大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・268『帰ってきたブリンダはエコノミー症候群よりひどかった』

2022-04-17 10:26:13 | 小説

魔法少女マヂカ・268

『帰ってきたブリンダはエコノミー症候群よりひどかった

語り手:マヂカ  

 

 

 風の便りだ。

 

 突然帰ってきた訳を聞くと、ブリンダは魔法少女のローブを脱ぎながら返事した。

「ちょっと、わたし風呂上りなのよ。埃が立つじゃない!」

「すまん、風の精霊たちにもみくちゃにされながら帰ってきたんで、あちこち痛いんだ。ちょっと、揉んでくれ。揉まれながら話してやる」

「もう!」

 ペシ!

「尻を叩くな、ただでも痺れてるんだ……イタタタタ……」

「で、風がどうしたって?」

「日本が大変だってな……震災の弱みに付け込んで進入してきた霊魔、それは日本の魔法少女が水際でやっつけた……マヂカたちの働きだろうと、オレも嬉しかったんだがな」

「やっぱり、魔界の噂は早いねえ」

「ところがだ『霊魔がやっつけられたというのに、なんで、お前たちは逃げてきてるんだ?』と聞いてやった。そうだろ、日本が落ち着いているなら、ジェット気流に乗ってアメリカまで逃げてくる必要はないもんな……すまん、太ももとふくらはぎ揉み解してくれ……あと、腰もな……ジェット気流はエコノミークラスよりもひどくてな……すると、口をそろえて『時空を超えて悪い奴が来る!』って言うんだ……今度ばかりは魔法少女に勝ち目はないって……それで、ディズニーのことも粗々に済んだことだし、思い切って、竜巻の精霊に頼んでジェット気流に乗せてもらったんだ。大西洋を越え、ユーラシア大陸を渡り、日本海に差し掛かって日本が見えてくると、ジェット気流は大きく蛇行して日本列島を避けていくではないか! これでは、日本に戻れず、グルグルと地球を周るばかりだ! で、思い切って樺太の上空で飛び降りて、あとは飛行石の力でなんとか……」

 グギ!

「ヒッ(⁽⁽ ⁰ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ⁰ ⁾⁾)!」

「わたしの飛行石は……?」

「す、すまん……」

 ブリンダが取り出した飛行石は、星砂のように小さくなってしまっていて、ベッドの上を転がると、ブリンダの鼻息で儚く飛んで行ってしまった。

 

 なんで走らなきゃならないのおおおお!

 

 あくる日、クロ巫女から連絡があった――霊魔が現れました――と。

 連絡してきたということは、暗に――加勢しに来い――ということだ。

 だいたい――これからは自分たちでやる!――と、わざわざ言いに来るのは――手助けに来い――ということだろうとは、思っていた。

 連絡の式神には地図まで持たせていたし、それも、令和の時代のグーグルアースの仕様だから、これは、もう、大至急ということなのよ。

 で、寝起きのブリンダとJS西郷と詰子を引き連れて現場まで走っている。ノンコと霧子は松本運転手のパッカードに乗せてもらって後を付いてくる。箕作巡査がフォードで追いかけてくれるのは心温まるんだけど、肝心の行き先がね……。

 どうして富士山頂なのよおおおお!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・20『栞のイマジネーション』

2022-04-17 06:22:19 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

20『栞のイマジネーション』 

   

 


 予想通り新子の『栞のビビットブログ』は炎上した。

 見出しがふるっている。ブログ名の下に《希望ヶ丘しい! 青春高校》と、一見意味不明だが――希望がおかしい――ともじってあって、栞が疑問に思った学校のカリキュラムが全て載っていた。

 単元毎の授業内容がコンパクトにまとめられている。一見して総花的な、良く言えば「浅く広く」 栞の言葉では、体系のない「その場しのぎ」の授業内容がよく分かる。

 また、教師が、この準備のためにどれだけ時間を取られているかにも触れてあり、生徒も教師も、総合的に無駄なことに時間と労力が取られていることもよく分かる。コメントは、あえて管理者の承認を外してあるので、生の反応がそのまま返ってきていた。

 おおむね「賛成」が2/3、「反対」が1/3というところである。気になるのは、「あなたのお陰で、学校は晒し者です」「評判落とした責任取れ!」という、明らかに学校関係者のものがあることである。

「あんたねえ、うちら三年のこと考えてへんやろ。進路にどれだけ影響ある思てるのん!」
「そうや、あんたみたいな気楽な二年生とはちゃうねんからね!」

 駅前で栞が三年生の女子に絡まれている。

 駅前の登校指導に出ていた乙女先生と真美ちゃん先生が、これに出くわした。

「……止めんと、あかんのんちゃいます?」
「もうちょっと様子みてからね……こら、そこの一年、団子になって歩くんやない! 自転車は一列で行け!」

 本務のほうに忙しい。

「大学は、推薦の場合、調査書と、面接が基本。一般入試は、センター試験と大学の入試で決まります。不安にさせたのは、謝ります。でも、わたしの主張に問題がないのはブログでも、You Tubeでも分かります。できたら、それに沿って理性的に話してください。うさばらしなら、なんでも書き込みしてください。事前承認とかの検閲はやってませんし、匿名も大歓迎です。これ以上は通行の妨げになります。本日、放課後、中庭で、お待ちしています。話のある人は来てください。じゃ、失礼します」

 栞はスタスタと行ってしまった。

「な、様子見て正解やろ。あとはウチやるさかい、真美ちゃん生指にもどっといて。今日は栞のことで、まだまだ、起こると思うよってに……ほら、そこの三年、いつまで溜まっとんねん。便秘になるぞ!」

 生指に戻ると、案の定だった。

「こういうことは、予測できたはずです。なんで立ち番を立てるとかして、学校の姿勢を示さないんですか!」

 謹慎中の梅田に代わり、首席の桑田が栞に詰め寄られていた。部長の机の上には、嫌がらせらしいメモなどが、小さな段ボール箱に一杯になっていた。

「原因は自分にもあるとは思わへんのんか?」
「思いません。わたしは三ヵ月も中谷先生を通じて申し入れをしてきました」
「中谷先生だけやろ」
「それが、意見具申の正規のルートでルールだからです。桑田先生、中谷先生とは背中合わせですね。申し入れしたときは三回とも席にいらっしゃいました。ご存じなかったんですか」
「知らん」
「パソコンで、トランプゲームやってらっしゃいましたよね」
「アホぬかせ」
「三回目に、思いあまって写真に撮って、偶然ですが、先生のパソコンの画面も写りこんでいます。職務専念上問題があると思われますが。また、首席という立場にありながら、直接わたしから聞いていないということで、白を切るのは問題ありませんか?」
「手島……!」
「ご注意しておきますが、ここに入室してからの発言は、全て録音してあります」

――録音をやめなさい――

 桑田は、メモに書いて示した。栞はシャ-ペンを取りだしノックした。

「これ、シャーペン型のデジカメです。日時こみで記録させていただきました」

 桑田の顔が、赤黒くなった。

「申し入れについては、善処する」
「善処とは?」
「関係教職員で協議の上、対応するということです!」
「いささか遅きには失しますが、了解します。失礼しました」

 栞は、さっそうと生指の部屋を出ていった。

「下足室は、出水先生に二十分間見てもらって、嫌がらせのメモを入れた生徒は記録してもろてます」
「そんな話は……」
「夕べしました。人の話はちゃんと聞こうね、桑田クン……記録は、公表しません。情報管理にも問題無いとはいえへんようやし。ほんなら、一年のオリエンテーションに行ってきます」

 放課後、十名ほどの、主に三年生の生徒が、栞を取り巻いた。

「いま、何時だと思ってるんですか!?」
「なんやて?」
「いえ、先輩のみなさんを責めてるんじゃないんです。ただ今四時四十分。もう時間が押しているんで始めさせていただきますが、ほんとうは、ここに来るつもりだったのに来られない方もいらっしゃると思います」
「せや、リノッチら来たがってたけど、進路説明あるさかいな」
「変だと思いませんか、希望、自主、独立が我が校の校是です。こんな放課後の時間、極端に短く、また、定見のない指導で時間をとられ、この憎き手島栞にも会いにこられないのは、おかしいと思われませんか?」
「そら、たまたま……」
「たまたまなんでしょうか。去年一年、わたしは演劇部にいました。ろくに稽古時間もとれず、予選敗退でした。で、今は部員は、わたし一人です。なぜでしょう。つまらない総合の授業に縛られ、縦割りの指導を受け、二年生の場合、放課後の1/3、三年生は2/3が食われてしまいます」
「そら、分からんことないけど、三年は進路かかってるさかいなあ」

「これを、見てください」
「ん?」

「演劇部の三年生が、どんなことで放課後の時間が取られたかということの一覧です」

 エクセルを使って。見事な一覧にしたものを皆に配った。栞は出席者を見込んでいたのだろうか、手許には自分の分しか残っていなかった。

「全部について分析しているヒマはありません。面接指導、論文指導に注目してください。面接指導は、文字通りの面接の練習と、進路先決定のための面接に別れます。実に三年生は、これに半分以上が取られています。他に各種行事や、そのための委員会とダブルブッキングしているものもあります」
「……ほんまや」
「で、言うもはばかられますが、面接指導のA先生、集会でのお話、いかがですか? くどくて長いだけで、中身が生徒に伝わりません。論文指導のB先生、定期考査で問題の論旨が分からないと苦情が出たことがあります……」

 栞の演説は30分の間に簡潔にまとめられていた。資料を配ったこと、主張することに統計資料の裏付けがあること、挙げる例が的確、かつ典型的で説得力があることで、十名の抗議者を賛同者に変えてしまった。

 蘇鉄の陰から聞いていて、乙女先生は感心した。

「あの子の演説は勉強になるなあ」
「ほんとですね。先生みたい!」

 本物の教師でありながら、成り立ての真美ちゃん先生は正直に感心した。

 そして、栞の話を、それと知られずに聞いていた一年生が一人いた……。 

 

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銀河太平記・103『西之島チルル空港』

2022-04-16 16:36:51 | 小説4

・103

『西之島チルル空港』越萌マイ(児玉隆三)  

 

 

 朝霞駐屯地の前から飛び立って南南東に90分、!マークがバク転したような島が見えてくる。

 西之島だ。

 去年、小笠原村から独立して西之島市になった。

 堂々の国際空港を持ち、人口も十万を超えては村でもあるまい。

 かつて、会社、村、胡同と呼ばれた地域は、それぞれ『南区』『東区』『西区』と改編され、市庁舎は、かつて北としか呼称されていなかった『北区』に置かれている。

 北区の西端からは橋がのびていて、埋め立てによって造成された『西之島国際空港』に繋がっている。

 今日は、その国際空港ではなく、南区の南端のチルル空港に下りる。

 空港は『氷室空港』と呼称されるはずだったが、社長の氷室が固辞し、落盤事故で最後まで遺骨の引き取り手が現れなかった犠牲者の名にちなんでいる。

 

 プシューー

 気蓄機から盛大な蒸気を吐き出して着地させる。

 エプロンまで滑走させるのも待ちきれない様子で、空港ビルから数名の、おそらくは氷室カンパニーの人たちが駆けてくる。

 ウィーン

 ハッチが開くと、馴染みの加藤恵たち、カンパニーの主要メンバーが集まっている。

「出迎え有難う、恵。こちら妹の越萌メイ、越萌姉妹社の専務です」

「ようこそ、メイさんマイさん。こちらが氷室カンパニー社長の氷室睦仁です」

「氷室です。もっと早くお会いしたかったんですが、本決まりになるまでは会ってはいけないと社員に止められまして、失礼いたしました(^_^;)」

「いえ、こちらもメイから同じことを言われていましたので、お互いさまです」

「わたしの横に居ますのが、西之島銀行本店店長のニッパチです」

「ようこそ……あ、失礼、音声の切り替えを……ようこそいらっしゃいました。ごいっしょに開発計画を実施できることを楽しみにしております」

 きれいな女性の声になったので、ちょっとビックリ。これまでの事前折衝の記録はでは、パチパチの声はデフォルトの男性音声だった。でも、指摘するのは失礼だ。ポーカーフェイスで通す。

「その隣が、技術部長のシゲ老人です。一徹ものですが、技術に関しては柔軟な考え方をしてくれます」

「ああ、そういうことで、よろしく。ところで、おたくのボートは、ちょっと変わってるねえ」

「ええ、むかし大阪で考案された軽コスモボートが原型になっているんです。うちのメカニックが資料を基に作ってくれまして、フチコマって言うんです」

「あとで見せてくれっかい?」

「ええ、どうぞどうぞ」

「止した方がいいですよ、ぜったい分解しますから」

「余計なこと言うな、メグミ!」

「アハハ、いいですよ。お互い刺激し合うのはいいことですから」

「いえ、島中のメカニック呼んできて見せびらかしますから、パーツは、あちこち回って、元に戻るのには一か月はかかりますから」

「そんなにはかからねえ、二週間であげてやらあ!」

「あはは、それは、ちょっとご勘弁を……」

 アハハハ

 みんなが笑う。いい出だしだ。

「市長や他の代表の者たちには、明日以降会っていただけるように調整しています。わざわざお越しいただいて、不手際なことで申し訳ありません」

「いいえ、それだけ可能性の高い土地、そして事業ということです。先が楽しみです」

「はい、そうです。それでは宿舎の方にご案内いたします、まずは、空港ビルの方へ」

 フチコマを整備士に任せると、なんだか、昔からの知り合いのような気やすさで空港ビルに向かった。

 管制塔の向こうには、西之島火山が暖機運転中のSLのように煙を吐いている。

 その逞しさは、吉兆のようにも見え、天下大乱の凶兆のようにも見えた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
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せやさかい・298『校内探検・図書館ほか』

2022-04-16 10:00:57 | ノベル

・298

『校内探検・図書館ほか』さくら 

 

 

 中学では文芸部やったさかい違いが分かる。

 

 普通の学校にあるのは『図書室』なんです。そやけど、ここは『図書館』なんです。

『図書室』の『室』いうのは、建物の中の一室のこと。『図書館』いうと独立した一個の建物。

 イメージとしては、通い慣れた堺市の中央図書館。

 で、目の前の『真理愛館』は、まさに、この図書館なんですわ!

 神戸の異人館にあってもおかしないクラシックな建物で、屋根はうろこみたいで、真ん中に尖塔が立ってて時計と風見鶏が付いてる。

 入り口のドアには五段の石段。脇にスロープが付いてるのは今風やけど、入り口のドアは重厚な木製でブロンズの看板に『S・MARIA・HOLE』の飾り文字。

 ズイン

 ノブに手を掛けようかと思ったら、自動で開いたんでビックリ。

「うわあ……」

 留美ちゃんが歓声をあげる。

 つられて首を上げると吹き抜けのホール。

 書架は天井まであって、奥に階段を上って二階……にも書架が並んでるみたい。

「今日は見るだけね」

 念を押しておく。留美ちゃんは本の虫やさかい、ほっといたら放課後まで居りかねへん(^_^;)。

「雑誌もラノベも充実してるね!」

「ほんまや」

 中学では、PTAの申し入れで、おもしろいラノベはみんな書架から外されてしもた。

 ラノベにはR15指定のもんなんか、実はほとんどない。

 せやけど、PTAはタイトルとかイラストとかがイカガワシイというだけで禁書目録に入れてしまう。

「あのう、本は、いつから借りられるんですか?」

 こらえきれずにカウンターの係りに質問する留美ちゃん。

「あ、一年生ですね。来週には図書館のガイダンスがあるから、それ以降になります」

 品のよさそうな図書係りの三年生が教えてくれる。

「蔵書数は、いくらくらいなんですか?」

「えと、ちょっと待ってね……」

 図書係りさんは、奥の司書室に聞きに行ってくれる。

「開架図書が15000、閉架図書が20000冊だそうですよ」

「「35000冊(꒪ȏ꒪)!!」」

「あ、声大きいよ」

「「すみません」」

 とりあえずは、驚いたところで図書館を出る。

 用心してたから、昼休みは、まだ五分ほど残ってる。

「あっち行ってみよか?」

「うん」

 足を伸ばしたのは正門入った校舎の脇。

「これは、誰の像?」

 ミッションスクールには似合わへん和服のチョンマゲとロン毛の男女の石像。

「高山右近と細川ガラシャだよ」

「あ、ああ、これがあ!?」

 ビックリしたけど、よう分かってません。大阪に縁のあるキリシタンの人やった……よね?

 奥の方には芝生の丘があって、キリストと、それに額ずくモブキャラさんたちの石像。

「ほかにも、十二使徒とかあるよ、これは……」

 留美ちゃんの目が燃えてくる。

 あやうく十二使徒探しをしそうになるのを我慢して教室に戻りました。

 

 放課後も見てみたいとこだらけ。

 しかし、不用意に回ると、すごい部活の勧誘に出くわしてしまうので、様子を見ながら探検。

 ひょんなことで、弓道場に入り込んで、生まれて初めて弓を射ったりしたんやけど、また今度話すね。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・19『栞の記者会見』

2022-04-16 06:24:28 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

19『栞の記者会見』  

 

   


「ハンパなことでは、終われませんなあ」

 マスコミ相手の記者会見の前に、校長と栞の父親との共通した見解であった。

「全部さらけだしましょう」という点でも一致していた。下手に隠し立てしたり、庇っていては、後で訂正を繰り返し、問題がスキャンダル化し、何度もマスコミや世論の晒し者になる。それは避けようという点でも一致していた。

「校長先生、府教委との事前調整は?」

 教頭が、ノッソリ入ってきて、他人事のように言った。

「報告はしてあります、火の粉は被りたくないんでしょ。それ以上のことは言ってきません」

 自身その出身であるので、官僚の姿勢は手に取るように分かっているのだ。

 

「……とういうのが、今回の事件、事故のあらましであります」

 100人を超えるマスコミ相手に説明を終え、いま一度、深く頭を下げる校長であった。

「冒頭においてもお詫びいたしましたが、今回のことで、心身ともに御本人を深く傷つけ、並びに保護者、そして学校関係各位、府民の皆様にご心配、ご迷惑をおかけしましたことを学校長として、深くお詫びいたします」

「詫びてしまいですか。学校の体質そのものに大きな問題があるように思うんですが、学校長として、今後の改善や、改革の方向性は持ってるんですか?」

 記者が、ねネチコク絡んでくる。

「それに、お答えする前に、保護者であるお父さんから、間違いや、補足があれば言及していただきます」

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 ひとしきりシャッター音がして、栞の父親の写真が撮られる。

「みなさん、なぜ私の写真を許可もなくお撮りになるんですか。うちの子は未成年であります。親の面体が知れれば、本人が簡単に特定されることをお考えにはならんのですか。まず、その無責任さについて抗議いたします。特に最初にシャッターを切ったA新聞のあなた。御社の未成年事案の報道規定についてお聞きしたい……バカヤロー、そんなイロハも上司に相談しなければ、答えられないようじゃ、報道記者の資格は無い!」

 手島は、最初にかました。

「B放送、エンターキーを押すんじゃない。時程については、うちの子がコンマ秒単位で君たちの映像を撮っているんで、言い訳はできない。N放送、この子のカメラは200度の広角。死角じゃないからな。君の薄笑いもちゃんと記録してある。あとで、薄笑いの理由を聴取するんで、君は、A新聞、B放送共々に残りなさい。編集はききません。うちの子が持ってる広辞苑はカバーで、中身はパソコン。SNSでも実況しておる。言動には、注意されたい」

 栞が、広辞苑のカバーを外すと、カメラとマイクのついたパソコンが出てきた。

「C新聞、ええかげんにせえよ。今、間違った振りをして、パソコンの電源コードを抜いたな。君も、後で残りなさい。ちゃんとIDも撮ってある。ちなみに、そのコードはダミーだ」

 他の、カメラマン達が指摘された記者やカメラマンを撮り始めた。

「あんたらは、本当にハイエナだな……学校長の話に補足はありません。ただ私は、うちの子の法定代理人として、湯浅教諭を道交法の進行妨害、また、梅田教諭と共謀し、うちの子に対し、威力業務妨害、傷害、逮捕監禁、交通事故現場の証拠隠滅。中谷教諭に対しては、うちの子が提出した5通の書類についての証拠隠滅、並びに、公務員の職務専念義務違反により告訴致します」
 
 会見会場は水を打ったように静かになった。そして、栞が真っ直ぐ立つと、カメラを自分に向けて宣言した。

「わたし、被害者の手島栞です。あとの画像は、テレビカメラでご確認ください」

 この行動には、父親も校長も驚いたが、栞はもう止まらない。

「わたしが、一番言いたいのは、大阪府の総合選択制の学校と、総合選択の授業そのものです。詳しくは、わたしの『栞のビビットブログ』に載せてありますので、それをご覧ください。かいつまんで申しますと、高校の授業の形骸化と、その質の低下、課外活動の主軸であるクラブ活動の軽視です。7時間目まで授業をやられ、下校時間が5時15分では、日常的に時間外活動をしなければ、部活が成り立ちません。元凶はここにあります!」

 栞は、パッツンパッツンの通学鞄とサブバッグ、そして体操服入れの袋をゼミテーブルの上に置いた。

「総重量5・5キロになります。これを持って満員電車に乗るんです。これは、学校の教務、各教科が縦割りになって、学校として有機的なカリキュラム決定がなされていないことの象徴的な現れです。ちなみに、これは、月曜日の時間割に合わせたもので、意図的なものではありません。後日、曜日毎の携帯品とその重量をブログで公開しますので。ご覧下さい。有機的な教育計画、カリキュラム、教育行政を要求します。具体的にわたしは、授業の単純化を提唱します。国・数・英・理・社に収れんされ、その中で幅を持たせるべきです。先生によっては、この総合学習のために、5種類の授業を持っていらっしゃる方もいます。高等の名に値する授業が、果たして可能なんでしょうか。そして……」

「栞、それぐらいにしておきなさい」

「……はい」

 記者会見は、半ば栞の独演会の感で終わった。

「栞、覚悟しときや。ブログ炎上やで……」

 自宅待機の三人を送り届け、学校に戻ってきた乙女先生は、講堂の入り口で、そう呟いた……。
 

 

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せやさかい・297『校内探検・玄関から真理愛館へ』

2022-04-15 18:26:46 | ノベル

・297

『校内探検・玄関から真理愛館へ』さくら     

 

 

 優勝旗三本……優勝トロフィー二本……優勝盾三個……最優秀賞賞状の額五つ……他に準優勝、優秀賞、技能賞、個人賞、他色々……

 ちなみに、優秀、優勝、最優秀という一等賞を獲得してるのは、以下のクラブ。

 ソフトボール部 吹奏楽部 剣道部 弓道部 演劇部 軽音楽部 ダンス部 放送部 美術部 家庭科部

 ソフト部と吹奏楽部は複数回の一等賞!

 そういう学校の実力というか凄さを物語るグッズが片側の壁面一杯にしつらえられた展示ケースに満杯!

 

 すっごいねえ…………

 

 留美ちゃんと二人でため息のつきまくり。

 お弁当のお昼を食べた後、学校の玄関に行ってみた。

 生徒の出入り口は下足室。願書持ってきた時は、校舎のちがう入り口から入ったさかい、玄関に出てきたんは初めて。

 玄関も中学の四倍くらいの広さ。

 ミッションスクールらしく、玄関の正面にはマリア像があって、マリア像に向かって右が事務室の窓口と来客用靴箱。

 で、左側が壁面一杯の聖真理愛学院の誉れの展示ケースなわけですわ。

 安泰中学にもあるけども、これに比べたら、おもちゃみたい。

「すごい学校にきたんだねえ……」

「せやねえ……」

「吹奏楽って、詩(ことは)ちゃんのクラブだよね……」

「う、うん、部長でサックスのパートリーダーで……」

「ねえ、詩ちゃんが部長だった年に府大会の金賞だよ!」

「ほんまや!」

「さくら、知らなかったの?」

「アハハハ……」

「詩ちゃん、奥ゆかしいからね……」

「せ、せやねえ(^_^;)」

 よう見たら、金賞とったのは詩ちゃん二年の秋……思い出す、詩ちゃんの部活にお邪魔して、ドラマチックな部長交代劇を見せてもろて、うち一人の為に吹部が演奏してくれた。ほんまに、吹部を舞台にした『輝けナンチャラ!』のアニメの世界やった。

 家ではなんにも言わへんかったけど、金賞とるには、あの時以上のドラマがあったんやろなあ。

「でも、詩ちゃん、吹部はやめたんだよね」

「うん……」

 大学行ってからは、吹部どころか、サックスそのものも吹かんようになった。こないだ、女子三人で片づけした時、サックスのケースはクローゼットの奥にしまい込まれてたしねえ……。

「見とれてたら時間が……」

「せや、図書室に行くんやった!」

 慌てて、二階への階段に向かおうとしたら、呼び止められた。

 

「ちょっと、そこの一年生!」

 

「「は、はひ!?」」

 ビックリして立ち止まると、首にホイッスルぶら下げたジャージ姿のオバハンが睨んどる。

「マリア様の前を通る時はお辞儀しなきゃだめだろが!」

「あ、すみません」

 で、とっさに、いつもの癖が出てしもた。

 二人とも、思わず手を合わせて……ナマンダブナマンダブ…………しもたぁ!

「おちょくってんのかあ!」

「すびばせ~ん(ó﹏ò)」

「おまえら、何組だあ!?」

「「B組で……す」」

「ああ、月島先生の……」

 ちょっと嫌な言い方……せやけど、顔には出しません。これ以上絡まれるんはいややさかい。

「憶えとけ、あんたらの体育担当する体育の長瀬だ。で、名前は?」

「酒井さくらです」

「榊原……留美……です」

「声が小さい!」

「さ、榊原留美です!」

「よし、以後気を付けるように!」

「「はひぃ」」

 やっと解放されて図書室へ。

 

「「あれ?」」

 

 図書室と思ったのは図書分室やった。

 もらった校内案内図に図書室とあったので、てっきりと思たんやけど。

「注意書きあるよ……」

「なになに……」

―― ここは図書倉庫です。図書室は外の真理愛館(まりあかん)にあります ――

「「真理愛館?」」

 プリントを見ると、本館の外に真理愛館と書いてある。

 

「ここって……」

「まるで、館(やかた)やぁ……」

 二人そろって、アホみたいに口を開けて二階建ての真理愛館を見上げるばかりでありました……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・18『動画サイトの乱』

2022-04-15 05:29:11 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

18『動画サイトの乱』  

     


 保健室のパソコンには、とんでもないものが写っていた。

 動画サイトに、一昨日の栞の事件が5分余りの映像で流れていたのだ。

『今度は逃がせへんぞ!』

 湯浅とおぼしきオッサンの声から始まった。カメラは、湯浅と梅田の背中を追いかけて戸外に出る。二人の肩越しに、栞がゲンチャで坂道を下って来るのが分かる。驚いて急ブレーキをかけ、姿勢は前傾している。湯浅が前に立ちはだかり、栞のハンドルがぶれ、前輪がスリップして、ゲンチャは旋回しながら倒れていく。『なに、わざとらしい転けてんねん!』と『おい、大丈夫か!?』の二つの声がした。前者は湯浅、後者は、どうやらカメラの持ち主のようである。
 微妙ではあるが、梅田の手がハンドルと栞の上半身の両方にかかっている。引き倒したようにも、転倒する新子を助けようとしているようにも見える。

『進行妨害です。現状保存をして、警察を呼んでください!』

 栞が、ヘルメットを脱いで叫んだ。

『違反ばっかりしくさって、何言うとんじゃ。さっさと立って学校来い! 湯浅先生、ゲンチャ持ってきてください』

 そして、栞はセーラーの襟を掴まえられて、引き立てられていくところまで映像はとらえていた。

 タイトルは『あなたは、どう思いますか』とだけあり、人物の目の所は黒い線で隠されていたが、関係者が見ればすぐに分かる。いや、関係者でなくとも、栞の制服やゲンチャに書かれた屋号で、かなりの人が分かるだろう。

「アクセスと、コメント見てください」

 出水先生に促されて、そこを見ると、投稿から一時間あまりしかたっていないのに、アクセスは1000件を超え、コメントも数十件入っていた。コメントの全てが、二人の教師を非難していた。「進行妨害!」「拉致か!?」「証拠隠滅!」「女の子かわいそう」中には、在校生であろうか、具体的に梅田と湯川の名前をあげて非難しているものまであった。

 五分後、乙女、出水の両先生は校長室にいた。

 ちょうど入学式の来賓が帰ったところで、校長一人だったのが幸いだった。

「これはまずい……!」

 校長は、すぐに動画サイトの会社に電話をして、削除を依頼した。電話のオペレーターは、学校名と校長名を確認してからかけ直してきた。

「どうにか、なりませんか……は、は、しかし……そうですか」
「どないですのん?」
「警察から、当該生徒及び保護者からの依頼が無い限り保存しておくように依頼があったそうです」
「ちょっと、パソコン貸してください」

 乙女先生は、そう言うと『手島法律事務所』を検索して電話した。

「あ、手島さんのお父さんですか?」

 ビンゴだった。

「あ、お父さんも、あの動画ご覧になったんですか……え、分かりました、校長に代わります」
「もしもし、校長の水野です。先日は……ええ、その動画の件なんですが……は、はい、そうですか……そうですね。ご教示感謝いたします。また、いずれお父さんとはお話させてください」

 校長は、言葉少なに、でも納得して電話を切った。乙女先生は両者の頭と理解力が優れている証拠だと思った。

「削除をすれば、人の興味をかき立てるだけだとおっしゃいます。それに、例え削除してもコピーがとられて、拡散する一方、それも加工されたものになるので、何を書かれるか分からないおのことで、オリジナルで放置した方がいいだろうということでした」
「もう、アクセスが1500を超えました」
「とにかく事情聴取ですなあ、緊急の職員会議も……こりゃ、禁足令だな。ところで、出水先生。学校のパソコンでは動画サイトは見られないはずですが」
「モバイルルーターなんです」
「……あ、なるほど。保健室はいろんな情報がいりますからな。ま、公式にはスマホで発見したことにしといてください」

 それから、校長は、梅田・湯浅に動画を見せながら事情聴取を行い、続いて、手島親子に面談した教師全員にも事情聴取と事実確認を行った。

 それを30分で済ますと、職員会議が開かれた。
 会議は、校長からの一方的な説明と指示に終始した。

 マスコミや警察からの問い合わせは、校長に一本化すること。手島栞について懲戒にかかるような問題は無いことの確認。栞が旧担任のところに出した書類を全て、学校長に提出すること。

 さすがに中谷の顔色は変わったが、書類を受け取った記憶はないと、押し通した。

「正直におっしゃっていただかないと、学校長として責務が果たせません。なお、この責務の中には、中谷先生がおっしゃることが正しいことを前提ですが、先生を弁護することも含まれております」
「それは、管理職の越権、恫喝だ!」

―― このオッサン、アホちゃうか ――

 他の教職員も、同意見らしく、沈黙を持ってこれに応えた。

 職員会議のあとは、マスコミの攻勢だ。

 校長は、6時から記者会見に応じるとして、手島親子と連絡をとった。事実確認と氏名を伏せることの確認だったが、事実確認のあと、手島親子は記者会見に同席することを要求してきた。

「マスコミは、ちょっとした言葉尻や、ニュアンスの違いを突いてきます。同席して、同時にやった方がいいでしょう」

 校長は、最後に、梅田・湯浅・中谷の三人に、即刻の自宅待機を命じ、校門前に出た。

「校長、記者会見までには、間がありますが?」
「何か、新しい事実でも?」

 校長は待っていた。そしてマナーモードにしていたスマホが三度振動することを確認した。

「ええ、記者会見の会場のご案内です。会議室では手狭ですので、講堂を使用いたします。30分後開催。それでは、マスコミのみなさんはご準備してください」

 各社は、争って入学式のままの講堂に急いだ。本来、入学式が終わると、昼を挟んで、撤去に移るが、乙女先生が気を利かして、そのままにしておくように首席の筋肉アスパラガスの桑田に言い含めておいた。

 そして、校長宛に三回のコールを送り、マスコミが居なくなった裏門から、神社の軽ワゴンを借りて、自宅謹慎組を護送したのである……。

 

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せやさかい・296『校内探検・購買と食堂』

2022-04-14 10:45:04 | ノベル

・296

『校内探検・購買と食堂』さくら 

 

 

 おっきい!

 

 入学式も終わって、生徒としての日常生活が始まると、いっそう感じる学校の大きさ!

 敷地は中学の倍ほどもある。体育館と講堂も別々やし。

「講堂じゃなくて、チャペルね」

 真面目にチェックする留美ちゃん。

「校舎も七階まであるし!」

「うん、ホテルみたいね」

「エレベーターも付いてるし!」

「あ、ダメだよ、生徒は利用禁止」

「コンビニあるし!」

「ダメ、寄ってたら授業間に合わないよ」

「うん、分かってる」

 いや、分かってへん。

 返事とは逆に、うちは店の中に入ってしまう。

 品ぞろえは街のコンビニほどやないけど、そこそこのもんが並べてある。

 学校のロゴの入ったノートやらルーズリーフ。体操服に制服のリボン、芸術で使う絵具やら筆やら墨汁やら、校章のバッジやら……さすがにコンビニ・イン・スクール!

「せやけど、パンとかお弁当少ないねえ!」

「あ、ほんと」

 留美ちゃんが食いついてきた。

 うちらのお昼対策は、まだ決まってへん。

 お弁当  食堂  購買部のパン

 選択肢は三つやねんけど、じっさいにやってみな分からへんしね。留美ちゃんも関心を持つわけですよ。

「お昼はね、テーブル出して、ドカって売り出してるよ(^▽^)」

 カウンターの向こうから声がかかる。

 コンビニの制服やねんけど、ちょっと歳のオバチャン。

「え、そうなんオバチャン!?」

「うん、販売の人数も増やすし、まあ、それでも調理パンなんかは早い者勝ちっぽいかなあ」

「そうなんや………」

「ちょっと、目が怖いよ(^_^;)」

 早い者勝ちとかになると、闘志が湧いてくる。

「でも、品ぞろえすごいですねえ」

「うん、校門の外に店があって、ここは出張所」

「ああ!」

 そう言えば、正門の向かいに、そんなんあった。

「『マイドマート』いうローカルな店やけど、まあ、ご贔屓にね。あ、そろそろチャイム鳴るよ」

「さくら」

「せやね、オバチャンまたね!」

「まいど!」

 休み時間に『購買部』で検索してみたけど、うちの『マイドマート』ほどのとこは見当たれへんかった。

 ちょっとラッキー。

 

「行くよ!」

 起立・礼が終わると同時に、留美ちゃんに声を掛けてダッシュ!

「ちょ、さくら!」

 ドタドタドタドタ

 必死で廊下を走って食堂へ!

「どっひゃー!」

 すでに券売機の前は十人ほど並んでる。

 横から顔出してメニューをチェック!

 ウ……A定食に赤ランプ。

 しゃあない、B定食に狙いを変更して順番を待つ。

 ウィーン

 券売機に千円札を呑み込ませて『2枚』のボタンを押してから『B定食』のボタンを押す。

「B定ゲット!」

 入り口のとこでキョロキョロしてる留美ちゃんに食券を高々と示して『定食・ご飯もの』と表示のある列に並ぶ。

「おばちゃん、B定食!」

「はいな!」

 おばちゃんも元気よく返事してくれて、トレーのB定食をいそいそとテーブルに。

「なかなかのメニューだね」

 たっぷり野菜の上にハンバーグ、マカロニサラダの付け合わせにお味噌汁とご飯。

 四百十円の定食にしては充実のメニュー。

 チラ見すると、A定食はハンバーグと違ってトンカツらしい揚げ物に野菜の炒め物。四十円の違いは、ちょっと大きい。

「毎日食堂だと、月に八千円ほどかかっちゃうね」

「うん、半分はお弁当主体かなあ……明日は、購買のパンにチャレンジするぜ!」

「ちょ、声大きい(-_-;)」

「めんごめんご(^_^;)」

「もう……(;´д`)」

 

 とりあえず、校内探検から、うちらの高校生活が始まりました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念    さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美    さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子    さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー     頼子のガード
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・17『ドッキリ入学式』

2022-04-14 06:29:00 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

17『ドッキリ入学式』    

    


 真美ちゃん先生から、三分おきに電話がかかってくる。

 乙女先生は、嫌がらずにきちんと対応した。

「もうちょっとやからね」

 乙女先生は入学式の警備担当の責任者になっている。一番式場から遠いE組の時間を計っておいたので、それを逆算すれば、入場のタイミングを間違えることは無い。

 会場に『威風堂々』が静かに流れ始めた。

 前奏が1分57秒あるので、1分たったところで、A組出発の合図を出すことにしていた。そして45秒おきに各クラスを入場させれば、ラストのE組が着席し、10秒の最終章で、ぐっと雰囲気が盛り上がり、順調に教頭の開式宣言にもっていけるのである。

 それが、なぜか『威風堂々』が流れると同時にA組が教室を出発し、前奏の30秒目のところでは、入場しはじめた。

「宮里先生、ちょっとタイミングが早いです」

 乙女先生は、なるべく穏やかに注意しにいった。

「ここは、わたしの持ち場所です。わたしが指示します」
「そやかて、わたしが警備誘導の責任者です。わたしが……」
「先生は、転勤早々。それは書類上の名誉職です……はい、B組出してください」

 めでたい入学式、事を荒立ててはと、乙女先生は大人の判断で引き下がった。

 式場に戻ってびっくりした。

 天井の蛍光灯は点いているが、舞台上の照明が何もついていない。ギャラリーのスポットライトには人も付いていない。乙女先生はゆっくり慌てて、体育館の上手袖の分電盤までいって、天井のボーダーライトのスイッチを入れた。スポットライトのスイッチを入れたが、点く気配がない。再びゆっくり慌てて、ギャラリーに上がり、あまりのほこりっぽさに呆れながら、スポットのスイッチを入れ、演壇と国旗、校旗にシュートを決めようとしたが、上手の、スポットライトが点かない。

「チ、球切れかいな!」

 あきらめて降りようとしたところに、真美ちゃん先生から電話がかかってきた。

「どないした、真美ちゃん?」
「宮里先生が、もう出せて言わはるんです。予定より1分早いですう!」
「ウチらはお飾りらしいわ、宮里先生の指示で動いて!」

 ギャラリーから降りると、式場から、C組の前あたりまで、ダンゴになっているのが分かった。前任校なら、もう暴動ものである。
 E組が着席したのは『威風堂々』の終楽章の途中で、それもカットアウトされてしまった。テレビ番組なら放送事故である。

 ポンポンと大きな音がした。教頭がマイクの頭を叩いたのである。バカタレが、マイク壊す気か!?

 ピーーーーーーーン!

 おまけに、ごっついハウリングさせよって、思わず耳を塞ぐ者もいてる。

「えー、それでは、オホン。令和○年度、大阪府立希望ヶ丘青春高校の入学式を挙行いたします。国歌斉唱、一同起立!」

 ここはご立派に間髪入れずに、国歌が流れた。乙女先生は、ちょっとしたイタズラを思いついた。スマホを出して、式場の撮影を始めた。むろん職員席が写る。

――根性無しめが、みんなクチパクか――そう思っていると、組合の分会長を兼ねている中谷と目があった。

 気づくと、他にも何人もの教師や来賓、保護者がギャラリーの乙女先生を見上げていた。一瞬訳が分からなかったが、すぐにメゾソプラノの自分の歌声が、式場中に鳴り響いていることに気が付いた。直ぐ横では、学校お出入りの写真屋さんが笑っていたが、ここで止めては失敗ととられるので、最後まで堂々と歌いきった。

 つづく校長の祝辞はさすがに、「よく学びなさい」をテーマに話をまとめていた。

「さっきのピンクのス-ツの先生は、転任の……あとで正式にご紹介しますが、一年の生指主担の佐藤先生です。先生は、転任早々、式の有り様を勉強するために、式場を走り回っておられました。諸君、勉強するのはいつでしょう……今でしょう!」

 たった今起こったことと、流行の言葉を結びつけ、笑いと共に、話のテーマをキチンと伝えていた。他の教師の話はほとんど平板な話ぶりで、なんのインパクトも無かった。

「生徒指導部長の梅田です。君らの直接の担当は、佐藤先生です。以下、佐藤先生に引き継ぎます」
 
 やっぱり丸投げか……まあ、予告してただけマシか。乙女先生は演壇に上がった。

「さっき、ドジして校長先生の話の種にされた佐藤です。わたしは、もういくつかこの学校にきて学びました。この体育館で一番声が響くのは、正面のギャラリーです。文化祭のときはステージにしてもええでしょうね。東京ドームかヨコアリぐらいの迫力があります(みなの笑い) さて、みんなに言うことは、今日は二つだけです。学校の決まりは守ってください。何を守らなあかんかというと、この生徒手帳に書いてあります。お家の人とも、よう読んどいてください。分からんことがあったら、わたしのとこに聞きにきてください。それから、保護者のみなさんにお願いです。学校にご不満や、疑問に思われることがありましたら、お子さんにぶつけるのではなく、学校に直接おっしゃってください。至らないところもあると思いますが、我々教職員と保護者のみなさまといっしょに学校を作ってまいります。PTAというのは、ピーマンとトマトはあかんの略ではありません。ピアレンツ アンド ティーチャーズアソシエーション。つまり、教師と保護者の会という意味です。どうぞよろしく」

 我ながら、コンパクトにまとめられたと思った。揚げ足を取られるようなことも言っていないっと……。

 無事に入学式は終わった。さすがにくたびれた乙女先生は、生指のソファーに靴を脱いで横になった。ウツラウツラしかけたころに、保健室から電話がかかってきた。

「乙女先生、手が空いてたら、ちょっと保健室来てもらえますか」

 出水先生が、真剣な声でお願い。

 いったい何が起こったんだろう……。

 

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鳴かぬなら 信長転生記 68『吶喊!』

2022-04-13 11:43:53 | ノベル2

ら 信長転生記

68『吶喊!』信長   

 

 

 懐古の町へは南側から入った。

 

 町の南北を縦貫するようにパレードして、その足で北に向かい、魏の洛陽、呉の建業、蜀の成都を掠めるように駆け抜けて威容を示そうとしているのだ。

 何度も言うが、茶姫の騎兵軍団は輜重を伴っていない。

 追随しているのは、自発的に最後尾に着いてきた検品長の小隊規模の輜重だけだ。

 近代装備で言えば、戦車部隊が燃料や弾薬のトラック部隊を伴っていないのと同じだ。

 茶姫は、軍団規模で、三国に脅しをかけている。

―― その気になれば、輜重を連れて、三国のどこにでも攻め入ってやる。三国は茶姫の指揮に従え! ――

 女にしておくには惜しい奴だ。

 

 ギギギーー

 

 かつては、南進する討伐軍を歓呼の声で送り、凱旋軍を迎えた軍門だが、門扉も蝶番も錆びつき、再び閉めることは困難だろう。

 その、三十年開いたことが無いという皆虎門が軋みをたてて開いていく。振り返ると皆虎門の南には三丁ほどの軍路が堀を跨いで出征門に続いている。出征門を出れば転生国との緩衝地帯の森に出る。出征門はとっくに廃止されて楼閣を残すのみで、門そのものは壁と同じ磚(せん)で埋め固められている。

「懐古の者たち、我は三国は魏帝曹操の妹にして軍団長の曹茶姫である。これよりは、この曹茶姫が、この軍都を復興し、往年の栄と勲しを取り戻すであろう! これより、我が騎馬軍団は、懐古の大路を駆け抜けて見せる! 奮い立て勇者たち! 疾く大路に出でて、この勲しに歓呼せよ! 本日ただいまより、曹茶姫が懐古の字を廃し、皆虎の表記に戻すことを宣言するぞ!」

 ポン! ポポンポン! ポン!

 手回し良く花火が上がったのは検品長の荷馬車からだ。

 入場前に、茶姫が言葉をかけていたが、単なる労いではなかったようだ。

 花火は楼門の上空で『皆虎』の文字をなして、軍団のみならず、大路に出てきた住民たちからも歓喜の声が上がる。

 仕掛け花火なのだろうが、検品長、なかなかやる。

 

「吶喊(とっかん)!」

 

 抜刀した茶姫が吠えると、軍団は、馬蹄を轟かせながら大路を北に駆けだした。

「続け、市、後れをとるぞ!」

「う、うん!」

 馬腹を蹴った市が近衛の先頭に出てしまう。

 他の近衛騎兵が、後れを取らじと市に続き、茶姫が笑って振り返りる。

「逸るな、者ども!」

 アハハ ワハハハ

 軍団と大路の民たちにも笑いが広がり、もう一度茶姫が制すると軍団は少しだけ速度を落として陽気に進軍を始めた。

 

 ドーーーン!

 

 南の来福門を出ようとしたとき、皆虎門の方角から爆発音。軍団に緊張が走るが、茶姫は悠然と馬首を巡らせ、再び吠えた。

「騒ぐな者ども! 予定通りである! 真の進路は北だ! 者ども、北へ駆けるぞ!」

 茶姫が駆けだすと、もたげた頭に続く龍の胴のように旋回し、うねりながら部隊が続いていく。

 進むと、皆虎門の向こう、出征門を塞いでいた磚(せん)のつかえが爆破されて、転生の森が見えている。

 

 フフ…………曹茶姫、この信長に並ぶほどの者であるかもしれないぞ。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

  

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・16『乙女先生のデビュー』

2022-04-13 06:13:57 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

16『乙女先生のデビュー』  

   


 結果的に順序が逆になってしまった。

 生徒の懲戒に関しては、補導委員会の決定を校長に報告して了解を得てから、保護者を呼び出し懲戒内容を伝えるのが順序だ。しかし、今回は、その前に保護者である手島和重がやってきて、さんざん拗れたあとの報告になってしまった。
 梅田と教頭の誤算であったとも言える。指導忌避による停学三日なので、懲戒としては軽いもので、保護者も簡単に受け入れ、事後報告で済むと思っていたのだ。

「この懲戒内容は撤回してください」

 校長は落ち着いて(はらわたは煮えくりかえっていたが)指示した。

「停学三日程度の懲戒で、校長さんが異議差し挟むことは前例がおまへんけど」
「しかし、本人も保護者も、この懲戒には納得していないんでしょう」
「しかし、指導忌避の事実は……」
「道交法の進行妨害、刑法上の威力業務妨害、傷害、逮捕監禁、証拠隠滅まで、言われてるんですね。証拠写真まで付いて、相手は本職の弁護士だ。勝ち目はありませんよ」
「そやけど、センセ」
「メンツなんて、どうでもいい。これ以上言われるなら、職務命令にしますが」

 

『いや、分かって頂ければいいんです。名前に負けない、希望ある青春の高校にしてください』

 梅田が不承不承かけた電話の向こうで、栞の父が明るい声で言った。

『娘に代わります』
『もしもし、梅田先生。じゃ、わたし、明日から学校に行きますから』
「ああ」
『建白書は改めて、父と連名で、直接校長先生に内容証明付きの郵便で出しますので』
「ああ」
『えと、それから、懲戒については校長先生ご承知だったんですか?』
「あ……ああ、むろんや。懲戒は、学校長の名前で行うもんやからな」
『そう……念のために申し上げときますけど、これ事務所の電話なんです』
「それがあ?」
『事務所への電話は全て録音されてます。それでは乙女先生によろしく』

 梅田は、栞が切るのを待って、忌々しげに電話を切った。

 

「あら、立川さん、電話の調子悪いんですか?」

 朝一番に来た乙女先生は、自分よりも早く来て、電話をいじっている技師の立川に驚いた。

「はあ、事務から、生指の電話が通じないて言われましてね」
「だれかが、乱暴に扱うたんとちゃいますか」
「ハハ、この学校、名前は新しいですけど、施設はS高校のまんまですからね、どれもこれもポンコツで……こりゃ、交換だなあ」

 立川は、手際よく電話を交換しにかかった。

「まあ、終わったらお茶でもどうぞ」
「こりゃ、どうも……乙女先生……」
「どないかしました?」
「いや、まるで、新採の先生みたいですなあ!」

 

 今日は、午前中始業式。午後は入学式である。着任初日は校長から保険のオバチャンと間違われたので、精一杯のおめかしである。二十二歳の新任のころからスリーサイズは変わらない……と自認する乙女先生は、新任のころから勝負服にしているピンクのスーツ姿であった。地元岸和田の小原洋裁店であつらえたもので、「本人の心がけ次第では一生もんだっせ」と、女主人に言わしめた一品である。

 新転任紹介では、真美ちゃん先生と同じくらいのどよめきが生徒達から起こった。

 ただ校長の一言が余計だった。

「新任の天野真美先生は『新任ですでビシバシ鍛えてください』でしたが、佐藤先生は、こう見えても、本校が三校目というベテランです。諸君ビシバシ鍛えられてください。一年生の生指主担と、三年生は日本史の授業でお世話になります」

 仕方がないので、乙女先生は習慣で一発かました。

「全員……起立!! 気を付け!! 休め!」

 ドスの効いた声で号令をかけた。まるで本番前に円陣を組んだAKBのセンターのように気合いが入っていた。なお「AKB」と言うのは本人の意識で、校長などは若作りの天海祐希ぐらいに思った。

「ウチは、岸和田生まれのバリバリの河内女です。乙女なんたらカイラシイ名前やけど、意味は六人姉妹の末っ子で、オトンが『また女か』言うて落胆して、腹いせに「とめ」とつけよった。あんまりや言うんで、上のネエチャンが、「お」を付けてくれて漢字にしたら乙女てなカイラシイ名前になりました。岸和田でほったらかされて大きなったよって、多少荒っぽいでぇ。まあ、よろしゅうに……着席!」

 生徒もビビッタが、真美ちゃん先生の顔がひきつったのにはまいった。早く免疫を持ってもらわなければと思う。

 思ったより当たり前の生徒たちに見えたが、目に光がないような気がした。

 その中で、ただ一人、二年A組の中頃からオーラを感じた。チラ見した乙女先生は、それが手島栞であることが、すぐに分かった。

 

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ピボット高校アーカイ部・1『お祖父ちゃんの仕事』

2022-04-12 20:34:16 | 小説6

高校部     

1『お祖父ちゃんの仕事』   

 

 

 すごい…………………………あ!?

 

 感動のあまり、お盆を落としてしまうところだった。

 ちょっと零れただけなので、ティッシュで湯呑とお盆を拭いて、サイドデスクの上に湯呑を置く。

「どうだ、いいできだろう」

 振り向くとお祖父ちゃん。

「うん、最高だね」

「はは、鋲の誉め言葉は、いつも『最高』だな」

「だって、最高だから」

 ディスプレーには、レトロな建物を背景に七人の人物が映っている。

 建物はコロニアル風と言われる明治時代の建物、明治の二十年代かな?

 洋装の男女に混じって和装の女の人、この時代は、和装の方がしっくりくる。

 明治とか大正のころの仕事は、よくある。昭和の初めくらいまでは和装が主流だ。

 日本人の体形……というよりは、着こなし身のこなしのせいだってお祖父ちゃんは言う。

 試しに脚を長くして見せてくれたことがあるけど、やっぱりサマになってなくて、お祖父ちゃんの目の確かさに感心した。

「動くんでしょ?」

「ああ、エンターキーを押して……」

 エンターキーを押すと、七人の人物は、なにか談笑しながら三人が椅子に座り、四人が後ろに立った。

「ズームしていい?」

「ちょっとコツが……」

 お祖父ちゃんが操作すると、一人一人の人物が順番にアップになっていく。

 実業家の一家なんだろうか、みんな幸せそうで、性格は違うけど、穏やかな表情をしている。

「和装の女の人、きれい……なんか凛々しいなあ」

「うん、お祖父ちゃんも好きなタイプだ……」

 お祖父ちゃんが操作すると、その和装の人は立ち上がって、クルリと一回りした。

「おお……」

「マガレイトっていうんだ、この髪型は……ほら、笑顔も素敵だろう」

「うん、でも、ちょっと話しにくそう」

「はは、鋲は女性恐怖症だからなあ」

「恐怖症ってほどじゃないよ、もう、たいてい平気で話せるよ」

「そうか、それはすまん」

『柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君~』

「おお……」

「骨格から、こんな声だろうって、喋らせてみた」

「こんな声だったの?」

「八割がた……東京弁だったら、こんな感じだ」

「今のは、和歌だよね?」

「与謝野晶子……ちょっと過激だったかな」

「これも注文なの?」

「それがな……」

「あ……」

 お祖父ちゃんがキーを操作すると、その和装の女の人は、夜明けの霧のように消えてしまった。

「依頼主の注文でな、この人は消してしまうんだ。たぶん、依頼主の一族には都合の悪い存在なんだろうさ」

「そうなんだ……」

 お祖父ちゃんは、会社や、有名人や、お金持ちの注文で、昔の画像や映像を処理する仕事をしている。本業は、古い映画や映像をデジタル処理して、このニ十一世紀の鑑賞に堪えるものにする仕事。

 お祖父ちゃんの手にかかって、見直された映画やテレビ番組はけっこうある。

 仕事だからやってるけど、トリミングで人や物を消してしまうのは、あまり好きじゃないみたい。

 でも、仕事だからね。腕もいいし。

 僕が大学を卒業して社会人になるまでは頑張るって言ってる。

 仕事以外は、からっきしってとこがあるから、家の事は、及ばずながら僕がやっている。

「あ、肘のところほころびてる」

「あ、トイレのドアにひっかけちまったかな」

「ソゲが立ってた?」

「ああ、家、古いからなあ」

「あとで直しとくよ」

「すまんなあ、リアルの家はデジタル処理できないからなあ」

「脱いで、繕うから」

「あとでいいよ」

「後にすると忘れちゃうから」

「そうかい、じゃあ……あ、明日から学校だな」

「うん、お祖父ちゃんのお蔭だよ、あやうく中学浪人するとこだった」

「まあ、施設は古いけど、いい高校だからな」

「うん、がんばるよ……」

 

 僕は高校受験に失敗した、それも二つも。

 二つ落ちるとは思ってなかったから、もう行ける高校が無くなってしまった。

 お祖父ちゃんは、いろいろツテやらコネやら使って調べてくれた。

 もう通信制の高校でもいいと思ったんだけど、お祖父ちゃんが、やっと見つけてくれて、新入学に間に合った。

 ピボット高校。

 能力的には、僕には過ぎた高校で、勉強について行けるかどうか心配なんだけど、頑張るしかない。

 入学に当っては、一つ条件がある。

 学校が指定する部活に入ること。

 これに関しては、僕に選択権は無い。

 で、その部活が、ちょっと想像がつかない。

『あーかい部』

 アーカイブのことか?

 でも平仮名だし、正確には『亜々会部』と書くらしい。

 要高校のホームページで見ても出てこないし、ちょっと意味不明。

 まあ、明日の入学式に出てみれば分かるだろう。

 お祖父ちゃんのセーターを繕い、ドアのささくれは、養生テープを貼って仮補修して、いつもより早く寝た。

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・15『マックスアングリー・2』

2022-04-12 08:27:40 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

15『マックスアングリー・2』    

    

 

 立ち上がった栞は、顔も手足も、いっそう青白い。

 怒りがマックスになってきた。乙女先生は、そう感じた……。

「中谷先生、先生が、わたしのバイト許可願いを受け取っていないというのは、嘘です」
「これが、当人が中谷先生に渡した許可願いの写しです」

 父親が、許可願いのコピーを出した。

「わたしが出そうと思ってたのに……」
「ボ、ボクは、こんなもん見たこともありません!」
「わたしは、受領書を要求しましたが、中谷先生は拒否なさいました。これが、その受領書です」

 栞は、父親が持参した袋の中から、ビニール袋に入った受領書を出した。

「そんな、なんにも書いてないもんに証拠能力は無い!」
「……どこまで言えば認めるんですか!」

 怒りのあまり、栞は音を立てて立ち上がった。乙女先生は倒れた椅子を元に戻し、顔で着席を促した。

「どうも、すみません。栞、感情的になるんなら発言をひかえなさい」
「ビニール袋に入っているのは、証拠品だからです……」
「あんまり穏やかな言い方やないな、手島」
「それ以外の言いようがありません。これには、わたしと中谷先生の指紋がついています」

 乙女先生は、違和感を覚えた。今まで、いろんな修羅場をくぐってきたが、こんなのは初めてだ。

「そんな、ハッタリかまして、知らんもんは知らん!」
「先生、録音中です。ご発言には気を付けられたほうがいい」

 父親は、そう言うとメガネを拭いてかけ直した。

「ここで、指紋検出をしてもいいですが、わたしがやっては証拠能力がなくなりますから」
「フン、やっぱりハッタリや」
「こういうことは、警察がやらなければ証拠にならないんです。刑訴法のイロハです。こちらを見てください……」
「手島、センセらは、おまえの指導拒否を問題にしてんねん。関係ない話は止めてくれるか」
「それは、発言の制止ですか」
「本題から外れてると、センセは思う」

 梅田は、父親に対抗するようにメガネを拭きだした。栞は、構わずに続けた。

「これは、中谷先生が、わたしのバイト許可願いと、カリキュラム改訂についての建白書をご覧になっている写真です」
「おまえ、携帯は出せて、掴まえた時に言うたやろ!」
「いや、指導ですよ。湯浅先生」
「携帯はお渡ししました。これはスマホです」
「スマホて、おまえなあ!」
「まあまあ、牧原センセ……」
「始業から、終業まで、携帯の類は使用禁止やろが」
「覚えてらっしゃらないんですか。わたしがお願いに行ったのは、放課後です」
「職員室の中で、そういうもん使うのは反則やろ」
「これは、廊下から撮ったものです。職員室のドアは開きっぱなしでしたから」
「しかし、職員室の中を撮るのは、不謹慎やろ」
「じゃ、卒業式の日に、職員室で撮る写真も不謹慎なんですね」
「へ、屁理屈を言うな!」
「わたしも、あまり誉められたことじゃないくらい分かっています。しかし、それまでに二回も提出したものを無視されています。この程度の証拠確保は許されると思います」
「仮に、そやとしても、オレが読んでるのが、手島の書類て、どないして分かるねん!」
「こうすれば、分かります」

 栞は、スマホの画面を拡大して見せた。明らかに栞の書類である。

「ぼ、ぼんやり見とったから、よう覚えてへんわ」
「先生は、読んだと、今おっしゃったばかりです。どちらにしろ、お受け取りになったことは確かです」
「そ、それは……」

 このアホが……という顔を梅田がした。

「バイトの許可願いは、空文化してる中で、わたしはきちんと出したんです。ですから、わたしのバイトは、本校において、著しい校則違反にはなりません。事情を知った上で、校長先生の許可も得ています」
「それは、手続きが……」
「書類の書式から言っても、学校長の許可があれば十分です。すまん、栞続けて」
「よって、わたしのバイトは合法です。それを制止したのは、道交法の進行妨害、刑法上の威力業務妨害、傷害、逮捕監禁、証拠隠滅にあたります。以上」

 中谷が、声を発する前に、父親が締めくくった。

「栞は未成年でありますので、わたくしが法定代理人として、告訴いたします。今日お見せしたものは全て、証拠品として警察に提出します。では、ただ今から、栞の怪我の診断書を取りにいきますので、これで失礼いたします」
「待ってください、お父さん」
「これは、失礼、まだ栞の父であることを証明しておりませんでしたな。略式ではありますが、これが運転免許書です。連絡先はこちらに……」

 差し出された名刺には『弁護士 手島和重』とあった。

「べ、弁護士!?」

 中谷の声がひっくり返った。

「今日は休日で、畑仕事をしておりましたので、こんなナリで失礼いたしました。では……そうそう乙女先生にはお世話になったそうで、御礼申し上げます」
「あ、乙女は名前の方で、苗字は佐藤と申します」
「こりゃ、失礼を。娘が乙女先生とばかり言うものですから。では、またいずれ」

 手島親子は行ってしまった。

―― オッサン、なかなかやるなあ ――

 乙女先生は、手島弁護士のネライが分かったような気がした。手島弁護士は告訴するとは言ったが、いつ告訴するとは言っていない。また、意図的に乙女先生というパイプを残した。

 しかし現実は手島弁護士のネライさえ超えて大きくなっていくのであった……。

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・14『マックスアングリー・1』

2022-04-12 08:07:32 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

14『マックスアングリー・1』    

 

   


「……というわけで、指導忌避のため、手島栞を停学三日といたします」

 慣れた口調で説明をしたあと、作業着姿で小さく俯いている栞の父親に、梅田は申し渡した。
 栞は青白い顔をして梅田を見つめ。父親は、小さくため息をついて、もうひとつ深く俯いた。
 同席した教師のほとんどが、立ち上がりかけた。

 乙女先生は一言言おうと息を吸い込んだ。

「気の早い先生がただ。話はこれからですよ」

 それまでと違って凛とした声で父親が言った。

「ここからは録音させていただきます。どうぞお掛け下さい」
「手島さん……」

 父親の豹変ぶりに、梅田がかろうじて声を上げ、他の教師(学年主任・牧原 学年生指主担・山本 担任・湯浅)は立ちかけた椅子に座り直した。これからが出番だと思った乙女先生は座ったままだ。

「指導忌避と言われるが、栞、以下当人と呼称します。当人は津久茂屋の配達途中でありました。原動機付き二輪車の胴体側面、荷台の商品に通常の目視で視認に足る表示がなされておりました。当人のエプロン、ヘルメットにも屋号が付いておりました、いかがですか、湯浅先生?」
「突然のことで、そこまでは分かりませんでした」
「これが、当該の原動機付き二輪車、並びに、当人がその折着用しておりました、エプロンとヘルメットであります」

 父親は、二枚の写真を出した。教師一同は驚きを隠せなかった。

「当人は、そのおり『すみません、配達中なんで、また後で』と声をかけております。なお、配達の荷物は当日、本日でありますが、卒業式が行われる姫山小学校の紅白饅頭でありました。8時20分という時間からも、当人が急いでいたことは容易に推測できるものと思量いたします」
「いや、なんせとっさのことで」
「湯浅先生は、当校ご勤務何年になられますか」
「な、七年ですが……」
「津久茂屋も、姫山小学校もご存じですね」
「は、はい」
「そうでしょう、この前後のいきさつは、タバコ店の店主も承知されています。当人の返事も含めて。この状況で、指導忌避と捉えるのは早計ではありませんか」
「いや、たとえそうでも、二回目は指導忌避です」
「ほう、待ち伏せが指導にあたるとおっしゃるんですか」
「お父さん、何が言いたいんですか!?」
「事実確認です。ご着席ください梅田先生」
「こいつ、いや、手島さんは、わたしと梅田先生の制止を振り切って、逃げよとしたんですよ。明らかな指導忌避です」
「この写真をご覧下さい。これが当人が制止されブレーキをかけたタイヤ痕です。あとスリップし転倒した場所まで、約9・5メートル続いております。なお当人の速度は30キロであったと思量されます……」
「なんで、速度まで分かるんですか!?」
「現場の道路は、傾斜角6度の未舗装の下り坂です。逆算すれば、簡単に出てきます」
「しかし、本人は抵抗したんで、許容される範囲で制圧したんです。立派な指導忌避です」
「この状況で自販機の陰から飛び出されれば、パニックになります。当人は務めて冷静に対処しようとして、こう言っています『進行妨害です。現状保存をして、警察を呼んでください』と」
「それが、指導忌避です。ゲンチャは、本校では禁止しとります」
「それは、後にしましょう。先生方がおやりになったのは道交法の進行妨害に該当します。事実事故が発生し、当人も進行妨害と認識、その旨を主張しております。それを無視して職務中の当人を連行されたのですから、事故の証拠隠滅、威力業務妨害になります。逮捕監禁も疑われます」

 その時、応接室のドアが開いて、栞の旧担任の中谷が、顔を赤くして飛び込んできた。

「バイトを許可した覚えはありません! そもそもバイト許可願いなんか、ボクは受け取ってません!」
「中谷先生ですな。お呼びする手間が省けた」
「て、手島は、勝手に、そう思いこんで、勝手にバイトやっとるんです!」
「あきれた人だな……」
「なにを!」

「お父さん、もういい。これはわたしの戦い。あとは自分でやる!」

 立ち上がった栞は、顔も手足も、いっそう青白い。怒りがマックスになってきた。乙女先生は、そう感じた……。

 

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せやさかい・295『花まつりを忘れてた!』

2022-04-11 14:28:42 | ノベル

・295

『花まつりを忘れてた!』さくら   

 

 

 学校いくついでにゴミほり。

 いつもより多いゴミ袋に気が付いて、留美ちゃんといっしょに「「あっ!」」と息を飲む。

「花まつりだったんだよ!」

「忘れてた(;'∀')」

 四月八日は花まつり。お寺的には『灌仏会(かんぶつえ)』というのは、前に言うたよね。

 お釈迦さんの誕生日で、甘茶こさえたり、お花で飾ったり、檀家の婦人部のお婆ちゃんがらが大活躍して、お寺の行事としては珍しく華やかな行事。

 月始めは憶えてたし、手伝いもしたんやけどね。

「誕生日は祝ってもらったのにね……」

 ゴミ袋ぶら下げながら、自分の失敗のように落ち込む瑠璃ちゃん。

「いやいや、うちも完全に抜けてたし……」

「おじさんたちにお詫びしなくっちゃ……」

 留美ちゃんが立ち止まる。

「帰ってからでええよ、学校遅れるし」

「う、うん、そうだね……」

 お寺というのは段取りのええもんで、ごっついお葬式とかやっても、三十分ほどで全部片付いてしまう。

 せやから、片付いてから戻ってくると、お寺はふつうの日常に戻ってるわけで、ボーっとしてると気ぃ付けへんこともある。

 はい、今回はボーっとしておりました。

 で、なんでボーっとしてたかというと、高校の登校初日。持ち物やら服装、予定のチェックに気ぃとられてて、全然忘れてた。晩御飯のあとに「16歳の誕生日おめでとう!」も言うてもろたんやけど、檀家さんに御不幸があって、あんまりお祝いという風にはいけへんし、おっちゃんとテイ兄ちゃんはお通夜に行ってるし。それで抜けてしもた。

 ちゃんと誕生日プレゼントももろたのにねえ、ちょっと自己嫌悪やねんけども、うちが気にしたら留美ちゃんはもっと気にするし。

 ドンマイドンマイ!

 帰ったら、ふたりで「ごめんなさい」言うことで、自転車に跨る。

 あ、そうそう、誕生日のプレゼントいうのが、この自転車。

「留美ちゃんの誕生日には早いねんけど、通学の必須アイテムやし、今年はいっしょに言うことで(^_^;)」

 詩(ことは)ちゃんがテイ兄ちゃんの代わりに、お祖父ちゃん、おばちゃんといっしょに祝ってくれました。

 出資はおっちゃんとお祖父ちゃん、買いに行ってくれたのが詩ちゃんとテイ兄ちゃんということでした。

 むろん、二人で「ありがとう!」を十回ぐらい言うたんやけど、花まつり忘れてたら話になりません。

 

 で、自転車で学校まで行くわけやないです。

 堺東に、みなさんもご存知『スナックハンゼイ』の敷地に停めさせてもらいます。

 これも、テイ兄ちゃんの人脈のお蔭。

 堺市の駐輪場もあるねんけど、こっちの方が近いし、駐輪代いらんしね(^_^;)。

「今日からお世話になります!」

 お店のマスターに挨拶して、予備の鍵を渡しておく。

 お店の都合で動かさならあかんときあるし、うちらがポカして鍵失くした時の用心にね。

 駅に着くと電車もすぐに来るし、なんと始業三十分前に学校に着いてしまいました(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念    さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美    さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子    さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー     頼子のガード

 

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