やくもあやかし物語・135
自信を持ってください!
石ツブテに怯むわたしを叱咤するアキバ子。
でも、目だけ箱の隙間から覗かせて言ってるだけだから説得力がない。
それに、いつのまにかロケットの外に放り出されてるし。
「いえ、繋がってますし!」
アキバ子の言葉に振り返ると、アキバ子から伸びたか細い糸みたいなものがロケットに繋がっている。
でも、それだけ(;'∀')。
「なんか、アリバイで繋がってるだけみたい」
「サッサとしなさいよ!」
「あ、いつの間に!?」
わたしの胸元から抜け出して、御息所は空き箱の中から顔を覗かせる。ほとんど閉じられた箱の奥にもう一人分の瞳。
あ、チカコも!
「「ガバメントよ、ガバメント!」」
えらそうに言う二人。
こないだ観たアニメの『平家物語』を思い出す。
都落ちする平家を『はやくやっつけろ!』と源氏に催促する都の貴族みたいで、感じ悪い。
わたしは木曽義仲でも九郎義経でもないよ……建礼門院徳子ならいいかなあ、最後まで生き残るし、CVも贔屓の清楚系声優さんだったし。
ひとり洛北に庵を結んで亡き人たちの菩提を弔って、訪れた後白河法皇に反省させるのよ、ちょっとカッコいい。
いたい!
ほんのちょっと夢想している隙に石ツブテが当たった。
石ツブテは堅めの発泡スチロールみたいで怪我はしないみたいなんだけど、ちょっと痛いし、屈辱感。
「このーーー!!」
ガバメントをオートにして撃ちまくる。
ハンドガンのオートだから機関銃のようにはいかない。
機関銃は引き金ひいてる間、弾丸は出っ放し。
ダダダダダダダダって感じ。
ハンドガンは、引き金一回ひいて一発の弾。
パン パン パンという感じ。
リアルガバメントは八発しかマガジンに入ってないけど、わたしのは『義』のソウルがこめられているから、何発でも撃てる。
パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン
青龍戦でも慣れていたので、十発も撃つと命中率が高くなる。
ガルル……
犬は、自分の体を庇うのが大変そうで、飛ばしてくる石ツブテの量が減ってきた!
「励め、やくも! 敵は、もう壇ノ浦の平家みたいよ!」
御息所が拳を振り上げる。
とうとうツブテを投げることを諦めた犬は、土星の向こう側に回ったきり出てっこなくなった。
やっつけたぁ? 仕留めた? 討ち取ったのか?
三人囁くけど、箱は閉まったまんま。
これで片付いたら、片付いてほしい……状況判断というよりは願望。
そんなの分かってるから、両手で銃を構えたまま大きく深呼吸。
目蓋の端っこがピクピクする。
小学一年以来の発作だよ。
極度に緊張して、それが続くと、こうなるんだ。
三歳くらいにもピクピクになって、そのあとひきつけ起こしてひっくり返って、お母さん必死で看病してくれた。
突然記憶が蘇る。
でも、いまは、自分でなんとかしなきゃ。
チラ
土星の陰から、犬が顔を出す。
今だ!
ズキューーーン!
エアガンのはずなのに、すごい音、すごい反動で、宇宙空間でバク転してしまう。
キャイーーン!
渾身の一発は、犬の眉間に命中して、犬は再び土星の陰に……勝った!
そう思ったら、反対側の陰から犬を載せていた白いモヤモヤだけが現れた。
あれは…………? なに? なんじゃ? なんでしょう?
四人、呆然と見ていると、そのモヤモヤは、しだいに形を成して正体を現した。
「「「「虎だ(*゚◇゚*)!」」」」
驚く声だけは揃う四人だったよ。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王