大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・135『なんとか犬をやっつける』

2022-04-23 10:03:38 | ライトノベルセレクト

やく物語・135

『なんとか犬をやっつける』 

 

 

 自信を持ってください!

 

 石ツブテに怯むわたしを叱咤するアキバ子。

 でも、目だけ箱の隙間から覗かせて言ってるだけだから説得力がない。

 それに、いつのまにかロケットの外に放り出されてるし。

「いえ、繋がってますし!」

 アキバ子の言葉に振り返ると、アキバ子から伸びたか細い糸みたいなものがロケットに繋がっている。

 でも、それだけ(;'∀')。

「なんか、アリバイで繋がってるだけみたい」

「サッサとしなさいよ!」

「あ、いつの間に!?」

 わたしの胸元から抜け出して、御息所は空き箱の中から顔を覗かせる。ほとんど閉じられた箱の奥にもう一人分の瞳。

 あ、チカコも!

「「ガバメントよ、ガバメント!」」

 えらそうに言う二人。

 こないだ観たアニメの『平家物語』を思い出す。

 都落ちする平家を『はやくやっつけろ!』と源氏に催促する都の貴族みたいで、感じ悪い。

 わたしは木曽義仲でも九郎義経でもないよ……建礼門院徳子ならいいかなあ、最後まで生き残るし、CVも贔屓の清楚系声優さんだったし。

 ひとり洛北に庵を結んで亡き人たちの菩提を弔って、訪れた後白河法皇に反省させるのよ、ちょっとカッコいい。

 いたい!

 ほんのちょっと夢想している隙に石ツブテが当たった。

 石ツブテは堅めの発泡スチロールみたいで怪我はしないみたいなんだけど、ちょっと痛いし、屈辱感。

「このーーー!!」

 ガバメントをオートにして撃ちまくる。

 ハンドガンのオートだから機関銃のようにはいかない。

 機関銃は引き金ひいてる間、弾丸は出っ放し。

 ダダダダダダダダって感じ。

 ハンドガンは、引き金一回ひいて一発の弾。

 パン パン パンという感じ。

 リアルガバメントは八発しかマガジンに入ってないけど、わたしのは『義』のソウルがこめられているから、何発でも撃てる。

 パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン

 青龍戦でも慣れていたので、十発も撃つと命中率が高くなる。

 ガルル……

 犬は、自分の体を庇うのが大変そうで、飛ばしてくる石ツブテの量が減ってきた!

「励め、やくも! 敵は、もう壇ノ浦の平家みたいよ!」

 御息所が拳を振り上げる。

 とうとうツブテを投げることを諦めた犬は、土星の向こう側に回ったきり出てっこなくなった。

 

 やっつけたぁ? 仕留めた? 討ち取ったのか?

 

 三人囁くけど、箱は閉まったまんま。

 これで片付いたら、片付いてほしい……状況判断というよりは願望。

 そんなの分かってるから、両手で銃を構えたまま大きく深呼吸。

 目蓋の端っこがピクピクする。

 小学一年以来の発作だよ。

 極度に緊張して、それが続くと、こうなるんだ。

 三歳くらいにもピクピクになって、そのあとひきつけ起こしてひっくり返って、お母さん必死で看病してくれた。

 突然記憶が蘇る。

 でも、いまは、自分でなんとかしなきゃ。

 チラ

 土星の陰から、犬が顔を出す。

 今だ!

 ズキューーーン!

 エアガンのはずなのに、すごい音、すごい反動で、宇宙空間でバク転してしまう。

 キャイーーン!

 渾身の一発は、犬の眉間に命中して、犬は再び土星の陰に……勝った!

 

 そう思ったら、反対側の陰から犬を載せていた白いモヤモヤだけが現れた。

 

 あれは…………? なに? なんじゃ? なんでしょう?

 

 四人、呆然と見ていると、そのモヤモヤは、しだいに形を成して正体を現した。

 

「「「「虎だ(*゚◇゚*)!」」」」

 

 驚く声だけは揃う四人だったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・26『コップに半分の法則』

2022-04-23 05:42:36 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

26『コップに半分の法則』

 

      


 朝から栞の話でもちきりだ。

 一昨日収録された、梅沢忠興とのインタビューが昨日の朝に放映されたのだ。二時間に渡る話は45分に編集されていたが、論点は外していなかった。

 世論におもねってしまったために過剰になったカリキュラム、そのために、教師も生徒も無駄に神経・労力・時間が取られていることは、放送局が用意したフリップやテロップなどでも補強されていた。

 喋れる英語教育が必ずしも必要ではないという栞の意見は、視聴者には新鮮に聞こえた。重要な発言の時には過不足のないアップや、アングルで栞、梅沢を撮るだけではなく、一見無反応に見えていたMNBの榊原聖子が「うん」「なるほど」などと控えめにリアクションしているところも逃してはいなかった。

「わたしたちアイドルって、ザックリ目標を与えられるんです。で、レッスンの中で、ダンスや歌の先生達が、わたしたちを見て、具体的な指摘や、個人に合った目標とレッスンが与えられます。とっても指導がシンプルで的確ですね。ええ、わたしたちには無駄はありませんね」

「手島さんの話は、今の時代に蔓延している相対論や曖昧さがありません。主張にしろ、質問への答えにせよ、まっすぐ無駄なく答えてくる。セリナさん気づきました? あの子は、語尾を上げて相手にぶら下がるような話し方をしない。それでいて生意気じゃないんですよね。知性と論理性、幼さと美しさが同居している。お尻事件で、どんな子だろうと思っていましたが、話をして、その両極があの子の中に同居している自然さを……うかつにもこの十七に満たない少女のなかに「志」を感じてしまった。僕には、この人との対談そのものが大事件でしたね」

 と、二人の後撮りのコメントまで入っていた。

 生徒達の反応も、おおむね好意的だった。もっともアイドルの聖子の意見に引っ張られているところが大きいが、放送局のやることに珍しく納得した乙女先生であった。

「……以上の理由により、梅田、湯浅、中谷の三先生は書類の通り停職。その後、教育センターで半年の研修に入っていただきます。また、梅田、湯浅両先生につきましては、道交法の進行妨害、威力業務妨害、傷害により係争中でありますので、判決によっては、処分・指導内容に追加が加わることもあります。わたくし学校長は、監督・指導不十分で減給三ヵ月、戒告であります。また、第三者を交えた学校改革委員会が発足することになりました」

 今日は45分の短縮授業で、放課後は臨時の職員会議になり、栞の問題に関する府教委の処分と、学校運営のための、助言が伝えられた。

「なにか、この件についてご質問、ご発言はありませんか?」

 議長が事務的にみなに質問した。みなが俯いた沈黙の中、乙女先生が一人手をあげた……。

 

 栞は、さくやと二人で中庭のベンチに足を投げ出して座っている。職会の性質上教師は全員必出席で部活の監督ができない状況なので、どこの部活も休止なのだ。それでも二人は胸が騒いで帰りかねていた。

「今やってる職員会議で決まるんですね……」
「なにが決まるのよ」
「えと、先生らの処分とか……」
「なんにもならないわよ、そんなこと」
「そうですか……」

 さくやは、伸ばした脚をもとにもどし、姿勢を正した。といって、なにか思いついたわけではなく、この歳にになって初めて見る黄色いチョウチョに気が取られたのである。

「やあ、黄色いチョウチョや!」
「それが?」
「その年の一番最初に見たチョウチョが黄色やったら、その年は幸せな一年になるんやそうですよ。ラッキー!」
「それ、『ムーミン』に出てくるお話ね」
「へー、そうなんや!?」
「そうだ、ちょっと待ってて」

 栞は、側の食堂の自販機で、ジュースを二杯買いに行った。

「言うてくれはったら、うちが行きましたのに」
「勝手に決めたけど。さくや、オレンジね」
「はい、うち柑橘系好きなんです!」
「それ、半分飲んで」
「え、はい、喜んで、コクコク……」

 さくやは、計ったようにオレンジジュースを半分飲んだ。

「その半分になったオレンジジュースを、さくやはどう表現する?」
「はい、まだ半分残ってる……」

「大正解!」

「え?」

 そして、栞はまるまる残っているコーラを、さくやは半分のオレンジジュースで乾杯した。

「さくやが『半分しか残ってない』って言ったら、即、演劇部解散しようと思っていた」
「えー、そうやったんですか。よかったあ正解で(^_^;)!」
「まだ半分残ってるって、ポジティブさが、わたしたちには必要なのよ」
「はい」
「たった今まで、コップの中に閉じこめられていたオレンジジュースとコーラは、二人のお腹に収まって、やがて……」
「おしっこになります!」

 さくやが気を付けした。

「あのね、その前に体に吸収されて、わたしたちの力になるのよ」
「はい」
「ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した」
「発見した!」
「手島栞は、コップのコーラが空になるのを見て、高校生の力を発見した!」
「発見!……どういう意味ですか?」
「コップの中で、グズグズ悩んだり、チマチマ考えるのは止め! わたしは、コップを飛び出すの!」
 
 そうカッコヨク決めたところで、「ゲフ」っとオッサンのようなゲップが出た……!

 

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ピボット高校アーカイ部・3『美少女部長 真中螺子』

2022-04-22 10:16:11 | 小説6

高校部     

3『美少女部長 真中螺子』  

 

 

 あ、すみません(#'∀'#)!

 

 クラっときてよろめいたところに人が立っていてぶつかってしまった。

 二の腕に受けた感触で女性、それも鼻を掠めた匂いで同年配の女の子だと知れておたついてしまう。

 ……えっ!?

 女の子はうちの制服を着ていて……首が無い。

「それはマネキンだ」

「は、はあ……」

 改めて見ると、襟から出た首にはジョイントが付いていて、首のないマネキンだと分かる。

「見ての通り、わたしは女子高時代の旧制服だ。部活では、旧制服に着替えている。それで、普通の制服は、そのマネキンにかけているんだ」

「はあ……」

 かけてあるという感じじゃない。ちゃんと着せてあって、ブラウスの襟にはリボンも掛けてある。

「他の部活でも、ジャージとかユニホームに着替えているだろう、同じことだ。まあ、そこに座ってくれ」

 示されたソファーに掛ける。

「おわ(°д°)」

 思いのほか深く沈んでビックリした。

「応接室のお下がりだ、昭和のものなんでクッションが良すぎるんだ」

 言いながら、先輩は向かいで足を組む。

 (#'0'#)

「すまん……不用意だったな」

 脚を戻すと、浅く座りなおして身を乗り出した。

「部長の真中螺子(まなからこ)だ。きみは田中鋲……でいいんだな?」

 メモにサラリと名前を書いて確認。

「あ……なんで相合い傘なんですか(#'o'#)」

「二人だけのクラブという意味だ。それに、これは相合い傘ではないぞ『これから二人で部活をやっていくぞ!』的な矢印だ」

「でも、真ん中に傘の柄が……」

「これはケジメだ」

「ケジメ?」

「ああ、部室は学校の端っこ、日ごろ人気のない旧校舎の一室。わたしは見ての通りの美少女だし、きみは第二次性徴真っ盛りの十六歳。ケジメが必要だろう?」

「う……」

「まあ、心構え、心意気の両方を表していると思ってくれ」

 際どくって、めちゃくちゃのようで筋が通っているような気もする。

「入学にあたっては、アーカイ部への入部が条件であったはずだ。多少の疑念があっても、鋲に選択権は無い」

「は、はい」

 もう呼び捨て、それも下の名前で(^_^;)

「分かっていると思うが、うちは、並みの部活ではない」

「そ、そうなんですか(^_^;)」

「周りを見てくれたまえ」

「え?」

 薄明かりなので目につかなかったけど、壁際は全て棚や本棚、ロッカーの類で、大小さまざまなファイルめいたものが詰め込まれている。見たことはないけど、新聞社やテレビ局の資料室は、こんな感じだろう。

「これはな、この、要(かなめ)の街の記録なんだ。街の図書館よりも充実しているぞ」

「アーカイブなんですね」

「そうだ、百年前に学校が設立された時、要の街が全面的に協力してくれたんだが、その時の条件が『街の記録の整理と保管』ということだった。学校は研究室を作ろうとしたが、街の代表者たちは『肩の凝らない部活のようなものでいいですよ』と言う。それで、こういう訳さ」

「なるほど……」

 部長は、ちょっと変わった人だけど、やっていることは『郷土史部』みたいなことなんで、ちょっと安心した。

「納得したら、入部届けを書いてくれるか。いちおう手続きなんでな」

「はい、すぐに!」

 返事をしてボールペンを手に取ると、先輩はホッとした笑顔になって、脚を組んで座りなおした。

 (#'0'#)

「ああ、すまん」

 こうやって、僕の高校生活が始まった。 

 

 ☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        要高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        要高校三年 アーカイブ部部長
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・25『梅沢先生との対談』

2022-04-22 06:02:34 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

25『梅沢先生との対談』

     


 栞は、生まれて初めてメイクをされた。

 メイクと言っても、ハレーション止めのファンデがほとんどだが、メイク映えのする顔立ちだったので、ついメイクさんも力が入ってしまった。眉を描き足し、シャドウ、アイライン、チークも軽く引かれた。化粧前に映った自分の顔を見て、栞は想いがクッキリしてきたような気がした。実際、収録中の栞はいつにも増して饒舌であった。司会はセリナ、同世代のゲストとしてMNBの榊原聖子が出演している。

「係争中ですので、裁判の中身に触れることはできませんので、ご了承ください」

 最初の一言に、梅沢先生は興味を持った。知性と論理性、幼さと美しさが同居し、うかつにもこの十七に満たない少女のなかに「志」を感じてしまった。

「それじゃ、ズバッと聞きます。手島さんが、いまの教育について欠けていると思うことはなんですか?」
「わたしは、生まれは東京ですが、中高は大阪です。ですので、その狭い大阪の中でしかお答えできないことをお断りしておきます」
「はい」
「分かりやすく表現します。大阪の教育に欠けているものはありません」

「ほう……」

「むしろ過剰なんです。まずカリキュラムが過剰です。そのために授業時間が無意味に多くなっています。学校によって程度の差はありますが、0時間目、7時間目の授業は珍しくありません。その上に、生徒に求めているものは、昔の6時間で授業をやっていたころと変わりません。わたしの学校の校是は希望・自主・独立の三つです。この三つを校是、目標と考えるならば、物理的、時間的な制約が多すぎて、現実的には否定しているのと同じです」

「具体的には、どういうところに現れていますか?」

「部活が成立しません。7限が終了して、部活に入れるのは、早くて四時半になります。決められた下校時間は5時15分です。このハンパな時間は、先生の勤務時間に縛られるからです。先生の勤務時間は午前八時半から、午後五時十五分までです。それを越す部活には延長願いが必要です。この延長願いは元来非常の措置です。しかし、熱心な部活は、この非常の措置が常態化しています。だから顧問のなり手が恒常的に不足しています。また、熱心な先生ほど、過剰な労働時間が課されます。部活指導のあと分掌や、教科準備のために時間が取られます。勢い、そういう部活の顧問のなり手は減るか、名前だけの判つき顧問になり、顧問と生徒との乖離という問題にもなっています。結果、部活の減衰に歯止めがかかりません」

「他には?」

「総合学習、総合選択制の問題です。『生徒の多様なニーズに応えて』というのが表看板ですが、無節操な世論に押されて、意味のない授業を増やしています。『園芸基礎』『映画に見る世界都市』『オーラル英語』などの選択授業。お断りしますが、我が校だけではなく、他校にも似たような教科がありますので、一般論として聞いて下さい。正規の授業としてこれらの授業が必要なんでしょうか。ちょっとした土いじり、映画の部分的な鑑賞、喋れもしない英会話。ただのルーチンワークです。こんなことに先生も生徒も時間を取られてるんです。それよりも基礎学科である国・数・理・社、そして英語に力を入れればいいんです」

「今、手島さんは、英語は無用だとおっしゃいませんでしたか?」

「オーラル英語です」

「発音や会話は不要ということかな?」

「はい」

「少し乱暴な気がしますが……」

「理由は二つです。日本語は明治になって近代社会に耐えられる言葉になりました。学術用語から日用品に到るまで日本語化しました。例えば放送と言う言葉、新聞、二酸化炭素、三人称、三人称としての彼・彼女などの言葉の発明です。授業で習う言葉のほとんどが母国語で間に合います。欧米以外では、あまりありません。だから、あえて英会話の授業はいりません。もう一つは……」

 栞は、ため息をついて、背もたれにもたれてしまった。

「なにか、ためらいがあるんですか?」

「……先生達の英語には魅力がありません」

「なるほど、ひょっとして、他の教科や、指導などでも同じようなことを感じていらっしゃるんじゃないですか」

 梅沢先生は、足を組み替えて、ゆっくりとお茶をすすった。

「……どうして、お分かりになるんですか?」
「ハハ、僕も学生のころ同じことを思ったからですよ」

 それから、二人の話は二時間に及び、世代を超えて意気投合した。おかげで司会を務めたセリナにも、同世代の代表として引っぱり出されたMNBの榊原聖子にも出番はほとんど無かった。

 収録語、そのことに気づいた栞はセリナと聖子に謝った。二人とも勉強になったと喜んでくれた。

「二つも年下なのに、すごいと思っちゃった!」

 ことに聖子は喜んでくれて、この後、思いもかけないところで縁ができることになる……。

 

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魔法少女マヂカ・269『富士山頂へ!』

2022-04-21 10:30:51 | 小説

魔法少女マヂカ・269

『富士山頂へ!語り手:マヂカ  

 

 

 富士は魔性の霊峰だ。

 

 とにかく美しい。原宿の屋敷を出発した時には敵愾心に満ちていた自動車組は、箱根山を越えて芦ノ湖の向こうに富士山が見えてくると、一様にため息をついてしまう。

 じかに登ったのは上野の山か飛鳥山ぐらいという東京の人間は、間違いなく感動してしまう。

 まして函谷関にも比肩される箱根の道は、大正時代の車には厳しい。

 這うようにして御殿場まで来た時には、警察車両のフォードが参ってしまい、高坂家のパッカードも五合目に差し掛かったところで言うことをきかなくなってしまった。誰言ううともなく車を降りて山頂を窺うと、御殿場では見えていた山頂が霧にかすんでいる。

「仕方がない、ここからは二人で行こう」

 ブリンダと二人決心を固める。

「万一にも負けることは無いと思うけど、きっとヘトヘトになってる。車を整備して待っていて」

「それに、討ち漏らしたザコが逃げてくるかも知れん、その時は頼むぞ」

「まかせてちょうだい!」

 霧子の力こぶは凛々しくも可笑しい。

「ノンコかて魔法少女やしぃ!」

―― 準魔法少女だけど ――という言葉は呑み込んで頷いてやる。

 一人足りないと思ったら、疲れが溜まったのか、詰子はパッカードの後部座席で寝息を立てている。

 詰子の働きは被服廠跡の働きで十分だ。

「まだ五合目です、どうぞ、これを持って行ってください」

 いつの間に用意されたのか、松本運転手が竹の皮に包んだおにぎり弁当と水筒を渡してくれる。

 竹の皮の結び目が独特、春日メイド長のそれだ。

 緊急事態にも高坂の屋敷は連携がとれている。三百年続いた武門の家ならではのことなのだろうが、高坂家の人たちの心映えは大したものだと思う。

「慶長の大地震では、ご先祖は一番に太閤殿下の許に駆けつけたのよ! 霧子も後れを取ることはないわ!」

「うん、その心意気やよしだよ!」

「行くぞ!」

 ブリンダと目配せすると、雲中の頂を睨んで駆けだした!

 

 タタタタタタ!

 

 背後に「頑張って!」「健闘を祈ります!」「いてまえ!」の声援を受けながら、あっという間に七合目。

 五合目のみんなはパッカードごと霧の底に沈んだ。

「すまん、背負ってくれ……」

「え、もうバテた?」

「すまん、飛行石があれば、富士の山頂なんてあっと言う間なのになあ」

「ディズニーの件も大変だったんでしょ」

「分かるか?」

「アメリカ一の魔法少女がジェット気流ごときで、ここまでくたびれやしないでしょ」

「オレもアメリカ人だからな」

「言えば、アメリカの恥になる……かな?」

「察してくれ」

「霊雁島の第七艦隊に出向になった時があったじゃない」

「ああ、司令の顔がコロコロ変わるやつなあ……レーガンだと思ったら……」

「うん、結局はウォルトディズニーだった。あれって、生前に借りがあったから……なんだね」

「国家機密だ……弁当を食べよう」

「手がふさがってる」

「すまん、オレをオンブしていては食べられないか」

「ブリンダ、ら抜き言葉は使わないんだ」

「え、あ、令和では『食べれない』だったか」

「古い日本を大事にしてくれてるのね」

「単なる癖だ……よし、肩車にしてくれ。それなら食べさせられる」

「いいよ、顔の前にお弁当持ってきて」

「こうか……おお、浮いた」

「日ごろはやらないんだけどね」

「ハハ、嫁の貰い手が無くなるか」

「魔法少女を嫁に? 悪魔か神さまでもなきゃ無理ね」

「それもそうだ」

 思い出す……二年前のあの日……要海友里に見られてしまったんだ、こういう食べ方をしているところを。それがきっかけで、調理研のみんなを巻き込んで、準魔法少女にしてしまった。

 わたしは、令和の時代には休息のためにやってきたはずなのに。

 帰りたい、令和の時代に帰って、調理研のみんなと馬鹿を言いながら日暮里で女子高生の日々を過ごしたい。

 ああ、ダメだ。

 どうも、富士山というのは人を力づけてもくれるけど、感傷的にもしてしまう。

 そうだ、思い出せ。

 M資金を巡ってツェサレーヴィチと死闘を繰り広げたのは、亜空間ではあったけれど、この富士山だ。

「思い出したか……」

あの時も、ブリンダと二人だったわね」

「ああ、あの時はツェサレーヴィチに情けをかけてやったばかりに、インゴット二つしか回収できなかったな」

「今度は………」

「情け無用!」

「徹底的に!」

「「やる!」」

 

 おにぎり弁当を食べ終え、握りこぶしを突き上げると、雲間の向こうに山頂、裂ぱくの声々と地響きが聞こえてきた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・24『お尻事件始末記』

2022-04-21 06:05:18 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

24『お尻事件始末記』

      

 


 二人を前にして、校長はなんと言っていいものか迷っていた。

 手島栞は、遠慮のない目で、アルカイックにスマイルしながら校長を見ている
 石長さくやは、呼び出された校長室が珍しく、気を付けしながらも目だけキョロキョロしている。

 同席者は、学年生指主担と担任(湯浅は謹慎中なので副担)である。

「とにかく、問題が解決していないうちに、こういう行動は困るなあ……」

 さすがの校長も、煮え切らないグチのようになった。

 昨日の新子とさくやがやったことは、『女子高生、お尻抗議!?』というタイトルが付いて、SNSにアップロ-ドされてしまった。スカートをまくって丸出しにしたお尻に「くたばれチキン」「カウンセラー!」とチキンのワッペン。よく見れば、ラバーのお尻を付けているのが分かるのだが、一見本物に見える。そして『フライングゲット!』の台詞と、決めポーズまで入り、バスの乗客の笑い声まで入っている。一晩でアクセスは2000件に達していた。

「まあ、品位に欠ける行動ということで、校長訓戒で、お願いしたいと思います」

 二年の生指主担の磯野が提案した。

「それは、やらんほうが、ええと思います」

 乙女先生は、そう言うとスマホの画面を見せた。

「この動画はコピーされて、『フライングゲット』というタイトルでも出てます。あ、今コメントが入りました『あんたたちやるねえ。キンタロー(^0^)V』本物かどうかはともかく、これのアクセスも2000を超えてます。それに、なにより本人がブログで、この動画を貼り付けて、ひとくさり語ってます」

「『これで、いいのか府教委』です」

 涼しい顔をして、栞が申し添えた。

「ちょっと見せてもらえますか」

 乙女先生は、栞のブログを出して、校長に見せた。

「……『これでいいの、府教委のマニュアル対応!?』……過激だね」
「はい、府教委は、イジメと同じ対応でやってます。カウンセラーのオバサンの話も的はずれでした。それ、本人も分かってるから、駅前でわたしを見てもシカトしたんです。問題は大阪の高校教育のありかたそのものなんです。昨日のコメントは60件あまりですけど、賛成がほとんどです」
「こんなネットをオモチャにしてたら、そのうちしっぺ返し受けるで」

 二年の生指主担の磯野が、無機質に言った。

「そっくりそのまま、お返しします。わたしは傷つくのは覚悟の上です。もう一週間もこんなピント外れな対応やってると、社会問題化しますよ。乙女先生、梅沢忠興で検索してください」
「梅沢……聞いたことあるなあ」
「前文部大臣の諮問委員をやっていた教育学の権威ですよ。わたしの、上司でもありましたが……」
「あ、出てきました。『大阪府立希望ヶ丘青春高校からの考察』長い文章だ……」

 結局、今回の『お尻事件』は、校長の判断でお構いなしになった。校長は皆を帰した後、府教委の指導一課長と電話で長話をした。芳しい返事がなかった、あるいは進展がみられないことは昼の食堂で分かった。

 水野校長は、平気で生徒といっしょに昼を食べる。

 乙女先生は、前任校からの癖で、別の理由で食堂を利用する。いまだに生指としての食堂指導に入ってしまうのだ。もっとも、ここの生徒はお行儀がいいので、指導することはほとんどない。その分、生徒の話を聞いて、リアルタイムで、生徒の状況が掴める。

 栞のことは、やはり話題になっている。生徒の大半は、事の善し悪しは別にして、高校生離れした行動に違和感を持ち始めている。事がどちらに転んでも、栞は、学校の中で孤立していくだろう。

「校長さん、ちょっとまいってるで……」
「え、そうですか。楽しそうに生徒と話ししてますけど」

 真美ちゃん先生は、食後のアイスを美味しそうに食べながら、上の空で返事した。

「MNBの話で盛り上がってるみたいやけど、あれは演技やな。うどんが一筋残って、出汁もほとんど飲んでへん」
「え、そんなとこまで見てるんですか?」
「刑事と教師は、人間観察がイロハや……」

 真美ちゃん先生は、乙女先生が、すごいのか、みみっちいのか判断がつきかねた。

 仕事帰り、駅のホームの端に栞が立っていることに気が付いた。

「あ、栞やないの」
「あ、乙女先生……」
「あんた、ホーム反対側やろ?」
「今日は、これからナニワテレビです」
「今回のことでか……?」
「はい、急遽梅沢先生と対談することになりまして」
「あの、梅沢忠興!?」
「ええ、先生のご希望で……」
「あんた、本気の本気やねんなあ」
「ええ、でも、ほとんど蟷螂(とうろう)の斧だと思ってます。ちょっと毛色の変わった女子高生が面白いことを言ってる……いい時事ネタなんでしょう」
「達観してんねんなあ」
「なんで、こんなホームの端に立ってると思います?」
「え……?」

 意外な質問に、さすがの乙女先生も意表を突かれた。

「ここで、飛び込んだら、確実にわたしは電車にはね飛ばされ、わたしの体は、下りの線路中央か、このホームの中央に叩きつけられます……血みどろになって。駅の中央だから、いろんな人が見てシャメってくれるでしょう。そうしたら……世の中は、もっと本気で考えてくれるんじゃないかしら……」
「栞……」
「ハハ、驚きました? やったー、乙女先生、ドッキリカメラ成功!」

 栞は嬉しそうに、スマホで乙女先生を撮り始めた。

「……栞、電源入ってへんで」
「ハハ、冗談ですよ。ナニワテレビは、U駅の最後尾が一番近いんです。それだけです!」

 いっしょに電車に乗り込んだ乙女先生は、扉のガラスに映る栞の目に、深い闇を見たような気がした……。

 

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鳴かぬなら 信長転生記 69『三人の斥候』

2022-04-20 13:51:14 | ノベル2

ら 信長転生記

69『三人の斥候』信玄   

 

 

 市と信長の偵察隊からは五度の便りが来た。

 

 便りは紙飛行機の裏側に書かれていて、それが学園の二宮忠八のところに届く。

 学院の者の中には「学園の者って大丈夫か?」といぶかる生徒会の石田三成のような者もいる。

 三成は切れ者だが、こういう裏も表も無く人を疑うところは可愛くない。最初は優位に立っていながら最後はボロ負けした関が原もむべなるかなだ。

「学院? 学園? ややこしいなあ」

 剣術馬鹿の武蔵が首をひねるので講釈してやる。

「性別が変わって転生してきた者が転生学院。同じ性別で転生してきた者が転生学園だ」

「あ、ああ……」

「学院の生徒会長は今川義元、生前は駿河の大名。日ごろから化粧をしてたけど、男だろう」

「うん」

「学園の生徒会長は坂本乙女、龍馬の姉だが、転生しても女だ」

「うん」

「つまり、次の転生で『今度はうまくやってやろう』と色気のある者が学院、『このままでいい』と思ってる奴が学園に行くんだ。武蔵も生まれかわったら、前よりスゴイ剣術使いになりたいと思ってるだろう?」

「そうか、向上心のある者が学院なんだな!」

 とたんに目が輝く武蔵、コミュ障のオヘンコだが根はいい奴だ。

「もう一つ聞いていいか?」

「ああ、なんでも聞いてくれ」

 時間までには間がある、暇つぶしに、武蔵はいい相手だ。一途なところも可愛いしな。

「あ、いま可愛いとか思ったろ、わたしのこと!?」

「あ、小粒のツンデレ。儂は好きだぞ」

「ちょ、寄ってくんな(#'∀'#)」

「ああ、すまんすまん……て、エンガチョは勘弁してくれよ」

「ちがう! 印を結んだんだ印を! 心頭滅却だ!」

「そうか、すまん。で、質問は?」

「学院の者が性転換しているのは呑み込めたけど、なんで、みんな美少女なんだ? それも、みんなタイプ違うし」

「それは、みんな高いレベルまで覇道を進んだからであろう。良く鍛えた太刀は、みな美しい。そして、みなそれぞれ景色が違う。そうだろ?」

「うん、そうだな、太刀はそれぞれに美しい……そうか、わたしは名刀なんだな!」

「ああ、そうだ」

「しかしな、信玄」

「なんだ?」

「ちょ、近いし(;'∀')」

「あ、すまん」

「どうして、わたしは三白眼なんだ? 時々だけど、鏡に映る自分が怖いときもある」

「いいじゃないか、ちょっと口下手だけど、武蔵の良いところは剣術の授業で立ち会って以来分かってるぞ」

「そ、そうか……って、触らないでくれる」

「あ、すまん」

 

「来た」

 

 バカ話に背を向けて双眼鏡を構えていた謙信が呟いた。

「来たか!」

 信玄、謙信、武蔵、儂たち三人だけの斥候部隊は、薮から飛び出すと、惜しげもなく丘の上に姿を晒して双眼鏡を構えた。

「同じ赤備えでも、曹茶姫がやるとクーールだな」

「三国志は人も馬も脚が長いからなあ……」

「近衛……ざっと百騎……信長と市が後ろに付いている」

「知らせの通り……あの二人は三国志の中に混じっても遜色ないなあ……」

「武蔵、なにをピョンピョン飛んでる?」

「馬の足元……乗り手の技量は馬の足元に現れる……って、高い高いしなくていいから(#'∀'#)」

「ワハハ……一個大隊は五百余り……」

「あ……馬首を巡らせた」

 敵の動きに敏感な謙信は敵に視線を向けたまま跳躍し、声もたてずに馬の背に佇立した。敵に次の動きがあれば、そのまま跨って接敵しようという姿勢だ。

 ひとたび動けば風の如くだが、大方は山の如くの儂とは好対照。

 この敏捷さと沈着、この衝突が面白く、幾度も戦い、ついには川中島で一騎打ちしたのが懐かしい。

 お蔭で、天下の事は、数丁先を曹茶姫と並んで疾駆する信長にしてやられたがな。

 突っ込んでくると思われた敵部隊は、森の前の街道をはみ出て手前の丘陵を西から東へと抜けていく。あれなら、校舎の三階からでも姿が見えるぞ。

「見せびらかしたかったみたいだな」

「謙信、お前が、車懸かりで俺の陣を掠めたのに似ているぞ」

「しかし、あれで引き返す……後ろに輜重を連れていない」

「信長の知らせの通りだな」

「なんだ、飽きたか謙信?」

「攻めてこないと確信した、さ、帰るぞ」

「そうだな、敵も後ろを見せ始めた」

 敵は、西から姿を現し、その統制のとれた部隊運動と盛大な砂煙を残して、東の森に姿を消しつつある。

「あ、紙飛行機」

 武蔵がジャンプして取ろうとしたら、ひょいと身を翻して謙信の懐に飛び込んだ。

「呪がかかっている……読むか?」

「読んでくれ」

「『敵はロジスティックスを欠いている 出征門前で確認』……二宮忠八からだ」

「なんだ、学園は忠八を斥候に出していたのか」

「いや、これは忠八が個人的にやっているんだろう」

 敵騎兵師団の馬蹄の音も消え果てて、夏の訪れを思わせるような雲が流れるのを見ながら学校に帰る三人であった。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

 

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せやさかい・300『ちょっと、あんたたち!』 

2022-04-20 09:13:22 | ノベル

・300

『ちょっと、あんたたち!』さくら

 

 

 あーーおもしろかったぁ!

 

 もう五日目になる校内探検に一段落つけて中庭のベンチ。

 仰ぎ見る空は、ヒノキ花粉もピークを過ぎたとかで、あたしらの心のように澄み渡ってる。

 

 ちょっと、あんたたち!

 

 背中合わせのベンチから声がしてビックリする!

「「あ、せんせい!?」」

 朝のSHRから顔見てない担任のペコちゃん先生が、怖い顔して睨んでる。

「え、あ……あ……」

「美人が台無しですよ」

 留美ちゃんのワタワタぶりも、うちのお愛想も無視して、こっちのベンチにやってきた。

 もし、不二家がホロ苦ビターチョコとか出したら、こういうペコちゃんがええなあと思ったけど言いません。

「同じ安泰中学出身だから仕方ないとこもあるけど、二人で動きすぎ」

「「え?」」

「なんか、反応までシンクロしてからに、ここは、真理愛学院高校なんだよ。二人でばっかり行動しないで、少しはクラスに溶け込む努力もしなさいよね」

「「あ……」」

 言われて初めて思い当たる。

「でしょ? クラスで友だちとかできた?」

「「あ……ああ(^_^;)」」

「休み時間になると、二人で喋ってるか、教室飛び出すかでしょ。先生、ちょっと心配だよ」

「「すみません」」

「わたしも新学年で忙しいから中学の時ほど構ってあげられないからね……天は自ら助くる者を助くだよ」

「はい」

 留美ちゃんは、しおらしく反省モードになるけど、うちは、かねてからの疑問がムクムクと湧いてくるんを押えられへんかった!

「ペコちゃん先生は、なんで真理愛高校に居てるんですか?」

「え、あ……」

 攻守逆転して、留美ちゃんの反省モードもすっとんでしまう。

「じつはね……」

 ベンチの背もたれに体重を預けて腕組みして空を見上げた。

 こういうポーズをすると、ペコちゃん先生は、ほんまにかいらしい。もし、企んで、こういう表情とかポーズしてんねんやったら、男殺しのペコちゃんて呼んであげる。

 けど、これは天然。

「実はね……安泰中学来た年に真理愛高校の採用、ほとんど決まってたんだけどね、諸般の事情で二年見送りになって、この一月に確定して、こうやって、何の因果か、あんたたちの担任してるわけですよ」

「そうだったんですか」

 留美ちゃんは納得の感じやけど、うちはひっかかる。

「ほな、安泰中学は腰掛けやったんですか?」

「……結果的には、そうなっちゃったけどね」

「ちょ、さくらぁ」

 気の優しい留美ちゃんは、止めときいう感じで袖を引く。

「真理愛は、うちの家から二分でこられるの」

「「え?」」

「学校の裏の方にある神社が家なのよ」

「そうやったんや!」

 いや、せやけどや……近いからいうだけで選ぶのは、中高生ならともかく、社会人というか教師としてはどうなんやろ。

「なんか、言い訳っぽくなるけどね。うちのお父さん体弱くって、神社って、よっぽど大きなところじゃないと大変なんだよ。ここも安泰中学も始業は八時だけども、家を出る時間は一時間違うからね……ま、そういう事情さ、文句ある!?」

「いえいえ」

「アハハハ」

「ね、あんたたちも、もう少しクラスに目を向けようね」

「「ハヒ(^_^;)」」

「あ、そうだ。わたし、ここでも文芸部の顧問だから、入るんだったら言ってね」

「「はい」」

 そう言うと、足早に職員室のある本館の方へ駆けていくペコちゃん。

 照れくさいんと違て、ほんまに忙しいからという感じ。

 一週間続いた学校探検も面白かったけど、この昼休みの五分ほどは、貴重やったと思う。

 しかし。

 カソリックの高校で神社の娘が先生やって、お寺の娘が生徒でいてて、日本はええ国やと思いました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・23『フライングゲット!』

2022-04-20 06:01:04 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

23『フライングゲット!』

     

 


「なんでも、心の中にあるものは話してくれてええねんよ」

 その人は、ラフなうすいグリーンのツーピースを着ていた。
 首には細いチェーンの先に勾玉型の飾りのついたペンダントをアクセントのようにぶらさげ、マシュマロをレンジで軽くチンしたような職業的な優しさ丸出しの顔をして、栞に寄り添った。

 府教委が、アリバイのように送ってきたカウンセラーである。
 数分前に名前を聞いたが、興味のない栞は、すぐに忘れてしまった。

「ほんとうに、なんでもいいんですか?」
「ええ、かめへんよ」
「なんで、わたしにカウンセリングが必要なんですか?」
「そら、そういうとこよ。人と話をするのに対立的な話し方するでしょ。それは手島さんが、今まで、どんなに否定的な扱いを受けてきたかが、よう分かるの。いえいえ、別に否定的な話し方でもええねんよ。とにかく話してちょうだい」

「根本的な話をしてるんです。カウンセリングが必要なのは、学校……大阪そのものです。カウンセリングする相手を間違えてます」
「そやけど、手島さんは、今度の勇気ある行動に出るのに、えらい神経使こたでしょ。で、ちょっと話したら、気い楽になるんとちゃう?」
「あのね、先生。わたしは学校に戦いに来てるんです。戦闘中ですので、ダメージは覚悟の上です。それとも、わたしの戦争に参加していただけます?」
「あのね……」
「これ、学校で問題が起こった場合の府教委の対応マニュアルです」

 栞は、A4の紙の束を置いた。

「管理職からの報告→事情聴取→指導主事の派遣→問題の解析・整理→保護者への説明と生徒への対応。これが過去の事象から読み取れる府教委の対応の大まかなマニュアルです。で、先生がやろうとなさっているのは、ここ。生徒への対応の中のカウンセリングに当たります。分かります?」
「はあ……」
「で、問題の解析・整理の段階で間違えているんです。個人としての生徒が、特定の教師から、暴行あるいはイジメを受けたのと同じ対応できているんです。わたしは本校のカリキュラム及び教育姿勢を問うているんです。その課程で、いささかの軋轢があるのは当然です。いいですか、大事なのは府教委のカテゴライジングなんです。教職員による生徒への暴行・イジメではないんです。むろん精神的な暴行と言っていい事象はありました。だから、父を代理人として告訴もしました。本命の問題は、あくまでカリキュラム、教育姿勢の問題なんです」
「そやけど、手島さん自身傷ついてるのは確かやろし……」
「あなたがやろうとしているのは、心臓が悪い大人を治すために、その子供の子守をしているようもんなんですよ。子守をしても親の心臓は治りません!」
「そやかて、手島さん……」
「先生は、硬直化したマニュアルに組み込まれた、意味のない歯車なんです。よく認識なさってください」

 そういうと栞は、相談室を飛び出した。カウンセラーは、予定の六時まではこなしたので、記録を整理してさっさと帰ってしまった。

「先輩、怖い顔してますよ」

 いつのまにか、さくやが横に並んでいる。

「ゲ、あなた、いつから居たのよ!?」
「校門出たとこから」
「演劇部は無いからね」
「ありますよ。先輩とさくや。顧問に入部願いも出してきましたし」

 駅前近くに来ると、フライドチキンのスタッフがチラシを撒いていた。

「あの、それもらえます?」
「あ、どうぞ。高校生10%割引中!」
「それじゃないんです。胸に付けてらっしゃるチキンのワッペン」
「え、ああ、ええよ。そのかわり店にも来てね」
「はいはい、そこの津久茂屋という団子屋さんもよろしく。わたし、不定期でバイトやってるから」
「そうかいな、お互いよろしゅうに!」

「さくやちゃん、あんた体育のハーパン持ってる?」
「あ、じゃまくさいよって穿いたままです」

 さくやがスカートを少しまくり上げると、学年色のハーパンの裾が見えた。

「ちょっと、こっち来てくれる」

「こんちは!」

「あら、栞ちゃん、今日はシフトには入ってへんけど」

 恭子さんが笑顔で言った。

「ちょっと着替えたいんで、門の陰貸してください。花見のときの小道具も貸してください。あ、この子、クラブの後輩で石長さくや(いわなが さくや)です」
「こんにちは、さくやです。よろしゅうに」
「いや、カイラシイ子やね!」

「いい、タイミングが大事だからね」
「はい、演劇部最初の試練ですね!」
「いくよ!」

 カウンセラーの先生は、バス組のようで、バス停で、バスを待っていた。向かいの団子屋の前に手島栞がいるのは分かっていたが、気づかないふりをしていた。

「カウンセラーの先生!!」

 バスに乗り込んだとたん、バスのすぐ近くから栞と、もう一人の女生徒の無邪気な声がした。カウンセラーの先生は、職業的な笑顔になり、窓を開け、声の方角に手を振った。

 とたんに、二人は後ろ向きになり、スカートをまくりハーパンをずらしてお尻を突き出した。むろん体育用のハーパンの下にラバーのお尻を付けていたのだが、一見するとホンモノに見える。そして、二人のお尻には大きなチキンのワッペンが貼ってあった。二人並べると「くたばれチキン」「カウンセラー!」と読めた。

 バスの中は大笑いになった。バスが動き出すと、二人は『フライングゲット!』とハイタッチして喜んだ。

 その日のSNSに、この画像が投稿されたのは言うまでもない……。

 

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銀河太平記・104『西ノ島は千代田区に似ている』

2022-04-19 16:19:30 | 小説4

・104

『西ノ島は千代田区に似ている』越萌マイ(児玉隆三)  

 

 

 わ、千代田区に似ていますねえ!

 西之島の上空3000mからの眺望を見て、メイが女子高生のような声を上げた。

「千代田区に例えた人は初めてですよ(^▽^)」

 氷室社長が、自分の学校を褒められた男子生徒のように、声を弾ませる。

「ワハハ、御山を皇居に見立てるわけかい!」

 シゲ老人も顔をシワクチャにし、他の者たちも、興味深そうに3000m下の西之島に見入った。

「ということは、有楽町から霞が関の東半分くらいがカンパニーの南区ですね」

 氷室社長が嬉しそうにポインターで南区のあたりをなぞる。

「ナバホ村の東区は丸の内ですよ、村長!」

「丸の内とは、なんだ?」

 兵二が扶桑幕府将軍の近習らしく注釈するが、ナバホ族の村長にはピンとこない。日本語には、かなり慣れたようだが、日本の地理までは分からない。兵二が耳打ちすると、電気が点いたような明るさで声を上げる。

「おお、大酋長の重臣たちが住むところか! マヌエリト感激した!」

「天皇は大酋長じゃねえぞ」

 シゲ老人が注意するが、同席の者たちは暖かく笑っている。

 ナバホインディアンである村長にとって『大酋長』というのが最高の尊称なのだ。村長は、越萌姉妹社にも最大の敬意を払ってくれていて、酋長の正装である地面に着いてしまうくらい長くてゴージャスな羽根飾りを身に着けてくれている。

 初めて会ったころ、村長の日本語はたどたどしかったが、今では、兵二や氷室社長と変わらないほどだ。

 インディアンとしての誇りからか、言葉の終りに「マヌエリト」と付け加えることが多い。

「フートンは四谷か……四谷と言えば、四谷怪談、同志お岩さんの古さとか?」

「あたしは、その『お岩』じゃないわよ」

「これは、なかなかの辻占かも……今期のリゾート開発地区は、神田・秋葉原地区に当てはまりますよ!」

「「「「「おお、アキハバラ!!」」」」」

 恵の指摘にみんなが感動する。

 アキバの略称で呼ばれる秋葉原は、五年前に二百年祭を行い、ますます賑わいを増して、世界で一番のオタクの聖地になっている。そのアキバと方位的に一致しているのは幸先のいいことだ。

 恵の姿は緒方未来のコピーだ。

 このプロジェクトで初めて会った時には驚いた。他人の空似かと思ったら、兵二から『化けたのはいいが、固着してしまって元に戻らない』と聞かされて、これは因縁だろうと思った。

「身の引き締まる思いです」

「いや、越萌姉妹社さんなら、実績、実力ともに問題ありません。大いに期待しています」

「じゃあ、千代田区との相似ってインスピレーションも湧いてきたところだから、姉妹社さんの歓迎パーティーにしよう!」

 賛成!

 お岩さんの提案に皆が賛成して、VRが終了。西之島3000上空の仮想空間から、カンパニーの食堂に戻ってきた。

「氷室社長、市長さんは間に合いませんでしたね」

「申し訳ありません、市長は、資金調達と運用の件で国と交渉中で、少し長引いているようです。本当にすみません」

「いえ、プロジェクトが進んでいる証拠です。そうだ、現場に行くついでに市役所に寄ってみます」

「そうですか、それではカンパニーの者も付けましょう」

「痛み入ります」

「いつまで喋ってんの、宴会だよ、宴会!」

 お岩さんに叱られて、取りあえずは英気を養うことにした西之島総合開発の顔合わせだった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・22『新入部員さくや・2』

2022-04-19 06:13:12 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

22『新入部員さくや・2』

     

 


 乙女先生の最初の授業は一年生だった。

 生徒は全員教室に着席、指示もしないのに、日直とおぼしき生徒が「起立! 礼! 着席!」と号令をかけ、みんなが一糸乱れずやったことにカルチャーショックを受けた。

 入学式で、まあ、大人しめの子達だと感じたが、規律心が高いのに感心した。

 しかし、よく見ると、多くの生徒が、不安で落ち着かない気持ちを抑え込んでいることがよく分かった。先日来の学校の混乱を、一年生なりに敏感に感じているのだろう。

 乙女先生は、サラサラと黒板に図を書いた。


     >  A  <


      < B > 


「AとBのカッコで括られた空間、パッと見い、どっちが広いと思う。ハイ、どっち!?」

 生徒に手をあげさせると、Aが広いとするものが圧倒的に多かった。

「ほんなら、日直。ここに来て、このメジャーで測ってごらん」

 日直の男子は、赤い顔をして計りに来た。

「……え……?」
「5ミリ以下は誤差と考えてね」
「どっちも同じです……1メートル」

 生徒達から「ええ……!?」という声が上がった。

「あんたらは、<とか>いう記号のせいで騙されてるんです。<をどっちむけに付けるかで、見え方が全然違う」

「ああ……」という納得した声が上がった。中にはノートに図を書き、自分で確認する生徒もいた。

「ええか、勉強いうのは、こういうことや。世の中のことは、たいがい<が付いてる。むつかしい言葉でバイヤスという。このバイヤスを見抜く力を、あんたらはこの三年間勉強するんや」

 それから、乙女先生は、サラサラと世界地図をフリーハンドで描いた。

「おお~!」

 というどよめきが起こった。これは、生徒達が、これが世界地図だと分かり、それをフリーハンドで描いた事への、素直な驚きであった。前任校の生徒は驚かなかった。世界地図であることが分からなかったからである。

「あんたらは、世界地図と分かったから驚けてる。この半島はなんていう?」
「はい、C半島です」
「このC半島の国では、日本の評判が、チョト悪い」

 すると、あちこちで、C半島のことを噂する声が上がった。

「うん、あんたらの気持ちも、よう分かる。悪口言われて喜ぶアホはおらんもんなあ。せやけどな、このC半島にある国は、過去一回だけの例外を除いて植民地になったことがない、世界で一つだけの半島国家や」

「へえ……」

 静かに感心した声が湧いてきた。

「いま、ここにある国は、反日であることで、民族やら国家の統一やら団結を維持しよとしてる。そない分かると、ちょっと反日の聞こえ方が変わってくる」
「ああ……」
「と、簡単に納得すんなよ。たとえ、そんな理由があったとしても、ちゃうことはちゃうと言わならあかん。ただ、どういうとこにバイヤスがかかって、そないなるんかという理解は必要言うこっちゃ」
「な~る……」

 生徒は、完全に乙女先生のペースに巻き込まれた。

「大阪は、150年ほど前までは日本一の街やった。東京ができてから値打ちが下がった。特に教育において、その傾向が強いと言われてる。それで、『特色ある学校づくり』とか『人間力のある教育』やら言い始めてる。で、君らは気の毒に、その真っ最中に、この希望ヶ丘青春高校に入学した。今、大阪の高校はバイヤスがかかってる。君らは、そのバイヤスを見つけ、また、逆に利用して勉強したらええ。バイヤスこそが勉強の活力になる!」

「「「「「「「ハイ!」」」」」」」

 生徒達は、乙女先生のロジックにひっかかり、入ったばかりの学校の混乱や自分たちの不安さえ、前進する力に変えてしまった!

 始業の時は、チャランポラ~ン チャランポラ~ンと聞こえていたチャイムも、しっかりキンコンカンと聞こえて授業は終わった。

「すみません、佐藤先生」

 かわいい女子生徒が寄ってきた。

「なに?」
「これ、演劇部の入部届です。先生顧問やから、受け取ってください」
「え、ウチ、演劇部の顧問?」
「はい、そないなってますよ」

 乙女先生は、バレー部の副顧問だと、思っていたが……たしかにオリエンテーションのパンフには、乙女先生が演劇部の主顧問になっていた。こういう事には頓着しない性格なので、あっさりと受け取った。

「先生の授業、とても分かり易いです。ほんならよろしくお願いします!」

 ペコンとお辞儀して、女生徒は行ってしまった。

 あらためて見ると、墨痕鮮やかに「石長さくや」と書かれていた……。

 

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ピボット高校アーカイ部・2『初めてのアーカイ部』

2022-04-18 15:47:09 | 小説6

高校部    

2『初めてのアーカイ部』  

 

 

 へえ、二回モデルチェンジしてるんだ……。

 

 玄関わきのショーケースには歴代の制服が飾ってある。

 元々、要高校は女子高だったから、共学になる前の2001年までは赤線三本のセーラー服。

 その横には二組の男女の制服。

 二十年続いた制服は、今年から改定されて、その横に並んでいる。

 以前の共学制服は、特徴のない紺のブレザー。

 この四月からの制服は、ちょっとカッコいい。

 女子のブレザーは一見変化がないみたいなんだけど、微妙にウエストが絞ってあって、ボタンの位置も二センチほど高い。そのぶん襟元がつぼまってるんだけど、シャッキリしていて、スマートで脚が長く見える。

 男子は、ほとんど詰襟なんだけど、襟が低いのと首元の角を丸くしているので、雰囲気が柔らかい。

 そして、一応男女の別はあるけど、トランスジェンダーへの配慮で、性別にかかわらず、どちらを着てもいいことになっている。でも、入学式で男女逆の制服着用者は見なかった。

 校舎も五か年計画の改築が完成して、まるで新設の学校に入学したみたいだ。

 お祖父ちゃんは、古い学校だ的に言ってたけど、自分の記憶にある昔の印象を言ったんだろう。

 これは嬉しい思い違い。やっぱり、施設とかは新しい方がいいよ。

 

 どこの学校でも、そうなんだろうけど、部活の勧誘はすごかった。

 みんな部活のユニフォームを着たり、部活の道具を持って必死に勧誘していて、見ている分には楽しい。

 こういう勧誘では、吹部とか軽音とか演奏のできる部活はアドバンテージが高い。勧誘も、そんなにガッツイタ感が無いので、それぞれ一曲聞いてしまった。

 ダンス部は、よくスタミナが持つなあと感心。だけど、よく見るとメンバーは三班あって、交代しながら踊っている。

 まあ、全員踊り出したら、ピロティーの半分がダンス部が占領してしまうだろう。

 驚いたのは、コスプレ同好会。

 コミケとかは行ったことないけど、SNSで見たコミケみたいなコスを着て、みんなが写真を撮っている。

 メイド服とか巫女服はどうってことないんだけど、ハイレグの魔法少女とかサキュバスとかはどうなんだろね(^_^;)。

 もう十回くらい「うちの部活に!」って迫られたけど「もう決まってますから(^_^;)」というと残念そうな顔をされたり、早まっちゃいけない的なことを言われたり「え、どこに決めたの!?」と迫ってこられたり。

「アーカイ部です」

 そう答えると「え、それなに?」って顔をされる。茶華道部の三年生だけが「アーカイ部じゃ仕方ないね」と返された。

 

 それで、部活の勧誘広場(正門からピロティーにかけて)を離れて、部室があると言われている旧校舎を目指した。

「え…………?」

 旧校舎は、ホームページの写真とかで見た旧校舎ではなかった。どう見てもそのもう一つ前の木造校舎。

 旧々校舎と言った方がいいような、明治村とかに似つかわしい建物だ。

 それも、中央部分と思われる玄関を含んだ部分だけが残されていて、いかにも文化財という感じ。

 玄関も廊下も電気が点いていない。階段の踊り場の窓からこぼれてくる明かりが唯一で、玄関に足を踏み入れただけなのに、ちょっと閉じ込められた感がある。

 

 ギシ……ギシ……

 

 恐るおそるという感じで足を進めると、階段の横、一つ扉を隔てて『亜々会部』の気の札がかかっている。

 トントン

 ひょっとしたら留守かと期待したけど、しっかり返事が返って来る。

「入れ」

 女の人の声だけど、特殊部隊の女性隊長を思わせるような厳しい感じ。お祖父ちゃんならララ・クロフト、いや、攻殻機動隊の草薙素子って言うだろう。

 覚悟を決めてドアノブを握る。

 ギーー

「失礼します」

「新入生の田中鋲だな、話は聞いている」

「あ…………」

 顔を上げて驚いた。薄明りの部室の奥、肘掛椅子をクルリと回して、こちらを向いた女子生徒。

 コンマ一秒で、ロン毛美人だと知れるんだけど、この人の制服はショーケースで見たばかりの赤線三本のセーラー服だ。

 思ったとたんに、頭がクラっとした……。

 

 

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やくもあやかし物語・134『土星の輪から石ツブテ』

2022-04-18 10:39:14 | ライトノベルセレクト

やく物語・134

『土星の輪から石ツブテ』 

 

 

 わたしの生活圏はめちゃめちゃ狭い。

 

 家は三百坪もあるんだけど、ふだんの生活は自分の部屋とリビングぐらいで済んでしまう。

 外に出ても、一丁目と二丁目と三丁目で済んでしまう。

 一丁目が自分の家で、学校が三丁目。二丁目は、その途中で、折り返しの坂道と、その前後の道。

 まあ、中学生の生活圏って、基本的に家と学校だもんね。

 図書委員仲間の小桜さんや杉野は部活とかもやってるみたいで、わたしよりは世界が広いかも。

 たまに、図書室の窓からグラウンド見ると、小桜さんや杉野が部活やってるのが目に入る。

 二人とも、図書委員の時とは別人。元気に走ったり球を投げたりして、学校のホームページに『生徒の日常』とか『スクールライフ』の見本の写真に使えそう。

 わたしは、自分の姿を写真とかに撮って愛でる趣味は無いけど、自分の部屋でくつろいでいる姿は、グラウンドの二人に負けていないと思う。それくらいの自負はある。

 でも、八畳に満たない部屋でくつろいでるのと、グラウンドで元気に部活してるのとでは、次元が違って比較にならないよね。

 

 そんなわたしが、ロケットに乗って土星に向かってる。

 

 火星でロケットのAIが『エマージェンシ―エマージェンシー!』って叫んで、アキバからいっしょに乗ってくれていたみんなが二段目に移動。わたしも、避難しようと思ったら、ハッチが閉まってしまって、わたしだけが三段目に残されてしまった。

 チカコと御息所はポケットにすっこんでしまっているし、アキバ子はふたを閉めてるし。ほんとに、わたし一人だよ。

「イザとなったら言ってください、空き箱の中に入れば、とりあえずアキバにはテレポできますから」

 責任を感じたのか、フタをちょこっと開けてアキバ子が言う。

「う……うん」

 あいまいな返事。

 自分の部屋まで戻れて知らんふりしてられるならいいんだけどね、みんなが待ってる駅前広場になんか戻れないよ。

 ああ、なんか、ゲロ出てきそう。

 生唾呑み込んでゲロっ気を誤魔化す。

 すると、耳の奥がグチュって言って、シューって音がしてきた。

 鼓膜が裏返って、自分の血の流れる音が聞こえたみたいな(;'∀')。

 

 シューーーーーシューーーーーシューーーーー

 

 あ、これは土星の輪が回る音だ!

 真空の宇宙空間で音が聞こえるってあり得ないかもしれないんだけど、ぜったいそうだ。

 だって、音に合わせて土星の輪からツブテみたいなのがロケット目がけて飛んでくる。

「目をつぶらないで避けてく! 当たったら、ロケットなんかいっぱつだから!」

「避けるって……ワ!」

 危ないと思ったら、ロケットが自分の体みたくツブテを避けた。

「ね、できるでしょ!」

「う、うん……」

 ヒョイ  ヒョイ  ヒョイヒョイ  ヒョイ

 なんとか避けるんだけどらちが明かない。

 ツブテは土星と土星の輪の遠心力で飛んでくるんだよ。

 だったら、土星自体の回転を停めないとツブテは止まない!

 百回くらい避けていると、土星の回転するのよりも速い力でツブテが飛んできていることに気が付いた。

 思ったとたんに、土星の輪の上に犬が乗っているのに気が付いた!

 

 犬は人間みたいに二本足で立っていて、輪の中に無尽蔵にある石ころを掴んではツブテにして投げてきているんだ。

 土星の輪が回転して、向こう側に行ってしまいそうになると、反対側にテレポしてツブテを投げるって動作を繰り返している。

 き、キリが無いよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・21『新入部員さくや・1』

2022-04-18 06:18:35 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

21『新入部員さくや・1』

    

 

「うち、演劇部に入りたいんですけど」

 三年生への演説が終わって校門に向かうと、いきなり校門脇の桜の木から声がした。

 桜が喋るわけがないので、正確には視野の外になっている桜の木のあたりから人の声がした。不意を突かれた感じで、なんだかおとぎ話めいた気分になった。

 小柄なツインテール、見るからに一年生が立っていた。

「これ、入部届です!」

 いきなり、鼻の高さに入部届が突きつけられ、栞は珍しくたじろいだ。

「これで、二人の演劇部になりますね♪」

 どうにも調子が外れているのだが、その外し加減が小気味よく意表を突いてくる。栞は体勢を立て直すのに数秒かかった。

「珍しい、毛筆だね。石長さん。あなたが書いたの?」
「えと、保護者の名前以外はわたしです。それから、イシナガじゃなくてイワナガです、石長さくや」
「でも、わたし、今年はやる気ないよ」
「どーしてですかぁ! あ、やっぱ、時間のせいですか?」
「もあるけど、なんか去年一年やって、冷めちゃった」
「冷めたのなら、暖かくしましょう。季節的にも、これからどんどん暖かくなりますし♪」
「ハハハ、あなたみたいな子初めてだ。どうやって暖かくするの?」
「わたしとといれば、きっと暖かくなります。じゃ、明日から、よろしくお願いします♪」

 それだけ言うと、さくやは、さっさと行ってしまった。

「まあ、いいか。年下のお友だちぐらいにしとこ」

 角を曲がったところで、テレビのクルーとレポーターのオネエサンが待ちかまえていた。

「すみません。ナニワテレビなんですけど、手島栞さんですよね」
「はい、そうですが」

 この手合いは手玉に取りやすい。

「今度の、栞さんのレジストですけど……」
「言葉には注意してください。わたしのはレジストじゃありません。問題提起です」
「失礼、その問題提起ですけど。それに至った心境とか、今日は保護者説明会が行われますが。栞さんは出席なさらないんですか。夕べの記者会見じゃ、大活躍でしたが」
「ほんとうに失礼ですね。テレビ局の名前だけ言って、もう質問ですか」
「あ、ごめんなさい。わたし、アナウンス部の芹奈って言います。ほら、これIDです」
「お名刺、頂戴できますか?」
「あ、はいどうぞ」

 芹奈は、ホイホイと名刺を出した。栞はいきなりスマホを出した。

「もしもし、ナニワテレビのアナウンス部ですか。わたし、手島栞と申します。部長さんいらっしゃいますか……じゃ、次長さんでけっこうです」
「なんで、ウチの局に……」
「おたくに、芹奈澄香ってアナウンサーいらっしゃいますか……あ、この人です」

 芹奈を写真に撮って送信した。

「……本物、じゃ、どういう社員教育されてるんですか、ただでも狭い通学路。カメラさん、音声さん、ADさんで道が塞がってます。取材のあり方に気を付けてください」

 芹奈はじめ、クルーは道ばたに寄った。

「それから、わたしの問題を取り上げてくださるんなら、一年のスパンで取材して下さい。教育問題を芸能問題と同じような興味本位で取り上げないでください。以上ご検討の上……むろん編成局長レベルでお考え頂かなきゃいけませんが。その上で、学校長を通じて取材を申し込んでください。なお、この通話と、取材の様子は録画、録音してます。このあとSNSに投稿します。以上」
「あの、手島さん……」
「以上、次長さんに申し上げた通りです。では、これで失礼します」

 万一のことを考え、フェンス越しに見ていた乙女先生は舌を巻いた。

 その夜、保護者説明会が開かれたが、校長は低姿勢ながらも、そつなくさばいた。

 謹慎中の教師たちは、警察の捜査と府教委の調査を待ち、校長として対応したいこと。また、外部の有識者を交えて学校改革のための委員会をたちあげること。それは府教委の意向もあり、現時点では、規模や構成までは言及できないこと。そして、トドメには、会議発足の暁には、ぜひ保護者の中からも参加してもらいたい旨を、一人一人の目を見ながらお願いした。校長に見つめられ二秒とは目を合わせられない者達ばかりであった。

 父から保護者会の様子を聞いて、栞は半ば諦めた。校長の対応は「学校を守る」という点では満点だったが、本気で問題を解決しようという意思が欠けているように思えた。真面目で真剣な話しぶり、筋の通った論理展開。ドラマで校長役が要るとしたら、この人ほどの適役はいないだろうと思った。

 ただ、刀に例えれば「良く切れる」ことを宣伝しているようにしか見えない。栞の好きな言葉は、こうである。

―― 良く切れる刀は、鞘の中に収まっているものだ ――

 その日の『栞のビビットブログ』はアクセスが二万を超えた。ナニワテレビの件はSNSにも流れ、電話に出た次長がニセモノの平のディレクターであったこともバレて、栞が投げたボールはテレビの報道のあり方にまでストライクゾーンを広げた……。

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せやさかい・299『弥次喜多みたいな』

2022-04-17 16:40:16 | ノベル

・299

『弥次喜多みたいな』頼子 

 

 

 玄関の前を通りかかったら大きな声がした。

「ちょっと、そこの一年生!」

 声で分かった。長瀬先生が一年生を叱ってる。

 なにごとにも白黒のハッキリした先生で、いけないことをした生徒に容赦がない。

 で、玄関のガラス越しに見ていると……なんと、叱られているのは、我が愛しき後輩二人。

「なにやらかしたんだろうね?」

 わたしの疑問を無視して、ソフィーは周囲を見渡す。

「ヨリッチ、次は、真理愛館よ」

「え、なにが?」

「あの二人の行き先よ」

「そなの?」

「うん」

 ソフィーは、校内では友だち言葉だ。どうかするとタメ口ったりする。呼び方も『殿下』じゃなくて『ヨリッチ』だしね。

「あれ、ちがうよ」

 二人は、真理愛館のある外ではなくて二階への階段を上がっていく。

「だいじょうぶ、先回りしてやろう」

 自信満々に言うので、図書館として使われている真理愛館へ。

「ちょっとだけ代わってくれる? 昼休みいっぱいは座ってるから」

 カウンターに行くと、図書当番の三年生に声を掛けるソフィー。

「え、いいの? ソフィー当番じゃないでしょ?」

「うん、大丈夫」

「よかった、職員室に用事があったから助かる」

「どうぞどうぞ。ヨリッチは目立たないところで見てて、もう三十秒もしたら、やってくるから」

「うん」

 ソフィーは、ササッと手櫛で髪の分け方を変えると懐からメガネを取り出した。

 わたしが二階の書架の陰にまわると同時に二人が入ってきた。

―― キョロキョロしちゃってぇ、初々しいなあ ――

 どこかで見た印象……思いついて吹き出しそうになる。

 小学生の頃読んだ『東海道中膝栗毛』の弥次さん喜多さんが、初めて奈良の大仏を見た時の様子に似ている。

 目を輝かせてキョロキョロしちゃって、とっても可愛いぞ(^0^;)。

「あのう、本は、いつから借りられるんですか?」

 留美ちゃんがカウンターのソフィーに質問した!

「あ、一年生ですね。来週には図書館のガイダンスがあるから、それ以降になります」

 シラっと応えるソフィー。

「蔵書数は、いくらくらいなんですか?」

 え、気づいてない?

「えと、ちょっと待ってね……」

 司書室に入って笑いをこらえるソフィー。

 でも、それは一瞬の事で、なにやら司書の先生と会話すると、またポーカーフェイスで戻ってきた。

「開架図書が15000、閉架図書が20000冊だそうですよ」

「「35000冊(꒪ȏ꒪)!!」」

「あ、声大きいよ」

「「すみません」」

 目を丸くすると、外したメガネを拭いているソフィーにも気づかずに、外に出ていく二人。

 さすがに、真理愛館に居る間は我慢したけど、予鈴が鳴って外に出て、二人で思い切り笑ってしまった。

 こっそり校舎の陰から窺うと、二人は高山右近と細川ガラシャの像の前で盛り上がってる。

 

「ハアー……さくらはまんまだけど、留美ちゃんは変わったわねえ……」

 ソフィーが感慨深そうにため息をつくと、わたしもつられてため息になる。

「そうだね……」

「ヨリッチ、寂しいの?」

「そんなことない! です!」

 昔のソフィーの口調で返してやったけど、女王陛下の諜報部員である、我がガードは、シレっと「さあ、鐘がなるわよ」と指を立てる。

 すると、ソフィーが魔法をかけたように五時間目のチャイムが鳴ったのであった(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

 

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