世界:78     

 『ポチの冒険・1』    

 

 

 前にも言ったが、ムヘンは菱餅の形をしている。

 

 ムヘンブルグ城塞を出た我々は菱餅の頂点である北辺の港町ノルデンハーフェンを目指している。あたりまえに行けば三日ほどの行程なのだが、あちこち用事が出来てしまって二週間ほどになるというのに、いっこうにノルデンハーフェンには向かえない。

 いまは、ローゼンシュタットのミュンツァー町長の石化を解くために東のエスナルの泉に進路を取っている。

「こんな山道だとは思わなかったぞ……」

 ブリュンヒルデがキューポラの縁に突っ伏してしまった。

 操縦しているタングリスを除いた全員が半身をハッチから出している。

 つづら折れの山道は険しくて、四号戦車は、今までになくグニャグニャ揺れるのだ。

 戦車と言うのは鉄の塊で、走る感じはガタゴトという擬音が相応しく思われるが、じっさいはグニャグニャなのだ。

 トーションバーというサスペンションが効いていて、そのストロークは自動車の倍ほどもある。だから揺れると自動車の倍ほどに揺れ幅になって、おまけに窓が無いので、車内でじっとしていたら高い確率で酔ってしまう。

 万一、酔ってリバースしてしまうと悲惨なことになる。戦車の車内は複雑でリバースした反吐は回収が難しく臭いが立ち込めてしまう。ちなみに、戦車兵の第一のタブーは車内でオナラをすることだ。

 平気なのは、石化してしまったミュンツァー町長とシリンダーの幼生であるポチだけだ。

 てっきり一人ぼっちで町長の見張りと覚悟していたのに、みんなが車外に姿を見せたのでピョンピョン喜んでいる。

「あいて!」

 スパナを咥えたまま飛び跳ねるので、ロキの頭に当たってしまった。

「嬉しいのは分かるけど、もうちょっと大人しくしてろよ……」

 みんなグロッキーで遊んでもらえないポチは、ちょっと拗ねてしまう。

 

 カンカンカンカン!

 

 揺れたふりをして、砲塔をカンカン叩く。もし口が効けたら「遊んでよ! 遊んでよ!」と駄々をこねるところだろ。

「うるさい! 暗黒世界の奈落に沈めてしまうぞ!」

 ブリュンヒルデに叱られる。

 ブーーーー

 スパナを咥えたままうめき声をあげる。

「屁のような唸り声をあげるな」

 ウーーーーー!

「じゃかましいいいいい!」

 今度は、わたしが切れた。ポチはケイト、ロキ、ブリュンヒルデの顔を交互に見る。見ると言っても目は無いのだが、スリットの形や、けっこう変わる顔色?で、そのように思う。

 

 ムーーーッ!

 

 だれも相手にしてくれないポチは、一声強く唸ると、上空高く飛び上がってしまった。

「ポ、ポチーーー!」

 ボールほどのポチは、瞬くうちに見えなくなって、スパナだけが砲塔の天蓋に落ちてきた。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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ポナの季節・40『オレの妹なんだから』

2020-09-20 06:33:27 | 小説6

・40
『オレの妹なんだから』
        
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名




 アメリカの大統領が声明を出した。

『今回の尖閣沖で起こった事件は、中国の危険な火遊びで、全責任は中国にある。これに機敏に対応した日本の海上自衛隊『ひとなみ』の艦長と砲雷長の決断と行動は軍人として当然であり、また卓越していた。アメリカは日本の二人の海軍将校を称賛する』

 これにEU諸国、ASEAN諸国、果てはロシアまでが同意し、国際的に大ニイは英雄になってしまった。

 日本では軍事的英雄行為は野犬に立ち向かった子犬ほどにも興味も感心も持たれない。しかし外圧に弱い政府は、大慌てで艦長と大ニイの謹慎を解除した。マスコミも市民団体も蒸発したようにいなくなってしまった。

「明日から艦にもどるよ」
 大ニイも、風邪で学校を休んだ生徒が日常に戻るような気楽さで言った。
「大ニイ、悔しくないの?」
「特にはな、こんなことは防大にいたころから教えられてたからな。それよりポナ…………」

 大ニイが正面からポナの顔を覗き込んだ。

「な、なによ」

「おまえ、可愛くなったな」
 
「や、やっと気づいた。あたしは昔から可愛い子なのっ(^_^;)」
「そうだよな、オレの妹なんだから」

「ふぇ?」

 ポナは、この一言にジーンときた。

 まだ心のどこかで血がつながっていないことの引け目があった。可愛いと言われたことよりも、当然のように「妹だから」と言われたことが嬉しかった。

「ハハ、赤くなることはないだろ。自分でも可愛いって言ってるんだから」
「もう、妹イジルんじゃないって!」
「女の子が可愛くなるのには二通りある。恋をしているときと、自分に自信を持った時だ。ポナのは……恋してるわけではさそうだ」
「なんで、そんなこと分かんのよ。あたしだって恋の一つや二つ」
「無理すんな。自衛隊で長いこと飯食ってると、分かるんだ人の顔が変わるのが。新入隊員が基礎訓練を終えると、そういう顔になる」

 ポナは、少し迷って幽霊の安祐美の話をした。大ニイは笑うと思ったが、意外に真剣に聞いてくれた。

「そういうことはある。積極的には言わないけど、自衛隊にもそういう話はいろいろある。出港の時旧海軍の人たちが見送ってくれていることもあるし、嵐の中で、当直が励ますように並走してる旧海軍の艦船を見たりとかな……」
「励ましに……」
「うん。思いを残して逝った人たちばかりだからな……夢の中で特訓とか言ってたけど……」

 安祐美は、夢の中で特訓すると言っていたけど、ポナにも、他のメンバーにも記憶はなかった。ただ、指のタコと、喉に違和感があるきりだった。ただ、タコがこないだとは少し違っていた。大ニイはギターじゃなくてドラムのタコだと言っていた。

「生活文化局から、こんなの来てた」

 奈菜がA4の封筒を見せた。
「え、これ、ヘブンリーアーティストのオーディションの案内じゃん!」
「あたし自覚ないんだけど」
 不思議を語る由紀と奈菜の声も少し変わっていた。
「あ、みなみからメール……」
「あ、乃木坂の?」
「えー、貸しスタジオが借りられたって……で、みなみにも自覚なしだ」
「これって、安祐美かな……」

 いつの間にか安祐美に「ちゃん付け」をしなくなったことに気づくと同時に、放課後の中庭で安祐美の気配を感じている三人だった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:77『ローゼンシュタットを出発』

2020-09-20 06:18:53 | 小説5

かの世界この世界:77     

 『ローゼンシュタットを出発』    

 

 

 見送りは町長夫人だけだった。

 

 ローゼンシュタットの町は降誕祭の後始末……というよりは、メデューサ被害の後始末で、とてもわたしたちの見送りどころではないのだ。

 石化した町長に成り代わって夫人が指揮を執っている。

「あくまでも、降誕祭の後始末です」

 きっぱり言い切ったのは、町の人々が落ち込まないようにとの配慮からだろう。

 広場を中心に道路や建物が破壊されただけではなく、石化が解けた人たちも倦怠感の他に関節痛などの後遺症が出ているのだ。

「じゃ、出来るだけ早く金の針を手に入れて町長さんを治療してお返しします」

「よろしくお願いします」

 

 ブロン キュロロロ~~~~~

 

 四号戦車は軽快に走り出した。

 町長は、石化して文字通り石像のようになっているので車内に入れることはできず、砲塔後部のゲペックカステン(物入れ)に括りつけてある。

 車体の振動くらいで壊れることはないだろうが、クリーチャーの襲撃があるかもしれず、見張りの為にポチが張り付いている。

「ポチ、もう一回練習だ」

 ロキが声を掛けると、ポチは砲塔の上で跳ねまわる。ただ跳ねまわっただけでは車内に伝わらないので、スパナを持たせてある。跳ねながらスパナで叩けということだ。

 でも、シリンダーであるポチにはスパナを持つべき手が無いので、割れ目の所で咥えさせている。

「健気ではあるが、なんかイメージが……」

 ブリュンヒルデが言葉を濁すが、意味はよく分かる。シリンダーと言うのはボール状のプニプニした体にスリットというか割れ目があって、淡いピンク色の肌とあいまって、桃のように……あるいは桃によく似た体の一部のように見える。

 そいつが、やる気満々でスパナを咥えているのは猥褻な感じが拭えない。

 

 カンカンカンカン!

 

 スパナを振ってポチが砲塔を叩く。

「なにか、怒ってるみたいだな」

「みたいじゃなくて、怒ってるよ」

 あちこちのハッチから身を乗り出したクルーが「ホーー」と感心する。

「意外に可愛いものだな」

 素直な性質のようで、ポチは割れ目の両脇の所をポッと赤くしている。

「まあ、ロキもポチもがんばれ」

「うん!」

「ペギーからメールが入ってるぞ」

 操縦手ハッチから顔を出したタングリスが通信手ハッチを指さす。

「いけね!」

 猿のようなすばしこさでロキが戻る。通信手はロキの役割だ。

「ムヘン街道との合流点で待ってるって!」

 

 東に進路を取って、合流点を目指した。

 

 幸い、クリーチャーに出くわすこともなく半日で合流点が見えてきた。

「あ、出店を開いてる」

 ペギーは、十字路の南東の角に屋台を出して景気よく商売の真っ最中だ。

「やあ、メールもらったのに済まなかったね、ちょっと忙しくしていたもんで。ちょっと頼むね……」

 いつに間に雇ったのか、二人のバイトに任せて通りに出てきた。

「ここじゃ、通行の邪魔になるから……あっちの空き地で」

 街道は相変わらずの混雑ぶりだ。ペギーが交通整理をして四号を空き地に誘導してくれた。

「この石像みたいなのが、ローゼンシュタットの町長さんなんだ。金の針で治してやりたいんだが」

「あーーーーこりゃ無理だね」

「無理か?」

「強力な石化魔法がかかっている上に時間がたちすぎている、金の針でも無理だ」

「我にエスナの黒魔法が使えれば……」

 額に皴を寄せ右手の五本の指をあてるという中二病ポーズでブリュンヒルデが呟く。

「あんたは、もうエスナが使えるよ」

「ほ、本当か!?」

「ただ、この町長さんの石化はエスナラ以上の力が無いと解除できない。それにエスナは白魔法だからね」

「わ、我は、漆黒の堕天使なるぞ」

「手立てはないのか?」

 電波なブリュンヒルデは放置して、クルーはペギーを囲んだ。

「む、無視すんなああ!」

「あるにはあるが……」

「どこだ?」

「東の果てにエスナルの泉がある。そのエスナルの水で清めれば治るだろう」

「東の果てか……」

 

 我々は、北のノルデンハーフェンを目指している、それを東に変更……。

 また、大きな寄り道になりそうだ……。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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魔法少女マヂカ・176『JS西郷と人形焼』

2020-09-19 13:49:05 | 小説

魔法少女マヂカ・176

『JS西郷と人形焼』語り手:マヂカ    

 

 

 なんでJS西郷が?

 

「時間を跨いで救援に来れるのがわたししか居ないからよ。去年の九月に関東大震災がおこって、みんな忙しいから」

 そうだ、大正十四年と言えば関東大震災の明くる年だ。緑の多い原宿は目立たないが、震災から一年にもならない東京は大変なことになっているはずだ。

「マヂカ、その子は?」

 JS西郷に気づいたノンコが近寄ってきた。

「魔法少女よ」

 説明する前にJS西郷が応える。

「うっわー可愛い! 魔法少女ってJKばっかだと思ってた」

「いや、こいつの中身は……」

「人形焼きでできてんの」

「は?」   重盛の人形焼」 : じぶん日記

「食べる? 浅草名物人形焼、あんことカスタード、中身は食べてのお楽しみ(^▽^)/」

 JS西郷が差し出した紙袋には溢れんばかりのホカホカの人形焼が入っている。

「わ、ひっさひブリ~(o^―^o)」

 さっそく弁天さんの人形焼を頬張ったノンコはJS西郷の詮索を忘れてしまった。

「神田明神にでも頼ろうかと思っていたんだけど、その話しぶりだと無駄足になりそうね」

「うん、将門さんは寝込んじゃってるよ」

 さもありなん、神田の御大が健康ならこんな災厄は起きていないだろう。

「で、まあ、今夜寝るところにも困ってるだろーから……」

「え、すぐには帰れないの?」

 二つ目の人形焼きに伸ばした手が止まってしまうノンコ。

「この紹介状を持って高坂侯爵のお屋敷に行くといいわ」

 器用に背負ったままのランドセルから封筒を取り出して、わたしとノンコに示した。

「高坂侯爵……」

 華族のお屋敷と言えば多くは山の手だ、渋谷に近い原宿あたりにあったか……?

「ほら、あそこよ。こんもりとした森のようなお屋敷」

 JS西郷の指の先……そこは東郷神社が……ああ、この時代東郷元帥はまだ生きている、神社の敷地は、さる華族様のお屋敷だったな。そうか高坂侯爵だったか。

「で、なんの紹介状……」

 振り返るとJS西郷の姿は無く、紙袋一杯の焼き立て人形焼きだけが残っていた。

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