大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・308『ペコちゃん先生の落とし物』

2022-05-24 09:35:55 | ノベル

・308

『ペコちゃん先生の落とし物』さくら 

 

 

 タタタタ……(^^♪

 

 今日の分のテストが終わって、かろやかに階段を駆け下りると、踊り場の窓から見える中庭のベンチにペコちゃん先生が座ってるのが見えた。

 ピョン

 二段飛ばして窓辺に寄って、ヤッホー言お思てOの形に口を開けると、もうペコちゃんの姿が無い。

「タイミング悪かったね」

「あ、落とし物」

 留美ちゃんが慰めてくれてメグリンがなにかを発見した。

 

 タタタタ……(⊙ꇴ⊙)!?

 

 落とし物が気になって、三人で中庭に下りてみる。

「写真やわ」

 小さなポリ袋に写真が入ってる。

 ほとんど透明な袋なんで、数枚ある写真が素通しで見える。

「自衛隊みたいだね」

 自衛隊の制服着たニイチャンが、ビシッと敬礼決めて写ってる。

「あ、高等工科学校……」

 メグリンが聞きなれん学校を言う。

「「え、学校?」」

 よう分からへんけど、並んで敬礼してるのんは自衛隊っぽいさかい、うちと留美ちゃんの頭には?マークが灯る。

「う、うん、横須賀にある自衛隊の学校だよ」

「ふうん……」

 自衛隊の学校いうと防衛大学……にしては、ちょっと若い……というか幼い感じ。

「これ……瀬田と田中だよ!」

「ええ!?」

「?」

 憶えてる人も多いと思うんやけど、瀬田と田中は中一の時からの腐れ縁のクラスメート。

 サッカー部クズレで、元気なだけが取り柄のアホコンビ。中一の時、掃除当番サボりよったんで、凹ましたったったことがある。以来、うちには逆らえへんけど、子どもっぽいのんで、あんまり付き合いはなかった。

 留美ちゃんはええ子やから、男の子には、ちゃんと君付けするけど、この二人に関しては呼び捨て。

「中卒で自衛隊にいけるんや」

「うん、いろいろ道はあるみたい」

「これ、先生の落とし物だよ、持ってってあげよ」

「うん!」

 

 ということで、職員室。

 

 ちなみに職員室入るのは初めて。中学の職員室と違て、メチャ広い。

 いっしゅん、どこが先生の席か分からへんかったんやけど、さすがに身長差。

「あ、あそこだよ!」

 メグリンが指差した。

「先生、落とし物してたよ」

「わ、ビックリ!」

 なにか考え事してたみたいで、なんかアニメの一コマみたいに目ぇ剥く先生。

 目ぇ剥いても先生はかいらしい。写真のポリ袋出すと、ほんまアニメのドジっ子そのまんま。

「え、あ、わ! わ! 落としちゃったんだ(;'∀')」

「揃ってるかどうか見てください」

 留美ちゃんが落ち着いて言う。

「うん……だいじょぶ、だいじょぶ」

「瀬田と田中ですねえ」

「え、どうして……あ、ポリ袋だから見えるよね」

「なんか心配事? せんせえ?」

「え、あ……なんでもないよ。教え子はみんな頑張ってるから、先生は安心だよ!」

 先生は、少し無理したペコちゃん笑顔。これは――それ以上は聞くな――というサイン。

 ペコちゃんとは中学以来の付き合いやから、よう分かるので、うちらは「「「失礼しました」」」と声を揃えて職員室を出た。

「先生のパソコン『自衛隊殉職者』って項目だったね」

 下足に履き替えながら留美ちゃん。

「え?」

 注意力散漫なうちは気ぃついてません。

「ああ、そうか……」

「なに、メグリン?」

「先生、あの二人の事が心配なんだ……」

 アホなうちでも、思い当たった。

「あ、自衛隊やから」

「あ、戦争とか」

 せや、ウクライナとかマジもんの戦争やってるし、基地攻撃能力とか反撃能力とか、ネットでもよう出てるし。

「大丈夫よ、たとえ防衛出動になっても工科学校の生徒が戦場に出るなんてありえないから」

 なんか、メグリン言い切ってるし。

「あ、アハハ、うちのお父さん自衛隊だから(^_^;)」

「あ、そうなんや」

 ちょっと分かった気がした。

 メグリンが、一年の一学期早々に転校してきたんは、きっとお父さんの仕事がらみやねんわ。

 なんか、微妙に会話が途切れる。

「自衛隊っていうと、ご飯おいしいんだよねえ(^▽^)」

 留美ちゃんが話の方向をゆるく変える。

「せや、ネットで自衛隊出身のお笑いさんが、自衛隊メシ食べ比べいうのんやってた」

「あ、わたしも見た。とってもボリュームがあるんだよね」

「そうだ、なんなら、いっかい試食してみる? うち、非常用に置いてるから」

「ええのん? 非常食て、ちょっと値段高いっしょ?」

「賞味期限迫ってるのあるし」

「あ、せや!」

 面白いことを思いついた……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・004『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・1』

2022-05-24 06:12:46 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

004『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・1』 

 

 

 
 衛兵たちが警備する外郭を駆け抜けると、凱旋祝賀の準備に非番の侍女や近習たちまでも動員されて灰神楽が立つほどに忙しい内郭を突き抜ける。さらに本丸宮殿の門前に立つまでに十秒とかからぬブリュンヒルデであった。

 ここまでヘルメス神をも凌ぐ俊足で駆けた姫ではあるが、本丸宮殿に入るには門衛長ロイデンの許可がいる。

「ブリュンヒルデである。父君に糺したきことがあって立ち戻った。疾く門を開けよ!」

「何やつ!? 姫ならば、いまだ凱旋の途につかれたばかり、かような刻限におわすはずがないぞ」

「ロイゼン、余の声を忘れたか!?」

「籠った声では分からぬ。兜を脱いで顔を見せよ」

「身は、主神オーディンの王女ブリュンヒルデである」

 シャキン

 姫は、バイザーのみを上げて忠勤な門衛長を睨んだ。

「こ、こは、まことに姫君!?」

 門衛長の開錠を待ちきれず、乱暴に門を押し開くと、姫騎士とは思えぬ歩調で奥つ城(き)に向かう。

 グゥアッシャーン!

  兜を投げ捨てると、姫は玉座を睨みつけた。

「……ヒルデ、驚かすものではない。戦勝の知らせは、つい先ほど届いたばかりだ。やっと非番の者たちを集めて祝賀の支度にとりかかったばかりなのだぞ」

「父上、人払いを願います。ヘルメスの百倍もの速さで戻ってまいったは、問いただしき義のあるからでございます」

「問いただすとは尋常ではない。軍務に関わることならばトール元帥にも同席してもらわねばならぬであろうし、奥向きの事であるならば内大臣、侍従長、侍女長にも声をかけねばならぬが、侍従長ワイゼンは腰を痛めて臥せっておるぞ」

「父上!」

「……承知した。皆の者、しばし控えておれ」

 オーディンの指示で、十数人の侍臣、侍女たちは席を外した。

「オーギュスト! 扉を締めよ!」

「申し訳ございません!」

 扉の外に控えていた近習のオーギュストを一喝すると、オーディンの執務室は、やっと親子二人になった。

 
 くぅぉのお! くっそオヤジいいいいいいいいいいい(ꐦ°᷄д°᷅)!!

 
 姫は、眉を逆立て頬を朱に染めて、父オーディンに掴みかかった! 

 

 

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くノ一その一今のうち・4『その襲名する』

2022-05-23 13:03:51 | 小説3

くノ一その一今のうち

4『その襲名する』 

 

 

 目覚めたんだね

 

 家に帰ると、お祖母ちゃん、ボケの新バージョン……かと思ったよ。

 玄関入ったすぐの所に正座しててさ、ビシッと睨みつけて言うんだもん。

「こっちへおいで」

「あ、まだ晩御飯の用意買ってないし……」

「そんなことはいい……」

 お祖母ちゃんは、普段は使っていない客間兼仏間に、あたしを連れて行くと、お仏壇の前に進んだ。

「ここにお座り」

「う、うん……」

 お仏壇には、すでにお線香の煙が立っていて、昔やったひいばあちゃんの法事みたいな感じ。

 ひょっとして、今からひいばあちゃんの十三回忌? それにしちゃ季節が合わないよ、何月だったか忘れたけど、あれは春だった。やっぱ、まだらボケの新バージョン?

「これを羽織りな」

 え?

 お祖母ちゃんが示したのは、畳んだ黒の着物。

 やっぱ、法事? ひいばあちゃんの七回忌は、お祖母ちゃん黒の紋付、あたしは学校の制服だったし……て、これ紋付じゃないし。丈が短すぎるし。

「ほんとうは、装束一式身に付けなきゃいけないんだけどね、急なことなんで略式だ」

「これは……」

「忍者装束だよ」

「ニンジャショーゾク!?」

「これをご覧」

 お祖母ちゃんが差し出したのは、仏壇の真ん中に安置してある過去帳。子どもの頃から知ってたけど、おどろおどろしいので、マジマジと見たことはない。

 風魔家過去帳……カザマのマの字が違う。うちは風間と書いてカザマだよ。

「風魔とかくのが正式で、読み方はフウマだ」

「フウマ?」

 なんだか不幸な馬を連想してしまった。

「我が家は、風魔小太郎を始祖とする風魔忍者本家。そのは、二十一代目の当主になる」

「ニ十一代目? あたしが!?」

「そうだよ。そもそも風魔流忍術は、舒明天皇の御代の役小角(えんのおづぬ)を開祖とする日本忍者の本流。当主は十三の歳に開眼して忍者道に入るとされている。ひいばあちゃんは、その十三の歳に開眼。わたしは十五の歳。そのの母は開眼することなく大人になってしまい、もはや風魔の流れは途絶えてしまうものと諦めていた……しかし、その、お前は十七歳にして、ようやく目覚めたんだ……」

 え、お祖母ちゃん泣いてるし……ボケの新バージョンにしては凝り過ぎてるし……。

「あのう……だいじょうぶ、お祖母ちゃん?」

「自覚せよ! そなたは、本日ただいまより、風魔忍者本家の当主なるぞ!」

「ヒッ( ゚Д゚)」

「ご先祖様に拝礼!」

「ハ、ハヒ!」

 なんか、すごい迫力、こんなお祖母ちゃん初めてで逆らえないよ。

 チーーン  ナマンダブナマンダブ……。

 五年前の法事を思い出して、殊勝に手を合わせる。

「知らせは受けたが、いちおう確認する」

「なにを?」

「目覚めの証じゃ。昨日は、駅前で猫を助けたのじゃな?」

「え、あ、うん……猫が赤信号で渡ろうとするから、気が付いたらニャンパラリンって感じで」

「ニャンパラリン!?」

 あ、不まじめっぽい?

「えと、口にしたらそんな感じ」

「そうか……そうか……ニャンパラリンは、風魔流跳躍術の掛け声じゃ。隠れていたのじゃのう、その血の内に」

「お祖母ちゃん『じゃ』とか『じゃのう』とか、なんだか成りきっちゃって(^_^;)」

「忍者として語る時は忍者言葉じゃ。そのもおいおい慣れるがよい」

「アハハ……」

「それから?」

「えと、今日は、駅に着いたらゾワってして、ロータリーの歩道歩いてた女の人が――死ぬ――って感じて、すぐにニャンパラリンで書店の壁際に寄せて、それから、屋上に跳んで……」

「ニャンパラリンじゃの」

「う、うん。で、飛び降りかけてた男の子引き倒して、説教した」

「どのように?」

「『このまま飛び降りたら、歩道のオネエサン巻き添えにしてるとこだったよ!』って、で、一発張り倒して『死ぬのは勝手だけど、人の迷惑も考えろ!』って……」

「そうか、でかした」

「でかしたの?」

「ああ、こういう場合、張り倒しておかなければ身にも心にも入らぬものじゃ」

「そうなんだ」

「人の心は聞こえたか?」

 聞かれてハッとした。学校でも、街でもなんか聞こえた、妄想かと思ってたけど。

「妄想ではないぞ」

「あ、いま、あたしの思ったの……」

「そう。こういうことを『読む』という。ん?」

「なに?」

「パンツ、青の縞々だった……助けた男の想念じゃな」

「ああ、それ無し!」

「使いこなせるようにはなってはおらぬが、目覚めの素養としては十分じゃ……では、世襲名を与える」

「セシュウメイ?」

「代々、風魔家の当主が受け継ぐ名前じゃ……今日より、女忍者『ニ十一代目そのいち』と名乗るが良い」

 そのいち……その一……なんだかモブ丸出し。

「不足か?」

「いえいえ(^_^;)」

「『その』とは風魔家の女が代々いただく名前じゃ。わたしがその子、そなたの母はその美」

「あたしは、ただの『その』なんですけど」

「『その』は初代さまの名じゃ。二十一代にわたり、他の字を冠せずに『その』と名乗りしは、初代、十五代、そしてそなたしかおらぬ」

「そ、そうなんだ」

「襲名に当り、これを遣わす」

 なんだか懐から取り出したのは、小汚い石ころ。

「これは、風魔の魔石じゃ。大事大切なものゆえ、めったには、その身から離さぬようにのう」

 石には小さな穴があって、そこから何か聞こえてくるような……思わず耳を寄せる。

 ……………ん?

 とたんに意識がとんでしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
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ピボット高校アーカイ部・8『シフォンケーキと桃太郎』

2022-05-23 09:51:45 | 小説6

高校部     

8『シフォンケーキと桃太郎』

 

 

「あれって、桃太郎だったんですよね?」

 

 あくる日の部活、すっかり僕の仕事になった部活前のお茶を淹れている。

 今日のお茶うけはコンビニで買ってきたらしいスポンジケーキだ。

 けっこうボリュームがありそうで、こんなの食べたら晩御飯食べられるだろうかと心配になるが、口にはしない。

「まあ、食ってみろ」

 口にしなくても読まれてる。

 クポクポクポ……

 お茶を淹れて、フォークでケーキを切る。

 あれ?

 フォークをいれたケーキは、押しつぶしたようにひしゃげてしまう。

「シフォンケーキというんだ、見かけの割には頼りない」

「はい……あ……」

 口の中に入れると、頼りなく萎んでしまう。ケーキというよりは綿あめかマシュマロを食べているように頼りない。

「こういうソフトな感触がいいというので、街では、ちょっとしたブームでな。コンビニでも置くようになったんだ」

「はあ……」

 これなら、晩ご飯の心配はしなくていいようだ。

「このソフトというか頼りな路線は、桃太郎の昔話にも及んでいてな……」

「先輩、美味しそうに食べますね」

「うん、でも、こんなものばかり食べていては咀嚼力も消化する力も弱ってしまう……で、桃太郎だ」

「あ、はい」

「お婆さんは洗濯に夢中になって、流れてきた桃に気付きませんでした……という異説がもてはやされてきた」

「ああ、それで、前回は桃を上流まで運んで、強引にお婆さんに気付かせたんですね」

「うん、ああでもしないと、桃はさらに下流まで運ばれて、別のお婆さんに拾われてしまう」

「別のお婆さんじゃダメなんですか?」

「いや、別のお婆さんでも構わないんだ。だがな、拾って持って帰ってお爺さんといっしょに桃を切るとな……」

 先輩のフォークが停まってしまう。

「切ると……どうなるんですか?」

「腐りかけの桃太郎が出てくるんだ」

「ハハハ(^O^)」

「笑い事ではない、桃太郎のナニは腐って無くなってしまっているんだぞ。桃太郎ではなくて桃子になってしまう」

「だめなんですか?」

「だめだろ、そんなのが幅を聞かせたら、金太郎は金子、浦島太郎は浦島太子になってしまうぞ」

「アハハ(^O^)」

「ということで、もう一度、桃太郎の世界に行くぞ!」

 

 そして、いつものように魔法陣の中に入って、前回と同じ田舎道に立った

 

「……やっぱり、お婆さんは桃を見過ごしてしまいますねえ」

「いくぞ!」

 同じように下流にまわって桃を拾い、これまた気づかれないように上流に持って行って桃を流した。

 ポチャン

 桃のすぐ前に石を投げ入れて、お婆さんに気付かせる。

「「あれ?」」

 お婆さんは、桃に一瞥はくれるんだけど、知らんふりして洗濯物を続けるではないか!

「ちょっと、お婆さん!」

 あ、先輩(;'∀')!

「なんじゃ、おまえら?」

「ちゃんと桃を拾わなきゃダメじゃない!」

「フン」

 鼻で笑われた!

「桃太郎なんぞ、つまらん……」

 つ、つまらん!?

「拾って育てても、鬼退治に行くだけじゃ」

「そ、それが桃太郎じゃないですか!」

 思わず声が大きくなってしまった。

「鋲!」

「すみません、でも……」

「『ノーモア鬼ヶ島』じゃ……おまえらも、これに署名せえ!」

 バインダーに挟んだ署名用紙とボールペンを突き付けるお婆さん。

 署名用紙には、こう書いてあった。

『桃太郎を二度と戦場に送らないための請願署名』

 先輩は、署名のためのボールペンを握ると、署名はせずに、こう聞いた。

「このボールペンは、どこ製か知ってるかい?」

「ん、こんなものは、たいがいC国製じゃろが」

「そうだね。じゃあ、先っちょのボールはどこ製?」

「C国製じゃないのかい?」

「日本製なんだよ」

「おや、そうなのかい」

「じゃあね、ごめんね洗濯の邪魔して。いくぞ、鋲」

 

 そして、僕と先輩は部室に戻って、お茶の後始末をした。

 

「わたしは、ちょっと残ってる。鋲は先に帰れ」

「あ、はい」

 部室を出て昇降口に向かって校門を出たんだけど、桃太郎の事が気になって、駅の手前まで来て学校に戻った。

 昇降口で上履きに履き替えていると、旧校舎から出てくる先輩が目に入った。

 旧制服から今の制服に着替えた先輩は、なんだか眩しくて、けっきょく声も掛けずに下足に履き替え、校門を出る先輩を見送ってから家に帰ったよ。

 

彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
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漆黒のブリュンヒルデQ・003『神都ヴァルハラ』

2022-05-23 06:08:18 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

003『神都ヴァルハラ』  

 

 

  神都ヴァルハラは辺境の勝利に湧きかえっている。

 
 主神オーディンにまつろわぬ辺境の蛮族どもが、やっと平定されたのだ。

 誰もが、この戦いに臨むのはトール元帥であると思っていた。誰もが、遠征軍の馬印はトール元帥の得物たるミョルニルのハンマーであると願っていた。

 しかし、遠征軍の中軍に掲げられたのは、プラチナの兜であった。

 プラチナの兜は、ヴァルキリアの主将たるブリュンヒルデの標である。漆黒の甲冑を身にまとうブリュンヒルデであるが、この漆黒に染められたプラチナの兜を被ることはめったになく、常にはセキレイの御旗とともに馬印として中軍に掲げさせている。

 姫が出陣なさるぞ! 数多の傷をものともせずに! これで七百を超える御親征なるぞ! 

 漆黒の姫騎士の勝利は姫の使い魔たるフェンリルによって伝えられたばかりである。黒き狼は表情を殺しているが、七百を超える遠征の伝令を務めてきたため、神都の人々は、フェンリルのたてる風音だけで勝利が分かった。むろん、七百余度の戦はことごとく姫の勝利で終わっているが、勝利の有り方で風音が異なる。決戦の前に敵の主将が心臓まひで倒れた不戦勝では、不甲斐ない敵に立腹。姫が負傷した時は、どこか苛立ち、戦死者が少ないときは巻き返す風が軽やかであったりもした。

 勝ち戦であることに疑いは無いのだが、此度のフェンリルの風音は、どこか怖れているようであった。人々は、わずかに戸惑ったが、フェンリルも歳なのだ、あまりの勝ち戦に身が震えているのであろうと合点した。そして、オーディンの城より正式な伝達が城下に触れだされると、まだ、姫の凱旋を見もせぬのに、神都のときめきは最高潮に達し、城の儀典長は、どのように凱旋を祝えばよいか、嬉しい悩みに頭を絞っているという。

 ビューーーーーー!

 その戦勝祝賀の空気の中を、いま一つの黒い影が疾駆した。

 神民の中にはいぶかる者も居たが、フェンリルの息子たちが父の後を継ぐために速駆けの稽古でもしているのであろうかと笑って納得した。

 しかし、その黒影はフェンリルの息子たちでも、フェンリル自身でも無かった。

 城の辰巳櫓の窓から飛び込んできたのは、いつになく漆黒の鎧に馬印の兜まで身に着けたブリュンヒルデ姫、その人であった。

 

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魔法少女マヂカ・274『虎ノ門事件勃発!』

2022-05-22 09:29:09 | 小説

魔法少女マヂカ・274

『虎ノ門事件勃発!語り手:ノンコ  

 

 

 あれ……………………あれ……………………?

 

 二回首を巡らせて、虎ノ門の大通り、主に歩道の通行人を観察したけど犯人らしい男の姿は見えへん。

 ファントムやらシャドウのあらかたは、富士山頂の戦いでやっつけられるか、マヂカとブリンダといっしょに時空の狭間に吸い込まれてしもて、犯人は、元々の難波大助一人になってるはずやのに姿が見えへん。

 いや、歴史が変わり始めてるから、難波大助以外の人間が……せや、犯人はステッキ型の仕込み銃持ってるさかい、人間よりもステッキを探した方が早い。

 いや、ひょっとしたら虎ノ門以外の場所で? それはない。詰子とJS西郷が赤坂御所からここまでのルートを調べてくれてるさかい、犯人が居ったらすぐ分かるはずや。

―― 見当たらないよ ――

 電柱一本分離れてる霧子の気持ちが伝わる。

 マヂカみたいに想念を受け止めたわけやない。原宿の屋敷でいっしょに暮してるうちに、表情やら素振りで気持ちが分かるようになったんや。

 あ、ひょっとしたら道の向こう側?

 車は左側通行やさかい、進行方向の左側ばっかり見てたけど、道の向こう側からでも距離にして八メートルほどしか違わへん。

 八メートル言うたら、教室の後ろから前の黒板までの距離、消しゴム投げても当たる!

 思たら車道に飛び出してた。

「こら、女学生!」

 警備のお巡りさんがサーベル鳴らして起こりよる。もう、すぐそこまで車列が近づいてるんやさかい、怒られてあたりまえ。

 タタタタっと足早に渡って、違和感。

 踏み込んだ車道の左半分が、微妙に柔らかい、ちょっと温いし。

 補修したてで、アスファルトが固まりきってない。

 道路の補修自体は珍しない。

 震災から、まだ二か月あまり。震災復興計画は、まだ国会で審議中なんで、本格的な補修工事は鉄道とか港湾施設が始まったとこ。道路なんかは、まだまだ仮補修のレベルで、あちこちの穴ぼこやらひび割れを直してる段階やから、毎日あちこちで工事してる。

 せやけど、見習い魔法少女の勘が――ちょっと変や――と警告してる。

 渡り切って結論が出た。

 道路に爆弾が仕掛けたある!

 改めて、今まで居てた左側の歩道を見る。ザっと見渡して怪しい者は……おった!

 難波大助は歩道の上と違て、道路沿いの建物の窓から迫って来る車列に視線を向けとおる!

 ステッキ銃を構えてる風もないから、たとえお巡りさんが気ぃついても、窓からチラ見してる野次馬くらいにしか見えへん。摂政殿下の車を見下ろすのは不敬やけども、暗殺を狙ってるようには見えへんやろ。

 仕事熱心なお巡りさんが――見下ろすな!――的にジェスチャーで注意しておしまい。

 手は後ろに組んで……たぶん、爆破ボタンを持ってるんや。

―― 霧子、上や! 建物の二階や! ――

 身振りで知らせる。

 霧子は、直ぐに理解して、建物の玄関に飛び込んだ!

 車も停めならあかん!

 車列の向こう、2ブロック先の歩道を詰子とJS西郷が来るのが見えたけど、間に合う距離やない!

 ニャンパラリン!

 猫みたいに空中一回転して、車道に飛び出ると、すぐ目の前まで迫った先導のサイドカーに叫ぶ。

「止まってください!」

 ビックリした近衛の兵隊がブレーキを引いてホルスターの拳銃に手を掛ける。沿道のお巡りさんらがビックリした顔で、こっち向いて、そのうちの一人は腰のサーベル押さえながらこっちに走って来る。

 箕作巡査もそやけど、日本のお巡りさんは優しい、拳銃持ってへんし、サーベルかて押さえてるだけで抜こうとはせえへん。

 やられるとしたら、サイドカーの近衛兵の拳銃。

 この距離やったら、撃たれたらヤバイよ。魔法少女言うても見習いやし死ぬかもしれへん。

 建物の二階の窓、霧子と難波大助が揉み合ってる。

 難波大助の手にはステッキが握られて……そうか、爆破ボタンはステッキに仕込んだんや。

 スイッチ押すだけやから、狙いをつける必要もないし……考えよったなあ。

 霧子が大助の手首掴んで……ちょ、スイッチに指かかってるし!

 

 ドッカーーーーーーーーーン!!

 

 ものごっつい音と光がした。

 

 ノンコオオオオオオオオオオオ!!

 

 誰のんか分からん叫び声が一瞬聞こえて、うちの意識は途切れて……しもた。

   

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・002『エルベの水』

2022-05-22 05:55:48 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

002『エルベの水』  

 

 

 
 不覚でした……水に思念を写してしまいました。

 
 ニンフが暁にエルベの水を汲むのは禁忌とされています。

 現世(うつしよ)において、最も清浄とされるエルベは、その清浄さゆえ、魔力を持つ者の思念を写します。

 端女(はしため)とは申せ、わたくしはニンフであります。姫が魔王との戦いに臨まれているのではないならば、このような無理はいたしません。しかし、かように満身創痍となられても戦いを挑まれる御決意、その御決意を知ってしまっては、手をこまねいているわけにはいかないのです。姫は、これまでの戦いで三十余個所の傷を負われているのです。

 心を写してしまわぬよう、目をつぶって水を汲みましたが、それでも、心の底にわだかまる星屑のような記憶が暁のエルベに感応したのでありましょう。

 おぼろな断片でしかなかった記憶が形を成してしまいました。

 万聖節の夜、此度の遠征が決まったとき、主神オーディンがトール元帥と語っておられたところが蘇ってしまったのです。

「此度の戦は、このトールこそが相応しい。このミョルニルのハンマーをもって魔王を原子の粒にまで潰してみせる」

「申し出は嬉しいが、元帥、もうブリュンヒルデに決めたのだ」

「姫は疲れておられる。親征すること七百数十度に及び、姫は常にヴァルキリアの先頭に立ってこられた。どの戦においても親征の誠を尽くしてこられた。しかし、あの漆黒の鎧の下には、すでに三十余の傷を負っておられる。あのまま、辺境とはいえ魔王との戦いをさせては、癒えきらぬ傷が口を開く。これ以上の傷を負わせれば、いくらヴァルキリアの主将にしてオーディンの姫とはいえ身が持たぬ。ここは、この老臣に任されよ。今から駆け付ければ、姫が名乗りを上げられる前に間に合おうぞ」

「卿の申し出はありがたい、子の親としては、卿が申されるまでもなく、この主神の身をもって親征に臨むところだ。生まれて今に至るまで戦ばかりさせてきた。願わくば、ブリュンヒルデにも嫋やかな花嫁修業などさせてみたいのが親心というものだ。しかし、この主神の娘であることが、それを許さぬのだ」

「戦死者を選ぶ力か……」

「そうだ……」

「わたしならば、その恐れておれる戦死者も出さずに勝利してみせる。犠牲の少ない戦をしてこその主神でござりましょうが!」

「それは……」

「それとも、このトールが手柄を立てれば、御身の主神の位を簒奪するとでも思し召しか!?」

「そのようなことはない!」

「ならば!」

「口が過ぎるぞ、トール!」

「ヴァルハラの将来を思えばこその諫言でござる!」

「姫が選ぶ戦死者は……のちに蘇ってラグナロク(最終戦争)の戦士になるのだ。あれの、本当の使命は戦に勝つことではない、ラグナロクの戦士を選ぶことなのだ、あれが選ばなければ、ラグナロクを戦う者が居なくなるのだ……」

「なんと仰せられる……いまの戦いがラグナロクでは無かったのか!?」

「他言無用だぞ、元帥……」

 
 ああ、全てこぼれてしまった……。

 
「レイア、エルベの水が語ったことは本当か……」

「姫……!?」

「わ、わたしが選んだ戦死者は彼岸に往生するのではなかったのか!? 死んでなおラグナロクだと? わたしは、いっそうの苦しみを与えるために戦死者を選んでいたということなのか……」

「…………」

「あ ああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「姫! 姫さま! ブリュンヒルデさまああ!」

 
 端女(はしため)の身をも構わず、わたしは姫を抱きしめまいらせました。

 姫の震えを、姫の苦しみの万分の一でも受けとめようと、この胸に抱きしめまいらせました。

「レイア、レイア、このわたしは……ブリュンヒルデは、なんと罪深きことをしてしまったのだ! 取り返しがつかんことをしてしまったのだ! どこに? だれに許しを請えばよいのだ!? どのように償えばよいのだ!? お、教えて! 教えてくれ! レイア……わたしは、わたしは……ブリュンヒルデはなんということをしてしまったのだ!」

 姫は、お仕えし始めたころの幼子のように泣きじゃくるばかりでありました……。

 

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やくもあやかし物語・140『頂いたお屋敷はお城だった』

2022-05-21 11:37:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・140

『頂いたお屋敷はお城だった

 

 


 霧だか霞の中に坂道だけが浮かび上がってる。ほら、グーグルアースとかで、都合の悪い家とか景色とかボカシてる、あんな感じ。佇まいは二丁目の坂道に似ている。

 100メートルほど行ったところで右に曲がっていて、道幅も二丁目のと同じくらいで舗装道路。


 でも、逆なんだよ。


 二丁目の坂道は下りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。

 目の前の坂道は登りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。

 曲がると、まだ上りで、50メートルほど進んで、アーチ形の門。

 門扉は赤っぽい茶色で、駅のシャッターみたいに上下に動いて開くみたい。


 え~どうしよう……どこかにスイッチがあるのか、それとも「開けてください!」とか「かいも~ん!」とか言わなきゃならないのか。言うとしたら、どの程度の声を出せばいいのか、ひょっとしたら、そこらへんにインタホンとがあって、そこで言わなきゃならないのか、人感センサーとかがあるのか……怖がりで人見知りなわたしは悩むわけですよ。

 悩んでいると、道以外は霧か霞みたいなので見えなかったところが、ちょっとずつ見えてくる。

 立ち眩みが治る時に似ている。

 立ち眩みって、視野の周囲が鉛色に溶けていて、景色がよく見えないじゃない。

 その逆で、ちょっとずつ見えてくる。


 …………あ、お城なんだ!


 アスファルトの坂道を上がってきたから、近所と同じ住宅街かと思っていたら、なんだか山の中。

 その山の峰の一つみたいで、峰一つがまるまるお城になってる。

 シンデレラ城みたいで、壁は白っぽいクリーム色。

 門の向こうには、青っぽい塔がいくつも覗いていて、とっても雰囲気。

 
 ギギギギ……


 城門が開いていく。ひょっとしたら、足もとの敷石のどれかがスイッチになっていて、それを踏んだのかもしれない。

 左から八個、城門の前から十個目くらい……うん、覚えた。

 門を潜ると、石畳の広場。前後左右に建物があって、城門を破って突入しても、あっちこっちから弓や鉄砲を撃ちかけられてしまいそう。

 ええと……どっち行ったらいいんだろう?

 左右の建物には、木製の片開きのドア。

 正面は二階に上るくらいの石段があって、その向こうに大きい建物……窓を数えたら五階くらいありそうで、屋根の上には塔が立ってる。日本のお城で云ったら天守閣になるところっぽい。

 石造りだし、ドアはみんな閉まってるし。入り口とかエントランスとかの表示も無いし……。

 
 そうだ、こういうところって受付とか切符売り場とかがあるよね。

 そういうのって、入ってすぐの右だか左だかの受付って感じになってるはず。

 もう一度、門の所に戻って確かめてみたけど、それっぽいのは見当たらない。

 スマホで検索!

 あ、スマホは棚の上で充電中だ。

 取りに戻るには、門を出て、合わせて200メートル近くはある坂道を下らなきゃならない。

 どうしよう……戻ったら、もう来ようって気にならないよ。

 五分ほど悩んで、正面の石段を上がる。

 上がったところはテラスっぽくって、正面に観音開きの扉。

 どの石畳踏むのかなあ……ウロウロしているうちにドアが開く。

「こんにちは」「ごめんください」「ごきげんよう」

 どの挨拶にしようか困ってしまう。

 えと……あ、ごきげんようは、お別れの時の挨拶だった!

 それだけで、胸がドキドキしてしまう。

 キョロキョロしていると、正面の階段に小さな注意書きの看板があるのに気付く。

『二階の謁見の間にお越しください』

 そうか、二階なんだ。

 おっと!

 一歩足を出して、立ち止まる。

 上履きに履き替えなくてもいいのかなあ……見回しても、それっぽいのは見当たらないので、そのまま失礼する。

 ホールから控えの間を通って、いよいよ謁見の間。

 ハ!?

 ビックリしたような気配がして、そっちを向くとメイドさんが目をこすっている。でも、0・5秒でメイドらしい笑顔になって応えてくれる。

「あ、申し訳ありません。つい……」

「えと……ここでいいんですよね?」

「はい、こちらでございます……陛下……あ、寝てしまわれました(^_^;)」

 わたしがモタモタしている間に、メイド王は玉座に座ったまま寝てしまっている。

「ああ……寝起きの悪いお方ですので、しばらくお待ちくださいませぇ~」

「アハハ、そうですか……(^_^;)」

 
 メイデン勲章改・Ⅱを見つめて、メイド王からもらった屋敷を見ておこうと思って、愚図で怖がりのわたしは、ちょっと時間がかかり過ぎてしまったみたい。

 どうしようかと思ったら、控えの間に案内されて、メイドさんに紅茶を淹れてもらって、メイド王が起きるのを待ちましたよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』

2022-05-21 07:05:21 | 時かける少女


漆黒ブリュンヒルデQ 

001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』  

 

 
 主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 

 我が名はブリュンヒルデなるぞ!

 
 佩刀オリハルコンを抜き放ち、天をも貫く勢いで大上段に構えられると、かくも雄々しく姫は名乗りを上げられました。
 たちまちのうちに雷鳴響き稲妻が走ると、電光は御佩刀オリハルコンにまとい付き、姫の憤怒を荘厳いたします。
 姫の憤怒は、もはや御身の内に留まること能わず、御身に負われた数十の傷口から血と共に噴き出し、電光に短絡せしめられ、御身の周りに血の虹を現出いたします。

 姫の従者となって幾百年の年月を経ましたが、かくも荒ぶるお姿を拝するのは初めてでございます。

 身が縮むほどに凄惨ではございますが、そのお姿は鬼神でさえ、その凄絶な美しさにため息を漏らしたでありましょう。

 端女(はしため)の身は、むろんのこと、そのお姿を目にして息をすることさえ忘れるほどでございます。

 思えば、あの時、我が身の内の乏しい勇気を振り絞ってでもお停めすべきでありました。むろん、事ここに至ってしまった今になって思う後知恵にすぎないのではございます。
 辺境の魔王一匹助けたとて姫の運命は変わらなかったのかもしれません。わたくし自身、姫の凄絶な美しさに身を震わせていたのですから、姫の美しさは罪であります、いいえ、罪などと申すは言い訳と申すにも畏れ多く、ついには、姫を、この窮地に立たせてしまったのですから、この罪は万死に値します。

 
 グオーーーーー!!

 
 魔王が雄たけびを上げ、戦死者の骸を砂塵のように蹴散らして姫に切りかかりました。

 闘志からではありません、魔王は、姫の美しさに耐え切れなくなったのでございます。

 ブオン!!

 魔王の剣は虚しく空を切りました。

 むろん魔王は、正しく姫の正中を両断しておりましたが、それは虚しい残像でありました。姫は鬼神の勢いに勝る敏捷さで舞い上がり、刹那の後に魔王を切り伏せなさいます。

 斬!!

 魔王は数十歩駆け抜けたところで二つ身になり、はるかバルハラからでも見えようほどの血潮を噴き上げて倒れてしまいました。

 ドウ……

 わたしは、わななきわななき立ち上がり、震える手でエルベの水を満たした革袋を差し出します。

 「エルベの水をお持ちいたしました……」

 「すまぬ……血まみれで最後の戦いに臨みたくないというのは見栄であったかもしれぬ。あまりの憤怒から古傷からも血を噴き出させてしまった」

「お身を清めさせていただきます」

「ああ、頼む。もう立っているのもやっとなのだ……」

「お寛ぎを」

「うむ……」

 ガチャリ

 膝をおつきになった姫の甲冑を解き、戦衣を寛げます。露わになったお体をエルベの水で清めて差し上げます。
 わたしが使える魔法は癒しの水を灌ぐことだけ。
 革袋に満たせば解呪するまで灌ぐことができよう、エルベの水は最高の効能があるのだから。魔王との戦いに間に合わせようと、それが、少し遅れてしまった。戦いが早くなってしまったためと……もう一つの理由。

「レイアの手は優しいなあ……母上の顔など憶えては居らぬが、きっと、このようなものでこそあったのであろうなあ……」

「身に余る例えに恐縮いたしますが、お喋りになっては、傷に障りますよ」

「よいのだ、レイアの声はエルベの水同様にこの身を癒してくれるのだ。幼子のお喋りと許してくれ……やっと、これで、討ち死にした者たちも、無事に彼岸にたどり着いてくれるだろう、そう思うと少しは楽になる……こたびは2531人を送った。世界の魔を屠るためとはいえ……いや、こうやって戦いを重ねて行けばラグナロクは起こらない、父上もおっしゃった。『ブリュンヒルデが戦死者を選ぶのはけして無駄なことではない、おまえに選ばれれば、彼岸への往生は間違いないのだから』と……しかし、今度は一人っ子を320人も逝かせてしまった……レイアと仲の良かったアロヤも、やっと彼女ができたロイルも……お調子者のルイラも……」

「それぐらいになさいませ、これ以上お喋りになられるのなら、ムクゲの花で眠らせてしまいますよ」

「子どものころに、よくやられたなあ……気持ちよく眠れるが、三日も目覚めぬのではかなわない……いや、それもいいか、こたびの戦は……堪えたからなあ」

「はい」

 いつもの五倍ほどの傷を負っておられた。傷口を塞ぐだけでも八倍の水を灌いでいる……早くしなければ。

「レイア」

「なんでございましょう」

「この水……なにか、語り掛けてくるようだぞ」

「え……?」

 
 不覚にも革袋持つ手が止まってしまいました……。

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 74『函谷関』

2022-05-20 10:56:37 | ノベル2

ら 信長転生記

74『函谷関』市   

 

 

 そいつは、崖の上から団扇みたいなのヒラヒラさせながら降りてくる。

 ゾロッとしたワンピースみたいなの上に、それよりも裾の長いガウンみたいなの着て、薄ら笑い浮かべながら降りてくる。

 こいつ、ルックスはまあまあなんだけど、きっと体の線に自信ないんだ。自信があったら、あんなゾロっとしたの着ないと思う。茶姫とかの三国志の美人は、みんなミニスカで、胸元も大きく開いたの着てるし。

 むろん、わたしの近衛騎兵のコスだって、胸甲の下はミニスカにニーソで決めてるし。茶姫はガーターベルトの留め具を赤いルビーで際立たせている。

 フフフ

「シイ、何がおかしい?」

「ううん、なんでも……」

 勝った! あ、いや、そいつは大したことないと思った瞬間、気まぐれな谷風が噴き上がってきた。

 ブワア

 谷風は、そいつのガウンとワンピを遠慮なくまくって、胸元まで露わにしてしまった!

 オオ( ゚Д゚)!

 遠慮のないどよめきが起こる。

 面積の少ない下着を付けた体は、そこらへんのグラドルも真っ青ってくらいにイケてる。

 こいつ、谷風まで計算に入れて崖の上に立っていたのなら、ちょっと策士だ。

 一秒にも満たないアクシデントを平然と受け流し、茶姫の前に立つと、クールな笑顔で挨拶した。

 

「蜀の丞相を務めております、諸葛茶・孔明でございます。わざわざの起こし、主・玄徳に成り代わりご挨拶申し上げます」

「これはこれは、丞相殿の御高名はかねがね伺っておりました。その丞相殿自らのご挨拶いただき痛み入ります。わたくしは魏王・曹操の妹にして騎兵師団長を務める曹茶姫です。転生国打通進軍の帰路、国王・劉備玄徳殿に領内通過のご挨拶いたしたく参ったしだいです。よろしく国王陛下にお取次ぎのほどを願います」

「よくぞ参られました、転生国打通の噂は、この蜀にも届いております。主・劉備玄徳も、あの鮮やかな打通作戦には大層な関心をもっております。いずれは、使者をたて、相応のご挨拶のうえご高説賜らんと申しておりました。さっそくにご案内申し上げたく存じます。これ、関羽、張飛、心してご案内申し上げよ」

「「承知!」」

 こうして、筋肉バカの二将軍に先導されて、函谷関に向かう我々であった。

 

 グゴゴゴ……

 

 高さ66メートルの城壁に設えられた門扉は、それだけで50トンはあろうかと思われる黒鉄の逸物で、開く音が、まるで地中を龍が這うごとくである。

 関内に入ると、すでに検品長が馬を引き連れて入関していた。

「蜀の許可は得ています。ここからは、騎乗してお進みください」

「茶姫の部隊は血の巡りがいい」

「そうだね、言いたかないけど、ニイチャンとこのサル(秀吉)とかイヌ(前田犬千代)のようだ」

「成都は広い都ですが、これだけの騎馬部隊を収容することはできません。関羽に案内させますので、東の牧にお待たせください。都城には百騎のみお連れくださいますよう」

「心得た丞相殿。検品長、百騎の近衛を残し残りを牧へ移せ」

「茶姫」

「なんだニイ?」

「俺も牧にまわってからの同行でいいか?」

「構わんが、どうしてだ?」

「俺たちのものではない蹄の跡が……ほら、あんなについて、牧の方角に続いている」

「備忘録!」

「はい、備忘録、これに」

「蜀の役人にあたって、この後の段取りを決めてこい」

「はい」

「ニイ、備忘録より報告を聞いてから行け。劉備との面接には立ち会え」

「承知した」

「シイも一緒に行く!」

「フフ、シイはお兄ちゃん子なんだな」

「ち、ちがうし(~_~;)!」

 茶姫も一言多い!

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・53『いざ生きめやも』

2022-05-20 06:16:29 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

53『いざ生きめやも』  

       

 

 男は暗い決心をした……こいつのせいだ。

 そして、これは千載一遇のチャンスだ。

 

「ほんとうにありがとう。新曲発売になったら、よろしくね!」

 両手を振りながら、栞たちメンバーはピロティーのバスに向かった。

「すみません。せっかくだから記念写真撮ってもらっていいですか!?」

 ハーーーーイ!

 元気のいい声がいっせいにした。ここまでは織り込み済みである。いわばカーテンコール。

 まずは、メンバーと生徒たちがグラウンドに集まって集合写真。それからは気に入ったメンバーと生徒たちで写真の撮りっこになった。

「どうも、ありがとう。がんばってくださいね!」

 そんな言葉を五度ほど聞いて、わずかの間栞は一人になった。

「ごめん、鈴木君」

 めずらしく苗字で呼ばれて、笑顔で栞は振り返った。

 その直後、栞は、顔と、思わず庇った右手に激痛を感じた。

「キャー!!」

 痛さのあまり、栞は地面を転がり回った。左目は見えない。やっと庇った右目には、自分のコスから白煙が上がり、右手が焼けただれているのが分かった。そして、白衣にビーカーを持って笑っている、その男の姿が。

「バケツの水!」

 スタッフで一番機敏な金子さんが叫び、三人ほどに頭から水をかけられた。その間に、他のスタッフが、ホースで水をかけ続けてくれた。

「その男捕まえて! 救急車呼んで、警察も! これは硫酸だ、とにかく水をかけ続けろ!」

 金子さんは、そう言いながら自分もホースの水に打たれながら、コスを脱がせてくれた。

「栞、右の目みえるか!?」
「……はい」

 そう返事して栞は気を失った。

 気がつくと、時間が止まっていた……走り回るスタッフ、パニックになるメンバーや生徒たち。
 救急車が来たようで、救急隊員の人が、開き掛かけたドアから半身を覗かせている。
 パトカーの到着が一瞬早かったようで、白衣の男は警官によって拘束されていた。

 その男は……旧担任の中谷だった。

 噂では、教育センターでの研修が終わり、某校で、指導教官がついて現場での研修に入っていると聞いていた。それが、まさか、この口縄坂高校だったとは。

 中谷は、憎しみの目で栞を見ていた。栞は、思わず顔を背けた。本当は逃げ出したかったんだけど、金子さんが、硫酸のついたコスを引きちぎっているところで、それが、カチカチになっていて身を動かすこともできない。時間が止まるって、こういうことなんだと、妙に納得しかけたとき、フッと体が自由になった。

「イテ!」

 勢いでズッコケた栞はオデコを地面に打ちつけた。

「ごめんなさい先輩……」

 数メートル先に、さくやがションボリと立っていた。

「さくや、喋れるの……って、さくやだけ、どうして動いているの?」

「時間を止めたのは、わたしなんです」
「え……」
「もう少し早く気づいていたら、こうなる前に止められたんですけど。マヌケですみません」
「さくや……」

 そのとき、ピンクのワンピースを着た女の人が近づいてきた。

「あ、さくやのお姉さん……」
「ごめんなさいね、栞さん。とりあえず、そのヤケドと服をなんとかしましょう」

 お姉さんが、弧を描くように手を回すと、ヤケドも服ももとに戻った。

「これは……」
「わたしは、学校の近くの神社。そこの主、石長比売(イワナガヒメ)、この子は妹の木花咲耶姫(コノハナノサクヤヒメ)です。この春に乙女先生が、お参りにこられ、その願いが本物であることに感動したんです。そして、わたしは希望を、サクヤは憧れをもち、人間として小姫山高校に入ったんです」
「先輩や、乙女先生のおかげで、とても楽しい高校生活が送れました。本当にありがとう」

 さくやの目から涙がこぼれた。

「時間を止めるなんて、荒技をやったので、もうサクヤは人間ではいられません。小姫山ももう少し見届けたかったんですけど、もう大丈夫。校長先生や乙女先生がいます。学校はシステムではありません、人です。だから、もう大丈夫……では……」

 お姉さんとさくやが寄り添った。そして時間が巻き戻された。

「ウ、ウワー! アチチチ!」

 オッサンの叫び声がした。

 ビーカーの破片が散らばり白い煙と刺激臭がした。

 どうやら白衣のオッサンが、硫酸かなにかの劇薬をビーカーに入れて、転んだようである。幸い薬液が飛び散った方には人がいなく、コンクリートを焼いて、飛沫を浴びた中谷が顔や手に少しヤケドを負ったようで、大急ぎで水道に走っていった。

「おーい、MNBはバスに乗って!」

 金子さんに促され、メンバーは別れを惜しみながらバスに乗った。

「だれか、残ってませんか……?」

 栞は思わず声に出した。

「みんな、隣近所抜けてるのいないか?」

 そう言って、金子さんは二号車も確認に行った。

「OK、みんな揃ってる!」

 バスは、口縄坂高校のみんなに見送られて校門を出た。

 栞は、横に座っている七菜に軽い違和感を感じた。同じユニットの仲間なんだから、そこに居たのが七菜でおかしくはない。

「七菜さん、来るときもこの席でしたっけ?」
「え、たぶん……どうかした?」
「ううん、なんでも……」

 その日から、MNBのメンバーからも、希望ヶ丘高校の生徒名簿からも一人の名前が消えた。そして、その違和感は、栞の心に微かに残っただけで、それも、いつしかおぼろになっていく。

 

「風たちぬ……か、そろそろ夏かな」

 そう呟いて坂道を曲がった。

 校門の前には登校指導の乙女先生がバナナの叩き売りのように「おはよう!」を連呼している。

 小姫山の、いつもの朝が始まる……。


 乙女先生とゆかいな人たち女神たち 第一部 完

 

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せやさかい・307『来週から中間テスト』

2022-05-19 09:40:41 | ノベル

・307

『来週から中間テスト』さくら   

 

 

 もう中間テスト(|| ゚Д゚)!?

 

 うちが驚くのんはいつものこと。

 つい、日々の面白いことやらビックリすることに気を取られて、毎年2/3の確率で叫んでは、人に呆れられてる。

 せやけど、こんどビックリして目ぇ剥いたんは留美ちゃん。

 

「月曜から中間テストだね……」

 掃除道具を片付けながら、ナニゲに掲示板の『今月の予定表』を見てメグリンが呟いた。

 ほんで、教室の窓閉めてた留美ちゃんがショックで固まってしもた。

「ああ……まだ三日あるねえ」

「三日しかないのよ!」

「え、ああ……せやねえ(^_^;)」

「メグリン、ノートはちゃんととってる!?」

「うん、とってると思う……」

「ねえ、抜けとかミスとかないか確認しとこうよ!」

「え?」

「あ、うん、いいよ」

 留美ちゃんとは中一からの付き合いで、いまは、うちの如来寺で姉妹同然で、いっしょに暮してる。

 せやさかい、お互いの事はよう知ってるねんけど、こんなに慌ててる留美ちゃんは初めて。

 せやさかい、なんか、調子が合わんでオタオタしてしまう。

「高校は中学と違うからさ、ときどき立ち止まって点検しないと危ないよ。とりあえず、今日の分!」

「え、今からぁ?」

「今から!」

「はひ(;'∀')」

 というので、閉めかけた窓をもう一回開けて、三人で机を寄せる。

 

 で、ビックリした!

 三人ともノートはとってんねんけど、どうもちゃう。

 いや、ビックリするくらいちゃう!

「ウ、ウフフフフ……」

 メグリンが、うちのノート見て笑いよる。

「あ、ああ…………」

 留美ちゃんが横から覗き込んで――ああ、やっぱり――という顔になる。

「なんやのんさ」

 ちょっと気分が悪い。

「ごめん、なんか可愛くって(^艸^)」

「さくら、数学、寝落ちばっかしてる」

「え、そんなこと……」

 ノートを取り返して、ページをめくってみると……どれも、途中から字ぃも式も溶けたみたいになってる(;'∀')」

「日によって違うけど、だいたい、半分過ぎたところで寝てるね、これは……」

「そうなん!?」

「帰ったらノート見せたげるから、ちょっと特訓だね」

「うう……」

 二人のノート見せてもろて、ちょっとショック。

 留美ちゃんのは、中学の頃と変わらん丁寧さ……だけやなくって、ちょっと違う。

「色が少ない……」

 中学のころ、留美ちゃんは五六色くらい色を使うてた。

 めっちゃ大事、大事、ちょっと大事、の三つが基本で、質問するとこも重要度別に色分け。図解や書き順とかは、カラ-ペンを駆使して後からでもポイントが分かるように書いてた。

 それが、黒以外は、赤と、時々青が混じってるぐらいしかあれへん。

「余裕もって説明とか聞きたいから、ちょっと簡素にしてみたの。高校の授業って、板書よりも、説明に重点があるよ。この一カ月半でよく分かった」

 やっぱ、留美ちゃんは偉い!

「なるへそ、それでメグリンのは……」

「「ゲ!?」」

 留美ちゃんと声が揃てしもた。

 メグリンのノートは、うちの十倍、留美ちゃんの倍くらいの量がある!

「アハハ、色々書き足してると、こういう感じになってしまう……」

「習ってないことが多いよ……」

「え、そうなん?」

「あ、ついね(^_^;)」

 つい? ついてなんやろ?

「理系は好きだから、つい、思い当たるフシがあると書き込んでしまう。数式とかは、応用とか変形とかいっぱいあるからさ『ああ、これは、あれに繋がる』とか『応用したらこうなる』とか、ついね……」

「「ムムム……」」

 で、社会とか国語系は、逆に感心されてしまう。

「へえ、額田王(ぬかたのおおきみ)って、こんな顔だったんだ!」

「あ、それはさくらの妄想だから」

「でも『春眠暁を覚えず』の絵なんて、この寝ぼけ顔、おっかしいよ( ´艸`)」

「これ、テイ兄ちゃんだね!?」

「テイ兄ちゃん?」

「あ、いっしょに住んでる従兄なんやけどね!」

 ひとくさり、テイ兄ちゃんのアホな話をして、二人を笑かす。

 けっきょく、夕方までアホな話してしまいました。

 はい、帰ったら、ちゃんと勉強します。

留美:「ほんとかなあ?」

さくら:「ほんまです!」

メグリン:「アハハハハ」

 三人は、ええ友だちになりました(^▽^)。

留美:「あ、ごまかした……」

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・52『風立ちぬ』

2022-05-19 06:16:03 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

52『風立ちぬ』  


     
          


 紫陽花が人知れず盛りを終えたころ、夏がやってきた。

 あれだけ冷温が続いた春は、いつのまにか蝉の声もまびすしく、水分補給のペットボトルが手放せなくなった。さくやはMNBではパッとしなかったが、それでも選抜のバックコーラスやバックダンサーをさせてもらえるようになり、楽屋では自称「パシリのさくや」とニコニコと雑用をこなし、メンバーからはかわいがられていた。

「ジャーン、この中に、当たりが一本は必ずあります!」

 スタッフの分を含め四十個のアイスを保冷剤をいっぱい入れてもらって、さくやが買ってきた。むろん制服姿で、宣伝を兼ねている。こういうパシリでは、制服でMNBということが分かり、ファンの人たちから声を掛けてもらえるので、さくや本人はいたって気に入っていた。

「あ、わたし、当たり!」
 
 七菜が嬉しそうに手を挙げた。

「ラッキーですね、すぐに当たりのもらってきます!」
「いいよ、さくや、これは縁起物だからとっとく」
「そうですか、それもいいですね。じゃ、サインしときゃいいんじゃないですか。七菜さんのモノだって」
「ハハ、まさか、取るやつなんかいないでしょう」

 聖子が、アゲアゲのMNBを代表するかのように明るく言った。

「いいえ、神さまって気まぐれだから、運がどこか他の人にいっちゃうかも。栞さんとか」

 近頃、ようやく栞に「先輩」を付けなくなった。言葉も全国区を目指して標準語でも喋れれるようにがんばっている。大阪弁は、その気になればいくらでも切り替えられる。今までずっと、それで通していたんだから。

 昼からは、バラエティーのコーナーである「学校ドッキリ訪問」のロケに府立口縄坂高校にバスを二台連ねて行くことになっていた。

 口縄坂高校は、府の学校改革のフラッグ校と言われ、近年その実績をあげている。そのご褒美と学校、そして府の文教政策の成果を全国ネットで知らせようと、府知事がプロディユーサーの杉本と相談して決めたことである。一部の管理職以外は、午後からは全校集会としか伝えられていなかった。

 そこへ、中継車こみで三台のMNB丸出しのバスやバンがやってきたのだから、生徒たちは大騒ぎである。

「キャー、聖子ちゃ~ん!」「ラッキーセブンの七菜!」「スリーギャップス最高!」

 などと、嬌声があがった。

 とりあえず、メンバーは楽屋の会議室に集合。生徒たちは、いったん教室に入った。研究生を入れた総勢八十人のメンバーは、三人~四人のグループに分かれて教室を訪れ。カメラやスタッフは、三チームで各学年を回った。

「わたし、小姫山高校なんで、こんな偏差値が十も上の学校に来るとびびっちゃいます!」

 教壇で栞が、そう切り出すと、生徒たちからは明るい笑い声が返ってきた。その中に微妙な優越感が混じっていることを、栞もさくやも感じていた。

「MNBで、オシメンてだれですか?」
「しおり!」

 如才ない答が返ってくる。あとは適当なクイズなんかして遊んだ。クイズといっても勉強の内容とは関係ないもので、当たり前の答はすぐに出てくる。

「これ、なんて読みますか?」
「離れ道!」
「七十九点!」

 栞は、わざと評定五に一点だけ届かない点数を言ってやった。案の定その子は、かすかにプライドが傷ついた顔をした。

「MNBじゃ、なんて読む、さくや?」
「はい、アイドルへの道で~す。首、つまりセンターとか選抜への道は、遠く険しいってわけです」
「この、しんにゅうのチョボは、私たち一人一人です。その下は、それまで歩んできた道を現しています。だから、このチョボは、今まさに首=トップにチャレンジしようとしているんです。そうやって見ると、この字は、なんだか緊張感がありますよね。わたしたちはアイドルの頂点を。あなたたちはエリートの頂点を目指してがんばりましょう!」

 教室は満場の拍手。栞は笑顔の裏で、少し悲しいプライドのオノノキのように聞こえた。

 それから、講堂に全生徒が集まって、ミニコンサートになった。この口縄坂高校は、プレゼンテーションの設備が整っていて、講堂は完全冷暖房。照明や音響の道具も一揃いは調っていた。まあ、これが学校訪問が、こんなカタチで実現した条件でもあるんだけれど。

「それでは、来校記念に、新曲の紹介をさせていただきます。『風立ちぬ』聞いて下さい」


 《風立ちぬ》作詞:杉本寛   作曲:室谷雄二

 走り出すバス追いかけて 僕はつまずいた

 街の道路に慣れた僕は デコボコ田舎の道に足を取られ 気が付いたんだ

 僕が慣れたのは 都会の生活 平らな舗装道路

 君を笑顔にしたくって やってきたのに 

 君はムリに笑ってくれた その笑顔もどかしい

 でも このつまずきで 君は初めて笑った 心から楽しそうに

 次のバスは三十分後 やっと自然に話せそう 君の笑顔がきれいに咲いた

 風立ちぬ 今は秋 夏のように力まなくても通い合うんだ 君との笑顔

 風立ちぬ 今は秋 気づくと畑は一面の実り そうだ ここまで重ねてきたんだから

 それから バスは 三十分しても来なかった 一時間が過ぎて気が付いた

 三十分は 君が悪戯に いいや 僕に時間を 秋の想いをを思い出させるため書いた時間

 風立ちぬ 今は秋 風立ちぬ 今は秋 ほんとうの時間とりもどしたよ

 素直に言うのは僕の方 素直に笑うのは僕の方 秋風に吹かれて 素直になろう

 ああ 風立ちぬ ああ ああ ああ 風立ちぬ


 スタンディングオベーションになった。

 構えすぎていたのは自分だったかも知れないと思った。みんなが笑顔になった。

 栞もさくやも、自然に笑顔になれた。

 次の瞬間の、その時までは……。

 

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くノ一その一今のうち・3『風間そのの災難・3』

2022-05-18 17:08:01 | 小説3

くノ一その一今のうち

3『風間そのの災難・3』 

 

 

 朝、校門で呼び止められて、注意されたこと以外には不幸なことはなかった。

 予習が間に合わなかった英語も、前から順番にあてられて、あたしの前に座ってるAがもたついてるうちにチャイムが鳴って助かった。ほら、ナントカ坂46のAだよ。可愛いし、アイドルのハシクレだからいたぶりたくなる気持ちも分かるけどさ。英訳のBe動詞抜かしたぐらいでカラムことないと思うよ。オーラが通じたのか、チラッと振り向いたAは「テヘペロ」をかましてた。後ろの男子どもが胸キュンしてんのも伝わってきて……ま、いいんだけどさ。

 昼休みの学食、階段の最後の二段ジャンプしたのが功を奏したのか、B定食は、あたしで売り切れ!

 やったね。

 隣のA定食(B定食より50円高い)はとっくに売り切れてた。

 この瞬間に限っては、プロレタリアJK、ブスモブ風間そのの勝利なわけさ。

 くたばれリア充! 

 思わず、トレー持つ手でVサイン。食堂のオバチャンが――よかったね(^_^;)――的に笑みを返してくれる。

 これが、他の生徒だったら、オバチャンは、こんな風には微笑まなかったと思う。

 オバチャンも、若いころからソレナリって感じしたし。通じるんだよねモブキャラ同士。

 万国のモブキャラよ団結せよ!

 モブの単純さ。それだけで、午後の授業は元気に居眠りするだけで乗り越えられた。

 

 帰りの電車も空いてたわけじゃないんだけど、ちょうど乗ったドアの横の席が空いてて、ラッキー!

 座ろうと思ったら、いっしゅん遅れてご老人が座る気で迫って来て――あ、どうぞ――的に譲ることができた。

 もうワンテンポ遅れたら、人に声かけるのが苦手なあたしは、悶々として駅に着くまで座ってたと思うよ。

 居眠り決め込むか、知らんぷりしてスマホいじってるかしてさ。そいで、隣に座ってる大学生風が「あ、どうぞ」的に席を譲って――おい、モブ子、ほんとはお前が代わるべきだろが――的に、ややあたしの前に寄って立つよ。

 まあ、昨日が昨日だったから、この程度のモブラッキーはあってもいいよね。

 よし、今日はお弁当じゃなくて、なにか作ろうか。

 数少ない料理のレパを頭に巡らせながら改札を出る。

 

 ピィーーーン

 

 改札を出て、駅前のロータリーに踏み込んだとたん、耳鳴りのようなものがして、カバン持つ手が総毛だった。

 ロータリーの斜め向こうの歩道を歩いているオネエサンが際立って見える。

 このオネエサンに危機が迫ってる!

 感じたとたんに体が動いた。

 ガードレールをジャンプして、斜め向こうの歩道に着地すると同時にオネエサンを書店の壁に押し付け、そのまま三回ジャンプした!

 ショーウィンドウの屋根、テナントの看板、電柱のてっぺん、そしてビルの屋上にトドメのジャンプを決め、手すりの外に身を乗り出していた学生風の上半身を両足で挟み込んで屋上に倒れ込んだ。

 ズサ

「このまま飛び降りたら、歩道のオネエサン巻き添えにしてるとこだったよ!」

「……………だ、だれ?」

 パッシーーン!

「死ぬのは勝手だけど、人の迷惑も考えろ!」

 我ながら、見事に平手と啖呵を決めてアホ男の自殺を食い止めた。

「ご、ごめんなさい……」

 一言詫びると、アホ男はひっくり返ったカエルのようになって、涙と鼻水でグチャグチャになった。

 ガチャ

 屋上階段室のドアが開いて、警備員さんが二人やってくる。

 もう大丈夫。ちょ、ヤバイ!

 相反する二つの気持ちが湧いて、三分たったウルトラマンみたいに、あたしはトンズラを決めた。

 

 え……いまの何? あたし、なにやったの!?

 

 ふと我に返って、ビルを振り返る。

―― パンツ、青の縞々だった ――

 な、なにを見てんのよおおおお(#°д°#)!

 アホ男の想念が降ってきて、晩ご飯の買い物もすっとんで、まっしぐら家に帰るあたしだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母

 

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銀河太平記・109『ココちゃん』

2022-05-18 10:47:27 | 小説4

・109

『ココちゃん』加藤恵 

 

 

 ニ百何十年前は宮内省と云ったそうだ。

 昭和20年、大東亜戦争に負けてからは宮内庁と変わった。

 たかが『省』と『庁』の一字違いだけども、中身はまるで違うようだ。

 終戦前日の20年8月14日から15日にかけて、降伏を良しとしない第一師団の将校たちが、陛下の玉音放送のレコードを奪おうと宮内省を襲撃した時、宮内省の職員や侍従たちは体をはって玉音を守り、軍部のクーデターを阻止した。

 阿南陸相は割腹自決、第一師団長は殺され、師団の指揮権は反乱将校たちに握られていたが、それに怯むことなくよく耐えた。

 宮内省の任務は陛下と、その藩屏たる皇族・華族を護る事であった。

 それが、宮内庁と看板が替わると、長官はじめ高級職員は他の省庁からの退職組や出向組が多数を占めることになった。

 彼らの意欲は本来の任務よりも無事に任期を全うして本庁に戻るか、無事に二度目の退職を迎えることであった。

 この役人的俗性は、二百数十年前、占領軍が宮内庁の仕事を輔弼ではなく監督を主任務とさせたことに起因する。天皇や皇族が、占領目的から逸脱することが無いように、いわば占領軍のスパイ機関にしてしまったことに遠因がある。いちど組織に染みついた属性が、いかに拭い難いか。敗戦というものがいかに人を腐らせることか。

 以上は、天狗党の前衛に居たころに習ったことだけど、今回は改めて、それを我がこととして実感した!

 

 心子内親王殿下は、天狗党崩れのわたしの隣に住むだけではなく、なんと、わたしのラボで働くことになった!

 殿下の西之島での生活は宮内庁が、陰日向の窓口になってやっているはずだ。

 いずれは皇嗣宣下をされるはずのお方が西之島に来ること自体が異常なのに、わたしの部下になるなんて、あってはならないことだ。

「アハハ、広く知見を深めなさいというのが、えと……陛下のお考えでもあるんですよ。心子は、ちょっと抜けたところがありますからね」

「あ、いや、そんな抜けているなんて……」

「いえいえ」

「あ、そこは余計です。その、メンタルモジュールのスペースは空でいいんです」

「え、メンタルモジュールがなければ、疑似感情表現ができないのでは?」

「いえ、パチパチたちは特異なんです。メンタルモジュール無しで、自律的に感情表現します」

「え、そうなんですか!?」

「はい、パチパチたちが特異なのか、島のパルス鉱石との相性でこうなってるのかは分からないんですけど、ここはこのままです。正規のロボットではありませんから」

『作業機械ですから』

「自分で言うな。ニッパチの戸籍は、ちゃんとロボットなんだからね」

「じゃ、これで閉じていいですか?」

「そうですね、午後はニッパチといっしょに市の審議会ですからね、ちょっと早いけどお昼にしましょう」

「はい、じゃあ、ニッパチさん、20分は安静にしてくださいね」

「そうだぞ、こないだは10分で動くから跡が残ってしまったからな」

『頭取の仕事は忙しくて』

「お願いしますねえ(^▽^)」

『殿下、わたしには丁寧な言葉使わなくていいですよ。島じゃ、みんなタメ口ですし』

「そう、それじゃ、お二方とも、わたしには普通に接してください。わたしは、島で一番の駆け出しですから」

「じゃあ、心子」

「心子(こころこ)って言いにくいでしょ、普通に『こころ』とか『ここちゃん』とかでいいですよ」

『名前はちゃんと呼ばなきゃ、わたし、省略されたらニッパですからね』

「あら、ニッパなんて呼ぶ人いるの?」

『アハハ、こどもたちとか……』

「ムー、そういう時は『わたしだってチが通ってるんだからね!』とか、言ってやるといいです」

『ああ、それナイスです! ココちゃん頭いいです!』

「そうか、じゃあ、ニッパチには特別にパルスガドリンクをやろう」

『わーい、今日のメグミ、気前いい!』

「あら、ニッパチさん、とても手がきれいね!」

『うん、メグミが最初に付けてくれたリアルハンド。普段から手入れしてますからね』

「へえ、そうなんだ」

 これ以上、殿下……いや、ココちゃんに聞かれては敵わないので、さっさと定期点検を切り上げた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王          今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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