大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:199『鬼ノ城・1』

2023-08-25 06:02:17 | 時かける少女

RE・

199『鬼ノ城・1』テル 


 

 
 総社市から40分ほど寂しい舗装道路を上って、山上の駐車場に着いた。


「わたしたちだけなんだろうか、雪舟ねずみ君?」

「……のようですね、シーズンも外れのウィークデーでもありますから」

 イザナギさんは鷹揚に頷くと、我々の先頭に立って木の間隠れに見える櫓門を目指して進んで行く。

「……ドワーフの砦に似ている」
 
「ドワーフの砦ならば、櫓の上に10人、土塁の向こうに50人、おそらくはアーチャー(弓兵)が潜んでいるでしょう」

「主力は棍棒の歩兵、こちらが怯んだところに……200余りが襲い掛かって来る」

「伏兵の可能性もあります、仕掛ける前には左右に斥候を出すべきでしょう」

「うむ、まずは、テルとケイトで斥候に出てくれ。伏兵が居ないようなら……一気呵成に攻めるべし。桃太郎二号、楼門の上に放り投げてやるから、10を数える間だけ暴れまわれ、その隙に主力である我らが東西いずれかの土塁を抜いて侵入する。門を開けるまでに長くて3分、門さえ開けてしまえば、櫓や物資に火をつけて混乱させて混戦に持ち込める。乱戦になれば、技量とスタミナに勝るヴァルキリーの勝利に疑いはない!」

「イエス、マム!」

 ヒルデがタングニョーストと盛り上がっている。

「あのう……これは城跡を復元したもので、リアルの鬼とかドアーフは(^_^;)」

「え、リアルには居ないのか!?」

「あ、そうか…………なるほど、雪舟ねずみ、おまえといっしょだ」

「え、わたしとですか!?」

「雪舟ねずみ、お前は、雪舟が涙で床に描いたアンリアルのねずみだろ。それが、こうやってタクシーを運転してわたしたちを送ってきたんだ。この鬼ノ城の構えにも同じものを感じる」

「あ、アハハハ(*´□`*)」

「だとしたら……まぁ、中に入りましょう」
 
 イザナギさんがなにか言いかけて、遠い目をするが、吹っ切るようにため息をついて前に進んだ。

 
 楼門は柱こそ太々としているが、二階部分は壁も無い素通しで、粗末な板葺きの屋根が載っているに過ぎない。

 左右に続く城壁も土を掻き上げた上に申し訳程度の板壁が立っているだけの土塁、全体から受ける印象は痛々しい恐れ。

 なにか恐ろしいものが攻めてくるという恐怖に駆られ、大勢の者が突貫工事で造った印象。


 鬼ノ城というよりは……鬼を恐れる城。

 何者かが鬼の来襲を怖れ、人々に呼びかけ、おそらくは一年もかけずに大急ぎで造った避難のための城塞。

 そう思い至るとイザナギさんと目が合ってしまう。


 イザナギさんは、瞬間労わるようなまなざしになり、角髪(みずら)の頭を掻くと、ゆっくり楼門を潜る。

「桃太郎二号が一番乗り!」

「ちびのクセに前出んな!」

 桃太郎二号とケイトが子どものように国生みの神を追い越して、我々も後に続いた。

 

 ☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・049『宮之森城花火大会』

2023-08-24 10:04:45 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

049『宮之森城花火大会   

 

 

 ドーーン パチパチ  ドーン ドーン パチパチパチパチパチパチ

 待ってましたッ!

 た~まや!  か~ぎや!

 

 花火に声援を送る人って初めて見た。

 

 1970年でも、さすがに珍しいらしく、子どもたちはケタケタ笑い、浴衣姿の女の子たちが笑いをこらえ、屋台のオッチャンたちはニコニコしている。

真知子:「ロコもやってみたらぁ」

ロコ:「アハハ、さすがに(^_^;)」

佳奈子:「たみ子も来られたらよかったのにねぇ」

真知子:「たみ子がいたら、ぜったい迷子にならないよね」

ロコ:「そうですよね『なにかあったらたみ子さんのところに集合!』にできますからね(^▽^)」

 たみ子は身長178センチ、そのうえ姿勢がいいもんだから、人ごみの中に居ても首一つ分高くて目立つ。

 だから、ちょっとはぐれても、たみ子を見つければ迷子にならなくて済む。

 たみ子はお母さんに付いて行って里帰り。万博に行くので無理を言っていたので行かざるを得なかったんだ。

 

 宮之森城花火大会

 

 令和では廃止になっている。

 宮之森上は規模の割に堀が大きいので、本丸から打ち上げて、堀の上で炸裂するように工夫されている。

 つまり、城山の分だけ高く打ち上げられるので、よりきれいに見えるので大正時代から行われて、宮之森の風物詩になっていた。

 でも、平成のはじめごろ、花火の燃えカスが堀に落ちないで三の丸の林に落ちて山火事になりかけた。

 それ以来、隣の大浜市の花火大会に吸収合併されてしまった。

ロコ:「ウフフ、浴衣にもあいますね」

わたし:「え、あ、そう? ちょっと勇気いったんだけどね(n*´ω`*n)」

真知子:「あ、気が付かなかった!」

佳奈子:「わあ、すてき!」

わたし:「え、あ、やだあ!」

佳奈子:「隠さないで見せてよぉ」

真知子:「どれどれ……」

わたし:「ちょ、しゃがんで見ることないでしょ(^_^;)」

 ロコの発案でガガーリンバッチを帯締め代わりに付けてきたんだ。――ええ!?――って最初は思ったんだけど、じっさい付けて見ると違和感が無くて、花火を見ているうちに忘れてしまっていた。

 

 ドドドーーーン パチパチ

 

わたし:「そろそろクライマックスかもよぉ」

 はんぶん照れ隠しだけど、花火大会は佳境に入っている。

ロコ:「じゃ、穴場に行きましょう!」

みんな:「「「穴場ぁ?」」」

 

 ロコに先導されて堀を渡ってつづら折れの小道を10分余り、ちょっと汗はかいたけど、絶好の特等席。

 

ロコ:「月見曲輪の跡なんです」

真知子:「月見?」

ロコ:「はい、むかし、お殿様が家来の人たちとお月見とかするのに作られた曲輪らしいです」

 ドドドーーーン パチパチ

みんな:「「「「おお!」」」」

 目の高さというほどでは無いけど、堀端で見ているよりは間近で花火が炸裂。確かに穴場だ。

 

 ドーーーン パチパチ  ドドドーーーン パチパチパチパチ

 

 た~まや!  か~ぎや!

 

真知子:「フフ、ご贔屓さんもやって来るみたい」

 花火を声援する声が、少しずつ近づいてくる。

 

 ドーーーン パチパチ  ドドドーーーン パチパチパチパチ

 もろに炸裂の瞬間を見てしまい、お日様を見てしまったみたいに鼻がむずがゆくなる。

 

わたし:「ハァ……クション!」

 

 ピシュ!

 

 え?

 

 耳もとを超高速でなにかがよぎった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

  

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:198『雪舟ねずみ』

2023-08-24 06:46:45 | 時かける少女

RE・

198『雪舟ねずみ』テル 

 

 


 総社市に着いたのはいいが、ちょっと困った。


 ここから先は中国山地なのだ。

 オノコロ島からここまでは、淡路島、あるいは四国の海沿いをたどり、岡山から総社市までは桃太郎鉄道に乗るだけでよかった。

 しかし、山地を行くとなれば、今までのようなわけにはいかない。

「桃太郎二号、鬼ノ城までのルートは分からないのか?」

「えと……『ま』はいいけど『ろ』はダメだ」

「なんだ、それは?」

「あったまわりーなあ!『ま』と『ろ』じゃぜんぜんちげーだろ!」

「テル、それは鬼ヶ島の『ま』と鬼ノ城の『ろ』だよ」

「え、ああ、タングニョーストは察しがいいなあ」

「長年トール元帥の副官を務めている、魔族や蛮族とのコミニケーションには慣れているんだ。そうだろ、桃太郎二号」

「そ、そうだけどよ、オレって蛮族なのか?」

「気にするな、悪い意味ではない」

「蛮族のどこにいい意味があるんだ? 蛮の字には虫とか付いてるじゃねえか!」

「それは虫さんに失礼だろ」

「う」

「呼び方などに意味はない。呼び方にどんな気持ちを載せるかが重要だ。犬という言葉に蔑みの心を載せれば『スパイ』とか『卑しい奴』ということになるが、親しみの心を載せれば『人類の友』『良き相棒』になるだろうが」

「そうか、そうだな。桃太郎にとって犬は猿・雉と並んで仲間だもんな。うん、悪かったタングのネエチャン。オレもネエチャンのこと犬って思うよ!」

「お、おう(^_^;)」

 こんなに喋るタングニョーストは初めてだ。なんか微笑ましくって笑ってしまう(^_^;)。

 

「そんな話をしているから、変な動物がやってきたぞ」

 

 ヒルデが顎をしゃくる、腰のエクスカリバーには触らないので警戒はしていないようだ。

「やあ、キミは雪舟ねずみ君ではないですか!?」

「これは、イザナギの命さま」

「あ、微妙に長いからイザナギでいいよ」

「恐縮です、岡山の観光課から『イザナギノミコト御一行様が来られる』と聞いてご案内にまいりました」

「『せっしゅうねずみ』ってなんだ、イザナギのおっちゃん?」

「ああ、総社市っていうのは画聖の評判も高い雪舟さんの故郷なんだよ。雪舟さんというのは、絵の好きな小僧さんでね、毎日絵ばかり描いているので、『これでは立派な坊さんには成れない』と案じた和尚さんが雪舟を本堂の柱に括り付けてたんだ」

「なんか、虐待だな(^_^;)」

「それで、雪舟は悲しくて涙がポロポロ出てきてね、雪舟は、その涙を足の親指に付けて本堂の床に鼠の絵を描いたんだ。夜になって、心配した和尚さんが見に行くと、なんと、その涙で描いた鼠が動き出した!『これほどまでに絵が好きで上手なら、もっと絵の勉強をさせてやろう』って絵を描くことを許したんだ。そうだったね、雪舟ねずみ君」

「はい、いえ、わたしなどはつまらない鼠ですが、雪舟さまは偉大な水墨画家になられ、残された六つの作品は国宝の指定を受けております」

「「「「なるほどぉ(゚д゚)!

「雪舟さまから、日本の文化や歴史を大事にするお方がいればお助けするように申しつかっております。あちらに車を用意いたしましたので、どうぞお乗りください」

 

 ということで、雪舟ねずみ君のワゴン車で、鬼ノ城を目指すことになった。

 

「フフフフ」

「なんだよ、気持ちわりーぞ、タングニョ-ストのネエチャン?」

「おまえ、蛮族という言葉には反応したが魔族はスルーだったな」

「ったりめーだろ、オレは魔法なんて使わねえからな」

「そうかぁ、キビダンゴで仲間を増やしたり、怪我人も出さずに鬼退治を済ませたり、微妙に魔法のにおいがするぞ」

「え、そうなのか?」

「ちょっと強引で礼儀知らずだが、そういう力はありそうだ」

「あ、オレは、まだ鬼退治してねえし(-_-;)」

「桃太郎二号くん」

「なんだよ、イザナギのおっさん?」

「桃太郎の元は吉備津彦です。吉備津彦は神だから、一号も二号も元はいっしょだと思います。チャンスがあったら、吉備津彦神社に行きましょう」

「えらい神社なのか?」

「備前の一の宮です。桃太郎の本籍地と言っていいでしょう」

「そ、そうなのか」


 その時、カーラジオが気になるニュースを流し始めた。


『一の谷、屋島と苦杯をなめてきた平家ですが、今度は、長門の国に本拠地を移しました。今回は前回以上に水軍に力を注ぎ、壇ノ浦を主戦場にするべく準備と訓練を進めております。二回の敗戦に、平家軍は人事を刷新すべく、有能な人材を求めており、水面下では屋島の戦いにおいて見事に扇を射落とした那須与一を狙っている模様です。那須与一は的を射る立場から射られる立場になるのかと評判で……』

「どこかの夜市でナスビを売り出してんのか?」

 桃太郎二号のトンチンカンで、その場は笑ってお終いだったが、重要な問題だと思った。

 もし、平家が返り咲くようなことになれば、日の丸は、白地の赤丸ではなく赤地の白丸になってしまう。

 いや、しかし今は、黄泉の国だ。いかにしてイザナミノミコトを取り戻すかなんだ。

 そして、取りあえずは、鬼ノ城。

 桃太郎二号に決着を付けさせなければならない。


「おお、見えてきたぞ!」


 ヒルデが指差した尾根に鬼ノ城の城門が見えてきた。


 

 ☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎

 

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鳴かぬなら 信長転生記 139『信長版西遊記・崖崩れ』

2023-08-23 15:44:16 | ノベル2

ら 信長転生記

139『信長版西遊記・崖崩れ信長 

 

 

 玉門関を出て、砂漠を南東に進んでいる。ここからは河西回廊(かせいかいろう)だ。

 三国志の舞台である中原とシルクロードの舞台であるゴビ砂漠を繋いでいるのが、この河西回廊だ。

 

 扶桑(転生国)の感覚で回廊というと、学校の渡り廊下、せいぜい学院と学園を結ぶ川沿いの田舎道を思い浮かべるが、そんなケチなものではない。

「大坂と京を結ぶ京街道のようなものかブヒ?」

「そんな、ケチなものではないぞウキ」

「京街道がどれほどのものかは知らんが、東は楼蘭、西は、さっきまで居た玉門関までのおおよそ1000キロほどの地域だッパ」

「1000キロブヒ!?」

「グーグルマップで見てみろウキ」

 俺は物事を数量的、視覚的に捉える。理屈で物事を捉えては失敗する。

「ええ( ゚Д゚)! 尾張から白河の関……どころか、ほとんど津軽あたりまで行ってしまうブヒ!」

 スマホの画面を見てたまげる八戒。

「あ、ああ、三国志の世界はスケールが大きいからッパ」

 他の三国志人が言うと――どうだ、中華はでかいだろーが<(`^´)>――と鼻につく自慢になるのだろうが、茶姫のそれは――無駄に大きい(-_-;)――というニュアンスになる。大きいがゆえに王や皇帝の権力は強くなり、強くなるがゆえに、能力のない者や、悪党がその地位に着いた時の災厄は計り知れないという怖れと疎ましさが滲んでいる。

「この1000キロを歩いていくのかブヒ!?」

「仕方ないだろ、ウキ」

「玉門関までは一気だったのにぃブヒ」

「紙飛行機の性能がよかったからだ。忠八には感謝だウキ」

「じゃあ、いっそ飛行機で行けばぁブヒ」

「曹操を謀るんだ、並の事ではすぐに見破られるッパ。時間をかけて西遊記一行としての評判を上げ、味方を増やし、策も練らなければな……」

「扶桑は、みんなの心が一つになっている。大丈夫だ、茶妃」

 最後の方は「ッパ」も「ウキ」も忘れてシビアになってしまった。

 敦煌までは、砂漠や半砂漠の荒れ地が続いていて、きちんと整備されているわけではない。

 ときどき立ち止まっては、岩の上や木に登って様子を探る。

 

「あれ、崖崩れだ、ブヒー!」

 ジャンケンに負けて岩に上った八戒が叫ぶ。

 

「少し遠回りかなッパ」

「俺も見てくる、ウキ」

 岩に上がって、小手をかざすと様子がおかしい。

「崩れ方がおかしい……」

「どこがおかしい、ブヒ!?」

「八戒が指差した一角だけが崩れていて、他のところはひび割れも無く、穏やかな谷が続いているウキ。だれかが意図的に崩して……あちらの古道の方に誘導しているんだウキ」

「誘導?」

 あの崖崩れの向こうに見られたくないものがあるか、それとも……誘導された古道の向こうになにかの悪だくみがあるのか。

 信長らしくもなく迷いが生じた。岩の上からは彼方に敦煌の仏塔も霞んで見える。一気呵成に進めない距離でもない。いや、だからこそ慎重になるべきという気もする。

 その迷いを見透かしてか、沙悟浄も上がってきた。

「なにを迷っているッパ?」

「いや、すまん。崖崩れはしれているんだが、つい、景色に見惚れてしまったウキ」

「フフ、阿倍仲麻呂も西域には憧れておった。扶桑人は旅愁を誘われるのかもなッパ」

「ハハ、迷うまでも無い、敦煌の仏塔も見えている。ここは回り道をしておこうウキ」

「ブヒ、三蔵法師が!?」

 八戒の声に振り返ると、馬上の鞍に三蔵法師の姿はなく、丑寅の方角に砂煙が上がっている。

「ッパ! 連れ去られた!」

「ウキ! まだ遠くない、追うぞ!」

 

 三人揃って馬に飛び乗ると、砂煙を追って走り出した!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

 

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RE・かの世界この世界:197『桃太郎鉄道』

2023-08-23 06:37:32 | 時かける少女

RE・

197『桃太郎鉄道』テル 

 

 

 パオ~~ン


 のどかに警笛を鳴らし、桃太郎鉄道は岡山駅を出発する。

 ゴトンゴトン ゴトンゴトン

 二両連結の列車はジオラマのオブジェのような山の裾を巡ると、直ぐに小川を跨ぎ、お伽話の挿絵のように穏やかで可愛い山の谷間に入る。

 途中の踏切では通学途中の小学生が手を振って、牛が「モオオ~」と鳴き、空にはトンビがピーヒョロロ。

 さっき渡った小川は、いつの間にかせせらぎの音をさせながら鉄路に並んで流れている。

 まるで、身体が縮んで本当にジオラマの世界に入ったようだ。

 ゴトンゴトン ゴトンゴトン

 ケイトと桃太郎二号は、子どものようにシートの上で正座して景色に見入っている。

「うわあ!」

「開けてきた!」

 谷間を抜けると、一気に視界が開け列車は吉備平野に飛び出した。

 平野と言っても北海道のそれや、関東平野ほどに広くはなく、ムヘンのそれのように荒涼としていることもない。

 小さな山や村落が適度に散らばり送電鉄塔と相まって、いいアクセントになっている。

 うさぎ追いしかの山~小ぶな釣りしかの川~♪

 童謡の古典が口をついて出てきてしまう。

「あれは丘か? ところどころに形のいい森か小山のようなのが見えるが」

 ヒルデがあちこち指をさす。

「あれは古墳だよ」

「コフン?」

「ああ、昔の豪族たちのお墓、年月が経って森のようになったのよ。神域として祀られているものもある」

「そうか……イザナギ殿、あなたがイザナミさんと生んだ国は豊かで平和に成長しているではないか」

「恐れ入ります、これも桃太郎くんたちが努力してくれた結果でしょう。わたしとイザナミは器としての国を生んだだけです」

 なんと、謙虚な……と思ったら、ヒルデが目を赤くしている。

「麗しい……我が父は、世界を平定するのにかまけて、ここまでの国造りには気が回っておられぬ」

「ヒルデさん、それで、そのように甲冑をまとわれておられるのですか」

「ああ、けして父オーディンの大業を非難するものではないが、未だにラグナロクの戦略を練ることで手いっぱいの状況だ」

「お、俺もがんばるからな!」

 桃太郎二号が拳を上げて振り返る。

 シートに後ろ向きにお座りしてのファイティングポーズ。憎たらしい奴だが、ちょっと可愛い。

 思ったが、口にすると頭に乗るから言わない。

「あそこに城跡がある」

 タングリスがマップと景色を見比べて指をさす。

「城跡、あの公園のようなところがか?」

「はい、殿下、備中高松城とあります。秀吉という武将が、あの足守川を堰き止めて水攻めで落城させたとあります」

「なんと気宇壮大な……高松城の兵たちは水に溺れて死んだか?」

「いえ、勝ち目がないと降参し、秀吉も、それを受けて城主一人の命をとるだけで許してやったようです」

「え、そうなのか!? 我々の常識では皆殺し、さもなければ、次の戦いで最前線に立たせて敵の的にするぞ!」

「どうも、この国の有りようは違うようです」

「お、俺だって、降参してくれば、たとえ鬼でも優しくしてやるからな(;`O´)o」

「興奮するな桃太郎二号、シートが傷むだろーが!」

 ケイトに叱られて、格好がつかないので、きび団子をやけ食いする桃太郎二号。

「そろそろ総社市、ここからは山だから、ちょっと腹ごしらえして行こう」


 駅に着いて楽しく昼食をとる一行だったが、桃太郎二号はきびだんごの食べ過ぎで、胃腸薬を飲んだだけだった(^_^;)。

 

 ☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎

 

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せやさかい・429『新しい学校机』

2023-08-22 11:38:05 | ノベル

・429

『新しい学校机詩(ことは)   

 

 

 ブルーベルの鉢植えの横に二組の学校机。

 

「さくらが持っていけって言ったんだけど、ほんとにシックリ収まるわね」

 持ってきた本人が気に入ってしまった。

 フィギュア用で1/12サイズ。

 収録の仕事が終わって、声優の仲間とアキバに行って、ドールのお店でビビっときて買ったらしい。

「自分用じゃなくてね、最初から『詩ちゃんの部屋に似合う』って思ったんだって」

「ふふ、さくらって、そういうところあるよね」

「そうね以心伝心かな。さてと、ちょっとお庭見てくるわね」

「ごゆっくり」

 

 境内の花の世話をするような調子で部屋を出て行った。宮殿の庭だから手入れする必要なんてないんだけどね、楽しんでくれてるようで、娘としては気が楽だ。

 もう来なくっていいと言ったんだけど、お盆前にお母さんはやってきた。

 前回よりも調子のいい娘を見て「あんまりすることないなあ」と言いながら、まだいる。

 お寺のこともあるので――大丈夫かなあ――とカレンダーを見てしまう。

 お寺のルーチンは頭の中に入っているので、カレンダーを見ただけであれこれ思い浮かんで、やっぱり心配になる。

 

 クーークーー クーークーー

 

 寝息が聞こえて窓辺に目を移すと、バンとナンシーが机に突っ伏して寝息を立てている。

 これは、二時間目くらいに体育があった次の授業みたい。

 窓辺の席になると、こんな感じで寝てしまった。一時間寝てしまうことはなくて、たいてい5分か10分で起きる。先生も分かっているから起こされることは無かった。

 だから、わたしも頬杖ついて見ている。

 カクン

 腕がピクンとした拍子にナンシーが起きて、相棒の頭を張り倒す。

『イテ、なにすんのよ!』

『授業中に寝ちゃダメでしょーが』

『なによ、自分も寝てたくせにぃ』

「おはよう」

『『ヒャ』』

「気持ちよさそうに寝てたわね(^_^;)」

『え、あ、ちょっとの間よ、ちょっとの間』

『そうよ、ちゃんと起きたし』

『わたしが起こしてあげたんでしょーがぁ』

「二人とも、その机でだいじょうぶ?」

 それまでの二人は、聖真理愛学院の学校机を使っていた。妖精の魔法で出したものだから、完ぺきに本物のミニチュア。お母さんが持ってきてくれたのは、プラスチック製で似てるけど違う。

『うん、とっても具合いいわよ』

『うんうん』

『あら、もう、あんなに日が高くなって、ちゃんと勉強しなくっちゃ』

『ああ、もう三時間目よ!』

 フフフ

 そのうちに飽きるだろうと思ったら、まだ学校ごっこを続けてるのよ、この妖精コンビは。

 

 あら?

 

 二人の窓の向こう、庭を民俗学学校の子たちが歩いている。

 ソフィーが先頭を歩いて……そうか、施設見学なんだ。

 こないだ入学式があったけど、あの子たち校舎の中しか知らないものね。

 学校は境目も無しに王宮の敷地に隣接している。というか、王宮の敷地の中に学校がある。

 王宮の敷地面積は堺市よりも広くて、ヤマセン湖なんて湖もある。

 王宮だから立ち入り禁止のところもあるし、レクチャーされなきゃ分からない。

『コトハは行かなくていいの?』

 ナンシーがズル休みを咎めるように言う。

『わたしは聴講生だし……』

 あの子たちは、まだ15・6歳。

『人間は、自分が歳だって思った瞬間から老けるのよ』

「余計なお世話」

『ねえ、あの子すごくない?』

『もう、ナンシーは惚れっぽいんだからぁ』

『あたしはコトハひと筋よ。そういうことじゃなくって……』

「ああ、あの子ね……」

 

 わたしも、ちょっと気になっていた。

 

 小泉やくも

 

 まだ喋ったことも無いんだけども――秘めた好奇心――みたいなものを感じた。

 タイプは真逆なんだけど、さくらと同族。

 それに……もちょっと観察しようかと思ったら、お母さんがガーデニングのエプロンに道具を持って現れて、顔見知りのソフィーがいるもんだから、町内会の感覚でご挨拶し始めた。

 ちょっと恥ずかしい。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:196『ペギーのだんご屋』

2023-08-22 06:48:05 | 時かける少女

RE・

196『ペギーのだんご屋』テル 

 

 

「おやおや、今度はだんご屋さんですか(^▽^)」

「いらっしゃいませ~₍ᐢ.ˬ.ᐡ₎」

「お待ちしてましたよ、御一行さま₍ᐢ.ˬ.ᐡ₎」

 

 イザナギさんが声をかけると、ペギーとバイトの女の子が笑顔で出迎えてくれる。

 

 二人とも柿色の作務衣にウグイス色の前掛けを掛けて、いかにもだんご屋という感じだ。なぜか二人とも白いウサ耳を付けている。

「地域振興を兼ねてましてね、因幡の白ウサギですよ」

「ああ、もうそんなところまで気を遣ってもらってるんですかぁ」

 恐縮して頭を掻くイザナギさん。

「そんなところというのは?」

「なんにも知らねえんだな、ヒルデのねえちゃん」

「北欧神だからな」

「因幡の白ウサギだろ、おばちゃん?」

「ああ、そうだよ。岡山は二号が現れるくらい桃太郎が有名だけどね」

「二号で悪かったな」

 口を尖らせる桃太郎二号、やっぱり気にしてるんだ。

「うふふ( ´艸`)」

「あ、白ウサギ、笑ったな!」

 テヘペロをかます白ウサギ。愛想はいいが、なんか無口だ。

「サメを相手に喋り過ぎたんで、気を付けてんのよ」

 ああ、騙したことをわざわざ言って赤裸にされたもんね。

「まあ、だんご買ってくれた人の一割でも島根や鳥取に足を伸ばしてくれたらって、協力させてもらってんの」

「でも、インバウンドとかで外国の客とかは増えてんじゃねえのか?」

「…………いくらかは」

 困ったように微笑む白ウサギ。

「しっかり増えてりゃ、この子も岡山までバイトには来ないさ……あ、きび団子だろ?」

「あ、そうそう。五人前」

 ケイトが桃太郎二号の肩に手を置く。

「うん? え、オレが買うのか!?」

「当たり前、きび団子と言えば、桃太郎がお供に配るものってのがデフォルトでしょーが」

「けっこうおいしいぞ」

「うんうん」

 いつの間にか、ヒルデとタングニョーストが試食している。無口だけども白ウサギも商売がうまい。

 桃太郎二号がしぶしぶきび団子を、我々は装備やアイテムを買って準備を整える。

「あ、あれを預けたら」

 一通りそろったところで、ペギーが白ウサギに振った。コクコク頷いて、白ウサギは手紙の束が入った袋を取り出した。

 袋には「黄泉の国宛て」と書いてあって、郵便番号は000―0000となっている。

「黄泉比良坂(よもつひらさか)の前で手紙を焼くと、亡くなった人に届くって言われてるのさ」
 
 へえ!

「買い物してくれた人へのサービスで始めたら、けっこう集まってね、シーズン終わってから行ったんじゃ、ちょっと遅くなるしね」

「ええ、なんかめんどくせえ」

「それに、きっと役に立つ。きび団子も二割引きにしといてやるからさ」

「お、おう、それなら頼まれておいてやる」

「鬼ノ城へは、桃太郎鉄道で総社市まで行ったほうが道が開けてるよ、マップも付けとくよ」

「ありがとう、ペギー」

「気を付けて!」

 エビス顔のペギーと無口な白ウサギの笑顔に送られて岡山駅を目指す。

 出店を十メートルほど離れると、スイッチが入ったように店が賑やかになる。

「うっわー、すっげーお客!?」

 桃太郎二号がビックリ、イザナギさんは恐縮したように頭を掻く。

 どうやら、わたしたちの相手をするために魔法で客足を停めてくれていたみたいだった(^_^;)。

 

 ☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎

 

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銀河太平記・177『トラコン・1』

2023-08-21 14:32:51 | 小説4

・177

『トラコン・1』須磨宮心子内親王 

 

 

 水・金・地・火・木・土・天・海・冥 

 

 冥王星は200年前に太陽系の惑星グループからは外されたけど、冥まで言わないと語呂が悪いので、200年後の今でも言う。

「水・金・地・火・木・土・天・海・冥はおまけで」とか「水・金・地・火・木・土・天・海・冥は名誉会員」とかね。

 初等科で太陽系の順番を習った時も、この語呂合わせで習った。

 先生は「長年仲間だったんだから語呂合わせぐらいには入れてあげよう!」と教えてくださった。

 冥王星が太陽系惑星から外されたのは、20世紀にエリスという10番目が見つかったことが原因。

 エリスは太陽系の外側で大きな楕円軌道を描いて560年ほどかけて太陽系の外周を周っている。

 だったら、エリスも10番目の惑星に……とはならなかった。

「太陽系の中にはね、惑星とは呼べないんだけど、太陽の周りを周っている小惑星が何万とあるんだ。その中には冥王星ほどの星もあって、そういうのも入れたらキリがない。だから、準惑星とか小惑星とかいうカテゴリーにしている。でもね、そういう準惑星や小惑星も、ちゃんと太陽系の仲間なんだからね(^▽^)」

 そう教えてくださった。

 

 虎ノ門前派出所勤務を命ぜられたとき、その冥王星を思い出した。

 

 霞ヶ関の旧4丁目5丁目を、新たに虎ノ門にしたのは、ここに新しい町を作ったから。

 霞ヶ関の旧4丁目5丁目は、将来扶桑が拡大発展したら官庁街を拡大しようとして、ほとんど更地で保全されてきた一等地。

 ひところは民有地である神谷町を拡大して民間に払い下げようという声が大きかった。

 そこに、道隆さまの発案で集合住宅街が建てられることになって、あらたに虎ノ門の地名になった。

 

 虎ノ門コンプレックス、略してトラコン。

 

 実は、火星の政情は不安定になってきている。

 比較的安定していたマス漢や連合国も、相次ぐ政権交代や不正裁判、経済政策の失敗で不法移民が増えた。

 ほかの二十余りの国々は押して知るべしで、一部の余裕のある人たちは地球に移っていったけど、地球の各国は火星からの移住を厳しく制限し始め、昨年あたりからは合法的な移住はほとんど不可能になってきた。

 そして、行先は火星内。治安も経済も落ち着いている扶桑に向かうようになったわ。

 

 カキーーーン!

 

 ホームラン間違いなしの打撃音の後に――ウワアアア!――という子どもたちの歓声。

「あれは三階グラウンドですね」

 見上げると第二公園の三階フロアのバリアーを突き抜けたボールが数メートルバリアー突き抜けて消滅した。

「あ、イリーガル設定してる」

「まあ、数メートル、見なかったことにしましょう」

 念のためにボディーカメラをチェックするヒコ同心。

「うん、8.5m 大丈夫」

 トラコンの公園は重力制御されていて、三層構造になっている。

 パルスガエネルギーで、800坪の公園を三層にして使っている。一層の高さを20mに設定してあるので、VB(バーチャルボール)ながら野球をすることもできる。

 VBでも、昔とは違って、ちゃんと手ごたえがある。VBT(バーチャルバット)の真芯に当てれば、当たりに相応しい音と手ごたえがして、ついさっきのようにホームランにもなる。

 VBはVBTとVG(バーチャルグローブ)にしか反応しないので、どこでやってもいいようなものだけど、見た目にはリアルと区別がつかないので、道路に飛び出すと危険なので、公園の外に飛び出したボールは消滅することになっている。

 しかし、ゲームのバグのように空中で消滅すると興が削がれるので、システムをいじって消滅距離を伸ばす子もいるのよ。

 時間帯にもよるんだけど、おおよそ10メートルまでは許容範囲。それもボディーカメラで捉えた映像を町奉行所のAIで確認する仕組みになっている。

 公園に出入りする子、街をいく人たちの国籍はまちまち。

 不法を含めた移民の街だから、こんなもの。

 ただ、他の国のキャンプやコロニーと違って人種、国籍はまちまち。

 

 扶桑は、移民の人たちに混住の義務を課している。

 

 集合住宅の上下左右に同じ民族や国籍の者が隣り合わないようにしている。そればかりか、扶桑人の入居者も居て、その中に混じっている。混ざり合うことで互いを理解し尊重し合うという仕組みになっている。

「いやあ、わたしの発案じゃないですよ」

 制度が始まったとき、道隆さまに聞いてみた。

「え、上様のお考えではないのですか?」

「はい、250年も前にシンガポールのリークワンユー氏がやったことです」

「そうだったんですか」

「はい、良いことであれば、例え昔のことでも真似します」

 ただの真似なんかじゃない、移民歴が12年を超えると、居住の自由が認められ、扶桑国内どこでも住めるようになる。だけど、家賃も安く、ひところは官庁街になろうかというほどの土地なので治安も交通の便もよくて、積極的に引っ越ししようと言う人は出ないだろうと予測されているわ。

 パトカーは、第二公園前を過ぎてトラコンの中央に向かった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

  

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RE・かの世界この世界:195『岡山を目指して語り合ってしまう』

2023-08-21 06:52:26 | 時かける少女

RE・

195『岡山を目指して語り合ってしまう』テル 

 

 


 将来は宇野と岡山を結ぶ鉄道(宇野みなと線)ができる道を歩いている。

 
 天狗山を左に見ながら歩いていくと、正面に山(高旗山)。将来はトンネルができるらしいけど、今はまだ無いので左に折れて山すそを西に進むと一時間ちょっとで山が尽きて海が見えてきた。

「ええ、また海に出てきてしまったぁ(;'∀')」

 ケイトが文句を言う。

「あ、ちがくて。児島湾が回り込んでんだ。将来は埋め立てられて田んぼがいっぱいできて、残ったところは児島湖って人工湖としては世界二位の湖ができるんだ」

「ん……アフリカとかにもっと大きな人工湖があったはず、長江の三峡ダムのせき止湖なんか瀬戸内海よりも大きいはずだ」

「ちがくて、堤防で海を仕切ってできた湖だ! そういう人工湖の中じゃ世界で二番目なんだ、そーいう意味だ(>∀<)」

 へえーーー

 なんか無理に――すごい!――と言ってるようで、みんな感動が薄い。

「ハハ、これは桃太郎二号くんの郷土愛です。わたしは素敵だと思います」

「そ、そうだろ! イザナギのおっさんは大人のくせに偉いぞ!」

「いや、わたしこそ、ややこしい地形にして申し訳ない」

「え、なんでおっさんが謝るんだ?」

「なんにも知らないんだなあ、日本の島々を生んだのは、このイザナギさんなんだぞ」

 ケイトがオネエサンぶってマウントをとりにくる。

「え、そうなのか!?」

「いえいえ、地形が複雑で、みなさんにはご迷惑をかけています」

「え、あ、いや……これはこれで、変化があって楽しいからいいんじゃね(^_^;)」

 イザナギさんはよくできた神さまだ。こんな桃太郎二号みたいなやつの気持ちも、ちゃんと労わってやっている。

「それにね、桃太郎二号くん」

「ん?」

「国生みは、妻のイザナミとやったことです。わたし一人の手柄ではありません」

「そうなのか?」

「はい、大変だったのは妻のイザナミの方です。国生みの他に、たくさんの神々も生んでくれました。わたしは、傍にいて見守ることの方が多かったです」

「それは謙遜でしょう、イザナギ殿も大変だったのは、わたしたちも見ていた。なあ、テル」
 
「はい、ヒルデの言う通りです。なあ、桃太郎二号……我々は、なんでこんな旅をしていると思う?」

「え……あ……他にいい土地がないか探してるとかじゃねえのか? あ、いい意味でよ。フロンティアスピリットとか言うだろ」

「実はな、最後に火の神を生んで、奥さんのイザナミさんは焼け死んでしまったんだ」

「え、そうなのか!?」

「イザナミさんは死んで、黄泉の国に行ってしまったんだ」

「ヨミの国?」

「死んだ者がいく世界だ」

「死んだらおしまいだろ、ちがうのか?」

「そうですよ、桃太郎二号くん。でもね、国生みはとても大切なことなんです。わたしの不注意で死なせてしまいましたが、ここは、なんとしても妻を取り戻さなくてはなりません。それで、ここにいるヒルデさん、テルさん、タングニョーストさん……みなさんがお手伝いしてくださっているんです。ありがたいことです」

「ありがたいのは、こちらの方ですよ、イザナギ殿」

「ヒルデさん?」

「このブリュンヒルデも、人の死に向き合うことを運命づけられています。わたしの場合は、ラグナロクという最終戦争の担い手にするために戦死する兵士を選抜するんです。つらい任務ですが、この地上で行う仕事ですから、黄泉の国に向かうイザナギさんとは比較になりません」

「そうだったのですか……」

「姫、それは違います。主神オーディンは、そのことを隠して姫に命ぜられました。姫は、兵たちに来世での平穏を与えるつもりで戦死者を選んでおられたのです。『長年ご苦労であった』と唇が動いていたのを、自分もタングニョーストも知っておりました」

 背嚢の骨もカサリと音を立てる。

「ありがとう、タングニョースト。しかし、結局は死者に平穏に向かわせるのではなく地獄の最終戦争に墜としていたんだ。その張本人なのだよブリュンヒルデは。その罪と、もしあるとしたら、その意味を勉強できたらと思っている」

「姫……」

「父、オーディンに向き合うために、イザナギ殿に与力することの意味は大きいんだ。まあ、そういうことだから、イザナギ殿、負担には思わないでくれ」

「……なんか、神さまってたいへんなんだな」

「だと思ったら、おまえも励め、桃太郎二号」

「お、おう(^_^;)」

「ちょっと気になっていたんですが」

「なんだい、イザナギのおっちゃん?」

「成行きのまま『桃太郎二号』って呼んでますが、いいんでしょうか、なんだか失礼なような気がしないでもないんですが」

「微妙に長い気もする」

「んなことねえよ、ケイト」

「そうか?」

「うん、二号をくっつけて桃太郎二号って……なんかカッケーしな。思わねえかケイト?」

「お、おお」

「人それぞれのアイデンテティーですね。こちらこそ、ヒルデさんのお話もうかがえましたし……おお、いい匂いがしてきました」

 橋を渡ると岡山の街というところで、ペギーがきび団子のノボリを上げて出店を開いていた。

 

 ☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎

 

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くノ一その一今のうち・71『高原の国に降り立つ』

2023-08-20 10:13:12 | 小説3

くノ一その一今のうち

71『高原の国に降り立つ』そのいち 

 

 

 ゴォーーーーーーー

 

 わたしたちを乗せてきたC130は、あっという間に飛び立って、高原の雲に隠れて消えてしまった。

「すごいね、この滑走路は軽飛行機がやっとなのに……」

 ミッヒが眩しそうに空を見上げ、自衛隊の操縦テクニックに見入っている。

 

 わたしたちは、数カ月ぶりのC130に乗って高原の国にやってきたところだ。

 

 目の前には誰が見ても軽飛行機がやっとという感じの500m滑走路。

 航空自衛隊のC130は折り返して、PKOに参加していた自衛隊員と在留邦人を乗せて日本に引き揚げていく。

 わたしたち徳川物産関係者は、あのC130に乗ってきて、100人の引き上げ組と交代したところ。

 草原の国に行った時は米軍のC130だったけど、今回は自衛隊機。

 草原の国での活躍を知った日本政府は「今回はわが国で」言ってきた。

――成功した時の保険だ――

 百地社長は口をゆがめたけど、徳川社長は鷹揚に付け加えた。

――なあに、針は確実にこちらに傾いている。進歩ととらえましょう百地さん(^□^)――

 

 実は、草原の国が急速に軍備を整えて周辺の国に攻め入る気配なんだ。

 木下豊臣家が甲府から持ち出した甲州金は甲府と大阪城で少しは取り戻したけど、けっきょく7割ほどは持ち出され、その資金で、さっそく草原の国の軍備拡張に乗り出した。

 にわかに勢いづいた草原の国は、隣り合う高原の国に手を及ぼうとしている。

 そのためにドイツからミッヒが招かれ、徳川物産は全力を挙げて対抗するんだ。

「あららぁ、ネットニュースでは『自衛隊、成果を上げて高原の国から撤収』と出てるわ」

 まあやがスマホを見せてくれる。

「ええと……え?」

 画面をスクロールすると、C130を見送るわたしたちの後姿。

「『脚本家三村紘一氏は、三村組と呼ばれるチームを結成し新作映画「バトル オブ ハイランド」の制作準備に入る』だって」

「ええ!?」

 なんちゅう欺瞞! 実体は自衛隊のPKOだって引き上げるくらいに危機地帯だっちゅうに!

 

 お~い、みんなぁ~!

 

 空港事務所に手続きに行っていた三村先生と桔梗さん(徳川社長の秘書)が軽やかに駆けてきた。

 なんだか、新作映画の準備どころか、みんなでバカンスに来た感じ。

「王女殿下がお迎えに来られることになりました、もう少し、このままで待ってください」

 桔梗さんが穏やかに予定変更を伝える。三村先生は膝に手を付いてゼーゼー言ってる。

「いやあ……酸素が薄い……桔梗さん、あと頼む」

「はい、承りました。高原の国は国王がお体を悪くされて、皇太子が摂政になっておられますが、実際に国政を担っておられるのは王女のアデリヤ殿下です。率直なお方ですが根は国と国民を思い、日本にもリスペクトの御心をお持ちの方で……」

「桔梗さん、こ、来られたようだ……」

 苦しい息で三村先生が指差したゲートから、ごっついトヨタがパトカーを従えて入ってきた。

 

 キーーー! バタム!

 

 ポニテで高身長の戦闘服が降りてきた。

 

「高原の国第一王女のアデリヤである」

 

 その第一印象は、女マッカーサーだった(^_^;)

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

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RE・かの世界この世界:194『桃太郎二号』

2023-08-20 06:03:21 | 時かける少女

RE・

194『桃太郎二号』テル 

 

 

 なんともだらしない桃太郎だ。

 

 鎧は脱いでしまって籠手と脛当(すねあて)だけの小具足姿。

 直垂(ひたたれ)の前ははだけてしまって、汗みずくのTシャツが覗いている。

 Tシャツにはプリントされた文字の一部が覗いている。

 負と働の上半分だ。

 ぜんぶ読まなくても分かる……『働いたら負け』だ。

 
「関りにならない方がいいようですね……」


 イザナギさんが、ソロリ、わき道に入って行こうとして、わたしたちも無言でそれに倣う。

「おい、そこのテメーら! 無視すんじゃねーよ!」

 声だけなら、それでも無視するんだけど、桃太郎はドタドタと駆け寄ってきて、ケイトのシャツの裾を掴んでしまった。


「おまえたち、オレのお供決定な!」

「え?」「なんだ!?」「いやだ!」「断る!」「なんで?」「カサコソ!」

 五人五様プラス背嚢のタングリスが応えるが、桃太郎はかまっちゃいない。

「わき道には、センサーがしかけてあってよ。踏んだら『承諾』のサインが点くようになってんだよ!」

 足元を見ると『承諾』と書いてある。

「桃太郎くん、これじゃ、なんの承諾か分からないと思うんだが(^_^;)」

 イザナギさんが穏やかにたしなめる。

「よっく、見てみろよ」

「「「「ん?」」」」

 四人で見下ろすと『承諾』の文字はゆっくり流れて次の言葉が現れる、電光掲示板のように繰り返されていく。


 ……とみなす……ここを踏んだら 桃太郎のお供になることを承諾したものとみなす……ここを……


「さ、詐欺だ!」

 ケイトが唇を震わせながら抗議する。

「ふ、震えんじゃじゃ、ね、ねーよよよ……」

 ケイトの震えが伝染した震え声で桃太郎。

「仕方がない、とりあえず、話だけでも聞いてあげますか」

 イザナギさんが触れると震えは停まって、桃太郎が居た木陰まで行って話を聞くことにする。

「手短にな、わたしたちにも使命があるのでな」

 ヒルデが『使命』と言ったのでイザナギさんは、ちょと感動の様子。

「お、おう(-_-;)……えと……」

 ぞんざいに見えるが、話を手短にまとめようと焦っている。

「オレはな、桃太郎二号なんだ」

「「「「二号?」」」」

「一号はお婆さんに拾われて無事に桃太郎になった。よくできた奴なんで、爺さん婆さんが『蝶よ花よ(^▽^)/』て大事にしてな、こないだ鬼退治済ませてきやがった」

「おまえが二号っていうのは?」

「一号のあとに、もう一個桃が流れてきたと思え」

「あ、それが、おまえなのか?」

「婆さんは、二つも桃はいらねえ。無視しやがった」

 プ( ´艸`)

「笑うな!」

「すまん、続けろ」

「それで、もっと川下の方に流されて、桃は腐ってきた。それを見て気の毒に思った別の婆さんが拾って、家に持って帰って、爺さんといっしょに桃を割って、出てきた瀕死の桃太郎がな……おれさま……ってわけよ」

「それでクサってたわけか……」

 プププ(* ´艸`)!!

 ケイトに悪気はないんだけど、二号桃太郎の本質を突いてるので、またも笑ってしまう。

 今度は、抗議する元気もなさそうだ。

「そのお前が、なんで鬼退治?」

「うちのジジババは真面目なんだ……真面目だから、腐りかけた桃も拾ってくれたし、この歳までニートしてんのも文句言わなかったし……オレも鬼退治くらいしねえとな。は、働くのとは違うからな」

「それで……」

「でも、ずっとニートやってたし、二号だし……なかなか、お供のなり手がなくってよ……」


 そうか……


「よし、では、たった今からお供だ!」

「姫!?」「ヒルデ殿!?」「ええ!?」「ヒルデ!?」「カサコソ!?」

 みんな驚いた。

「桃太郎二号、おまえがな」

「え?」

「いいだろう、イザナギさん?」

「そうですね。これからは中国山地に入ります、おおむね北の方角に行けばいいんですが、道案内があった方が無駄をしなくて済むでしょう。桃太郎二号くん、君は、このあたりの地理には詳しいんだろ?」

「あ、ああ、地元だから詳しいけどよ、それじゃおいらの鬼退治が……」

「鬼退治は桃太郎一号くんが成し遂げて、残っているのは、いわば鬼の落ち武者。もう手向いもせずにひっそりと暮らしている者たちでしょ。そんなのをやっつけても手柄にはなりますまい。どうですか?」

「でも……」

「鬼の被害はどうです? 見渡した感じ平穏に見えるんですが」

 イザナギさんの言う通り、屋島のように殺伐とした空気はない。空は澄んで、小川はサラサラ流れ、田畑も豊かに実っている。

「で、でも、桃太郎に鬼は付き物だぜ。行けば、きっと鬼の一匹や二匹に……」

「わたしが行く先には、高い確率で鬼が居ます。いや、なにも退治することが前提ではありませんが。いっしょに来れば、将来、大人になった時には役に立つでしょう」

「でも、退治しなきゃ話にならねえぞ」

「桃太郎二号くん、タイジというのは『退治』の他に『対峙』というのがあるんです。ほら、こんな字です」

 ほう……思わず見入ってしまう。

「向き合うという意味です。向き合って、その次に戦うとか話し合うとか決まっていくんですよ」

「そうなのか……」

「そうです。では、進みましょうか(^▽^)」


 イザナギノミコト、なかなかの人たらしだ。


 


 ☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・048『みんなで万博・3・ソ連館』

2023-08-19 16:51:44 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

048『みんなで万博・3・ソ連館   

 

 

 今朝も始発電車……とはいかなかったけど、7時には船場の町家を出て8時半にはゲート前に並んだ。

 

真知子:「いっそ、ソ連館はパスかなあ」

ロコ:「そうですねえ、マイナーなパビリオンなら待ち時間だけで10個は周れますよぉ」

佳奈子:「うん、ロスタイム長すぎ」

たみ子:「日本館は行ってみたいかなあ」

真知子:「グッチは?」

わたし:「あ……ううん……」

 

 実は、ゆうべスマホで調べてみた。

 わたしのスマホはMS仕様(魔法少女仕様)だから、1970年でも使える。

 正直、どれもこれもショボい。

 話題のソ連館は、ドッキングに成功したソユーズの実物大を見せてくれる。令和の時代ではすでにポンコツになっている国際宇宙ステーションは、ソユーズの数十倍の大きさがある。でもね、その国際宇宙ステーションが展示されてるといって観には行かないと思う。

 本当を言うと、ぼんやりと人を眺めているのがいい。

 直美さんと仕事でやってきて、直美さんはパビリオンなんかそっちのけで人ばかり撮っていた。

 明治や大正生まれのおじさんやおばさんが目をキラキラさせて、待ち時間もお連れさんたちと子どもみたいにお喋りしていて、そういうのを横で見ている方が楽しかった。

 でも「じゃあ、人を見ていよう!」なんて言えないよ。

わたし:「じゃあ、一応ソ連館目指して、待ち時間長いようなら、近場のパビリオンを観るってのでどうかなあ」

真知子:「そうね、やっぱ、初志貫徹。それでいこう!」

佳奈子:「よし、じゃあ、ロコ選手、いっぱい調べといてよ!」

ロコ:「了解!」

 

 それで、いざ開場になってみると、意外にソ連館が空いているというほどじゃないけど、30分も待っていたら入れそうな雰囲気!

 

ロコ:「やっぱり、ソ連館です!」

 ボールペンで指さしたロコの手元にはメモ帳がひらめいている。ビッシリと文字やら図やら計算式やら……ロコって、やっぱすごい子なんだ。いっそ、スマホを貸してやったら……ウソウソ(^_^;)

たみ子:「あ、やっぱり人が戻って来る!」

 他人より首一つ高いたみ子は列の後ろを見て感心。

真知子:「みんな同じなんだぁ」

佳奈子:「そうね、試合も中盤になって、敵も味方も対策は似てくるんだ」

 なるほど、早朝から並んでるのはリピーターが多くて、みんな初回でアメリカ館やソ連館は観ていて、微妙に敬遠してたんだ。で、少し落ち着いたら、意外に空いてる(それでも、30分とか1時間待ちとかなんだけどね)ってんで、戻って来るんだ。

 

 ソ連館は、なんか赤旗押し立てて行進してますってイメージ。正面のトップには共産主義共通のシンボル、鎌とトンカチ。まだまだ元気なころのソ連。

 

「「「「おお!」」」」

 昨日と同じリアクション。

 確かにソユーズの実物は迫力。ドッキングしてるのはレプリカだけど、実物大だからね。

 ソユーズの横にはガガーリン少佐の写真。最初に人工衛星に乗って「地球は青かった」とか言った人。

真知子:「いい男ね、ガガーリンて」

 真知子が感心して、みんなで見上げる。

わたし:「チャーミング……」

 ガガーリンの笑顔はアメリカ的だ。屈託のない100%の笑顔。ソ連人には珍しいタイプ。

ロコ:「まあ、ヒーローだし、ソ連の広告塔ですからねえ」

真知子:「死んじゃったしね」

わたし:「え、死んじゃったの!?」

みんな:「「「「は?」」」」

 声が大きかったので、他の人たちも何人か見てるし、ちょっと恥ずかしい。

ロコ:「グッチ、知らなかったんですか!?」

佳奈子:「飛行機事故で死んだんだよ」

たみ子:「うん、二年前。ケネディー暗殺ぐらいにショックだった」

真知子:「グッチ……」

わたし:「え、ああ……ど……(;゚Д゚)」

 ど忘れ……と言おうとして動揺した。

 ガガーリンなんて歴史上の人物、それも教科書の欄外の参考程度。令和のJKとしては名前知ってるだけでも上出来。死んだ年までは知らないし。

 ヤバイ、展開によっては未来人だってバレてしまうかも。

 ど忘れの『ど』は、どうしようの『ど』になってきて、涙が滲んできた。

ロコ:「グッチ……」

 と、わたしの横に人の気配。

「オジョウサン、ガガーリンを好いてくださってたんですね」

 赤いユニホーム、ソ連館のコンパニオンのロシア美人が立っていた。

「え、あ、あの……」

「わたし、ユリアといいます。ガガーリンと同じスモレンスクの人です、わたし。日本、情報多い。知らないこともあります。でも、いま知って悲しんでくれました。うれしいです。記念に、これもらってください」

 ガガーリンバッチをもらった。

「仕事あるので、これでね。ほんとにありがとうオジョウサン」

 ハ、ハグされた(#^_^#)。

ロコ:「これ、売店で売ってるやつじゃないですよ!」

真知子:「特別製!?」

たみ子:「うわあ、いいなあ」

佳奈子:「ガガーリンを愛していたのねぇ」

わたし:「ユリアさん?」

ロコ:「グッチのことですよ!」

わたし:「え、あ、それは……」

 なんだか周囲の人も感動してるっぽいし、そそくさと……いきたかったんだけど、みんなに付き合ってじっくり見て、ソ連館を出ようとしたら、ちょうどユリアさんがお見送り係り。親しみのこもった笑顔を返されて、顔が真っ赤になってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

  

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鳴かぬなら 信長転生記 138『信長版西遊記・玉門関・3』

2023-08-19 12:26:02 | ノベル2

ら 信長転生記

138『信長版西遊記・玉門関・3信長 

 

 

 アビラウンケンソワカ アビラウンケンニワカ ナムキミョウチョーライ オンマニパドメフム ナムアミナムアミ……

 

 玉門関の南曲輪は様々な念仏や題目、加持祈禱の渦だった。

 玉門都尉に足止めされた旅の坊主たちが、黄風大王の退散や調伏を祈願して念仏や祈願の真っ最中。

 名刹のお上人めいた高級坊主から、乞食同然の破坊主、ソプラノの尼僧 テルテル坊主にクソ坊主

 ありとあらゆる坊主が一心不乱に経を唱えているのは壮観だが、効き目などあるはずもない。

 玉門関西方の空は鈍色に曇って、曇りの上に刷毛でかき回したようなマーブル模様がうねって勢いを増している。

「すぐそこまで、迫っているか……ッパ(-_-;)」

「このままじゃ、やられるブヒ(;'∀')」

「ニコニコニコ……」

 沙悟浄は焦り、八戒は唇を震わせ、オブジェの三蔵はアルゴリズムで微笑むばかり。

『そこな御坊も早くいたされよ!』

 ガチャピーン!

 番卒はイラついて指さすと曲輪の門を向こう側から閉めてしまった。

「閉められてしまったッパ!」

「ブヒブヒ!」

「ブヒもなし」

「洒落てる場合か、ブヒ!」

「迎え撃つぞ、ウキ!」

「「どうやって!?」」

「デフォルトの美少女だったら何もできなかっただろうが、今は西遊記だ」

「これって、コスプレだし、ブヒ」

「見ろ、あのマーブル模様、おどろおどろしいが、あれは砂漠の砂が舞い上げられて、それらしい容になっただけだ。いわば砂嵐のコスプレ。コスプレ対コスプレ! やってやれないことはない!」

 俺は、頭の緊箍児(きんこじ=頭の金輪)に触れながら馬上の三蔵法師に寄る、一言「…………」呟いて鞍のピンを引き抜いた。

「え、取り外し式だったのブヒ!?」

「乗れ! 三人で立ち向かうウキ!」

「「おお!」」

 三蔵を下ろした玉龍(三蔵法師の馬)は三人を乗せ南曲輪の石畳を蹴ると、砂漠の空に舞い上がった!

「馬になにを言ったのよ?」

 八戒が素に戻って俺を睨む。

「ふふ『俺は桶狭間で奇跡の勝利を勝ち取った信長だぞ』ってな」

「ああぁ、そういう成功体験の自己模倣は失敗の元なんだぞ!」

「八戒、市に戻ってるカッパ!」

 沙悟浄が注意して、八戒に戻る市。

 本当は、なにを言ったか?

 それは内緒だ。

 織田上総介、これでも男の純情を知るにやぶさかではないんだぞ。

 頭の緊箍児は……憶えているか? 天照が付けてくれた一言主だ。元々は指輪の姿だったが、悟空になるにあたって緊箍児に化けている。

 男の純情と無口なコスプレの神に……まあ、ここまで付き合ってきた読者なら悟れ。

 

「沙悟浄! 月牙鏟(げつがさん)を振るえ!」

「承知!」

 月牙鏟とは沙悟浄の得物で、片側に半月の鎌、反対側にスコップみたいなのが付いていている長物の武器だ。

 妖怪の武器だけあって、それを振るえば、そのキャラに見合った能力を発揮する。

 馬上のまま沙悟浄が月牙鏟を旋回させると、玉門関を中心に半径二キロにわたって霧雨が降る。

 霧雨はマーブル模様の砂粒を取り込んで、瞬くうちに地上に落ちていく。

「え、これで済んだの、ブヒ?」

「いいや、地上に落ちたら本性を現す。叩き潰すぞ!」

「「承知!」」

 眼下を見下ろすと、砂漠にミミズが潜っているのではないかと思うようなのがグニュグニュ蠢き、すぐにゴリラほどの魔人になった。

「黄風大王の本性だ! 下りてやっつけるぞ!」

「「おお!」」

 

 水を吸って重くなった黄風大王は動きも鈍く、三人が三方から打ちかかると、三合で爆発飛散した。

 

「おお、導師の方々、ありがとうございました!」

 玉門都尉が一人ずつ手を取って礼を言ってくれる。

「いやいや、我らが立ち向かえたのも、お師匠が南曲輪で御祈祷してくださったからでござる。妖魔も退散したようなので、我々は先に向かうでござる」

「そうですか、それでは、この鑑札をお持ちください。ゆく先々の関や駅逓で水や食料、宿の斡旋などをしてくれます」

「おお、それはかたじけない。それでは、これにて」

 

 思いがけず、便利な鑑札をもらい、南曲輪でニコニコと合掌し続けている三蔵を馬に乗せ、敦煌を目指した。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:193『舟をこぐ』

2023-08-19 06:37:38 | 時かける少女

RE・

193『舟をこぐ』テル 

 

 

 

 平家が乗り捨てた舟がありますよ。

 

 岡山に渡る舟に困っていると言うと、与一が海辺まで案内してくれる。

「与一ですから、余りものを見つけるのはうまいんです(^_^;)」

 自虐的なんだけど、与一が言うと、なんだか和む。

「平家の大半は舟で逃げてしまいましたが、討ち死にした者や四国の内陸に逃げた者もいますからね、舟は余っています」

 大型の船は源氏が輸送用に接収しているが、十人程度が乗る舟は結構残っている。

「では、お気をつけて」

 自分の事は聞かれるままに話してくれた与一だが、こちらの事情は、ほとんど聞くこともなく、穏やかに送り出してくれた。あれだけのパフォーマンスを披露しながらも得意になる様子が無い。

「偉い奴だな、北欧なら手柄を吹聴しまくるぞ。またとない出世のチャンスだろうに……」

 ヒルデが惜しそうに呟く。
 
「有力御家人とはいえ、十一男、あまりに出過ぎた手柄だと兄弟や身内から妬まれるのでしょう。与一の母は身分も高くありませんからね。与一としては、年老いた母との暮らしが保証されれば良いという思いなのでしょう」

「国を産んで間がないと言うのに。そんなところまで見ているのだなあ、イザナギさんは……」

「あ、いえ。ほんの上っ面のところまでです。那須の土地はそんなに豊かではありません。言えぬ苦労もあると思います。わたしも、イザナミを取り戻すという大きな目的があります……」

 与一もイザナギさんも、そのあたりを呑み込んでのやりとりだったんだ。

 奥ゆかしくも歯がゆいと思うわたしは、まだ修業も苦労も足りないのかもしれない。

 

「わたしが漕ぎます」

 

 命ぜられたわけでもないのに、タングニョーストは舟の後ろに回って漕ぎ始める。

「背嚢持とうか?」

 ケイトが申し出るが、ゆるく首を振って、こう言う。

「こうやって担いでいると、タングリスと話しているような気になれるから」

 グイっと艪を握る手に力が入る。背嚢の中の骨もカサリと音を立てて、超重戦車ラーテを二人で操縦していた時のような感じになる。

 ムヘンの流刑地で出会ったのが、ずいぶん昔の事のように思われる。

 その、ずいぶんの昔から、タングリスとタングニョーストは、永遠のバディーなんだろう。

 

 瀬戸の海は夕凪、小さな舟だけど、ほとんど揺れることもなく進んで行く。

 あまりの穏やかさに、みんな寡黙だ。

「ふふ、ケイトが舟をこいでいるよ」

「え?」

 イザナギさんの言葉にヒルデの頭に『?』が立つ。

「コックリコックリ居ねむりするのを『舟をこぐ』って言うんだよ」

 説明してやると、タングリスと見比べて納得するヒルデ。

「なるほど、艪を漕ぐのに似ているな」

「はは、うまいこと言いますね」

 また、カサリと音がして、タングリスも笑ったようだ。

「北欧の海とは、まるで別物だな」

「これでは、エーギルもポセイドンも棲みようがないでしょう」

「そうだな、あいつらは、荒海でなければ窒息してしまうだろう。もし、やつらを連れてくるとしたら、武器は取り上げなければならないな」

「そうですね、あんなフォークの化け物を持って泳ぎ回られたら、この穏やかさは台無しです」

「海は海神(わだつみ)という子に任せているのですが、恥ずかしがり屋で、まだ姿を見せません」

 恥ずかしがりの神さまで間に合う海はありがたいなあ……と思っているうちに、舟は岡山の宇野に着いた。

 

 児島湖を右に見て少し西に行けば岡山は目と鼻の先だ。

 

 峠を越えると、なんだかヤケクソで呼ばわっている子どもの声が聞こえてきた。

「なんだ、あいつは?」

 ヒルデが眉を寄せる。

 ヒルデは、ヤケクソとかミットモナイが頭に付く奴は嫌いなのだ。

 

「お供になるやつ、絶賛大募集! 三食昼寝付き! 経験者優遇! だけど、未経験者でも優遇すんぞ! 給料は岡山名物のキビ団子! 定員に達し次第締め切りだぞ! 早いもん勝ち! 早いもん勝ちぃ!…………もう! だれかいねえかああああああああ!!」

 それは、ヤケクソでお供を求めている桃太郎だった……。 

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦) 

 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・047『みんなで万博・2・アメリカ館』

2023-08-18 17:33:05 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

047『みんなで万博・2・アメリカ館   

 

 

 

 前日は、夕方の7時には町家の宿舎に戻ってお風呂に入って寝た。

 

 ちなみに、これだけのお店なのに家風呂は無い。

 近くの、と言っても400メートルほど先のお風呂屋さんに五人で行った。

 これはこれで楽しい思い出なんだけど、主題から外れるんで、またいずれ。

 長旅の疲れと快適なエアコンのお蔭で、グッスリ眠れた。

 1970年なので、エアコンは諦めていたんだけど、さすがは船場のお店、業務用のごっついエアコンが撤去されずに残っていたので、超ラッキー! ちなみに、室内機は「あんたは自販機か!?」というくらいに図体も音も大きい。

「でも、同じようなのがお風呂屋さんにもありましたよ」

 ロコが言うと、みんな「そうだったっけ?」「あ、そうだった」と首を傾げたり頷いたり。

 まあ、それくらい家の中に居るのは反則って感じのエアコンではあった。

「このエアコンの恩恵を受けるんだから、電気代払わなきゃ申し訳ないよね」

 たみ子の呟きに、みんなで頷く。

 ちなみに、冷気の吐き出し口は、ちょうどたみ子の顔の高さで冷風独り占め。

 

「朝ごはん、どうしよう!?」

 

 起きるなり、佳奈子が叫んだ。

 五人も女子が居ながら、朝ごはんの事はすっかり抜けていた。

「どこかコンビニ探そうか」

 と言うと、四人ともこっちを向いた。

たみ子:「え?」

真知子:「こんび……?」

佳奈子:「なに?」

 あ、この時代にコンビニは無かったっけ!?

ロコ:「さすがメグッチ! それ、コンビニエンスストアのことですよね!?」

 え、ロコは知ってるの!?

ロコ:「一号店が、去年豊中にできましたけど、さすが万博の大阪でも、普及するには至ってません」

真知子:「なに、そのコンビニって?」

ロコ:「自分も見たことは無いんですけど、スーパーの小型版みたいな……」

 ロコの説明に耳を傾ける三人、ちょっと冷や汗が出た(^_^;)

 

 喫茶店のモーニングというプランも出たんだけど、ロコが「阪急のホームに立ち食いのうどん屋さんがあります!」と思い出して、ちょっとだけ遠回りして、おうどんとお握りで朝食。

 しょせんは立ち食いうどんと思ってたけど、けっこう美味しかった。

 宮之森は関東文化圏で、蕎麦やうどんの出汁はお鉢の底が見えないくらいに黒い。

 大阪のは透き通っていて、みんな頼りなさそうだったんだけど、食べてみると、すごくお出汁が効いていて美味しい。

 スタミナうどんというのにお握りが付いて160円!

 ちょっと得した気分。

 

 けっきょく、万博会場に着いたのは7時過ぎ。で、ゲート前には一学年分ほどの列ができていた。

 

 11時の開場まで汗を流しながら待つ……そして、開場!

 

 最初に行くのはアメリカ館と決めていたんだけど、ガードマンのお兄さんたちが人間の壁を作っていて、その横一列の誘導に従ってしか進めない。

 でもね、感心したよ。

 だれも文句言わない。それどころか、ニコニコ、ワクワクしながら列に並んでる。

 この行儀の良さと情熱は、いろんなところで役に立って、国際的にも評価されることになるんだ。

 でも、ちょっと胸が痛む。それって、阪神大震災とか東日本大震災の記憶だよ。

「グッチ、バテた?」

 佳奈子が気遣ってくれる。さすがはバレー部のセッター、チームメイトのことをよく見ている。

「あ、ううん、大丈夫だよ(^_^;)」

 ボランティアなのか、アメリカ館の気遣いなのか、フォークソンググループが演奏とかしてくれて、列の前後の人たちともお話とかして、一時間もたたずに入館できた。

ロコ:「うわあ、柱が一本も有りません!」

たみ子:「ほんとだ、噂には聞いてたけど、すごい技術ねえ」

佳奈子:「これって、もう少し大きくしたら、バレーボールとかの会場にできる」

ロコ:「野球場だってできるかもしれません!」

真知子:「野球場はどうかなあ、容積比でいったら、これの十倍じゃきかないよぉ」

 いやいや、できるんですよぉ、あちこちにドーム球場がね。

 でも、コンビニで失敗してるんで言いません(^_^;)

ロコ:「みんな、月の石ですよ!」

みんな:「「「「おお!」」」」

 わたしも月の石は見たことないので、テンションが上がる!

 

 宇宙の神秘!!

 

 それは、宝石のように金属の爪の上に鎮座ましまして、その神秘をいやますように、直上からライトを当てられて神さびていた。

真知子:「ビビっときた! これを『アルテミスの涙』と命名するわ!」

みんな:「「「「おお!」」」」

 単なるJKの思い付きなんだけど、真知子の命名と、わたしたちの感動は、またたくうちに周囲に伝染。「アルテミスの涙だって」「アルテミスの涙」「すてきねえ」「アルテミ?」「月の女神よ」「さすがアメリカ!」「ロマンチック!」「アルテミスの涙!」

 ビビッとくるのは、松田聖子が何度目かの結婚をした時の名セリフだけど、ひょっとしたら、これが歴史に残るかもしれない。

ロコ:「月って、大昔に巨大隕石が地球に衝突して、その時の地球の欠片だっていう説があるんですよ」

わたし:「え、じゃあ、この月の石って数億年とかぶりで里帰りしてきたとか?」

真知子:「うん、ますますアルテミスの涙ねえ」

みんな:「「「「うんうん」」」」

 

 それから、アポロ宇宙船と着陸船の本物にも感動し、もうちょっと見ていたかったけど、外にはまだ数千人の人が順番を待っている。残念だけど、15分ほどでアメリカ館を出た。

 それから『人間洗濯機』に目を剥いて、テレビ電話には、思わずスマホを出して自慢したくなって。

 どこの国か確かめもせずに入って空いてるパビリオンで涼んだりして、船場の宿舎に戻る。

 帰る途中でスーパーに寄って、晩ご飯と明日の朝ごはんを買って帰ったよ。

 さあ、明日はどこのパビリオンに周ろうかなあ(^▽^)/

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

  

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