大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・34『ここからやり直してみよう』

2022-11-24 07:00:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

34『ここからやり直してみよう』  

 

 

 明くる日、かかりつけのお医者さんに行った。

「もう大丈夫だ。明日……は、土曜か。月曜から学校行っていいよ」

 先生が、狸のような体をねじ曲げ、カレンダーを見ながら言った。

「あの……」

 と、カーディガンを着ながらわたし。

「うん?」

 カルテに書き込みしながら背中で応える先生。

「明日、出かけてもいいですか?」

「デートかぁ?」

 と、カルテをナースのオネエサンに渡しながら先生。

「そ、そんなんじゃないですよ!」

 ウフフ

 ナースのオネエサンが笑う。

「ま、あらかわ遊園ぐらいにしときな……日が落ちる前には帰ること。で……」

「手洗いとウガイ!」

「まどかも、そんな歳になったんだ……」

 わたしの方に向き直った拍子にハデにオナラをした。

「ワハハハ、歳くうと緩んできちまってな……窓開けようか。昼に食った芋がよくなかったかな」

 先生は、お尻を掻きながら窓を開けた。思わず笑ってしまう。

 このユーモラスに騙されて、ガキンチョのころ、よく注射をされた。

「アハハ」

 と、笑っているうちに、ブスリとやられる。油断のならない狸先生だ。

「あらかわ遊園に行くんだったら、一つ教えおいてやろう。まどかもジンちゃん(うちのお父さん)に似て雰囲気と行きがかりってのに弱えからな……」

 老眼鏡をずらして、おまじないを教えてくれた。

 思わず吹きだした(灬º 艸º灬)。

 狸先生は、いつもこんな調子。昔ケンカ別れしかけたお父さんとお母さんを、こんなノリでヨリを戻したこともあるそうだ。

 ま、そのお陰で、わたしがこの世に生まれたってことでもあるんだけど。

 帰りに、しみじみとなじみの看板に目をやる。

――内科、小児科。薮医院……と、診療室の開けた窓からハデなくしゃみが聞こえた。


 狸先生に言われたからじゃない。

 ここからやり直してみようと思ったのさ。


 床上げ祝いにもらったシュシュでポニーテール。ピンクのネールカラー、サロペットスカートの胸元には紙ヒコーキのブロ-チ。そんな細やかな、ファッションへの気遣いにあいつは気づきもしない。

「思ったより元気そうじゃん」

 と……間接話法ながら一応の成果はある。病み上がりと思われるのヤだったから。

 あらかわ遊園、観覧車の前。むろんあのときのクソガキはいない。

「ここで、まどかが『キミ』なんて言うから」

 ヤツ……忠クンが口を尖らせた。

「飛躍しすぎだったし」

「観覧車が回り終えるまでに言わなきゃと思っちゃってさ……」

「で、精一杯アタマ回転させて出てきたのが、あのストレートなんだよね」

「言ってくれんなよ……」

「わたしもゴンドラが着くまでに答えなきゃって……この観覧車、速いのよ。返事考えるのには」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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せやさかい・362『文化祭は明日になりました』

2022-11-23 11:22:46 | ノベル

・362

『文化祭は明日になりました』さくら    

 

 

 今日は朝から文化祭!

 

 ……のハズやったんやけど、平常通りの水曜日の授業です。

 なんでかっちゅうと、この雨ですわ。

 週間予報で、今日の勤労感謝の日ぃだけが高確率で雨やいうのは、先週の土曜日には分かってた。

 先週の土曜と言うと、マスコミまで呼んで、華々しく公開リハーサルをやった日。

 陣頭指揮と演出でメッチャ忙しいはずの前生徒会長の百武真鈴(本名の田中真央よりも通りがええ)は、それを見越して秘密裏に学校と交渉してたんやて!

「晴れていなければ企画は失敗です! 23日は90%の確率で雨になります、どうか24日に変更してください!」

 校長、理事長、組合の分会長、PTA会長、同窓会長、生徒会顧問、三年生学年主任、学食のオーナーなんかに働きかけてた。

 なんせ、三年生には最初で最後の文化祭、これがポシャッタら、留年してもっかい三年生をやらならあかん。

 で、20日の月曜日には24日への延長が決まって、予測通りに雨が降ってるというわけです。

 

「ちょっとぉ、いちおう授業なんだよ、みんな!」

 

 ペコちゃんが、バサリと教科書を教卓に叩きつけてキレた。

「午後からは、完全に文化祭準備できるんだから、集中しなさい!」

 ペコちゃんいうのは愛称で、本名は月島さやか。担任で現社の先生。

 愛称の通り、笑うとペコちゃんそっくり。

 明日の本番に向けて、いろいろ細かい作業やらやり残しがあるんですわ。衣装のフリフリつけたり、チラシを用意したり、食券を束にしてホッチキスで止めたり、ダンスのフリを確認したり。

 クラスの半分くらいが、そういうのんを机の下やら教科書で隠したりしながらやってる。

 ガサゴソガサゴソ……

 お嬢様学校やさかい、一応は片づけるんやけど、ぜんぜん授業には身ぃ入らへん。

 ペコちゃんいうのんは、笑顔の神さまみたいなもんやと思う。

 えべっさん(戎さん)、大黒さん、ビリケンさん、ドラえもん……デフォルトが笑顔のキャラはいっぱいあるけど、ペコちゃんは独特やと思う。

 ペコちゃんは、AMAZONのトレードマークみたいな口して、チョロッと舌出した笑顔。

 他のキャラは、もっと派手に笑ってるけど、目ぇはかまぼこ型かXになってる。

 笑顔やけど、目ぇ開いてるのはペコちゃんの特徴。

「月島先生って、元々は神社の巫女さんでしょ。笑顔は、職業的に顔に刻まれたもので、実は違うんだと思う」

 留美ちゃんが言うたことがある。

「よく観るとね、月島先生、目だけは笑ってないことが多い。先生がほんとうに怒ったらどういう顔になるんだろうね」

 そんなことを寝物語に言うたこともある。

「大魔神て古い映画があるじゃない。大映だったと思うんだけど、穏やかな埴輪の顔してるのが、いったんキレると、悪魔みたいな憤怒の顔になるんだよね……あんな感じ」

「そうなん? ちょっとググってみよ……」

 で、初めて大魔神の変身を見てビビってしもた。

「こんなのもあるよ……」

 留美ちゃんは、他にも美女が般若になったりとか、メロスが激怒した時の顔とか、怖い変身をいっぱいググって見せてくれて。

 最後にペコちゃんが激怒した顔……それは留美ちゃんがペンタブで描いたイラストやったけど、メッチャ怖い。

 で、あたしは率先してノートを開いて恭順の姿勢。

 すると、あたしの周囲から、徐々に授業の態勢になって、なんとか事なきを得る。

 

 やっぱりペコちゃん大明神の威力はすごい(^_^;)

 

「ちがうよ」

 四限が終わって、みんなで学食へ。列に並ぼうとしたら留美ちゃんが顔を寄せてくる。

「え、なんで?」

「それだけさくらの影響力も大きいということだよ」

「ええ、ないない(^_^;)」

 ハタハタハタ

 手にしたトレーを団扇みたいに振る。

 うんうん。

 留美ちゃんの後ろでメグリンが、変身前の大魔神みたいな顔で神妙に頷いておりました。

 ソニーは我関せずと、早々とランチをゲットしてテーブルに着いて、明日は、いよいよホンマの本番です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・33『今年の秋も終わりが近い……』

2022-11-23 07:25:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

33『今年の秋も終わりが近い……』  

 

 

 一斉送信しおえて、ヨーグルトを半分食べて気がついた。

 クラブのことに触れたメールが一つもなかった。そして、潤香先輩のこともなかった。

 気になって、もう一度ラインとメールをチェックした……やっぱり無い。


 一つだけ発見があった。マリ先生のメールを読み落としていた。

 先生は、メールを寄こしてくるときは、いつも「貴崎」と苗字で打ってくる。今回のは「MARI」と書かれていて気づかなかったんだ。

―― 早く元気になって、乃木坂ダッシュの新記録を作ってね ――と、書き出して、過不足のない、お見舞いの心温まる言葉が並んでいた。 

 さすがマリ先生(^o^;)。

 時間は、ちょうど五時間目が終わったところ。里沙にメールを送った。

 三十秒で返事が返ってきた。

―― クラブ&潤香先輩も順調に回復中。心配無用 ――

 横で見ていたおじいちゃんが呟いた。

「なんだか、昔の電報みたいだな」

 里沙のメールって、いつもこんなだけど、おじいちゃんの一言がひっかかり、思い切って潤香先輩にメールしてみた。

 こちは三分で返事が返ってきた。

―― 潤香の意識は、まだ戻らないけど。体調に異常はありません。まどかさんこそ大変でしたね。お大事になさってくださいね。紀香 ――

 返事はお姉さんからだった……潤香先輩、大丈夫なんだろうか……。


 はるかちゃんの大阪でのあらましは、さっき伍代のおじさんから聞いた。

 なんと、転校した大阪の高校で演劇部に入ったそうだ!

『すみれの花さくころ』って、タイトルだけでもカワユゲなお芝居やって、地区のコンクールで最優秀(乃木坂が取り損ねたやつ!)をとったらしい。

 で、大阪の中央発表会に出たんだけど、惜しくも落っこちたそうなのよね。南千住の駅で、いっしょになったとき、伍代のおじさんにかかってきた電話がその知らせだったらしい……と、時間だ。電話、電話……携帯代をケチってお家電話を使う。

 プルル~ プルル~ ポシャ

『はい、はるか……もしもし……もしもし(わたしってば五ヶ月ぶりの幼なじみの声に感激がウルってきちゃって、言葉も出ないのよ)』

「……はるかちゃん……はるかちゃんなんだ」

『……て、その声。もしかして、まどかちゃん!?』

「そう、まどかだわよ! どうして、黙って行っちゃうのよ!」

『おひさ~』

 お気楽に言うつもりがこうなっちゃった。

『……ごめんねぇ、いろいろ事情あってさ。わたしも、それなりの覚悟してお母さんと家出てきちゃったから、携帯の番号も変えちゃったし、大阪のことは誰にも言ってなくて』

「夏に、一回戻ってきたんだって?」

『うん。生意気にも、お父さんとお母さんのヨリもどそうなんてね……タクランじゃったんだけど、大人の世界ってフクザツカイキでさ。そんときゃ、頭の中スクランブルエッグだったけど、今はきれいにオムレツになってるよ』

「そうなんだ。で、はるかちゃん演劇部なんだって!?」

『イチオーね。まだ正式部員にはさせてもらえないの』

「どうしてぇ。地区予選で一等賞だったんでしょ?」

『わたし、最初は東京に未練たっぷりだったから、わたしの方から保留にしちゃったんだけどね。今は修行のためだって、顧問の先生とコーチから保留にされてんの。まどかちゃん、あんた演劇部なんでしょ?』

「いいえ。ちがいます」

『だって、まどか、四月に入学早々、演劇部に入ったんじゃなかったっけ?』

「そんじょそこらの演劇部じゃないの。この仲まどかは栄えある乃木坂学院高校演劇部の部員なのよ!」

『アハハ、そうだったわね。演劇部のスター芹沢潤香に憧れて入ったんだもんね』

「その潤香先輩がね……」

 潤香先輩のことには、はるかちゃんもビックリしたようだ。最後に、もう一つ話したげだったんだけど部活が始まっちゃうみたい。

『またゆっくり話そうね』

「うん、バイバイ」

 ということで電話を切った。と、同時に……。

「よ、南千山!」

 びっくりした!……おじいちゃんが地元出身の力士に声をかけた。

 振り向くと、テレビが幕内力士の取り組みになった九州場所を映していた。

 今年の秋も終わりが近い……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

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魔法少女マヂカ・297『墜ちる! 舞鶴の海へ!』

2022-11-22 16:34:38 | 小説

魔法少女マヂカ・297

『墜ちる! 舞鶴の海へ!語り手:マヂカ 

 

 

 チリチリチリ……

 

 指輪は、ほとんど髪の毛ほどの細さになって、それでも、最後までわたしと変身魔法の解けかけたクマさんを守ろうとして線香花火のようにか細く震えるように輝いている。

 風は下の方からビョービョーと吹き上げて、二人の髪をロウソクの炎のように吹き上げている。

 墜落しているんだ!

 風に抗って薄目を開けると、視界の半分が海、もう半分が陸地。

 陸地は迫りくる海を顎いっぱいに口を開け、怒りを籠めて呑み込もうとしている巨人の横顔のように見える。

 見覚えがある……これは舞鶴の街と海だ。

 オリヨールが礼子の姿で待ち受けていた因縁の港街(063:『舞鶴沖』)。舞鶴の上空でポチョムキンの罠にはまったのだから、その上空に戻ってきて不思議ではないんだけど、因縁めいて見えなくもない。

 魔法が解ける瞬間は、自分の魔法ではない限り爆発に巻き込まれるようなものなので、どこに飛ばされるか知れたものではない。

 それが、そのまま舞鶴の空……感傷に耽っている場合ではない。このまま落下すれば、たとえ、そこが海の上でもただでは済まない。海面か地面に叩きつけられてバラバラになってしまう。

 魔法少女は、それでもソウルが残るから、いつの日にか復活は出来るだろうが、生身のクマさんはお終いだ。

 百年前の大正時代から拉致され、令和の時代にファントムの傀儡にされたまま死なせてしまうなんて、魔法少女として完全な敗北だぞ!

 最後の可能性に掛けて指輪に命じる――パラシュートになれ!――

 チュ チュパ!

 少々頼りない音をさせて、指輪は小型のパラシュートに変貌した。

 相当無理をして姿を変えたので、傘の膜はラップのような薄さだ。それに、落下速度が少々速い。着地に工夫をしなければ、クマさんに大けがをさせてしまう。

 う、う~~~ん

 しかめるような表情をしてクマさんは気が付いた。

「クマさん、気が付いたか!?」

「chto so mnoy sluchilos……?」

 だめだ、ロシア語だ!

「ニェット……真智香さん!?」

「おお、戻った!」

「この風は……なんだか墜ちているような気がするんですけど……富士山の山頂ですか?」

「いや、わけあって、舞鶴の空から墜ちていくところだよ。なに、心配はない。落下傘でゆっくり墜ちていくところだから。そうだな、お屋敷のパッカードのボンネットから飛び降りるぐらいの衝撃だよ」

「それなら大丈夫です。お屋敷の木に登って降りてこれなくなった猫を抱えて飛び降りたことありますから」

「それなら、心強い」

「下りたら、健人さんには、いえ(^_^;)お嬢様には会えるんでしょうか?」

「あ……いや、ここは、大正時代から百年先の令和の時代の日本なんだ」

「百年……れいわ……?」

「うん、大正、昭和、平成、その次の令和……あ、大正時代の人に未来の年号を教えてはいけないんだ」

「大丈夫です、人には言いません。でも、年号があるということは、大日本帝国は健在なんですね」

「ああ、大丈夫だよ。あんな震災でどうにかなるような日本じゃないよ」

「よかった、お国があれば高坂侯爵家も盤石です。主義者の人たちは『年号なんて封建制の遺物だ天皇制とともに葬らなければ』とかおっしゃいますから」

「あはは……言ってるうちに地上が近くなってきた。クマさん、念のために海の上に降りるよ。ちょっと濡れるけど辛抱してね」

「はい、大丈夫です!」

 見上げるとラップのように薄いパラシュートは、あちこち綻び始めている。グズグズしてはいられない。

 ポチョムキン村の残滓が人魂のように溶けてボタボタと落ちていく。エネルギー残滓のようなもので、触れても害はないだろうが気味が悪い。

 体を捻りながら、操作索を操って桟橋から二十メートルほどの海面に的を絞った。

「ま、真智香さん、あれ!」

 クマさんが頬を引きつらせて眼下の海面を指さした。

「あ、あいつは!?」

 海面には、やっつけたはずのアリヨールが半透明の姿でオイデオイデをしている。

「くそ、亡霊が力を得たか!」

 残滓……海面に降り注いだ残滓を浴びて力を取り戻したか!

 このまま海面に下りては海に引きずり込まれてしまう!

 わたしは目まぐるしく頭をめぐらせる……海面まで数十メートル! すぐに考えは浮かばない!

 

 南無三!!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

 

 

 

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宇宙戦艦三笠10[テキサスジェーン・1]

2022-11-22 09:06:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

10[テキサスジェーン・1]   

 

 

 

 三笠は、俺(修一)、樟葉、天音、トシ四人の思い出をエネルギーに最初のワープを行った。

―― 最初のワープだから、1パーセク(3・26光年)にしておくわね。樟葉さん舵輪へ。トシ君はエンジンテレグラフの前へ ――

 三笠と同体化したみかさんが指示する。アバターの時と違って、艦の全体から声がするので、なんか包み込まれたような安心感がある。

「あ、なんかいいっす(^o^;)」

 トシがデレて、みんなクスリと笑った。

 樟葉とトシが配置につき、俺と天音はシートについた。

―― じゃ、修一君。あとはよろしく ――

「お、おお」

 一瞬たじろいだが、マニュアルが頭に入っているようで、直ぐに指示が口をついて出てくる。

「面舵3度……切れたところで、前進強速、ワープレベル」

「面舵3度、ヨーソロ……」

「前進強速……ワープ!」

 シャーーーーーって音がするわけじゃないんだけど。

 ブリッジから見える星々は、シャワーのように後方へ流れて行った。


「……ワープ完了。冥王星から1パーセク」

「対空警戒。レベル10」

「レベル10……左舷12度、20万キロ方向にグリンヘルドの編隊多数……23万キロで戦闘中の艦あり!」

「どこの船だ!?」

「アメリカのテキサス。苦戦中の模様。モニターに出す」

 天音がメインモニターに切り替える。

 テキサスは、110年前に竣工したアメリカの現存戦艦の中では最古参だ。第一次大戦と第二次大戦の両方を現役として戦い、今はヒューストン・シップ・チャネルに合衆国特定歴史建造物に指定保存されている。三笠程ではないが、クラシックな艦体をくねらせながら、全砲門を開いて寄せくるグリンヘルドの攻撃隊と獅子奮迅の激闘中だ。

「何発か食らってる。あの大編隊の二次攻撃に晒されたら持たないかもしれない。グリンヘルド二次攻撃隊に三式光子弾攻撃。取り舵20。右舷で攻撃する!」

 三笠は、20度左に旋回、右舷の全砲門をグリンヘルドの二次攻撃隊に向けた。

「照準完了!」
「テーッ!」

 シュビビビビーーーン!

 主砲と右舷の砲門が一斉に火を噴き、亜光速の光子弾が連続射撃された。

 遠くでいくつもの閃光、学校の屋上から見た『よこすか開国花火大会』に似ている。30秒余りでグリンヘルドの二次攻撃隊を壊滅させると、三笠はテキサスの救援に向かった。

「テキサスがいるから、光子弾は使えない。フェザーで対応、あたし一人じゃ手におえないから、みんなも意識を集中して!」

 天音が叫んだ。実際グリンヘルドの一次攻撃隊の一部は三笠にも攻撃を仕掛けてきている。

 三笠の機能は、基本的にはそれぞれの持ち場が決まっていたが、危機的な局面では全員が特定の部署に意識を集中させ効率を上げる仕組みになっている。

 光子弾は長距離攻撃には絶大な威力を発揮するが、その威力の大きさから、味方が傍にいる場合は使えない。三笠は30分余りをかけて、グリンヘルドの周囲を繭を紡ぐように周って一次攻撃隊の残りを撃破した。

「各部被害報告!」

 俺の呼びかけに「被害なし」の声が続いた。

「テキサスは!?」

「中破。オートでダメージコントロールに入った模様」

「テキサスから、だれか来るわ……艦長よ。乗艦許可を求めてる」

「乗艦を許可。操艦をオートに切り替え、総員最上甲板へ」


 前部最上甲板の舷梯を上がって、カウボーイ姿の少女が現れた。ブルネットのポニーテールをぶん回すと、ブリッジのみんなと目が合った。

 いやはや……

 激闘の後で、ロデオを幾つもこなしたようにボロボロ。チェックのシャツはあちこち綻びて、右の袖は取れかけ、ジーパンは膝とお尻に穴が開いて、自然すぎるダメージジーンズになっている。ポニーテールも熊手の先を無理やり縛ったみたいで、なんともワイルドな姿。

「アハハ、ちょっとみっともないね(^_^;)」

 そう言って、膝とお尻を撫でると、破れ目が塞がった。それから、ちょっと髪を撫でると熊手の先を括りました状態が、箒の先を括りましたくらいに修復された。

「助けてくれてありがとう。あたし、テキサス・ジェーン! よろしく! あ、三笠への乗艦許可に感謝します!」

 思い出したように、胸を張って敬礼する。

「み、三笠への乗艦を歓迎します」

 ジェーンの胸に目がいって、ちょっとアタフタしてしまった。

 ドジなアタフタは、すぐにバレて、みんなが笑う。

 女子二人の目が尖っていたけど、生き生きとした、ジェーンの姿に、俺たちは好感を持った。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・32『下町のシキタリ』

2022-11-22 07:10:35 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

32『下町のシキタリ』  

 

 

 昼には平熱になり、半天をはおって茶の間に降りた。

 おじいちゃん、お父さん、柳井のオイチャンといっしょにお昼ご飯を食べる。

 三人とも、わたしの回復を喜んでくれて気の早い床上げ祝いということになり、赤飯に鯛の尾頭付きがドデンと載った。

 缶とワンカップだけど、ビールとお酒も並んでる。わたしはお粥と揚げ出し豆腐ぐらいしか口に入らない。まあ、なんでも祝い事にして一杯やろうという魂胆ととれないこともないけども、これも下町のシキタリ、愛情表現。ありがたくお受けいたしました。

 宴たけなわになったころ、大学を早引けにした兄貴と、彼女の香里さん。エプロンを外したお母さん。伍代さん……はるかちゃんのお父さんと奥さんも加わった。

「商売物でなんだけど、販促兼ねてもらってくれる」

 奥さんは蒼地に白の紙ヒコーキを散らしたシュシュを下さった。

 香里さんはバイト先でもらったというネールカラーを、柳井のオイチャンは面白がって、チョチョイと真鍮板で三センチくらいの紙ヒコーキを作り、安全ピンを溶接してブロ-チにしてくれた。

「あ、わたしも欲しいなあ」

 ということで、そのブローチはもう三つ作られ、伍代さんの奥さん、香里さん、そしてはるかちゃん用になった。

 後日、このブローチは伍代さんとこで商品化され、柳井のオイチャンに原作料が支払われ、オイチャンはご機嫌になっちゃっうんだよ(^▽^)。

 この日もらった物で学校にしていけるものは一つも無かったけど、やっとわたしの床上げ祝いらしくなって、わたしもご機嫌さ!

「え、はるかの番号知らないの!?」

 宴もお開き近く、わたしとはるかちゃんのこと(ガキンチョのころスカートひらりやったこと)が話題になり、伍代のおじさんが驚いた。

「いや、ヒデちゃん(伍代のおじさん)の家のことだしよ……」

 お父さんは頭を掻いた。

「水くせえなあ、はるかとまどかちゃんは幼なじみなんだしよ。家の問題がケリついてんのはジンちゃんも承知じゃねえか」

 あっさり、はるかちゃんの携帯番号ゲット!


 放課後の時間を待って、はるかちゃんに電話することにした。


 と、その前に、電話とラインのチェック。

 電話の着信履歴は無かった。クラブやクラスかからのお見舞いはてんこ盛り。みんな、言葉を工夫したり、デコメに凝ったり、見ているだけで楽しいものが多かった。

 中には『火事お見舞い』を『家事お見舞い』とやらかしているものや、『草葉の陰から、御回復祈ってます』なんて、恐ろしく、でも笑えるものまであった(これが、なぜ恐ろしく笑えるか分かんないひとは辞書ひいてください)

『草葉の陰』は、夏鈴からのものだった。ラノベで覚えた言葉を使ったんだろうけど、事前に、言葉の意味くらい調べろよな……。

 里沙からは『早く元気になってね』と見出し。

――以下は、添付書類、パソコンに送付。

 と、まるで事務連絡。

 で、パソコンを開いてみた……。

 なんと、わたしが休んでいた間の授業のノートが全部送られていた。で、これから毎日送ってくれるとのこと。持つべきものは親友だと、しみじみ思いました。

 笑ったり、泣けたり、しみじみしたりして、スマホのチェックは終わり。

 え、だれか抜けてるだろうって……それはナイショ。あとの展開を、お楽しみに!

『お見舞い、ありがとうございます』をタイトルにして二百字ほどのメールを一斉送信したよ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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くノ一その一今のうち・27『C130機内』

2022-11-21 15:19:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

27『C130機内』 

 

 

 横田基地から米軍の輸送機で飛び立つ。

 

「これはC130ハーキュリーズという輸送機でな、西側では一番よく使われている輸送機なんだ」

 やっと本来の姿に戻って社長がレクチャーしてくれる。

「C130である意味があるんですか?」

「1000メートルちょっとで離陸できて、500ちょっとの滑走路で着陸ができる」

「えと……飛行機のことって、よく分からないんで(^_^;)」

「同サイズの飛行機の半分以下で離発着ができる。1000メートルの滑走路なんて、どんな田舎の飛行場でもあるからな。世界中どこの飛行場でも離発着できるということだ」

「オスプレイとかだったら、滑走路そのものが要らないんじゃ……」

「オスプレイは、まだ使っている国が少ない」

「なにか問題なんですか?」

「C130は69か国で使われている……つまり、ほとんど世界中で使っているから特定されにくいんだ。いまの軍用機は国籍マークや機体番号はボンヤリ書かれて、よほど近くで見ないと特定できない。車で言えばナンバープレートの付いていないカローラみたいなもんだ」

「隠密性があるということなんですね」

「そういうことだ」

「それから、米軍との関係なんだが……」

 ひとしきり輸送機や米軍と会社の関係や装備など、いろいろ話してくれる。

 途中で気が付いた。

 わたしは飛行機に弱い。修学旅行でも半分くらいはシートを倒して寝ていた。

 まあ、地味子のわたしだから、話しかけてくる者もいないし、ゲロゲロになるほどでもないし、目立つことは無かった。けど、社長は、そういうことを知っていて気をそらしてくれている。

「では、闇着替えの練習をしておこう」

「このコスじゃダメなんですか?」

「現地の状況では着替えることになる。とりあえずは……これだ」

 社長は野戦服を取り出して、輸送機の床に置いた。

「印を結んで、着替え終わった姿をイメージする……えい!」

 一瞬姿がブレたかと思うと、社長は国籍不明の野戦軍兵士になった。

「やっと、自分の姿に戻ったんですね」

「サイズが、オッサンのサイズだからな(^_^;)」

「あはは、その方がいいかも」

 ヘリコプターからこっち、首は社長で体はリコリコのコスを着たわたしだったから、ちょっと気持ち悪かった。

「じゃ、今度はソノッチの番だ」

「はい、えと……印の結び方は……」

「あ、俺は百地流だけど、風魔流でいいよ。要は気を貯めて集中することだから」

「は、はい……息は止めた方が……」

「あ、自然に。うん、ちょっと止めるぐらいが集中できるかな」

「はい……えと……」

 忍術とは言え、人前で着替えるのは抵抗ありまくり。まして、オッサンオーラ出しまくりの社長の目の前だよ。

 エイ!

 掛け声をかける……着替えられてはいなかったけど、周囲の景色が停まった!

 社長は、優しいのかヤラシイのか分からない表情のままフリーズするし、エンジンの振動で小刻みに震えていた金具も静止しているし、なによりもエンジンの音がしない。

 時間を停めてしまった……に近いけど、恐らくは、お祖母ちゃんのいう『境地』という奴だ。

 境地に入って、すごいスピードで着替えることができる。そういうことなんだろう……うん。

 納得すると、普通に着替えた。普通と言っても、やっぱり恥ずかしいから、前の授業が長引いて速攻で着替えなきゃならない体育の授業って感じだけどね。

「惜しい、ボタンが一個ずつズレてる!」

「え、あ、ほんとだ」

「もう一回」

「はい」

 それから、二回三回とやるんだけど、なかなか完ぺきにはできない。シャツが後ろ前だったり、ブーツが左右反対だったり。

「う~ん、ソノッチは境地の中でリアルに着替えている?」

「は、はい」

「それは、まだ初級だなあ」

「ダメなんですか?」

「境地に入るところまではいいんだけど、その先もイメージで姿が変えられなければ完全じゃない」

「あ、それって、変身するのも……」

 そうだ、社長は着替えるだけじゃなくて、わたしの姿に変身までしている。

「まあ、現地に着くまで時間がある、ゆっくりやればいい。そうだ、骨語りの稽古もしておこう」

「はい」

 

 それから骨語りの練習、それから二つの豊臣家についての話を聞いている間に、いよいよ目的地の上空に着いた。

 

「え、やっぱりわたしの姿になるんですか?」

 社長も嫁持ちさんもわたしそっくりに変身した。

 そして、C130は、草原の真ん中にバリカンを掛けたような滑走路に着陸していった。

 エンジンを掛けたまま停止すると、縛着していた三台の原チャが解かれる。

「じゃ、しっかり付いてくるのよ!」

「「ラジャー!」」

 わたしソックリの姿と声で命令すると、社長はアクセルを吹かしながらC130のお尻から走り出した。

 もう一人、わたしソックリの嫁持ちさんと三人で、草原の道を疾駆する。

 バックミラーに目をやると、早くも離陸して、ギア(車輪)を格納しつつあるC130の後姿が小さくなりつつあった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・31『ん……まだ違和感』

2022-11-21 06:58:38 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

31『ん……まだ違和感』  

 

 

 ……薄暗がりの中、ぼんやりと時計が見えてきた。

 リモコンで明かりをつける……まる三日眠っていたんだ。

 目覚めると自分の部屋。当たり前っちゃ当たり前なんだけど、なんだか違和感……。

「あ」

 小さく声が出た。

 目の前に倉庫から命がけで持ち出した衣装が掛けられている。

 わたしと潤香先輩の舞台衣装。セーラー服と花柄のワンピース。

 ベッドから見る限り、傷みや汚れはない。

 四日前の舞台が思い出された。

 なんだかとても昔のことのよう……潤香先輩もこうやってベッドに寝ている……意識は戻ったのかなあ……意識が戻ったら何を考るんだろうかなあ……

 わたしはもう起きられるだろう。二三日もしたら外出だってできるかもしれない。

 しかし先輩はもう少し時間がかかるんだろうなあ……よし、良くなったら、この衣装持ってお見舞いにいこう。

 そう思い定めて、少し楽になる。

 ん……まだ違和感。

 あ、パジャマが新しくなっている……新品の匂いがする。着替えさせてくれたんだ、お母さん。
 ……まだ違和感。ウ……下着も新しくなっている。これは、お母さんでも恥ずかしい。

「あら、目が覚めたの?」

 お母さんが、薬を持って入ってきた。

「ありがとう、お母さん。着替えさせてくれたんだね」

「二回ね、なんせひどい汗だったから。シーツも二回替えたんだよ。熱計ろうか」

「うん」

 体温計を脇に挟んだ。

「お腹空いてないかい」

「う、ううん」

「そう、寝付いてから水分しか採ってないからね……」

「飲ませてくれたの?」

「自分で飲んでたわよ。覚えてないの?」

「うん」

「薬だって自分で呑んでたんだよ」

「ほんと?」

「ハハ、じゃ、あれみんな眠りながらやってたんだ。ちゃんと返事もしてたよ」

「うそ」

「パジャマは、わたしが着替えさせたけど、『下着は?』って聞いたら『自分でやるからいい』って。器用にお布団の中で穿きかえてたわよ」 

「そうなんだ……フフ、やっぱ、なんだかお腹空いてきた」

「そう、じゃあ、お粥でも作ったげよう」

「あの衣装、お母さん掛けてくれたの?」

「ああ、『衣装……衣装』ってうわごと言ってたから。目が覚めたら、すぐ分かるようにね。今まで気づかないと思ったら、そうなんだ眠っていたのよね」

「ありがとう、お母さん」

 ピピ、ピピ、と検温終了のシグナル。

「……七度二分。もうすこしだね」

 そのとき、締め切った窓の外から明るいラジオ体操が流れてきた……ラジオ体操は工場の朝のルーチンだぞ? ちょっと変だ。

「お母さん、カーテン開けてくれる」

「ああ、もう朝だものね」

「あ……朝?」

 カーテンが開け放たれると、朝日がサッと差し込んできた。

 わたしは三日ではなく、三日と半日眠っていたことに気がついた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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鳴かぬなら 信長転生記 94『皆虎の新興屋敷街』

2022-11-20 11:22:51 | ノベル2

ら 信長転生記

94『皆虎の新興屋敷街』織部 

 

 

 信長の潜入調査では、皆虎の街は寂びれた軍都で、かつて扶桑国侵攻の最前線だったころの面影はない。

 土塁や城壁も満足なものは少なく、僅かな観光収入とささやかな定期市の上りで城塞都市の面目を保っていた。

 

 それが、曹茶姫の騎兵軍団が皆虎を起点として扶桑との国境地帯を東西に打通して以来、急速に往年の賑わいを取り戻しつつある。

 詰まった血管に血が通うように、人や物の流通が盛んになり、ささやかな定期市は常設の商業地に変貌しつつある。

 変貌は商業地帯だけではなく、その周囲に富豪や豪族の別宅、別荘が建ち始めている。

 市の広場で声を掛けてきた女は、わたしたちを、その中でも一二の規模の新築に誘った。

 

「ここは、呉の孫権さまのご別宅。お妃さまがお出ましになられますので、どうぞ、こちらの庭の亭でお待ちになってください」

 案内を小女に任せると、女は奥の屋敷に入っていった。

 小女に誘われて亭に着くと、相棒の本性が出てしまう。

「備えができていない」

 リュドミラは愛想が無い。

「備えとは防備の事ね」

「ああ、起伏が大きく植栽が多すぎる。亭や庭石も侵入者が姿を隠すために置かれているようなもんだ」

「リュドミラはどこまでいっても、ものを見る目が物騒だわよ」

「スナイパーだからな」

「自分を狭く定義づけしないほうがいいわよ、あんたの身体能力はダンサーにも向いているし」

「あれは、ただのお遊びだ。子どもの頃、村のお祭りに出たいばかりに憶えたお祭りのステップ」

「そうかしら、わたし、むしろそっちの方が向いているような気がしてきた」

「フン」

「鼻で笑わないでくれる、これでも、審美眼じゃ扶桑一の古田織部なんだからね」

「癖だ、気にするな。それよりも織部、完全に女になってないか? 言葉とか、完璧女言葉だし」

「ここは三国志よ、女商人の設定だし、審美眼的にも、こうでなきゃおさまりが悪い」

「そうか」

「リュドミラこそ、これから会うのは、ここの主筋の人だろうし、気を付けてね」

「気には留めるが、あいにくの不調法だ、そっちでフォローしてくれ」

「うう……どっちがガードなんだか」

「あ、来たぞ」

 

 屋敷の方から、小女を従えて女主人めいた奴が庭木の向こうからやってきた。

 

「どうもお待たせしました。この館の主、大橋紅茶妃さまでございます」

 小女が紹介したのは、楊貴妃の姉妹と言われても頷いてしまいそうな美女だ。

「大橋紅茶妃と大層な名乗りですけども、あなた方とはお友だち付き合いでいこうと思いますので、コウチャンと呼んでいくださいましな」

「え、そのお声は?」

「さっきの宮仕え風?」

「オホン、先ほどまでは外出用にメイクをされていたのです」

「これ、誇るようなことではありません」

「これは、古田織部、一生の不覚でした!」

「反則的なイメチェンだ……」

「いえ、いまの大橋さまは、ほとんどスッピンでいらっしゃいます(*`ω´*)」

「これこれ」

 グヌヌ……安全のためなのだろうけど、あえてブス、いや、先ほどまでの宮仕え風でも、あっぱれ一級品の美人だったけど、それが変相であったとは……古田織部、ますますの審美眼修業をしなければと自戒するのでありました。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  
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宇宙戦艦三笠9[思い出エナジー・3]

2022-11-20 08:58:46 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

9[思い出エナジー・3]   

 

 


「お兄ちゃーん、待ってー!」

 妹の声は思ったより遠くから聞こえた。


 いっしょに横断歩道を渡り終えていたつもりが、妹の来未(くるみ)は車道の真ん中。信号が点滅しかけて足がすくんで動けなくなっていた。

「来未、動くんじゃない!」

 トシの言葉は正確には妹には届かなかった。妹は、変わりかけている信号を見ることもなく買ってもらったばかりの自転車を一生懸命に漕ぎながら横断歩道を渡ってきた。それまでの幼児用のそれに比べると買ってもらったばかりの自転車は大きくて重い。

 たいがいのドライバーは、この可憐な少女が漕ぐ自転車が歩道を渡り切るのを待ってくれたが、トラックの死角に入っていたバイクがフライングした。

 ガッシャーーン!

 バイクは、自転車ごと妹を跳ね上げてしまった。

 妹は、空中で一回転すると、人形のように車道に叩きつけられた。寝返りの途中のような姿勢で横たわった妹の頭からは、それ自体が生き物のような血が歩道に、じわじわと溢れだした。

 トシは、自分のせいだと思った。

 ついさっきまで乗っていた幼児用の慣れた自転車なら、妹はチョコマカとトシの自転車に見えない紐で繋がったように付いてきただろう。
 だが、ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車は、そうはいかなかった。なんとかホームセンターから横断歩道までは付いてきたが、横断歩道でいったん足をつくと、ペダルを漕いで発進するのに時間がかかった。

 むろんトシに罪は無い。一義的には前方不注意でフライングしたバイクが悪い。二義的には、そんな幼い兄妹を後にして、さっさと先に行ってしまった両親にある。

 だが、妹の死を目の前で見たトシには、全責任が自分にあるように思えた。しばらくカウンセラーにかかり、半年余りで、なんとか妹を死なせた罪悪感を眠らせ、それからは普通の小学生、中学生として過ごすことができた。

 高校に入ってからも、ブンケンというマイナーなクラブに入ったことで、少しオタクのように思われたが、まずは普通の生徒のカテゴリーの中に収まっていた。

 一学期の中間テスト空けに転校生が入ってきた。

 それが妹の来未を思わせる小柄で活発な高橋美紀という女生徒だった。

 トシはショックだった。心の中になだめて眠らせていた妹への思いが蘇り、それは美紀への関心という形で現れた。

 周囲が誤解し始めた。

 本当の理由のわからないクラスの何人かには、転校生に露骨な片思いをしているバカに見え、冷やかしの対象、そして、美紀本人が嫌がり始めてからは、ストーカーのように思われだした。

 美紀は親に、親は担任に相談した。そうして、クラスみんなが敵になった。

 もし、トシが本当のことを言えば、あるいは分かってもらえたかもしれない。実際トシは、妹が亡くなる前の日に撮った写真をスマホの中に保存していた。美紀をそのまま幼くしたような姿を見れば、少なくとも美紀や担任には理解してもらえただろう。

 しかし、そうすることは、妹を言い訳の種にするようで、トシにはできなかった。トシは、そのまま不登校になった。

「どうして、こんな話しちまったんだろう!」

 トシは目を真っ赤にして突っ伏した。

「いいんだよ、トシ。この三笠の中じゃ、自分をさらけ出すのが自然みたいだからな」

「それにしちゃ、わたしたちの話はマンガみたいよね。ただの腐れ縁てだけなんだもんね」

 樟葉がぼやいた。

「樟葉さんと東郷君は、まだ奥があると思う。でなきゃ、この三笠が、こんなにスピードが出るわけないわ」

 みかさんが微笑んだ。

 三笠は、冥王星をすっとばしていた。

 太陽が、もう金星ほどにしか見えなくなっていた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 みかさん(神さま)   戦艦三笠の船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・30『掛け布団を胸までたぐり寄せ』

2022-11-20 06:54:54 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

30『掛け布団を胸までたぐり寄せ』  

 

 

『ほかに、言いようってもんがあるだろう。命の恩人なんだからよ』

 帰ってきたお父さんの声が二階の部屋まで聞こえてきた。忠クンの家までお礼に行って帰ってきたところなんだ。

『でもねえ。あのときは、あの子も、ああしか言いようがなかったのよ』

 と、お母さんの声。


 そうなんだ。ひとがましい感情は家に帰ってから蘇ってきた。


 インフルエンザで、お風呂に入れないもんだから、幼稚園以来久々にお母さんが体を拭いてくれた。髪もドライシャンプー一本使って丹念に洗ってくれた。そうやってお母さんの気持ちが伝わってくる間に、フリーズしていたパソコンが再起動したように蘇ってきた。

 恐怖と安心と、忠クンへの感謝と愛おしさ、お母さんの愛情、その他モロモロの感情が爆発した。

 お母さんの胸で泣きじゃくった。

「いいよいいよ、もう怖くない、怖くないよ。なにも心配することもないんだからね」
「そうじゃない、そうじゃない、それだけじゃないの……」
「分かってる、分かってるわよ。まどかの母親を十五年もやってきたんだ。全部分かってるわよ」
「だって、だって……ウワーン!」

 このとき、襖がガラリと開いた。

「まどか、大丈夫か!?」

 兄貴が慌てた心配顔で突っ立ていた。

「このバカ!」

 と、お母さん。わたしは慌てて、掛け布団を胸までたぐり寄せた。

『ノックもしないで……!』
『だって、まどかのこと……』

 二人の声が階段を降りていく。階下でおじいちゃんが息子と孫を叱っている気配。お母さんとおばあちゃんが、それに同調している。

 嬉しかった、家族の気遣いが。

 シキタリに一番うるさいおじいちゃんが、自分でそう仕付けたお父さんを叱っている。

「お前は器量が悪いからなあ」

 と、いつもアンニュイにオチョクってばかりのアニキは、襖を開けた瞬間、わたしの顔を見た。火事で救急車で運ばれたと聞いて、やけどなんかしてないか気にかけてくれたんだ。分かっていながら、わたしは反射的に裸の胸を隠した。わたしは、いつの間にか住み始めた自分の中のオンナを持て余していた。

 注射が効き始め眠くなってきた。

 眠る前に忠クンにお礼を、せめてメールだけでも……そう思って携帯を手にする。「今日はありがとう」そこまで打って手が止まる。「愛してるよ」と打って胸ドッキン……これはフライングだ。「好きだよ」と打ち直して、戸惑う……結局花束のデコメをつけて送信。

―― 他に打ちようがあるだろ ――

 そう叱る自分がいたが、ハンチクなわたしには精一杯……で、眠ってしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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せやさかい・361『盛り上がる公開リハーサル』

2022-11-19 09:44:03 | ノベル

・361

『盛り上がる公開リハーサル』頼子    

 

 

 セイ! トアッ! ハアッ! ハッ! ノアアア!

 ゲシ! ドガ! シュィン! ビシ! バシ! ドゲシ!

 ハアッ! ハッ! ノアアア! セイ! トアッ!

 ドガガガ! ズッゴオオオオオン!

 

 裂ぱくの掛け声とサウンドフェクトがピロティー前の広場に木霊して、満場の生徒や教職員、テレビ局や卒業生やご近所の方々、果ては交通整理の警備員さん、マスコミ関係、一部某国の諜報部員たちが固唾を呑んで『サクラ・ウメ大戦』の練習を見守る。

「オッケーー!」

 メガホンを通しても損なわれないアニメ声が本番を五日後に控えた文化祭の雰囲気を盛り上げる。

「うん、やっぱ、ソフィーとソニーのアクションはピカイチだわ。取り巻きは見とれてりゃいいからね、下手に動くとケガするからね。ただ、ただ、いい? みんな『白梅隊』と『八重桜隊』の敵味方同士なんだから、自分の隊長を応援してね。両方声援したくなる気持ちは隊長二人が和解したあと。いいね!」

 ハーーーーイ!!

「じゃ、五分休憩して、ラストいきまーす! 休憩!」

 緊張がほぐれて、静かなどよめきが起こる。

 なんだか黒澤明の撮影現場みたい(見たことないけど)

 

 ソニーが短期留学で入ってきて『サクラ・ウメ大戦』のボルテージはさらに上がった。

 

 百武真鈴のアイデアで、わたしのチームはピロティー前の広場での公演が二回追加された。

 ソフィーとソニーのアクションは体育館のステージでは収まり切れない。

 ステージ用にアレンジしたらと先生たちは言うけど「それではもったいないです!」ということで急きょ決定。

 今日のリハーサルは大っぴらな宣伝こそはしないけど、SNSで情報は流してあるので、ご近所やファンの人たちにテレビ局までやってきた。

 一時は開催まで危ぶまれた文化祭だけど、ちょっと期待が持てる。

 わたしたち三年生は、最初で最後の文化祭だからね。

「C国、K国、R国のエージェントが入っていた」

「アメリカとイギリスも」

 ソフィーとソニーが囁く。

「あ、あ、そう……まあ、もめ事だけは起こさないでね(^_^;)」

「「相手の出方次第」」

「こ、声揃えなくても……」

 ソニーが派遣されたのは文化祭のためでも、本人が留学を熱望していたためでもない。

 正式にヤマセンブルグの王女になったので、警備のためなんだ。

 近ごろの世界情勢、安倍さん暗殺で露呈した日本の危うさを鑑みると、今までの警備では不安……というお婆ちゃんの気持ちが反映されている。まさに老婆心。『今の日本は頼りない』というヤマセンブルグ、ひいてはEUのメッセージが籠められている。

 

「次の登場なんだけど」「ちょっと変えてみたいんだけど」

 

 一回目のリハを終えたあと、二人は百武真鈴に申し入れた。

「え、また?」

 二人はリハをやる度にアクションに変更を加えている。

「今度はね……」

 意地悪なソフィーは、わたしには言わない。

「だって、リッチ(ご学友モードの時のわたしの呼ばれ方)は表情に出るから」

「さくらたちにもすぐバレるし」

 うう、容赦がない。

「まあ、ひとにケガさせないようにね」

「「もちろん!」」

 

 で、最終リハでは、本館と図書館の屋上から飛び降りて登場した!

 それも、盛大にジャンプして、着地したのは門の外!

 ウワアアア!

 盛大な歓声と拍手をもらってから、軽々と塀を飛び越えて入って来る。

「ちょっと、やり過ぎ」

 やり過ぎを注意したら、シレっと、こう言った。

「日本の公安がダレてたんで……」

「……ちょっとカツを入れてきました」

 

 ああ、やれやれ……

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・29『阿弥陀さま?』

2022-11-19 06:41:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

29『阿弥陀さま?』  

 

 

「おーい」

 という声で目が覚めた。

 ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。

 十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。

 真ん中に大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。

 でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?

 ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。

「気がついた、まどか!?」

 ドアップが叫んだ。

「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」

 阿弥陀さまが文句を言った。

「すみません」

 ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。

 そして、ようやく気づいた。


―― わたしってば、助かったんだ ――


 頭の中がジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。

 これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。

 阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は看護師のオネエサンだった。

 その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。

――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?

「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」

 阿弥陀……お医者さんが言った。

 わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。

 手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。

 それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。

「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」

 お医者さんが笑顔で言った。

――よかった。

「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」

 さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。

「ちょっとチクってするよ……」

 チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。

 お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。

 やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。

「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。

「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」

 お父さんが、そいつを押し出した。

「ども、無事でなによりだった……」

 ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。

「ども、ありがとう」

 マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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漆黒のブリュンヒルデQ・096『ゆったり女子会』

2022-11-18 14:49:29 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

096『ゆったり女子会』   

 

 

 三人で出かけるのは初めてかもしれない。

 

 豪徳寺の駅近にイタ飯屋が出来たと言うので、玉ちゃんとねね子の三人で出向く。

「うわあ! なんか、お爺ちゃんに気を遣わせてしもうたかもしれん」

 出かけに、お祖父ちゃんくれた封筒を開けて玉ちゃんが恐縮する。

「おお、諭吉がトリオでいるニャ(^▽^)/」

「まあ、再来年には引退だし、諭吉にも旅をさせてやろうって気持ちなんだろ」

「え、ひるでの祖父ちゃんはとっくに引退してるニャ?」

「諭吉が引退するんだ。後継の渋沢栄一は、もう印刷にかかってるぞ」

「え、そうなのニャ? 短かったニャ、ついこないだまでは聖徳太子だったニャ」

「あたいは慶長小判が出た時ん感動がふてねえ、それまで、日本中バラバラやった貨幣が統一されたときはビックリしたじゃ」

「ああ、そういうこともあったっけニャ?」

「ねね子、あたいと大して変わらん歳なんに、感動うしねえ」

「あはは、仕方ないよ。猫に小判て言うじゃない」

「あ、バカにすんニャ! ねね子は、全国招き猫の総本家ニャ!」

「なにかお土産買うて帰るぞ」

「「うんうん」」

 話がまとまって、商店街の先に新装開店の花輪に彩られたイタ飯屋が見えてきた。

 豪徳寺の商店街にはアーケードが無い。道幅も狭くて、いかにも東京郊外の駅前通りという感じなんだけど、わたしは好きだ。

 スコンと空が覗いて印象が明るい。大きな店というと高架下のデミーズか、高架を出てすぐのみそな銀行ぐらいのもので、その他は世田谷ローカルというような地元店舗が寄り添うように並んでいる。シャッター締め切りの店というのもほとんどなくて、適度な賑わいが好ましい。いまは姿を消したが、クロノスが時計屋を開いていたのもむべなるかなだ。

 お店も新装開店の割には行列が出来ているわけでもなく、それでも三人揃って座れる席は空いていなくて、愛想のいいウェイトレスが、急きょ折り畳みの木製椅子を出してくれて、期せずして日向ぼっこ。

「どうぞ、お待ちの間にメニューをお決めくださ~い(^▽^)」

 差し出されたメニューを開くと、美味しそうなコース料理や単品料理がいっぱい並んでいる。

「イタ飯限定というわけでもないんだなあ……」

 定番のパスタやピザの他にもジャガイモや牛肉の煮込み的な南ドイツの家庭料理風のものまであって、好感が持てる。アルプスを挟んだ北イタリア、南ドイツ、南フランスあたりの家庭料理をベースにアレンジしたメニューだ。

「テイクアウトも充実してるニャー!」

「ほんとだ、柔らかそうで、爺ちゃんばっばんにも喜んでもれそうじゃ」

「じゃあ、テイクアウトに……これとこれ」

「これも、いいニャ(´∀`)」

 席に案内されるころには、自分たちのとお土産のテイクアウトまで決まって、久々のゆったり女子会をもつことができた。

 

「わーい、諭吉と一葉が残ったニャ!」

 

 お勘定をして、意外にも残ったお札をヒラヒラさせて喜ぶねね子。

「ちょっと、恥ずかしいからやめろ!」

「だってだって、嬉しいニャぁ~」

 苦情を言うと、ますます調子に乗るねね子。

「あはは……あれぇ?」

 それを楽し気に見ていた玉ちゃんが、ふと、商店街の空を指さした。

 ひらり……はらり……

「え、お札ニャ?」

 空からひらりはらりとお札が舞い降りてくる。

 諭吉も居れば、一葉、野口英世も……伊藤博文……聖徳太子……大隈重信……板垣退助……神功皇后……武内宿禰……

 道行く人たちも空を見上げたり、手にとってみたり……

 しかし、まともお札は、最初の方だけで、途中からは半分や三つに切られたものがほとんどになった。

 描かれている肖像たちも、苦悶の表情になってきて、手に取った人たちも怖気を振るって投げ出した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・28『凛然とした禿頭』

2022-11-18 07:48:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

28『凛然とした禿頭』  

 

 

「ありがとう……」

 言い尽くせない感謝の気持ち、それが、ありきたりの言葉でしか出てこないことがもどかしかった。

 修学院高校の制服は、問わず語りに、あらましのことを語ってくれた。

 彼は、グラウンドに面した道路を自転車で通りかかり、倉庫の火事に出くわした。だれか人が取り残された様子に、開け放たれた通用門から一気に自転車でグラウンドを駆け抜け、中庭の池に飛び込み、全身を水浸しにして倉庫に突入。すんでのところでまどかを助けたようだ。

 ただの通りすがりがここまでやるか……?

「ところで……」

 と、聞きかけたところで救急車が消防車といっしょにやってきた。

 検査の結果、まどかは、かすり傷。修学院も無事と分かった。

 ただ、まどかはインフルエンザにかか罹っていることが分かり、注射一本うたれて、そのまんま駆けつけたご両親に付き添われ、タクシーで自宅に直行した。それを見送って振り返ると、教頭先生が怖い顔をして立っていた。

 一週間で二度も生徒を危険な目にあわせ、火事まで出してしまった。

 ただでは済まない。とにかく校長……下手をすれば、理事長の呼び出しと覚悟した。

「今から学校に戻って、ご報告を……」
「それには及びません。こちらから連絡するまで、自宅待機……なさっていてください」

 手回しのいいこと、さっそくの自宅謹慎か。


 三日は謹慎させられるかと思った。その間にわたしに関する悪い資料が集められ、理事会で、わたしのクビが決定……と、思いきや、明くる朝には呼び出された。

 職員室にいくと「気の毒に」と「ざまあ見ろ」というオーラを等量に感じた。

「貴崎さん、理事長室に直行してください」

 教頭が頭を叩きながら背中で言った。早手回しに「先生」という敬称も外している。

 理事長室には、来年には卒寿という理事長が一人で待っていた。

「大変でしたな、貴崎先生」

 来客用のソファーにわたしを誘って、理事長が言った。東向きの窓から差し込む朝日がまぶしかった。

「不徳の致すところで……」

 頭を下げかけると、テーブルの上にスポーツ新聞が四つ折りになっているのが目に入ってきた。

 頭に血が上った。

『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』

 一昨日の晩、あのホテルの前で、伸びをしている小田先輩と大あくびをしているわたしの写真が大写しで出ていた。わたしは目こそ隠されていたが、知り合いが見れば一見してわたしと分かる。記事も、学校名は伏せられていたが、二三行も読めば乃木高と知れる。

 わたしは、ほんの一二秒でそれを読み取った。

「いやあ、つまらんものをお見せしましたな」

「これは……?」

「さっき、教頭の識別子が持ってきましてね。いや、つまらんガセネタであることは分かっています。電算機で確認もしましたが、その高橋さんのプロダクションが明確に否定しておりましたよ。なんせ、あなたたちの前を通ったお巡りさんの証言も得ていることですから」

 そう言えば、あのとき二人の前をお巡りさんが通っていったっけ……。

「識別子も、つまらんものを持ってくるもんだ」

 理事長は、見事に禿げあがった頭を撫でた。

 その手を見て思い出した。「識別子」とは「バーコード」の和名である。思わず吹きだしかけた。どうも、このお気楽さは、我ながら女子高生であったころから変わりがない。

「芹沢潤香さんのことなんですが」

「はい」

 わたしは緩みかけた表情を引き締めた。

「今朝早く、お父さんが来られましてね。職員室で、ご心配のあまりなんでしょう、識別子に詰め寄られていらっしゃいました。潤香さんの意識が戻らんようです」

「え、お医者さまが直に意識は戻るだろうって……」

「ええ、だからこそのご心配なんでしょう。もって行き場のない不安を学校に持ち込んでこられたんです。いや、戦時中にもあったもんです。戦闘中に意識不明になり、半年たって意識が戻ったら、終戦になっていた奴もおりました。無論、医学上の問題はよく分かりません。しかし、ここで学校が直ちに責任をとらねばならない問題ではないと認識いたしております。そこのところは場所を、ここに移して、校長さんにも立ち会って頂いて、お父さんには了解はして頂きました」

「……わたしの責任です」

「思い詰めないでください。貴崎先生、潤香さんのことは、お気の毒ではありますが事故であったと認識しております。最初に見たてた医師が大丈夫と判断したんです。MRIでも異常は認められなかった。それに基づいて医師は判断したんです。倉庫の火災も、昨年先生から、配線の垂れ下がりを指摘されていました。これを放置していたのは学校の責任であります」

「でも、わたしも、それを忘れてしまっていました」

「貴崎先生。無理かもしれませんが、ご自分をお責めにならないようにしてください。学校も組織ですので、一応理事会にはかけねばなりませんが。わたしの考えは、今申し上げた通りです」

「ご配慮ありがとうございます。でも……では、失礼します」

 わたしは席を立った。朝日はもうまぶしくないところまで上っていた。

「貴崎先生」

「はい」

「あなたは、淳之介……お祖父さんの若い頃にそっくりだ。熱くて、一徹者で、不器用なくらい真っ直ぐだ」

「……祖父をご存じなんですか?」

「こりゃいかん……こいつは内緒事でしたな」

 上りきった朝日が、窓ぎわに立つ理事長の凛然とした禿頭をまぶしく照らしだした。

「では、失礼します」


 理事長室を出ると胸が震えた。


 怒りでも感動でもない。内ポケットのスマホが着信を知らせている。

 二秒で確認。

 高橋先輩からのメール……学校を出たら電話しよう。

 懐に仕舞った瞬間、また着信。

 一秒で確認。

 妹の咲姫、こいつは無視。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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