魔法少女マヂカ・268
『帰ってきたブリンダはエコノミー症候群よりひどかった』
風の便りだ。
突然帰ってきた訳を聞くと、ブリンダは魔法少女のローブを脱ぎながら返事した。
「ちょっと、わたし風呂上りなのよ。埃が立つじゃない!」
「すまん、風の精霊たちにもみくちゃにされながら帰ってきたんで、あちこち痛いんだ。ちょっと、揉んでくれ。揉まれながら話してやる」
「もう!」
ペシ!
「尻を叩くな、ただでも痺れてるんだ……イタタタタ……」
「で、風がどうしたって?」
「日本が大変だってな……震災の弱みに付け込んで進入してきた霊魔、それは日本の魔法少女が水際でやっつけた……マヂカたちの働きだろうと、オレも嬉しかったんだがな」
「やっぱり、魔界の噂は早いねえ」
「ところがだ『霊魔がやっつけられたというのに、なんで、お前たちは逃げてきてるんだ?』と聞いてやった。そうだろ、日本が落ち着いているなら、ジェット気流に乗ってアメリカまで逃げてくる必要はないもんな……すまん、太ももとふくらはぎ揉み解してくれ……あと、腰もな……ジェット気流はエコノミークラスよりもひどくてな……すると、口をそろえて『時空を超えて悪い奴が来る!』って言うんだ……今度ばかりは魔法少女に勝ち目はないって……それで、ディズニーのことも粗々に済んだことだし、思い切って、竜巻の精霊に頼んでジェット気流に乗せてもらったんだ。大西洋を越え、ユーラシア大陸を渡り、日本海に差し掛かって日本が見えてくると、ジェット気流は大きく蛇行して日本列島を避けていくではないか! これでは、日本に戻れず、グルグルと地球を周るばかりだ! で、思い切って樺太の上空で飛び降りて、あとは飛行石の力でなんとか……」
グギ!
「ヒッ(⁽⁽ ⁰ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ⁰ ⁾⁾)!」
「わたしの飛行石は……?」
「す、すまん……」
ブリンダが取り出した飛行石は、星砂のように小さくなってしまっていて、ベッドの上を転がると、ブリンダの鼻息で儚く飛んで行ってしまった。
なんで走らなきゃならないのおおおお!
あくる日、クロ巫女から連絡があった――霊魔が現れました――と。
連絡してきたということは、暗に――加勢しに来い――ということだ。
だいたい――これからは自分たちでやる!――と、わざわざ言いに来るのは――手助けに来い――ということだろうとは、思っていた。
連絡の式神には地図まで持たせていたし、それも、令和の時代のグーグルアースの仕様だから、これは、もう、大至急ということなのよ。
で、寝起きのブリンダとJS西郷と詰子を引き連れて現場まで走っている。ノンコと霧子は松本運転手のパッカードに乗せてもらって後を付いてくる。箕作巡査がフォードで追いかけてくれるのは心温まるんだけど、肝心の行き先がね……。
どうして富士山頂なのよおおおお!
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査