大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』

2022-06-16 05:37:05 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』 

 

 

 

 あなたーー賞味期限迫ってますよー!

 
 キッチンでお祖母ちゃんが叫ぶ。

「あ、ああ………(;'∀')」

 隠していた0点の答案が見つけられた中学生みたいな生返事をしてノッソリとお祖父ちゃんがキッチンに足を向ける。

 なんだか面白そうなので、わたしも行ってみる。

 シンクの下を覗きながらため息をつく祖父母は、少々子どもじみていてほのぼのする。

 しかし、シンクの下はほのぼのではない。

「どうしたの、激辛ラーメンで一杯じゃないの(*o*)!」

「ちょっと辛すぎるんで、ついついな……」

 
 お祖父ちゃんはインスタントラーメンが好きだ。

 お祖母ちゃんは、あまりいい顔をしないのだが、亭主の道楽の一種だと放置している。

「気が良すぎるんですよ、あなたは」

 お祖母ちゃんの話によると、こうだ……。

 
 去年の春に日韓関係が最悪になってきたころ、お祖父ちゃんの仲間が『韓国物産祭り』というのを開いた。意気に感じたお祖父ちゃんは、そこで韓国ラーメンを箱買いしてきたのだ。

 家に持ち帰って、作ってみたが、その辛さはお祖父ちゃんの辛さの概念を超えていた。

 そのために、一つ食べたっきり残ってしまったのだった。

「もう、処分するしかないわね」

 お祖母ちゃんは無慈悲だ。

「しかし、賞味期限だろ……消費期限じゃないしなあ……」

 お祖父ちゃんは煮え切らない。

「これ、ゴミ袋に入れたら目立っちゃうよ」

 老婆心ながら言ってみる。うちで一番若いわたしが老人相手に老婆心、ちょっと笑ってしまう。

「ほら、ひるでだって笑ってますよ」

「あ、お祖父ちゃんのこと笑ったんじゃ……」

 遅かった、世田谷自然左翼のお祖父ちゃんは傷つきやすい。なんかフォローしなくっちゃ(;^_^A。

「任せて、なんかレシピ考えてみるよ!」

「なんとかなるかなあ?」

 縋りつくようなお祖父ちゃんの期待に応えないわけにはいかない。

 
 この異世界に来てから妖の相手ばかりしているので、こういう人間的な問題は、なんだか新鮮だ。

 
 そうだ!

 最初に思いついたのはコロンブスの卵というか、コロンブスの激辛ラーメンだ。

「お祖父ちゃん、激辛とラーメンを分ければいいんだよ」

「え?」

 麺だけを茹でて、スープは冷蔵庫の中華出汁で作ってみた。

「普通に美味しいよ!」

 お祖父ちゃんの元気が戻った。

「あら、意外と麺はいけるじゃないの」

 お祖母ちゃんも一口食べて納得した。

「スープがもったいないなあ」

「あなたは完璧すぎるんですよ、捨てちゃえばいいじゃない」

「けど、なんだか裏切ってるみたいで……」

 仲間に会った時、お祖父ちゃんは心から「美味しかったよ!」と言いたいのだ。麺だけ食べて褒めるのは、真面目なお祖父ちゃんには心苦しいのだ。

「わかった、一晩考えさせて!」

 ドンと胸を叩いた二月最初の日曜日だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピボット高校アーカイ部・12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』

2022-06-15 09:49:55 | 小説6

高校部     

12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』 

 

 

 

 ちょっと未来に行ってみよう。

 そう言って、先輩は魔法陣を稼働させた。

 

 シュビーーーン

 

 魔法陣はいつもと違う、なんだかすりガラスを爪でひっかくような、嫌な音をさせる。

「本来は過去に向かう設定だからな、未来に行くのは抵抗が大きい……」

 グガガギガガギィィィィィ……

 すごく嫌な音をさせて魔法陣は停止した。

 なぜか先輩は恍惚とした表情だ。

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、すまん。嫌な音なんだが、てっぺんまで行って痺れる感じはクセに……なったらダメだぞ!」

「な、なりませんよ(-_-;)」

 ドガ!

「ツッゥゥゥ!」

 一歩踏み出そうとしたら、見えない壁に、したたか鼻をぶつけてしまう。

「やっぱりな……覗けるだけで、出ることはできないんだ」

 言われてみれば、いつもの『また来て四角』が無い。

「こっちだ」

「ちょ、近すぎ……」

 先輩が体の向きを変えると、体のあちこちが接触してしまう。

「無理して、ここまで来たからな、可動面積は電話ボックスほどしかないようだ。いくぞ……」

「先輩、お尻が……」

「尻は誰にでもあるもんだ、気にするな」

「…………」

 

 着いた先は……ボクが卒業した小学校だ。

 なんとか、先輩との間に五センチほどの隙間を空けて校門の前にたどり着く。

 五年生の時に新築された校舎は、そのままなんだけど、ひどくくたびれている。

 窓のいくつかには『さわってはいけません』と一年生でも分かる注意書きが貼ってある。

「このころの要市は、かなり貧乏なようだな」

 一階の廊下を進んでいくと、先生らしい人とすれ違ったけど、咎められない。

「よっと」

 先輩が横に脚を出すんだけど、後ろの先生の脚は引っかからない。

「見えないし、すり抜けてしまうようだな」

「引っかかったらどうするんですか!」

「だから二人目にした。倒れてもスキンシップになるだろ……この教室にしよう」

 それは六年生の教室で、歴史の授業をやっている。

「ほう、やっぱり、全員前を向いてメダカの学校なんだ」

「授業って、こういうもんじゃないんですか?」

「平成から令和にかけては、いろいろ試されてな。教室の壁を取っ払ったり、机を自由に置かせたりしたもんだがな。やっぱり、これがいちばん落ち着くんだろう」

 黒板は、とっくに電子黒板になって、児童の机には仮想インタフェイスが立ち上がって、黒板と同じ内容が映し出されている。

「おい、ちゃんとノートをとってるぞ!」

「ほんとだ!」

 インタフェイスこそ仮想だけども、机に広げられているのはリアルノートだ。

 子どもたちは、ボクの時代と変わらないシャーペンでノートに書いている。

「見ろ、あの子は鉛筆だぞ!」

「ほんとだ!」

 見渡すと、鉛筆を使っている子が四人、中には、肥後守で削っているような子も居て、とても新鮮だ。

「校舎はボロだけど、なかなかいい感じですね」

「問題は黒板だ」

「え?」

 黒板を見ると、ちょうど日本の古代を教えているところで『憲法十七条』と『冠位十二階』が書かれて、その横には見慣れた顔が写されている。

 厩戸皇子(うまやどのみこ)

 顔の下のは、そう書かれている。

「この人は、用命天皇の皇子で、朝廷の制度改革の中心になった人です。一説に寄るとお母さんの妃が宮中見回りの途中、馬小屋の前で産気づいて馬小屋で生まれたとか、十人の話をいっぺんに聞き分けたとかという伝説があります」

「キリストと同じだ……」

「ユダヤ教にも似た話が……」

「イスラムにも……」

 子どもたちから囁き声が聞こえる。

「そうですね、いろんな説や教えが影響していると思われます。だいたい、天皇の皇子が馬小屋で生まれるはずはないし、AIでもなければ、十人の話をいっぺんに聞けるはずもありません」

 そういうと、先生は厩戸皇子に大きなバッテンを上書きした。

 子どもたちがケラケラと笑う。

「つまり、国にとって重要な改革だったので、こういう人物を仕立て上げたんですねえ。だから、大事なことは、そういう改革が行われたという事実の方です」

 聖徳太子を否定しちまった……。

「じゃ、厩戸皇子という人はいなかったんですか?」

 利発そうな女の子が聞いた。

「いい質問ですね。厩戸皇子という皇子は存在しました。でも、伝説で云われてるような偉い人ではなかったと思われます。ほら、令和の昔に仮想アイドルというのがありましたね。いまもあるけど、そういう仮想アイドルにも誕生秘話とか成育歴とか設定されるでしょ。そんな感じかな」

 ああ……バーチャルアイドルと同じにしちゃった。

「やはりな……よし、修正作業は次の機会でやることにしよう」

「もう、未来に来ることはないんですよね」

「いや、でも、次はもっと快適に来られるように工夫しよう」

「は、はあ……」

 帰りは、そのまま魔法陣に戻れたので、ま、いいか……(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・026『初めての豪徳寺』

2022-06-15 05:55:21 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

026『初めての豪徳寺』 

 

 

 

 この異世界に来て初めて豪徳寺に行った。

 あ、ここで言う豪徳寺は地名ではなくて、地名のもとになった、そもそものお寺の事だ。

 おきながさんの世田谷神社には何度も行った。おきながさんが御祭神でありながら、そのへんのおばさんのように門前を掃いているものだから、自然に挨拶を交わし口を利くようになった……つまり、知り合ったおばさんがたまたま神さまだったので、庭先にお邪魔するような気軽さで境内にも足を入れるようになった感じ。近所付き合いが広がった感じだな。

 登下校の半分は豪徳寺の塀沿いを歩いている。往きは右側、帰りは左側に塀がある。塀しか見えない。それにたいていはねね子か芳子がいっしょで、塀の中を意識することが無い。

 意地悪でねね子に正体を聞くと、雨宿りのイケメン武士が落雷に遭いそうなので「こっちにおいで」と誘ったのが豪徳寺の山門。それで恩に感じた武士が豪徳寺の世話をするようになったということで、ねね子自身の関りについてははぐらかされた。

 暗に――そういうことには興味を持つニャー!――という意思を感じる。

 興味を持つなと言われれば興味を持ってしまうのが人情だ。

 思い立って、放課後、豪徳寺の境内に足を踏み入れてみた。

 世田谷八幡の五倍はあろうかという境内は緑が豊かだ。山門を潜って緑の中を五十メートルほど進むと、最初のお堂が見えてくる。外からの雰囲気とは違ってお堂はコンクリート製のよう、戦災で焼けて再建されたものだろうか……その向こうに見えるより大きなお堂も同じような様子だ。

 左側は広い墓地が広がっている気配。あまり墓には興味はない。

 外から窺えた深淵さとは裏腹に、中は広い敷地を擁した普通のお寺という印象。

 ところが、奥に進むと様子が変わった。

 聞き慣れた囁き声がワシャワシャ……それも尋常な数ではない。

 お寺の中にもう一つお寺があるという感じで一画が区切られていて、開け放たれた門を潜ると……なんと、ねね子でいっぱいだ!

 招福殿としるされたお堂の周囲には棚が設えてあって、その棚の上や灯篭の中、数千の猫バージョンのねね子がひしめいている。

 おおーーー!

 感嘆していると、さらに大勢のねね子の気配、お堂の屋根の上、床下、木々の小梢などに数万、数十万に増殖していくではないか!

 すごい!

 思わず叫んでしまった。

 ニャ!?

 すると、それまでワシャワシャさんざめいていたお喋りがピタッと止んで、数十万のねね子が一斉にわたしの方に顔を向けた。

 しまったのニャーー!!

 数十万のねね子は瞬時に合体して、いつもの人バージョンの姿に戻った。

「アハ、アハハハハ……ひるでに楽屋裏を見られてしまったのニャ(^_^;)」

「そうか、ねね子は招き猫だったんだな!」

 
 不思議だ……なぜ、こんなことに気が付かなかったのだ。豪徳寺の招き猫なんて、日本の常識、いや、世界に認められたラッキーアイテム、ハッピーキャットではないか。この二か月、なぜ気が付かなかった? 思い至らなかった?

 
「招き猫はたいへんなのニャ~(;^_^A。日本中、世界中の願いが寄せられるのニャからな。豊かになりたい、幸せになりたい、丈夫になりたい、頭良くなりたい、人気者になりたい、いろいろニャ。そんで、豊かとか幸せとか丈夫とか、言葉にしたらみんないっしょだけど、それぞれ違うニャ。一万円で豊かだと思う人もいれば、三億円でも足りない人もいるニャ。そんで、お金を持つことが幸せかと言うと、そうでもなかったりとかニャ。幸せにしてあげたつもりが不幸にしてしまったりニャ。そんな悩み多きねね子の近所に来たのがひるでニャ。スクネの爺ちゃんに聞いただろうけど、ひるでには大変な使命があるニャ。ひるでを助けたらねね子のスキルも上がるって、神さまも仏様も言うニャ」

「そうだったのか……」

「でもニャでもニャ、ひるでを助けてやるというのは恥ずかしいニャ(n*´ω`*n)。てか、経験から言うと、ねね子の手助けは、裏目に出ることもあってニャ、正面切って言うのはニャアって感じニャ。だから、ひるでが豪徳寺や招き猫に興味持たないように……その、いろいろとニャ」

「ちょっと鬱屈……」

「言うニャよ、それにニャ、ひるでと学校とか行ってると楽しいニャ。なんか、人助けなんかどーでもよくなって、ずっとこういうのでもいいかニャって……えと、くじけてしまいそうだから……ああ、もうここのことは忘れてほしいニャア~!」

 ポン

 音とともにねね子は消えてしまい、招福堂の周囲は、元通り招き猫の置物でいっぱいになった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・314『改めて忠魂碑』

2022-06-14 13:45:20 | ノベル

・314

『改めて忠魂碑』頼子   

 

 

 ソフィーがすごいって云うのは何度も言ったわよね。

 

 三年前、はるかたちを連れてエディンバラからヤマセンブルグを周った時が最初だった。

 王室付き魔法使いの末裔で、通訳とボディーガードをやってくれた。

 通訳もボディーガードも専門の者が居て、あくまでも見習いだったけどね。

 日本語の最後に「です!」を付けるクセが抜けなくて、さくらは『デス ソフィー』って呼んだりしてた。

 でも、わたしの高校進学と共に日本にやってきて、本格的にご学友とガードを兼ねるようになってからの進歩は目覚ましい。

 学校でも、同じクラスで成績も優秀。「です!」の口癖も無くなって、ネイティブと変わらない日本語を喋る。わたしとの会話も校内では、ほとんどタメ口。呼び方も「ヨリッチ」なんぞと親し気で、この頃は、それさえ省略して「リッチー」とか呼ぶものだから、クラスメートも「リッチ」と「ー」抜きで呼んでくれたりする。ほぼほぼ王女の身分なんだけど、けしてリッチなわけじゃないんだけどね。

 校門を一歩出ると、呼び方は「殿下」に変わる。

 じゃあ、校門の敷居をまたいだ状態なら、どう呼ぶか実験したら「リッ下」って呼ばれた。逆に、外から校門の敷居を跨いでいるとね「殿チ」ですよ。

 

 こないだ、学校裏の神社から東に伸びてる『馬場』を散策部のみんなで走ってみた。

 

 その途中で、ソフィーは忠魂碑を発見して、今日はあらためて、お花を捧げに来ている。

「忠魂碑というのは、その地方で戦死された英霊をお祀りした神聖なものです。ほら、日本の総理大臣などが外国に行った時、真っ先に無名戦士の墓などに献花するでしょ?」

「ああ、安倍さんとか、やってたねえ!」

 お寺の子なのか、さくらがピンとくる。でも、自分の習慣じゃないから――握手は外国ではやるけど、日本ではやらない――くらいの感覚。

 だから、お花を捧げ、揃って頭を下げるのは、みんなドギマギ。

「大阪の第八連隊は、もっと誇りにすべきです」

 忠魂碑を背にソフィーはマナジリを上げる。

「「「はあ」」」

 みんなピンとこない。

「『またも負けたか八連隊 それでは勲章九連隊』と言ったものです」

「えと……それってぇ?」

 さくらが、間延びした質問。

「八連隊は大阪で、九連隊は京都でしたよね?」

 お父さんが自衛隊なだけあって、メグリンが答える。留美ちゃんはニコニコしてるけど、たぶん分かってない。

「大阪と京都の兵隊は最弱と言われて、子どもが手毬歌にして遊んだものです。そのくらい、戦闘をやらせると弱かったらしいです」

 おいおい、いま献花したばかりだよ(^_^;)

「あはは、忠魂碑の前で、そんなん言うてええねんやろかぁ」

「阪神タイガースといっしょです。みんな、タイガースにはめちゃくちゃ言うけど、真のところでは応援してるでしょ?」

「「「あ、ああ」」」

 タイガースの線で理解できるんだ(^_^;)

「それに、占領地で軍政をやらせると、日本で一番うまかったそうです」

「グンセイて、なにぃ?」

「ああ、占領地を治めること。配給とか治安維持とかインフラの整備とかね。現地の行政が生きている時は、その調整をやったり。災害地の復興や支援をやらせても、早くて確実だったそうです」

「そうなんだ……ソフィー先輩って、よく勉強してますよねえ」

 メグリンが感動する。まあ、こういう話題は日本人同士じゃやらないもんね。

 よし、ソフィーを持ち上げておこう。

「ソフィーはね、大きくなったらヤマセンブルグの国防大臣になるんだよ」

「「「すごい!」」」

 ところが、当のソフィーは――なに言ってんのよ――という顔をしている。

「うん? なんか一言言いたげね」

「ヨリッチ……いえ、殿下は、ヤマセンブルグ国防軍の最高指揮官になられるんですよ」

「え、そうなの?」

「帰ったら、ヤマセンブルグの憲法を勉強し直しましょう」

「アハハハ……」

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

  

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・144『チカコ』

2022-06-14 10:23:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・144

『チカコ』   

 

 

 またわたしの姿で……

 ちょっと辟易、ちょっと親しみ……そんな感じで、のっけに言ってしまった。

 

 夢の中に、二丁目断層がやってきたのだ。

「また、いずれって言ってただろ」

「でも、わたしと同じ姿かたちは気持ちが悪い」

「この姿が、いちばん気持ちが伝えやすい。我慢しろ」

「で、なんなの? あしたは一時間目が体育だから、しっかり寝ておきたいのよ」

「時間はとらせない」

「……チカコのことなの?」

「ああ、そうだ。これを見ろ……」

 断層が指を回すと、立派なお墓が並んでいるところに来た。

 重々しい塀で囲まれていて、広さは、小学校のグラウンドほどもあるんだろうか……御霊屋って言うの? 神社のお社みたいなのや、お墓を並べた石段みたいなの、その間には、古い公園みたいに木々が茂っていて全体の様子が知れない。

 お墓には、文字の刻まれたのや、石碑が付属していたりするんだけど、字が難しい。

 ~院とかが多いんだけど、~院なんて、病院とか修道院とかしか浮かんでこないし。

「こっちこっち!」

 断層は、さっさと行っちゃって、木とお墓の向こうから手を振ってる。

「ここって、歴史上の人物とかのお墓?」

「うん、徳川家累代のお墓」

「徳川!?」

「えと……これだ、これ」

 断層が指差したのは、石段の上、神社の玉垣みたいなのに囲まれた二つのお墓。

「向かって右側が、家茂(いえもち)くん、左側が奥さんの和宮さん」

「ああ、なんか歴史で習ったかも(^_^;)」

 徳川さんなんて、家康と水戸黄門ぐらいしか知らないし。

「和宮は、天皇さんの娘で、京都から嫁いできたんだよ」

 なんか、呼び捨てしてるし。

「すでに婚約者がいたんだけどね、婚約破棄させられて十四歳で江戸にやってきた」

「十四歳……わたしと同い年だ」

 結婚は法律的にも、たしか十六からだよ。十四なんてありえない。

「だよね、和宮自身、そう思ってた」

「いやいやお嫁さんになったの?」

「まあね……明日は江戸に入るという前の日に、ボクの目の前で休憩したんだ。ほら、ペコリお化けが出るあたり」

「ああ、坂を上りきったところ」

 越してきたころ、大きな家が取り壊し中で、ガードマンの格好したペコリお化けに会ったのが、あやかし付き合いの始まりだった。

 

 ちょっと懐かしい。

 

「ちょっと可哀そうに思ってな、助けてやることにしたんだ」

「婚約破棄とか!?」

「それはできない。天皇が決めたことだからな」

「じゃあ?」

「ちょっと、お墓を透視しよう……」

 断層といっしょにお墓を見ると、お墓の中で左側を下にした和宮さんが見えた。

 とっくに骨になってるけどね(^_^;)。

 あれ?

「気が付いた?」

「うん……左手首が無い……え!?」

「そうだよ」

「でも、でもでも、うちのはチカコだよ、和宮じゃないよ!」

「和宮の真名は親子と書いてチカコなんだ。皇族のお姫様って、いまでも~宮~子だろ。秋篠宮真子とかさ」

「あ、ほんとだ……」

 そうだよ、チカコが最初に現れた時って、左手首だけだった!

「左手に思いを込めて、それを預かったんだ。左手に青春させてやることにしたんだ。それで百ン十年後の去年、やくもに預けたってわけさ」

「で……どうするの?」

「ありがとう……やくもは、十分親子に青春させてやってくれたよ」

「それって、つまり……」

「うん、帰してやっておくれ」

 断層は、とっても思いやり深い笑顔で、やさしくお願いするように首を傾げた。

 わたしと同じ顔で……でも、わたしには、まだできない笑顔で……。

 

 あくる朝、目が覚めると、机の上のコタツには、御息所だけが寝息を立てていて、チカコの姿は無かったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・025『ねね子の正体』

2022-06-14 06:41:37 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

025『ねね子の正体』 

 

 

 

 ねね子はおきながさんの眷属なんだな?

 
 のっけに聞いてやると、通学カバンを胸に抱えて黙ってしまった。

 仮病で休んだのは悪気(あっき)を恐れての事なんだろう、責める気はなかったが、ちょっと意地悪してやりたくて、登校途中に出遭うと同時に質問したのだ。

 ねね子も妖に違いなく、妖と言うのは容易に素性を明かすものではない。それを聞くのはちょっと意地悪。

「それは『おまえのウンコの臭いをかがせろ』と言うくらい恥ずかしいことニャ」

「な、なんだ、その例えは!?」

「ねね子は、ただのネコなのニャ」

「ただのネコが人に化けるか」

「化けるニャ、長生きすると化けるニャ」

「いったい何歳なんだ?」

「むかし、お江戸に公方様がいらしたころニャ」

「ほう」

 江戸の公方様と言えば徳川将軍、その時代は二百六十年ほどになる。ざっくりしすぎているが、まあいい。

「このへんの木の下で雨宿りしてたイケメンが居たニャ♡」

「惚れたのか?」

「そーゆうんじゃニャクてえ! 分かったのニャ、もーすぐ雷が落ちるって!」

「かみなりか……」

「それで、こっちにおいでって知らせてやったニャ」

「こんな感じか?」

 記憶にあるオイデオイデの仕草をしてやった。

「そ~ニャそーニャ(^▽^)」

「そこが、たまたま豪徳寺の山門だったんで、そのイケメンは豪徳寺に恩義を感じてニャ、豪徳寺のあれこれ世話をしてやることになったニャ」

「わたしも、ここに来る寸前、ネコに落雷から救われたんだぞ」

「それは、良かったニャ!」

 
 そこまで話すと、背後に気配を感じた。

 振り返ると、わたしたちと同じ制服のお下髪が立っている。

 
「なにか用?」

 お下げは、ただニコニコと笑っているだけだ。

 面と向かってみると人の気配ではない。お下げの足元には影が無いのだ。

「妖か?」

 プルプルプル

 お下げは、とんでもないという風に首を振った。怪異と感じたねね子は、早手回しにわたしの後ろにへばり付いている。

「そうか……おまえは高田淳子だ」

「……高田……淳子」

「そうだ、それがおまえの名前だ」

「嬉しい……やっと思い出した!」

 
 満面の笑みを浮かべて高田淳子は通学路を正面から照らす朝日に溶けていった。

 
「この道をまっすぐに日が上るのは年に一回だけニャ(o^―^o)」

 あっさりと済んでしまったが、奇跡に近いことをしたのかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 78『天下三分の計』

2022-06-13 15:13:06 | ノベル2

ら 信長転生記

78『天下三分の計』信長 

 

 

 本当に酔っちゃったんだ……(-_-;)

 

 客楼にあてがわれた部屋に連れて行っても、茶姫はアルコール漬けのナメクジのようにグデングデンだった。

 呆れながらも、シイは甲斐甲斐しい。

「鎧のまま寝たら体に悪いよ……ニイチャン、ちょっと手伝って」

「着替えさせるのか?」

「鎧だけでも脱がせよう……」

 ガチャガチャ

「よし、持ち上げてるから、鎧を引き抜け……よいしょ」

 抱え上げると、酒臭さと女くささが立ち込め、転生して女性化したはずの俺でもクラっとくる。

「ああ、汗とお酒でグシャグシャ……体拭いて、全部着替えさせなきゃダメね」

「そうか、じゃ、ちょっと取りに行ってくる」

「うん、お願い」

 

『お召し替えなら、これに』

 

 廊下から声がして、出て見ると、検品長が行李を抱えて蹲踞している。

「あ、用意してくれていたのか」

「ああ、蜀の丞相さまが『お召し替えになるかもしれない』とおっしゃって、自分も用意だけはしていたのだが、客楼までは入れずに困っていたので助かった」

「さすがは孔明、やるなあ」

「それが、途中、兵部の倉庫を通ったんだがな……」

「忍んだのか?」

「いや、指定された経路がそうだった」

「武備が整っていたんだな?」

「ああ、一万の兵が一か月は戦闘行軍できる量だ。それも部隊別の仕分けもされていて、あそこを通過して、装備を整えるだけで出撃できる」

「得難い情報だ、酔いが冷めたらお伝えする」

 

「それは威嚇だなあ……」

 

 体を拭いて着替えさせると、半分覚醒した茶姫は結論付けた。

「むろん、その気になれば、すぐにでも一万の兵は繰り出せるぞという意思表示だ」

「でも、一万ぽっちじゃ、とりあえずの戦いはできても、攻め入るなんてできないでしょ」

 シイが口をとがらせる。

「蜀の倉庫は奥が深い、検品長は目に見えた分だけで話している」

「むー、使えないやつ」

「ちがうぞシイ少尉。輜重はリアリズムだ。目に見える装備や糧秣を正確に把握して準備輸送するのが任務。憶測でものを言わんのは、検品長が優れているからだ」

「それより、問題は、孔明が、大橋の話に膝を打ったことだ」

「美人姉妹を主従で分けたって話でしょ、ちょっとヤラシくなくない?」

「どうだ、我が主?」

「孫策は事実上の呉王だ、二人の美姫を独占しても文句を言う者はいないだろうが、不安と不満は広がる。孫策は色ボケの吝嗇王だとな。しいては第一の臣周瑜との関係にもひびが入る。仲良く分けたほうが聞こえがいいだろう……もう少し寝る。なあ……一人じゃ寂しいから、どちらか添い寝してくれ」

「「断る」」

「ふふ、戯言だ……戯言……」

 そう言うと、茶姫は布団に抱き付いて、再び寝てしまった。

 

「天下を三分いたしてはいかがだろう?」

 

 再開した談義の冒頭で孔明はぶち上げた。

「まあ、天下三分の計というわけですね(^▽^)」

 大橋がパチパチと手を叩く。

「いかにも、三という数字は安定を表します。そうだ、これをご覧ください」

 孔明は、飲み干した盃を持ち上げた。

「ご覧の通り、三国志の盃には三本の脚があります。そうだ、それを……」

 孔明は関羽と張飛の狼藉で剥がれ落ちた壁の一部を持って来させた。

「あの酔っ払いには困ったものですが、こういう役には立つ。壁の砕けは表面がガタガタでござる。ここに、底が平らな皿を置くと……」

 置いたさらに指を添えると、カタカタと揺れる。

「これに、四つ脚の肉皿を置くと……」

 これも一脚が浮き上がってガタついてしまう。

「しかるに、この盃は……ご覧のように、ズシリと安定いたしております」

「でも、道具の脚と国とがいっしょになるのかなあ?」

 シイが遠慮のないことを言う。

「同じです。我が蜀は、関羽と張飛、それに、この孔明という三脚の上に劉備玄徳という器が載って安定を保っております」

「ああ……」

 シイが納得の声をあげ、茶姫と大橋はニコリと笑っている。

 蜀にとって、関羽と張飛は両腕で孔明が頭脳という図を描かなくても、感覚的に理解できる。

「天下も、また同義。三国が互いを尊重し助け合っていけば安泰であるとは思えませんか。魏・呉・蜀の三国が鼎立してこそ、その脚の上に載せている天下という器は、三国合わせて数億の民を載せているのですから、これを覆すことは断じてできません」

「そうですよね! いま気づきましたが、三国の街の多くは『盃』の字が充てられておりますよね! 豊盃とか酉盃とか!」

「良いところに気付かれたな、大橋殿。街とは民と法と産によって出来ております。古来より、盃は三脚。古の知恵者も、そのことに気付いて名付けたのでありましょう」

「もう一つ、いいだろうか」

 茶姫が、ほのかに酒の残る顔を上げた。

「傾聴します、茶姫殿」

「三国鼎立ということは、四本目の脚を許さぬということでもあるよな?」

 孔明と大橋が笑顔のまま固まった。

「いかにも、そこが最も肝要なところなのです、茶姫殿。天下の安定を覆す第四の脚が現れた時は、三国共同して、これに当ります」

「つまり、三国の攻守同盟ということであり、防ぐべきは三国内の脚ばかりではなく、外に脚を求めて、自分たちの脚を肥え太らせることも戒めるということであると?」

「我々は、茶姫殿の扶桑打通行軍を相互不可侵の宣言であると理解しております……ということでご理解いただけましょうや?」

「承知」

 茶姫は左手で右の拳を包む拱手(きょうしゅ)の礼で、これに応えた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・024『校舎裏の焼却炉』

2022-06-13 06:28:13 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

024『校舎裏の焼却炉』 

 

 

 
 ダメもとで校舎裏の焼却炉に行ってみた。

 こないだチラ見した時には投入口のハッチには鎖が巻かれて使用禁止の札が掛かっていたように思う。

 あれ?

 非常階段の脇から覗く煙突から煙が出ている。

 近くまで行くと、投入口が半開きになっていて、チロチロと炎が立っているのが見える。

 長年使われていないはずなのに、通気口はきれいに掃除されていて、炉の中は様々なゴミが陽気な音を立てて燃えている。

 いいのかなあ……?

 逡巡していると、後ろから声が掛かって、不覚にもドキッとした。

「今日は特別だから、燃してもいいよ」

 作業着姿の技能員さんが火かき棒を持って立っている。

「いいんですか?」

「ちょっと待って……」

 技能員さんが火かき棒で炉をかき回して隙間を作ってくれる。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、焼かせてもらいます」

 バサバサ……ボウッ!!

「若い子たちの悪気(あっき)はよく燃えるねえ……」

「うん……でも、すぐに燃え尽きる」

「悪気は早く焼き清めるに限るね」

「底になってるのはなかなか燃え尽きないのね……」

「古い悪気は石炭みたいでね、火の付きは悪いけど、燃え始めると、いつまでも燃えている。だからね、燃え尽きるまでは目が離せない」

「そうなんだ……」

 
 並の人間が悪気を燃やせるわけなど無い、無いどころか悪気を認識できるわけなど無いのだが、この時は不思議にも思わず廃棄された椅子に腰かけてしまった。


 技能員のおじさんと悪気が燃える炎を眺める。グラズヘイムでやった冬至の火祭りを思い出す。

 一年溜まった穢れを依り代に籠めて王宮の広場で焼くのだ。盛大に燃えるほど来年の実りが大きいとされていた。

 心地よい火照りに眠気がさしてくる。おじさんも同様で、火かき棒を杖にしたまま舟をこいでいる。

 おじさんの姿が変わってきた……作業服は古式ゆかしい甲冑になって、豊かな白髭が鼻の下を覆う。

「あ……スクネ?」

「あ、これはしたり。つい居ねむって本性を晒してしまいましたな」

「スクネが技能員さんだったのか」

「巡回しております。世田谷のあちこちを周って溜まった悪気やあれこれを清めるのが仕事ですわ、アハハハ。正月の三が日は姫の元に戻って休みを頂いておりました」

 おきながさんのところで、写真を撮ってもらったのは、その休みの時だったのだろう。つい先日の事なのに懐かしく思い出す。

 
「実は、ひるで殿……」

 
 いつのまにか、わたしの方が眠ってしまっていた。スクネが優しいまなざしを向けている。

「姫が申されましたな……妖どもを懲らしめた後は名前を付けてやってほしいと」

「ああ。もう八人ほどになるかなあ、懲らしめてやると自然に名前が浮かんできてな。自分で言うのもなんだが、いい名前を付けられたと思う」

「妖の多くは戦争で焼け死んだ者たちです。名前の確認も出来ぬままに、あるいは、名前もろとも容も残さずに燃え尽きた者たち……七十余年の年月の間に妖になってしもうた、そういう者たちに名前を取り戻してやって欲しいと言うのが姫の願いなのです」

「そう言うことだったのか……みんな、自然な名前だったのは、そういう訳か。それならそうと、おきながさんも言ってくれればいいのに」

「言いづらかったのですよ……なんせ数が多い」

「どのくらいになるのだ?」

「ざっと、十万」

「十万!?」

「はい、だから言いそびれておられた。この爺からもお頼みします。どうか、妖たちに名前を取り戻してやってくだされ」

「あ、ああ。しかし十万とはなあ……」

「及ばずながら、この爺もお手伝いをいたしますれば……東京は古い都ですので、戦災以外の妖もわだかまっております。全貌は、この爺も姫も掴み切れてはおりませぬがなあ」

「この異世界に来たのは、そういう役目があっての事なのか……」

「そこまでは分かりませぬが、いえ、お伝え出来てホッといたしました。さ、炉の中にイモを仕込んであります……よしよし、これなど食べごろ。お一つどうぞ」

 スクネは仕込んでおいた焼き芋をくれた。

 思いのほかおいしくて、ハフハフと食べているうちにスクネの姿は消えてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・113『空港で元帥に会って……』

2022-06-12 15:48:14 | 小説4

・113

『空港で元帥に会って……』こころ 

 

 

 しんこはチャーミングでいなさい。

 

 折に触れて伯母さんは言うんです。

 大臣やマスコミや侍従さんがいる時には「こころ子」と真名で呼ばれるんですけど、二人だけになったときは「しんこ」と呼んでくださいます。

 だから、呼ばれ方で接し方の区別がつく。

「エリザベス二世の妹にアン王女がいらしたの」

 英国の元首はエリザベス三世。それと区別するために、微妙に長くなるけど、伯母さんは「エリザベス二世」とキチンと言います。

 エリザベス二世は二百年前の英国女王ですね。

 現国王も含めて、英国には三人のエリザベス女王が居られます。その中で、二世のエリザベス女王が好きです。言うまでも無く伯母さんの影響だと思います。わたしって影響されやすいんですねぇ。

 あ、それで、アン王女なんです。

 英国の王室予算は議会で決定されるんです。女王以下、王子王女や王族たちは、一人一人、いかに国民や国の為に貢献したかが査定されて、それで年間の予算が決められるんだそうです。

 ある年、アン王女の予算がちょこっと少なかった。

「生きていくために、必要な経費なんです」というような野暮はおっしゃいません。

 英国という国は、王族であっても自分で車を運転して街に出かけるんだそうです。

 車は普通なんですけど、ナンバーが違うので、見る人が見たらすぐにわかります。

 アハハ……思い出して笑ってしまうんですけど。

 ある日、王女の車を見かけた人たちは目をまん丸にしました。

 なんと、王女の車にはデカデカと企業の広告が貼られているんですよ!

 王女は、自分の車に広告を載せることで広告収入を得ることにしたんですねぇ。

 日本の皇族ほどではないですけど、英国の王族にも行動の規制があります。王女は、綿密に調べ上げて『自分の車に広告を載せてはいけない』という文言が無いことを発見して、実践したんです!

 議会も大臣たちも弱り果てたんですけど、法治国家だから、規制がない以上、王女の自由でありアイデア勝ちなんです。イギリス人は、こういうウィットの利いた反抗って好きなんですよね。

 面白いし、王女が予算を減らされて困っていることをウィットと共に知って、王女にエールを送るんですね。

 絶好の宣伝方法だし、いろんな企業が「ぜひ、わが社にも!」って、王女に広告を申し出るんです! 問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきます。議会には「王女の予算を上げてやれ!」とデモまでかかります。

 議会は、王女に頭を下げ、頼み込んで、王女の予算を増額して広告はやめてもらったんです。

 それから「これなんかも、素敵でしょ?」って、伯母さんは、お気に入りの動画をいくつも見せてくれました。

 女王は大型特殊の免許を持っていて、戦時中は陸軍でトラックの運転をしておれれました。急いでいる時なんか、窓開けて前の車に怒鳴ったりもするんです、文字通りトラックネエチャン。

 競馬で贔屓の馬がホームストレッチでぶっちぎりでトップに出た時のガッツポーズもよかったです。双眼鏡持ったまま、観覧席の端から端まで走って、ちょっとした段差なんて、ピョンと飛び越えちゃうんです。とってもチャーミング。

「これは、企んでできることじゃないわね。持って生まれた性格と自己訓練の賜物でしょうね」

「皇室にはないの、こういうの?」

「そうねえ……ある日、明治天皇が、蜂須賀公爵を宮中にお呼びになったことがあったわ」

「蜂須賀って、秀吉が一時身を寄せていた夜盗の親玉の?」

「うん、後に阿波徳島の大名になった蜂須賀小六の子孫。その蜂須賀公爵がね、陛下が中座された時に、テーブルの上のタバコをごっそりポケットに入れたのよ」

「公爵が?」

「宮中のタバコには菊の御紋が付いていてね、人にあげると喜ばれたの。むろん、公爵をもてなすために出されてるタバコだから持って帰っても問題はないんだけどね。お戻りになった陛下はお気づきになって『ワハハ、蜂須賀、先祖はあらそえんのう!』とお笑いになった」

「アハハ」

「まあ、ギャグなんだけどね。気にした蜂須賀公は、高名な学者にお願いして、ご先祖の蜂須賀小六のことを調べさせたの。一説では、小六は地侍だったという説もあったからね」

「フフ、それで?」

「調べた結果、やっぱり夜盗だったって」

「「アハハハハ」」

 

 陛下の事を『伯母さん』という呼び方で話題に出来るのは、亡くなった母と、いま目の前でいっしょに笑ってくれている元帥だけ。

 元帥と言っても、満州戦争でJQにPI(パーフェクトインストール)してからは絶世の美女の姿で、総理や伯母さんにだってズケズケものを言う元気なオネエサンという感じ。

 その元帥が、越萌カンパニーCEOとしての視察を終えて大阪に帰る途中、空港でわたしの姿を見つけ、一便遅らせて付き合ってくださった。

 笑った後、元帥が何を言ったかって?

 なんにも、なんにもよ。ただ二人で笑って、元帥は次の便で帰って行って、わたしは、お土産のサーターアンダギーを持ってラボに帰って行きましたよ。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源
  •  

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・023『ねね子の仮病』

2022-06-12 06:05:45 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

023『ねね子の仮病』 

 

 

 
 豪徳寺脇の通学路にさしかかると、いつものようにねね子が現れた。

 
「どうした、ねね子?」

 いつもと様子が違う。

 大時代なドテラを着て、首にはグルグルとマフラー、モフモフの手袋をはめ、額にはアイスキャンディーほどの冷えピタを貼っている。

「ゴホゴホ……ちょっと風邪をひいたニャ」

「ほう、風邪か……」

 一目見て仮病と分かる。咳も白々しいし、顔色も悪くない。目を熱感知モードにしても、ねね子としては平熱の37度だ。何よりも大仰な出で立ちが仮病臭い。

「だ、だから、がっこ休むニャ、先生に言っといて欲しいニャ!」

 ピューー

 視線を合わさずに、それだけ言うと逃げるように駆け去ってしまった。

 
 まあいい、うちのクラスに転校生で入って来たのも気まぐれだろうし、仁義を通すだけ可愛いというものだ。

 
 教室に行く前に職員室に寄って、ねね子の病欠を担任に告げる。

「あ、たった今本人から電話があったわ。ありがとう」

 念の入ったことだ、仮病で休むのがよっぽど後ろめたいにちがいない。

 
 四時間目が終わって、昼休みに入ろうかという時に、クラスのA子とB子が喧嘩を始めた。

 
 ささいなことが原因なのだが、互いに我慢して仮面親友をやっていたので、いざぶつかると、いささか激しい。

「そこまでにしとけよ。頭冷やしてから、話し合えばいい」

 要らざることとは思いながら、互いに手が出そうな気配に割って入った。

 A子はその足で帰ってしまい、B子は保健室に行ってしまった。

 
 昼休み……五時間目……六時間目……表面は平穏なのだが、クラスの中にわだかまりがある。あるどころか、時間を経るにしたがって大きくなってくる。

 A子に同情する者。B子をひいきする者。これまでのしがらみはクラスの半分ほどに広がっていて、単に仲裁したから済むと言うものではなさそうだ。

 それどころか、わたしの仲裁がA子びいきにもB子擁護にもとられ、中には「余計なことを」などと、わたしに矛先を向ける者もいる。

 むろん、面と向かって文句を言いにくる者はいない。余計なケンカを始める者もいない。表面はとても穏やかなのだ。

 
 六時間目も残り五分というころに異変が起こった。

 
 教室のゴミ箱がブスブスと黒煙を上げ始めたのだ。

 しかし、誰も気に留めない。先生などは、チョーク箱の溜まったカスをゴミ箱に捨て、上半身が黒煙に覆われたのに平気でいる。

 どうやら、クラスのみんなが押さえ込んだ悪気(あっき)がゴミ箱に溜まって凝り固まってしまったようだ。

 
 この日は掃除当番にあたっている。チャッチャと掃除を済ませると宣言した。

「今日は、わたしがゴミ捨てに行く」

 ケンカの事もあったので、当番の二人もわたしが気を使っているのだと思ってくれ、済まなさそうな顔で頷いてくれた。

 
 ゴミ捨て場に向かって困った……悪気は捨てただけではわだかまってしまう。

 火で焼かなければ浄化できないのだが、ゴミ集積場横の焼却炉はダイオキシンとかのために閉鎖されているのだ。

 自分で火を起こしてもいいのだが、学校の中でははばかられる……。

 さて、どうしたものか……

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女マヂカ・277『敵はポチョムキンのソ-リャと……』

2022-06-11 10:09:10 | 小説

魔法少女マヂカ・277

『敵はポチョムキンのソ-ニャと……語り手:マヂカ  

 

 

 怪力乱神を語らず。

 

 古くから君子の心得とされてきた。

 君子は「きみこ」ではないぞ「くんし」だ。

 徳を積んで文武両道に秀で、世の中の先頭に立つ一人前の男という意味だ。日本的に言えば「士」にあたるか。

 君子たる者、真偽不明、原因不明な怪しい話は口にするなという意味だ。

 尾ひれ葉ひれとか針小棒大いうことがある。人の口を経て行くうちに、蛇を見たという話が竜を見たという話になってしまい人の心を惑わしてはならないという戒めだ。

 

 しかし、今朝の新聞やテレビは逆だ。

 

――  豊島区上空に蜃気楼 ――

 昨日、豊島区空蝉橋上空にC58機関車が出現。まるで、銀河鉄道が発車するような姿に歓声が上がり、その不思議な姿を大勢の人が撮影し、テレビやネットで流されたが、これは、大塚駅近くのゲーム会社が屋外の3D映像の投影ミスらしく、関係機関で調査されている。

 記事も三面のトピックス扱いで、140円に迫った円安記事の1/10にも満たない。

 テレビでも、映像は流されたものの、UFOの噂扱いで、天気予報のついでのようだった。

―― このように、夕立のあった後などは、空気中の水蒸気が増えて、地上の灯り、車のヘッドライトなどが映り込んで、UFO騒ぎになることがあります。このような状況では、晴れていても空気中の水蒸気量は多く暑く感じて、熱中症になることがあります。どうぞ、こまめな水分補給に気を付けてください ――

 

「突然、霊ダー(霊障用レーダー)に戦艦ポチョムキンが現れた。ステルス仕様で、映ったのは特務と霊雁島(第七艦隊基地)の霊ダーだけだ。すでに、主砲にはエネルギー充填されつつあって、迎撃は時間との勝負。位相変換が完了する前に出撃するを得なかった」

 大塚台公園の前で北斗(C58機動車)の出撃を目にした我々は、そのまま公園地下の旅団基地に走り込んだのだ。

「敵も、位相変換もせずに迎撃されるとは思っていなかったんだろう、一斉射しただけで帰って行った」

「撃破できたのか?」

 ブリンダが鋭い視線を指令に向ける。

「危ないところだったが、安倍隊長とサマンサが居合わせてくれて助かった」

 ブリーフィングルームと隣り合わせの仮眠室では、我が担任であり隊長の阿部女史がひっくり返って、サムが面倒くさそうに回復魔法をかけてやっている。

 スクランブル当番だったんだろう。

「オバハン、年なんじゃないか?」

「ブリンダ!」

「言ってやるな、量子パルスの充填が間に合わんから、なけなしの魔力を注ぎ込んで発射したんだ」

「そのわりに、サムは元気そうだな」

「ちょ、聞こえるぞ、ブリンダ」

「キャン、聞こえた!」

 詰子が怯えた声で、わたしの後ろにまわり、友里が、どうとりなしたものかとキョロキョロ。

「北斗は旧式すぎて、NATO規格の魔力は変換しなきゃ使えないのよ! 日本は、もっと防衛装備に金をかけなきゃねえ!」

「まあ、首相も防衛費倍増っていってるから」

「フン、五年で倍増! 世界は滅んでるわよ!」

「文句はあとにしろ、それより、あの映像の確認だ」

「「「「映像?」」」」

「ああ、撃破する寸前にポチョムキンの戦闘艦橋を写したものだ。テディ―頼む」

「イエッサー」

 テディ―がドラえもんのような手でインタフェイスを操作すると、壁面パネルにポチョムキンが大映しになった。

「艦橋をズームします」

 ズィーーン

 テディ―らしいエフェクトが入って、戦闘艦橋に立つ二人の将校が映し出される。

「一人は、魔法少女のソーリャ」

「ソーリャのくそばばあ!」

 ブリンダが切れかかる。

 ソーリャのことは、またいずれ……それよりも、ソーリャの後ろの士官帽を目深に被ったアジア系が気になる。

「シャドー補正します」

 テディ―が手をクルクル回すと陰になった目の所が明らかになる。

「敵ながら美人だな……」

 司令が個人的感想を述べて、一秒後にビックリした。

 

 クマさん!?

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・022『パンを買いに行く』

2022-06-11 06:36:18 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

022『パンを買いに行く』 

 

 

 
 この三が日、世田谷区内で五人の行方不明者が出た。

 
 他の街だって行方不明は出ているんだが、世田谷の場合、五人揃って十七歳の女子高生だというところに特異点がある。

 これに気づいたのは、早起きの祖父の「食パンがきれた……」という独り言を聞いて「あ、ひとっ走り行ってくる」と出かけた朝だ。すれ違ったお巡りさんの視線が強いので、つい心を読んでしまった。

 自分で言うのも何だが、武笠ひるでは美少女だ。この世界に来てから、そう言う意味での視線には慣れている。

 だが、お巡りさんの視線は、そう言うものではなかった。

 読むと、五人の行方不明者の情報が知れた。お巡りさんは、そのための特別警戒にあたっているのだ。非番の日で、デートの約束をキャンセルせざるを得なかったお巡りさん。気持ちの離れかかった彼女を繋ぎ止める最後のチャンスだったかもしれないのに。

「ご苦労さまです」

 思わず口を突いて出てしまった。

 お巡りさんは、ちょっと驚いたような目をし、すぐにニッコリ笑って小さく敬礼して見せてくれた。

 
 いいお巡りさんだ。

 
 そう感じて、このお巡りさんの情報を解析するのをやめた。

 人の情報は、のべつ幕なし、空気のように入って来る。それを必要に応じて解凍していく。なんの問題もない人の情報を、たとえお巡りさんだからと言って、むやみに読んでいいものではない。

 食パンを買っての帰り道。

 

 ヒタヒタヒタ……

 

 お巡りさんとすれ違ったあたりまで来ると、後ろを付けてくる気配がした。

 ……あきらかに妖だ。

 パチンと弾けるように、解凍された情報が浮かび上がった。さっきのお巡りさんのだ。

 行方不明になった女子高生は、みんなパンを買っての帰り道だ。

 
 角を曲がったところで、妖の後ろに瞬間移動した。

 
「おまえだな、五人を消したのは?」

「そういうおまえは?」

「質問に質問で返すな、聞いているのはわたしの方だ。答えろ、おまえは誰だ?」

「…………分からない……ただ、パンを買って帰る子が愛おしい」

 
 こいつは、生前は若いパン職人で。お客に、こういう年頃の女学生がいたんだ。

 そして、これまでに出会った妖同様に自分の名前を忘れている。

 
「おまえは、長倉真一だ」

「え……あ、そうか。長倉真一だったんだ……」

「ちょっと待て」

「え?」

「おまえ、店の屋号は『菓子司 桜屋』というのか?」

 名前といっしょに浮かんだ店の名前、パン屋らしくないので、つい聞いてしまった。

「ああ、そうだよ」

「元は、和菓子屋なのか?」

「ちがう、元々は『チェリーベーカリー』だ。時局がら、よろしくないというので変えさせられたんだ」

「そうか……」

「…………」

「もう、いっていいぞ。チェリーベーカリー」

 そう言うと、ふと体の力が抜けていき、パン職人は微笑みながら消えて行った。

 家に帰って、祖父がわたしの分まで朝食を作ってくれたころ、五人の少女たちが買ったばかりのパンを持って無事帰り付いたことを知った。

 さっきのお巡りさんが、本部からの警察無線を受けながら家の前を通ったのだ。

 
 彼女とのデート、今からでも間に合えばいいと願ったぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くノ一その一今のうち・7『百地芸能事務所・2』

2022-06-10 09:11:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

7『百地芸能事務所・2』 

 

 

 油断はできないけど、単調過ぎると思った。

 

 勢いはあるけど、古書店の店内から本が飛んでくるだけの事。注意していれば避けられる。

 これで済むわけないよね。

 ビュン!

 今度は、道の反対側から飛んできて、店の中に投げ込まれる。

 ブン!

 次は店の中から!

 ビュン! ビュン! ブン! ビュビュン! ブン!

 不規則に方向が入れ替わる。

 でも、まだまだ大丈夫。投げてる奴は、なかなかの強さとコントロールだけども、直前に――投げるぞ!――って殺気を膨らませる。駅前で、男の子が屋上から飛び降りようとしたときの気配に似ている。

 だから、避けられる、問題はない。

 ブビュン!

 しまった! なんと、工事中のマンホールの穴から本が飛び出してきた!

 反射的に建物側に身を躱す!

 ズビュン!

 次は、工事車両から!

 思わず、開いていたシャッターの中に滑り込む! 

 タタタタタ! 道路側の前と後ろから、人が走る気配!

 まずいと思いながら階段を駆け上がる。古書店の共同倉庫なんだろうか、あちこちから古書のニオイがする。

 たくさんの本やグッズが積み上げられていて、さすがに、ここで襲われたら避けきれない!

 三階の階段を上がると風が吹き下りてくる、屋上が開いてる?

 ズサ!

 踊り場の階段を蹴って、開いているドアから一気に屋上に飛び出る。

 ガチャン! バサバサバサバサ……

 扉を閉めると、ダメ押しに投げられた本たちが、扉に当って落ちる音がした。

 それが止んで、屋上を観察すると、日よけの天幕の下にかなりの本が並べられている。

 虫干しかな?

 中には広げて干されている本もあり、中身が見える。

 その中の一冊。会議机の上に広げられている本に目が停まる。

―― 風魔忍者系図 ――

 ページの見出しがあって、その下に役小角から始まり、数代後に爆発的に子孫や係累が増加し、風魔小太郎に収束。そのまま、子孫や係累は丸く膨らんで尻すぼみになって、最後の一滴のように『風魔その』と、あたしの名前が記されている。

 お祖母ちゃんが言ったように、風魔忍者は役小角にはじまり、いったん衰えたものを直接のご先祖である風魔小太郎が盛り返し。それが栄えたのち再び衰え、全体としてひょうたん型になっていて、ひょうたんのお尻から垂れている最後の一滴が、あたし、風魔しのなんだ。

 しまった!

 気づいた時、本は、すごい殺気を漲らせて電気仕掛けのように閉じた。

 バタム! イテ!

 わずかに間に合わず、鼻を挟まれてしまうけど、反射が早かったので、挟み潰される寸前に抜くことができた。

 ここに居ちゃマズい!

 感じると同時に跳躍して歩道に着地すると、古書店街の外れの交差点を目指した。

 

 忍者アニメキャラの着ぐるみ二体がポケティッシュを配っている。

 

 通行人の流れを左右から挟んで、ポケティッシュ配るふりして狙う気マンマン。

 その向こう、下校途中の高校生の群れ。

 群れの中にウブなカップルが居て、微妙な距離を空けている。

 クク、隙あらば手でも繋ごうってか、クソ!

 思うと、横っ飛びに電柱をキック、着ぐるみの上方横を飛んでカップルの隙間を駆け抜ける!

 ビュン……なに!?

 油断した! 着ぐるみはカマセで、カップルがフェイクだ!

 カップルもジャンプして、男女の手が伸びてきて、あたしを掴まえようとする!

 セイ!

 気合いで胴一つ分抜いたけど、二人の手にジャージの下を掴まれる!

 逃げなきゃ!

 スポン!

 間抜けな音がしたかと思うと、体が自由になる、自由にスースーと……え!?

 ジャ……ジャージの下を取られてしまった! 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・021『ひるでの初詣』

2022-06-10 05:48:47 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

021『ひるでの初詣』 

 

 

 声をかけようと思ったがやめた。

 

 向かいの窓を一瞥して『バーカ』と口の形だけで言っておく。

 今から初詣に行くのだ。

 祖母からもらったリュックの中には去年のお札とお守りが入っている。神社に納めて新しいのを買うんだ。

 付いてくるかと思ったねね子は踏切が近くなっても現れない。

 まあ、学校に行くんじゃないんだからなと思いつつ、ねね子が付いてくるのが当たり前になっている自分が可笑しかった。

 芳子に声をかけても良かったんだが、大晦日から生徒会の面々と初詣のハシゴをやって、今ごろは爆睡しているだろうから、それも止した。

 踏切が見えてくる通りに出て、沢山の初詣の人たちの流れに乗る。

 日ごろは信心など無い人たちが、行儀よく三列になって鳥居をくぐる。

 たいていの人が鳥居の前で一礼し、心持ち石畳の真ん中を外して拝殿に向かう。石畳の真ん中は神が通るところで、人間は遠慮しなければならないという作法だ。

 しかし、その肝心の神さまであるおきながさんは、巫女姿で参拝客の道案内をやっている。こころなし若く見えるのは、巫女姿であることよりも、生き生きと人の相手をしているからだろう。

 目が合うと『あとでね』と口の形で伝えてくれる。

 
 ガラガラと鈴を鳴らして、お賽銭を投入。二礼二拍手一礼『今年もよろしく』とお願いして、納め所で去年のお札とお守りを返納。流れに乗ってお札売り場へ。

「お札とお守り……」

 言い終わらないうちに差し出される。慌てて二千円を差し出すと、巫女さんが笑った。

「ニャハハ」

「ねね子!?」

「ニャハ、ご奉仕ニャ(と言いながら、言葉の中身は『アルバイト』だ)。あっちから入ってニャ」

 社務所の横に小振りな鳥居がある。こんなところにあったか?

 思いながら鳥居を潜ると、そこは一面の白砂が敷き詰められ、歩くたびに、シャキッ シャキッっと清らかな音がする。四方は春霞がかかったように茫洋としているが、けして不快な感じではなく。この場に適度な潤いを与えているような気がした。

 目の前に向かい合わせの床几が現れ『掛けてちょうだい』と声がした。

 腰かけると同時に、向かいの床几に春霞が凝るようにして人が現れた。

 
 女の大魔神がいたら、こんな感じだという出で立ちだ。

 古風な装束の上から古代の挂甲(けいこう)をまとっている。兜は被らず、長い黒髪にキリリと鉢巻をしている。

「これが、わたしの正装。ほんとは、ジャージか巫女姿で人の相手してる方が性に合っているんだけど、お正月だからね」

「え……え? おきながさん!?」

「オキナガタラシヒメ。教科書的に言うと神功皇后だから、三韓征伐の時の衣装が正装なんでね……よっこいしょ」

 わたしの漆黒の甲冑もたいがいだが、おきながさんも相当重そうだ。

「大鎧の原型になった鎧で、馬に乗ることを前提に作られてるから。ま、それで、座ったまんまで失礼するわ」

 おきながさんは、ガチャリと音をさせ、意を決したように背筋を伸ばした。

 
 姫え~~~~~~~~~~~~!

 
 春霞の向こうから、甲冑を揺すりながらおきながさんを呼ばわる声が走ってきた。

 白髭の五月人形のような爺さんだ。

 背中に大荷物を背負い、おきながさんの前まで来ると荷物を背負ったまま平伏した。

「ただいま帰着いたしました、お申し越しの……グヘ!」

 荷物の重さに、最後まで挨拶できずに、のびた蛙のようにへたばってしまった。

「歳なんだから、がんばっちゃいけないって言ってるでしょ。まずは荷物を下ろして」

「はい、申し訳もございません……」

 わたしも手伝って、荷物を下ろしてやると、おきながさんがお爺さんを紹介した。

「わたしの古くからの家来で、武内宿禰(たけのうちのすくね)って言うの、わたしはスクネとか爺とか呼んでる」

「ひるで殿には初にお目のかかります、姫の守り役をつとめております。どうぞ、気軽に『すくね』とお呼び下され」

「縁あってこの世界に来たが、日も浅い、よろしく頼む」

「それが、例のものだな」

「はい、元日に間に合うように、特急でまいりました」

「そ、それは!?」

 
 爺さんが取り出したものを見てビックリした。

 それは、さっき思い浮かべた漆黒の甲冑であったのだ。こちらの世界に来るときに身の回りのものは消え失せて、やっとオリハルコンの剣一つを出べそとセットで召喚できるだけだった。

「正月だから、いっしょに記念写真撮ろうと思って、爺に取りに行かせてたのよ」

「ヴァルハラの城にですか?」

 よく父が許したものだ。

「爺は、こういう交渉事にはもってこいでね。さっそく着替えて記念撮影にしよう」

「は、はい」

 
 スクネの爺さんがカメラマンになり、もう、こちらでは身に着けることは無いであろう漆黒の甲冑に身を固め数十枚の記念写真を撮った。

 
「記念に、こんなものも作ってみましたぞ」

 爺さんが差し出したものは3Dプリンターで作った、わたしとおきながさんのフィギュアだ。ちょっと恥ずかしい(-_-;)

 そのあとは、式神の巫女たちが、一瞬で会場を作ってしまい、新年宴会になってしまった。

 おきながさんは、なにか言いたげだったが、とうとう言いそびれてしまったようだ。

 
 まあいい、通学で毎日通る世田谷八幡、折を見て話を聞こう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・313『馬場を走った!』

2022-06-09 15:27:16 | ノベル

・313

『馬場を走った!』頼子   

 

 

 う~~~ん、ちょっと無理ねぇ。

 

 院長先生は腕を組んで唸ってしまった。

 いえね、思いついたのよ。

 ほら、裏の神社(ペコちゃん先生の実家)から東に伸びてる道が昔の馬場だってわかったでしょ。

 神社の前の鳥居は二の鳥居で、馬場の向こうの端、600メートル先に一の鳥居。

 それが馬場の跡で、悠々三車線くらいの一本道が続いてる。

 馬場だから、当然馬が走ったわけよ。多分、お祭りなんかの神事で、奉納競馬って感じ。

 本当は馬で走ってみたいなんだけど、無理だから、人間で走ってみようと思ったのよ!

 むろん、散策部のメンバーでね。

 それで、散策部の顧問でもある院長先生にお願いの巻というわけです。

「どうして、無理なんですか?」

「だって、今は一般道なのよ。途中に信号のある交差点が二カ所あるし、とうぜん車も走ってるわけだし。高校の部活で交通規制までは、さすがにねえ……」

「あ、いえ、ただ走ってみるだけなんです。運動部が校外をランニングしますよね、あんな感じで、イチニ イチニって感じで風を感じるというか、昔を偲んでみるというか……」

「え? ああ、わたしったら、人間が馬の代わりに走って人間競馬をやるのかと思っちゃった!」

「いやあ、そんな大それたことは(^_^;)」

「それなら、普通の部活としてやればいいわ。いちおう校外だから、監督にはわたしが立ちましょう!」

 

 ということで、600メートル先の一の鳥居の下に、散策部五人が体操服で並んだ。

 院長先生も忙しいお方なので、スタート地点の一の鳥居までは学校のマイクロバスで送ってもらう。

 ペコちゃん先生のお父さんも神主のコスで、並んだわたしたちをお祓いしてくださったり。少し大げさっぽくなってきた(^_^;)。

「ヨーイ……ドン!」

 院長先生の掛け声でスタート!

 修道女みたいな院長先生と神主さんが見送って、小柄なさくらからバスケの選手みたいなメグリンまで、五人のJKが髪を靡かせて走るんだから、思ったよりも目立つ。なにより、五人揃って美少女だしね(アハハ)。所々で、写真を撮る人もいる。

 一番遅い者のペースに合わそうと申し合わせてあるので、ペースメーカはさくら……と、思いきやメグリン。

 そういや、運動部から声がかからないのは、病気があるからとか言っていたわね。

 まあ、そのメグリンでも、授業の準備運動で走るよりは速い。まあ、ノープロブレム。

 

 ちょっと感動。

 

 わたしたちって、基本、授業でしか走ったことが無い。

 走るのはグラウンドなわけで、直線距離は、せいぜい50メートル。でしょ、何年かにいちど体力測定とか体育祭とかで走るよね。200や400走る時は、グラウンドのトラックを走ってる。冬季の耐寒走だって、たいていグラウンドか、せいぜい学校の周囲。

 600メートルの直線を走るって、わたし個人としては初めての事。

 走り始めた時から、600メートル先に二の鳥居が小さく見えて、それに向かってひたすら走っていく。

 ちょっと感動……と、思わない?

 馬はどうなんだろう? ピシって鞭があてられて、走るという衝動が体に湧き上がって、真っ直ぐだから、馬にだって、ゴールの鳥居を意識したと思うのよ。ぐんぐんゴールが近づいて来て――オレ、走ってる! 生きてるぞ!――とか思うのかな?

 トラックコースのゴールとは全然違う。トラックだと、物理的なゴールは何度か通り過ぎてしまう。

 うっかりしてると、もう一周あるのに止まってしまったり、余計に走ってしまったり。つまり、真のゴールは頭の中にあるわけよ。たった今通過したけど、あれはゴールではなくて、もう一周先にあるんだとかね。

 人生の場合は、さらに分岐があって、どっちのゴールを目指すべきかって考える。

 わたしの場合、ほとんど決定だけど、ヤマセンブルグの王女としての人生。そして、日本人の女性としての平凡、うん、たぶん平凡だと思うんだけど、そういう普通の人生。ひょっとしたら、もっと別の人生……。

 ヨリッチ!

 ソフィーが手を伸ばして止める。

 あ、赤信号!?

 ゴールの鳥居ばっかり見ていて、交差点に差し掛かっていることに気付かなかった! 危うく、赤信号を突っ切って行ってしまうところだった(^_^;)。

 ゴールして、みんなに聞いてみた。

「ペース配分考えてました」と言うのは、メグリン。だよね、体の事があるから。

「『走れメロス』が浮かんでました」は留美ちゃん。さすがは文学少女。

「パン屋さんとケーキ屋さん、ちょっと曲がったとこにパスタ屋さんがあるのを発見!」さくらは相変わらず。

「忠魂碑を発見しました」と、まじめな顔はソフィー。

「帰りに寄ってもいいですか?」

 と、ソフィーが言うので、コースを戻って忠魂碑を見に行く。

 二階建ての軒先ぐらいはありそうな石碑の忠魂碑。

 ソフィーが真剣に礼をするので、わたしたちも倣ってしまう。

 揮毫は第四師団師団長 森なんとか(草書だから読めない)中将。

「ほう……」

 ソフィーが感心する。有名なんだろうか?

「八連隊が所属していた師団です!」

「有名な連隊です!」

「「「「ほう……」」」」

 みんなで感心して、石碑の忠魂碑を見上げる。

「どんなに有名なの?」

「日本で、いちばん弱かった連隊です!」

 ズッコケてしまった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする