大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・27『まどかーーーーーーーーっ!!』

2022-11-17 06:47:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

27『まどかーーーーーーーーっ!!』  

 

 

 教頭からの指示ということで学校を出た。

 ニンマリするわけにもいかず、致し方なしという顔でいたが、踏みしめるプラタナスの枯れ葉が陽気な音をたててしまうのは気のせいではないだろう。


 潤香は、集中治療室から、一般の個室に移されていた。


 付き添いのお姉さんから、大人びたねぎらいの言葉をかけられ、いささか戸惑った。

 しかし、潤香の意識が回復するのも近いと聞かされホッとした。
 まどかたち三人はショックなようで、夏鈴が泣き出し里沙とまどかの目も潤んでいた。

 わたしは二度目だけど……やはりベッドの上の潤香の姿は痛ましい。

 そっと窓に目をやると、スカイツリーが見える。

 孤独に一人屹立した人格を感じさせるのは、抜きんでた六百三十四メートルという高さだけではないような気がした。


 放課後、部室と倉庫の整理をやった。


 部室はクラブハウスの一角なので、規模も小さく作業もしれたものだけど、倉庫が大変だった。夕べひととおりやってはいたんだけど、予選で落ちたショックが大きかったのだろう。あらためて見ると乱雑なものだ。
 あらゆるものが、ただ所定の場所に置いてあるだけ。道具や衣装の箱の中は、地震のあとの小間物屋のような状態。
 この有り様を予想したわけでは無いだろうけど四人がクラブを休んでいた。
 衣装係のイトちゃんがぼやいていたが、みんな黙々と、それぞれの仕事をこなした。

 そして。

 それは、部長の峰岸クンたちと「新しい倉庫が欲しい」と冗談めかしく話しているときに起こった。

「火事だあ!」

 誰かが叫んだ。

 驚いて振り返ると、倉庫の軒端から白い煙が吹き出している。

「だれか火災報知器を鳴らして! 消火器を集めて!」

 白い煙は、わたしの叫び声をあざ笑うかのように、あっという間に炎に変わった。

 そして、信じられないことが起こった! まどかが、燃え始めた倉庫の中に飛び込んだのだ!

 まどかーーーーーーーーっ!!

 みんなが口々に叫んだ!

 炎は、もう倉庫の屋根全体に広がりかけている。みんな、まどかの名前を叫ぶだけで助けにに行こうとはしない。いや、できないのだ。勢いを増した炎に臆して足が出ない。輻射熱が倉庫を遠巻きにしたわたしたちのところまで伝わってくる……。

 ドボンという音がした。わたしの中で何かが落ちるような音が。

 潤香に続いて、まどかまで……グっと苦い思いがせき上げてきた。

 させるかあ!!

 次の瞬間、わたしは倉庫に向かって走り出した。

「マリ先生!」

 峰岸クンが、わたしを引き留める。

「放して!」
「先生は、先生の身は、先生だけのものじゃないんですよ! 先生は……」

 峰岸クンは、ほとんどわたしの秘密を喋りかけていた。誰にも知られてはいけない秘密を……。

「わたしの生徒が! いやだ! 放せ! 放して!!」

 わたしは渾身の力で抗った。

 バリっと、チュニックが裂ける音がして、わたしは峰岸クンの羽交い締めから抜け出した。

 ザザザ!

 その刹那、黒い影が追い越して、炎が吹きだしはじめた倉庫に飛び込んでいった……。


 この一週間で、病院に来るのは四度目だ。


 まどかは、すんでのところで助けられた。あのとき倉庫に飛び込んだ黒い影に。

 燃えさかる倉庫から、その影はまどかを抱いて現れた。直後、倉庫の屋根が焼け落ちた……。

 黒い影は用意された担架にまどかを横たえ、わたしは、すぐに、まどかの呼吸と鼓動を確かめた。

 異常はない。

 そして、目視で、やけどをしていないか確認した。

「大丈夫ですか……?」

 黒い影が口をきいた。

「大丈夫、気を失っているだけ」

「よかった……」

 初めて黒い影の姿を見た……全身から湯気をたて、煤けた姿は、近所の青山にある修学院高校の制服を着ていた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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ピボット高校アーカイ部・31『納戸町』

2022-11-16 16:52:44 | 小説6

高校部     

31『納戸町』 

 

 

 この先が目的地だ。

 

 商店街の入り口みたいなところで先輩は立ち止まった。

「まずは現場の下見だ。三百メートルほど行くと右手に骨とう屋が見えてくる、わたしたちと同年配の女の子が店番をしているはずだから、よく見ておけ」

「イケメンの番頭さんとかいないんですかぁ?」

「真面目にやれ、麗二郎」

「麗二郎言うな(`Д´)!」

「麗と呼んでやれ、ここでは花の女学生なんだからな」

「は、はい」

 なんで僕が怒られるんだ(>o<)。

「行くぞ」

「「はい」」

 

 ゆっくりと通りを歩く。

 納戸町は新宿区だから、もうちょっと賑やかかと思ったけど、人通りが、そこそこあるだけで印象としては田舎町だ。要(かなめ)の駅前通りの方がイケてるかもしれない。

「明治25年だからな」

「着物ばっかり……それに、ちょっとダサイかも」

 確かに、みんなゾロリとした着こなしだ。姿勢が悪いし、胸元が緩くて帯の位置も低い。もうちょっとシャンとすればいいのに。

「フフ、あたしたち、ちょっとイケてません?」

「まあな、この時代に合わせてはいるが、若干の趣味は入れている。ただな、この時代の着こなしにも意味がある」

「どんな意味ですか~?」

「我々の着こなしは、長時間になると胸と腹を圧迫する。朝から晩まで着物で居るには、ああいう着こなしの方が楽なんだ」

「あ、言えてるかも。これでディナーとか言われたら半分も食べられないかも」

「だろ、だが、この時代で晩飯を食べるつもりは無いから、見た目を重視した」

「さっすがあ、螺子せんぱ~い!」

「こら、抱き付くなあ!」

「先輩、見えてきました……」

 電信柱の向こうに骨董屋の看板が見えてきた。

「よし、まずは通り過ぎるぞ」

「「はい」」

 

 コンビニに鞍替えしたら、ちょうどいい感じの大きさ。ここまで歩いた感覚では中の上といった規模の角店。

 チラッと目をやると、帳場と言うんだろうか、今でいえばレジみたいなところにお人形のように小柄な女の子が店番をしている。

 うりざね顔の和風美人……お祖父ちゃんなら「門切り型の言葉で感動しちゃいけない」って言うんだろうけど、そういう印象。でも、口元は可愛いだけじゃなくてキリっとしている。見かけによらず意地っ張り……いや……通り過ぎてしまった……緊張したぁ。

 

「なかなかの観察眼だぞ、鋲」

 

 電柱一本分行ったところで先輩が褒めてくれる。

「いえ、もうちょっとと言うところで通り過ぎてしまいました(^_^;)」

「ちょっと気になるんだけどぉ」

「なんだ麗?」

「二人って、時どき心で会話してない? 今も、鋲君は何も言ってないでしょ?」

「ふふ、鋲とは深い付き合いだからな、以心伝心なのさ」

「そうなんだ、ちょっと羨ましいかもぉ」

「ちょっと、先輩(;'∀')」

「まあ、ちょっとした相性だ。これでいいか、鋲?」

「どっちも良くないですから」

「アハハ、よし、次は直接口をきいてみることにしよう」

「じゃ、とりあえず帰りますか?」

「いや、たった今からだ」

「うわあ、ワクワクするぅ」

「ちょ、先輩!」

「ハハ、鋲も分かっているくせに。ま、そういうところも可愛くはあるんだがな~」

「うわあ、微笑ましい~」

「違うから麗二郎~!」

「麗二郎言うな~!」

 通行人の明治人の人たちが微笑ましそうに笑っていく、こういうところは令和よりは人の垣根が低いのかもしれない。

 僕一人ワタワタしているうちに、先輩と麗は店の中に足を踏み入れた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・26『怖い顔をしているのに苦労した』

2022-11-16 07:20:22 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

26『怖い顔をしているのに苦労した』  

 

 

 オチョクルまでもなく二行目で吹きだした。

「スカートめくり」という単語が目に入ってきたからだ。

 幼いころ、はるかちゃんという幼なじみと、どうやったらスカートがきれいにひらめくか、おパンツ丸出しにしてスカートをまくってクルクル回っていたというものだ。

 文章としては面白いが、肝心の道府県名は、その、はるかちゃんが大阪に越していったということだけ。

 でもエッセーとしてよく書けているので、わたしは花丸をつけてやった。

 ……はるかという名前が大阪という単語と共にひっかかった。

 昨日、その種のホテルの前で大伸びと大あくびしたあと、地下鉄の駅に行くまでに小田先輩が言っていた中に『はるか』という名前が出ていたような……。

 小田先輩の恩人、この業界で身を立つようにしてくださったという白羽という名プロデューサー。

 この人が、大阪のナントカはるかという新人を発掘……しかけているという話をしていた。

 あまりに嬉しいので、苗字や写真などのデータは伏せたまま、喜びのメールを寄こしてこられたらしい。

 小田先輩を可愛い身内と思ってこそのメールだったんだろうけど、先輩としてはいささかライバルの予感。それくらい白羽さんというのはすごい人のようだ。

 ま、はるかって名前は、どこにでもある。

 そう言えば、去年の学園祭。潤香に次いで準ミスに選ばれたのも下の名前は「はるか」だった。今は二年生になっているはずだが、なんせズータイの大きい私学。学年が違えば、よその学校も同様なんだ。


 次の休み時間に、廊下で里沙と夏鈴につかまった。


 三四時間目が自習になったので、潤香の見舞いに行きたいと言う。

 ついては、わたしに引率者になって病院まで付いて来て欲しいというのである。ちょうど三四時間目は空き時間ではあるけれど、なんでこいつら知ってるんだ?

 すると里沙が、おもむろにスマホをわたしに見せた……。

―― ゲ、わたしの時間割がキチンと曜日別にまとめてあるではないか!? ――

「なんで、こんなもの!?」

「そりゃ、先生はクラブの顧問ですもん。万一のときや、都合つけなきゃいけないときの用心です」

「こんなもの、舞監のヤマちゃんだって持ってないわよ」

「こんなのも、ありますよ……」

 里沙が涼しい顔で画面をスクロール。

「え……わたしのゴヒイキのお店。蕎麦屋、ピザ屋、マックにケンタに、もんじゃ焼き、コンビニ……KETAYONA(夕べ、小田先輩といっしょだったイタメシ屋)まで……里沙、あんたねえ……」

「わたしって、情報の収集と管理には自信あるんです。いわばマニュアルには強いんですけど、クリエイティブなことや、想定外なことには対応できないんです。で、そういう判断しなくちゃならないときに、いつでも先生と連絡できるようにしてあるんです」

「そんなときのために、番号教えてあるんでしょうが!?」

「マナーモードとかにされていたら、連絡のとりようありません。夕べだって……」

「夕べなにかあったのぉ?」

 これは夏鈴。

「ちゃんとした挨拶の確認できなかったから。一日は、挨拶に始まり、挨拶に終わります」

「そりゃ、そうだけどね……(-_-;)」

「正直、不安だったんです。あんな結果に終わったのに、なんかきちんとクラブが終わり切れてないみたいで」

「あ、それは、わたしも……思いました。なんか……投げやりな感じで終わっちゃったなって」

 夏鈴はめずらしく、マジな顔で、まっすぐわたしを見て言った。

「多分KETAYONAだとは思ったんですけど、先生もやっと解放されたところだろうって、ひかえました。二十二時三十分ごろです」

 ……ちょうど小田先輩と論戦の真っ最中(^_^;) 気持ちは分かるんだけどね……。

「ちょっと、スマホ見せなさいよ(`_´)!」

 返事も待たずにひったくった。

「あ、消去しないでくださいね。一応バックアップはとってありますけど……」

「あのなあ……」

 ケナゲではあるんだけど……一応チェック……よかった、わたしの裏情報までは知らないようだ。

「で、三四時間目の件は……」

 携帯を受け取りながら里沙が上目づかいで聞いた。

「だめ。自習とはいえ人の授業。勝手なことはできないわ」

 上から目線できっぱりと言ってやった。

「だめですか……」

「だめなものは、だめ!」

 二人はスゴスゴと帰っていった。

 ほんとのところは、二人のアイデアに乗りたかった。

 しかし、生徒からの希望とはいえ、申し出て許可を得るのはわたしだ。クラブで勝手が許されるのは、他のところで手を抜かない。教師としての仁義に外れたことをしないことに気をつけているからだ。

 学校って、狭い世界なのよ。ごめんね……遠ざかる二人の背中に呟いた。

 で、次の休み時間。まどかを先頭に、あの子たちはバーコードに直訴におよびやがった!

 どうやら、まどかの発案であるらしい。

 三人同じクラスということもあるんだけど、三人でワンセット。もし、あの三人を一人の人格にまとめることができたら。最強の演劇部員になりそうだ。

 いや、身内に一人……浮かびかけたそいつを意識の底に沈め、わたしは、職員室の端っこで、心の耳をダンボにした。

 内心、エールを送りたい心境だったけど、立場上そういうわけにもいかず。怖い顔をしているのに苦労した。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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銀河太平記・132『氷室神社の御祭神は秋宮空子内親王』

2022-11-15 11:11:36 | 小説4

・132

『氷室神社の御祭神は秋宮空子内親王』兵二  

 

 

 自分の任務は隠密に似ているのかもしれない。

 隠密というのは、物語にあるような忍者めいたものではない。任地に赴き、ほとんど、その地に同化して報告を上げ続ける。そういう地味な任務だ。

 西之島にやってきて五年、西之島は、ほとんど故郷のようになってきた。

 漢明との戦争に突入しようとしている今日、ひょっとしたら、この島に骨を埋めることになるかもしれない。

 

 五年前、上様の馬ならしのお供をしていて西之島新島に向かうように命ぜられた。

 中学同窓の穴山彦が発行している扶桑通信をお持ちしたところ、西之島新島の熱水鉱床からパルスギ鉱が発見されたというニュースに目を停められた。

 パルス鉱はニ十三世紀の主要な動力源で、純度によって、パルス、パルスラ、パルスダ、パルスギの四種に分類される。

 パルスギ鉱は、理論結晶とも呼ばれる高純度の鉱石で、ひところは自然界には存在しないとまで言われていた超高純度の鉱石だ。

 宇宙船の動力に使えば光速を超える速度が出せて、人類の行動半径は太陽系の外に広がり。発電に使えば、野球ボールほどのパルスギで扶桑将軍府の十年分の電力が賄えるという。

 西之島(島内では、いちいち新を付けずに西之島と呼ぶ)では、三つあるコロニー(カンパニー、胡同、ナバホ村)のうちのカンパニーの世話になって、今日に及んでいる。

 カンパニーの氷室社長は、他の二つのコロニーからの信頼も厚く、西之島が西之島市という本土並みの行政区になった現在でも市長や議会の権威を超えるほどの力……いや、尊崇の念を持たれている。

 

「賽銭箱は勘弁してくださいよ(^_^;)」

 

 社長は、頭を掻きながらシゲ老人に頼んだ。

「しかしなあ、お参りに来る者からすると、賽銭箱が無いのは頼りないぞ」

「いや、だから、僕は神さまじゃないから」

「いや、ほとんど神さまじゃ」

 シゲ老人のトドメに、社長は言葉に詰まった。

 社長も分かっているんだ。

 この西之島の危機に当って精神的な支柱が必要なことを。そして、その位置に自分が着きつつあることを。

「なら、社(やしろ)を建てよう」

「社ですか?」

「うん、社を建てて、社長自身、そこに手を合わせれば、社長以上の存在があると納得するじゃろ」

「ああ……」

「どうじゃ?」

「ま、シゲさんがいいと思うやり方でやってください(^o^;)」

 

 このやり取りがあったのが先週のこと。

 

 今週は、胡同沖で起こった衝突(漢明側は『西之島海戦』、日本側は『西之島沖事件』と呼称)の後始末に追われて、社長も自分も、カンパニーには帰れなかった。

 一週間ぶりに賽銭箱の様子を見に行くと、社長は「あ、ああ…………」と、風船が萎むような声を漏らして腰を抜かしてしまった。

 賽銭箱は新しく建った鳥居もろとも海を背にして設えられ、鳥居には『氷室神社』の扁額が掛けられていた。

 ウォッホン

 咳払いをして現れたのはシゲ老人。

 正しくは斎服というんだろうが、いわゆる神主服をまとって、手には幣(ぬさ)を捧げているではないか!

「御祭神はパルスギにしようとも思ったんじゃが、社長のご先祖がええと思って『氷室神社』としたぞ。社長の五代前は渡米された、なんとかいう親王さまじゃろが」

「内親王、その子孫だから普通の人間ですよ。国籍も一時はアメリカだったし」

「その内親王様がご神体じゃ。社長本人を神さま扱いするんじゃないから、ええだろが」

「シゲさん、ご神体は何にしたんですか?」

 火星にも日本式の神社があるので、気になって聞いてみた。

「それそれ、大仰なのは社長の好みじゃないと思ってな、海そのものとか……」

「海がご神体とか海からやってくるというのは、ちょっと普通っぽくないですか?」

「うん、安芸の宮島とか、沖縄のニライカナイとかあるのお……」

「ポセイドンとかもありますねえ」

「あるのう……」

「うん、ちょっと二番煎じですかねぇ」

「じゃ、兵二、これはどうじゃ!」

 シゲ老人はポンと手を叩くと、鳥居の下まで走って、背筋を伸ばして空を指さした。

「え、空ですか!?」

「そうじゃ、空は宇宙に続いとる。大きくてええじゃろが!」

 すごい事を言う。

 社長は言い返す気力も無くて、そのまま決まってしまった。

 ちなみに、あとで確認すると、社長の五代前は『秋宮空子内親王』ということが分かった。

 アキノミヤ?

「ちがうよ、秋と書いてトキと読むんだ」

 教えてくれたのは食堂のお岩さん、以前は大手銀行の支店長もやっていたとか、日ごろはおくびにも出さないが、かなりの才媛だ。

「秋でトキですか?」

「ああ、秋というのは収穫の時だからね、実りを刈るという神聖な意味がある」

「ときのみやそらこ……時……空……時空か!?」

 シゲ老人は、どこまで意図したか分からないけど、大きな名前だ。

 

 この氷室神社ができたことが唯一の明るいニュースになって、西之島は第二次西之島海戦を迎えることになっていった……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

   

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・25『寝過ごしてしまったのだ』

2022-11-15 07:07:58 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

25『寝過ごしてしまったのだ』  

 

 


 教師になって、こんなことは初めてだった。

 寝過ごしてしまったのだ。

 子どもの頃から自立心の強かったわたしは、大学で要領をカマスことを覚えるまで、無遅刻、無欠席だった。大学もおおやけには無遅刻、無欠席なんだけど、個人的心情では、代返の常習者。文学部演劇科に籍を置き、教職課程をとりながら、キャンギャルやら、MCのバイトに精を出していた。これくらいの要領はカマシておかないとやっていけない。

 え、その歳なら忌引きの一つや二つはあったろうって?

 わたしの家系は、みんな元気というか、長生き。今年メデタク卒寿を迎えたお祖父ちゃんは、まだピンピン。

 お祖父ちゃん、過剰に孫娘に構い過ぎるのよ。

 大学のときも勝手にわたし達の口座に、学費と称して、多額のお金を振り込んでくれた。でも、わたしは、そのお金にはいっさい手を付けなかった。

 意地もあったけど、そういうバイトやら、要領カマスことまで含めて勉強だと思っていたからだ。

 お祖父ちゃんのことは、訳あって、部長の峰崎クンしか知らない。

 で、わたしは乃木坂をスカートひらり……バサバサとはためかせながら、百メートルを十一秒で走れる脚で駆け上っていた。

 緩いカーブを曲がると、正門まで三百メートル。

 あと四十秒、さすがにキツイ!

 しかし目の前を走る遅刻寸前の女生徒を見て、俄然闘志が湧いてきた。

―― ガキンチョに負けてたまるか! ――

 正門が軋みながら閉め始められたところで、その女生徒を鼻の差で抜いて一等賞!

 チラっと追い越しざまに見えた女生徒は、わが演劇部の仲まどか。

 昨日のコンクールでは大活躍のアンダースタディー(主役の代役)をやった。 疲れたんだろうなあ……そう思いながら中庭を抜けて職員室へ。

「貴崎先生、遅刻されるんじゃなかったんですか?」

 教務主任の中村先生が声をかけてきた。

「なんとか間に合いましたから……今から行きます」

「そうですか、一応、自習課題は渡しておきましたんで」

「ありがとうございます……」

 と、返事をして、自分が汗みずくであることに気がついた。

 膝丈のチュニックの下はいつもコットンパンツなんだけど。走ることが頭にあったので、家を出る寸前に薄手のスパッツに穿きかえた。

 でも、この汗……ラストの三百メートル全力疾走がきいたようだ。

 ロッカーからタオルを出し、顔と首を拭き、チュニックの胸元をくつろげて、胸から脇の下まで拭いた。

 われながらオヤジである。

 まどかも今頃は……と、粗忽ながら可愛い生徒のことを思う。

 どこかで、オヤジのようなクシャミ……が聞こえたような気がした。

 教頭と目が合った。ちょうど、オヤジよろしく脇の下を拭いていたときに。

 ただのスケベオヤジのようにも、教育者の先達として咎めるようにも見えるまなざしだ。

 目線をそらし、ツルリと顔を撫でたところを見ると前者のようだ。

 クルリと背中を向けて、思い切り「イーダ!」をしてやった。


 教室へ行くと、すでに里沙が自習課題を配り終えていた。


「説明も終わりました」

 と、口を尖らすのがおかしかった。

「武藤さんの言うとおりね」

 と、あっさり自習にしてやった。

 まどかのカバンから、オヤジくさいタオルがはみ出ているのがおかしくも、親近感が持てた。

 課題は「日本の白地図に都道府県名を入れなさい」というシンプルなもの。

 レベルとしては小学校だけど、案外これがムツカシイ。関東は分かっても、近畿以西になってくると怪しくなってくる。香川と徳島、島根と鳥取などで悩んでしまう。鳥取など字の順序でも悩ましい。九州など、鹿児島以外お手上げという子もいる。

 五分たった。

「地図見てもいいよ」

 と、言ってやる。

―― チョロいもんよ ――

 と、まどかなど何人かは出来上がったようだ。

 わたしの課題は、それからが勝負。任意に東京以外の道府県を選び、それについて八百字以内で思うところを書けというところ。

 ちなみに、わたしの教科は「現代社会」だ。

 便利な教科で、頭か尻尾に「現代」とか「社会」がつけば、なんでもアリ。

 今は、「現代青年心理学」なんか教えている。「保健」と内容的には被るところもあるんだけど、わたしのはポイント一つ。「高校時代の恋愛を絶対視するな」ということ。

「たった一度、忘れられない恋が出来たら満足さ~♪」と歌なんかにはあるけど、今の高校生は簡単に、最後の一線を越えてしまう。乃木坂のようなイイ子が多い学校もいっしょ。スレてないぶん、より危ないと言えるかも知れない。

 校長や教頭は「いい学校=いい生徒」と思っているようだが、わたしは基本的には、どこも同じと思っている。管理職のところまでいく前に、現場の教師で、どれだけ問題を解決していることか……理事長は、さすがに経営者で、どことなくお分かりのご様子。

「できました(*`ω´*)」

 まどかが、正直なドヤ顔で一番に持ってきた。

「書けたら、好きなことやっていいですか?」などと言っていた奴らは、まだシャーペン片手に唸っている。

 まどかの得意顔をオチョクッテやろうと、読み始めた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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宇宙戦艦三笠8[思い出エナジー・2]

2022-11-14 08:26:01 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

8[思い出エナジー・2]   

 

 

 疾風(高機動車)の前方30メートルほどのところに、チャドル姿の女性が倒れこんだ。

 隊長は、すぐ全車両に停止を命じた。

「隊長、自分が見てきます」

 山本准尉は、隊長と目が合ったのを了解と解して疾風を飛び出した。自爆テロの可能性があるので、うかつに大人数で救助に向かうわけには行かなかった。


「きみ、大丈夫か?」


 姿勢を低くし、二メートルほど離れたところから、山本准尉は女に声を掛けた。爆発を警戒してのことでは無かった。そこここに現地住民の目がある。異民族の男が女性の体に触れるのははばかられるのだ。

「ゲリラに捕まって、やっと逃げてきました。日本の兵隊さんですね……助けてください」

 チャドルから、そこだけ見せた顔は、まだ幼さが残っていた。


「……分かった。君の村まで送ってあげよう」


 山本は、優しく、でも決意の籠った声で少女に応えた。

 山本は、いったん疾風に戻ると装具を解いて、隊長に一言二言声を掛け、様子を見ていた現地のオッサンから、ポンコツのトヨタをオッサンの半年分の収入くらいの金を渡して借りた。オッサンは喜んだが、目で「気をつけろ」と言っていた。それには気づかないふりをして、少女に荷台に乗れと言った。座席に座らせるわけにはいかない。イスラムの戒律では、男と女が同じ車に乗ることはできない。荷台に乗せるのが限界である。

「あたし、体の具合が悪い。日本のお医者さんに診てもらえませんか?」

「あいにくだが、男の医者しかいない。あとで国連のキャンプに連れて行ってあげよう。それまで我慢だ」

 山本が目で合図すると、自衛隊の車列は作業現場へと移動し始めた。山本は長い敬礼で車列を見送ると少女に二本ある水筒の一本を渡して、トヨタを発進させた。

「どうして停まるの?」

 少女は、少しこわばった声で山本に聞いた。

「サラート(礼拝)の時間だろ。専用の絨毯はないけど、これで我慢してくれ」

 山本は、毛布を渡してやり、コンパスでメッカの方角を探し、コンパスの針を少女に見せた。少女は毛布に跪きサラートを始めた。山本は異教徒なので、少女の後ろで跪いて畏敬の念を示した。

「どうもありがとう」

 サラートが終わると、少女は毛布を折りたたんで山本に返した。

「信心は大事にしなきゃな……よかったら、そのチャドルの下の物騒な物も渡してもらえるとありがたいんだけど」

 少女の目がこわばった。

「これを渡したら、村のみんなが殺される……」

 少女の手がわずかに動いた。

「ここで、オレを道連れにしても、日本の兵隊を殺したことにはならない。君を送る前に隊長に辞表を出してある。だから、オレを殺しても、ただの日本人のオッサンを一人殺したことにしかならない。後ろを向いているから、その間に外しなさい」

 山本は、無防備に背中を向けた。

 戸惑うような間があって、衣擦れの音と、なにか重いベルトのようなものを外す音がした。

「ありがとう。君も村の人たちも殺させやしないよ」

 それから、山本は少女を村に送り届け、トーブとタギーヤ(イスラムの男性の衣装)を借りた。

 山本は、少女に地図を見せた時、二か所に目をやったことに気づいていた。一か所は自分の村で、もう一か所は、それまで彼女が居たところだろうと見当をつけた。

 案の定、少女が見ていたところは岩場が続く丘の裾野で、声がかかる前に銃弾が飛んできた。ゲリラの前進基地のようだ。車を降りると「手を挙げて、こっちに来い」と言われた。

「隊長、こいつ体に爆弾を巻き付けている!」

 身体検査をした手下が隊長に言った。

「スイッチは、この手の中だ。動くんじゃない! 血を流さずに話し合おうじゃないか」

 そのあと二言三言やり取りがあった後もみ合いになった。

 そして、もつれ合い倒れたショックで、自爆スイッチがオンになり、山本は10人あまりのゲリラを道ずれに死んでしまった。

 日本のメディアは、現地で自衛隊員が除隊したことと、山本が民間人として死んだことを別々に報道した。当然殉職とは認められなかった。


 そして、山本が日本に残した一人娘は、横須賀の海上自衛隊の親友に預けられた。


「だから、あたしの本当の苗字は山本っていうんだ……」

 長い物語を語り終え、天音はため息をついた。

 三笠は速度を上げて遼寧とヴィクトリーを追い越した……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・24『幽体離脱』

2022-11-14 06:25:08 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

24『幽体離脱』  

 

 

「なんで、ちゃんとたたまないのかなあ!」

 くしゃくしゃになった衣装を広げながら、衣装係のイト(伊藤)ちゃんがぼやいた。

「ボヤくなって、大ラスで、審査長引いて……」

 と、山埼先輩。

「結果があれだったんだからな」

 と、勝呂先輩がうけとめる。

 放課後の倉庫。夕べは、とりあえずの片づけしかできなかったので、本格的な片づけと、衣装やらの天日干し。

 衣装は一見きらびやかそうにできているけど、洗濯できないものがほとんどで、天日干しにして除菌剤をスプレーする。シワの寄ったものは平台を尺高(約三十センチ)にして、その上でアイロンをかける。

 昨日の疲れと審査結果で、一年が三人と二年が一人休んでいる。そのうちの二人は学校には来ていたのに、クラブには「休みます」と舞監の山埼先輩にメールをよこしただけ。

 思えば、これが演劇部崩壊のキザシだったのかもしれない。

 里沙は峰岸先輩とマリ先生といっしょに、道具や衣装の置き場所を相談している。

「新しい倉庫が欲しいですね」

 ポーカーフェイスの峰岸先輩がつぶやく。

 たとえポーカーフェイスでも、たとえ呟きであったとしても、峰岸先輩が口に出して言うのは、わたしたちなら「やってらんねー!」と叫んだのと同じ。

「進駐軍だって、手をつけなかったってシロモノだもんね」

 マリ先生もつぶやく。

 マリ先生がつぶやくのは命令と同じなんだけど。さすがにこれは単なるボヤキでしかない。

「進駐軍って、なんですか?」

 里沙が真面目な顔で聞く。一拍おいてポーカーフェイスと、空賊の女親分が爆笑した。

―― 明るさは滅びのシルシであろうか ――

 はるかちゃんの言葉がなんの脈絡もなく思い出された。

「ま、峰岸クンが卒業して出世したら、寄付してよ」

「先生こそ……」

「ん……!?」

「失礼しました」

「え?」

 里沙一人分かっていない。わたしも、そのときは分かっていなかった。

「まあ、やっぱり大きな変更はできませんね」

 峰岸先輩が結論づけて、三人が倉庫から出てきた。

「ち、アイロンきれちゃった」

 イトちゃんが舌打ちした。

「ボロだからな」

 と、中田先輩。

「それ、去年アンプ買ったポイントで買ったから、まだ新しいよ」

 カト(加藤)ちゃん先輩。

「電源じゃないのか……」

 山埼先輩が呟いた。

「……なんか、焦げ臭くないか?」

 ミヤ(宮里)ちゃん先輩が、コードをたどって倉庫へ……。

 ストップモーションをかけたような間があった。

「火事だよおおおお!」

 ミヤちゃん先輩が駆け出してきた。

「え!?」

 みんなが同じリアクションをした。

「ヌリカベ一号が、上の方から燃えてます!」
「あ、あそこ、天井の配線が垂れ下がっていたんだ!」

 山埼先輩が思い出した。

「だれか、火災報知器を鳴らして! あとの者は消火器集めて!」

 マリ先生が叫ぶ!

「危険です。火のまわりが早い!」

 誰かが叫んだ。もう倉庫の軒端から白い煙が吹き出しかけている。

 ヂリリリリリリリ!!

 火災報知器が鳴った!

「あ、わたしの、潤香先輩の衣装!?」

 自分が叫んでいるようには思えなかった。頭に病院で見た潤香先輩の姿が浮かび、どうしても、あの衣装だけは取りに行け! と、悪魔だか神さまだかが命じている。

「だめ、もう間に合わないよ!」「やめとけ!」「まどか!」「まどかっ!」

 そんな声々が後ろに聞こえた。大丈夫、衣装ケースは入り口の近く。すぐに戻れば……。

 うそ……定位置に衣装ケースがない!? 

 そうだ、修理に出す照明器具を前に持ってきたんで、衣装ケースは奥の方だ……今なら、まだ間に合う。火はまだ天井の方を舐めているだけだ。体の方が先に動いた。とっさの判断。いや、反射行動。

 衣装は一まとめに袋に入れておいたのですぐに分かった。すぐにとって返そうと、スカートひらり……とはいかなかった。だれか悪魔みたいなのが、わたしのスカートを掴んでいる。ク、クソ……少し冷静になって見ると、スカートの端っこがパネルの角にひっかかっているのが分かった。

 他のスタッフのようにジャージに着替えていないことが悔やまれた。わたしは衣装整理の仕事だったんで、制服のまんま。

 普段だったら、こんなものすぐに外せる。でも、今のわたしってパニクってる。いっそスカート脱いじゃえば、あっさり逃げられるんだろうけど、こんなとこで半端な乙女心が邪魔をする……ワッ、パネルがまとまってわたしの上に落ちてきた! もう火は、立っていたときの頭の高さほどのところにきている! もうスカートを脱ぐどころか身動きもとれない。

「ゲホ、ゲホ、ゲホ……」

 息が苦しい……かろうじて、首にかけたタオルで口を押さえる。朝、しこたま汗を拭いて、ヨダレや鼻水も拭った。その自分の匂いが懐かしい……遠くでみんなが呼んでいる……背中が熱くなってきた。パネルに火がまわったようだ……かすむ意識……ごめんなさい、潤香先輩。先輩の衣装……燃えちゃいます……。

 その時、急に背中の重しがとれて、体が軽くなったような気がした……これって、幽体離脱……。

 わたし死ぬんだ……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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魔法少女マヂカ・296『ポチョムキン村・5・広場のお祭り騒ぎ』

2022-11-13 11:08:28 | 小説

魔法少女マヂカ・296

『ポチョムキン村・5・広場のお祭り騒ぎ語り手:マヂカ 

 

 

 コクンと頷いて、ほんの一瞬エリザはフリーズした。

 

 ほんとうに一瞬の事で、エリザはすぐに、またステップを踏み始めた。

 印象としてはループしている。

 大事な秘密を明かして、次の行動に移ろうとして躊躇っている。そんな感じだ。

―― なにかあるのか? ――

 悟嬢が目だけで聞いてくる。

 リズムをとって、エリザのダンスに手拍子を打って合わせてはいるが、中国有数の魔法少女。この桃源郷の底にあるものに気付いて、どうしたものかと思っているんだ。

 エリザのステップが、微妙にコマ落としになってきている。

―― フレームレートが下がってきたみたいな感じだな ――

 スペックの低いゲームパソコンで高精細で動きの激しいVRゲームをやっている感じ。

 144ほどのフレームレートが72に落ちてしまったような……遠景の景色も微かにエッジが立ってきている。アンチエイリアスの値が下がってきたみたいな、テクスチャのクオリティーが落ちてきたような気がする。

「エリザ、村の広場に行ってみないか。どうせ踊るなら、みんなと一緒の方がいいだろ」

 思い切って提案してみた。

「ああ、それがいい。あたしも爺ちゃん譲りで賑やかなのは好きだし」

 悟嬢も賛成してくれて、エリザともどもリズムを取りながら広場に向かった。

 

 広場は、もう村人たちが集まってお祭り騒ぎになっていた。

 

 広場の真ん中には、太鼓とリュートとバイオリンの村人が、とても三人だけじゃないだろうという演奏をして、その周りを村人たちが二重の輪になって踊っている。

 わたしたちの姿に気付くと、村人たちは輪の一角を開いて招じ入れてくれる。

 フレームレートは、さらに落ちて36くらい、激しく踊ると分身の術を使ったような残像が残る。

―― プリンセス、ご決心を(^_^;) ――

―― エリザさま、これを逃せば、次はいつか分かりません ――

―― うん、ありがとう ――

―― リアルにもどりましょう ――

―― ここに居れば楽ですが、リアルは、もう収穫の時期です ――

―― 痩せた畑ですが、放ってはおけません ――

―― このままではフリーズしてしまいます ――

―― 初期化されて一からやり直しになってしまいます ――

―― 侯爵が戻ってくる前に ――

―― 女帝がお気づきになる前に ――

―― エリザベートさま! ――

―― プリンセス! ――

―― みんな、みんな、ありがとう! エリザは決心したわ! ――

 

 シュリーーーーン!

 

 急ブレーキがかかって逆回転が始まったような嫌な音がした。

 フレームレートは、さらに下がって一桁に落ちると、遠景の方からテクスチャのレベルが落ちて、書割っぽくなって、さらには、消え落ちるものも現れてきた。

 村人たちもフリーズして、パラパラと姿を消していき、ついには、僅かなオブジェクトを残して、わたしたちの他には教会があったあたりに気を失ったミーシャが倒れているだけになった。

「今のうち! 手遅れになる前に!」

「「了解!」」

 ちぎるように応え、悟嬢と二人跳躍して、畳一畳ほどになった床に倒れているミーシャを抱えて走る!

 

 グオオオオオオオオ!

 

 ゴジラのような咆哮!

 咆哮の圧は後ろからやってくる。見ずとも分かる、ポチョムキンだ。

 エリザの裏切りに怒髪天を突いた状態なんだろう。

 ここはひたすら逃げるしかない。

「この孫悟嬢が時間を稼ぐ、マジカはミーシャを、クマさんを逃がせ!」

「おまえは?」

「大丈夫! 爺ちゃんから受け継いだ斉天大聖の称号は伊達じゃない、当分は令和の日本には来れないだろうがね。ゆっくり休んで、またがんばろうぜ!」

 そう言うと、悟嬢は髪の毛を毟って一個中隊ほどのミニ悟嬢隊を作って「セーーイッ!」と渾身の掛け声とともにポチョムキンに打ちかかって行った。

「悟嬢ーーーーーーーーっ!!」

 ビューーーー!

 悟嬢隊の勢いがクマさんを抱いたわたしを前に突き飛ばす。

 しかし、加速がついたのはいいが、どうやって、このフェイクの亜空間から抜け出すんだ?

「う」

 右の中指が締め付けられる。

 見ると、悟嬢からもらった指輪が光り出している。

「そうか!」

 インスピレーションが湧く。

 指輪を抜いて前方に掲げると、一条のビームが伸びて亜空間に台風の目のような穴を穿った。

 チリチリチリ……

 指輪は微小な火花を発しながら痩せていく。

 考えている暇はない。

 クマさんの頭を庇うように体を丸くして穴の真芯に飛び込んだ! 

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・23『地下鉄で三駅行ったY病院』

2022-11-13 06:49:44 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

23『地下鉄で三駅行ったY病院』  

 

 


「そりゃ、君たちの気持ちも分かるがね……」

 予想通り、教頭先生はバーコードの頭を叩いた。教頭先生が機嫌のいいときのクセなのよね。

「でしょでしょ、わたしたちも深夜帰宅しなくてすむし。いいえ、わたしたちはかまわないんですけど、このごろ、ここから青山にかけて変質者が出るって噂ですし……親が心配しますでしょ。それに、生徒は、まだだれもお見舞いに行ってないんです。先輩のご両親もきっと喜んでくださると思うんです。なにより、わたしたち先輩のことが心配で、いてもたってもいられないんです、先生!」

「「そうなんです!」」

 里沙と夏鈴が合いの手を入れる。

「よし、君たちの先輩を思う気持ちは、まことに麗しい。ぜひ行ってきなさい。付き添いは……」

「「「貴崎先生が空いていらっしゃいます!」」」

「ああ、それはいい。貴崎先生は芹沢さんにとっても君たちにとっても顧問の先生だ!」

 職員室の向こうで、マリ先生が怖い顔をしている。そんなことは意に介さず……。

「ちょっと、すみません貴崎先生!」

 教頭先生が、頭を叩きながらマリ先生を呼んだ。


「こんな手、二度と使うんじゃないわよ」

 校門を出ると、マリ先生は横目で睨んできた。

 ちょっと怖いかも。

「でも、教頭さんに直訴するなんて、だれが考えたの?」

 二人が、黙ってわたしの顔を見た。

「まどか~!」

「すみません。でも、スケジュールなんか考えると……あ、そもそも考え出したのは里沙」

「分かってるわよ、最初に頼み込んできたんだから。でも、こんな手を思いつくとはねぇ」

 声は怒っていたけど、踏みしめるプラタナスの枯れ葉は陽気な音をたてていた。


 潤香先輩が入院している病院は、地下鉄で三駅行ったY病院だ。


 駅を出ると、青空といわし雲のコントラストが美しく。まだ少し先の冬を予感させている。

 面会時間には間があったけど、ナースステーションで訳を言うと笑顔で通してくれた。

 マリ先生は集中治療室を覗いたが、看護師のオネエサンが、今朝から一般の個室に移ったと教えてくれた。


 ショックだった。


 あのきれいな髪を全部剃られ、包帯にネットを被せられた頭。

 点滴の他にも、体のあちこちに繋がれたチュ-ブ。かたわらでピコピコいってる機械。

 なによりも、あんなに活発にきらきら光っていた目が閉じられたまま……これは、わたしの憧れ。希望の光だった潤香先輩なんかじゃない……そう信じたかった。

「どうも、わざわざすみません。姉の紀香です」

 潤香先輩によく似たお姉さんが振り返った。少し疲れた顔ではあったけど、一瞬で元気な顔を作って挨拶された。

「ほんとうに、今回は申し訳ないことをいたして……」

「もうおっしゃらないでください。先生のお気持ちは母からもよく聞いています。潤香も子どもじゃありません。自分が承知で参加したんですから。それに、母も申し上げたと思うんですけど、原因は、まだはっきりしていないんですから」

「ありがとうございます。でも、わたしも潤香さんの熱意に甘えていたところもあると思います」

「先生、そこまでにしてください。それ以上は大人の発言ですから……先生のお気持ちとしてだけ、承っておきます」

「はい、ありがとうございます。あ、この子たち後輩の……」

「えと、まどかさんに、里沙さん。あなたはオチャメな夏鈴さんね」

「「「え……!?」」」

 同じ感嘆詞が、三人同時に出た。

「いつも潤香から聞かされてました。潤香、机の上にクラブの集合写真置いてるんですよ。ほらこれ」

 枕許の小型ロッカーの上に乗った額縁入りの写真を示してくださった。その写真はアクリルのカバーの上から、小さな字で、部員全員の名前が書かれていた。

「先輩……(;▽;)」

 夏鈴が泣き出した。

「泣かないでよ、夏鈴ちゃん。意識がもどった時に泣いていたら、潤香が驚いちゃうから」

「意識もどるんですか!」

 頭のてっぺんから声が出てしまった。

「はい、お医者さまが、そろそろだっておっしゃってました」

 ホッとした。

 みんなで顔を見かわす。

 やっぱりお見舞いに来てよかった。

 しかし窓から見えるスカイツリーが心に刺さったトゲのように感じたのは気のせいだろうか。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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くノ一その一今のうち・26『百地流忍法骨語&闇着替』

2022-11-12 16:49:07 | 小説3

くノ一その一今のうち

26『百地流忍法骨語&闇着替』 

 

 

 ―― いま下りたソノッチは金持ちだ ――

 

 ヘリコプターのドアを閉めながら、もう一人のわたしが口の形で言う。

―― なんで化けてるんですか? で、あなたは? ――

 言いながら指さすと、そいつはニヤリと笑って『わたしだよ』と忍び語りで応える。

 おかしい、この騒音の中だ、いくら忍び語りでも聞こえるわけがない。

『一種の骨伝導さ』

 見ると、そいつは、わたしが座っているシートのアングルを掴んでいる。離すと、とたんに口パクになる。

『百地流忍法、骨語り』

―― 百地流……え!? ――

 見破ったわけじゃない、そいつの顔が、一瞬で百地社長になったんだ!

『いやあ、歳だな、化けているのは三時間が限度だ』

―― 術を解くなら、全部解いてください! 首だけ社長というのは気持ち悪いです! ――

『解いてもいいが、この服を着たままだと悲惨なことになる』

―― う…… ――

 たしかに、わたしに化けているからリコリコの衣装のままだとパッツンパッツン……術を解いたら……想像もしたくない(^_^;)。

―― でも、なんで? ハローウィンはとっくに終わってるでしょ ――

『大きな仕事でな、わしも出ざるをえなかった』

―― わたしに化けるのが大きな仕事なんですか? ――

『さっきまで、金持ちと二人、湘南であばれていたところだ。金持ちは経理の仕事が残ってるんで、いったん戻ってきたところだ』

―― で、今度は、どこへ? ――

『詳しくは言えんが、外国だ』

―― 外国……このヘリコプターで? ――

 乗り物には詳しくないけど、ヘリコプターでは無理だろ、オスプレイでも無理だと思う……どこかで乗り換えなきゃ。

『そう、乗り換える……ほら、見えてきた』

―― え、もう? ――

 社長が指差したキャノピーの斜め下には都内で唯一……だと思うんだけど、米軍基地の滑走路が見えてきている。

『あそこで乗り換えて、某国に飛び立つ。心配するな、月曜の朝には帰って来られる』

―― 某国って……外国でしょ? 学校に行く用意しかしてないし、制服のままだし ――

『用意ならできている、ほら……』

―― え……!?……いつの間に!? ――

 気が付くと、社長と同じリコリコの制服を着ている! カバンも変わってるし!

『身に着けていたものは、こっちのカートの中だ』

―― 着替えた憶え無いんですけど! ――

『百地流忍法闇着替……ニンニン』

―― (#꒪ȏ꒪#) ――

 意識を肌感覚にすると、ほんとうに身に着けていたもの全てが変わっているではないか……恐るべし百地流忍法!

『まあ、僕も付いていくから(^_^;)』

 別の声がしたかと思うと、背中を向けていたパイロットが振り返る。

 パイロットは、わたしに化けた嫁持ちさんだった……。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

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宇宙戦艦三笠7[思い出エナジー・1]

2022-11-12 08:35:26 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

8[思い出エナジー・2]   

 

 

 疾風(高機動車)の前方30メートルほどのところに、チャドル姿の女性が倒れこんだ。

 隊長は、すぐ全車両に停止を命じた。

「隊長、自分が見てきます」

 山本准尉は、隊長と目が合ったのを了解と介して疾風を飛び出した。自爆テロの可能性があるので、うかつに大人数で救助に向かうわけには行かなかった。


「きみ、大丈夫か?」


 姿勢を低くし、二メートルほど離れたところから、山本准尉は女に声を掛けた。爆発を警戒してのことでは無かった。そこここに現地住民の目がある。異民族の男が女性の体に触れるのははばかられるのだ。

「ゲリラに捕まって、やっと逃げてきました。日本の兵隊さんですね……助けてください」

 チャドルから、そこだけ見せた顔は、まだ幼さが残っていた。


「……分かった。君の村まで送ってあげよう」


 山本は、優しく、でも決意の籠った声で少女に応えた。

 山本は、いったん疾風に戻ると装具を解いて、隊長に一言二言声を掛け、様子を見ていた現地のオッサンから、ポンコツのトヨタをオッサンの収入半年分ほどの金を渡して借りた。オッサンは喜んだが、目で「気をつけろ」と言っていた。それには気づかないふりをして、少女に荷台に乗れと言った。座席に座らせるわけにはいかない。イスラムの戒律では、男と女が同じ車に乗ることはできない。荷台に乗せるのが限界である。

「あたし、体の具合が悪い。日本のお医者さんに診てもらえませんか?」

「あいにくだが、男の医者しかいない。あとで国連のキャンプに連れて行ってあげよう。それまで我慢だ」

 山本が、目で合図すると、自衛隊の車列は作業現場へと移動し始めた。山本は長い敬礼で車列を見送った。少女に二本ある水筒の一本を渡して、トヨタを発進させた。

「どうして停まるの?」

 少女は、少しこわばった声で山本に聞いた。

「サラート(礼拝)の時間だろ。専用の絨毯はないけど、これで我慢してくれ」

 山本は、毛布を渡してやり、コンパスでメッカの方角を探し、コンパスの針を少女に見せた。少女は毛布に跪きサラートを始めた。山本は異教徒なので、少女の後ろで跪いて畏敬の念を示した。

「どうもありがとう」

 サラートが終わると、少女は毛布を折りたたんで山本に返した。

「信心は大事にしなきゃな……よかったら、そのチャドルの下の物騒な物も渡してもらえるとありがたいんだけど」

 少女の目がこわばった。

「これを渡したら、村のみんなが殺される……」

 少女の手がわずかに動いた。

「ここで、オレを道連れにしても、日本の兵隊を殺したことにはならない。君を送る前に隊長に辞表を出してある。だから、オレを殺しても、ただの日本人のオッサンを一人殺したことにしかならない。後ろを向いているから、その間に外しなさい」

 山本は、無防備に背中を向けた。

 戸惑うような間があって、衣擦れの音と、なにか重いベルトのようなものを外す音がした。

「ありがとう。君も村の人たちも殺させやしないよ」

 それから、山本は、少女を村に送り届け、トーブとタギーヤ(イスラムの男性の衣装)を借りた。

 山本は、少女に地図を見せた時、二か所に目をやったことに気づいていた。一か所は自分の村で、もう一か所は、それまで彼女が居たところだろうと見当をつけた。

 案の定、少女が見ていたところは岩場が続く丘の裾野で、声がかかる前に銃弾が飛んできた。ゲリラの前進基地のようだ。車を降りると「手を挙げて、こっちに来い」と言われた。

「隊長、こいつ体に爆弾を巻き付けている!」

 身体検査をした手下が隊長に言った。

「スイッチは、この手の中だ。動くんじゃない! 血を流さずに話し合おうじゃないか」

 そのあと二言三言やり取りがあった後もみ合いになった。

 そして、もつれ合い倒れたショックで、自爆スイッチがオンになり、山本は10人あまりのゲリラを道ずれに死んでしまった。

 日本のメディアは、現地で自衛隊員が除隊したことと、山本が民間人として死んだことを別々に報道した。当然殉職とは認められなかった。


 そして、山本が日本に残した一人娘は、横須賀の海上自衛隊の親友に預けられた。


「だから、あたしの本当の苗字は山本っていうんだ……」

 長い物語を語り終え、天音はため息をついた。

 三笠は速度を上げて遼寧とヴィクトリーを追い越した……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・22『大阪に転校したはるかちゃん』

2022-11-12 06:35:36 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

22『大阪に転校したはるかちゃん』  

 

 

 まあ、帰ってから聞いてみよう……ぐらいの気持ちで家を出た。

 で、あとは、みなさんご存じのような波瀾万丈な一日。

 帰ったら、お風呂だけ入ってバタンキュー。

 で、今日は朝からスカートひらり、ひらめかせっぱなし。

 お父さんの「も」にかすかなインスピレーション感じながら、中味はタイトルに『大阪に転校したはるかちゃん』と、あるだけで、あとははるかちゃんとの思い出ばっかし。

 提出すると、プッと吹きだして、先生はわたしの目を見た。

「あ……いけませんでした?」

「いいわよ、文章が生きてる。仲さん、あなた、はるかちゃんて子とスカートめくって遊んでたの?」

 先生は地声が大きい。クラス中に笑い声が満ちた。

「違います!」

「だって」

「次の行を読んでください!」

「アハハ……」

 声大きいって! クラスのみんなの手が止まってしまった。

「な~る……みんな、続きがあるからねぇ。そうやって、いかにスカートをカッコヨクひらめかせるか研究してたんだって。はい、名誉回復」

 ……してないって。席にもどるわたしを、みんなは珍獣を見るような目で見てるよ(^_^;)。

 

 そうやって、恥かきの一時間目が終わって、わたしはスマホのメールをチェックした。昨日からのドタバタで、丸一日スマホを見ていなっかた。

 

「あ!」

 思わず声が出て、わたしは自分の口を押さえた。運良く、教室の喧噪にかき消されて、だれも気づかなかった。

 アイツからメールがきていた。

 一年ぶりに……。

 そこには、二つのメッセージがあった。

―― ありがとう、勇気と元気。潤香さんお大事に。

 二十字きっかりの短いメッセの中に、わたしへの思いやりと潤香先輩への気遣いがあった。

 万感の思いがこみ上げてきた……そうだ、潤香先輩。

 そこに、里沙と夏鈴が割り込んできて、わたしは慌ててスマホをオフにした。

「今日、三四時間目も自習だよ!」

 夏鈴が嬉しそうに寄ってきた。

「音楽の先生、インフルエンザだって」

 里沙が続けた。

「で、わたし考えたの……!」

 夏鈴が隣の席を引き寄せて顔を寄せてくる。

「な、なによ(^_^;)?」

 思わず、のけぞった。

「音楽の自習って、ミュージカルのDVD観るだけらしいからさぁ」

 そりゃ、急場のことだからそんなとこだろう。

「で、考えたの。自習時間と昼休み利用して潤香先輩のお見舞いにいけないかって!」

「そんなことできんの?」

「生徒だけじゃ無理だけど、先生が引率ってことなら」

 里沙がスマホをいじりだした。

「そんな都合のいい先生っている?」

「……いるのよね。マリ先生空いてる」

「里沙、先生の時間割知ってんの?」

「うん、担任とマリ先生のだけだけどね。なんかあったときのために。今日は放課後部室と倉庫の整理じゃん。それからお見舞いに行ったら夜になっちゃう」

「三日続けて深夜帰宅って、親がね……」

「でも、そんなお願い通ると思う? マリ先生、そのへんのケジメきびしいよ」

「うう……問題は、そこなのよねえ(-_-;)」

 里沙が爪をかんだ。

「……さっき、マリ先生に言ったらニベもなかった」

 二人とも、アイデアとか情報管理はいいんだけどね……。

「うん……わたしに、いい考えがある!」

 三人は、エサをばらまかれて首を寄せた鳩のように首を寄せた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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鳴かぬなら 信長転生記 93『リュドミラの胡旋舞』

2022-11-11 15:02:41 | ノベル2

ら 信長転生記

93『リュドミラの胡旋舞』織部 

 

 

 似て非なるものだ!

 

 怒っているのかと思った。

 広場の胡旋女たちを目に止めると、リュドミラは吐き捨てるように言った。

「コサックダンスはもっと激しい! もっと速い! もっとカッコいい!」

「あんまり大きな声で言うな、ここは三国志なんだよ」

「これは、カザフスタンやタジキスタンの温い踊りだ!」

「そ、そんな怒ることはないだろ」

「怒ってるんじゃない、血が騒いでいるんだ!」

「そ、そうなのか(^_^;)?」

 返事の代わりにリュドミラはリズムを取り出した。

「……タンタタ タンタタ タンタタ タンタタ……うん、リズムはいっしょだ……タンタタ! タンタタ! タンタタ! タンタタ!!」

 そして、ごく自然に胡旋女たちの中に入って行くと、胡旋女たちの倍以上に激しく大きく踊り出した!

 胡旋女たちが一回転する間に、リュドミラは二回転する。

 そして五回に一回は高く大きくジャンプして空中で数回転して着地し、次には体を斜めに旋回させ、まるでベーゴマの親分がヘボのベーゴマを弾き飛ばすように胡旋女たちを駆逐して、広場を独壇場にしてしまった。

 胡旋女たちも、それを不快に感じたり萎縮したりすることなく、手を叩いてリズムをとり、自然にリュドミラのバックダンサーになっていった。

 楽団のおっさんたちも、曲を自然に激しいものに変えていく。それまでニ三重だった観客は、その外側に一重二重と増えていき、広場を埋め尽くしそうな勢いになってきた。

 それにつれ、リュドミラのダンスは、さらに激しく大きくなり、前転、バク転、二回宙返りの前転、バク転、さらには体を大の字に開いて、そのまま跳躍して、空中で大の字のまま手足の先をタッチさせるという素人目にも男のダンスだろうというものまで披露する。

 旋回の大きさ激しさ、跳躍の高さ、まるで、窯の中で茶碗を焼く炎の精が顕現したようだ。

 

 パチパチパチパチパチパチ! ブラボー! パチパチパチパチパチパチ! ブラボー! ブラボー!

 

 賞賛の嵐になってしまった!

「これはコサックダンスだな!」

 ドラムをたたいていたオヤジが頬っぺたを真っ赤かにして寄ってきた。

「いやあ、親方から噂には聞いていたがな、なんせカスピ海の向こうだ。漢人のまがい物は見たことがあるが本物は初めてだ! 明日から、いや、これからでも俺たちといっしょにやってみないか!?」

「え、ええ、わ、わたしが!?」

「いきなり倍のギャラは出せないが、なあに、あんたの腕なら、すぐに投げ銭は倍になるだろ。そうしたら、このくらいは出してやる。衣装も用意しておく、明日から来てくれ!」

 オヤジは袖の下で相場の三倍ほどの金額を提示した。

「え、あ、ええと……(#◎o◎#)」

 

 その場の勢いで、つい本気になってしまったが、終わってしまうと元の無口な女兵士。俯いてワタワタするばかりだ。

 

「その胡旋舞、楽団ごと雇います」

 いつの間にか江南の宮仕えという感じの女が寄って来ていて、笑顔で話しを持ちかけてきた。

 扇の下で示している金額はオヤジの五割り増しだった!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・21『……と言えば大阪だ』

2022-11-11 06:42:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

21『……と言えば大阪だ』  

 

 

 課題は、社会科(正式には地歴公民科っていうんだけど、だれも、そんな長ったらしい名前で呼ぶ者はいないよ)共通のもので、日本の白地図に都道府県名を書きなさいという小学生レベル。ただし、貴崎先生……(わたしまで改まっちゃった)のは――好きな道府県を(東京は地元なので除く)一つ選び、思うところを八百字以内にまとめて書くこと――なのよ。

 五分ほどで道府県名を書き終えて、考えた……気になる道府県……と言えば大阪だ。正確に言えば、大阪に転校しちゃった三軒隣のはるかちゃん。

 一昨日、なぜか、お父さん朝からイソイソと出かけていった。

 わたしはコンクールの初日だったので気にもとめなかったんだけど。フェリペから帰ってみると、南千住の駅でいっしょになった。

 なぜだか、はるかちゃんのお父さんとその奥さんも一緒だ。

 奥さんてのは、はるかちゃんがお母さんにくっついて、大阪に行ったあと一緒になった新しい奥さん。つい先月入籍して、ご挨拶に来られた。

 玄関で声がするんで、ヒョイと覗いたら。奥さんてのは、おじさんと一緒に今の通販会社を立ち上げた女の人。

 あか抜けて、どこかの社長秘書って感じ。あとで柳井のオイチャンが教えてくれた……。

 あの人は、はるかちゃんのお父さんが、まだベンチャー企業の社長をやっていたころの本物の秘書さん……なんだって。

 ドラマみたいなことが、ついご近所のそれも幼なじみのお家で起こったんでビックリ(゚ロ゚)!

 でも他人様の家庭事情にあれこれ言うのは、下町のシキタリに反する。と、柳井のオイチャンは釘を刺すのは忘れなかったのよね。だから、興味津々だったけど普通にご挨拶。

 それが、夜中の十時過ぎ。お父さんといっしょに上機嫌で南千住の駅にいるんだから、あらためてビックリ( ゚д゚ )!
 そいで、お父さん。改札出るとき、切符を出そうとしてポケットから落としたレシート、なにげに拾ったら大阪のコンビニだった……。

 ピンときた! でもお父さんから見れば、まだまだガキンチョ。わたしから聞くわけにはいかない。

 三人とも上機嫌なんで、なにか言ってくれるかな……と、期待したところで、はるかちゃんのお父さんのスマホが鳴った。

 歩きながらスマホと話していたお父さんの足が止まって、うちのお父さんが寄っていった。

「え……」

 という声がしたきり三人は黙ってしまった。

 昨日の本番の朝、出かけようとしたら、お父さんの方から声をかけてきた。

「まどか……」

「なに、お父さん?」

「あ……いや、なんでもない」

「……はるかちゃんになにかあったの?」

「そんなんじゃねえよ」

「……へんなの」

「おめえも、今日は本番だろ。その他大勢だろうけど……ま、がんばれよ」

 それだけ言うと、つっかけの音をさせて工場の方へ行ってしまった。

―― も、って言ったわよね。おとうさん「おめえも」……も ――

 まあ、帰ってから聞いてみよう……ぐらいの気持ちで家を出た。で、あとは、みなさんご存じのような波瀾万丈な一日。

 帰ったら、お風呂だけ入って、バタンキュー。

 で、今日は朝からスカートひらり、ひらめかせっぱなし。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

 

 

 

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せやさかい・360『皆既月食と呪文』

2022-11-10 15:35:48 | ノベル

・360

『皆既月食と呪文』さくら    

 

 

 ペコちゃんがすべった。

 

 と言っても、なにかの試験に落ちたわけやないし、バナナの皮を踏んだわけでもない。

 ベテランの芸人さんが、ここ一発のギャグをとばして反応が薄かった。こういうのを「スベった!」って言うでしょ?

 その「スベった!」ですわ。

 

「昨日の皆既月食はすごかったよねえ(^▽^)/」

 

 授業の冒頭でかましたんやけど、「あ、ああ……」いう反応がチラホラ。あとは「え、それなに?」という反応。

「あ、いや、だから昨日は皆既月食だったでしょうが」

 言いながら、黒板に『皆既月食』と大きく書いた。

―― え、みんなで月を食べる? ――

 そういうスカタンもちらほら。

 なんちゅうか、それがどないしたいう感じ。

「ほら、太陽と地球と月が一直線に並んで、月が地球の陰に入って見えなくなることを言うんだよ!」

 教師の性やろね、ペコちゃんは黒板に図を描いて、皆既月食の仕組みを説明。

―― ああ、なるほど ――

 という空気にはなるねんけど、もう一つ感動が薄い。

 たぶん、みんなテレビ見いひんし、新聞も読まへんからやと思う。

 それに日食やったら、夜みたいに暗くなるけど、月食は、わざわざ空見てなら分からへんしね。

「昔はね、月食を見てしまったら死んでしまうとか運が悪くなるとか言って嫌われたんだよ。天皇さんなんか、月食の日は、月が出てくる前から籠ったりして、大変だったんだよ」

 うんうん、なるほど……

 やっぱり反応が薄い。

「えと、英語では……」

「total lunar eclipse(トータル ルナ― エクリプス)です」

 ソニーが答える。

「そうそう、そうだよね。ヤマセンブルグとかじゃ言い伝えとかあるのかなあ」

「はい、ヨーロッパでも月食は不吉なものだとされていましたね。王さまの力が弱まるとされて、月食の日は、一日べつの人間を王さまとして立て、本物の王さまは一般人の格好をして隠れたりしました。月食が終わったら出てくるんですけどね」

「え、影武者?」

 聞いたのはあたし。

「影武者はどうなるの?」

 メグリンが聞く。

 他の子ぉらは――それでそれでぇ?――いう子らと、悪い答え(殺されるとか)を予感して眉を顰めたりしてる。

「居なくなります」

 え?

 ちょっと斜め下の答えやったんで、みんなは俄然興味を持つ。

「居なくなるとは?」

「居なくなるんです」

「せやから、どう居なくなるのん?」

「それは聞いてはいけないんです。災いが起こります……」

 ちょっと、シンとしてきた。

 ソニーは――ちょっとまずかったか――いう顔をして、話を続けた。

「他にも、皆既月食の日に呪いをかけるとよく効くと言われています」

「ええ、呪いって、どんなん!?」

「両手をこんな風にして……ヘックマリオッサ! エイ!」

 ちょっと雰囲気。

「しまった、ほんとにかけてしまった! みんな、ドアと窓を開けて! 呪いを逃がすから!」

 ヒエ!

 あたしが腰を浮かすと、他のみんなにも伝染って、いっせいにドアと窓を開ける。

 ガラガラガラ!

「サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ!」

 腕を大きく払うような仕草をしながら呪文を唱えるソニー!

 大きく目を見開いたかと思うと、すぐに目を細めて、低く呪文を唱え続け、教室はシーーンと静まり返ってしまう。

「……と、まあ、こんな感じですね。雰囲気楽しんでいただけたら幸いです(^▽^)/」

 パチパチパチ!

 率先して拍手。みんなもそれにつられて拍手して、やっと平常の授業になった。

 

 ほんまは、ソフィーとソニーがもう一チーム作って文化祭の劇をする話をしたかったんやけど、それは次にね。

 

「いやあ、さっきの魔法は真に迫ってたねぇ!」

 帰りの昇降口でソニーを褒めたたえると、階段を怖い顔してソフィーが下りてきた。

 で、なんやら英語で言い合いしたあと、二人で魔法の杖を持って走って行った。

「取りこぼしの魔法があるみたいよ……」

 頼子先輩が渋い顔をして立っておりました(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

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