大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・45『春の大遠足』

2022-05-12 06:20:43 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

45『春の大遠足』  

       


 水野校長の数少ない功績がある。遠足を連休が終わってからにしたのだ。

 一年生だけは学年でまとまって遠足にいく。学年としての一体感を持たせたいという、これも校長の発案であった。職員は嫌がったが、校長が、とうに絶滅した宿泊学習を持ち出す気配だったので、この線に落ち着いた。

 もっとも、一体感をもって学校を改革しようという意思のかけらもない教職員にはなんの効果もなかったが。

 ただ、先月の栞の『進行妨害事件』で、府教委やマスコミから叩かれた時には、ささやかではあるが、学校が前向きな姿勢を持っている証左であると評価された。しかし、このことは教職員には伝えていない。「恩着せがましい」と思われるのが分かっていたからである。

 二三年生は、クラスごとに行き先を決める。現実には幾つかのクラスが、示し合わせて同じところに行くので、学年としては三つぐらいのコースになる。

 栞のクラスは、あっさりと嵐山に決まった。

 なぜかというと、阪急の嵐山に着いたあとは自由行動であるからだ。

 別に単独行動で悪さをしようなどという不埒な考えはないが、学校や先生が決めたコースを羊のように引っ張り回されるのがイヤなだけである。担任の湯浅も、若い頃に奈良国立博物館を遠足の目玉にしたところ、たった一分でスルーされてしまい、それ以来、遠足はルーチンワークと心得て、生徒が行きたい場所に行かせている。

 そして、なにより一年生が全学年そろって嵐山なので、男子は一年生のカワイイ子を探し、お近づきになるチャンスである。女子は、あちこちにある甘い物屋さんや、桂川のほとりでのんびりしたい。と意見が一致した。

 一言で言えば、師弟共々の息抜きに徹するのである。

 教師たちは、昼には共済の保養施設で、そろって嵐山御膳というご馳走を食べることに話がきまっていた。本来監督責任があるので、あまり誉められたことではないのだが、同行の教頭も、見て見ぬふりをする。
 乙女先生は、この際、教頭とゆっくり話がしてみたかった。大阪城公園でのことがあって以来、教頭を見る目が変わってきた。娘さんの話などうららかな五月の風の中でしてみたいと思ったのである。

―― 先輩、どこに行くんですか? ――

 さくやからメールが来た。

 栞は、気のあったクラスの女の子たちと大覚寺から大沢の池方面を目指している。一応メールで答えておいたが、大覚寺は嵐山の駅からかなりあり、地理に詳しくないと、ちょっとむつかしい。まあ、遠足。適当にやるだろうと、放っておいた。

「え、どうしてさくやが!?」

 大覚寺の門前まで来ると、さくやが一人でニコニコと立っていた。

「わたしも、こっちの方に来てましてん」

 まあ、いいや。邪魔になる子でもないし。そう思う……前に、さくやは連れてきた友だちみんなに仲良くアメチャンを配っている。

「このサクちゃんも荷物の多い子やねんな」

 クラスメートの美鈴が、さくやの背中を見て言った。

「同じクラブですから」
「ええ!? 遠足の日に学校帰って部活すんのん!?」
「これでも演劇部は厳しいんです。ねえ、先輩?」
「そ、そうよ(^_^;)」

 MNBに入っていることは、内緒にしてある。記者会見などやっているのだが、おもしろいもので、あの画面に映っていたのが、クラスの栞であるとは、まだ誰も気づいてはいない。いや、気づいている者も、あえて騒がない。よく言えば大人の感覚のあるクラスではあった。

 お寺そのものには興味がないので、五百円払って入ろうとは思わず大沢の池のほとりでお弁当にした。

「えい!」

 残ったご飯粒を丸めて、池に投げると、まるで待ってましたという感じで錦鯉が跳ねて食べてしまった。

「うわ、今のんきれいに撮れたわ!」

 美鈴が、絶好のシャッターチャンスで鯉を撮っていた。

「うわ、ほんま(^▽^)」
「きれいなあ(n*´ω`*n)」

 などと浮かれていると、後ろから声がかかった。

「よかったら、君たちの写真撮ってあげようか」

 振り返ると、いかにもプロのカメラマンという感じのオジサンが声をかけてきた。

「お願いできますか」

 栞は、物怖じせずに頼んだ。

「じゃ、まず君たちの携帯で。おい、レフ板」

 すると、助手のようなニイチャンたちがレフ板を持ってきた。

「うわー、本格的!」

 瞬くうちにみんなのスマホに写真が撮られた。

「じゃ、最後にオジサンのカメラで……」

 さすがはプロで「はい、チーズ」などとはやらない。世間話をしているうちに連写で何枚も撮ってくれた。

「はい、こんな感じ」

 オジサンは、モニターを見せてくれた。すると、なんと後ろに、スターの仲居雅治と中戸彩が映っていた。

「きゃー」
「うわー」
「本物や!」

 女子高生たちは大喜びした。仲居と中戸は気さくに握手やサインをしてくれた。

「お願いがあるんだけどな……ここは仲居君頼むよ」

 オジサンが振った、それも仲居君と親しげに……!

 

 というわけで、栞たちはテレビドラマのエキストラになった。

 最初は、仲居と中戸たちとすれ違ったり、追い越したり、背景のガヤになったり。そのうちにカメラマンのオジサンが言った。

「ねえ、栞ちゃんだったっけ」
「はい」
「ちょっと、中戸君と絡んでくれないかな」
「……え!?」

 中戸が水色のワンピで、駆けてきて栞とぶつかる。

「あ、すみません」
「ごめんなさい」

 これだけだったのが、監督とカメラマンのインスピレーションで膨らんでしまった。

「ねえ、大里さん待って!」

 女子高生ぶつかる。はずみで恭子のバッグが落ちて、中のものがぶちまけられる。

「すいません、うち、ボンヤリやから」
「ううん、あたしの方こそ。あ、ごめん、手伝わせちゃって」
「いいえ、おねえちゃん、イラストレーターやってはるんですか」
「うん、あいつ……大里のバカ野郎!」

 恭子の目から涙。女子高生の目、キラリと光る。

「あの、オッチャンですね」
「うん。でも、もういいの」
「ええことありません、ちょっと待って、大里さん! 大里のオッサン!」
「ちょ、ちょっと、あなた」
「大丈夫、掴まえてきます!」

 女子高生は、一筋近道をして、大里を発見。

「見つけた! もう逃がさへんよって……」

 女子高生の顔アップ、迫力におののく大里。

 ここまで、ほとんどアドリブで、カットが増えた。

 そして、これが、しばらくして問題になるとは思いもせずに栞たちは集合場所へと急いだ……。

 

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魔法少女マヂカ・272『富士山頂決戦・3』

2022-05-11 10:48:23 | 小説

魔法少女マヂカ・272

『富士山頂決戦・3語り手:マヂカ  

 

 

 うちらが上がってきた時には、カルデラの上にはまだ次元の狭間がインクの染みみたいに残ってた。

 ビョ~~~

 カルデラの縁を撫でるみたいにして風が渦巻いて、ちいさなカケラか埃みたいなもんが吹き上げられては狭間に吸い込まれていく。

「すごい戦いだったんだ……」

 魔法少女とちゃう霧子にも、この風景を見て、ついさっきまでの激戦は想像がつくみたい。

「みんな、あの次元の狭間に呑み込まれてしもたみたいやなあ……」

「次元の狭間?」

「うん、うちらが大正時代に来た時も、ああいうのに呑み込まれてきたさかい、ひょっとしたら、令和の時代に戻って行ったのんかもしれへん」

「それに違いないよ、わたしも、あれと同じ狭間から出てきたんだワン」

 遅れて上がってきた詰子も手を庇にして次元の狭間を見上げる。

「黒犬は、やっつけたんか?」

「うん、ただの犬に戻って逃げて行ったワン。親玉がやっつけられたから、もう悪さはできないワン」

「……マヂカとブリンダは!?」

「令和の時代に戻って行った……かな?」

「そんな……もう、会えないの!?」

「魔法少女が時空を飛ばされてくんのんは事故みたいなもんやさかい、自分で時間を飛ぶことはでけへん」

「そんな……こんな、突然のお別れなんて(-_-;)」

「うちらの力を超えた、なにかの意思が働いてるんちゃうやろか」

「そうだろうね、詰子とノンコが残ってるのは意味があると思うワン」

「詰子、ちょっと、残留してる気配を読んでくれる?」

「うん…………将門さんと巫女さんたち……悪たれのファントム……シャドー……真智香ねえちゃん……ブリンダ……」

「それだけやねんな?」

「うん、みんな薄れていくから、もう、この時代には居ないと思うワン」

「ステッキの気配は?」

「……それは無いワン」

「ということは……まだ虎ノ門事件は起こるんや、主犯の男は、そもそもファントム一味の中には入ってへんかったさかい」

「それは、わたしがやっつけなければならないと云うことなのね……」

「だいじょうぶ! うちが付いてるさかい!」

「詰子もいるワン!」

「そ、そうだね。ここまで真智香とブリンダがやってくれたんだから!」

「……ちょっと待って……もう一人、かすかな気配が……メイド服の女の人、気を失ってるっぽいワン」

「「クマさんだ!」」

「え、クマ?」

 詰子は、こっちに来たばかりでクマさんのことを知らないんだ。事情を説明すると「そうだったんだワン」と理解する詰子。

 

 オーーーイ!

 

 詰子が納得して、ようやく霞も雲も晴れて、下の方から声が上がってきた。

 JS西郷を先頭に高坂家の人たちが上がってくる。

 JS西郷以外には時空とかタイムリープとかは理解不能なんやけども、これまでのいきさつと山頂のありさまでザックリの見当はつくみたい。

 JS西郷は――わたしも上がっておけば――という顔をしてたけど、マヂカとブリンダが、万一車組が襲われることも考えていたことに思い当たって口をつぐんだ。

 ああ……あたしと詰子、それにJS西郷で、虎の門事件にあたらならあかん(;゚Д゚)。

 それに、クマさんが帰ってこーへんことを、箕作巡査にどない言うたらええねんやろか?

 振り絞ったカラ元気が、みるみる萎んでいった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・44『美玲の転入試験』

2022-05-11 06:35:39 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

44『美玲の転入試験』  

       

 

 美玲の転入試験は大阪城が見える応接室で行われた。

 つい四日前の大阪城でのことが思い出された。

 転入の説明を聴いたあと、新しいお母さん(乙女さん)は、ほんの気晴らしのつもりで連れて行ってくれた。

 むろん広々とした大阪城公園は気晴らしになった。生まれてすぐに近江八幡に行った美玲は、お城と言えば、遠足で行った彦根城しか知らない。彦根城は国宝ではあるが小さな平山城。どちらかというと、山の中の閉鎖性を感じさせたが、大阪城は石垣なんかはいかついけど、なんだか野放図な開放感があって、美玲は好きになった。

 そこで出会った青春高校の教頭先生の娘さんは、いま美玲が受けようとしている森ノ宮女学院の入試に受かり、その制服姿をお祖父ちゃんお婆ちゃんに見せに行く途中の事故で亡くなった。
 

 なんだか運命的なものを感じ、美玲は、この試験に受かり、あの教頭先生の娘さんの分まで、幸せになろうと思った。

 でも、一つ未解決な問題が残っていて、夕べは危うく、お母さんに知られてしまうところだった。

 その話を、お父さんに電車の中で話そうとしたが、お父さんはやんわりと、――その話はあとにしよう――という顔になって、今ここに座っている。

「じゃ、国語から始めます」

 係の先生が静かに開始を告げた……。

 その間、お父さんの正一は、出張で空いている校長室で待った。堂島高校の教頭であることは、とうに知れているので、森ノ宮の教頭が、挨拶を兼ねて話に来ている。

「……公立も、なかなか大変ですなあ」

 私学と府立の違いはあっても、教頭同士、通じ合うものがあった。
 正一は乙女さんから聞いた青春高校の田中教頭の娘さんの話をした。

「ああ、その子なら覚えていますよ。三月の半ばぐらいでしたね。川西の方で交通事故があって、女の子の方がうちの制服を着ていたんで警察からの連絡で所轄署まで行きました……そうですか、そのときのお父さんが小姫山高校の先生でしたか。あの子は米子って、ちょっと古風な名前でしたが、理事長のお母さんと同じ名前でしてね。もう合格通知も出て、クラスも決まっていましたから、職員一同の意向で生徒名簿に載せました。卒業式でも名前を読み上げようとしたんですけど、お父さんが固辞なさいましてね……そうか、まるで米子ちゃんが生き返ってやり直してくれるみたいで嬉しいですね」
「いやあ、試験に受かってからの話です……」

 それから正一は、自分の身の恥を話した。教頭は、それも暖かく受け止めて聞いてくれた。

 そして三時間後、国・数・英の三教科の試験を終えて美玲が校長室に入ってきた。

「美玲、おつかれさま!」
「なんとか全力は出し切れました……なんか、いろんな人が応援してくれてるみたいで、落ち着いてやれました」

 まだ、慣れない娘は、他人行儀なしゃべり方ではあったが、真情の籠もった物言いで父に報告した。

「佐藤さん、合格ですよ」

 三十分ほどもすると、教頭が若い職員を連れて嬉しそうにやってきた。

「優秀な成績です。非の打ち所がないですわ。ほな、事務的なことは、この木村君から聞いてください。おめでとう佐藤美玲さん」
「は、はい!」

 しゃっちょこばった美玲を大人たちの暖かい笑いが包み込んだ。

 最後に不思議なことが起こった。

 乙女さんには仕事中なのでメールを打った。それを見ていた職員の木村君が「記念写真を撮りましょう」ということで、美玲のスマホで父娘が並んだところを撮ってもらった。

 その写真に、美玲と同学年ぐらいの森ノ宮の制服を着た女の子が映り込んでいた。

「これは……いや、こんな時間帯に、こんな場所に生徒がいるわけないんですけどね」
「これ、米子ちゃんだ。だって、こんなに嬉しそうにニコニコしてる」
「そうやな」

 撮り直しましょうかという木村君を丁重に断って、父娘は、難波の宮公園に向かった。大極殿の石段の上に座った。

「……夕べ、庭に埋めよとしてたんは、亡くなったお母さんのお骨やろ」
「え……なんで?」
「だいたい察しはつく」
「わたし……アルバムの背中のとこに隠して持ってたんです」

 リップクリームの入れ物に入れたそれを、ポケットから出した。

「お父さんにも見せてくれるか?」

 少しためらったあと、それを父の手に預けた。軽く振ってみるとカサコソと儚げな音がした。

「これが、美子か……」
「火葬場で、お骨拾いの時にもめたんです。分骨するせえへんて」
「分骨?」
「本家のオッチャンが、うちの墓にも入れるいうて骨壺もって用意してはって……」
「なんで本家が?」
「お母さんの退職金、預金、生命保険、合わせたら、けっこうなお金になるんです」
「ムゲッショなことを」
「それで、もめてる隙に、お母さんの右の人差し指のお骨、ハンカチで取ったんです」
「右手の人差し指?」
「わたし、乳離れの遅い子で、お母さんのオッパイの代わりに右手の人差し指吸うてたんやそうです。粉薬が苦手やったんで、薬はこの指につけて飲ませてくれました。泣いて帰ってきたときは、この指で涙拭いてくれたんです……そやから、そやから。わたし……」
「美玲……!」

 正一は、横から娘を抱きしめた。

「お母さんのために、もう、これは手放さならあかん思たんです。それが一日延ばしになってしもて」
「それで、夕べ、庭に穴掘ったんやな」
「……はい」
「これは、美玲が持っとき。こんな大事なもん粗末にしたら、乙女オカン怒りよるで……家庭平和のためにも持っときなさい」
「はい」
「この難波の宮も大阪城も、見えてるその下に、もう一つの難波の宮、大阪城があるねん。そんで、大阪の人間は、つっこみで大事にしてるんや。乙女オカンは、生粋の大阪、それも岸和田のオバハンや。両方大事にせんかったら、お父さんでも手えつけられんぐらい暴れよる」

 その時、美玲のスマホが鳴った、乙女さんからだ。

「おめでとう!!」

 盆と正月と、クリスマスにホワイトデーまで来たような喜びようだった。

 電話を切ったあと、例の記念写真を乙女母さんに送ろうとすると、映りこんでいた女の子が満面の笑みのうちに影が薄くなって消えていってしまった……。

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ピボット高校アーカイ部・6『今日の部活はヘソパンから』

2022-05-10 09:42:25 | 小説6

高校部     

6『今日の部活はヘソパンから』

 

 

 今日も、おへそで茶を沸かしている。

 

 と言っても、面白いことがあって笑っているわけではない。

 おへそ型のガスコンロでお湯を沸かして、お茶を淹れる準備をしている。

「どうだ、ガスコンロでお湯を沸かすというのはドラマだろ」

 黙っていれば清楚な美人なんだけど、喋ると男言葉、ズッコケのセクハラ女。でも、時々すごいこと(いろんな意味で)を言ったりやったりする。

 お祖父ちゃんに部活の事を、つまり螺子先輩のことを離すと「そりゃ、自己韜晦だろ」という。

 ジコトーカイなんて言うもんだから、自我が崩壊していることかと思ったら――内面にすごいものを秘めていて、日ごろは、わざとバカなふりをして人に気取られないようにすること、している様子――なんだそうだ。

 

 クククク……

 

 ほら、また始まった。

「鋲、きょうのお茶うけはウケるぞ」

 ああ、初手からダジャレだ。

「え、なんなんですか?」

 ちゃんと反応しないとひどいことになりそうなので、笑顔で振り返る。

「これだ、見たことあるかい?」

 先輩がトレーを持ち上げて示したのは三角錐の焼き菓子の一種だ。

 どら焼きの片方を膨らませて富士山のミニチュアにしたような、大きさは、ソフトボールを半分に切ったぐらい。

 トレーの上に四つ並んだ、それは、形がまちまちで、きれいな三角錐になったものから、山頂部が屹立したもの、弾けてしまったものと個性的だ。

「吾輩のは、どれに近いと思う?」

 三角錐と屹立したのを胸にあてがって……なんちゅうセクハラだ!

「知りません」

「つれない奴だなあ、ティータイムの、ほんの戯言を咎め立てするとは無粋なやつだ」

「お湯湧きましたから、さっさとお茶にして、部活しましょう」

「部活なら、もう始まっているではないか。鋲が、そのドアを開けて入ってきたところから、すでに部活だぞ」

「ええ、まあ、そうなんでしょうが……」

 コポコポコポ……

「鋲は、お茶を淹れるのがうまいなあ」

「うまいかどうか……いつもお祖父ちゃんにお茶淹れてますから」

「おお、それは、孝行な……これはな、ヘソパンという。正式には『甘食』というらしいがな、わたしは『ヘソパン』という俗称が好きだ」

「ヘソなんですか?」

「ん? オッパイパンとでも思ったか?」

「いえ、けして!」

「きっと、出べそに似ているからなんだろうなあ……造形物としては、津軽の岩木山のように美しい三角錐になったものがいいのだろうが、あえて弾けた失敗作めいたものに視点をおくネーミングは秀逸だと思わないかい?」

「そうですね……」

「これに冠せられた『ヘソ』は『デベソ』のことなんだなあ……子どものハヤシ言葉に『やーい、お前のカアチャン出べそ!』というのがあるなあ」

「そういう身体的特徴をタテに言うのはいけないことです」

「そうか、人の顔を見て『ゲー!』とか『キモ!』って言うよりは、よほど暖かい気がするんだが……う~ん、このベタでそこはかとない甘さは秀逸だなあ……早く食べろ、食べたら部活だ」

「部活は、もう始まってるんじゃないんですか?」

「揚げ足をとるんじゃない」

「だって」

「じゃあ、部活本編のページをめくるぞ! どうだ?」

「どっちでもいいです」

「つれない奴だ…………」

「そんなに、ジッと見ないでください、食べられません」

「いや、君が、どこから齧るのかと思ってな……」

「もう!」

 僕は、ちょっと腹が立って、ヘソパンを一気に口の中に押し込んで、親の仇のように咀嚼する。

「ああ、そんな……まるで、この胸が噛み砕かれて蹂躙されているようだぞ!」

「モグモグモグ……ゴックン! 胸を抱えて悶絶しないでください!」

「ヘソパンは、しばらく止めておこう……」

「同感です」

「じゃ、今日も飛ぶぞ!」

 やっと正常にもどった。

 

 魔法陣で飛ぶと、やっぱりゲートは三角に戻っていた

 

「しかたない、折り癖が直るまでは油断がならないなあ」

 油断がならないのは先輩の方なんですけど……思ったけど、口にはしない。

「じゃ、そっちを持ってくれ……いくぞ!」

「はい!」

 ポン!

 ちょっと警戒したけど、今度は、さほど力を入れなくても四角になった。

「……なんだか前と同じみたいですね」

「違うぞ、前の地蔵は延命地蔵だったけど、今度のは子安地蔵だ」

 先輩に倣ってお地蔵さんに手を合わせ、裏にまわるのかと思ったら、先輩は小川に沿って上の方に歩き出した……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・43『美玲の連休』

2022-05-10 06:08:20 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

43『美玲の連休』  

 

      


「そんな立派なのいいです(^_^;)」

 美玲は遠慮のしっぱなしであった。

 この連休は美玲の部屋の調度を整えるのに、亭主の正一も乙女さんも、熱中のしっぱなしなのである。

 初日にベッド、机、本箱を買った。いずれも贅沢なものではなかったが、気品と堅牢さを兼ね備えた国産の木製のものが選ばれた。本箱などは、親の経験が前面に出て、二段スライド式で、文庫なども含めると五百冊は入るだろうというものが二つ用意された。

「これに全部入るだけの本読んでたら、わたしお婆ちゃんになってしまう(=゚Д゚=)!」

 美玲の悲鳴に思わず成り立ての親は笑ってしまった。

「ミレは今まで、図書館の本で済ましてたやろ」
「はい、自分の本置いとくスペースもなかったから、机の上の教科書以外は図書館でした」
「月に何冊くらい借りてた?」
「そんなに……八冊くらいです」
「ハハハ、それに12掛けてみい」
「96冊です」
「で、十年で、ほとんど千冊になる」
「そんなん、図書館で借りますよってに」
「本はな、年齢と共に倍に増えていく。ウチの経験でも旦那の経験でも。むろん図書館で借りるいう姿勢は、ええこっちゃ。そやけど、中には自分のもんにして何回も読まなあかん本もギョウサンあるからな。うちらは、若い頃、お金と場所の問題で、自分のもんにせんと済ました本がギョウサンある。あんたには読んでもらいたい。あんた……そこで何してんのん?」
「本箱に合うカーテン探してんねん!」

 教師の地声は大きい。少し恥ずかしくなった美玲であった。

 で、三日目の今日は、仕上げの電化製品である。

 とりあえず美玲専用のテレビとパソコンを買った。思春期に入った美玲のために、将来を見据えて、独立した空間を提供してやることで、このにわか父母は懸命であった。そして三日前には、ただの空き部屋でしかなかった七畳半ほどの空間に揃い始めた家具たちは、にわか父母の期待と愛情に溢れていた。

「せや、スマホ買うたげなあかんわ!」

 量販店の出口で、乙女さんが叫んだ。半径十メートルの人たちが振り返るような声で、美玲は嬉しいよりも恥ずかしく、恥ずかしい以上にびっくりした。

「アホやな、それが一番最初やろが!」

 亭主も負けていない。

「携帯は、高校になってからでええて……」
「美子さんが言うてたんやな」
「は……はい」
「その判断は間違うてない。そやけどミレちゃんは大阪に来たばっかりや。うちら……お母さんも、お父さんも仕事で手えいっぱいや。万一の連絡手段のために持っとき。な……」
「は、はい……」

 美玲はハンカチを出して、涙を拭った。

「あほやな、こんなことで泣かれたら、うちまで……お嫁にやるとき泣きようがないやないの」

「続きは家でやってくれるか!」

 周囲の反応に正気に戻った大きな亭主が叫んだ……。

 美玲が、風呂上がり、リビングにも来ないで狭い庭に行った。長風呂だったので湯当たりでもしたのかと思っていたが、いささか長いので、乙女さんはそっと覗いてみた。

 美玲は、何かを手に持ったまま、背中を向けていた。

「ミレちゃん」

 美玲はギクっとして、手にしていたものを背中に隠して、こちらを向いた。

「ご、ごめんなさい。なんでもないんです!」

 そう言うと、美玲は、そのまま自分の部屋に閉じこもってしまった。庭の片隅には小さな穴とスコップが残されていた。

「ミレちゃん、どないしたん……?」

 乙女さんは、静かにドアの外で聞いてみた。

「すみません。今夜は一人にしてください……ごめんなさい……お母さん」

 もう一言言おうとした乙女さんの肩に亭主の手が置かれた。

「明日の転入試験は、オレが付いていくわ……」

 亭主の語尾には、それまで、そっとしてやってくれという意思が籠められていた。
 もう二十年近い夫婦である。明日は任せてみようと乙女さんは思った……。
 

 

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せやさかい・305『後輩たちと二つの顔のソフィー』

2022-05-09 11:08:44 | ノベル

・305

『後輩たちと二つの顔のソフィー』頼子   

 

 

 また走ってる……

 

 わたしの気まぐれに付き合って音楽室にやってきたソフィーが、せっかく弾けるようになったビバルディ―『四季』の春をカン無視して、ピアノに背を向けて呟く。

 ピアノの後ろは窓で、カーテンを少しめくって下界を見てるんだ。

 連休の狭間、六日の金曜日には「走ってる」って呟いたものだから、うる憶えのビバルディ―が走っているのかと、鍵盤の指を意識した。

 しかし、友だちモードのソフィーが見ていたのは、下界のグラウンドを走る一年生の三人。

 言わずと知れた、さくらと留美ちゃん、それに、近ごろお仲間になった古閑巡里(こげんめぐり)。

 いちばん小さいさくらが先頭で、ほとんどくっつくようにして留美ちゃん。そして後ろをノッポの古閑巡里。

 走るといっても、次が体育の授業というわけでもなく、運動音痴の留美ちゃんを間に挟んでシゴキのランニングをやっているわけでもない。

 入学以来、学校探検に凝っているんだ。

 先日は図書館にやってきて、わたしたちが居るのにも気づかずに盛り上がっていた。

 ソフィーが面白がって、図書委員のフリして相手していたけど、ぜんぜん気づかなかった。

 中学のときからそうだけど、ほんとうに子ネコみたいな子たちだ。

 けしからんことに、まだ挨拶にも来ない。古閑巡里はともかく、さくらと留美ちゃんは子分みたいなものなのにね。

「部活には、まだ入ってないわよ」

 見透かしたように友だちモードのソフィーが振ってくる。

「いいのよ、どの部活に入ろうと、あの子たちの自由なんだから」

「そうかなあ……」

「古閑巡里もるんだから、三人ワンセットで、バレー部にでも入ればいいわ。さくらなんか、いいリベロになるかもよ」

「それはないわ」

「なんで? 古閑巡里ほどのタッパがあれば、バレーとかバスケが放っておかないでしょ?」

「古閑巡里は持病があって、部活レベルの運動はNGなのよ」

「ひょっとして調査済み?」

 ソフィーは女王陛下の諜報部員、新入生の素性を調べるなんて朝めし前だ。

「普通に調べられる範囲ではね。保護者からの申し出で、運動系の部活には釘が刺されてる『古閑巡里には声も掛けるな』って。優しい性格だから、強く押されたら断れないみたいよ」

「どういう病気?」

「分からないわ、普通に調べた範囲だから。必要なら調べるけど」

「いいわ、反則っぽいから」

「フフ、ヨリッチも大人になったかな?」

「友だちモードのソフィーって、ちょっとムカつく」

「あ、転んだ」

「古閑巡里が?」

「ううん、さくら……古閑巡里が抱っこして保健室の方角に走っていく!」

「え、ケガでもした!?」

 思わず、窓辺に!

「ううん、ただの打撲と擦り傷。留美ちゃんが落ち着いてるから、ぜんぜん大したことは無い」

「…………」

「保健室行ってみる? 声かけるにはいいきっかけよ」

「い、いいわよ(-。-;)」

 

 帰りの車の中、三日ぶりにSNSを開いて、ちょっとショック。

 

「少し控えた方がいいと思いますよ」

 ガードモードになったソフィー、口調は丁寧だけど、言うことは厳しい。

 スマホを開く前に、こういう書き込みが多いのを分かっていたんだ。

 直近のSNSには、大仙公園で撮ったDAISEN PARKの写真を載せてある。

 書き込みの半分は日本語で、普通に公園のモニュメント文字を面白がってくれているものだったけど、英語で書かれた……その多くはヤマセンブルグからのは、ちょっとね。

 みんな、わたしの立場を知ってるから、言葉こそ控え目で丁寧だったけど、内容は切実だ。

―― 早く、お国に帰って正式な王女になってください ――

―― 殿下は、写真のDAISEN PARKのように、それ以上に、お国のシンボルなのです ――

 中には、こういうものも……

―― 女王陛下はお疲れです、いっそ王位に就いて、女王陛下と我々臣民に安心をお与えください ――

 友だちモードのソフィーなら、言ってくれるだろう「ね、だから言ったじゃないよ、しょうのないヨリッチだ!」とかね。

 ガードモードのソフィーは何も言わない。

 もちろん、前のシートで運転してるジョン・スミス警備部長もね……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・42『そうなんですか!』

2022-05-09 06:32:32 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

42『そうなんですか!』  

     


「そうなんですか!」

 三宅プロディユーサーの言葉に五期生のみんなが湧いて、栞一人が赤くなった。

 近ごろ流行りの「そうなんですか!」は、連休のレッスン中に思わず栞が発した言葉で、MNBの五期生の中で、ギャグとして定着したものだ。昨日は選抜メンバーがテレビの生放送でカマして大ケ。すぐに変化球の「うそなんですか!」
が生まれ、MNBのギャグとして定着の兆しである。

 で、三宅プロディユーサーの「そうなんですか!」は、急遽決まった五期生のテレビ初出演を伝えたところ、みんなが「嬉しいです!」と、大感激したので、三宅がかましたギャグなのである。むろん、大いにウケた。

 統括プロディユサー杉本の肝いりで、こどもの日の特番生番組に、ガヤではあるが五期生の出演が急遽決まったのである。

 会場は、舞洲アリーナだ。

 ここは、高校の部活の王者に位したケイオンでも、予選を通過し、本選グランプリでなければ出られないところである。それが、ついこないだまで廃部寸前だった青春高校演劇部の栞とさくやが出ているのである。校外清掃で謎の一億円を見つけたことといい、乙女先生に美玲という娘ができたことといい、青春高校のこの一週間は、まことに目まぐるしい。

 この生番組は、こどもの日にちなんで、ちびっ子そっくりMNBが出たり、東京、名古屋、博多の系列グループの結成当初の、いわばグループにとっての「子供の時代」にあたる曲が次々に披露された。

 そして、番組途中のトークショーでは「そうなんですか!」の連発になった。

「このMNBグル-プを作ろうとなさった、動機はなんなんですか杉本さん」

 MCの芹奈が振る。

「いや、ほんの出来心で……」
「そうなんですか!」

 と、芹奈が応える。会場は大爆笑になってしまう。というようなアンバイで、最後には杉本プロディユーサーが困じ果てて叫んだ。

「だれだよ、こんなの流行らせたの!? 話が、ちっとも前に進まないよ」
「そうなんですか!」

 もう、観客席も含めて大合唱の大爆笑になった。

「ほんと、だれ? 怒らないから手をあげて!」

 栞は、怖くて手もあげられなかったが、みんなの視線が、自然に集まってくる。そして、イタズラなスポットライトが栞にあたり、栞は、しかたなく手をあげた。

「おまえか、手島栞!?」
「いや……そんな悪意はないんです」
「あって、たまるか。栞、ちょっと『二本の桜』の頭歌ってみ」
「え、あ、はい……」

 直ぐにイントロが流れ、栞は最初のフレーズを歌った。

《二本の桜》
 
 春色の空の下 ぼくたちが植えた桜 二本の桜
 ぼく達の卒業記念
 ぼく達は 涙こらえて植えたんだ その日が最後の日だったから 
 ぼく達の そして思い出が丘の学校の 


「うん、研究生としては上手いな」
「ありがとうございます」
「ばかだなあ」
「は?」
「こういう時に『そうなんですか』をかまさなきゃダメだろうが!」
「え、そうなんですか!」

 ひとしきり会場の爆笑。

「こうなったら、栞には責任とってもらいます」
「え、ええ……!」
「今月中に『そうなんですか!』を新曲としてリリースします。むろんセンターなんか張らせないけど、この曲に限って選抜に入れます」
「え、ほんとですか!?」
「杉本寛に二言はありません!」

 会場やメンバーから歓声があがった。栞は、ただオロオロとしていた。進路妨害事件以来縁のある芹奈アナウンサーが声をかけた。

「栞ちゃん、今のお気持ちは。ひょっとしたら、あなたのデビュー作になるかもしれませんね」
「え、そうなんですか! あ、あわわ(‘◎o◎,,)」
 また、笑いになった。
「もういい、自分の席に戻れ」
「はい」

 なんだか分からないうちに事が決まって、栞は席に戻った。そして、すぐに、次のゲストに呼び戻された。

 栞との対談以来、栞のファンになった梅沢忠興先生である。ただ栞は研究生の身であるので、リーダーの榊原聖子のオマケとして、後ろに控える形ではあった。

「榊原さんにとって、MNB24ってのは、どんなものなんですか」
「わたしも二年前までは高校生だったんですけど。なんだか、いい意味で、このMNBがもう一つの学校だったような気がします」
「飛躍した聞き方するけど、学校って何?」
「う~ん、生きる目的を教えてくれて、いえ、気づかせてくれて、仲間がいっぱいできるところですね」
「うん、言い方はちがうけど、そこの『そうなんだ』と、基本的には同じ事だね。どう、榊原さんにとって、こういう後輩の存在は」
「いやあ、栞ちゃんとは、先生と彼女が対談したときにいっしょしたじゃないですか。まさか、それが、後輩になって入ってくるとは思いませんでしたね。ね、栞ちゃん」
「はい!」
「あなた、ほんとうに高校二年なの?」
「あ、ハイ!」
「ハハ、今日は手島さんの方がカチンコチンだな」
「ハハハ、だって仕方ないですよ。いきなり杉本先生にあんなこと言われて。ねえ」
「は、はい!」

 栞は、もう冷や汗タラタラ。

「栞ちゃん。汗拭いた方がいいわよ」
「は、はい、でも……」

 ハンカチ一枚持っていない栞であった。

「スタッフさん。タオルお願いします」

 聖子が気を利かした。しかし投げられたタオルは、少し方向がズレて、栞は思わずジャンプしてひっくり返ってしまった。ミセパンとは言え丸見えになってしまい。栞はあわてて立ち上がりアップにしたカメラに困った顔をした。

「君たちに、一つ言葉をあげよう」

 梅沢先生は、一枚の色紙を聖子に渡した。

「声に出して呼んでみて」
「騒(そう)……なんですか……ええ!?『騒なんですか!?』……アハハハ(#^o^#)」

 この意図せぬ梅沢の一字が、しだいに現実になっていく栞、そして青春高校であった……。

 

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鳴かぬなら 信長転生記 72『宿営』

2022-05-08 13:30:08 | ノベル2

ら 信長転生記

72『宿営』市   

 

 

 卯盃(ぼうはい)での宿舎は、主に大商人の邸宅が使われた。

 いずれも兎角事業に参画していて、これからの事業で結構な儲けが見込まれる者たちだ。むろん一個師団規模の宿営全てを一軒の屋敷で賄われるはずも無く、いくつかの屋敷の他に寺院や道館、それでも収まらない兵たちは、広場や城壁の脇に幔幕を巡らせてキャンプしている。他に宿館が無いわけでもなく、並み以上の民家からは「茶姫さまの軍勢にお泊りいただきたい」という申し出もあったが「馬の世話もあるし、一般住民に迷惑を掛けたくない」ということで断っている。

 その謙虚な姿勢に――さすがは茶姫さま!――の声が上がって、茶姫の評判は上がるばかりだ。

「せめて、差し入れをさせてください」

 街の者たちは、あまりの謙虚さに酒や食べ物を、進んで献上してくれる。

「いやあ、わたしは、こんなに大食いではないぞぉ(^_^;)」

 献上品を前に、茶姫は頭を掻いてみせる。

―― か、可愛い! ――

 そう思ったのは、わたし(市)ばかりではない。献上品が積まれた庭先は近衛の兵たちも、馬や武具の手入れに屯している。

 昼間、凛とした勇姿で入場した女将軍が、少女のように含羞と当惑に頬を染める姿は、ほとんど反則!

 美少女という属性では、兄の信長も、むろん、この市も負けてはいないけどね、茶姫のギャップ萌えはスゴイよ!

「検品長! 備忘録!」

「はい、検品長、これに!」

「備忘録、これに!」

「献上の者たちの記録をとってくれ、そうだ、一人一人名を聞くから、書き留めてくれ。書き留めながら、駐留部隊への割り振りも考えてくれ」

「「承知しました」」

「卯盃の好意は無駄にはしない! 一人一人に礼を言って、その上で城内各所に宿営している兵たちに配ってやりたいと思う。献上の品には、輜重の者たちに名札を貼ってもらって、皆の好意が伝わるようにしよう。中には足の早い食材もあるようだ。明日には出立する我らだ、無駄にせぬように今夜と明日の朝までには腹に収めておけ。まあ、そういうことで、この曹茶姫も頂戴する。卯盃のみんな、ほんとうにありがとう!」

 そう言うと――みなも喜べ――という風に両手を広げ、近衛のみんなにも倣わせて頭を下げる。

 ウオー! 茶姫さまあ!!

 期せずして、広い庭に集まった卯盃の者たちの歓声があがる。

 三十分ほどかけて、全ての献上者と言葉を交わして礼を述べる。その間に検品長ら輜重の者たちが段取りを建てて、城内各所に屯する兵たちに配っていく。

 検品長は、ただ段取りをつけるだけでなく、それぞれの品から僅かの物を取っては、別のザルに移していく。

 ザルには『茶姫用』と紙が貼ってある。たとえ僅かでも、茶姫自身が食べるという標だ。

「品長、なかなかやるわね」

 そう囁いてやると、叩き上げの准士官は恥ずかしそうに手を振る。

「いえ、備忘録のアイデアですよ。さあ、これから調理です。今度は烹炊が大忙しです」

 

「丹衣、市衣、当番を代わるぞ」

 交代の近衛が来たので、丹衣ちゃん(信長)といっしょに城壁に登ってみる。

 

「茶姫は、ほんとうにすごいね」

「そうだな」

「……ひとことあり気ね」

「茶姫のあれは、生得のものだろう」

「そうよね、性格いいのよ茶姫は」

「半分は計算している」

「そうかな、献上品を前にした茶姫の可愛さは本物だったよ。計算した可愛さは、市にも分かる」

「そう、自然に出てくる。サルに似ている」

「サル言うな!」

「入城してから、曹操・曹素のことを言わん」

「え? いいじゃん。ぜんぶ、茶姫自身が考えてやったことだもん」

「サルなら言う『秀吉が、こうやっておられるのも信長様のお蔭じゃ』とな。茶姫は魏王の妹で魏王ではない」

「考えすぎ! サルこそ計算づくで兄ちゃんの名前出してたんだし」

「だが、それが俺の役に立っていた。それに、越前金ケ崎での殿(しんがり)、サルは本当に命をかけておった、だから、あの家康でさえサルに頭を下げて、与力の兵を置いて行った」

「今は、茶姫の話!」

「だな……見てみろ、あちこちから烹炊の煙があがっている」

「献上の差し入れが行き渡ったんだ、検品長も備忘録も、よくやってるよ」

「部下どもは、ちゃんと茶姫の本陣を囲むように宿営している。これを自然にやらせるんだ、それが茶姫の強みだ」

「そうだね」

「ここに、曹素を連れてきていたらぶち壊しだっただろう」

「だね……あいつ、女漁りとか乱暴しか能のないやつだから」

「でも、使い道はある。やつは、いま、魏の洛陽に向かってる」

「邪魔だから帰したんでしょ、あいつ連れてたら、一応輜重だから、侵略軍と思われるって……」

「このあと、茶姫は洛陽に戻るだろ」

「そりゃ、騎兵は補給がなければ戦力にならない。転生の南端を横断したのも、騎兵の勢いを見せつけるだけだって言ってたじゃない」

「だからだ、輜重と騎兵が一緒になれば、その瞬間に戦が始められる。まして、茶姫の軍は騎兵で、その装備を鉄砲に換えたところだ、緒戦の打撃力はすごいぞ。それに、南には三国志最大の魏と、その並びに前後して蜀と呉がある。曹素と一緒になりさえすれば、どこだって攻められる」

「でもでも、輜重は速度が遅い。その輜重の速度に合わせていたら、あちこちで変な休憩を取らなくちゃならなくなって、みんなに警戒される。騎兵の打撃力はすごいけど、準備して待ち構えられたら脆いでしょ」

「警戒されればな……」

「お兄ちゃん、ちょっと根性歪んでなくない?」

「検品長や備忘録は献上品の仕分けのためだけにいるんじゃないぞ」

「そんな……」

「この二日、茶姫の軍は卯盃を動かん」

「え、茶姫は明日には立つって……」

「いや、動かん」

 

 兄きの言う通り、茶姫の軍は動かなかった。

 理由は、卯盃の民が放さなかったからだ。卯盃だけではない、近隣の町や村からも、噂を聞いた者たちが押しかけ、三日連続の宴会になってしまった。

 この目出度い噂は、すぐに人の口と足によって三国志中に伝わるだろう。

 茶姫は、備忘録に出発の遅れを詫びる手紙を書かせ、兄の曹操の元に馬を走らせ、四日目には、卯盃の民を振り切るようにして出立。

 次の村に達した時には、曹素の輜重部隊が洛陽に到達するとの情報を得た。

 悔しいけど、兄きの予想が外れることは無かった。

 でも、転生への報告には『三国志に侵攻の様子は無い』と書かせて揺るがない兄きでもあった。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・41『田中教頭の娘』

2022-05-08 06:25:38 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

41『田中教頭の娘』  

       

 


 田中教頭は、イタズラを見つかった小学生のようにうろたえた。

「アッチャー!」

 乙女先生は、教頭のあわてぶりを、親しみをこめた感嘆詞で現した。

「あ、スーツが!」

 美玲は、ポケットからティッシュを取り出すと、取り落としたアイスで汚れた教頭のズボンを拭き始めた。

「いや、いいよいいよ。クリーニングに出すから」
「せやけど、直ぐに、ちょっとだけ拭いとくだけで、ちゃいますよ」

 美玲は傍らの水道でハンカチを濡らし、固く絞ると、もっとも被害の大きかった右の膝を丹念に、ポンポンと叩きだした。

「ミレちゃん、なかなかのダンドリの良さやな」
「はい、母に……あの、習ってましたから」
「せっかくやから、教頭先生、三人でアイス食べなおしましょ」

 乙女先生も、これまた見事な早業で、地面に落ちたコーンとアイスをティッシュで拾い上げると、ついでのように傍らのゴミ箱にシュート。そのストライクを見届けもせず、バイトのニイチャンにアイス三つをオーダー。

「ミレちゃん、一人で持てへんさかい、てっとうて」
「はい」

 まだ二日目の親子とは思えない連携と仲の良さで、アイスを三つ手に持った。

「教頭先生、こっちの方が景色よろしいよ」

 そう言って、教頭を西の丸庭園が望める石垣の上に誘った。

 ここなら、教頭の涙を人に見られることはない……。

「あ、目にゴミが……」

 実に分かり易いゴマカシ方で、教頭は涙を拭いた。

「出張のお帰りですか?」 
「はあ、昼食を兼ねまして……いや、食欲がなくて、こんなもので……いや、どうも、ごちそうさまです」
「アハハ、急に声かけてしまいましたよってに」

 最初の一口で、豪快にアイスを吸引した。

「佐藤先生のお嬢さんですか?」
「はい、成り立てですけども。美玲といいます。今度、森ノ宮女学院に転入させよと思いまして」
「この時期に?」
「アハ、いずれ分かるこっちゃから言うときます。この子は、うちの亭主の子ですけど、わたしの血は入ってません。そやけど水は血より濃いと言いますよって。もう三日も、うちの水飲んでるから、うちの娘です」

 ぽっと上気した美玲の顔を横目で確認し、教頭の涙の核心をついた。

「教頭先生にも、お嬢さんがいてはったんですよね……」
「……美玲ちゃんと、同じ年頃でした」

 乙女先生は、着任式での教頭の、あまりの暗さにピンと来るものがあって、十数年前の事件を思い出し、仕事仲間のネットワークで調べておいた。最初は、相手の弱みを掴んでおくつもりだったが、調べて同情した。教頭が校長になれない最大の原因は酒癖の悪さだった。ただ、それには背景があった。

 思た通りや……。

 乙女先生はため息をついた。

 教頭先生の奥さんとお嬢さんは十数年前の交通事故で亡くなっていた。ちょうど三学期の終わりごろで、まだ平の教師で、新一年の学年主任に決まっていた田中教頭は、宿泊学習の準備と入学式の国旗掲揚でこじれていた職員間の人間関係の調整やら、遅れ気味の仕事の準備に忙殺されていた。

 そこで休日、田中の妻は娘を車に乗せてドライブに出て事故を起こし、親子揃って帰らぬ人になった。

「親父とお袋に、新しい中学の制服姿を見せにいくんだって、そりゃあ、嬉しそうでした。事故を起こしたときは、まだ入学前の制服を着ていたんで、その中学の先生方も病院に来られましてね……入学前に制服なんで、わたしはお詫びしましたが、『いや、こんなにうちの学校を愛して頂いて、嬉しく、そして残念でなりません』そうおっしゃってくださいました。だから、今でも、こんなつまらないものを持ち歩いてます」

 教頭は、定期入れの中から四つ折りにしたそれを出した。

『合格通知書 田中留美 森ノ宮女学院中等部』……とあった。

「入学式じゃ、ちゃんと『田中留美』って呼んでくださいましてね……佐藤先生、美玲ちゃんの制服姿の写真ができたら、一枚いただけませんか。親バカと思われるでしょうが、なんとなくの佇まいが、留美と似ているんですよ」
「はい、必ず」

 正直、その仕事ぶりからバカにしていた教頭だったが、見なおす思いがした。

「じゃ、そろそろ学校に戻ります。どうぞ、良い連休を」

 淡いつつじの香りの中、教頭は片手をあげて、学校に戻っていった……。

 

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銀河太平記・107『須磨宮心子内親王』

2022-05-07 10:34:42 | 小説4

・107

『須磨宮心子内親王』越萌マイ(児玉隆三) 

 

 

 桜色のパンツスーツがとてもお似合いだ。

 

 心子内親王殿下のファッションは季節の先取りとファッション誌などで書かれるが、わたしは保護色なのだと拝察している。

 お若いに似ず、殿下の感覚には老獪と言っていいくらいの深さと穏やかさがある。

 春は桜か萌黄色、夏は柑橘系の黄色からオレンジ系、時に大海原のような青と白。秋はオリーブグリーンやライトブラウン、冬はアクセントに赤を配したホワイト。それを暦の移ろいに合わせてお召し替えになっておられる。それも、なるべく原色は避けて、ライトとかオフを冠する穏やかな色調にまとめておいでだ。

 季節の先取りと言われるのは、旧暦の季節に合わせておられると思うのは、ファッション小物を本業とする越萌姉妹社のCEOの感覚とも、保護色のスペシャリストである軍人の感覚とも言える。

 幾十年、幾百年の後に、人々が殿下の記録に接した時に受け止められる印象を無意識であろうが大事にされている。

 この春には連続の飛び級を果たされて、十七歳のお誕生日を前に学習院をご卒業になった。

 

 及川市長に軽く礼をされると、殿下は、零れるような笑顔で狐と狸のところに駆けてこられる。陸軍からの出向と思われる女性警護官が速足で追って来る。

 トレンチの手前にくると、いったん立ち止まって、迂回する前に会釈をされる。

 我々への礼ではあるのだが、警護官が追いつく時間を作っておられるのだ。

 思わず駆け出してしまったのに気付かれてのとっさのご判断。若さと皇族としての自覚が程よく同居していて、こちらも、思わず職業的なそれではなくて微笑んでしまう。

「孫大人、越萌マイさん、お初にお目にかかります。須磨宮心子(すまのみやこころこ)です、西之島新規開発が行われるというので、東京から飛んで参りました。いや、到着早々にお目にかかれるなんて、胸がドキドキします。どうぞ、よろしくお願いいたします!」

「こ、こちらこそ! いや、事前に承っておりませんでしたので、お迎えにも伺えず、孫悟兵、一世一代の失態であります!」

「いえいえ(^_^;)!」

 まるで高校生のように両手を振って恐縮される。孫大人も、いままで見たことも無いくらいあがって、これも見ものではある。

「わたくしこそ、みなさんにご無理を言って、陛下へのご挨拶も遅れたんですが、でもでも、ぜったい見たくってやってきてしまいました。なるべく大人しくして見学させていただきます!」

「こちらこそ光栄です。少しでも殿下のお勉強になれるようこころがけます。ご質問などございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ」

「はい! あ、こちらお目付の橘さんです。近衛から出向いて心子の世話をしてくださっています。世間知らずの心子ですので、橘さんが直接関わってくれることも多いと思います。よろしくお願いいたします」

「橘です、よろしくお願いいたします」

「「こちらこそ」」

「殿下、みなさん、車を降りたところでお待ちです。あちらにお戻りください」

「え、あ、そうね。では、また後程。ごきげんよう」

 きちんと一礼すると、小走りで戻られ、視察の流れにのられる。

「畏れながら、愛すべきオチャッピーであられる」

「ある意味、陛下以上の苦労をしょい込んでおられる。母君が御薨去されて、全てをしょい込まれたのが十四の御歳だ。それから三年連続の飛び級で高校を卒業されて……わけも無く焦っておられるのかもしれない」

「将来、ご自分が即位すれば、日本の女系天皇は確定してしまうものなあ……元帥、そろそろ、どの線でお支えするか決めなくてはならんぞ」

「他人事のように言うな」

「アイヤー他人事アルよ、孫悟兵は名前の通り中国の一兵卒アルよ」

「都合のいいこと言うな、貴様はとっくに当事者だろうが」

「アハハ、また、元帥言葉になってるアルよ」

「くそ……さ、俺たち……わたしたちも行くわよ!」

 ピョン

「あ、だから言ったろ、儂の義体はトレンチを超えられんと!」

 大きな腹を揺さぶりながら迂回する孫大人を置いて、視察の列に戻ると完全に越萌マイに戻る俺……いや、わたしであった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王          今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・40『森ノ宮女学院』

2022-05-07 06:09:18 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

40『森ノ宮女学院』  

       


 桑田先生は臨時の入室許可書を作ることにした。

 理由は一つ、いや二つ、乙女先生が今日も休みなのである。

 乙女先生が転勤してきてから物の置き場所が変わった。それまで雑然としていた生活指導室を、徹底的にきれいにし、物品の置き場所を合理的にしたのだ。
 むろん乙女先生は、それについて説明もしたし資料も配った。しかし、みんなろくに話を聞いていない。それに、遅刻者に対する入室許可書は常駐の乙女先生が一人でこなしていた。で、携帯で聞くのも業腹、首席という沽券にもかかわる(と、自分では思っている)ので、自分で作ることにした。

 理由その二は、学校全体の緩みであった。

 栞の『進行妨害受難事件』以来、生徒は学校を不信……とまでは言わないが、軽く見るようになった。で、遅刻者が日に十人を超えるようになり、今朝は連休の狭間ということもあり、九時の段階で二十人を超えた。で、遅刻者を外で待たせ、パソコンで制作したのである。やはり、一日校外清掃のパフォーマンスをやったぐらいでは、一時学校の評判は取り戻せても、基本的な解決にはならない。

 そのころ乙女さんは、美玲を連れて森ノ宮女学院の学校見学。

 身分は公務員としか明かしていない。乙女さんの目は、まず学校の外構に注がれる。外周の道路や、校舎の裏側の汚れよう……おそらく業者を入れて定期的な掃除をやっているのだろう、完ぺきであった。教室の窓の下。公立では黒板消しクリーナーの整備に手が回らず、掃除当番の生徒達は、窓の下の壁に叩きつけて、黒板消しをきれいにする。そこまでを学校に入るまでにチェック。そして学校に入る直前に娘である美玲のチェック。今日は近江八幡で通っていた公立中学の制服を着ているが、夕べ、長すぎる上着の丈と袖の長さを補正してやり、靴下は純白、靴は新品のローファー。髪は夕べ風呂でトリートメントし、今朝は入念にブラッシング、完ぺきに左右対称のお下げにし、前髪は眉毛のところで切りそろえてやった。

「よし!」

 門衛のオジサンに来意を伝えると、あらかじめ連絡してあったので教務の先生が出迎えに来てくれた。

「学校は、いま授業中やから、美玲、くれぐれも静かにね」

 相手の教師が言う前に、娘にかまし「はい」と美玲も制服見本の写真みたいに手を前に組んで応えた。

 廊下、階段などを鋭くチェック。彼方に見える校舎で行われている授業は気配で感じた。授業の良い意味での緊張感があり、こっそり窓の隙間からこちらを伺っているような生徒はいなかった。
 ちょうど休み時間に被るように廊下で立ち話をして休憩中の生徒や先生も観察した。授業が終わった開放感はあるが、それぞれの教室では次の授業に向けて移動や準備をする子が多く、あまり無駄話の声が聞こえない。

「申し訳ありません、応接室が塞がっているもので、職員室の応接コーナーで……」

 乙女さんはラッキーと思った。教師の日常がうかがえる。

―― 住みにくそう ――

 乙女さんは、教師の直感で、そう思った。教師の机の上にほとんど物が置いていないのである。これは個人情報の管理や、風通しのいい職員関係とかいうお題目の下でよくあるパターンである。空席の机上のパソコンもフタが閉じられ、節電という名目で、情報管理には、かなりうるさい学校と見た。

「で、本校に転入をご希望ですとか……?」

 敵はいきなり核心をついてきた。

「書類を出せば、分かってしまうことなので、あらかじめ申し上げさせていただきます」
「はい」
「事情がございまして、この子は近江八幡の親類に預けておりました。職掌柄きちんと面倒がみられないからです。なんと申しましても、青年前期、いわゆる思春期でもありますので、この四月からそうしました。しかし、預けました親類宅で不祝儀なことが起こり、十分にこの子の面倒を見て頂けなくなりました。私どもも、この春に移動後、案外余裕が持てることが分かりましたので、急遽この子を引き戻すことにいたした次第です」
「失礼ですが、その点、今少しお話いただければ……」
「もうお気づきとは思いますが、わたし先生と同職です」
「あ、学校の先生でいらっしゃいますの?」
「はい、この三月まで、わたしは朝日高校、主人は伝保山高校におりました」
「え、朝日と、伝保山!」

 この学校名には効き目があった。両校とも府立高校の中では困難校の横綱である。

「で、今は、わたしが希望ヶ丘青春高校。主人が堂島高校ですので、いえ、わたしたち、正直教師生活、定年までドサ周りやと思てましたよって、ガハハハ」
「は、はあ」
「いや、賑やかな声で失礼しました」

 あとは転入試験にさえ受かってしまえば問題なし。今は学校に提出する書類で、ややこしい人間関係や、家族問題が分かるようなものは無い。相手が考える前に栞の父が揃えてくれた書類をテーブルに揃えた。

「ほんなら、そちらさんの書類を」

 相手は、慌てて転入学に必要な書類を持ってきた。乙女さんは慣れた手つきで、五分ほどで書き上げた。

「ほんなら、転入試験は、連休明けということで、ご連絡お待ちしております」

 有無を言わさず決めてしまい、学校を後にした。

「わたし、何も言うとこなかったですね」
「せやな、あんだけ練習したのにな。時間早いよって大阪城でも寄っていこか。ここのアイスはうまいねん」

 そう言って、森ノ宮口から大阪城公園に入ると、ベンチに見慣れたオッサンがたそがれていた。

「教頭先生……?」

 

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やくもあやかし物語・137『白虎はお祭りでひっかけろ!』

2022-05-06 13:27:23 | ライトノベルセレクト

やく物語・137

『白虎はお祭りでひっかけろ!

 

 

 白虎って言えば……白虎隊よね……

 

 白虎の姿が地平線の向こうに見えなくなると、遠くを見るような目になってチカコが呟いた。

「「「白虎隊?」」」

 御息所もアキバ子も、むろんわたしも直ぐにはピンとこないで、ギョッとする。

 今まさに白虎に追いかけられてるところだから、白虎に隊が付いてしまうと、白虎が団体で追いかけてくるみたい。

 ちょっと恐怖。

「幕末にね、会津藩が最後まで官軍に抵抗するんだけど、お城の西側を護っていた少年隊よ」

「西を護っていたから白虎なのじゃな」

「うん、他にも朱雀隊とか玄武隊とかもあって、白虎隊は西からやってくる官軍と戦っていたの……お昼ごろに丘の上まで退却してお城の方を窺うと、お城の方からモクモクと煙が上がっているのが見えて『あ、お城が落ちた!』と落胆して、みんなで刺し違えて死んじゃったのよ」

「健気な話よのう……」

「それ、聞いたことがあります」

「アキバ子、知ってるの?」

「ええ、無双系で幕末を舞台にしたゲームがあって、白虎隊も出てきましたよ」

「でもね、白虎隊は早とちりだったのよ」

「「「早とちり?」」」

「実は、燃えていたのはお城の手前の街で、その炎と煙が天守閣と被ってしまって、お城が落ちたと勘違いしたのよ」

「勘違いとはいえ、憐れよのう……」

「そうそう、他の玄武隊とかは、無事にお城に戻ってますよね」

「「「そうなの?」」」

「ゲームでは、そうなってます。途中の村でお神輿とかの村祭りグッズを見つけて、お祭りを装って賑やかにお城に向かったら、官軍も呆気に取られて、無事に戻れるんです」

「そうか、お祭りがひっかけフラグになっていたのだな」

「あ! それ使えるかも!?」

「なんじゃ、土星の軌道でお祭りをやるのか?」

「ううん、でもひっかけることには違いない……みんなでお祭りのコスを着るのよ!」

 アキバ子はアキバの妖精なので、箱の中にいろいろのアイテムを持っている。

「ありますあります!『アキバ大好き祭り』とか『電気店街祭り』とか!」

 

 というので、箱の中に潜って適当なお祭りコスを着て、四人で囃し立てるんだ!

 

「わっしょいわっしょい!」

「アキバ大好き!」

「ソイヤソイヤ!」

「わっしょいわっしょい!」

「「「「わっしょいわっしょい!」」」」

 四人で大きい声で囃し立てるので、地平線の向こうの白虎にも聞こえて、どんどん地響きとかが聞こえてくる。

 ドドドドドド!

「ソーレ!」

 わたしが掛け声をかけると、四人揃って重心を右っかわにかける。

 グィーーン

 わたし達を載せた空き箱は、グインと右に曲がる。

 白虎は図体が大きいので小回りが利かなくって、グルーーっと大回り。

 その分、スピードも落ちて、そのたびにわたしたちを見失う。

 つまりは、土星の表面で鬼ごっこ!

「で、いつまでやるのかしら(;'∀')?」

 いちばん体力のないチカコが五回目くらいで顎を出す。

「もうちょっと、白虎の怒りがマックスになった時にね……」

 ガオオオオオオオ!!

「おお、早くも激おこぷんぷん丸であるぞ!」

「アキバ子、ダッシュよ!」

「ラジャー!」

「最大戦速ゥーーーー!!」

 ビューーーン!!

 それまでの倍くらいの速度を出すと、だんだん強い遠心力が働いて、空き箱のわたしたちより何十倍も重たい白虎は溶け始め、白い光を曳きながら上昇していく。

「もう、ちょっとよ!」

 ビュビューーン!!

 グオオオオオオオオ!!

 白虎は、さらにスピードを上げて、その分、どんどん上昇していって、ついには土星の輪の、いちばん内側に接触するところまで来てしまった。

 ピシャーーーーーン!

 溶けかかっていた白虎は火花を上げてショートしたかと思うと、土星の輪に吸収されてしまった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・39『乙女先生の休暇』

2022-05-06 06:20:03 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

39『乙女先生の休暇』  

          


 鳥インフルエンザに罹ったとまで噂が立った。

 それほど乙女先生が仕事を休むのは珍しかった。

「ご家庭の事情です」

 教頭の田中は、昨日の午後から十回は人に言っている。

 教頭も、転勤後わずか一カ月で、乙女先生が学校には無くてはならない存在になっていることを認めざるを得なかった。しかし、いったいなんの家庭事情なのか、教頭にも分からなかった。で、鬼の霍乱から、家庭不和、あげくは鳥インフルエンザに罹ったとまで噂がたってしまった。


 生指部長代理の桑田など、遅刻の生徒がきても叫ぶしかなかった。

「入室許可書は、どこにあるんや!?」

 昨日は午前中授業があったので、それが済むと、銀行へ行って、幾ばくかのお金を下ろして、我が家へと急いだ。

「ごめん、一人で心細かったやろ。さあ、忙しいでぇ。まずは腹ごしらえ!」

 乙女さんは、牛丼のお持ち帰りを、テーブルにドンと置いた。

「心細くなんかなかったです。パソコンでネットサーフィンやってましたから」

 ふと目をやったパソコンの画面には、民法の親権について書かれたブログが出ていた。それには気づかないふりをして学校の話をオモシロオカシク話してやり、美玲かすかに笑ったりした。栞やさくやが絶好の話の種で、MNBの研究生をやっているというと正直に興味を示した。

「よっしゃ、今日のシメはそれでいこ!」

 乙女さんは亭主に電話し、午後六時には職場を出るように厳命した。そして芸能事務所に勤めている卒業生に電話、なんとかMNBの今日のチケットを三枚無理矢理確保した。

 それからの数時間、乙女さんは楽しかった、実に楽しかった。

 古巣の岸和田に行き、実家に寄りたい気持ちはグッと抑えて、ゴヒイキの小原洋装店にいき、美玲のよそ行きを二着注文。プレタポルテの普段着を三着買った。しかし、今時の子、もっとラフな服も必要だろうとユニクロに寄ることも忘れず。上下セットで三着買って、フィッテイングルームで着替えさせ、靴も同じフロアーの靴屋でカジュアルなパンプスに履きかえさせた。欲を言えば美容院に連れて行ってやりたかったが、先のことを考えて、明日以降の課題とした。

「おう、美玲……!」

 我が娘の変わりように、MNB劇場の前で、亭主は驚いた。

「そんなに見ないでください、恥ずかしいです」

 美玲は、乙女さんの陰に隠れてしまった。

 ライブが始まると、美玲は夢の中にいるようだった。自分と年の変わらない女の子達が、こんなにイキイキと可愛く歌って踊っていることに圧倒されてしまった。

――こんな世界があったんだ――

 帰りの握手会では、迷わずチームMのリーダー榊原聖子のところへ行った。

「がんばってください!」
「ありがとう」

 たったこれだけの会話だったけど、美玲は、なんだか、とても大きな力をもらったような気がした。

「ミレちゃん、よっぽど嬉しかったんやろね、右手ずっと見てるよ」
「え?」

 気配に気づいたのだろうか、美玲は、帰りの電車の中で、夢の途中にいるような上気した顔でこちらを見た。


「意外と簡単でしたよ」

 その晩、手島弁護士が電話してきた。

「養育費の総額を言うとおとなしくなりました。問題は、相続権の放棄だけです。これだけは一応お話してからと思いまして」
「はい、美子さんの分も、そちらのお家の相続権も放棄……その線でお願いします」
「分かりました、明日中に書類を揃え、連休明けに処理しましょう。あと美玲ちゃんの学校を……あ、こりゃ、釈迦に説法でしたな」
「では、よろしくお願いします」


 その夜、昨日とはうってかわって明るくMNBの話などをする美玲であった。

「ミレちゃん、水差すようやけど、ちょっとこの問題やってくれるかなあ」
「え、テストですか?」

 美玲の顔色が変わった。

「どないしたん?」
「このテストに落ちてしもたら……」
「え……?」

 乙女さん夫婦は顔を見合わせた。

「……いいえ、なんでもないです」

 美玲は必死の形相でテストに取り組んだ。その間、乙女さんはパソコンで、なにやら検索し、亭主は新聞を読むふりをして、娘とカミサンを見比べていた。

「一ついいですか?」
「なんだい?」

 亭主は、よそ行きの声を出した。

「新聞が、逆さまですけど……」
「ぼ、ボクは逆さまでも読めるんや、この方が記事の問題点とかがよう分かる」
「へー!」

 純な美玲は、まともに感心した。乙女さんは、お腹が千切れるくらいおかしかったが、涙を流しながら笑いを堪えた。

 美玲は、一時間ちょっとで、英・国・数・英の四教科を仕上げた。

「あんた、数・英」

 亭主と二人で採点した。美玲は俯いて唇をかんでいたが、採点に熱中している二人の教師は気づかなかった。

 さすがに現職の教師で、十分ほどで採点を終えて、乙女さんの目は輝いた(⁽⁽ ☆ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ☆ ⁾⁾)!

「ミレちゃん……」
「は、はい……」
「あんた天才やで。なあ、あんた偏差値70はいくよ」
「いいや、75はいくだろう」
「あの……わたし、この家に居てもいいんですか?」
「え……?」
「そのテストに落ちたら、もう、この家に置いてもらえないんじゃないかと、心配で、心配で……」

 美玲の目から涙がこぼれた。

「アハハハ、なに言うてんのよ。これは、ミレちゃんにどこの学校いかそうかと思うて……学力テスト」
「な、なんや、そうやったんですか……中学校に入学テストなんかあったんですか?」
「ミレちゃんには、テストのいる中学に入ってもらいます!」

 それから、夫婦は徹夜で、私立の中高一貫校を捜した。公立高校の教師である二人は、自分の子供を行かせるなら私立だと決めていた……。

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魔法少女マヂカ・271『富士山頂決戦・2』

2022-05-05 10:55:17 | 小説

魔法少女マヂカ・271

『富士山頂決戦・2語り手:マヂカ  

 

 

 魔法少女の攻撃は、大きく分けて二種類ある。

 術式による魔法攻撃MA(マジカルアタック)と、剣や弓を持っての直接攻撃DA(ダイレクトアタック)よ。

 いずれの場合も、攻撃の直前に術式を唱えたり、気合いを入れたりする。

 術式詠唱なら「スプラッシュエコー!」とか「ミラクルビーム!」とか。気合いなら「セイ!」とか「ウリャーー!」とかね。

 ところが、将門・ファントム両雄の間に割り込むときは、その詠唱も気合も入れる余裕がない。

 ブン!

 ブリンダと二人、風を切る音しかしない。

 詠唱も気合いの叫びを入れる余裕がないのよ。

 ブン! ブン! ブブン! ブン!

 何度割り込んだだろうか、割り込む度にファントムに魔法・直接両方の攻撃を掛ける。

 攻撃の度に、ファントムが纏っている邪悪の欠片は飛び散るけど、ファントムの本性に至ることが無い。

 それは、四人の巫女たちも同じで、いたずらに魔法少女のそれとは違うアタックエフェクトのスパークを煌めかせているだけだ。

 ドリャアアアアアアアアアアア!!

 それでも我々の攻撃で隙が出来たのか、御大、将門殿の黄金の太刀がファントムの胴を払って、見事に決まった。

 バスッ!!

 ファントムの胴が四半分も切り裂かれ、纏っている邪悪の欠片だけではなく、悪の本性の如き黒々としたものがほとばしり出た。

 ドバババババ!

 すると、それまで遠巻きにしていた12人のシャドーたちが、高速でファントムの傷口に覆いかぶさり、あっという間に傷口を塞いでしまった。

「ファントムは、この将門が討つ! みなはシャドーを討て!」

 適切だ。

 ここは、ファントムの回復に専念しているシャドーから仕留めるべきだろう。

「「了解!」」

 一言だけ返して、ブリンダと二人、カルデラの東西に位置を占めて、シャドーたちを主ぐるみ挟んでしまう。

 呼応した巫女たちも南北に占位して、瞬間で包囲のフォーメーションを組む。

 ブン! ブブン! ブン!

 魔法少女二人、巫女四人、一つのチームのように跳びかかる。

 期せずして、二人一組でシャドー一体にぶち当たる!

 微妙なタイムラグがついたので、シャドーたちに刹那の迷いが走る。

 ジュバババ!!!

 瞬時にシャドーが霧散した!

 巫女たちとは令和の時代に居たころからの仲なので、ギリギリ抜き差しならないところで連携がとれたんだろう。

 ブン!

 蟠っていては将門殿の邪魔になるので、巴を描きながらカルデラの周囲へ。

 見るところ、シャドーは9体に減っている。

 我々に合わせるように陰陽の二神が旋回、ジャキン! ズゴ! 異なる音をさせて、両雄が身構え直す。

 ジュババ!

 哀れにも、2体のシャドーがファントムの腕(かいな)に触れて蒸発してしまう。

 主従共に敵は余裕を失っている。

 ドリャアアアアアアアアアアア!!

 その隙を逃さず、将門殿が再び裂ぱくの雄たけびをあげて、瞬時に斬撃を食らわせる!

 勢いで、大鎧の草摺と大袖が花弁のように広がると同時にファントムの塞がったばかりの傷口から黒々の本性がほとばしり出て、その勢いでファントムはカルデラの縁を削って吹き飛ばされた。

 あ!?

 そこに居た赤巫女は左の手足が千切れて、北の空に吹き飛ばされた。

 北の空には綻びが出来ていた。

 数十合に及ぶ両雄の激突で、空間に次元のほころびが出来てしまったのだ!

 ビョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 すさまじい勢いで富士山頂の空間が呑み込まれていく。

 まず、瀕死の赤巫女が呑み込まれ、残ったシャドーと巫女たちも次々に……ファントムさえ、猛烈な時空風には抗しがたく、身にまとう邪悪が引きはがされて綻びに呑み込まれそうになっている。

 これは、いよいよ滅びなのだろうか!?

「判断がつかないぞ!」

 ブリンダが爪を噛むのももっともだ。

 長年の魔法少女の戦いでも、こんなに巨大な時空の綻びを目撃するのは初めてだ。

「トドメだ!!」

 ブワン!!

 将門殿の太刀が一閃、ファントムは真向空竹割に切り下げられ、切り口から、おびただしい邪悪の本性が噴出する!

 ジュババ!!

「今度は違うぞ!」

 ブリンダが身を乗り出して綻びを指さす。

 噴出した本性は勢いよく四方に飛び散ると、次々にスパークするように消えていく。

 ファントムの姿は、おぼろに崩れながら、ゆっくりと綻びに向かって流れていく。流れながらも本性のスパークは止まず、呑み込まれてもすぐに霧消していくように思われた。

 しかし、呑み込まれる一瞬に見えてしまった!

 残り僅か、切れ切れの本性の中に、眠ったようなクマさんの姿が見えたのだ!

「あれを追え! クマを助けよ!」

 将門殿が吠える。

 ブン!

 言われるまでも無く、わたしとブリンダは跳躍して綻びの中に飛んで行った。

 ドウォォォォン!

 背後で、力尽きた将門殿が倒れる音がして、同時に綻びが閉じてしまった……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・38『栞は栞』

2022-05-05 06:10:16 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

38『栞は栞』 

       

 


 この連休は全てレッスンである。

 覚悟はしていたが、やっぱり厳しい。休日のレッスンは昼休みを除いて六時間ミッチリある。

 まず、狭いスタジオの中を二十周ほど歩かされる。

 歩く条件は一つ「アイドルとして歩くこと」だけ。

 その間、二人のインストラクターの先生は、なにかしらメモをとっている。終わってもなんのアドバイスもない。
 次ぎに、MNBのストレッチ。一定の型はあるんだけど、そのストレッチの間、個別に指導が入る。どうやら歩かせているうちに、体の歪みや癖がチェックされていたようで、各自、それに合ったメニューが付け加えられる。

 栞は、それまで、自分の体に歪みがあるなんて思いもしなかったが。

「栞は右脚に重心をかけすぎ。あんな調子で吹雪きの中を道にまよったら、大きく左側にそれて、一時間も歩いたら、もとの場所に戻って、遭難間違いなし」
「そうなんですか!」

 ププ( ^ิ艸^ิ゚)  アハハハハ(((^0^)))

 みんなに笑われた。期せずしてギャグになっていたのだ。

「今のがギャグなんだけど、無意識に出た物だからおもしろい。あれを企んでやったらオヤジギャグになって、気温の寒さの前に、ギャグの寒さで凍死する」

 もう一人のインストラクターの先生が指摘。

 アハハハハ((((≧∇≦*))))

 また笑われた。

 その後、しばらく「そうなんですか!」が五期生の中で流行った。

「栞、自分の靴持っといで」
「はい」
「みんなよーく見て、この靴底。右の方が左よりも二ミリも減っている。わかるわね、右に力が入っているのが」
「みなみ、あんたも靴持ってきて」
「は、はい!」

 武村みなみという子が靴を持ってきた。

「ほら、みなみの靴と、栞の靴、よ-く見て。なにか気づかない?」

 先生は、二人の靴を全員に回した。

「なにか、わかった人?」
「はーい」

 こともあろうに、さくやが手をあげた。

「栞先輩のは、やや外側のカカトが削れてますけど、みなみさんのは、内側が削れてます」
「正解。でも、ここで互いの名前呼ぶときに『先輩』はつけない。同期は「ちゃん」か「呼び捨て」 ま、そのうちに愛称になったらそれも良し。この減り方から分かることは?」
「X脚とO脚です」

――わたしって、X脚か~――

 栞は落ち込んだが、先生がフォローしてくれた。

「少し外側が減るくらいがちょうどいいの。栞は、その点では合格」
「今から、新しい靴を配ります。当分学校も、レッスンもこれで来ること。靴底の減り方チェックするからね」

 それから、みんなで靴底のチェックをしあった。きちんと減っている子は五人ほどしかいなかった。
 
 今度は、まっすぐきれいに歩く練習だった。

 背筋の曲がり方、肩の左右の高さの違いなどチェック。

「はい、フロアーの線をカカトで踏んで歩く。ふらつくな! 前を見て、腰から前に出す!」

 全員でやっている間に、問題児は抜き出されて個別の指導を受けている。

「モデルじゃないんだから、おすまししない! ごく自然にぶら上がった状態で歩く」

 ブラ、上がった? 変な連想をした子もいたけど、先生の見本を見てすぐに分かった。自然でカッコイイ。
 でも、どうやったら、それが出来るのかは謎だった。

 昼からは、表情の練習だった。

「笑ってごらん」

 先生に言われて笑ってみる。

 アハハハハ(=^△^=)

「声に出さない。顔だけで笑う。なんだ、おまえは虫歯が痛いのか!?」

 確かに、虫歯が痛いのを堪えているような顔ばかりだった。

「顔には、表情筋というものがあるけど、みんなは、その半分も使っていない」

 先生は、いろんな表情をして見せてくれた。顔の筋肉が左右非対称で動くのを初めて知った。
 これの一番簡単なのがウィンク。でも、だれもできなかった。

 それから、発声とステップの基礎。終わったころにはアゴが痛く、顔では無く、膝が笑っていた。

 夕方は、ステージのカミシモに分かれて見学。

 その日はチームMの公演。リ-ダーは、以前テレビでいっしょだった榊原聖子。顔つきがまるで違う。円陣を組んで気合いを入れる。

「今日失望したファンは二度と来ない! だから、一人一人最高のパフォーマンスで! 掴んだファンは二度と逃がすな! いいな!!」
「おお!!」
「MNB24ファイト!!」

 すごい気合いだった。知ってか知らでか、聖子は栞のことなど完全にシカト。
 武村みなみは、ステージの高さに顔を合わせて、選抜メンバーの靴のカカトばかり見ていた。

 そして、かえりは支給されたローファーを履いて、さっそく足にマメができてしまった。

 で、前号の台詞になる。

「ああ、もう死ぬう……」

 いつもなら敏感な栞だが、この日はさすがに、乙女先生が、こんな時間に家にきていることも、ほとんど気にかからなかった。

 明くる日、ステージ袖のモニター、開演前の客席に乙女先生と旦那さんに挟まれた女の子を見つけて不審に思った。

――乙女先生、娘さんなんかいたっけ……――

「そこの研究生!」
「はい!」

 あっと言う間に、乙女先生の家のことなど、頭から飛んでしまった……。

 

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